殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

ガーナちゃん

2015年12月28日 10時48分45秒 | みりこんぐらし
25日は我が社の忘年会だった。

例年通り、本社からは河野常務と

経理部長のダイちゃんが参加。

ほどよくお酒も回った頃

話題は新年会のことになった。


本社と系列会社の社員が全員参加する新年会で

毎年、司会を担当するダイちゃん。

今回はちょっと悩んでいるそうだ。

今年は新入社員が3人しかおらず

紹介がすぐ終わりそうなので間が持たないという。


河野常務は言った。

「女装でもして沸かせるヤツが出てくれば

金一封でも出すんだが。

うちの社員は全体的におとなしいからなあ。

殻を打ち破る元気みたいなもんが

欲しいところよ」


「金一封!」

反応したのは次男だった。

「僕、やります!」

「ホンマかっ!ヨシキ!やってくれるのか!」

河野常務、大喜び。


「女装したら本当に

金一封、出るんでしょうね?」

「出す、出す!ワシがお年玉をやる!」

金目当ての次男と、流れを変えたい河野常務。

両者の需要と供給は合致し

次男は新年会で女装して

司会のダイちゃんと

掛け合いをすることになった。


「カツラなんかは買えばいいけど

問題はスカートだよな」

ダイちゃんは心配する。

そうよ、次男は巨漢。

身長が180センチ余りあるが

体重もかなり。

身体つきもしかり。

顔立ちもそれなり。

よって、女装はコミック路線に限定されるが

そこらへんの女子のスカートで間に合う

姿かたちではないのだ。


「スカート、ご用意できます」

急きょ次男からマネージャー兼

メイクさんに任命された私は

事務的に答えた。

うちには義母ヨシコという衣装部主任がいる。

格納量の多さと、何でも出てくる不思議により

我々が魔境と呼ぶヨシコの衣装部屋には

ウエストがオールゴムのスカートが

完璧なコンディションで出番を待っているはず。



忘年会は盛況のうちに終わり

次男は帰宅すると、さっそくヨシコに伝えた。

「新年会で女装するから、ゴムのスカート出して」

それを聞いたヨシコは静かに魔境へ分け入り

30秒後には数枚のスカートを手に出てきた。

さすが我が家の衣装部主任。


上着は私の物。

親戚のお姉さんにもらった

ピンクのケープ。

スカートの色や季節感と合わないが

次男が着られる大きさで

女の子らしいものといったらこれしかない。

お姉さんは「私とお揃いよ」と言って

プレゼントしてくれたけど

ごめんなさい、オカマとお揃いになりました。


我が子とは色々な話をするが

芸?についてじっくり話すのは

今回が初めてのような気がする。

「化粧をして女の服を着て出るだけでは

女装とはいえないのじゃ。

舞台に出て、笑われて帰るだけなら誰でもできる」

私はこの際、心構えを諭す。


「常務もダイちゃんも、あんたが女装したのを見て

みんながワッと笑うところまでしか考えてないはず。

変わった格好をして出れば、誰でもひとまずウケる。

問題はその後じゃ。

出たはいいが、その後をどうするか。

舞台を降りるまでのことをしっかり考えておくんじゃ」


私の方針では、そのためにまず名前を決める。

キャラクターの確立は大事だ。

シロウトはこれを忘れて

見てくれだけに心血を注ぎ

本番の舞台に躍り出るから

痛々しさや頑張ってる感が漂ってしまう。


誰が、どこから来て

どんな理由でこの場に立っているのか‥

キャラを自分の中で

しっかり組み立ててから臨むと

余裕が生まれる。

その余裕の分だけ

見る人を楽しませることができると

私は思っている。


家族会議の結果、“彼女”の名は

「ガーナちゃん」に決まった。

何のことはない、テーブルに

ロッテのガーナチョコレートがあったから。


おじいさんの借金のカタに売られ

南の島からやって来たガーナちゃん。

場末のスナックで明るく頑張るガーナちゃん。

日本は寒いと震えるガーナちゃん。

ほれ、空想のガーナちゃんが

生き生きと動き出したではないか。


次は所作。

女装は指先、足先が大事。

「脇を締める!」

「小指は立てる!」

「内股!」

正月休みの間も、ビシバシ鍛える予定。


あとはヅラとヘビー級のつけまつ毛

大きな髪飾りなどの小道具を買えばOK。

そこで一同、ハッと気づいた。

「履物は?」


上だけゴテゴテに飾っておいて

裸足というわけにはいかない。

仮に27・5センチのハイヒールを

手に入れたとしても

父親似の下駄足では入らない。

再び家族会議。


ゴムぞうりに花をつけるという

発展的な意見も出たが

最終的に地下タビに落ち着く。

おぞましいガーナちゃんができあがりそうだ。
コメント (17)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

裏介護

2015年12月23日 22時09分38秒 | みりこんぐらし
『ダスキン発・大掃除のお供』

“キティちゃんが好きなわけじゃないし

性能もとりわけ優れているとは言えないけど

かわいいので、毎年注文してしまいます”




義母ヨシコが腰痛で歩けなくなって

はや2ヶ月‥

3つ年上の友人ラン子は

ヨシコを心配して、時々電話をくれる。



ラン子とは、選挙のウグイス同士として出会い

時々遊ぶようになったが

会うたびに私は思っていた。

「どうも、うちのヨシコと似てるなぁ」


華やかな顔立ちと肥満傾向の体つきを始め

粋スジめいた雰囲気

私が一番!の思考回路

一人娘へのハンパない執着‥

ま、同じ匂いというやつよ。


そのうち、ラン子とヨシコが

遠縁にあたると知って、ぶったまげる。

二人は、ひいお祖母さんが同じだった。


付き合うには

明るくておっとりしたヨシコの方が

ダンゼン気楽。

ラン子の方は、ともすれば利用され

うっかりしていると物を巻き上げられ

よそでシモべや子分のように言われ

本当に油断ならん女だ。


しかし同じ根っこから咲いた

陽と陰の花二輪‥

これを同時に眺めるのは、大変興味深い。

ラン子は私の交友関係の中で

マニアック部門に属する貴重な友人である。



さて、ラン子がヨシコの病状を

うかがう電話をくれるたび

「やっぱり何分の一かでも血がつながっていると

心配してくれるんだわ…」

と、ありがたく思っていた。


何回目かの電話で、ラン子は言った。

「娘に話したら、入浴介助に行ってあげるって!」

彼女の40になる一人娘は

老人の家を回って介助や家事を行う

ホームヘルパーである。

ラン子の話によると、優秀な娘は大人気らしい。


その人気者の娘様が

詰んだスケジュールの合間を縫って

ヨシコの入浴介助をしてくださるという。

「ヨシコおばちゃんが困っているのに

放っておけない。

老人にとってお風呂は特に大事だから

お手伝いしたい」

とまでおっしゃってくださっているという。


私はあまりのありがたさに両手を合わせ

ひれ伏すばかりであった…

と言いたいが、ヨシコは自力で風呂に入れる。

「なんだ~!もうお風呂に入れるのぉ?

チェ~!」

心配していたわりには

ものすごく残念そうなラン子。


「でもこれからは

どんどん手がいるようになるはずよ。

何かあったらすぐ連絡してよ。

娘を行かせるから」

心強いお言葉だが

ヨシコは介護認定を受けていないので

ヘルパーを利用する資格が無いと言うと

ラン子は軽く受け流した。

「大丈夫、大丈夫。

あの子、制服を脱いで行くと言ってるから」

「そんな、仕事中に悪いわ」

「いいのよ。

制服を脱いだら実費になるだけだから」


たびたびの電話の最終目的は、これ。

一回につき何千円かの現金を

娘に支払えということらしい。


シルバー人材センターに籍を置きながら

顧客のところへ直接働きに行って

センターにリベートを抜かれることなく

全額をせしめる「裏シルバー」なら

この界隈にも何人かおられる。

しかし「裏介護」に遭遇したのはお初。


この様子だと、ラン子の娘は他でも

やっているに違いない。

領収書も申告も発生しないので

いいお小遣いになるだろうが

関わるとろくなことはない。


何より恐ろしいのは

ラン子に輪をかけて口さがない娘に

家の中のことを言いふらされることだ。

もしもヨシコが要介護になったとしても

あそこの娘だけには絶対相談すまいと誓う。

ラン子はやっぱり油断ならん女だった。
コメント (10)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

遠足のバナナ

2015年12月15日 11時33分39秒 | みりこんぐらし
社員の佐藤さんは48才。

我が社に就職して1年になる。


彼は以前、県内の同業者の所へ勤めていたが

廃業したために無職となった。

しかし農家のマスオさんで、奥さんが高給取りのため

3年余りの期間、家事と農作業にいそしんでいた。


一方我が社は昨年、大型ダンプを1台購入し

それに乗せる人を募集することになった。

働く車は、最初に乗った人間で将来が決まる。

雑で無知な者が使うと、寿命が短くなるのだ。

可愛がり、磨き上げ、優しく使用しなければならない。

そう、女と同じである。


ここで佐藤さんの名が浮上する。

仕事で知り合って親しくなった息子達が声をかけ

彼らがベテランかつ細やかな性質と評価する佐藤さんを

迎えることが決まった。


いくらベテランで細やかでも、3年ブラブラできた人が

急に大丈夫かいな‥‥私は懸念した。

しかし一緒に仕事をするのは息子達なので

意見を述べることはさし控えた。


就職は結婚と同じく、デリケートな行事。

誰かが難色を示した事実はどんな形であれ

後で必ず本人に伝わるものだ。

逆恨みとまではいかなくても、結局入社させるのであれば

余計なことは言わない方がいい。


新車を任せられた佐藤さんは、持ち前の細やかさ全開で

ダンプを大切にしてくれた。

大切にするあまり、車で1時間かかる通勤を

ダンプで行うようになった。

つまるところそれは、通勤手当をもらいながら自分の車を使わない

ズルい行為ではあるが、一旦出社してから現場へ入るより

佐藤さんの家から直接行く方が近い時もあるので黙認していた。

あんまりベテランだと、雇い主の性格を読み取ることにタケてくる。

夫がそういうことに無頓着なのをちゃんと見抜いているのだ。


私はこの人事に関して、部外者を通していた。

息子達が赤じゅうたんを敷いて迎えた彼が

率先してユルそうな仕事先を選ぶようになろうと

持病の頭痛を武器に、気の向かない仕事を休むようになろうと

一つ一つが息子達の肥やしになる。


困った社員というのは、必ず出てくるものだ。

仕事とお友達の違いを思い知れ。

せいぜい年上の後輩に苦しんで、人を見る目を養うがいい。


そんなことより、私はある現象に注目して佐藤さんを眺めていた。

「付け届けをする社員は要注意」

これは何十年も前に、とある金持ちから教えられた。

日雇い労働者から億万長者になった人だ。


ホワイトカラーのサラリーマンならいざしらず

ガテンで気遣いを見せる男は続かないというのだ。

続かないのは、怠け癖を物で補おうとする魂胆の他に

問題を起こしやすいという、彼の経験に基づいた理由があり

その目で義父の会社の社員を見ると、その通りだった。


佐藤さん、付け届けというほどではないけど

家で作った野菜を時々くれる。

これは付け届けになるのだろうか。

「遠足のバナナはおやつに数えるのでしょうか?」

この疑問を持ちつつ、息子達が佐藤さんに翻弄される日々を

興味深く眺めていた。


この夏は雨が多く、休みが続いた。

佐藤さんの給与形態は月給制なので、いくら休んでも給料は同じだ。

安定はしているが、出勤したら損みたいな気分になりやすい。


夏にゆっくり休んだ佐藤さん

秋にも長雨が続いたので、しっかり休んだ。


冬になると車検。

ダンプは毎年車検があるのだ。

長雨のために遅れていた仕事が忙しくなった途端

土日を挟んでたっぷり車検休みを取る。

こういう立ち回りが、ベテランたるゆえんである。


一週間後、久しぶりに出勤した佐藤さん

その朝、さっそく接触事故を起こす。

ショックのため、持病の頭痛が起きたそう。

修理があるので、そのまま数日休む。

大丈夫、いくら休んでも月給制。


この状況を改善する気は無い。

いずれ彼は辞める。

代わりはいくらでもいる。

知らないのは本人だけだ。

遠足のバナナはおやつに数えることだけわかって

満足な私である。


そして昨日、佐藤さんはやっと仕事をする気になり

とある現場に行く予定が組まれた。

が、相手から「まだ来ない」と電話が。

早朝、佐藤さんから次男のラインに

「頭が痛い」とだけ入っていたため

息子達は彼がどこかで倒れていると思い

連絡を取り続けたが、出ない。


穴の空いた現場には急遽長男を派遣し

我々は本社の経理部長、ダイちゃんに出勤を要請した。

佐藤さんの家は、我々の町と本社のちょうど中間に位置する。

ダイちゃんを家に行かせて、安否を確認してもらおうとしたのだ。

最近、後進が育ってきて暇になり

宗教活動ばっかりしているみたいなので、ちょうどいい。


その結果、佐藤さんは無事で、家にいた。

佐藤さんの報告によると、ダイちゃんは

「頭痛なら僕が治してあげる」と言い出し

玄関で手をかざそうとしたらしい。


我々からダイちゃんの宗教の話を聞いていた佐藤さんは

「家族に知れたら都合が悪い」と逃げ回った。

しかしダイちゃん、「じゃあ車の中で」と言い出す。

「それも困ります、近所の目があるので」

「5分だけ目をつぶってもらえば治るから」

「勘弁してください」

逃げる佐藤さん、追うダイちゃん。


「恐ろしかった」

やっと手かざしをまぬがれた佐藤さんは

ダイちゃんが帰るなり、次男に電話をしてきた。

無断欠勤で仕事に穴を空けたことなど、全く気にしていない。

佐藤さんとお別れする日は近そうだ。

怠け者の社員に、ダイちゃんは効く。
コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ガーデニング

2015年12月09日 10時15分51秒 | みりこんぐらし
突如、ガーデニングらしき行為に手を染めたのにはワケがある。

老人クラブで配られた、葉ボタンのせいだ。


毎年12月になると、老人クラブから葉ボタンが届く。

老人1名につき、葉ボタン2個。

うちには老人が2人いたので、去年まで4個もらっていた。

もらって嬉しいほどでもないけど

配ってくれる世話役に悪いから植えておこうか…

その程度の扱いで何年も経過。


今年は義父アツシが他界したため、2個になった。

夫に先立たれた女性は、一人になった現実を

数で思い知らされる。

このような配り物もそうだが

先に男が死ぬと、中元歳暮の数まで変わるものだ。

「わかっちゃいるけど、折りにふれて数に現れると悲しいものよ」

実家の父が死んでしばらくの間、気丈なはずの母はそう言っていた。


義母ヨシコは、このところ腰痛に苦しんでいる。

ただでさえ甘ったれなのに、痛みで気の弱っているところへ

葉ボタン半減はきついかも…

いつになく気を利かせた私は、急いでホームセンターへ走った。

葉ボタンをめでたげに飾って、ごまかそうとしたのだ。


適当に植物を買って家に帰り

花が終わって、硬い木と化している日日草をズボッと引っこ抜く。

その穴へ、葉ボタンや他の植物を

植えるというより埋めたら、何となくそれらしくなった。


先週末あたりから、少し庭を歩けるようになったヨシコは

私の「作品」を見て、「あら、いいじゃない」と言い

数が減ったことには無関心の様子。

葉ボタンを持って来たのがいつもの人でなく

裏のおじさんに交代していたことに興味を示していた。

「前のおっさんは世話役を引退したんだわ。

今度は裏のおっさんなのね」

自分より年下の人をおっさんと呼ばないように…

孫に注意されるヨシコ。


そうだった…寂しい寂しいと言うわりに

ヨシコは案外ドライなのを忘れていた。

葉ボタンの心配は、無駄骨に終わった。


その時、鉢に入りきらなかった植物がいくつか残った。

これらに新居を与える必要にかられて庭を見回すと

あちこちにたくさんあるではないか。

植えたきり枯れ果てたのや、すでに違う植物が生息している鉢が

何十個もぶら下がったり、転がっている。


これまで、私に許されていたのは二階のベランダのみであった。

毎年、ベランダの手すりにぶら下げた5つの鉢に

真紅のペチュニアを並べる…

それが私にとって唯一のガーデニング。

庭…特に道路に面した人目につく場所は

ヨシコの譲れぬ舞台であり、私は掃除をするだけだった。

人が散らかした庭をせっせと掃除するのは

ちっとも楽しくない。


しかし今、ヨシコは腰痛で動けないではないか。

監視もつかないし、許可もいらないではないか。

「やるなら今のうちだ!」

私の胸に黒い野心が芽生えた。


鉢で干からびている前任者を引き抜いて葬り

葉ボタンの取り巻きからあぶれたパンジーやプリムラを植える。

緑一色の庭にひと鉢置くと…

おお、美しい!

花が咲いたようだ!

当たり前か!


下剋上は一気に行なわなければ、失敗する可能性が高くなる。

私は再びホームセンターへ走り、おびただしい花々を買った。

そしてガンガン植えまくる。

数時間後、よその家のようになった。


私の反乱を知ったヨシコは、一瞬複雑な表情をしたが

ほどなく順応して「色とりどり」を楽しんでいる。

めでたし、めでたし。
コメント (12)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする