殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

食の攻防

2019年01月29日 07時04分30秒 | みりこん胃袋物語
我ら同級生は2週間後に迫った還暦旅行に向けて

現在、準備に余念がない。

同窓会で会計係をやっている私も、例外ではない。


先週末、同級生のルリコが経営する店で最後の打ち合わせが行われ

地元在住の13人が集まった。

ルリコの店を使うのは、約1年ぶり。

年末に亡くなったみーちゃんの弟、まーちゃんの店が断然安くておいしいため

会合はしばらくの間、そちらで開かれていた。

ちなみに会合の場所を決めるのは会長なので、私は関知しない。


つくづく思うが、食べ物屋さんというのは

店主が何を食べて育ったかで差が出るものだ。

吟味された料理の数々に、とびきりおいしいヒレステーキが一人1枚付いて

ルリコの店より総額2万円以上安いとなると、参加者の足取りは軽い。


最初は姉の同級生だから、まーちゃんがサービスしてくれていると思った。

その心意気も確かにある様子だが、それだけではないようだ。

なぜなら、いつ行ってもお客でいっぱい。

人口減少、高齢化がお約束の田舎町において

なかなかお目にかかれない若者も、ここで発見できる。


飲み会の大好きなルリコだが

まーちゃんの店で行われる会合にはことごとく来なかった。

気持ちはわかる。

自分の店は使ってくれず、よその店を使う同級生の措置が

面白いはずがない。


しかし、これではいけないと思ったのか

12月の始めにあった会合には珍しく参加。

「たまにはよその店で食べて、少しは勉強すりゃええんじゃ‥」

我々女子一同は、密かにそう言い合った。


はたして、ルリコに限っては参加の成果があった。

旅行前の最終打ち合わせをする会場は、その場でルリコの店に決まる。

彼女を前にしながら「次回もここで」とは

会長も言いにくかったらしい。


こうして久方ぶりにルリコの店へ集まった、地元メンバー。

男子の思いは知らないが、我々女子は行く前からやる気ゼロ。

小汚い店でまずい物を食べさせられ

勘定だけはいっぱしにふんだくられるのがわかっているので

着る物もいい加減だ。


その日は寒波が訪れていた。

店に足を踏み入れた途端、帰りたくなる。

酷寒。

安普請のルリコの店は床がコンクリートのため

ただでさえ冷えるのに暖房が入ってない。

いつもこうだ。

並べた料理が傷むという理由になっているが

暖房だけでなく、照明も最初のお客が来てから点灯されるので

節約と思われる。


テーブルには鍋がデン。

その周りには、所狭しと小鉢があれこれ。

前回行った、まーちゃんの店を意識したメニューであることは間違いない。

しかし器は裏の民宿で使われるダサい安物や、何かの景品。

相変わらずのひなびた光景だ。


お好み焼きを焼く鉄板には、ビニールカバーが掛けてある。

鉄板を使う気はさらさら無いという、ルリコの意思表示だ。

マズい料理から目をそらしつつ、店内を暖める目的もあって

お好み焼きを食べようという我々の魂胆はかき消えた。

ガックリとうなだれる女子一同。


付き出しはお決まりの冷凍枝豆が3房、買った卵焼きのスライス1枚。

他には冷凍タコと玉ねぎのマリネ、冷凍アサリと青菜のオリーブオイル和え

冷凍エビとアボカドのマヨネーズ和え

真空パックから出した、ローストビーフのコマ切れが一人1枚

サニーレタスとブロッコリーの目立つ大皿には

冷凍イカゲソと冷凍豚トロの天ぷらがチョロチョロ。

鍋には冷凍すり身団子と、冷凍鶏のブツ切りが入浴中。

本日は冷凍スペシャルだ。


そこへメンバーのエイジが、遅れてやって来た。

手にした一升瓶は、ネットで買った酒だそう。

「みんなで飲もうぜ!」

持ち込みに、ルリコは文句が言えない。

エイジはルリコの親戚である。


エイジの日本酒は「作(さく)」とかいう名前だったと思うが

フルーティーでおいしかったため、一同はそっちばかりを飲む。

酒が出ないので、ルリコは焦ったのか

「みりこんちゃんのために、ワインを用意していたのよ」

と言い出した。

料理がイマイチのために盛り上がらない宴もたけなわを過ぎ

お開きと勘定のタイミングを見計らっている頃なので、今さら感が漂う。


「お!ワイン!ええのぅ!」

断ろうとした私より先に、男子の誰かが言う。

チッと思ったが、ルリコはいそいそとワインボトルを持って来た。

赤も白も、コルク栓じゃない。

ひねって開封するタイプ。

この安ワインが、勘定の時には何千円にもなるのだ。


ワイングラスは20年ぐらい前、キリンレモンの景品だったやつ。

持つ所に、ガラスのミッキーマウスが付いている。

ため息が漏れてしまう女子一同。


ところで、ここでも小室圭氏の話題になった。

彼の公開した文書に、非難ごうごうだ。

「あれで通ると思うたんじゃろか」

「国民をバカにしとる」

今回の件は、興味の無かった者にもインパクトが強かったらしい。


私の皇室好きは知られているため、意見を求められる。

しかし圭氏が現れた頃、私が「ロクでもないやつ」と言ったら

「何で?きちんとしてるじゃん」と反論し

「今に大ごとになる」と言ったら

「皇室にそんなこと、起こるわけない」とせせら笑ったやつらだ。

真面目に取り組む気は無く、「今後が楽しみ」とだけ言った。


小室問題に限らず、どんなことでも不安や心配を煽れば

週刊誌は部数が伸びるし、テレビは視聴率が上がる。

だから報道は信用しない。

庶民がワーワー騒いだって、あのおうちの皆様は

結局ご自分たちの思う通りになさるのだ。

それが、どなたの“思う通り”となるのかを見届けたいと思っている。


こうしている間にも、ルリコのラストスパートは続く。

「ロールケーキがあるんだけど食べない?」

「コーヒーは?果物はどう?」

酒が売れないとなると、ターゲットを女子に絞ってスイーツ系に路線変更。

が、時すでに遅し。

皆の食は進まず、雪がちらつき始めたので、かなり早めのお開きとなった。


勘定は5万円ちょっと。

やったわ!いつもより3万円安い!

大喜びで帰途についた。

しかし翌朝、その代償が訪れる。

珍しく二日酔いだ。

安ワインがいけなかったらしい。
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言葉尻をとる

2019年01月23日 07時04分01秒 | みりこんばばの時事
昨日発表された、小室圭さんの文書。
宮内庁に内緒のゲリラ公開だったそうよ。
私には人様のお書きになった文章をどうこう言う学も教養もないけど
これで文書として通用すると思っているなら
もはや変としか言いようがないわ。
小僧の世迷言にしか見えないのは、やっぱり私が腐ってるからかしら。
黒字は原文、緑字は私の独り言よ。




いつも温かいご厚情を賜り、御礼を申し上げます。
私小室圭の母とその元婚約者の方との過去の関係について
一昨年からご心配をおかけしており、たいへん申し訳ありません。

出足から大きなズレ。
国民が心配しているのは、ママと昔のオトコの関係じゃない。
圭さん、あんたの頭と心よ。



これまでに多くの報道があったことについては承知しておりますし
私がこの問題について明確なご説明を差し上げてこなかったことで
多くの方々にご迷惑をおかけする結果になってしまったことを
たいへん心苦しく感じています。
元婚約者の方との関係について母に代わってご説明したいと考え
このような方法をとらせていただきました。

だ〜か〜ら〜、関係の説明はいりませんってば。
ママがオトコからお金をふんだくったって、みんなわかってるわよ。
明確な説明が必要なのは、そういう小汚い関係についてじゃないのよ。
次々と週刊誌に暴露されてもヘラヘラし続けて
あげくはさっさと留学しちゃった、その神経についてよ。



私の母と元婚約者の方は、平成22年9月に婚約し
結婚生活を始める準備をしていました。
母の再婚については私も嬉しく思いましたし
私自身も元婚約者の方とはとても親しくさせていただきました。

若い男の子が母親の再婚を喜ぶって
かなりのレアケースだと思うわ。
年相応の男の子なら、母親も一人の女だと思い知って
内心では葛藤するもんじゃないかしら。
物分かりが良過ぎるわ。
損得勘定か、それとも幼児から成長してないのか、どっちかね。



婚約期間中、元婚約者の方から金銭的な支援を受けたこともあります。
当時、母も私も元婚約者の方とは既に家族のようにお付き合いしており
ご厚意にたいへん感謝しておりました。

さあ、おいでなすった。
「金銭的な支援を受けたこともあります」
金銭の授受や援助でなく、支援。
お金をもらったことを支援と呼んで、ベールをかけてる。
援助交際なんていう言葉が周知されているから
援助だと聞こえが悪いわけよ。
この手の文書では、よく使用される手法ね。

次に「受けたこともあります」の「も」にも注目だわ。
「も」は逃げなのよ。
この「も」が入ることによって、さりげなく問題をすり替え。
金銭授受は、たまに起きたオマケのようなものだと伝達したい。
圭さんに誠意があるなら
「数回に渡って金銭援助を受けたことがあります」
になると思うわ。



平成24年9月、元婚約者の方から母に対して
婚約を解消したいというお申し入れがありました。
母は、突然の一方的な申し入れであり、また婚約を解消したい理由について
明確なご説明をしていただけなかったことから
憔悴した様子を見せていましたが
最終的には元婚約者の方のお気持ちは変わらないと理解し
お申し入れを受け入れました。

出たわ、四行目に注目。
「明確なご説明をしていただけなかったことから」
この文書の最初のほうを思い出して。
「私がこの問題について明確なご説明を差し上げてこなかったことで
多くの方々にご迷惑をおかけする結果になってしまったことを
たいへん心苦しく感じています」
明確な説明をしてないことで自分は責められているけど
そもそも明確な説明を最初に怠ったのは元婚約者だと
さりげな〜く責任転嫁。
この文書を読んだ人がモヤモヤするのは、こういう所なのよ。



その際に母が婚約期間中に受けた支援については
清算させていただきたいとお伝えしたところ
元婚約者の方から「返してもらうつもりはなかった」
という明確なご説明がありました。
支援や慰謝料の点を含めて金銭的な問題は
すべて解決済みであることを二人は確認したのです。

ほら、また出た、「明確なご説明」。
今度は自分たちに都合のいい内容だから、説明があったと言ってるけど
「明確」にこだわってるのは確かね。

でも肝心なのは「返してもらうつもりはなかった」よ。
「なかった」‥過去形なのよ。
明確なご説明だったのであれば
「返してもらうつもりはない」が普通じゃないかしら。
「なかった」は、何かの言葉の後に付けるものよ。
「当時は」とか、「別れるまでは」とかね。
怪文書なんかもそうだけど、胡散臭い文書って
過去、現在、未来がごっちゃになってるものが多いのよ。


クライマックスはここね。
「すべて解決済みであることを二人は確認したのです」
人数だけで、誰と誰が解決済みであることを確認したのかをボカして
「明確なご説明」は無し。
「二人」というのは元婚約者とママなのか、圭さんとママなのか。
当面は、この「二人」というのを元婚約者とママということにしたい。
でも元婚約者が異議を唱えた場合、「二人」は圭さんとママに変えられる。
状況次第で、どっちにも転べるようにしてるのよ。
胡散臭い文書には付き物の印象操作だわ。



実際に婚約解消後しばらくの間は、私や母が元婚約者の方から
金銭の返還を求められることはありませんでした。
ところが、婚約を解消して1年ほど経った平成25年8月ころ
母は元婚約者の方から交際していた期間に負担した費用の
返済を求めるお手紙を受け取りました。

ほほう、「ところが」ときた。
突然の請求に、当惑する母子の図を強調。
あくまで自分たちは悪くない、元婚約者が悪い。


婚約解消時の確認事項に反する突然の要求に驚いた母は
専門家に相談してアドバイスを受けるとともに
元婚約者の方と直接お目にかかって、ご要望には応じかねることと
その理由をお伝えしました。

母の話を聞いた元婚約者の方からは、私も専門家に相談して
何かあればこちらから連絡しますという反応がありましたが
連絡が入ることはありませんでした。
その後はご近所にお住まいだった元婚約者の方と
自宅周辺で偶然お会いすることもありましたが
金銭の話題が出たことはありませんでした。

丁寧な言葉を使っているように見えるけど
「お返事をいただきました」でなく「反応がありました」。
物扱いよ。
圭さんの本心がよくわかるわね。
合間で偶然出会っても、請求はされなかったと付け加えて
それとなく元婚約者の落ち度を強調。



私の母と元婚約者の方との過去の関係は以上のとおりです。

多くの報道において借金トラブルが残っているとされていますが
このような経緯ですから母も私も元婚約者の方からの支援については
解決済みの事柄であると理解してまいりました。
そのため、平成29年12月から元婚約者の方のコメントだとされるものが
連日報道される事態となり、私も母もたいへん困惑いたしました。
元婚約者の方のご意向を測りかねたからです。

彼ら母子の生きる指針がよくわかる一節。
「たいへん困惑」で被害者になりきり
「ご意向を測りかねた」で、おかしいのは相手のほうだと
主張して終わる手法が手慣れてるわ。
このやり方で、今まで生きてきたのね。


報道されている問題に関する母と私の認識は以上のとおりですが
私も母も元婚約者の方からご支援を受けたことには
今も感謝しておりますので
今後は元婚約者の方からご理解を得ることができるよう
努めたいと考えております。

あくまで自分たちの一方的な「認識」。
その一方的な認識を元婚約者にも理解してもらいたいと考えるのを
身勝手と呼ぶんだけど、わからないみたいね。
国民が聞きたいのは「努めたい」という希望的観測じゃなくて
どうやって理解してもらうのかという具体案なんだけど
そこはボカす。



私は、現在、米国において勉学に勤しむ機会をいただいております。
多くの方々に日々感謝いたしております。
ご心配をいただいている方々のご納得をいただけるよう
努力を重ねる覚悟でおりますので
どうか温かく見守っていただけますと幸いでございます。

平成31年1月22日

小室 圭


その「努力」の内容が問題なのに、相変わらず触れずにボカす。
すでに今までも、圭さんなりの努力はしてきたと思うわ。
その努力がことごとくマト外れだから、こうなっちゃったんじゃないの。
どんな努力をするつもりなのか、はっきり言うてみ、言うておみ。
「ご心配をいただいている方々」は
温かく見守ってたら大変なことになるから、心配なのよ。
説得力無し。
この程度で弁護士になろうなんて、甘いわ。
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心の師・5

2019年01月18日 11時11分00秒 | みりこんぐらし
翌日の葬儀はしめやかに執り行われ、最後のお別れとなった。

ワンワン泣いた。

涙が止まらない。

名古屋へ嫁いでいて、ちょうど帰省中だった同級生のモトコちゃんが

背中をさすってくれた。

モトコちゃんは子供の頃も

泣いている私の背中をこうしてさすってくれたものだ。

それを思い出して、また泣いた。


みーちゃんのお母さんは、認知症になって長い。

弟夫婦が在宅で大切に世話をしている。

娘が亡くなったことに、今ひとつピンときてない様子だったが

この世で一番悲しい逆縁の残酷を受け止めずに済むなら

認知症も救いの一種かもしれない‥

そう思って、やはり泣く。


みーちゃんの次男ヒロ君は、葬儀の日も姿を見せなかった。

「次男さんがいたはずだが‥」

「重い病気で、長いこと‥」

弔問客の会話をチラリと聞いた。

やっぱりヒロ君は、母親の葬式にも出られない病状なのだ。

あんなに賢くて優しい子が‥

みーちゃんはどんなに心配だったろう‥

またもや涙が出る。


葬儀が終わると、同級生は火葬場まで付いて行った。

本当にこれで最後だ。

やっぱりオイオイと泣いて見送る。

しかしいつも思うが、遺体が荼毘にふされた瞬間

涙は不思議と引っ込むものだ。

ひとまずのあきらめがつくのだろう。


同級生一同はご主人と息子さんに挨拶して、帰ろうとした。

と、私はモトジメに呼び止められた。

内ポケットから封筒を取り出して、彼は言った。

「これをみーちゃんの旦那さんから、ことづかった。

同窓会あてで、5万円入っとる」

「寄付?」

「亡くなる前に、みーちゃんが用意しとったげな。

2月の還暦旅行で使ってくださいと」

「‥‥」

みーちゃん、どこまで用意周到なんだ。

やっとおさまった涙が、またドッとあふれ出す。


「ありがたく使わせてもらおうや。

使用目的が旅行と指定されとるけん

同窓会の口座に入れたら事務処理が面倒になる。

このまま旅行まで持っといてくれや」

「持っとったら涙が出るけん、嫌じゃ」

「ワシもよ‥ここはハートの頑丈なお前に頼むしかない」

わたしゃ、さめざめと泣いているというのに

モトジメには頑丈に見えるらしい。


死を前にして、こういうことができるだろうか‥

あれから私は考えた。

おそらくできない。

いや、しない。


だって、あの用意周到な人格完成者のみーちゃんでさえ

亡くなる日は選べなかった。

「1年で一番忙しい、この日だけは避けたい」

何よりも人に迷惑をかけることを嫌う彼女は、絶対に案じたはずだ。

しかし、その当日になってしまった。


そして私たちは、全く迷惑じゃなかった。

同級生の子供たちは、大半が独身の実家暮らし。

正月だからと子供一家が帰省したり

目を細めて孫を迎える図なんて、我々には無関係だ。

むしろ仕事が休みだったので、一同、心おきなくお別れができた。


準備万端でも、そうでなくても、無常の風は吹く。

だから私は未完成のまま、最後までジタバタするのが

自分にとってふさわしいと思うようになった。

気を使ってあれこれ考え過ぎると、健康に良くない気がする。

惜しまれる人は、早く亡くなるような気もする。

悪口が好きで横柄で身勝手なオバさんは

まだか、まだかと待たれる厄介なお婆さんになってやるもんね。


後日、夫のバドミントン仲間の八百屋さんが話していたという。

みーちゃんはマスクメロンが好きだったそうで

よく注文があったらしい。

好物までセレブなのはさておき、年の瀬も迫った頃

ご主人がメロンを3個、買いに来た。

「あれ、食べてもらえたかな‥」

八百屋のご主人は、夫に言ったそうだ。

それを聞いて、また泣いた。


《完》


重苦しい話にもかかわらず、コメントをくださった方々

並びに訪問してくださった皆様、ありがとうございました。
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心の師・4

2019年01月16日 16時06分56秒 | みりこんぐらし
モトジメから次に電話があったのは、翌日の大晦日。

遺族は故人の遺志を尊重するため、やはり家族葬を希望しており

一切の香典や供物、弔問は辞退するという話だった。


しかし夜になって、再び連絡があった。

親しい友人の弔問は、差し支えないという内容。

遺族が少し軟化したからか、モトジメはホッとした声だった。


弔問の許可が出たこの時点で

同窓会のメンバーにはメールで公表することになった。

何も知らなかった同級生は、大晦日の一斉メールに驚いたことだろう。

ユリちゃんと私は仲良し5人組のメンバーにも黙っていたため

初めてみーちゃんの死を知った彼女たちの驚きも大きかったが

細かい経緯は伏せ、3日の通夜に行くことを決めた。


新年は、悲しみのうちに明けた。

元日の夜、モトジメから再び連絡がある。

「通夜と葬儀の受付が5人いるそうな。

男はワシともう一人がやるけん、女子を3人集めてくれや」


受付が必要になったということは、普通の通夜葬儀になったのだ。

懸命に隠したがる遺族とのやり取りは、神経を使う。

緊張から解放されたモトジメの声は、大晦日よりも明るかった。


多いのはかまわないので、女子の受付は仲良し5人組でやることにした。

きちんとやり遂げてみーちゃんを見送ろうと言い合い、当日を迎えた。

身内以外の通夜で、これほど行きたくないのは初めてだ。

気が重かった。


会場は、うちにほど近い葬儀場。

受付係の面々は、通夜の開式1時間前に集合した。

「方針が二転三転したためにご迷惑をかけて、申し訳ありませんでした」

みーちゃんのご主人を伴い、我々のところへ挨拶に来たのは彼女の長男。

しっかりした息子さんだ。


が、次男のヒロ君の姿は無かった。

彼を最後に見たのは、もう17〜8年前になる。

都会の中高一貫校へ通学する彼と新幹線のホームでばったり会って

少し話したきり、ヒロ君の姿を見かけたことはおろか噂すら聞かない。


そしていつしか、みーちゃんと私の関係は少し変化した。

ある時、ヒロ君の消息をたずねたら

その柔らかい眼差しにかすかな警戒の色が宿ったのだ。


以来、表向きは変わりない。

いつ会っても、優しい微笑みと温かい言葉をくれる大好きなみーちゃんだ。

常に自分のことを語らない彼女だが

特にヒロ君のことはトップシークレットなのが何となくわかった。

彼の身に、何か大変なことが起きたのは確かだった。


聞いてはいけないらしい‥

私はそう理解して、ヒロ君の話はしなくなった。

しかし同級生でただ一人、ヒロ君を知る私は

彼女にとって要警戒人物になってしまったようだ。


みーちゃんの闘病を知りながら

亡くなるまで接触しなかったのは、このためだった。

私が電話をかけたり手紙を送ったら

みーちゃんは密かにドキッとするに違いない。

それは病気に良くないのではないか‥

そう思いあぐねたまま、日を重ねたのだ。


弔問客が来る前に、会場でみーちゃんの遺影と対面した。

泣けて泣けて仕方がなかった。

この涙には、たくさんの思い出の他に

何もできないまま、おめおめと訃報に接した後悔も含まれていた。

しかし、私の立場でどうすれば良かったのかと考えた時

やはりこうするしか無かったと思う。


みーちゃんの遺影は本当に美しかった。

これほど素敵な遺影を見たことがない。

いつも微笑んでいる人は、笑顔が板に付いている。

優しく、柔らかく、温かい表情はうっとりするほどで

ずっと眺めていたい気持ちだ。


「転移がわかってから、遺影用に撮影したんだって」

モトジメが言った。

何事にも準備万端のみーちゃんらしい。

それが彼女の美学なのだ。

またオンオンと泣いた。


我々は葬儀社の人から受付の手順をレクチャーされ、帳場に立った。

弔問客が多く、家族葬どころか盛大な通夜だ。

忙しさにまぎれて少しの間、泣かずに済んだのは幸いであった。


やがて同級生たちも近くから遠方から、続々とやって来た。

車で1時間ほどの町に住むシズちゃんが

花束の形をした色紙とペンを持って来た。

「みんなの寄せ書きを棺に入れさせてもらおうと思って‥」


ご主人と息子さんの許可を得て、皆で順番に寄せ書きをする。

「みーちゃん、よく頑張ったね」

「お疲れ様、ゆっくり休んでね」

「また会おうね」

「優しい笑顔をありがとう」

「楽しい思い出を忘れません」

皆で、さまざまなことを書いた。


通夜は終わったが、ヒロ君は現れなかった。

《続く》
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心の師・3

2019年01月15日 09時03分41秒 | みりこんぐらし
みーちゃんの訃報は衝撃だった。

「なぜ?」の二文字だけが、私の頭の中を駆け巡っていた。


嗚咽がおさまり、落ち着いてきたユリちゃんの話によると

ユリちゃんの叔母さんは美容師。

高齢になって退職するまで、みーちゃんの実家の美容院で働いていたそうだ。

その関係でみーちゃんの弟から、姉の死を伝えられたのだった。


「叔母は、弟さんから口止めされてるの。

みーちゃんの遺言で、極秘の家族葬だそうよ。

でも叔母は私たちが同級生と知っているから、こっそり教えてくれたの」

「じゃあ私らは、お別れができないということ?」

「そうらしいわ。

私も叔母から口止めされたんだけど、誰かに言わなきゃ苦しくてたまらなくて

みりこんちゃんに電話したの。

だからみりこんちゃんも、誰にも言わないで」

「え〜‥」

秘密のバトンを渡され、大いに当惑する私だった。


それにしても、極秘の家族葬という遺言は控え目なみーちゃんらしい。

一年で一番忙しい年末ということもあって

みーちゃんもその家族も、身の細るような思いであろう。


「お願いね!漏れたら、本当に困るの。

こっそり教えてくれた叔母の立場が無くなるし

私が関係したことがわかると職業上、差し支えるのよ」

ユリちゃんはお寺の奥さんなので

こういう秘密の情報源になってしまうと信用に関わるらしい。


が、私には同窓会の会計としての仕事があった。

本人や親、あるいは子供が亡くなると、会からの香典を届けなければならない。

積み立てた年会費の中から支出する、互助会のようなものだ。

これは規則なので、会員は受け取らなければならない。

同窓会に入っている以上、その規約に同意していることになるからだ。


通帳から香典を出金する際、会計の私は同窓会の会長に許可を取る。

例外を作る場合も、会長の判断が必要になる。

つまり私はいずれにしても、みーちゃんの死を会長にしゃべる運命なのだ。

このことを話したら、ユリちゃんはしぶしぶ了承した。

「くれぐれも叔母と私の名前は伏せて

みりこんちゃんがどこかから聞いたことにしてね」


とはいえユリちゃんは職業上、人の死に接する機会が多く

私も多少は葬式慣れしている身。

初めて家族の死を迎えた遺族の心が

最初は内へ内へとこもりやすいのを知っている。


「誰にも迷惑をかけず、家族だけでひっそりと‥」

人はとっさにそう考えるものだし、それが理想であろう。

しかし世間はそうはいかない。

実家が商売をしていて、旦那は社長の環境。

ましてや死者は高齢者ではなく、現役世代。

隠しおおせるわけがないのだ。


愛する家族の死という衝撃によって、堅く閉ざされた遺族の心が

世間によって徐々に軟化していく実例をユリちゃんも私もたくさん見ていた。

「そのうち拡がるとは思うけど、今はみーちゃんと遺族の意思を尊重する」

これを二人で取り決め、電話を切った。



年の瀬の30日は、暮れようとしていた。

年明け早々に訃報を伝えるのは、はばかられる。

会長に伝えるなら、今夜か明日中しかない。

だが、几帳面な彼は必ず情報源をたずねるだろう。

誰から聞いたと言おうか‥

大切な友人の死で、嘘はつきたくない‥

誰かにたずねて確認するのが正しいとは思うが

その相手がもしもみーちゃんの死を知らなかったら、一気に拡散してしまう‥

だからといって、みーちゃんの家族に連絡を取ったら

秘密を知られたと思われて、傷つけてしまう‥

困った‥。


これといった案も浮かばないまま、正月の支度をしていたら夜になった。

そこへ救世主、現る。

ヤクルトのお姉さんだ。

その日は、正月休みの分を配達する予定日だった。


一つ年下の彼女とは、長い付き合い。

お互いに気が合って、週に一度会うたびにおしゃべりをするのが習慣である。

彼女はよそで聞き込んだことをペラペラしゃべらないが

この日は珍しく噂話をした。

「そういえば今日、◯◯町で大きなおうちの奥さんが亡くなったそうですよ。

みりこんさんと同じくらいじゃないかしら。

体に気をつけて、長生きしてくださいね」

そう言うではないか。

「もしかして‥◯◯さんのおうち?」

「ご存知だったんですか?」

なんたる偶然‥

目の前が明るくなり、現在の窮状を打ち明ける私だった。


今回は事情が事情ということで、彼女は知っていることを話してくれた。

それによると、通夜は正月の3日で葬儀は4日‥

近所の人は、すでにこの日程を知っていたという。


病院で亡くなると、遺族は遺体を自宅へ連れて帰りたくなる。

自宅に搬送車が停まると目立つため、近所の知るところとなる。

いくら秘密で、家族で、と申し合わせていても

この時点で拡がってしまうのだ。

近所が知っているなら、もう極秘ではない。

私はみーちゃんからゴーサインをもらったような気がした。


人の死に接した時は、えてしてこのような偶然が起こるものだ。

何度も経験するとわかる。

人は自分だけの力で生きているのではない。

何かの大きな力添えをもらいながら、生かされているのだと。


先にユリちゃんに連絡し、了解を得てから

通称モトジメと呼ばれる会長に電話すると、彼もひどく驚いていた。

案の定、「誰から聞いたん?」とたずねられたので

「ヤクルトのお姉さん」と答える。

「変わった情報網を持っとるのう」

半ばあきれたような声で、モトジメは言った。


しかしながらモトジメは、みーちゃんの病状が良くないことを知っていたという。

来月の還暦旅行に備え、みーちゃんと連絡を取り合っていたのだ。

手術の傷跡を気にする彼女のために

露天風呂付きの個室を予約するつもりだったことも話してくれた。

「それが8月に転移がわかって、やっぱり行けそうにないと言われたんじゃ」

訃報を聞いたモトジメの驚きは

「まさかこんなに早く?」という種類のものだった。


みーちゃんの弟と親しい同級生に仲立ちをしてもらって

遺族の意向を確認しながら、同窓会メンバーに公表するタイミングを始め

弔問や手伝いの有無をさぐって行こう‥

モトジメはそう決めた。

《続く》
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心の師・2

2019年01月13日 09時50分07秒 | みりこんぐらし
みーちゃんのウィッグがおしゃれの一環でないことは、すぐに判明した。

二次会の会場へ上がるエレベーターの中。

その前年、娘を癌で亡くした同級生男子と顔を合わせるなり

「お悔やみに行けなくて、ごめんなさい‥」

そう言って、ポロポロと涙をこぼしたからだ。


ウィッグの理由は、抗癌剤だと確信した。

彼女はこの2年、病気と戦っていたのだ。

正月に、主婦が闘病中の家へ行って長居をする客がいるわけない。

彼女が同窓会には来ず、二次会にやって来たのは

全行程に参加する体力的な自信が得られなかったのだと推測する。


みーちゃんの涙は、なかなか止まらなかった。

その男子の胸に、顔をうずめるようにして泣き続ける。

居合わせた一同は、ただ見守るしかなかった。

エレベーターの無遠慮な蛍光灯の下で

彼女の震える肩は一回り小さく、そして薄く見えた。


二次会の会場に入ると、みーちゃんはいつものニコニコした顔に戻った。

元々色白だが、いちだんと白くなって眩しいほどだ。

透明な美しさが、神々しいばかりである。


彼女と私は両手を握り合って

「みーちゃん!」「みりこんちゃん!」と呼び合う。

お互い、そこで初めて会ったような格好に仕切り直すのだ。

何事も無かったかのように。

おそらくこれが、彼女の意に沿う再会だ。

ほんの少しの間、黙って見つめ合えば充分。

久しぶりに現れたみーちゃんと話したくて

順番待ちをしている者がたくさんいるため、席を離れた。


彼女はきっと元気になるのだ‥

だってお金持ちなんだもの、ご主人がどんな手段を使ってでも全快させるはず。

あの神々しさは、病いに打ち勝った勝利の美なのだ‥

私はそう思うことにした。


以後、みーちゃんは体調が良くなったのか

3月にあった、地元在住の同級生の宴会には出席した。

この小宴会、いつもは同級生ルリコのぼったくり居酒屋で行うが

この時は初めて、みーちゃんの弟が経営する居酒屋でやった。

彼女が同級生の集まりに参加しなくなった頃とほぼ同時期に

彼女の弟が脱サラして開店した店だった。


何も知らなかった私は当時、密かに気を回していたものだ。

弟がルリコと同じ飲食店を始めて商売仇になったため

遠慮深いみーちゃんは来にくくなったのではないか‥。


しかしそれは杞憂だった。

みーちゃんは弟の店で、皆と楽しい時間を過ごした。

時折、涙を浮かべていたのが気になったものの

こうして皆とワイワイ言える喜びを味わっているのだろうと思った。


私は同窓会の会計なので、宴会が終わったら支払いをする。

会計を長くやっていると異変に気づくもので、その時はえらく安かった。

予定より3万円、安い。

弟にたずねても何も言わないし、みーちゃんはいつの間にか帰った後。

彼女が弟に3万円を渡したのは明白だった。

「弟の店を使ってくれて、ありがとう」

その意思表示なのだ。

人知れず、こういうことをするのがみーちゃんなのだった。

同級生の集まりがあると、安くてマズい物を出し

この時とばかりにぼったくるルリコとは、えらい違い。


そういえばみーちゃんと接触する際、いつも感心することがある。

色々な会合で会費を払う時、彼女は必ず新札。

ぴったりの金額を新品の封筒から出し

「お世話になります」と頭を下げながら渡す。


同窓会の会計をやって8年以上になるが

こういうことをするのは、この人だけだ。

金持ちになる秘訣かもしれない‥などと思う。

秘訣かどうかは不明だが、なかなか払おうとしない者や

会費2千円のところを1万円札で出す者、くしゃくしゃのお札を引っ張り出す者が

それなりの生活をしているのは確かである。


その次にみーちゃんと会ったのは6月。

ルリコのお母さんのお通夜だった。

彼女はやはりウィッグだが、少しふっくらして元気そうだ。


いつも思うが、悲しみの席でも彼女のファッションは素晴らしい。

ネックレスの黒真珠からして、違う。

とはいえ同級生で黒真珠に関心のある者はいないので

目を留めるのは私くらいだ。

これも宝石道楽の姑を持ったからこそ。


黒真珠と一口に言っても、色はさまざまだ。

以前は黒に近いものばかりだったが

近年ではブルーがかった明るいグレーが主流となり

玉も大きめになってきている。

宝石屋の思うツボではあるものの、そこは女の楽しみよ。

みーちゃん、この新色もちゃんとおさえた大玉真珠。

指輪もお揃いだ。

さすが。


喪服やバッグもいつも新しくてステキだけど、圧巻は数珠。

艶を抑えた水晶は、一粒一粒がかすかな楕円形の職人技。

ぜって〜高い。

ああ、やっぱりさすがだ‥。

人のお通夜で眼福を得るのもナンだが

みーちゃんの相変わらずを見て、ホッとする私だった。

買い物やおしゃれをする元気があるんだから、大丈夫!


夏にあった二度の宴会に、彼女は来なかった。

しかし年明け2月の還暦旅行には参加の返事だったので

私も他のメンバーも、すっかり安心していた。


そして昨年暮れの30日、同級生のユリちゃんから電話があった。

「みりこんちゃん!

みーちゃんが‥みーちゃんが亡くなったの!」

ユリちゃんはそう言うなり、ワッと泣き出した。

絶句するしかなかった。


《続く》
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心の師

2019年01月12日 19時31分38秒 | みりこんぐらし
みーちゃんは、同級生の幼なじみ。

美容師を何人も抱えた、大きな美容院の娘である。

小さい頃から物静かで大人びていて、いつも優しかった。

そして大変な秀才。

その頭脳にふさわしい遠くの高校へ進んだため

中学卒業後は会う機会が無くなった。

彼女がうちの前を通って一番電車に乗る頃、私はまだ寝ていたからである。


偶然の再会は12年後、小児科の待合室だった。

みーちゃんは私の嫁ぎ先にほど近い、豪邸の若奥様になっていた。

大学を卒業してすぐ、見合い結婚したという。

その優秀ぶりから、将来を嘱望されていた彼女が

主婦という選択をしたのは意外だったが

それもそのはず、彼女のご主人は資産家の一人息子。

“まろ”、あるいは“殿下”といった印象のおっとりした人物で

両親が起業した海運業の株主として、会社の取締役をしていた。



この結婚は彼女のお祖母ちゃんの勧めだと、後になって人から聞いた。

考えようによっては、あくせく仕事をするより

こっちの方が合理的かもしれない。


けれども新婚間もなく、同居の義父母が相次いで病いに倒れたため

彼女は出産や子育てと並行して義理親の介護に明け暮れた。

「実家のお祖母ちゃんたちが子守りに来てくれてたから

恵まれていたのよ」

この時、やはり相次いで義父母を見送ったばかりのみーちゃんは

多くを語らずに微笑むだけだが、かなり壮絶だったに違いない。

お互いに近くで生活しながら、それまで一度も会わなかったのは

介護で滅多に外へ出なかったからだと思っている。


再会からほどなく、私たちはママ友にもなった。

お互いの次男が同い年で、幼稚園も小学校も一緒だったからだ。

ただしあちらのお子様は、母親譲りの秀才。

ごく小さい頃から将来の夢を医師と設定し、勉学に励んでいた。

ただ勉強ができるだけでなく、母親譲りの誰に対しても優しい少年なので

医師という目標は、誰もが納得するものだった。


みーちゃんと私はママ友と並行して、同窓会活動の仲間としても

頻繁に交流するようになった。

本当に賢い女性の多くがそうであるように

そして本当の金持ちの多くがそうであるように

みーちゃんは自分のことをほとんど語らない。

ただニコニコと微笑みながら人の話を聞いて、うなづいたり笑い声を立てる。

温かい陽だまりのような、春のそよ風のようなみーちゃんを

私たち同級生は男子も女子も、大好きだった。


いつもニコニコして優しくて、控えめで謙虚で腰が低く

礼儀正しく、愚痴や悪口を一切口にしない‥

つまり自分とは正反対の彼女と接するたびに

我が身を振り返って反省しつつ

「みーちゃんのような女性になりたい」

私はずっと願い続けてきた。

みーちゃんは長年に渡って、私の心の師であった。


そんなみーちゃんが、3年前から同窓会活動にパタリと参加しなくなった。

誘いの電話をした者によると、何やら忙しいらしい。

長く顔を見ないと心配ではあるが、様子うかがいの電話をしたところで

気を使って絶対に本当のことを言わないのはわかっている。

苦しい嘘をつかせるだけだと思い、そっとしておいた。


続く欠席を、私は勝手に理解したつもりでいた。

ズバ抜けた金持ちは、庶民に理解できない思考を持っているものだ。

我々には知るよしもない大切な何かが、他にあるのだろうと思っていたのだ。


そのまま2年が経過。

みーちゃんは相変わらず同窓会活動には姿を見せなかったが

昨年の正月にあった学年全体の同窓会には、久しぶりに出席の知らせが届いた。

大いに喜ぶ一同。


当日、ホテルで開催された同窓会に彼女は現れず、二次会の会場の前で合流した。

途中で彼女に連絡を取った同級生が言うには

お客さんが来ていて遅れたという話だった。


「う〜ん!今夜もシブい!」

久しぶりにみーちゃんを見た私は、密かにつぶやく。

感嘆の対象は、彼女のファッション。

パッと見は、いつものように地味だ。

しかし、上質な素材は隠せない。

控えめにトレンドを取り入れたデザインと

色白かつ小柄でなければ着こなせないパステルカラーが

みーちゃんにピタリと寄り添っている。

私はいつも「さすが!」と感心してしまうのだ。


我々の学年の女子は、私を含めてイモ揃い。

その日は3年に一度の同窓会ということで

それぞれ気合の入った“よそ行き”を着込んでいる。

が、みーちゃんの衣装は田舎のおばさんのよそ行きでなく

トータルファッションと呼べるものだ。


洋服を買うのに全力を注いだため、コートにまで手が回らず

あり合わせの重たいコートを引きずる我ら貧民とは異なり

彼女はシルクのトレンチで、早くも軽やかな春の装い。

そして何よりすごいのは、イモに混じっても浮き上がらない配慮を

彼女が常にしていることだった。

これを上品と呼ばずして、何と呼ぶというのだ。


彼女のハイセンスは、デパートの外商が張り付き

渾身でコーディネートしているからだと踏んでいる。

うちの姑もゼニのあった頃はそうだったからわかるのだが

服や靴やバッグ、小物に至るまで、複数のパターンを毎シーズン

一気に買うお得意様でなければ不可能な装いである。


人前で褒めると、謙虚なみーちゃんは恥ずかしがって嫌がるだろうし

彼女のファッションがいかに素敵かをしゃべったところで

イモ仲間は理解しない。

だから誰にも言わない。

みーちゃんは私の心の師でもあるが、ファッションの師でもあるのだ。


私は2年ぶりの彼女に駆け寄りながら、ハッとした。

みーちゃんが、ウィッグを付けていたからだ。

何しろ金持ち、そして何しろ美容院の娘なので、ウィッグはとても自然。

以前の印象と変わらない。

控え目な艶でむしろ若く、いちだんと綺麗に見える。

「最新のおしゃれなのかも‥」

私は懸命にそう思おうとした。

《続く》
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都会の犬と田舎の犬

2019年01月07日 17時11分02秒 | みりこんぐらし
昨年12月、私と長男は飼い犬パピの病いと闘っていた。

犬種がパピヨンということで、安易にパピと名付けられたこの雄犬は

現在8才。

人間で言うなら48才のおじさんらしい。


これまで何ら健康上の問題は無く、家族のアイドルとして君臨してきたが

10月あたりから目の不調が目立つようになった。

右眼がちゃんと開かなくなったのである。

ショボショボして涙が出て、明らかに悪そう。


地元の動物病院に通い、目薬をもらってさし続けたが

いっこうに改善されない。

「うちではどうにもなりません」

獣医さんは言った。

パピはサジを投げられたのであった。


「動物眼科の権威が広島市内で開業しておられます。

場合によっては手術が必要になるかもしれないので

そちらを紹介しますから行ってみてください」

そっちの獣医さんのプロフィールと地図をもらい

パピは転院することになった。

密かに恐れおののく我ら親子。

「パピを遠くへ連れて行ったこと、いっぺんも無いが‥」

「権威って‥治療代がナンボかかるんじゃろうか‥」


同級生の友人けいちゃんのお姉さんから聞いた話を思い出す。

愛犬が病気になり、やはり獣医さんにサジを投げられたお姉さんは

某国立大学の獣医学教授を広島に招いて手術をしてもらった。

先生の手術代に旅費と宿泊代で、百万円を超えたそうだ。

あっちは教授、こっちは権威。

ブルブル‥。


ともあれ、行くしかない。

片目が不自由になって以来、階段を上がれなくなり

しんみりとうつむいてばかりのパピを放っておくことはできない。

地元の獣医先生は、権威にメールをしておくと言った。

行かなければ、今後の付き合いにさしつかえる。

運転係の長男と付き添いの私は、パピを連れて車中の人となった。


高速を走って1時間、はたして権威の館は普通の動物病院だった。

山小屋風の可愛らしい建物で、親しみやすさを表現。

木をふんだんに使った内装も温かい感じで、何だかホッとした。


受付を済ませ、診察を待つ。

パピはこれから何をされるんだろう‥

片目がつぶれ、もはや万年ウィンク状態の顔を見ていると

あわれで涙が出てしまいそう‥。


その時、私は初めて気がついた。

同じく診察を待つ犬たちと、飼い主たちに。

さすが都会。

ミニチュアダックス、ポメラニアン、シーズー、シュナウザー‥

可愛らしいお犬様ばかり。

どなた様も都会的な散髪‥いやカットを施され、高貴で美しい。

涙は引っ込んだ。


しかもお犬様は飼い主様のお膝で、お行儀よく待っていらっしゃる。

目のこともあって、散髪はおろか風呂にも入れられず

ボサボサ伸び放題の毛でギャーギャー言ってるのは、うちのパピだけ。

何だかパピの顔まで、田舎っぽく見える。


さらに数人の飼い主は皆女性で、年代はさまざまだが

そのファッションの素晴らしいこと。

田舎で言う「よそ行き」をお召し。

ヘアスタイルも、美容院帰りのような決まりよう。

田舎じゃ当たり前の作業服を着た長男と、普段着の母は完全に浮いている。


さらに驚いたのは、お犬様たちの小物。

「ちょっと!マコト!あの子のリード、花が付いとるで」

「うわ、ほんまじゃ」

「あっちはレインボーカラー‥

首輪はあんた、宝石みたいなのがぶら下がっとるで」

「うわ、ほんまじゃ」

「ホームセンターで買うた首輪やリードなんか

しとるモンはおりゃせんで」

「うわ、ほんまじゃ」

「どこに売りようるんかね?」

「知らん」

「都会の犬は、違うね」

「うん」


帰る時、受付嬢に泣きながらお礼を言う飼い主もいる。

皆様、お犬様を心から愛しておられる。

その愛は、高そうな小物と美しい毛艶に表れている。

うちらも一応はパピを愛しているつもりだったが

上には上があるらしい。


診察の結果、パピは治療に通えば改善する病状だそう。

彼の目は病気ではなく、改良を重ねた犬種によく起こる遺伝的な問題で

加齢により、角膜が熟したプチトマトのように柔らかくなってしまうらしい。

目玉に注射針で縦横の傷をつけ、再生を促しながら

3種類の目薬を1日4回‥

パピの治療方針は、そう決まった。

これで改善されなければ、手術だ。


以後、毎週通院することになった。

良心的な料金と丁寧な診察の、良い病院だったのは幸運であった。

「次から、きちんとした格好で行こう」

我ら親子はそう誓い合った。

しかし、何しろ繁忙期の12月。

動物病院用に、わざわざおしゃれをする気も暇も見当たらず

ボロボロ犬を連れたズタズタ親子は、週に一度の広島通いを続けた。


やがて通院四週目の年末27日。

パピの目は手術をまぬがれ、めでたく全快の運びとなった。

目は2個あるので、いずれもう片方も悪くなる可能性があるらしいが

とりあえずは心おきなく正月を迎えられた。


「パピが元気になったら、治療を頑張ったごほうびに

素敵な首輪とリードをプレゼントしよう!

そして都会的な犬に変身させよう!」

我ら親子は動物病院の行き帰り、このことも何度か誓ったはずだが

治ったらそれっきり。

ホームセンターで買った、ボロい首輪と粗末なリードの

パピという田舎犬なら元気でうちにいる。
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ジャンパー

2019年01月03日 21時34分36秒 | みりこんぐらし
明けましておめでとうございます。

旧年中は大変お世話になりました。

ご訪問くださった皆様、コメントをくださった皆様

本当にありがとうございました。

本年もどうぞよろしくお願い致します。



さて、大晦日までウグイス話にかまけていたので

昨年起きたことを書きそびれていた。

その中の一つを聞いてもらいたい。


実家の母サーコを誘って、たまに買い物に出かけるのが我々夫婦の楽しみ。

この習慣は、親孝行なんかではない。

夫婦だけでどこかへ行っても面白くないから、サーコを誘う。

親に子供孝行をさせているのだ。


85才のサーコは、病歴ゼロの健康そのもの。

市原悦子の外見に、デヴィ夫人の魂が宿ったような彼女と夫は

なぜかウマが合う。

私よりも夫の方が、サーコを誘うのに熱心である。


昨年の11月下旬、サーコと私たち夫婦のトリオは恒例のお出かけをした。

7月の豪雨以来、忙しくて夫の都合がつかず、サーコと出かけるのは数ヵ月ぶりだ。

夫は張り切っていた。


その日、夫が選んだジャンパーの色は蛍光グリーン。

これは数日前、彼の友人からもらった新品である。

あまりに派手なので誰も着ず、夫に回ってきたようだ。

私は激しい色彩に顔をしかめたが、夫はこのジャンパーを気に入っていた。


出がけに「着るな」「着る」で言い争いになる。

しかし初老の男の意固地は、ご存知の通り。

「何かの行事か、選挙の手伝いと間違えられるよ?」

「そんなこと、あるわけないが」

「恥ずかしいが」

「わしゃ、恥ずかしゅうない」

止めるとムキになって、派手派手ジャンパーを着た夫。

「今日はあきらめるけん、私と出る時は二度と着なさんな」

「わかった、わかった」

そう言いながら、母を迎えに行った。


うちの実家は駅前なので、待ち合わせ場所は駅の駐車場と決めてある。

車を停めて、家から出てくる母を待っていた。

母と合流したら、後部座席に並んでおしゃべり三昧がお決まりなので

私は最初から後部座席に座っていた。


‥と、推定80代の老女が一人、車に近づいてくる。

そしておもむろに助手席のドアを開けた。

「お願いしま〜す」

彼女はそう言いながら、当然のように乗り込むではないか。

呆然とする我ら夫婦。


「あの‥どちら様ですか?」

私は恐る恐るたずねた。

「本田です」

たずねられたから答えるといった風情のおばさん。


夫は完全に当惑中。

前を向いたまま硬直して、微動だにしない。

「あの‥どちらへ行かれるんですか?」

再び恐る恐るたずねる私。

「あら、めばえの園(仮名)に決まってるじゃないの」

「め‥めばえのその‥?」

町外れにある福祉施設だ。


「福祉祭のお手伝いですよ‥私、ボランティア。

毎年、来てるんですよ」

「はあ‥‥」

「私、送迎バスに遅れたんですよ。

そしたら、この車があったからね」

「はあ‥」

「このかた、施設の人でしょ?

待っていてくださったんでしょ?」

おばさんは、固まっている夫を指差して言う。


「いえ、通りすがりの者です」

「めばえの園の人じゃないの?んまあ〜!」

非難めいた口ぶり。

とはいえ、車から降りるつもりはないようだ。

大きなバッグを抱え直し、送らせる気満々。


そこへちょうど、サーコが来た。

何も知らずに後部座席へ乗り込んだサーコ、助手席に人が居るので驚く。

「何、この人?どういうこと?いったい何ごと?」

サーコ、疑問の嵐。


全ては後で説明する‥ジェスチャーを交えてサーコにそう伝え

私はおばさんに言った。

「めばえの園まで、お送りします」

降りないんだから、連れて行くしかないじゃないか。

依然として硬直状態の夫を促し、車は発進した。

施設に向かう間、サーコは私に言う。

「なによ!ボケてるんじゃないのっ?この人!」


5分ほどで施設に到着。

駐車場で福祉祭の来客を誘導しているスタッフ数人は

揃って蛍光グリーンのジャンパーを着ていた。

年に一度開催される、福祉祭のユニフォームらしい。

これじゃあ、間違えられても仕方がない。

元凶は、夫のジャンパーだったのだ。

見知らぬ本田さんは夫のジャンパーを見て、施設の車と思い込んだのだ。


怪訝そうに夫を凝視する、スタッフ一同。

「何だ?お前?」と顔に書いてある。

同色のジャンパーに、なりすましを疑っているのか

相当怪しまれているみたい。

夫の心境は不明だが、激しく後悔しているに違いない。


注目を浴びながら車から降りたおばさんは

振り返って「お世話になりました」と言った。

その時、初めてお互いの顔を見たサーコとおばさん。

「あら、本田さん!」

「あら、サーコさん!」

二人は知り合いだった。

正確には、おばさんの姉とサーコが同級生だそう。


さっきまで、ボケてるのなんのと言っていたサーコ

「お役に立てて良かったです〜、オホホ」

と言いながら手を振っていた。

蛍光グリーンのジャンパーは、危ない。
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