殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

お悩み相談室

2009年04月30日 16時26分49秒 | みりこんぐらし
「折り入って相談があるんだけど…」

さほど仲良しでもない知人、ミノリが言う。


車の運転中、時々オトコに追跡されることがあり

身の危険を感じると言う。

「ピッタリくっつかれて

 家の近くまでずっと追いかけられるの。

 すごく怖いのよ…」

相手はたいていトラックの運転手だと言う。


「交差点で、目が合うと必ずそうなるのよ」

なんで…?と問うてみたら

とうとう言いなすった。

「やっぱり…私がきれいだから…?」


そ…それだけは絶対に無い!

…声を大にして言いたいが、失礼なのでぐっと我慢。

まあ、とにかくミノリの運転で

一度その交差点に行き

同じ状況で検証してみようということになった。


ミノリは40を過ぎてから免許を取った。

お世辞にも上手とは言えないので、同乗は極力避けたいが

ここは物見高い我が性分…しかたがなかろう。


問題の交差点にさしかかる。

ミノリは、自宅に向かう左方向にウィンカーを出す。

信号待ちの間にミノリは言う。

「ほら、対向車はトラックよ。

 また追いかけられるかもしれない…

 私、ワイルドなオトコに好かれるみたいなの…」


青になったので、交差点に進入。

ここでミノリは、信じられない行動に出る。

交差点の真ん中で、車を止めたのだ。


      「ひ~!左折なのに、なんで止まるのよ!」

「あら、安全のためよ」


右折予定で待機中の対向車…大型トラックの兄ちゃんは

ミノリが譲ってくれたと思い

かっこよく手を挙げて、右折のモーションに入った。


するとミノリは、さらに信じられない行動に出た。

にっこりと兄ちゃんに手を振り返すと

やおらトラックの鼻先をかすめ、急発進。

トラック、出鼻をくじかれ急停車。


ギャ~!怖いっ!

      「ちょっと!進路譲ったんじゃなかったのっ?」

「左折の私が優先だもの」


涼しい顔で交差点を抜けたミノリの車を

さっきのトラックがアクセル全開で追いかけてくる。

次の信号待ちでは、後ろにピッタリつけられ

排気ブレーキをブシュー、ブシューと

すっごい勢いでふかす。


こりゃ、相当怒っている。

トラックは乗用車と違って、発進や停止の操作が面倒臭いのだ。

積み荷の関係もあり

交差点であんな思わせぶりなことされたら

腹を立てるのは当たり前だ。


「ね!こうなっちゃうの。怖いでしょ?」


怖いのはおまえじゃわい!

たたきまわしてやろうかと思ったが

待て待て…と思い直す。

こいつがどうなろうと、知ったこっちゃないわい。


トラックは、ミノリが大通りをはずれるまで

執拗に追いかけて来た。

これが真相であった。


そもそもミノリの旦那が悪い。

ミノリより20才上の旦那は

結婚した時からミノリにメロメロなのだ。

婚期を逃した40オトコが、ハタチそこそこの若い娘と見合い結婚。

毎日がキャバクラ気分だったに違いない。


以来30年、何をしても「可愛い、キレイ」でこれまで来た。

ミノリが自分を美しいと錯覚し、増長するのも無理はない。

夫婦喧嘩は犬も食わないと言うが

ラブラブなバカ夫婦に関わると、もっとエライ目に遭う。

短い検討の結果、私はこの問題にタッチしないことを決定。


遅くに免許を取った者特有の思い込みは

周囲が考える以上に危険な要素を含んでいる。

今さら交差点での振る舞いを正して戸惑わせ

事故でも起きたら私のせいにされてしまう。

ここは、運転の得意なかたがたに泣いてもらおう。

ミノリ自身も、相談とは言いながら

解決を望んでいないようだし。


「こんなこと…主人には言えなくて…

 私がオトコを誘ってるみたいに思われたら困るもの…」

そう言いながらミノリは、現場検証で結果を出せて得意満面だ。

     「ほんとだね!びっくりしたわよ」

私もうなづく。


人は、本当に解決したい問題は

誰にも相談せずに自分で解決するものなのだ。

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土偶研究

2009年04月29日 18時05分32秒 | みりこんぐらし
夫一族の特徴…とにかく異性関係が華やか。

ここ何十年、スキャンダル部門で

常にトップの座をキープし続けるのは

まぎれもなく我が夫であるが

2番手は、夫と同い年の従姉妹…ヨシミであろう。


ヨシミはすごく美人だ。

とても50過ぎには見えない。

神様が気合いを入れて大事に作ったような

ほどよく濃い顔立ちをしている。


しかし神様は、顔を制作したところで急用ができた。

首から下を急いで作ったので

仕上がりが、ちょっとおざなり。


小さく丁寧な作りの顔とは裏腹に

体…とくに下半身がいい加減。

太っているのではなく、いたずらに大きいのだ。


優しいなら、ただの美人ですませてやるのだが

ヨシミは昔から、よそ者の私に意地悪だった。

夫の姉、カンジワ・ルイーゼとグルになり

そりゃ~いろいろやってくれたものだ。

よって、ひそかにあだ名をつけていた。

「土偶」。


しかし、最近のヨシミを私は心から尊敬している。

過去を忘れ、できることなら弟子入りしたいぞ!


ヨシミには彼氏が2人いる。

10年前に離婚した旦那も通って来る。

この3人からの援助で、ヨシミは豪邸を新築したのだ。


このように、要領のいい女性の子供というのは

なぜかたいてい自立が難しい。

自立は難しいのに、子作りだけは積極的。

彼女の娘たちもそのケースのようで

やはり自立が難しいムコ達も

孫とセットで入り込んでしまったため

広い家が必要になったのだ。


私がヨシミを立派だと思うのは

3人の男を使い分けた、鮮やかな営業能力である。

金持ち1人からのまとまった援助より

一般人3人からのほうが、確実かつ実入りが大きい。


そしてヨシミのもっともすばらしいところは

この3人を反目させるでもなく、仲良くさせるでもなく

何年もの間、さらりとうまく操縦し続けているところだ。

同じ色事でも、夫とは技術が違う。


毎日遊んで暮らすヨシミ…。

三食外食のヨシミ…。

毎晩温泉へ行くヨシミ…。

全部男の金で…。


非常にうらやましい私は、万が一に備えてヨシミを研究した。

男性達とはパチンコで知り合ったそうなので

必要とあらばパチンコ屋へ行けばなんとかなるかも。

高望みは出来ないが、引っかけやすいというところか。


そこで首尾良く獲物を手にしたとして

こころよく金を出すよう手なずけないと意味がない。

やはり顔か…性格か…。

私には意地悪だったけど、男には優しくていい女なのかも…。


しかし、あの体も重要なのではないのか。

たとえばあの美しい顔に美しい体だったら

男3人は、ああまでヨシミのトリコになるだろうか。


気の毒なくらい大きなお尻や太ももを

惜しげもなくさらして

“接待用”のスケスケおパンツなんてはくから

「ソソル」ってこともあるのでは…?


一部がザンネンだからこそエロい…

そういうのってあるのではなかろうか。


この時点で、研究は挫折した。

私のザンネンは、一部だけではなかった。
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組長・2

2009年04月27日 10時21分06秒 | 組長
昨日は、地区の掃除があった。

組長主催で行われる、年に一度の大きな行事である。


近隣住民を悩ませる例のじじいは

同じヨゴレ仲間と共に、掃除もせずに付近をうろつく。

ここは静かでいい所だが

住民意識の落差が激しいのが難点といえば難点だ。


掃除も終わりに近づくと、出欠の確認のために住民が集まって来る。

じじいの出番だ。


人が集まったところを見計らって、じじいがグズグズ言い始める。

「前年度の会計報告に不審な点があるから

 みんなを集めて一回話し合いしろよ」

事前に打ち合わせをしていたらしく

ヨゴレ仲間も口を揃える。

「そうだ。自治会費の合計がおかしいのに、気が付かないのか」

新しく組長になった私への軽いジャブである。


おまえらが会計報告について、ナンカ言える身の上か。

しかし会計報告に引っかかりたいヤツは、どこにでもいるものだ。

数字についてナンカ言えば、頭がいいように思われるのではないかと

信じているからだ。

数字に弱いからこそ憧れる行為といえよう。

賢いヤツは、こんなみみっちいことに時間を費やさない。


「グズグズせずに、はよ集まる日をみんなに言わんかい!」

「今言っとけば、手間がはぶけようが!わからんのか!」


   「そのようなお話のしかたは、おうちでどうぞ」

私はにこやかに言う。

   「外で他人の奥さんに言う言葉ではないでしょう」

こういう時だけ、人妻を強調。

   「意見があれば、最低限の礼節を持ってお話しください」


使い慣れない人間語で、やつらが言うには

去年、自治会費を納めないまま引っ越した家があり

一軒分足りないままの金額でシメが行われている…

それを転居先まで行って回収するなり

あきらめてそのままにするなり

いずれにしても会計報告を修正して、再度承認を得なければならないと主張。

財政難なんだから、甘くしていたらいずれ破綻する…と言う。

馬鹿馬鹿しい。


財政難が聞いてあきれる。

こいつが自治会長の時

自分たちが毎週飲み会をするだけで誰も使わない集会所に

エアコンと液晶テレビを買ったのはどうなるんだ。

承認もなにも、会費を勝手に引き出して取り付け

発表したのはその後だった。

今年は、集会所での飲酒禁止令をしいてやるつもりだ。


こいつらは、とにかく人の注目を浴びながら

ギャーギャー威嚇したいだけなのだ。

     「なるほど。じゃ、回収はSさん、お願いしますね」

私はじじいの名を呼ぶ。

「なんでオレが!」

じじいは叫ぶ。

     「だって~私、女だも~ん。そんなこと出来ません~」

こういう時だけ女を強調。

じじいは、単に前年度と今年度の三役に

「回収できませんでした」

と頭を下げさせたいだけなのだ。

     
「だいたい、お前らはなぁ…」

言い返そうとするので、すかさずやんわりと言う。

     「お前らとか言うの、やめてくださいね~」


チッと舌打ちして、話題を変えるじじい。

「今日用意したゴミ袋は小さすぎるんじゃないのか」

これも打ち合わせをしていたらしく、ヨゴレ仲間も賛同する。

「そうだ。あんなに小さいのは、かえって手間だ」


ああ、あれは…私はにっこりと言う。

      「私の家にあったのを出しました」

じじいどもは、鬼の首でも取ったようにまくしたてる。

「大きいのを買えば良かったじゃないか!怠慢だろうが!」

「あんな普通サイズのじゃあ、迷惑だろっ!」


私は優しく微笑み、礼儀正しく言う。

       「…誰に向かってモノ言うとるんじゃ」

財政難なんでしょ?我慢してくださいね~

エアコンとテレビの支出が、まだ響いているのでね~…


そしてやつらを残し、隣の組の面々が集まっている場所へ急ぐ。

アホどもにつきあっている暇はないのだ。

隣の組では、会計係が数十万の会費を引き出して

夜逃げしたと言うではないか。

しかも、奥さんが覚醒剤に手を出したためで

発覚したのは、つい最近だと言うではないか!

大興奮。

早く真相を詳しく聞きたいっ!

ああ、忙しい。
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落ちぶれざんまい

2009年04月25日 16時23分06秒 | みりこんぐらし
今朝は、お気に入りの美容室に行って来た。

カットもヘアカラーもバッチリ。

よっしゃ!10才は若返ったど~!


外は雨だが、気分がいいので

フラフラと近くのスーパーへ立ち寄る。

入り口で、若い女性に呼び止められた。

「ちょっと、アンケートよろしいですか~?」

スーパーの一角に出来たフィットネスクラブの勧誘だ。

いつもだったらスルーだが、今日はつきあってやる。


「今、何か運動されてますか~?」

     「いいえ、ぜんぜん」

「運動しないと、体調が良くない感じがしませんか~?」

     「いいえ、まったく」

「ではこの中で、何か気になっていらっしゃること、ありますかぁ~?」

血圧、中性脂肪、腰痛、ヒザ痛…などがズラズラ書いてある。

     「いいえ、別にこれといって…」

「うわ~!珍しいですね~!

 運動してないのに絶好調なんて…体重は、いかがですか~?」

     「あなたはちょっと痩せたほうがいいと言いたいんでしょうけど

      わたしゃこれで満足してんのよ」

「いえ、そんなことは…」

首を振ってはいるが

どうせ運動が必要そうなオバサンめがけて声をかけてるのだろう。

隣で呼び止められてる人も

私と似たり寄ったりでブヨブヨしている。


「よろしかったら、最後に年代を教えてください」

…このあたりですかね?

女性は、30代と書いてあるところを指で示す。


思っているよりワンランク下を指させ…という

マニュアルでもあるのだろう。

この私が30代に見えるわけがないのだ。


「何をおっしゃるウサギさん!」

私はさも驚いた素振りで言う。

そして、こっそり指さすのだ。

60代のところを…。


「ええ~っ?ウソでしょう?」

       「ほんとよぉ~」

「見えません…絶対見えません!」

当たり前じゃ。見えたら困るわい。


じゃあね~…と立ち去ると

女性が追いかけて来て言った。

「あの、そんなにお若い秘訣は何なんですかっ?」

       「運動しないことよ」

私に何かすすめようなんざ、100年早いわい。


最近は、若作りでは勝負ができなくなったので

もっぱらこのセコい手口で反応を楽しんでいる。

落ちぶれたものだ。


余談だが、セブンイレブンへ行くと

支払いが済んでレジを閉じる時に

店員が30とか50などの数字が書いてあるボタンのどれかを押す。

どの年代の客が、何を買ったかをリサーチするためだ。


悲しいことに、40のボタンは無い。

60、70のボタンも無い。

詳しいことは知らないが、50のボタンを押されたら

ひとまとめに老人ということになるのは確かだ。


したがって、30を押されるか50を押されるかは

私にとって大問題である。

セブンイレブンに行く時は

なにげにオシャレをするのだ。

やはり、落ちぶれたものだ。
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聖歌隊

2009年04月24日 10時22分22秒 | みりこんぐらし
先日から、我らがオバサンの星…

スーザン・ボイルの動画を眺めては

拍手を送っている。


自分も聖歌隊にいたことがあったのを

突如思い出す。


そういえば、スーザンと同じ番組で勝ち抜き

オペラ歌手となったポール・ポッツも

聖歌隊にいた経歴があるという。


この二人のおかげで、中年(初老?)の身にも

明るい希望の光が射したわけだが

聖歌隊での暗い過去も

ついでに思い出してしまった。


うちは仏教だったが、幼稚園がキリスト系であったため

希望者は卒園と同時に聖歌隊に入る。

聖歌隊と言えば聞こえはいいが

演目が賛美歌中心のお子さまコーラスだ。


聖歌隊の指導者は、園長先生の息子。

児童教育の理想に燃えた、若きクリスチャンだ。


クリスマスシーズンには、ろうそくを持って町を徘徊…歌を披露する。

ムチは持たない。

出たがりの私には、ぴったりである。

練習は厳しかったが、イベントもいろいろあって楽しかった。


暗雲が立ちこめ始めたのは、4年生の時だった。

その頃、母チーコは不治の病になっていた。

練習前の礼拝で、先生はいつもチーコの全快を祈ってくれる。

しかし、私はチーコが長くないのを

子供心にわかっていた。


先生は、一心に祈れば神が願いを聞いてくださると言う。

「祈ったら病気は治りますか?」と問えば

「きっとお元気になられますよ」と優しく微笑む。


先生は、チーコの病名を知らない。

祈ったって死ぬものは死ぬ…とも言えず、私は困った。


このまま、みんなでチーコのことを祈り

チーコが死んだら、先生は嘘つきになってしまう…。

チーコもまた、せっかくみんなが祈ってくれたのに

期待に応えられなかった女として

残念なチームに入れられてしまうのではないか…。

たいへん心配なわけ。


なにより、見えない存在に向かって命乞いをするのは

一種、屈辱に似た違和感をもたらした。

私は小さくかわいい胸をいためた。


バカ正直だった私は、意を決して先生に言った。

「あのぅ…もう、うちのお母さんのお祈りはしないでください…」


先生は目をむいた。

「なんてことを!」

こうしてみんなでお母さんの回復を祈っているのに

なぜそんなことが言えるのか…。

みんなの気持ちがわからないのか…。

そんな子は、賛美歌を歌ってはいけない…。

よく考えて、心を入れ替えたらまた来なさい…。


どえりゃー怒られて帰ったもんだが

心は入れ替わらなかったので

そのまま二度と行くことはなかった。

聖歌隊は楽しかったので続けたかったが

もう祈ってもらわなくていいのだと思うと、ホッとした。


狭い町で、私はしばらく

あの優しい坊ちゃん先生を激怒させたあげくに

聖歌隊をクビになった子供として

冷ややかな視線を注がれる身の上となる。

しかし、家の者はチーコのことで頭がいっぱいで

そんなことに気が付かなかったのは幸いであった。


それから長い年月が経って

世間には大人の望む「型」があると知った。

重要なのは、病気が治る治らないでなく

誰かのためにみんなで祈るという行為だ。

ともに祈り「みんな…ありがとう…」と言っておけば

安全だったのだ。

時、すでに遅し。








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姑の悲しみ

2009年04月22日 00時53分41秒 | みりこんぐらし
昨年の夏、長男が会社を辞めた。

理由は二つある。

次男が入社した一昨年から、転職するつもりだったと言う。

明日をも知れない会社に

兄弟でうれしげにしがみつくのはダサいので

自分より体の弱い弟が残ればいいと言う。


そんな時、夫の姉ルイーゼの陰謀により

長男は、誤解した義父母に激しくののしられた。


陰謀と呼ぶには、あまりにもケチくさい。

優秀な事務員ルイーゼは、休日出勤した長男のタイムカードを見誤り

休みなのにタイムカードを押している…

と両親に言いつけたのだ。


娘の言葉を鵜呑みにした両親は

真偽を確かめずに孫を責めた。

「いつもそうやって、給料のネコババをしていたのではないのか」


長男は何も言わずにその場で退職し

かねてから話を通してあった

別の会社にサッサと転職した。


そんなことはどうでもいい。

身内同士が同じ会社にいれば日常茶飯事だ。

こういうことを防ぐために

長男か次男、どちらか一人を残して一人を切るという

以前からの私の計画は、手を下さずとも実行された。

手間がはぶけた。


腹が立つのはそれからだ。

その日のうちにルイーゼは

長男の名前をデカデカと書いた文書を取引先にFAXした。

“下記の者は退職しましたので、今後当社とは一切関係ありません”


「あんまりだよ…これ…頭がおかしいんじゃないの?」

親しい取引先から涙目で見せられたその紙に、私は逆上した。

これは夫が女と駆け落ちした時にも、夫の名前でやられた。

その時はギャーギャー言っただけで済んだが

我が子となると、はらわたが煮えくりかえる。


私は家に飛んで帰り、出刃包丁を研いだ。

今晩ルイーゼの家に乗り込んで、暴れるつもりだった。


キャベツで試し切りをすると、これがまたよく切れること。

そのままサクサクとキャベツを切っていたら、目的を忘れた。

そこへ帰宅した夫

「子供のことを考えろ!」

そのセリフ、そっくりあんたにお返しします。


ほどなく娘の勘違いに踊らされたと気付いた両親は

日増しに自分たちがしでかしたことに苦しみ始めた。


最初は、私にあれこれ言って来た。

「今謝れば許してやるから戻って来てもいい」

私の仲裁でコトを納めようとした両親だが

謝るのはそっちだと断った。


この人たちはいつもそうだ。

居られない状態に追い込んでおいて

離れると戻れ、戻れ、なぜ出た…と言う。

この根性は、私が彼らの家を出た十数年前から

いっこうに進歩していない。

長男はすでに新しい道を歩み始めたのだ。


そのうち彼らはだんだん弱気になってくる。

「経営難でイライラしていた気持ちもわかってほしい」

私は、経営状態が悪いのは取締役の責任であって

いち従業員である長男には関係ない…と言った。

義母はギャンギャン言って電話を切った。


そして現在。

義母は病気が発覚し、入院手術を控えている。

これを機に、同情から和解に持ち込もうと

毎日涙声で電話をしてくる。


かわいがってきた孫に見捨てられて

どんなに悲しくつらいかを切々と訴える。

これが最期になるかもしれないから、せひ顔を見せてほしい…。


癌も、脳梗塞も、その他もろもろの病気からも見事に復活した。

脳梗塞の時は、しびれるから病院に連れて行ってと頼んだルイーゼに

「自転車で行け」

と言われた。

そんな娘の言うことを一瞬で信じたのだから、自業自得というものだ。


    「仲直りがしたいなら、ひとこと謝ればすむじゃん」

「それは…お父さんの立場があるから…」

    「何の立場?年?どこに立ってんの?」

「やっぱり、こういうことは…ねぇ。

 若い者が折れてくれないと…」

    「は~ん…無実の罪で怒られて、その上まだ折れろと?」

「もう老い先短いんだし…このままだと病気が悪化するかも…」

    「これ以上悪化しないよ。もう切るんじゃん。

     死なないでよ。淋しいから」

話は入院の方向にそれて行く。


実は長男、祖父母の仕打ちをなんとも思っていないのだ。

しかし、残った弟が一人前になるまでのあと数年

ルイーゼの異常な行動を封じるために絶縁を装うのが得策だと言い

私もそれに乗った。


義母が入院すると

私の怒りを察知して、コソコソ避けるルイーゼと

どうしても顔を合わせることが増える。

楽しみだ。

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爽やかという罪…選挙うぐいす日記

2009年04月20日 13時33分58秒 | 選挙うぐいす日記
候補がこのところ目をかけているという

若い独身男性、ゆう君。

初めて選挙活動に加わる。


スポーツマンで、明るく爽やかなイケメンぶりに

候補の妻を始め、陣営を手伝うマダムたちの人気独占。

我々に付いて選挙カーに乗り、手を振るという。


さて、初日。

この陣営は初心者が多いので

ジーンズはダメと言い渡してあった。


「おはようございます!」

ゆう君、ジャージで爽やかにご登場。


「ジャージはダメよ!着替えておいで!」

当初より、このいたずらに爽やかな印象に

いちまつの不安を抱いていた私は怒鳴りつける。


「あっ!すいません!ジーンズじゃなければいいと思ってました!」

候補の妻、かばう。

「ゆう君は、これがよそ行きなの…許してあげて」

妻がそう言うなら、私はかまわない。

ごく小さな事柄でもかかってくる

クレームの電話を受けるのは彼女なのだ。


街を回る。

要所要所で降りては

街頭で米つきバッタのように頭を下げる。

少々ではない。

うぐいすはヒザまで曲げて、頭の位置を低く保つ。

その横でゆう君、のんびりとスクワット開始。


車に戻ってから、叱りつける。

「すいません!癖なんです。以後気を付けます!」

ゆう君、爽やかに謝る。

気を付ける…というのは、やめることではない。


昼…選挙事務所に戻り、あわただしい昼食。

ゆう君、誰よりも早く食べ始め

誰よりも遅くまで食べ続ける。


食事係のマダムたちに愛想を振りまき

「とってもおいしいです!」

マダムたち、大喜びで

あれも、これも…と大サービス。


経験上、気働きがなく役に立たない者ほど

こういうタダ飯現場では大喰らいなのだ。


そうかい、そうかい…一生懸命スクワットしたもんなぁ…たんとお食べ。


そろそろ午後の出発時間だ。

しかし、ゆう君がいないことに気付く。

おそらく…と目をつけていたトイレのドアをノック。


候補の自宅が選挙事務所になる場合は

トイレの数が不足するので

出物腫れ物の類も注意が必要である。

さっきから、ずっとふさがって

混雑していたのだ。


「ここに入ってるのは、ゆう君?」

「はい!ボクです!」

ゆう君、トイレの中から爽やかに応答する。


そうかい、そうかい…たくさん食べたもんなぁ…たんとお出し。


午後…ゆう君は後部座席ですやすやとお昼寝。

この頃になると、もう誰も何も言わない。


そうかい、そうかい…お腹もふくれて眠たかろう…たんとお眠り。


いよいよ明日は投票日という夜。

ゆう君、当日はスポーツの大会で

どこか遠い町へ行く…と張り切っている。


候補の妻が言う。

「ゆう君、明日は忙しくても投票に行ってね!」

ゆう君は白い歯を輝かせ、爽やかに答える。

「あ、ボク、こっちに住民票移してまだ一ヶ月なんで

 投票用紙が来てないんです!」


さて選挙活動は全て終了し、解散となった。

ゆう君、爽やかにご挨拶。

「みりこんさん!お世話になりました!

 楽しかったです!」

そりゃあ楽しかったろう。

1週間ずっと、食べて、寝て、スクワットして…

事務所に帰りゃアイドルだ。


私も笑顔で言う。

「次は来るなよ」


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アヤコさま

2009年04月19日 15時52分25秒 | 選挙うぐいす日記
私の裏稼業が、選挙戦のうぐいすだと

ご存じのかたもおられよう。


たいした実績も無いので

この仕事についてあれこれ言う権利はないが

選挙というのは、まことに面白いものである。


プロの手で完全にシステム化された昨今では

少々の人間関係くらいしか特筆することは無いが

田舎の市議、町議あたりになると

いまだいにしえの慣習や

人情の機微などが存在して、なかなか楽しい。


とある農村地帯の市議選。

告示の前には、一応顔合わせのような会合が開かれる。

今回のうぐいす仲間は4人。

私を含め3人は、よその土地から雇われた「流し」だ。

1人は、土地の権力者の娘だそうで

昔からの掟にのっとり、うぐいすのリーダーを務める。

アヤコさま…と土地の人々が呼ぶ

私より少し年上のお派手なご婦人だ。


「いいですか?服装を確認します。

 配布のジャンパーの下は

 紺のスカートに白のスニーカーでお願いします」


アヤコさまは、他にもいろいろおっしゃられた。

「化粧は薄めに、ストッキングはナチュラルカラーでよろしく」

つまらぬ質問や口答えはしない。

郷に入っては郷に従え…それが流しの鉄則だ。


出陣式の朝、我々は息を飲む。

アヤコさまは、海を二つに分けて進んだというモーゼのごとく

民衆の中をしゃなり、しゃなりと歩んで来られる。


こ…これは…!

皇室かっ?!


この日のために新調したと思われる

白いスーツに白い靴。

ストッキングまで白い。

ごていねいに、かのやんごとなきおかたと同じ

白い小さなお帽子までかぶっておられる。


「あぁ~、さすがアヤコさまだ…」

「おきれいなこと~」

集まった村人…いや市民からため息がもれる。


「なによっ!服装にうるさかったのは

 私たちを引き立て役にするためだったのねっ!」

うぐいす仲間が腹立たしそうに言う。


活動中も、アヤコさまはご立派だ。

通常なら候補の乗る助手席は、アヤコさまのものだ。

アヤコさまは、あのやんごとなき皆様がされるように

少し前かがみになり、上品に手を振られる。

しかしその視線は、路傍の民衆ではなく

サイドミラーに写る自分の顔に終始注がれていた。


時折、ミラー越しに目が合う。

見てはならないものなのに、つい見てしまう。

うう…気まずい。

アヤコさまのお邪魔をしてはならぬのじゃ。


支持者が多く、声援を送ってもらえる地区に入ると

やにわに振り返ってマイクを奪い取り

人気の無い地区では返す。


ブラボー!アヤコさま!

こういうのがいるから、選挙は面白い。


無事終わって数ヶ月、テレビのローカル番組で

偶然アヤコさまをお見受けする。

アヤコさま主催の、俳句だか短歌だかのお教室の取材だ。


アヤコさま、普段着の生徒の中で

一人真っ赤なイブニングドレスをお召し。

今回も、服装についての打ち合わせが綿密に行われたに相違ない。

あっぱれ!アヤコさま!

テレビの前で拍手喝采、笑い転げる。


余談だが、私の参加する選挙は絶対に勝つ。

それは、私の運の問題ではない。

確実に勝つ選挙しか受けない…それがコツなのだ。

ものは言いようである。

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ビューティー・レッスン

2009年04月17日 19時19分27秒 | みりこんぐらし
どこの家庭でもそうだと思うが

初孫というものは、何かと気になるらしい。


私が幼児と呼称される状態になった頃

祖父が私の外見に、ある問題を発見する。

「この孫は、首が短いんじゃなかろうか…」


明治の美人は、首が重要だったらしい。

「和服を着ても、日本髪を結っても

 首が肝心」

というのが祖父の主張だ。


そこで祖父は、秘策を思いつく。

私の頭を両手で持ち上げ、1分ほどぶら下げるという大胆な方法だ。

そうすれば、体の重みで首が伸びるのではなかろうか…と踏んだのである。

首長族よりワイルド。


祖父は毎朝、毎晩、欠かさずそれをやる。

自然のままでいい…と家族に反対されてもきかない。

その習慣は、小学校3,4年まで…

つまり、成長した私を持ち上げるのが困難になるまで続いた。

挟まれた両耳あたりが少し痛いが

目線がひょいと高くなるのは、なかなかの気分だった。


持ち上げられなくなると、祖父は逆立ちを命じた。

頭の重みで首が伸びるのではなかろうか…と言うのだ。


その頃になると、私も自分の容姿の水準が

あまり高くないことに気付き始めていた。


私は美しくなるために、祖父の号令のもと

毎朝、毎晩進んで逆立ちをした。

首がなんとかなったあかつきには

顔もどうにかなるんじゃないだろうか…という

根拠の無い希望に燃えていた。


現在、私の首の長さは普通。

努力の甲斐があったのか無かったのか、結局わからない。

日常生活で和服を着る者は少ないし

日本髪など誰も結わない。

首が長い短いなど関係ない時代になった。


それより、顔の部品をなんとかする方法は無かったのか…と思うが

祖父も、改善可能なのは首のみ、と感じていたのだろう。

無駄な年月であった。
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爬虫類男

2009年04月16日 17時39分46秒 | みりこんぐらし
昨日、用があって、とある公的機関に行った。

書類の提出期限を忘れて

旅行に出かけた優秀な事務員

夫の姉、ルイーゼの代わりに

取り急ぎ遠い町にやって来たのだ。

郵送したら間に合わない。


内容がややこしいので

受付で用件を伝えて待つ。


「お待たせしました」

奥から出て来たのは、30才くらいの男性職員。

げ…今日もハズレだ。


こういう所へ来ると

愛想のいいおじさんや

優しそうなおねえさんはいっぱいいるのに

絶対あたらない。

たいてい苦手な爬虫類系だ。

天は我に試練を与えたもう…。


ひょろ長い体つき

ぬめっとした肌

白い顔

メガネの奥の小さな目は、絶対に笑わない。

まばたきの回数すら、少ないような気がする。


私もこういうタイプが嫌いだが

向こうは私のようなオバサンのことを

もっと嫌いだ。


経験上、爬虫類男は、自分の好むエサしか存在を認めない。

やつらの好むエサは、たいてい若い細身のカワイ子ちゃんだ。

そんなのが相手だとガラリと相好を崩し

頬など染めて、急に哺乳類に進化するのだ。


言葉はていねいだが、時折ため息をつきながら

書類を書く私をどんくさいババァだ…と思っている気配濃厚。


イライラするのか、癖なのか

冷ややかな視線を私の手元に注ぎながら

手にしたシャーペンを

指でくるくる回し続ける。

これをやりながらせっせと勉強したから

今、公務員だもんなぁ。


さっき待ってた時に

「長くお待たせしていませんか?」

などと話しかけてくれたおじさんなんて

隣の席で年配の女性に

優しく手続きのしかたを教えている。

ああ、うらやましい…。

千円払うから、指名制にしてほしいもんだ。


「じゃあ、ここに申請理由を書いてください」

知るか、そんなもん。

「書いていただかないと、お受けできませんが」

      「なんて書けばいいんですか?」

「それはおたくさんのことですので、ボクはなんとも言えません」


意地が悪いのではなく

これがこの男の精一杯なのだ。

こういうヤツに何を言ってもダメだ。

もめても、不親切という程度しか落ち度は無いのだ。

二度と会うことはないのだから、さっさと終了させるに限る。


その時、ヤツがクルクル回していたシャーペンの

消しゴムの部分がポンと抜け

中に入っていた何十本ものおびただしい芯が

一気に飛び出す。


     「あ~ら、まあ!たくさん入ってること!」

さも驚いたように、わざと大きな声で言ってやる。

男は無言で、散らばった芯を一本一本拾い集めた。


若いので、指先にはまだ湿り気が多い。

長く、先がアマガエルのように丸くなった指を

機械のようなリズムで芯に押し当て

淡々と拾い集めるのが憎たらしい。


芯は机の上ばかりでなく、床にも落ちている。

私の足元にも転がっている。

それを拾おうとしたので…

「バリ」

思いっきり踏んでやる。


ものすごく悔しそうな顔をしていた。      
     
   

      


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老眼の男

2009年04月15日 21時38分12秒 | みりこんぐらし
「イヤ~~~~!!!」

私は思わず絶叫する。

「あなたはそんな人じゃなかったはずよ!

 これだけは絶対に大丈夫と思っていたのに~~!!」


コトのてんまつはこうだ。


先日、夫が両ヒジに包帯をして帰って来た。

病院に行ったらしい。

ヒジの関節と皮膚が腫れて痛むと言い

原因不明だそうである。


その直後、私は両ヒジ不調の原因を発見してしまった。

それは夕食の時、いつになく向かい合わせに座っていて気付いた。

いつになく…というのは

夫婦でゆっくり夕食をとる習慣があまり無いからである。


朝と昼は家で食べるが

あわただしいのでしげしげと見ることはない。

夫は夕食を実家ですませる。

仕事が終わったら実家に直行し

その後、父親とサウナに行くのが日課だ。


我が子を嫁の魔の手から少しでも遠ざけようという親心

妻との接触をできるだけ控えて平和を維持したいという夫心

いろいろあるかもしれないが、楽で良い。


その日は両親が出かけていたので、夫は早く帰って来た。

ふと見ると、夫はテーブルに問題の両ヒジをつき

阿波踊りのような仕草で食べているではないか!

その姿の見苦しいこと。


稼ぎは人の半分でも「おあがり」は倍。

よって固いテーブルの上、両ヒジを支点にして

不必要に重い上半身を支えながら延々と食べていれば

ヒジのほうも、たまったもんではない。


ま、夫のヒジだ。

すり減ろうと腐ろうとかまわない。

しかし、食事のマナーだけは良かった男なのだ。

それなのに…ああ、それなのに…

その仕草は、父親にそっくりなのだ。


…次男が新生児の頃

 食事中、この体勢で暴言を吐く義父に

 その場で母乳が止まった。

 余談だが、母乳が止まる瞬間というのはごくあっけない。

 「張ってくる」という感覚の逆…「散っていく」で完全に終了。

 あの頃は、私もまだかわいげがあった。


 元々出るほうではなかったので、じき終わるとわかっていたが

 義父の全面責任にして、ひとり溜飲を下げる。

 義父は痩せており、ヒジに支障は起きなかった…


私は、決してマナーにうるさいタチではない。

しかし、これだけは耐えられない。

習ってもいないのに、なぜ親とそっくり同じになるのだ。

呪われた血め!

そして私は、冒頭の叫びを発する。


本当は、うすうす原因がわかっている。

夫の家系は、老眼になるのが早い。


老眼が進むと、目の前の食べ物が見えにくいという。

夫の場合は、ただ遠ければいい…というものでもないらしい。

よって、よりよく見えて食べやすい

目線斜め下の位置へ、茶碗や皿を設定する。

結果として、父親ゆずりの阿波踊りスタイルだ。


身体的都合はあろうが

義父と暮らしている気分になるのは絶対に避けたい。

私は菜箸を用意して、無意識にヒジをついてしまう夫の腕を打つ。


他人が見たら、なんと厳しい…と思うだろう。

フォークや串でないだけマシである。

1週間に渡る訓練で、夫のヒジは全快した。

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パン屋のロバくん

2009年04月14日 18時23分17秒 | みりこんぐらし
ものすご~く昔

幼児の頃、月に一度くらいだろうか

家の前に「ロバパン」なるものがやってきた。


   ♪ロバのおじさん キンコロリ~ン…♪


子供のソプラノで歌が流れてくる。

この歌が聞こえたら、いても立ってもいられない。

鼻息も荒く、走って飛び出す。

それは屋台のパン屋さんだ。


ロバに屋台を引かせて売りに来るという大胆な商法に

我々幼児は狂喜乱舞。


家を飛び出したからには

屋台に接近したいのはやまやまだが

そこには大きな難関があった。


「ロバ」と呼ばれる大きな生き物だ。

なにしろやたらデカい。

時々「ブルル…」とかいって体をゆする。

怖くてちびりそうだ。


ロバは怖いが、ロバの持って来るパンは欲しい。

道路の反対側に立ち

買ってこい…と父を遠隔操作。

日本の幼児として、このめくるめくエンターテイメントに

参加しないわけにはいかないのだ。



   ♪チョコレートパンにあんパンに

    なんでもあります キンコロリ~ン♪


歌はそう言うが、ジャムパンと蒸しパンしか無かった。


ずいぶん長い間、あの生き物は「ロバ」だと信じていた。

ロバは、うちに来る時以外は

家でおじさんと一緒にパン作りに精を出し

時々ブレーメンの音楽隊に出ていると

信じ切っていた。


あの生き物が「ウマ」だと知るまでには

それから長い年月を要した。

「ロバパン」じゃなくて「ウマパン」…

ちょっとした衝撃であった。





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花を愛する女

2009年04月13日 10時38分06秒 | みりこんぐらし
これまでを見ると

悪いのは周囲にたまたま存在する変人で

自分はさも良い人物であったかのような表現が目立つ。


我が身かわいさゆえ、いたしかたの無いことではあるが

私がどれほど意地の悪い女であったかも

ここはひとつ、したためておかねばなるまい。


N美、52才、夫一人、子供一人。

アルバイトで入った私よりひと月早く、正社員として入社。


小柄でかわいい系の古い女、しかも事務職…

みりこん辞典には“要注意”と記してある。


昭和のユルい時代をさんざんチヤホヤされ

得をして生きてきた可能性大。

そしてそれが、年齢を経た今でも通用すると信じて疑わない。

よってワガママでシタタカの純粋培養。

他の人はいざしらず、自分とは絶対に合わないという

身勝手な先入観だ。


しかも50を過ぎての転職で、まだ事務職にこだわる…

往年の美酒が忘れられない、時代錯誤のお荷物。

相当危ない。

経験に基づいた独断である。


単純に言えば、大柄でかわいくない自分と

正反対だから憎たらしいのかもしれない。

N美には何の罪もない。


何が私を苦しめるかというと、電話の応対。

「かしこまいりました」

必ず言う。


「ほら言うぞ…また言うぞ…」

と思っていると、言う。

キー!


“かしこま”と“りました”の間に“い”が入るだけなのに

無性に腹が立つ。

おおごとには鈍感なくせに、こういう小さいことはカンにさわる。

A型だからか、生まれつき悪い性格が原因なのかは不明。

ダメなワタシよ…。


家から鉢植えの花を持って来ては会社に飾り

朝晩決まった時間に水やり。

鉢は、ひとつ、またひとつと増え続ける。

よって、水やりにかける時間も増えていく。


「お花があると、やっぱりなごむわねぇ。

 若い人ばかりだと、こういうの、気が付かないでしょ?

 私みたいなのも必要なのよ」

なにげに自分の年齢的存在価値をアピール。 


中にはツルを伸ばして、電話コードまで行こうと頑張るものもあり

それにつっかい棒みたいなのを立てたりするもんだから

会社はちょっとした老人の庭といったふぜいだ。

家でいらないものを持って来るので

欠けた植木鉢やすすけた受け皿が貧乏くさい。


私はこの行為をマーキングと認識する。

花が嫌いなわけではないが

自分のものでない場所を自分の好きなもので侵略するのは

非常に野卑で動物的な行為ととらえてしまう。


腹が立つので、咲いた咲いた…と喜んでいたやつを

こっそりちょん切って生けておく。

「せっかく咲いたのに、誰?!」

とすごい形相だが、知らん顔。


とはいえバイトと社員、接触さえしなければ問題は起きない。

しかし、不幸なことに繁忙期がおとずれ

N美と深く関わる仕事が増加してくる。


N美は冷蔵室に行くのを嫌がる。

しかし、繁忙期には在庫チェックのために

冷蔵室へ入る回数と時間が増える。


「みりこんさん、私、お産が帝王切開だったのね。 

 冷えると良くないから、冷蔵室にはみりこんさんが行ってくれない?

 その間のあなたの仕事は、私が代わりにやるから」


みりこん…キレる。

「あなたが、私の何をやってくれると言うんですっ?」


盲腸しか切ったことが無いので

深くメスを入れた人の気持ちはわからないかもしれない。

しかし、冷蔵食品を扱う会社に就職したからには

ある程度の覚悟はするべきだ…などとまくしたてる。


それ以前に、N美が複雑な在庫チェックを苦手としていることを知っていた。
 
先日も何か大きなミスをしたらしく、上司に注意されていた。


正直に苦手だと言えば、あるいは代わってやっていたかもしれない。 

しかし、30年前の手術を引っ張り出すことに…

そして、大きな目をパチパチしばたかせ

「あなたも出産経験者だから、わかってくれるでしょ?」

ふうを装うのに腹が立つのだ。


今までどこへ行っても、そうやって切り抜けてきたのだ。

無意識の打算と甘えで仕事を減らし

家庭と仕事を両立してきたと錯覚している。

そうはいくか…身勝手な解釈で、意固地になる私。


「じゃあ、Cさん、お願い」

N美はしれっと、別の子に変更。

「えぇ~?」

仕事ではN美の先輩でありながらも

お人好しの女子社員Cは

母親みたいな年齢のN美に言われてしぶしぶ席を立つ。

自分じゃないなら、わたしゃ構わないのだ。ルルル~♪


その夜、身代わりで冷蔵室へ行ったロスタイムを挽回すべく

一人残業するCを見て、上司にすべてが露見。 

社員の残業にうるさくなり始めた時期なので

N美は厳しく注意され、結局退職することとなった。


「これが最後の就職と思っていたのに…」

うらめしそうに私を見る。

社員のCでなく、退社時間の早いバイトの私が

快く代わってくれていれば

こんなことにはならなかったそうである。

フンだ!


最後の日、自身のプライドから、にこやかに別れの挨拶をするN美。

私は贈る言葉を…。

「花、全部持って帰ってくださいね」


N美は育った花々を無言で大きなビニール袋に放り込み

大黒様のようにかついで去って行った。

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謎の女

2009年04月11日 16時51分32秒 | みりこんぐらし
このところ、ハゲしい話が続いたので

今日はほのぼのする話を書いてみよう。


またOL時代の同僚。

アコちゃん。20才、独身。

あどけな~いお顔に、ダイナマイトバディ。

男性社員、このテの格差は大歓迎らしい。

社内のアイドルだ。


請求書に貼る切手の周囲にある白いギザギザを

ことごとくハサミで綺麗に切り取り

「出来ました!」

と満足そう。

いいの、いいの。

かわいいから、許しちゃう。


アコちゃんは、謎の女だ。

「この町が好きなんです~。

 どこにも行きたくありませ~ん。

 彼氏なんかいませ~ん。

 お休みはいつも家族と家にいま~す」

いつもそう言うけど、社内のちょっとした買い物を頼むと

レシートはなぜか毎回、遠く離れた都会の店。


仕事の帰りにたまたまアコちゃんの車の後ろになる。

さっき別れる時は

「今日は疲れたから、アコは早く家に帰って寝ま~す」

と言っていたのに、家とは逆方向。

しかもラブホテルの方向へ躊躇なく左折。

周囲に民家は無く、ホテルの先は山。


地方在住のかたはご存知だろうが

こういういかがわしく後ろめたい場所は

人里離れた寂しい所にあり、100%車で入る。

ホテル集合、ホテル解散…田舎においてそれは

かなりの上級者を意味しているのだ。


他の若い女子社員は

アコちゃんの言動が全部計算だと主張する。

「女だけで飲み会の時は、コットンシャツにジーンズなのに

 男性がいる時は必ずニットで来るんですよ!」

特に社内恋愛をしている子は、彼氏の視線の先を心配して

気が気ではないらしい。


そう言われりゃ、そうかも。 

薄手のニットの下で、惜しみなく揺れる巨乳に

男性社員クギ付けだもんな~。

同じ土俵上にいない私は、気楽である。


ある朝、アコちゃんがなかなか出勤してこない。

やがて木の棒をツエに、血を流して会社に現われた。

その痛々しい姿に、一同騒然。


「どうしたのっ?!何があったのっ?!」

アコちゃんはドアによりかかり、遠い目をしてつぶやく。

「…川に…落ちた…」

出勤途中、会社のそばを流れる小川に車ごと転落したと言う。


医者だ、レッカ-だ…の騒ぎが終わり

上司が保険申請のために改めて事情をたずねる。

「で…なんで落ちたんだ?」

「バッグが足元に落ちたんです…。

 それで…取ろうと思って…」

「じゃ、よそ見だな?」

「前は…ずっと見てました…

 急にハンドルが…動かなくなって…」

「じゃあ整備不良?」

「まだ新車です…」


イラの上司は、事情聴取を私にタッチ。

「アコちゃん、最初から落ち着いて話してごらん」

アコちゃんは話し始める。

…助手席に置いたバッグが落ちたので

 手を伸ばして取ろうとした。

 そしたらカーブになったので、ハンドルをきろうとしたら

 肩がはまってハンドルが動かず、そのまま河原を滑り落ちた…


「ちょっと待て…」

上司が言う。

「肩ってのは、なんの肩?」


「私の肩…」

アコちゃんは自分の左肩をさすりながらつぶやき

「なぜ!」

みんなは同時に叫ぶ。


「アコちゃん、どうしてハンドルに肩がはまったのかな~?」

「…わかりません…」

「じゃあ、バッグはどこから手を伸ばしてとったのかな~?」

「ハンドルの輪っかの間から…」


不毛な会話はもうよせ…ハゲた上司はつぶやいた。
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忠臣蔵

2009年04月10日 10時10分13秒 | みりこんぐらし
アルバイトで入ったU君。

面接で大学中退の理由を聞くと

「教授と寮の管理人からいじめを受け

 耐えられなくなって実家に帰りました」


それからすぐに就職した地元企業を3ヶ月で退職した理由を聞く。

「上司から陰湿な嫌がらせをされて、退職に追い込まれました」


では、ここに来るまでの空白の2年間は何をしていたのかたずねる。

「大学と就職でのいじめで心が傷つき、引きこもりをしていました」


上司、大喜び。

「よし!オレが面倒見てやる!」


履歴書の「得意な学科」のところに

“キャッチボール”と書いてある。

あなたの手には負えない…

と言っても、聞く耳なし。


「オレは腐っても○大ラグビー部だ!

 こういう子を立派に立ち直らせてやるのが

 オレの使命だっ!」

U君は、倉庫係として働くことになった。


「キャッチボールが得意なんだって?

 オレとやろうじゃないか!」

昼休み、上司はグローブを二つ用意して、U君を広い駐車場に誘う。

U君、ふりかぶって投げた!

あさっての方向に。


「あぁ~~!!」

遠く離れた女子社員の車を直撃。

キャッチボール、一球で終了。


「今30分も続けて働いたので、5分休んでいいですか?」

U君は上司の所へ頻繁にそう言って来る。

「いいとも!いきなりじゃあ体がついて行かないからな。

 少しずつ慣れていったらいいよ」

上司は爽やかに微笑んで、U君の肩をたたく。


3ヶ月経っても、半年経っても

U君の体は、まだ慣れないらしい。

仕事にならない…倉庫担当者から苦情が出る。


やがて上司も飽き、そのうち誰も相手にしなくなった。

結局、一日事務所に居る我々女子社員が

おモリをすることになる。

「ボクは、倉庫で肉体労働より

 事務のほうが向いていると思う」

などと言い出すが、無視。


1年が経過。

その頃になるとU君、仕事には慣れないが会社には慣れて

気に入らないことがあると

事務所の電話でこれ見よがしに次のバイト先を探すようになった。


「私用電話禁止!」

上司が厳しく注意する。

「10円払えばいいんでしょっ!」

U君も負けてはいない。


「そういう問題じゃない!」

「そうやってボクをいじめて!

 いいんです!ここじゃなくても、来てくれと言う会社は

 たくさんあるんですっ!」


上司、キレた。

やばい…顔が、赤じゃなくて青だ。

U君になぐりかかろうとする。

私は羽交い締めで止めた。


「離せ!こいつは一発殴ってやらないとわからないんだっ!」

「殴ってもわからんっ!

 この子、警察へ行くよ!

 傷害の前科1犯になりたいんかっ!」

…U君!逃げろ!帰れ!

私は叫んだ。


それきり会社を辞めたU君を

次に見たのは、数ヶ月後の新聞記事だった。

「高速を逆走、男性即死」

次に入った会社で、移動中の事故である。


「あの時、オレの鉄拳であいつの根性をたたき直してやってれば

 こんなことにはならなかったのに…

 みりこんが止めたからなぁ…」

上司がうそぶく。


この一件は「松の廊下事件」として

長く語られることとなる。


                 合掌
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