殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

推し

2024年07月09日 16時35分39秒 | みりこんぐらし

思い返せば少女の頃から

郷ひろみ、西条秀樹、野口五郎の新御三家にも心は動かず

アイドルの話で盛り上がるクラスメイトを眺めていた…

そんな私が64才にして、今流行りの『推し』ができた。

石丸伸二さん、41才…

言わずと知れた、先の東京都知事選に立候補した方である。

 

彼を知ったのは、広島県安芸高田市の市長になった時だ。

4年前、政治家の河井夫妻による贈収賄事件が発端。

妻の立候補に先駆け、夫の河井衆議院議員から

数十万円を受け取った前市長が早々に辞任したため

急きょ市長選が行われることになったのだ。

 

この選挙にまず立候補したのが

賄賂を受け取った前市長の腹心だった、当時の副市長。

あくまで噂だが、収賄罪で公民権を失った前市長の繋ぎとして

副市長が後任を引き継ぎ、公民権が復活する5年後には

再び前市長がカムバックする図が描かれていたという。

そもそも人口の少ない田舎において

政治をやろうかと考える人間はさらに少ない。

少数が権力を握り続けるために

このような道筋が引かれるのは珍しいことではない。

 

そこへ待ったをかけたのが、石丸さん。

この道筋を絶つべく

市長の給料よりずっと高給だったメガバンクを急きょ退職し

故郷の安芸高田市へ戻って市長選に立候補。

見事、当選をはたした。

 

ところが、それを快く思わない市会議員もいる。

高学歴、申し分ない前職、整った容貌、切れ味鋭い弁舌

そして30代という若さ…

彼らに無いものが、石丸さんにはあった。

それだけではなく、彼らなりの利権やしがらみもあったと思われるが

とにかく彼らは、若き新市長を認めるわけにはいかなかった。

しかも議会の様子をYouTubeで発信されるようになり

議会でおちおち居眠りもできなくなったのだ。

居心地が悪いではないか。

 

ともあれ時期は覚えてないが、石丸市長の名が

私の住む沿岸部にまで聞こえ始めたのは

彼が副市長を公募した頃である。

応募は全国からそこそこあり

選考を経て副市長の候補がほどなく決まった。

 

副市長の決定には、議会の承認が必要になる。

しかし問題は、この副市長候補が若い美人であること。

反市長派の議員は、徹底的に反対した。

完全無関係の私とて、その美人を何かで見た時は

「公費でお嫁さん候補を雇うつもり?」

と、かすかな疑いの目を持ったぐらいなので

石丸憎しの議員たちが、それを理由に反対しないわけがない。

 

炎上したあげく、美人副市長の話は流れたのだが

事情通に言わせると、渦中の美人は非常に優秀で

申し分ない経歴と能力をお持ちなのだそう。

つまるところ女石丸みたいな人で、色恋のレベルでは無いというのだ。

皆が皆、自分の旦那のようなのではない…

この優秀な2人がタッグを組むところを見たかった…

などと後でこっそり思う、卑怯な私である。

 

そんな贖罪の意味を込め、私は石丸さんを気にかけるようになった。

そうなると、知れば知るほど思うところがある。

まず、彼はうちの息子たちとほぼ同年代。

ああ、あの頃に生まれて、あのおもちゃで遊んで

ゲーム全盛期の中で育ったんだよな…

などと、うちのボンクラ息子と重ねてしまうのだ。

 

そして何より、知れば知るほど

私が4年に1回、ウグイスをやっている市議Y君と似ている。

年はY君の方が少し上で、もちろん顔も声も違うけど

どちらも国立大の経済学部卒だし、独身だし

礼儀正しくキビキビとした立ち居振る舞いが重なる。

他にも筋の通った弁が立つところ、孤独を恐れないところ

常に落ち着いているところ、親しくても馴れ合いにならず

誰に対しても同じ態度で接する紳士的なところ…

頭のいい子供がうまく育った成功例みたいなところが

よく似ているのだ。

 

都知事選でのウグイスを聞いていたら、それがよくわかる。

ウグイスが伸び伸びと、良い仕事をしている。

あの仕事ぶりは本人の実力も素晴らしいが

同じ車中にいる候補者が、明るい雰囲気を保つ紳士だからだ。

裏表のある、きつい候補者であれば

素人にはわからないだろうけど、わずかでも声が萎縮して

しゃべり出しに緊張感が出るはず。

実力が無いながらも伸び伸びやらせてもらっている私には

そう感じられる。

見たわけではないけど、その点も石丸さんとY君は似ているように思うのだ。

 

ただし、似ているから推しているわけではない。

Y君もそうだけど、頭のいい子は時として損をすることがある。

私は頭が良くなったことが無いので、えらそうなことは言えないし

頭のいい人は頭が悪くなったことが無いので、わからないだろうが

頭のいい人は冷淡だと誤解されやすく

その印象を避けるための努力すら無駄だと思っているので

アンチが生まれやすい。

 

実際、石丸さんがまだ安芸高田市長だった昨年10月

彼は趣味であるトライアスロンの大会に参加するため

休日を利用して私的に千葉県へと出向いた。

大会には出場したものの、その日は広島県に大きめの台風が接近していた。

 

「台風が近づいているというのに、趣味で地元を留守にした」

反石丸派の議員たちは、ここぞとばかりに追求。

しかし彼は、涼しい顔で言った。

「台風が上陸した時には、帰って来ていた」

 

それでは納得しない議員たちがなおも追求するので

彼は本心を述べた。

「トライアスロンには、富裕層の参加が多い。

そういう場所に行って富裕層の知り合いを増やすことで

地元のためになれば、という思いがある」

そう言われたら、何も言えないわね。

脳無しは、台風がまだ来ていないにもかかわらず

留守をしたと騒ぎ立てて恥をかき

脳ある鷹はその先を見ているので意に介さない…

両者のスタンスの違いを表す良い例だと思うが

Y君にもそんな所がある。

それを小気味良く思いつつも、向こうはいらないだろうが

こっちはつい手を差し伸べたくなる…

石丸さんにもY君にも、そんな親心みたいなものを感じる私なのである。

 

さて、今回の東京都知事選で、石丸さんは健闘された。

投票日まで、本当にワクワクと楽しませてもらった。

若い世代の関心を政治や選挙に向けさせたのは、大きな功績だ。

 

一方、意図的に石丸さんを報じないテレビだけを見て

SNSやらYouTubeを見ない年配層には浸透しにくかった。

ちゃんと選挙に行くのは、圧倒的に年寄りが多いのだ。

しかし多くの老人が石丸さんを知ったところで

得票には結びつかなかったかも。

若年層が対象の“教育“や、年配者の苦手な“改革”を訴えたからだ。

 

老人が聞きたいのは「高齢者は功労者」、「お年寄りが輝く都市作り」

などのリップサービス。

実行は伴わなくていいのだから、政治屋の得意とするところである。

なまじっか実行されて、老人施設なんかバンバン作られて

ジャンジャン放り込まれたら、困るのは老人だ。

 

石丸さんは石丸さんのまま、前進してもらいたい。

次は何をするのか、どこに立候補するのか、楽しみだ。

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ワクワク

2024年07月02日 10時46分50秒 | みりこんぐらし

『これもワクワク』

長年飼っている亀の背中に、トカゲが乗ってるの。

こういう派手な色のトカゲは、子供なんですって。

可愛くてワクワクしちゃった。

トカゲがお嫌いだったら、ごめんなさいね。

 

 

私の住む地方は昨日から大雨ですが

皆様がお住まいの地域は大丈夫でしょうか?

どうか気をつけてお過ごしください。

 

 

さ〜て、ちょっとご無沙汰してしまった。

気がついたら、今年が半分、終わっとるじゃんか。

ああ、びっくりびっくり。

 

この慌ただしさは、実家の母が入院したことに由来する。

6月の始めに転倒したことで、すっかり弱気になり

心身共に衰弱の一途。

世話というほどでもないが、私も一応は毎日通った。

しかし、それでどうなるものでもなく、先月下旬に入院した。

90才という母の年齢を考慮し

一人暮らしは限界と判断した主治医の勧めによるもので

母もその説明に納得した。

 

入院先は、隣市の病院。

これでやれやれ…というわけにはいかなかった。

毎日、電話で呼び出されては面会に通う。

そして行けば、「帰る、帰る」でひと騒ぎ。

のらりくらりとかわしながら、15分の制限時間を過ごす日課が始まった。

 

そんなある日、母は電話でこう言った。

「早く元気になって家に帰りたいから、しばらくはここで頑張るわ。

だからあんた、今日は私の洋服を持って来てちょうだい。

それから、大きめのマスクもね」

いつになく明るく、はっきりした口調だ。

病院では洋服を着てウロウロしている患者を見かけたので

彼女もその一員になる決心がついたのだと思い、ホッとした。

 

しかしマスクの方は、消耗品費の名目で病院に現金を預け

その中から必要に応じて介護士に買ってもらうシステムを選んでいたので

一瞬、「あれ?」と思った。

が、母の見せたやる気に気を良くした私は、変に気を回してしまった。

子供のように小柄な母は普段、小さいサイズのマスクを使っているが

病院では大きいものが推奨されていて

サイズを見るために持って来いと言っているのかも、と勝手に思ったのだ。

しかも難しい要求ではないため、数枚の洋服と一緒に持って行った。

 

面会に行くと、母は小声で私に言う。

「早く、服を出して」

そしてバッグから、一組のブラウスとズボンを素早く選ぶと

「パジャマを脱がせて、服を着させて。

マスクは大きいのを持って来てくれた?」

現役の頃と変わらないテキパキした口調は、とても病人とは思えんぞ。

 

ここでようやくわかった。

彼女は服に着替え、大きめのマスクで変装して

病院を脱走する計画を練っていたのだ。

あんた、日産のカルロス・ゴーンか。

もっとも母の場合、変装すれば脱走できると思い込んでいるあたりが

すでに入院案件なんだけど、彼女にはわからない。

 

入院を続ける意思を見せて、私を喜ばせたのは

洋服とマスクを準備させ、さらに逃走の足を確保するためだ。

病院は不便な山の中にあるので、車無しではどこへも行けない。

やられたわい。

 

脱走が未遂に終わって以降は毎日、入院を決めた主治医と

入院させた私を恨んでいる。

平気。

 

とまあ、面白いことをやってくれる母とのバトルが続く日々にも

ワクワクすることはある。

今は、東京都知事選挙。

広島県の子が立候補してるんだもん、夢中よ。

 

彼の出生地であり、首長(くびちょう)をしていた市って

マジで山奥のど田舎。

スキーに行く人が通り過ぎるだけ、みたいな所なのよ。

そこからあんな神童が現れたのを見られるなんて

生きてて良かったという気分よ。

 

町を活性化させるために彼がやろうとした政策を

一部の古株議員が徹底的に潰そうとするすさまじい攻防は

YouTubeを見なくても私の住む沿岸部にまで聞こえていたわ。

年寄りって、自分がいる環境が変わるのを恐れる、剥離恐怖という感情が強い。

老議員たちのあの必死さって、町をどうこうするというより

恐怖を遠ざけるための本能と感じたものよ。

若い者に任せたら最後、長年慣れ親しんだ生暖かい環境が変わってしまう…

それを恐れていたんじゃないかとね。

ああいう本能を丸出しにして話し合いもできないって、本当は恥ずかしいこと。

動物と同じだもん。

 

 

それにつけても、滅多にやらないウグイスとしての私は

彼の演説のうまさに感心しきりだ。

頭のいい人なので的確な内容はもちろん良いが、声も良い。

滑舌明瞭、高からず低からず、長く聞いていられる話し方なので

内容が聴衆にヒットしやすい。

 

話を頻繁に区切っているように聞こえるのは

マイクを通した声の反響を計算した、街頭演説特有の話し方だ。

演説が上手いだけ…アンチはそう言うかもしれないが

あれだけ強弱、剛軟を折り混ぜた熱い演説は

世の中と人心をちゃんと理解していなければ…

そしてもっと理解しようとする心が無ければ無理。

 

彼の演説はちょっと、アメリカの故ケネディ大統領の演説と

重なるところがある。

銃弾に倒れたケネディ大統領だけに、老婆心で彼の無事を祈りつつ

勉強させていただきます。

 

そういうわけで、投票日の7月7日が楽しみでしょうがない。

彼には勝って欲しい。

その日まではこのワクワクで生きられる、12キロ痩せた私です。

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スプレー売り

2024年06月21日 10時45分14秒 | みりこんぐらし

今月始め、90才になる実家の母が裏庭で転倒した。

高齢者はこういう時に骨折することが多いが

頭から突っ込んだのが幸いしたのか、首の捻挫で済んだ。

 

20年前に父が他界して以来

母は趣味のコーラス、俳句、編み物に勤しみながら

気丈に一人暮らしを続けていた。

しかし昨年、90才の声を聞いた途端に強い不安を訴え始め

夜昼なく頻繁に呼び出されるようになった。

そこで近所の主治医と心療内科の連携で投薬治療を開始したものの

今回の転倒を機に不安は強まる一方。

誰かそばに居れば落ち着くと本人は言うが

そばに行けるのは私しかいないため

実家への日参を開始して現在に至っている。

 

実家への日参といえば、夫の姉カンジワ・ルイーゼ。

が、このところ出席率悪し。

週に一度のペースで2才になる孫娘もみじ様の子守りをする彼女だが

68才の近頃は疲れが残るようになり、子守りの翌日は来なくなった。

 

もみじ様の子守り日に、翌日の休養日

それから彼女が老人体操教室に参加する木曜日と

義母ヨシコが老人体操教室に参加する金曜日も来ないので

ルイーゼは週に4日は来ない。

私が家を空けて実家に通うのが

何気に不満なヨシコの気をそらすため

できるだけ来てもらいたいところだが

厄介な人間ほど、必要な時に役に立たないのは世の常。

そんなもんよ…と思っている。

 

ともあれ私が話したいのは、そんなことではない。

実家通いのために毎日外出するとなると

出たついでにスーパーへ寄る機会が増える。

ここしばらく、食料確保の手段といったら

生協の宅配と金曜日の移動スーパーが中心で

スーパーへ行くのは肉の調達くらいだったのが

現在はスーパーが中心になりつつあるのだ。

 

先日も買い物を済ませ、陽射しのきつい駐車場に出て

車に乗ろうとした。

すると、黄色い日傘をさした若い女の子が駆け寄って来るではないか。

日傘といっても普通の女物ではなく

何やら宣伝文句の書かれた晴雨兼用の傘だ。

黄色いシャツの腰周りには、殺虫剤みたいなスプレーや雑巾

毛ばたき、タオルなどをぶら下げた太いベルトをしている。

 

「30秒でお車のライトをピカピカにしませんか?」

これ以上無いほどの笑顔に、ハイテンションの声。

スッピンの角ばった顔は、日焼けして赤くなっている。

年齢は20代後半と見た。

 

勢いがすごいので、私は思わず問い返す。

「へ?」

慣れているのだろう、女の子は間髪入れず言った。

「微妙なお返事、ありがとうございます!

30秒しか、かかりません。

ライトをピカピカにしませんか?」

「あなたが?」

「はい!」

どこまでも元気いっぱいだ。

 

「何で?」

そう問いつつも、私はすでに気づいていた。

腰にぶら下げた、車の絵が描いてあるスプレー…

彼女はスーパーの買物客に、これを売りつけたいのだ。

少し離れた所で、やはり同じような格好をした若い男性が

年配の女性に話しかけている。

 

「ご質問、ありがとうございます!

ライトをピカピカにしたいんです!

30秒いただけたら、ピカピカにします!

新商品のデモンストレーションなんです!」

「ふ〜ん…」

 

鈍い反応に、相手は戦略を変えた。

「お客様、このお車はコーティングをしていらっしゃいますか?」

「私のじゃないから、ようわからんわ」

私のだけど、面倒くさいのでそう言う。

 

「コーティングしてないお車でも、コーティングしたみたいになるんです」

「…ライトを磨くだけで?」

「アハハハ!まさか!」

部活帰りの女子高生のような底抜けの笑顔で

よどみなく彼女は言うのだった。

「このスプレーはライトだけでなく

お車全体を磨ける特別な商品なんです!」

「それが1本、ナンボ?」

「3,500円です!」

 

「3,500円!」

「これでお車がピカピカになります!」

「ほぅ…この田舎で1本3,500円のスプレーを何本売ったら

あなたと、あっちのお兄さんの日当が出るわけ?

商売にしては効率悪過ぎじゃない?」

「私たちは一人でも多くのお客様に

この商品を知っていただきたくて…」

「あっちの人はいいわよ、男だもの。

だけど、あなたはどうよ。

若い娘がこの炎天下に外で、身体に悪いわよ。

シミができたら元に戻らないし、リスクを考えて働かないと」

「いえ、あの…」

「こんな商売、やめときなさいよ」

「……」

「私、忙しいから、じゃあね」

女の子を凹ませようと思って言ったのではない。

彼女のことを考えて、本気で言った。

 

家に帰って、長男に話す。

「駐車場で、車のスプレー売る人がおったわ。

この辺も都会みたいになったんじゃね」

「変に明るい若者が、ライト磨いてくれるやつ?」

「それ、それ」

 

長男はこともなげに言った。

「あれ、宗教よ。

昔、スルメなんかの干物を売って、家を回りようたろ。

ワシ、子供じゃったけど覚えとるわ。

あれの車版よ。

安いスプレーを高い値段で売って、差額を宗教に寄付するんじゃ」

「え〜!」

 

そういえば、あのハイテンション…

立板に水の明るいしゃべり方…

洗脳された人特有のものだったかも。

何やら懐かしい気がしたのは、30年ぐらい前

一軒一軒、家を訪問しては玄関でいきなり歌を歌い出す

干物売りの若者と同じだったからなのね。

干物売りは、旧統一教会だったそうだけど

今度のもそうなのかしらん。

ちょっと驚いた。

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手抜き料理・夏祭り編

2024年06月10日 12時25分38秒 | 手抜き料理

6月某日、同級生ユリちゃんの実家のお寺で

恒例の夏祭りがあり、私はいつもの料理番仲間…

同級生のマミちゃん、モンちゃんと一緒に料理をした。

もう一人の料理番、公務員OGの梶田さんも手伝ってくれたので

大変助かった。

 

お祭りの料理は、もはや惰性。

メインは昨年、一昨年と同じくカレーじゃ。

カレー制作中の私と、右側はカレーに入れるニンジンを炒めてるマミちゃん。

私は小さい鍋を抱え、大鍋の中身の一部を移して

カサ増しを狙っているところみたい。

 

 

それから、適当な物を並べたオードブル。

年々体力が落ちて、もはやメニューを考えるのも面倒くさい。

今年のオードブルは鶏の唐揚げ、ハンバーグ、卵焼き

ポテトサラダ、それから冷凍の枝豆という手抜き祭り。

 

センターはフキと油揚げの煮物。

前日、台所の裏庭にフキが群生しているのをユリちゃんが獲って

「お祭り料理の一品にして欲しい」

と言ったけど、フキって下処理が厄介なので断固拒否。

そしたらユリちゃんの兄嫁さんが、煮てくれてた。

フキが一番美味しかった。

 

鶏の唐揚げは、5キロ分。

下味をつけて揚げればいいので、決めた。

味付けは市販の塩麹に、ショウガとニンニクを加えただけ。

酒も醤油も入れず、塩麹だけなのに

けっこう美味しくてびっくりした。

自分が言い出しておいて、我ながら無責任なものよ。

 

ハンバーグは合挽ミンチ5キロで、小ぶりなのを120個作った。

去年作ったミンチカツの衣付けが大変だったので

小麦粉、卵、パン粉を見捨て、裸のまま焼いただけ。

肉汁が滲み出て、食べる人の服を汚したらいけないと思い

硬めに仕上げたらカッチカチのパッサパサ。

 

卵焼きは、お祭りを手伝うのは男性が多いということで決めた。

うちに余っていた卵を持ち込んで、適当に焼いただけ。

 

ポテトサラダは、マミちゃんが家から作って来てくれた。

人に作って持って来させるのは、最高の手抜き。

 

冷凍枝豆もマミちゃんのアイデア。

国産の良い枝豆で、よく太っていて美味しいものだった。

 

これで万全!とタカをくくっていた我々を、予想外のアクシデントが襲う。

2升釜で1升と8合炊いた、カレーのごはん。

規定量いっぱいの2升を炊くと

“釜が張る”といって、ごはんがパサパサするので

ちょっと少なめに炊くのが常識なんだけど

今回はお米の芯が残って、ひどくパサパサだった。

 

米と水を計量したモンちゃんが、間違ったらしい。

彼女は普段、こんなに大量に炊くことは無いので、無理もない。

スイッチを入れたのは私。

その時、水加減をちゃんと確認すればよかったと思ったが

あとの祭り。

 

けれども対処法はある。

生煮えのごはんに茶碗一杯ぐらいの日本酒を回しかけて

もう一度、炊飯スイッチを入れれば何とかなるものだ。

何とかならなければバターで炒め

上からカレーをかけて誤魔化そう…と思いながら

恐る恐る日本酒投入後の炊飯器を開けてみたら

何とかなっていたのでホッとした。

 

1升8合のごはんは昼食のカレーでほとんど無くなったので

午後になると、同じく1升8合をもう一回炊き直し

小さい1升釜でも8合を2回炊いた。

カレーのごはんもだが、大量のおむすびも必要だからだ。

 

こうして頑張ったお祭り料理だが、今年は大学生の大軍が来ず

我々ぐらいの年代の爺婆が多かったので

ごはんもカレーもオードブルも大量に余り

持ち帰りの折り詰めを作る方が忙しかった。

打ち上げの夜食なんて、大学生がいないということで

生ビールなどの酒類が出たため、食事に取り組む者とていなかったのだ。

若者がいないと、こんなに余るのか…改めて驚いた。

 

ところで今年は梶田さんが朝から終わりまで手伝ってくれたので

一緒にいる時間が長かった。

我々4人は人の耳を気にしつつ、色々なことを話したが

梶田さんも、お寺料理にはかなりの不満をお持ちの様子。

 

お祭りの翌々日も、「義姉が疲れているから」という理由で

ユリちゃんから昼ごはんを作って欲しいと頼まれているそう。

我々がお寺料理を拒否した時は、優しい彼女に頼むのが

近年の習慣になっていた。

「シブシブ引き受けたけど、ホントは嫌。

疲れが残るから、息子にもいい加減にしろって言われてる。

私はあんたたちより三つも年上だし、しんどいのよ」

 

翌日じゃなくて翌々日の理由、我々にはすぐわかる。

翌日はお祭り料理が残っているので、お寺人はそれで食いつなぐのだ。

そして食べ尽くした翌々日、梶田さんの料理で再び食いつなぐ寸法。

こういう下心が透けて見えるのを見えないフリするのが

お寺料理の面倒くさいところなのよね。

 

特に梶田さんが納得できないのは、ガソリン代なんだそう。

彼女はユリちゃんの嫁ぎ先のお寺と実家のお寺の

ちょうど中間にある町に住んでいて

二つのお寺までは、どちらも車で30分かかる。

「気軽に呼び出してくれるけど

こっちはガソリンは使ってるんだからね。

やってられないわよ。

だから最近は材料費を請求するようにしたけど

今までの習慣が染み付いてるから

後で渡すと言って、そのままのことも多いんだわ」

なるほど…。

 

彼女は美しい料理を作るだけでなく

こだわりの食器まで持ち込んで飾り立て

使った食器はそのまま持って帰って家で洗うシステムを取っている。

そしていつも明るく楽しそうで、周りに気を使う。

そんな彼女を、我々は聖人君子と崇めていた。

心いやしき我らに彼女の真似はできないと、いつも言っていたのだ。

が、聖人君子にも色々と思うところがあったと知って

ホッとした次第である。

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現場はいま…ゴーヤ騒動記・6

2024年06月06日 10時37分28秒 | シリーズ・現場はいま…

事務員のアイジンガー・ゼットが次男に話した内容から

ピカチューが河野常務に怒られたことを知った我々は

第二アキバ計画の終焉を知った。

アキバ一味には、もうちょっと頑張って欲しかった。

人を罠にはめるつもりなら、途中でうまくいかなかった場合に備えて

次の手を用意しておくのが悪人の常識ではないのか。

不甲斐ない奴らだ。

 

さて、常務に怒られたピカチューは急におとなしくなった。

相棒のアイジンガー・ゼットもバッチリ疑われていることだし

しばらくの間、静かにせねばなるまい。

 

そこで彼が思い出したのは、第一アキバ計画。

F工業を訪問してF社長に会い、F工業がやっているうちの仕事に

T興業も混ぜると伝える件だ。

F社長が承諾すれば、徐々にT興業の割合を増やしていき

最終的にはT興業に切り替える計画である。

 

常務に怒られてからさほど日をおかず、彼はF社長に連絡を取った。

F工業へ行くことは常務に止められたので、もちろん内緒だ。

今のうちにやりたいことをやっておかなければ

監視の目が厳しくなった場合、身動きが取れなくなる。

そのため、原点に戻って行動してみたと思われる。

 

原点に戻ると言えば聞こえはいいが

T興業と天秤にかけることでF社長を焦らせて

接待の酒をせしめるのが彼の目的であろう。

アキバ社長に覚えさせられた蜜の味を

F社長からもいただくつもりなのだ。

 

「明日ならいい」

F社長の承諾を得たので、ピカチューは電話をかけた翌日

いそいそと出かけて行った。

 

F工業の本社事務所へ行くには、片道1時間ほどかかる。

出かけたピカチューが帰って来たのは、3時間後。

夫は1時間ほど話ができたのかと思ったが、違っていた。

来客中ということで、1時間待たされたそうだ。

 

1時間後にF社長が現れ

名刺交換をして挨拶を済ませたら、面会は1分で終了。

ピカチューは何も言い出せず、すごすごと帰ったらしい。

F社長の方が10才ぐらい年下だが、貫禄負けしたと思われる。

すでに夫とピカチューは、ほとんど口をきかなくなっているが

この時ばかりはブツブツ言ったそうだ。

 

後で、F社長から次男に連絡があった。

「ギャンギャン言うちゃろう思よったけど

相手するのが馬鹿らしゅうなったけん、待たせたった」

だそう。

放置の刑…ギャンギャン言われるより厳しいかも。

以後のピカチューはますますおとなしくなり

今のところは静かな日々を過ごしている。

 

さて、常務に疑われたことを気にするアイジンガー・ゼットは

どうしているか。

お待たせしました…ここでタイトルにあるゴーヤの登場。

 

5月のある日、彼女は事務所の窓の外周りに

ゴーヤの苗を植えなすった。

まだ常務に疑われる前で、ピカチューともラブラブだった頃だ。

 

「植物のカーテンで事務所の光熱費を節約する」

それが彼女の主張。

公務員試験に受かったら、の話だが

彼女は理科の教員免許を持っているのだ。

何回受けても落ちるので、教師の道は諦めたらしく

事務所で理科を実践するらしい。

 

アイジンガー・ゼットは4本の苗と4個の大きな植木鉢

土に肥料にゴーヤのツルを這わせるネットなど

ゴーヤ栽培一式を買い込み、植えたという。

もちろん、それらの代金は会社の経費。

アイジンガー・ゼットにねだられたピカチューが

会社の小口現金から、出金を許可したのだった。

 

「塩まいて枯らしちゃるんじゃ!」

次男は息巻いている。

事務所を我が物のように扱うアイジンガー・ゼットのやり方に

怒りを覚えているのだ。

 

愛人体質の女って、こういうことをよくやる。

勤務先に私物を置いたり、趣味を押し付けたりで

自分の物のように振る舞うのだ。

動物本能の強い人間が無意識に行う一種のマーキングである。

自腹を切るならまだしも

人の金でやろうとするのもこの人種の特徴で

そのような習性が他者の不快を招く場合も、ままあることだ。

 

「およし」

私は次男に言った。

「何で?やっちゃあいけんの?」

不満そうな次男。

「いけん…塩は残る」

「……」

 

ええか?よう聞けよ?…

私は不思議そうな顔の次男に向け、ゆっくりと話すのだった。

「イタズラは、バレんようにするけん面白いんじゃ。

塩は白いのが残るけん、誰かがやったのはバレバレじゃん。

ブサイクなこと、したらいけん」

「じゃあ、どうしたらええん?」

「塩水」

「その手があったか!」

 

会社の前は海なので、海水ならたっぷりある…

しかし潮位によっては、汲みあげるのにバケツとロープが必要になる…

大げさなことをしたら人目につく可能性が高まるため

もっとコンパクトに行うのだ…

私はそう説明しつつ、台所にある食塩とカラのペットボトル

そして小さいペットボトルの口から

塩と水をスムーズに入れるためのジョウゴを渡す。

 

「あんた、ここまでタチ悪い人間じゃったんか…」

細い目を丸くして、呆然と私を見る次男。

「あんた、知らんかったんか」

「知らんかった」

「昔の子供は皆、こんなモンよ。

今どきの子供はイジメはよう知っとるが、イタズラは知らんけんね」

「そうなんか…」

「ささ、お水を入れてシェイク、シェイク」

二人で楽しく塩水作成だ。

 

「母さんは、いっつも人に意地悪したらいけんて言うじゃん。

何で今回は協力してくれるん?」

次男は私に問うた。

「昔から、会社に実の成る植物を植えたらいけん言われとるんよ。

商売人じゃない人は、それを知らん。

温暖化対策が流行って、窓にゴーヤ植える会社が増えたけど

たいてい売り上げ下がっとるか、無くなっとるはずじゃ」

「あ、そういえば…」

「光熱費が上がったら、節約もええかもしれんけど

家と会社は違うんじゃ。

それ以上の利益を上げてやる、いう気概を持たんと

会社は落ち目になるもんよ。

ゴーヤの世話するいうて、時間潰すし

そういうヤツは寒うなってグチャグチャになったのを

放っとくのもお決まり。

一旦枯れたら、ツルが硬うなって後始末が大変じゃけん

皆、見て見んフリよ。

あんた、ゴーヤがブラブラしとる会社見て、どう思う?」

「貧乏くさい思う。

それから、暇なんじゃの…て思う」

「じゃろ?

貧乏と暇は商売の敵じゃ。

そんな会社を誰が盛り立ててくれようか。

雇われとる身で、そういうことをやるのはいけん」

「ようわかった…行ってくるわ」

次男は濃い塩水の入ったペットボトルを握り

誰もいない会社へ行った。

 

翌朝、ゴーヤの苗は見事にしなびていたという。

しかしアイジンガー・ゼットは諦めない。

またゴーヤの苗を買って来て、同じ植木鉢に植えた。

が、塩水をたっぷり含んだ土では、やはり育つ前にしなびてしまう。

現在も彼女は、それを繰り返している。

もう4回目だ。

 

苗の代金がもったいないって?

なんの、我が子と一緒にやるイタズラの楽しさ

そしてゴーヤのお陰で色々教える機会を得た喜びは

プライスレス。

理科の先生なんだから、せいぜいお気張りやす。

あれ?そういえばずいぶん昔

夫と不倫した長男の副担任ジュンコも理科の教師だったわ。

何の因果かしらねぇ…フフ!

《完》

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現場はいま…ゴーヤ騒動記・5

2024年06月04日 10時11分39秒 | シリーズ・現場はいま…

B社へサンプルを持ち込む際、ピカチューが夫に同行を求めたら

それはアキバ産業とB社の仕掛けた罠…

そう判断した私は、ピカチューの予定に気をつけるよう

そして我が家の3人のうち、誰が誘われても絶対に行かないよう

夫と息子たちに言った。

君子じゃなくても、危うきには近寄らないに限る。

 

我々はまんじりともせず、ピカチューが動くのを待った…

と言いたいところだが、彼は翌朝、早くも動いた。

「B社へ行く時、一緒に来てもらえん?」

夫にそう言ったのだ。

わかりやす!

 

サンプルを使って試験をする際、重機が必要になる…

B社は重機は貸すけど人員はそっちで用意するよう言っているので

こちらがオペレーターをやることになる…

自分には難しいので、一緒に来て重機を操作して欲しい…

それが夫を誘う理由だった。

 

お誘いを受けた時の夫の対応は

みりこん家恒例の家族会議で打ち合わせ済み。

「ワシは行かん」

まず、即座に断る。

何で?何で?…ピカチューは執拗に問い続けるだろう。

そこで言うのだ。

「常務に行けと言われたら、行く」

 

常務がB社の話を知ったら、絶対にピカチューを止める。

今のところ止められてないということは

毎日、報告義務のある予定表にも

サンプル持ち込みの件を入力してないということである。

だから常務は何も知らない。

第二アキバ計画を成功させるために秘密にしているのか

それともB社の仕事獲得を自分一人の手柄にしたくて

ギリギリまで黙っているつもりなのかは謎だが、どうでもいい。

 

ところでB社に関わったら、なぜ常務に止められるのか。

うちとB社との因縁を、彼は身をもって知っているからだ。

 

常務とB社長は建設協会の役員同士という関係で

昔から懇意だった。

若かったB社長を気にかけ、何かと世話をしたのも常務だ。

やがて、うちが本社と合併すると、常務は自らB社に営業をかけた。

我々は無理だと言ったが、常務は

「B社長がワシを粗末に扱うはずが無い」

そう言って自信満々に乗り込んだものである。

 

が、うちの名前を出した途端、B社長は烈火のごとく怒り出し

けんもほろろに追い返した。

あまりの剣幕に驚いた常務は、夫から事情を聞いて納得。

可愛がってきたB社長が自分に牙をむいた不快もあり

以後、B社は存在しないものとして

完全無視の方針を取ってきたのだった。

 

 

さて、夫は打ち合わせ通りピカチューの誘いを断り続けた。

依然として誘うからには、B社のことを常務にまだ言ってない…

我々はそれを確認しながら日を送った。

 

そのうち、B社にサンプルを持ち込む前日が訪れた。

第二アキバ計画には、夫の参加が不可欠。

夫がのこのこB社へ行った既成事実が無ければ

彼がK商事の仕事を奪おうとした筋書きは成立しない。

アキバ社長にハッパをかけられたし、B社長も待っているし

ピカチューは何としても夫を連れて行かなければならないのだ。

 

その日もしつこく誘うピカチューに、夫は言った。

「シゲを連れて行け」

これ、我が家基準では賞賛に値する機転である。

夫にはシゲちゃんという手があったのだ。

3年前、夫の重機アシスタントとして雇ったものの

アシストするのは夫の方で、未だ一人前には遠いシゲちゃん。

彼にはこういう時こそ、役に立ってもらおうではないか。

 

そして当日、ピカチューは渋りながらも

シゲちゃんを連れてB社へ行った。

夫が行かないのだから、仕方がないではないか。

これでK商事の仕事を奪おうとしたのは

夫でなくピカチューということになるのだが

彼はそこまで気づけるタマではない。

 

知らない会社へ連れて行かれることになったシゲちゃんは

緊張していたが、いつになく頑張ったようで

つつがなく任務を終えた。

そしてB社はその日のうちに

「サンプルを使ってみたが合わなかった」

ということで、ピカチューに断ってきた。

B社長とアキバ社長は、さぞ失望したことだろう。

 

話は飛ぶようだが、その数日後

次男はアイジンガー・ゼットから相談を持ちかけられた。

「私、常務さんから疑われてるみたいなの。

私が板野さん(ピカチュー)を裏で操ってるって」

「何で」

「板野さんが常務さんに怒られて、そう言われたんだって」

「ほ〜ん…」

「常務さんに、違うって言ってくれないかな」

「ホンマのことじゃないん」

「私が?私はあの人たちとは無関係よ!」

「わしゃ知らん」

“あの人たちとは無関係”という発言で

すでにグルだと自白しているようなものだが

本人はお気づきでないご様子。

 

常務に怒られたピカチューは

アイジンガー・ゼットにそのままを伝えたのだ。

核心を突かれ、相当うろたえたと思われる。

恋愛経験の少ない爺さんは、罪深いものだ。

相手を危険にさらさないという大前提を知らないもんで

自分が危なくなると簡単に女を売る。

 

ともあれ、この“相談”でわかるのは

ピカチューがB社の件をとうとう常務に話したということ。

その内容は仕事のことではなく

夫の非協力的態度についての告げ口だったのは想像に容易い。

夫を連れて行かなかった不守備をアキバ社長とB社長に責められ

怒りのぶつけどころが無かったのだろう。

 

ピカチューは、夫の職務怠慢を告発するにあたり

B社にサンプルを持ち込むことになった経緯を

説明する必要が出てくる。

飛び込み営業で話をつけたと言っても

あのピカチューでは信じてはもらえないだろうから

アキバ産業の紹介だと正直に言うしかあるまい。

商売仇から怨恨の相手へのあり得ない紹介ルートを聞いた常務は

ピカチューが二社から踊らされていることを察知したのだ。

その流れで、中継役のアイジンガー・ゼットが浮上したと思われる。

 

とはいえ、常務が何らかの対処をするとは期待してない。

上に立つ者は難しいのだ。

ピカチューを配属させたのも、アイジンガー・ゼットの正社員登用も

最終的には常務の決済。

それをいちいち処分していたら、常務自身が人選能力を問われる。

ピカチューを所長代理に降格させたばかりだし

これ以上を望むのは贅沢というもの。

ただ、知ってくれているだけで満足だ。

この状況を楽しむ方が、我々にはお似合いである。

《続く》

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現場はいま…ゴーヤ騒動記・4

2024年06月02日 16時55分01秒 | シリーズ・現場はいま…

事務所のホワイトボードにB社の文字があったと聞いて

アキバ産業の新たな陰謀を察知した私だった。

選挙の恨みで義父との取引を切っただけは飽き足らず

メインバンクに手を回し

義父の会社と取引をしないように命じたB社長と義父アツシは

もちろん絶交。

二人のオジさんは憎しみ合ったまま生涯を終え

父親の言い分しか聞いてないB氏の息子もまた

我々一家を憎み続けて現在に至っている。

 

そのB社にうちのサンプルを納入するとは

そのサンプルで試験的に製品を製造してみて

問題が無いようであれば価格交渉の上、うちから納品させる…

つまり継続的にうちの商品を買ってくれるということだ。

父親に背いた罪で我々を憎み続けたまま

社長を引き継いだ現在のB社長が、ウンと言うわけがない。

つまり、あり得ないことが起きようとしているのだ。

この不自然に、心は騒いだ。

 

「どのサンプルを持って行くか、調べるわ」

やはり尋常でない雰囲気を感じ取っている息子たちは、言った。

B社は、製造材料のほとんどをアキバ産業に納入させている。

それなのに、うちの商品サンプルを所望するとなると

アキバ産業の仕事がわずかでも減るということではないか。

アキバ社長は取引を継続するために

B社長のお古の車を買って乗るほど一連托生の子分に甘んじているのだ。

たとえ一種類だけの商品でも、みすみす譲るわけがない。

しかも宿敵の我が社へ。

あまりにもおかしい状況であった。

 

サンプルの商品名は、すぐに判明した。

午後になると事務所のホワイトボードに

ピカチューの字で商品名が書き添えてあったからだ。

「◯A◯!」

商品名を確認した次男は、ぶったまげたという。

 

「おおごとじゃ!」

早めに仕事が終わって帰宅した次男は、少々おどけて言った。

「◯A◯は、先月からK商事が納品しょうる!」

アキバ産業の兄社長にきついお灸をすえた、その筋の親玉

あのK商事のことである。

 

次男の話によると、この商品は特殊で

アキバ産業には仕入れのルートが無い。

よって、これだけは別の会社から仕入れていたそうだ。 

しかし価格交渉の決裂なのか

B社長が例によって忠誠心を試したくなり

何らかの要求をして断られたのかは不明なものの

とにかくB社はその会社を切り

先月、新たにK商事と契約を結んだという。

 

この話を教えてくれたのは、昔、アツシの会社に勤めていたO君。

転々と仕事を変えるうちに50代も半ばを過ぎて就職が難しくなり

泣く子も黙るK商事に拾われた彼は

今でも時々、次男と電話でおしゃべりをしているのだ。

 

隣の市内に住むO君は、住まいがB社に近いという理由により

問題の商品“◯A◯”をB社へ納入する専任要員として

K商事に雇われた。

そのために新車のダンプを買ってもらった…

O君は先月、嬉しそうに語っていたそうだ。

 

B社へ納品するためにダンプの新調までしたK商事を差し置いて

うちが同じ商品のサンプルを持ち込むということは

K商事の仕事を奪おうとしていると思われても仕方がない。

「ワシらの誰かが連れ去られるかもしれん」

息子たちは笑いながら、そう言って盛り上がっていた。

 

というのもアツシの会社だった頃は、K商事と取引があった。

我々夫婦も何度か、豪奢な事務所へお邪魔したことがある。

行きがかり上、まだ小さかった子供を連れて行ったこともあり

K商事の人々は優しくしてくれたが、普段うるさい子供たちは

妙におとなしくて行儀が良かった。

 

ついでに話せば、今の本社と合併話が持ち上がるのとほぼ同時期

親切なことにK商事も合併の話を持ちかけてくれた。

スリルとサスペンスに目をつぶり、開き直って染まれば

もしや我々は安泰だったかもしれない。

大手のK商事と手を組めば、アキバ産業と組むT興業や

町内の同業者で企業舎弟のC産業よりも

そっちの世界ではずっと格上になるため、楽ちんだと思う。

しかし緊張感は必要になる。

あの夫や息子たちが粗相をしない保証は無いため

丁重に辞退した経緯があった。

 

ともあれピカチューとB社が繋がったところへ

K商事が絡むとなると、コトの次第を早めに見極め

対処を考えなければ。

そのためには慎重に行きたいところだが、結論は一瞬で出た。

考えつくのは、一つしか無いからだ。

 

その考えによると、B社長はK商事と取引を始めたことを後悔している。

離れた市外にあるK商事の素性を知らないまま、契約したのだろう。

アキバ社長はそれを知って止めたが、もう遅い。

冷徹と評判のB社長でも自分から切ることはできず

取引相手に色々と要求して忠誠を誓わせるどころか、逆になりそう。

 

子分のアキバ社長は、親分のお役に立つために考えた。

そして、この名案に行き着く。

「そうだ!隣のヒロシ社とK商事を戦わせよう!」

彼は、うちとK商事の古い付き合いを知らないようだ。

 

その内容とは、K商事が納入している商品をうちが狙い

B社にサンプルを持ち込んだことにする。

獲得したばかりの仕事を奪われそうになったK商事は当然、怒る。

チャラリ〜♩抗争勃発。

夫は、アキバ兄のように連れ去られるという算段。

 

これが大ごとになれば、B社がK商事を切るもっともな理由になる。

しかし、大ごとにならなくても大丈夫。

B社長は「何も知らなかった」と言ってピカチューと夫のせいにし

今まで通りK商事と取引を続ければ、無かったことと同じだ。

むしろシロウトよりも義理を立てるK商事は

何事も無ければ良い取引先である。

 

そして夫は、アキバ兄のように使い物にならなくなって会社を去り

残るはアキバの傀儡に成り下がったピカチュー。

こうなりゃ、彼らの思い通りだ。

自分の手を汚さず、人を操って目的を遂げるという

アキバ社長の思考回路はわかっている。

 

以上のことを帰って来た夫に話したら

フフ…と笑っていたのはさておき

この仮説が事実だと証明する方法が、一つだけある

B社にサンプルを持って行く時

ピカチューが夫に同行を求めるか否かだ。

彼が一人で行けば、我々の杞憂。

普段、一緒に行動しない夫に何らかの理由をつけて

B社へ連れて行こうとすればビンゴである。

《続く》

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現場はいま…ゴーヤ騒動記・3

2024年05月30日 10時25分07秒 | シリーズ・現場はいま…

兄社長が使い物にならなくなったため

急きょ新社長に就任した現在のアキバ社長。

後になって、わざわざ反社系のT興業と組んだのは

当時の恐怖体験が作用しているのかもしれない。

すでに目をつけられてしまった身の上としては

仕事をする限り、終生小さくなって暮らすか

または、いっそのこと別の反社に近づいて

御守り代わりになってもらいつつ

似たような振る舞いで横柄に暮らすか。

この二つしか方法は無いのである。

 

御守り代わりとは、危険防止のアイテムという意味。

あの世界の方々には複雑な人間関係が存在していて

以前、同じ職場?にいた人たちが、あちこちに散らばって起業?し

本店と支店のような関係を築いているものだ。

その関係性を熟知する人物が近くにいれば

何かある前に予防できたり

何かあっても上の者同士で話をつけられる場合があるので

危険を回避できる可能性が高まるというわけ。

 

さて、仕事を増やしたいのは山々だが

F工業を敵に回したら、もしかして自分の会社が危ないかも…

それを悟ったT興業がピカチューを止めたので

アキバ計画は頓挫したかに見えた。

F工業の訪問を河野常務に止められたこともあって

ピカチューもおとなしくなり、静かな日が1週間ほど続いた。

 

けれどもその静けさは、次なるアキバ計画の前触れに過ぎなかった。

アキバ計画には、第二弾があったのだ。

「ピカチューが事務所のホワイトボードに

“B社サンプル持ち込み”いうて書いとる」

ある日、次男が私に言い、続いて帰宅した長男も同じことを言った。

 

B社…その社名が我が社の予定表に記されることは

絶対に無いはずだった。

しかもサンプル持ち込みとは、こちらの商品をB社に持って行き

品質を確認してもらうこと。

つまり、うちとB社が一緒に仕事をする可能性を示している。

息子たちはこれに違和感を感じた様子で、私も同じ気持ちだった。

 

B社のことは何年か前

『行いと運命』という記事で触れたことがある。

亡き義父アツシとB社の先代社長、B氏は若い頃からの友人だ。

 

やがて、それぞれが起業。

アツシはB社から、仕事をもらうようになった。

多くの土地を所有していたB氏は

バブル期の土地高騰をうまく利用して会社を急成長させ

アツシにとってB社は、メインの取引先となった。

その縁で、B夫妻は我々夫婦が結婚した時の媒酌人を務めた。

 

しかしやがて、ある選挙が二人を分つ。

一騎打ちの選挙でアツシは前回と同じ現職を

B氏は新人を支援することになったのだ。

仕事をあげているんだから…という理由で

B氏はアツシに寝返りを要請。

しかしアツシは頑固に拒否。

選挙結果は、B氏の支援する新人候補が勝った。

 

その翌朝、アツシはB社に呼ばれて取引停止を言い渡された。

B氏の言うことを聞かなかった報復である。

アツシの会社を切っても、B社は困らなかった。

取引停止になったその日、次の業者が納品を開始したからだ。

その業者というのが、隣のアキバ産業。

B社とアキバ産業は水面下で手を組み、選挙期間中には

すでにアツシを切る準備が整っていたのである。

 

両親はB氏の傲慢とアキバ産業のずるさを憎んだが

私はアキバ産業の方がアツシより賢かっただけだと思った。

メインの取引先を失ったのは、選挙バカのアツシの自業自得だ…。

 

しかし、アツシに成り代わって

B社と親密になったアキバ産業のその後を見るにつけ

あの選挙はB氏と決別する良い機会だったと考えを改めた。

なぜって、B氏が通勤に使う車が古くなると

相場よりかなり高い現金でアキバ産業に買い取らせ

自分は新車を買う。

そしてB氏に買わされたお古の車は、アキバの先代社長が乗るのだ。

それがB氏の求める忠誠の証であり、お小遣いであった。

 

選挙が無ければ、そのうちアツシも

B氏のお古を高く買い取って乗ることを強要されただろう。

彼の性格からして、即座に拒否するのは間違いない。

いくら仕事をもらっているからといって

高いお金を出して人の中古車を買い、それに乗るのは私だって嫌だ。

遅かれ早かれ、アツシとB氏は決別する運命だったように思う。

 

やがてB氏もアキバの先代も亡くなり

会社はそれぞれの子供に引き継がれた。

B社は私と同年代の息子が社長に就任したが

父親に倣って今のアキバ社長に同じことを強要している。

 

が、誰だって中古車に、相場より高い現金を出すのは惜しい。

会社が落ち目になってからは、死活問題だ。

そこでアキバ社長は考えた。

「別の誰かに同じことをすれば

B社長に払う現金が用意できるじゃないか」

 

人間、切羽詰まると名案が浮かぶものである。

彼がターゲットに選んだのは、スギヤマ工業の専務。

弟分ということで、B社長がアキバ社長に売りつけた古い車を

やはり相場より高い現金で買い取らせ、乗らせるのだ。

魂を売った彼らには、自分の好きな車に乗る権利さえ無い。

 

ちなみにスギヤマ工業の専務は

うちの事務員アイジンガー・ゼットの亭主。

アキバ社長もスギヤマ専務も、嬉しげにB氏のお古に乗っている。

ついでに話すと、次男がわずか1年の新婚生活を送ったアパートは

アイジンガー・ゼット夫婦の近所だと聞いていた。

次男は離婚後もそのアパートで寝起きしているが

先日、用事でそこを訪れる機会があった。

 

すると、車1台がやっと通れる道路を挟んだ真向かいに

古ぼけた平屋があり、駐車場には見覚えのある古いジープが。

次男のアパートとアイジンガー・ゼットが住んでいる

アキバ産業の社宅は本当にお向かいだったのね。

そしてその平屋は、アキバ産業が本社事務所として使用している

古い建物の裏庭にあった。

本当にアキバ産業と仲良しなのね。

 

ともあれ第二アキバ計画の開始を感知した私は

取り急ぎ、その全容究明に取りかかるのだった。

《続く》

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現場はいま…ゴーヤ騒動記・2

2024年05月28日 13時58分23秒 | シリーズ・現場はいま…

ピカチューを使ってF工業を排除し

代わりにT興業のダンプをうちへ入れる…

T興業は持ち前のコワモテを発揮して社内を揉ませ

夫や息子たちを始めとする社員を一掃、ジワジワと会社を衰退させる…

やがて、うちは消滅、アキバ産業が本社の子会社に成り代わり

T興業も安泰…

これが、アキバ計画である。

この業界で、切羽詰まっている者が考えることは皆同じなのだ。

自力での解決が困難となれば、諦めて倒産するか

あるや無しやの仁義を捨てて、誰かの食いぶちを奪うしか道は無い。

 

厳密に言えば、我々のように大手と合併する手段もあるが

これは自分から売り込んでどうにかできるものではない。

向こうが言い出してくれて初めて実現するので、レアケースだろう。

本社の物好きと河野常務の憐れみ深さによって合併に至ったが

今や競合他社が成り代わりたがる道を

十年以上前に選択した自分の判断に満足している。

 

だからアキバ計画を知っても、腹は立たない。

以前の我々と同じように大変だろうから、同情すらする。

ただ、アキバ社長は、いつも誰かとグルになる。

50も半ばを過ぎたというのに、未だに一人で勝負できないんだなぁ…

などと、若い頃から見知っている整った風貌の彼を

おぼろげに思い浮かべる程度である。

 

ともあれ、ピカチューがF工業に会うのを止めたT興業の判断は

正しかったと思う。

それは、平和のためではない。

ピカチューがF社長と会っていたら、T興業は危なかった。

 

ピカチューがアポを取りたがっている…

このことを次男から聞いたF社長は、瞬時にアキバ計画を見抜いた。

ピカチューと喧嘩した夫が辞めると言って帰った後

彼が夫の机を片付けていた…

あの“机事件”に怒り心頭のF社長だったが

その時、次男には、こうも言っていたのだ。

「うちを切ってT興業を入れるんなら、M物産の仕事、取っちゃろ」

 

M物産とは、F工業とT興業の中間に位置する大手の会社。

つまりT興業にも近いが、F工業にも近い場所にある。

そしてT興業にとってM物産は、最大の取引先。

T興業のT社長はアキバ社長と仲良しではあるものの

仕事の方はM物産がメインである。

大口で美味しい仕事なので、まずそっちを優先し

M物産から呼ばれずに余った1台か、たまに2台を

アキバ産業へ行かせているのだ。

 

太客が一本だけというのは、経営者にとって非常に怖い。

向こうの都合や気まぐれで切られたら、会社は一巻の終わりだからだ。

確実な顧客を増やしたいT興業がアキバ計画に乗るのは

当然といえば当然である。

 

その、T興業にとって命綱であるM物産の仕事を

F社長は奪うと言っているのだ。

だって今回の場合、うちへ入っているF工業の仕事を

先に取ろうとしたのはT興業。

ここで我々の業界の掟、「取ったら取り返していい」がまかり通る。

F工業にも近く、大口で美味しい仕事を振ってくれるM物産は

ぜひとも欲しいところだ。

 

F工業にとってのアキバ計画は

「うちの仕事を奪うなんざ、とんでもないヤツだ!プンプン!」

と怒って終わることではない。

M物産の仕事を正々堂々と奪える、絶好の理由になる。

そのために、うちの仕事を先にT興業に奪わせる手も

あるということだ。

 

F工業が去ってT興業が入って来たら

厄介なことになる恐れはあるものの、その期間は短いだろう。

M物産の仕事を奪われたT興業は早晩

二度目の倒産を迎えることになるからである。

 

我々の業界では、たまにこの手が使われる。

目の前にエサをぶら下げて、相手が食いつくのを待ち

エサが取られたら、報復と称して相手のエサを取るという高度な手口だ。

今回のエサは、うちということになるけど

たいしたエサでもなし、F社長の役に立つなら全然かまわない。

信頼し合う同志と仕事ができるのは

変な輩から変な計画を立てられたり、足をすくわれたりの不快を

大きく超越する喜びである。

 

エサをぶら下げて先に取らせ、報復に出る手口は

20年近く前、我々も見たことがある。

この手に引っかかったのは、他でもないアキバ産業だ。

 

当時の社長は今の社長のお兄さんで

次男の現社長は専務だった時代である。

亡き父親の後を継いで社長に就任したばかりの兄社長は張り切り

あちこちに顔を出しては、単価を下げて取引を持ちかけるという

アキバのお家芸を炸裂させていた。

 

常々申し上げているように

我々の業界にはカタギとクロウトが混在する。

この世界で生きていくならば、まず業界の歴史を学び

違いを見分ける選球眼を養うことが不可欠だ。

しかし兄社長は、チャレンジャーであった。

どこの取引先であろうと分け隔てなく、果敢にアタック。

その噂は、危険な行為として業界に広まっていた。

 

やがて兄社長のチャレンジ精神は

絶対に誰も手を出さない聖域にも及んだ。

同業者では県内で一、二を争う大手、かつ“その筋”の親玉として

戦後の復興時から業界に君臨してきた会社、K商事である。

お兄さん社長は、このK商事の取引先であるD総業へ行き

「K商事より単価を下げるので、うちと付き合って欲しい」

と申し込んだのだ。

 

するとD総業は、いとも簡単にOKした。

喜んだ兄社長は後日、契約を詰めるために再びD総業を訪問。

その時には、K商事のスリリングな方々が多勢でお待ちだった。

そう、D総業は最初から乗り換える気など無かった。

見境いの無いアホがいるということで

K商事と共に兄社長をからかったのである。

 

K商事の縄張りを荒らした兄社長はスリリングな方々に連れ去られ

スリルを味わったそうだ。

以後、兄社長はちょっとおかしくなってしまい

弟が社長を交代して現在に至っている。

《続く》

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現場はいま…ゴーヤ騒動記・1

2024年05月26日 16時37分04秒 | シリーズ・現場はいま…

我々のお目付役、ピカチューが

F工業のF社長とゴールデン・ウィーク明けに会う…

このことは前回のシリーズでお話しした。

 

改めてご説明するが、彼は隣の商売仇、アキバ産業と癒着している。

そこで、うちと一緒に仕事をするF工業との契約を切り

アキバ産業と仲良しの反社系会社

T興業を招き入れるための準備として、F社長と面談したがっていた。

酒好きの彼は契約を切る前に

F工業とT興業を天秤にかけるそぶりを見せ

F社長から酒の接待を受けるつもりでいた。

 

彼に契約を切ったり結んだり

天秤にかけて接待をさせる権限があるのか…

そう問われれば、無い。

所長から所長代理に降格した現在は、ますます無い。

しかし彼は、あると思い込んでいる。

隣とT興業、そしてうちの事務員アイジンガー・ゼットにそそのかされ

すっかり勘違いしているのだった。

 

ピカチューは連休明けの5月7日、F社長に電話をして

会う日を決めるはずだった。

しかし結論から言うと、彼がF社長に電話をかけることは無く

当然ながら二人の面会も泡と消えた。

うちの夫を辞めさせようとした件で腹を立てているF社長が

ピカチューと会ったら面白いことになると思っていたが、残念である。

期待してくださった皆様、すみませんでした。

 

さて、F社長とピカチューの面会が立ち消えた理由は二つある。

一つは、河野常務に止められたから。

 

松木氏に始まり、藤村、ピカチュー…

本社から回された歴代のお目付役は

毎日のスケジュールを入力する義務がある。

それを本社に居る河野常務がチェックするのだが

彼らお目付役は、このスケジュール入力作業が苦手。

何もわからなくて一日中ブラブラするしかないのに

毎日、何かをやるフリをしなければならないのだから

いくら嘘つきとはいえ、さすがにつらい。

しかもいい加減なことを書くと、ガンガン追求される。

彼らは、それを心底恐れていた。

 

肝の小さい者なら誰でも、この恐怖から逃れたい。

常務の叱咤は、それほど厳しいものらしい。

我ら一家は義父アツシの怒号に慣れているため

常務が優しく感じられるが、この環境が初めての者は

頭がおかしくなる級の恐ろしさのようだ。

 

そのおかしくなった頭で、やがて考えつくのは

夫を追い出して成り代わること。

子会社の責任者である夫に、スケジュールの報告義務は無い。

本社直轄の営業所長と、子会社のトップを兼任すれば

何となく忙しそうな雰囲気になり

報告義務から解放されると思うらしい。

 

夫が本社からスケジュール管理をされてないのは

取引先の管理と入荷出荷の調整を行いながら

ダンプ輸送にまつわる各種の管理をこなしつつ

重機での積込み作業をしているから。

一日中、用事があるのは明らかなため

わざわざ報告するまでもないというわけ。

 

しかし彼らには、それがわかってない。

長年の経験と勘だけで仕事をこなす夫が悠長に見え

恐怖から逃れたい一心で、夫の排除に血道を上げるようになる。

彼らお目付役がおかしくなるのには

この恐怖心も大いに影響しているのだ。

 

7日の朝も、“恐怖”が発動した。

河野常務から、ピカチューに着信だ。

「おまえ、今日の仕事は電話1本だけか!」

“F工業、F社長に電話でアポ”

ピカチューは事務所のホワイトボードに書き込んだように

スケジュール報告にも同じことを入力したらしい。

 

「F工業に何の用事ね」

「挨拶に…」

「何の挨拶ね」

「社長に挨拶がまだだったので…」

「はあ?1年も経ってからや」

「はい…向こうの都合が合えば今日、行くつもりで…」

「行かんでええ。

ガソリンと時間の無駄じゃ」

 

こうしてF工業訪問は泡と消えた。

「で、今日は何するんね」

その後、ピカチューが常務がらネチネチと突っ込まれたのは

言うまでもない。

 

F社長との面会が未遂に終わったもう一つの理由…

それはF工業を切ってT興業をうちへ入れるアキバ計画に

肝心のT興業が、待ったをかけたことである。

 

我々ギャラリーとしては

鳶(とび)職由来の伝統的任侠系、F工業と

背後が反社系組織のT興業との対決を見たいところだが

現実はもっと地味。

これはひとえに、両社の規模の違いなのだ。

かたや多角経営のかたわらダンプ数十台を所有し

県の内外に幅広い顧客を持つF工業。

かたや計画的とはいえ、一度倒産した過去を持ち

数台のダンプで細々と営業するT興業とでは

社会的信用や資金力に大きな差がある。

 

F工業を切ってT興業を入れると言ったら柔らかく聞こえるが

我々の業界でそれは、T興業がF工業に喧嘩を売るということだ。

実際に仕事を盗った盗られたに至らずとも

ピカチューがF社長と会って本題に触れた瞬間から

両社は敵同士になる。

天秤にかけられたF工業は、絶対にT興業を許さない。

業界の体面上、許してはならないのだ。

それがこの業界のワイルドな所である。

 

よその仕事を盗ろうとした時から

仕返しも邪魔もOKの長い戦いが始まり

何だかんだ言っても最終的には資金力のある方が勝って

弱い方が潰されるものだ。

仲間と夢を語っているうちは良くても

いざ実行に移すとなると、T興業がひるむのも無理は無かった。

《続く》

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手抜き料理・宅配弁当

2024年05月22日 10時19分49秒 | 手抜き料理

お風呂から上がって真っ先に顔を拭いたら、すぐ化粧水をつける…

これ、何十年も前から知っていた。

私のような乾燥肌の人には特にいいというのも知っていた。

だけどやらなかった。

理由は、浴室に化粧水を持ち込むのを忘れるから。

百回思い出して、百回忘れた。

 

絶対に忘れない方法として

最初から化粧水を1本、風呂場へ置いておく方法もあるが

それには抵抗があった。

浴室の湿気と気温で、変質の恐れがあるからだ。

さらに忘れっぽい私の場合

化粧水を浴室に置いたことすら忘れる恐れ濃厚。

 

しかし、そうも言っていられなくなった。

栄養クリームを置き薬の物に変えて以来、肌砂漠はひとまず終わったが

そうなると欲が出て、もっと潤いたくなる。

10キロ痩せた喜びと引き換えに

目の下のクマやら額のシワを入手してしまったが

そんなのは老眼が進めば無いのと同じさ。

欲しいのは触感でわかる潤いなのさ。

 

欲にかられた私は、いよいよ風呂場化粧水を実践することにした。

水もしたたる髪も身体も後回しにして

まず顔だけの水分を軽くタオルドライしたら

間髪入れず化粧水を手に取って顔にパシャパシャ。

 

結果…すごく潤ってびっくり。

風呂上がりに髪や身体を拭いたりパジャマを着たり

基礎化粧品の置いてある部屋へ移動する間も

顔は刻々と乾燥し続けている。

その前に化粧水でフタをすれば

その後のスキンケアもみずみずしく続行でき

翌日もしっかり潤って化粧のりもいい。

 

欲深い私は、なんならスキンケア御一行様を全部

浴室に持ち込んで済ませてしまおうかとも考えた。

が、これから暑くなる。

汗で流れてしまうだろうから、思い止まった。

また冬になったら、やってみようと考えている。

 

 

さて、潤いは手に入れたが、自由は未だ手に入らない私よ。

人間、一番欲しい物は手に入りにくいもの。

そうよ、実家の母に弁当を届ける習慣は、今も続いている。

この先も続くと思う。

これは、ある日の弁当。

左上からサバの生姜煮、アコウの煮付け

焼き豚と、その隣はエノキと梅干しの炒め物

お好み焼き。

 

またある日は、左から高野豆腐の煮物とナスの揚げ浸し

ミンチカツとポテトサラダ、冷凍たこ焼き

それから塩サバの焼いたの。

 

「またまた…自慢げに見せびらかしちゃって。

これのどこが手抜き料理なのよ」

と言われそうだけど、私にとっては立派な手抜き料理。

 

まず、3日か4日に一度のペースでやっているのが最大の手抜き。

実家通いを減らそうとして、一度にたくさん持って行ったら

老人のことだから、次に届くまで持たそうとするだろう。

それで食中毒になったら厄介だ。

少しは自炊もしないとボケるだろうから

だいたい2日で食べ終わる量に調節している。

 

実家は同じ市内とはいえ、車で15分かかる。

弁当を渡してすぐ帰るわけにもいかないから

なんやかんやで半日仕事になってしまう。

毎日だと息切れして続かないのはわかっているため

自分のペースを崩さない、つまり言いなりにならない決意は大事だ。

 

それから、うちの晩ごはんのおかずを午前中に作ってしまい

午後、それを詰めて持って行くシステムを確立しているので

思ったほど負担にはならない。

むしろ自分とこの晩ごはんが、すでにできているという安心感は大きく

実家へ行った帰りに、同じ町内にあるマミちゃんの洋品店に寄ったり

スーパーで買い物をして帰ったり

先月打撲したヒザのリハビリに行ったりと

やりたいことが色々とできて、午後から夕方までを有効に使える。

 

宅配弁当の品目は基本的にうちの晩ごはんのおかずだけど

他には老人が作りたがらない揚げ物や

調理に時間がかかるので絶対に作らないであろう物

買うことはほとんど無いであろう冷凍食品など

老人にはご無沙汰がちの食品を見繕って詰めている。

 

他には母が魚好きなので、息子たちの釣果の消費に貢献。

焼きゃあいい、煮りゃあいい魚料理は、ほんに早くて便利。

うちのおかずに、これら魚料理を加えて3〜4パックに増やせば

いかにもあれこれとたくさんに見えるではないか。

 

よって、人が思うほど大変ではないのだ。

親に弁当を届けていると言ったら

いかにも大層な慈善をやっているみたいに聞こえるけど

手軽にとらえて楽しくやれば、それは手抜き料理になる。

 

が、こんなにいい加減な私にも、一つ問題が。

母は時々、この宅配弁当にお金を払うと言うけど

私は自分の家のついでだし、プレッシャーになるからと受け取らない。

そこで、町内にあるカフェで奢ってくれようとする。

町外在住の料理好きで美しい奥様が

無人になった古民家を借りて道楽でやっている店よ。

値段はちょっとお高め。

 

母は、このカフェで出されるランチやスイーツが好き。

しかしそこは田舎のお婆さん、一人で入る勇気は無いので私を誘うわけ。

コーヒーが美味しいし、カフェのママさんは私の知り合いだし

それは構わないんだけどカフェのメニューがつらいのさ。

 

細くて美人って、野菜と酸っぱい物が好きみたいね。

日替わりのランチには、てんこ盛りの野菜サラダに

舌を刺すほど酸っぱい手作りのレモンドレッシングがたっぷり。

メインにも柚子ソースやら、バルサミコソースやら

ブルーベリーソースやらの酸っぱいソースがかかっていて

付け合わせの温野菜もツンツンと酸っぱい味付け。

スイーツも、レモンの登場多しの似たり寄ったり。

口内炎ができた時なんか、ちょっとした地獄だったわよ。

 

私、酸っぱい物が嫌いってわけじゃないけど

大量の生野菜に酸味のオンパレードだと

身体が冷えてお腹が痛くなっちゃうのよ。

母にもママにも言えないけどさ。

メルヘンなカフェで酸味と戦いながら

もう何百メートルか先にある和食店に思いを馳せる私。

だから弁当を届ける時は、カフェの定休日に合わせるよう努力している。

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それから…

2024年05月13日 10時07分38秒 | みりこんぐらし

4月の始め、性懲りもなくお寺料理をした数日後…

私は転んで病院通いになった。

近年では、これが一番ショックだったかも。

 

トシだから転んだのではない。

例のごとく、義母ヨシコによる悪意なき人災。

この人には危険予知能力が欠落しているため

突然とんでもないことをやらかし

私を含めた家族は、時たま被害に遭うのだ。

 

今回の怪我は、家で起きた。

実家の母に料理を届け、帰りに買い物をした私は

両手に重たい荷物をぶら下げて車から降り

ガレージの出入り口になっている金属製の引き戸を開けた。

そして玄関に一歩踏み出した途端、バタッと転んだのだ。

引き戸の足元に、高さ40センチほどの

やはり金属製のバリケードが置いてあったからである。

 

このバリケードは数年前まで、飼い犬パピのために使っていた。

彼が引き戸の隙間から、外へ出ないようにする目的だ。

しかし近年の彼は肥満著しく

隙間を通り抜けるのは不可能となったので

ガレージの隅に放置したまま、存在すら忘れていた。

それをわざわざ引っ張り出し、まさか設置していようとは。

急に思い立って無駄なことを行い、人に危害を与える…

それがヨシコである。

 

出かけた時には無かった物が、帰った時にはあることを

全く予測してなかった私は

パンチを受けたボクサーのごとく横倒しになった。

両手に下げた荷物で足元が見えなかったのもあり

無防備のまま、絵に描いたような転び方をしたのである。

 

倒れた先には、高さ50センチほどの陶器の水瓶があった。

どこでどうなったのか、転んだ私の頭の横で割れ

中に入っていた雨水まで被る羽目になったものの

石のタイルでヒザを強く打ったらしく、痛くて動けない。

 

「こりゃ、折れたわ…」

救急車を呼ぶため、バッグから携帯を取り出そうと

投げ出された荷物の方へ身をよじったが

荷物の中で一番軽いバッグは手の届かない所に飛んでいる。

這って取りに行こうとしたら…あらら、立ち上がれたわ。

骨折してなかったみたい。

 

何とか歩けたので家の中へ入り

この時ばかりはヨシコに怒りをぶつけた。

「ちょっと!何でバリケードするんよ!コケたじゃんか!」

寝転んでテレビを見ていたヨシコ、ゆっくり振り向いて

「はあ〜?」

すでに事実を認識していながら、トボけている微笑み。

そりゃそうだろう、玄関のドアは開いていた。

いくら耳が遠くても、私の悲鳴や水瓶の割れる音は聞こえていたはずだ。

腹立つわ〜。

 

「遊びよるモンが、働いとるモンを怪我さしてどうするんよ!」

「知らんわいね、そんなこと!」

しばらく言い合ったが、やがてヨシコ得意のこのセリフ。

「まるで私が悪いみたいじゃないの!

私が気にするが!」

 

冗談で言っているのではない。

本気だ。

一言謝りゃあ済むものを、いつもこれで周囲を呆れさせて終了。

「私が気にするが!」

人と口論になった時は、試しに言ってみるといい。

あまりの自己中に、たいていの相手は言葉を失う。

 

私の左ヒザは腫れあがり、歩行困難な身の上となった。

それから毎日、通院だ。

腫れは数日で引き、痛みも無くなったが

怒りがおさまらないので、これ見よがしに毎日通って1ヶ月…

今はもう何ともない。

 

さて、通院している間に、世間では物騒なことが起こったではないか。

栃木県那須町の、夫婦遺体損壊事件。

次から次へ半グレのヤカラが登場し、別世界の出来事のように思えた。

首謀者が夫婦の娘の内縁の夫、つまり身内と判明してからは

さらに大騒ぎ。

 

でもあれ、私に言わせれば、起こるべくして起きた事件。

娘婿と一緒に仕事するって、周りが想像する以上にストレスがかかるのよ。

ダメオだったら腹が立つし、デキればデキたでシャクにさわる。

娘婿の方も、最初は気に入られようと一生懸命頑張るけど

結局、義理親が自分に求めているのは従順のみであり

生かさず◯さずコントロールしたがっているのがわかってくると

だんだん嫌になってくる。

 

特に被害者夫婦は、女の子二人の親。

語弊を承知で言えば、男の子の扱いを知らないので

娘と同じく娘婿にも従順を求めてしまう傾向が強い。

そして意に沿わなければ…意に沿わないことが多いんだけど…

パシリとしてぞんざいに扱うようになる。

 

娘婿が、これに甘んじれば平和だ。

しかし男の子はプライドが高いので、辛い日々となる。

実家の父も、忍の一字で耐えていたものだ。

よく祖父を◯さなかったと思う。

一般人だろうと半グレだろうと、この気持ちは同じだろう。

 

うちらの業界にも、こういうケースはよくある。

男社会なので、女の子だけの家は娘婿に登板してもらうことになるのだ。

しかしうまく行くケースは少なく、辞めて別の仕事に就くか

離婚する人の方が多い。

娘婿と一緒に仕事をする人は、扱いに気をつけた方がいいと思う。

 

そうそ、離婚で思い出したけど、この1ヶ月の間に次男が離婚。

初めての結婚記念日に離婚届けを出すという、ふざけたことをやったわ。

夫と私が証人の署名をしたけど

離婚届けの用紙って縁取りの緑色が、昔よりくすんだ色になってた。

私、人の離婚シーンには何回も立ち会って署名してるのよ。

婚姻届けもだけど、離婚届けもやっぱり印鑑はいらなかったわ。

ちなみに婚姻届けの茶色の縁取りは、昔よりピンクがかってた。

 

離婚の理由?

簡単に言えば次男の給料より

お嫁さんのカードの支払いの方が多かったということかしら。

結婚前から、長いこと持ち越していたみたい。

 

一応、たずねてはみた。

「カードの借金を綺麗にしてあげたら、結婚を続けられる?」

でも次男が聞かんかった。

お金じゃなく信頼の問題だって。

 

人一倍質素だったから、そっちの癖は全然わからなかったのよ。

ブランド物や服の借金ならわかるけど

身体の弱い両親の看病で職を転々としてきて

無職の期間に生活費をカードで賄っていたのが積もり積もったらしいわ。

実家は私らより裕福そうなのに、どうしても親には言えなかったみたい。

 

明るい子だけど、結婚当初からそういった家族関係に

闇を感じてたのは確か。

だから続かないと思い、近所や親戚に挨拶回りはしなかった。

それが今となっては、安堵につながっている。

 

彼らも我々家族も、サバサバしたものよ。

お祝いを言ってくださった皆様、申し訳ありませんが

こういうことになりましたので、悪しからず。

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手抜き料理・久々の寺

2024年05月12日 15時13分54秒 | 手抜き料理

会社のことをお話ししているうちに、1ヶ月が経ってしまった。

その間、家でも色々なことがあったので

お話ししたいと思う。

 

とりあえずは4月の始め、同級生ユリちゃんの実家のお寺で

久しぶりに料理をしたことをお話ししたい。

この日はお花見と銘打って、招集がかかった。

 

お花見の料理は去年も作った。

ユリちゃんの身内と仲良しさんだけのために働いた私とマミちゃんは

忸怩たる思いを抱えつつ何とかやり過ごし

「来年はもうやるまい」

と言い合ったが、敵もさるもの…

今年は「主人のため」と、コンセプトを変更してきた。

ユリちゃんのご主人モクネン君は去年の2月

心不全で倒れて生死の境をさまよった。

その後、復活は遂げたものの、今年に入ってから

また元気が無くなってきたという。

 

「みんなで楽しく食事をしたら、元気が出ると思うの」

彼女は電話でそう言った。

人の旦那なんか知るか…と思ったが、もはやユリちゃんは

我々料理番が彼女のために動かないと悟ったらしい。

だから目的を変えてきたのだ。

 

その努力に免じ、そして6月に迫ったお祭料理のウォーミングアップとして

私は承諾した。

マミちゃんとモンちゃんに出欠をたずねると

マミちゃんはやると言い、モンちゃんは年度始めなので

去年と同じく欠席すると言った。

 

その後、ユリちゃんとの連絡で

もう一人の料理番、梶田さんも来ると聞いた。

梶田さんにはこのところ、嫁ぎ先のモクネン寺で

何度も料理を作ってもらっているという。

お花見は、その慰労も兼ねたいそうだ。

 

そうはいくか…

来るんなら働いてもらうぞ…

ということで

「梶田さんに、おむすびだけ作って来てと伝えて」

と言った。

モンちゃんがいないため、おむすびまで手が回らない…

と言ったら聞こえはいいけど

米を研いだりおむすびにするのが、かったるいのだ。

梶田さんは親切なので、二つ返事で引き受けてくれるはず。

 

こうして我々も含め、総勢8人のお花見と元気付けと慰労の会は

当日を迎えた。

お寺で作業を開始したが

本当に去年の秋だか冬だか以来の久しぶりなので

カンが鈍っているのがわかる。

いいもんね〜。

量が少なければ我慢してもらい、時間に遅れれば待ってもらい

無償の奉仕は年相応。

マミちゃんと私はそう決めたのだ。

 

この日のメインは

『マミちゃん作・ビーフシチュー』

缶詰のブラウンソースを使うと簡単だそう。

 

『マミちゃん作・春キャベツ入りのペペロンチーノ』

 

『みりこん作・関西風お好み焼き』

夏祭りのメニューにどうかと思い、試験的に作ってみたけど

キャベツを荒みじんに切るのと、焼くのに時間がかかるのでボツ。

 

『大葉とチーズ入り味噌カツ』

これも夏祭りにどうかと思って作ってみた。

豚肉はショウガ焼き用の薄切りを2枚使い

間に大葉と溶けるチーズを挟んで揚げる。

 

チーズは、マミちゃんの提案でシブシブ挟んだ。

手間だったわりには、チーズの存在が豚にかき消され

大葉の香りはチーズでかき消されていたので不要と思った。

ソースは田楽用の味噌を買って胡麻をぶち込み、かけただけ。

こっちはお祭り料理として、まあまあイケそう。

ただしチーズは却下。

 

『みりこん作・スズキの刺身』

前日、息子が釣ってきたので、お寺で刺身にした。

 

『みりこん作・スズキのバターソテー』

刺身の余りに塩コショウと小麦粉をまぶして焼いただけ。

仕上げに醤油。

 

 

『梶田さん作・ルーロー飯』

ルーロー飯て、どこか暑そうな国の煮豚ぶっかけ飯のこと。

頼んだのはおむすびのはずだけど、こうなっていた。

ユリちゃん夫婦は梶田さんのルーロー飯が大好物なので

作ることになったようだ。

 

八角の香りが強烈で、私はちょっと苦手かも。

白っぽい長方形の物は豚じゃなくて厚揚げ。

豚肉も近頃は高い。

梶田さんは材料費をもらわない主義なので

少ない豚肉に厚揚げでカサ増ししたそう。

私は代用品を使うくらいならレパートリーから除外するタイプだけど

梶田さんは豊富なアイデアで突き進むタイプ。

 

梶田さんはデザートに

チーズケーキとパンナコッタも作ってくれていた。

「豊かな食卓でした!まんぷくぷく!」

ユリちゃんの口癖。

じゃかましいわ!

さあ、来月のお祭り料理、手抜きで頑張るぞ。

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現場はいま…ピカチューの乱・11

2024年05月04日 16時50分03秒 | シリーズ・現場はいま…

酔ったピカチューが、次男に電話をかけてから約1ヶ月。

当事者の次男はもとより

長男も、父親と弟が受けた仕打ちに怒り狂っていたが

第三者のF社長が介入したことによって落ち着いた。

 

私も悟っているわけではないが

彼らは私以上に、まだ人間がわかってないため

狂った凡人がいかに厄介な存在かを知らない。

ピカチューの狂気を正面から受け止め

彼らが暴言や暴力に及ぶと損なので

その兆候が無くなったことにホッとしている。

 

同時に私の持論、“共通の敵は結束を深める”に沿って

兄弟二人が団結するようになったのは非常にありがたい。

会社のことはどうにかなるが、兄弟仲だけは

親が何を言おうとどうにもならないので

むしろピカチューに礼を言いたいくらいだ。

 

夫は感情を口に出さないので、怒りの度合いがわからない。

だから先日、たずねてみた。

「松木氏と藤村とピカチューの中で、一番厄介なのは誰?」

夫は間髪入れず断言した。

「ピカチュー」

だとよ。

 

松木氏と藤村は夫とあまり口をきかず

自分の思い通りにやって自分でコケていた。

しかしピカチューは、どんな小さなことにも食いつき

根掘り葉掘り聞きたがる。

それがアキバ社長の命令であることは察しがついているが

しつこくて鬱陶しいそうだ。

 

そんな彼を夫は、「どちて坊や」と呼んでいる。

どちて坊やとは、一休さんのアニメに登場したキャラクター。

何でも「どちて?どちて?」と大人につきまとって聞きたがる

鬱陶しい幼児である。

 

 

こうしてピカチューの乱は、我々の中では終わろうとしている。

また面白い動きがあればご報告することにして

思い返せば夫を排除して自分が成り代わろうとした者は

松木氏や藤村、ピカチューだけではない。

トップバッターは、夫の姉カンジワ・ルイーゼだ。

 

彼女の野望はただ一つ、父親の後を継ぐ女社長。

シチュエーションは違えど告げ口、罠、嘘など

松木氏、藤村、ピカチューとそっくりなやり口は

義父の会社が危なくなるまで30年近く続いた。

 

暗黒の30年は、長かった。

それに比べれば松木氏、藤村、ピカチューのトリオなんて

どうってことない。

身内より他人の方が気楽だ。

家じゃ顔を合わせなくて済むし、夫も彼らもトシなので先が見えている。

 

そして夫とルイーゼの争いは血を分けた姉弟ゆえの

どうしようもない問題と思っていたが

他人でも同じだったとわかり、気が楽になった。

自分が座りたい椅子に何の努力もしないで座る夫が

目障りになるという、単純明快な話だったのだ。

 

ルイーゼに始まり、松木氏、藤村、再び松木氏

そしてピカチューと、4人のリレーはほぼ途切れることが無かった。

どうしてこうも次々と、夫を邪魔にする人間が現れるのか。

そういう人を4人見てきた私には

人の野心を刺激する素質が夫にあるとしか思えない。

誰でも持っている欲が、夫に近づくことで刺激され

そこに暇が加わると、野心が一気に開花するのではなかろうか。

 

だって夫を見ていると、「これじゃあな…」と思うことが満載。

はっきり言えば“落ち度の帝王”、それが彼である。

趣味のバドミントンで出会ったブサイクに騙され

事務員として会社に入れたら商売仇の愛人だったところなど

落ち度の帝王ぶりを象徴しているではないか。

のほほんとしている夫を見ていたら

簡単に交代できるような気がするだろうし

むしろ自分が交代した方がいいんじゃないかと

思ってしまうのだろう。

 

しかし、夫と交代したい人々を観察した場合

「こいつでは絶対無理」と断言できるのも事実。

夫が陰で、それほど高度な仕事をしているというわけではない。

創業者直系の男子でなければ、業界で相手にされない…

それだけ。

その身の上に甘える落ち度の帝王と

業界の掟を覆したい身の程知らず…

この二者によって、会社のゴタゴタは織りなされていくのである。

 

ところでF社長との面会を連休明けに控え

上機嫌だったピカチュー。

自分とこの裏山で採れたタケノコを何本か持って来て

得意げだったという。

運転手のヒロミとアイジンガー・ゼットが持ち帰ったそうだが

現物を見た息子たちに言わせると

「あれはタケノコじゃなくて、竹!」

だそう。

 

ピカチューがくれるといったら、そんなものだ。

昨年の着任直後、自分の作っている米を買って欲しいと言い出したが

誰も買わなかったので、気の毒になった次男が30キロ買った。

自分が米を買うことで、新しく来たピカチューとのコミュニケーションが

円滑になれば、と思ったのだ。

 

翌日、ピカチューは米と一緒に

お礼だと言って玉ねぎを5個、持って来た。

可愛いとこ、あるじゃん…と思ったのも束の間

ポリ袋に入れられた玉ねぎは、5個全部が腐っていて異臭を放った。

米は不味かった。

 

うがった考えの好きな私は、思うのだ。

ちょっと親切にしてやると、それを逆手に取る人間がいる。

自分の言うことをきく子分だと思ってしまう、危ないヤツだ。

ピカチューは、その人種だったのかもしれないと。

 

そのピカチュー、5月に入ってから急に元気が無くなったらしい。

94才のお母さんが◯にそうなんだって。

「心臓が弱っているので

いつでも連絡が取れるようにしておいてください」

病院からそう言われたと、涙目で夫に話したそう。

敵に泣き言を言う、それもピカチューなのだ。

 

「94才なら、もうええじゃないか」

夫は答えたそうだが、ここで私の指導が入る。

「“そういう話は事務員か隣に聞いてもらえ”

って、ついでに言うんよ」

「わかった、次はそうする」

夫は言ったが、次があるかどうかは定かでない。

《完》

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現場はいま…ピカチューの乱・10

2024年04月29日 08時50分28秒 | シリーズ・現場はいま…

アキバ社長とT社長、そしてピカチュー…

三者の利益が一致しそうな新しい作戦を予測し

待ち構えていた先日、F社長から次男に電話があった。

「板野に会わん言うたけど、やっぱり会うことにしたけん」

彼は続ける。

「昨日、岩倉から詳しい話を聞いた。

あいつ、親父さん(夫のこと)の机を片付けとったそうじゃないか」

 

岩倉というのはF工業の運転手で、F社長の腹心。

彼はその前日、うちへ仕事に入ったが、わりと暇な日だったので

夫と話をしたらしい。

その会話の中で、夫が机のことをしゃべったという。

机のこととは

ピカチューとの口論で辞めると言い出した夫が

月曜日に出社したら、自分の机が片付けられていた件だ。

 

その時の夫は、あんまり気にしてない様子に見えた。

しかし、無口な夫がわざわざ岩倉君に話したところをみると

本当はショックだったみたい。

そして岩倉君も、会社に帰って社長に話したぐらいだから

机の件を重大事項ととらえたのだろう。

 

「ワシはこういうことが、いっちゃん好かんのよ。

親父さんで持っとる会社いうのが、何でわからんのかのぅ。

昨日の晩は腹が立って寝られんかった。

板野と会うて、礼儀教えとうなったわ」

ピカチューとの面会を断り続けていたF社長だが

机事件の話を聞いた途端、彼に会いたくなったのだ。

 

今回のことで私が一番腹を立てたのが、この机事件だった。

辞める者の机を片付けて何が悪い…

人が聞いたらこれで済む。

もちろん罪にはならないし、几帳面だと思われるかもしれない。

が、実際にやられた者にしかわからない、この悔しさ、無念。

巧妙な軽作業から滲み出る女々しさや卑怯は

怒りを通り越して寒気がする。

相手の心にうごめく激しい嫉妬が、強い不快感をもたらすのだ。

 

F社長も同じ感覚を持ち合わせているとなると

彼にも似たような体験があるのかもしれない。

気持ちをわかってくれる人がいて、胸がすいた。

 

F社長はなおも続ける。

「あいつがワシに会いたがる、いうたら配車のことに決まっとる。

うちを切ってK興業を入れたいんじゃろ。

その前にK興業と天秤かけるフリして、接待して欲しいんじゃ。

話は一応聞いてやるけど、死に金は使いとうないけん

接待はせんよ」

F社長も我々と同じことを考えたらしい。

 

「酒乱ですから、飲まさんでええです。

生意気なこと言うたら、好きにしてください」

次男は言った。

「どうなっても、許せの」

「全てお任せします」

 

ということで、F社長はピカチューと連休明けに会うこととなった。

彼は以前、山陰の仕事で永井営業部長に迷惑をかけられ

立て替えたお金も踏み倒されたが、逃げ回る永井部長を哀れに思い

その時は矛を収めた。

しかし今回、またもやF社長を巻き込んだのだから

眠れる獅子を起こしたも同様。

それらの怒りもピカチューに向けられるのは、決定事項だ。

彼にお任せしておこう。

 

 

さて、F社長に会えるのがよっぽど嬉しかったのか

ピカチューはその翌日、一度は諦めたアキバ産業との共同仕入れの件を

退院直後の河野常務に提案した。

ただし、共同仕入れなんてのをダイレクトに伝えたら

激怒されるのは必至なので、今回は内容を少し修正してきた。

 

その内容とは…

うちとアキバ産業が共通して扱っている数種類の商品の中で

1種類だけをアキバ産業の分も一緒に仕入れてもらえないか…

船から揚げた商品は、そちらの敷地へ一緒に置いてもらい

商品の運搬は各社がそれぞれ行う…

商品を置かせてもらう形になるアキバ産業は

月々の場所代をうちへ支払う…。

 

つまり「場所代を払うから、一緒に仕入れてよ。

運ぶのは自分でやるからさ」と言いながら

アキバ産業やK興業が、うちへ自由に出入りできる基盤を作る…

共同仕入れと配車をさりげなくミックスしつつ、いささかソフトに変えた案だ。

ピカチューにそんな知恵は無いので、あとの二人が考えたと思う。

 

が、努力もむなしく、ピカチューは常務に怒られた。

「場所代がナンボのもんじゃ!ちったぁ算数の勉強せえ!

何で隣の分まで仕入れてやらんにゃいけんのね!

ダンプだらけになるじゃないか!

おまえが交通整理するんか!」

この話を教えてくれたのは、常務の甥。

彼は息子たちの釣り仲間。

伯父さんのコネで、本社勤務をしている。

 

ともあれアキバ一味のアイデアには、残念ながら穴がある。

彼らだけに都合が良く、こちらにはメリットが無いからである。

わずかな場所代と引き換えに、隣の仕入れまで引き受けたら

こっちはいい笑いものだ。

しかも、うちとアキバ産業が同じような仕入れ値なら

このような案は出てこない。

うちの方がずいぶん安く仕入れていると知っているから

差額で場所代を払うと言い出せるのだ。

 

うちがアキバ産業より安く仕入れられるのは、当たり前である。

アキバ産業は自社の分だけを仕入れているが

こちらは本社の傘下である多くのグループ会社の中から

同じ商品が必要な支社の分をまとめて大量に仕入れる。

しかも支払いが早くて確実となれば

業者は末永く付き合いたいので値を下げるというわけだ。

 

その安い仕入れ値には、常務の交渉術が少なからず影響している。

中でもアキバ産業が一緒に仕入れて欲しいと言った商品は

比較的、燃料費のかかる取引先に納入するので

利幅を取るために値を叩きまくった。

 

そうして仕入れた大事な商品を

いとも簡単に一緒に仕入れて欲しいと言えるのはなぜか。

こちらの仕入れ値を知っているからではないか。

常務は必ず、それに気づくだろう。

彼はアイジンガー・ゼットの裏を知らないので

ピカチューを疑うはずだ。

そっちは常務にお任せしておこう。

 

《続く》

コメント (6)
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