25日は我が社の忘年会だった。
例年通り、本社からは河野常務と
経理部長のダイちゃんが参加。
ほどよくお酒も回った頃
話題は新年会のことになった。
本社と系列会社の社員が全員参加する新年会で
毎年、司会を担当するダイちゃん。
今回はちょっと悩んでいるそうだ。
今年は新入社員が3人しかおらず
紹介がすぐ終わりそうなので間が持たないという。
河野常務は言った。
「女装でもして沸かせるヤツが出てくれば
金一封でも出すんだが。
うちの社員は全体的におとなしいからなあ。
殻を打ち破る元気みたいなもんが
欲しいところよ」
「金一封!」
反応したのは次男だった。
「僕、やります!」
「ホンマかっ!ヨシキ!やってくれるのか!」
河野常務、大喜び。
「女装したら本当に
金一封、出るんでしょうね?」
「出す、出す!ワシがお年玉をやる!」
金目当ての次男と、流れを変えたい河野常務。
両者の需要と供給は合致し
次男は新年会で女装して
司会のダイちゃんと
掛け合いをすることになった。
「カツラなんかは買えばいいけど
問題はスカートだよな」
ダイちゃんは心配する。
そうよ、次男は巨漢。
身長が180センチ余りあるが
体重もかなり。
身体つきもしかり。
顔立ちもそれなり。
よって、女装はコミック路線に限定されるが
そこらへんの女子のスカートで間に合う
姿かたちではないのだ。
「スカート、ご用意できます」
急きょ次男からマネージャー兼
メイクさんに任命された私は
事務的に答えた。
うちには義母ヨシコという衣装部主任がいる。
格納量の多さと、何でも出てくる不思議により
我々が魔境と呼ぶヨシコの衣装部屋には
ウエストがオールゴムのスカートが
完璧なコンディションで出番を待っているはず。
忘年会は盛況のうちに終わり
次男は帰宅すると、さっそくヨシコに伝えた。
「新年会で女装するから、ゴムのスカート出して」
それを聞いたヨシコは静かに魔境へ分け入り
30秒後には数枚のスカートを手に出てきた。
さすが我が家の衣装部主任。
上着は私の物。
親戚のお姉さんにもらった
ピンクのケープ。
スカートの色や季節感と合わないが
次男が着られる大きさで
女の子らしいものといったらこれしかない。
お姉さんは「私とお揃いよ」と言って
プレゼントしてくれたけど
ごめんなさい、オカマとお揃いになりました。
我が子とは色々な話をするが
芸?についてじっくり話すのは
今回が初めてのような気がする。
「化粧をして女の服を着て出るだけでは
女装とはいえないのじゃ。
舞台に出て、笑われて帰るだけなら誰でもできる」
私はこの際、心構えを諭す。
「常務もダイちゃんも、あんたが女装したのを見て
みんながワッと笑うところまでしか考えてないはず。
変わった格好をして出れば、誰でもひとまずウケる。
問題はその後じゃ。
出たはいいが、その後をどうするか。
舞台を降りるまでのことをしっかり考えておくんじゃ」
私の方針では、そのためにまず名前を決める。
キャラクターの確立は大事だ。
シロウトはこれを忘れて
見てくれだけに心血を注ぎ
本番の舞台に躍り出るから
痛々しさや頑張ってる感が漂ってしまう。
誰が、どこから来て
どんな理由でこの場に立っているのか‥
キャラを自分の中で
しっかり組み立ててから臨むと
余裕が生まれる。
その余裕の分だけ
見る人を楽しませることができると
私は思っている。
家族会議の結果、“彼女”の名は
「ガーナちゃん」に決まった。
何のことはない、テーブルに
ロッテのガーナチョコレートがあったから。
おじいさんの借金のカタに売られ
南の島からやって来たガーナちゃん。
場末のスナックで明るく頑張るガーナちゃん。
日本は寒いと震えるガーナちゃん。
ほれ、空想のガーナちゃんが
生き生きと動き出したではないか。
次は所作。
女装は指先、足先が大事。
「脇を締める!」
「小指は立てる!」
「内股!」
正月休みの間も、ビシバシ鍛える予定。
あとはヅラとヘビー級のつけまつ毛
大きな髪飾りなどの小道具を買えばOK。
そこで一同、ハッと気づいた。
「履物は?」
上だけゴテゴテに飾っておいて
裸足というわけにはいかない。
仮に27・5センチのハイヒールを
手に入れたとしても
父親似の下駄足では入らない。
再び家族会議。
ゴムぞうりに花をつけるという
発展的な意見も出たが
最終的に地下タビに落ち着く。
おぞましいガーナちゃんができあがりそうだ。
例年通り、本社からは河野常務と
経理部長のダイちゃんが参加。
ほどよくお酒も回った頃
話題は新年会のことになった。
本社と系列会社の社員が全員参加する新年会で
毎年、司会を担当するダイちゃん。
今回はちょっと悩んでいるそうだ。
今年は新入社員が3人しかおらず
紹介がすぐ終わりそうなので間が持たないという。
河野常務は言った。
「女装でもして沸かせるヤツが出てくれば
金一封でも出すんだが。
うちの社員は全体的におとなしいからなあ。
殻を打ち破る元気みたいなもんが
欲しいところよ」
「金一封!」
反応したのは次男だった。
「僕、やります!」
「ホンマかっ!ヨシキ!やってくれるのか!」
河野常務、大喜び。
「女装したら本当に
金一封、出るんでしょうね?」
「出す、出す!ワシがお年玉をやる!」
金目当ての次男と、流れを変えたい河野常務。
両者の需要と供給は合致し
次男は新年会で女装して
司会のダイちゃんと
掛け合いをすることになった。
「カツラなんかは買えばいいけど
問題はスカートだよな」
ダイちゃんは心配する。
そうよ、次男は巨漢。
身長が180センチ余りあるが
体重もかなり。
身体つきもしかり。
顔立ちもそれなり。
よって、女装はコミック路線に限定されるが
そこらへんの女子のスカートで間に合う
姿かたちではないのだ。
「スカート、ご用意できます」
急きょ次男からマネージャー兼
メイクさんに任命された私は
事務的に答えた。
うちには義母ヨシコという衣装部主任がいる。
格納量の多さと、何でも出てくる不思議により
我々が魔境と呼ぶヨシコの衣装部屋には
ウエストがオールゴムのスカートが
完璧なコンディションで出番を待っているはず。
忘年会は盛況のうちに終わり
次男は帰宅すると、さっそくヨシコに伝えた。
「新年会で女装するから、ゴムのスカート出して」
それを聞いたヨシコは静かに魔境へ分け入り
30秒後には数枚のスカートを手に出てきた。
さすが我が家の衣装部主任。
上着は私の物。
親戚のお姉さんにもらった
ピンクのケープ。
スカートの色や季節感と合わないが
次男が着られる大きさで
女の子らしいものといったらこれしかない。
お姉さんは「私とお揃いよ」と言って
プレゼントしてくれたけど
ごめんなさい、オカマとお揃いになりました。
我が子とは色々な話をするが
芸?についてじっくり話すのは
今回が初めてのような気がする。
「化粧をして女の服を着て出るだけでは
女装とはいえないのじゃ。
舞台に出て、笑われて帰るだけなら誰でもできる」
私はこの際、心構えを諭す。
「常務もダイちゃんも、あんたが女装したのを見て
みんながワッと笑うところまでしか考えてないはず。
変わった格好をして出れば、誰でもひとまずウケる。
問題はその後じゃ。
出たはいいが、その後をどうするか。
舞台を降りるまでのことをしっかり考えておくんじゃ」
私の方針では、そのためにまず名前を決める。
キャラクターの確立は大事だ。
シロウトはこれを忘れて
見てくれだけに心血を注ぎ
本番の舞台に躍り出るから
痛々しさや頑張ってる感が漂ってしまう。
誰が、どこから来て
どんな理由でこの場に立っているのか‥
キャラを自分の中で
しっかり組み立ててから臨むと
余裕が生まれる。
その余裕の分だけ
見る人を楽しませることができると
私は思っている。
家族会議の結果、“彼女”の名は
「ガーナちゃん」に決まった。
何のことはない、テーブルに
ロッテのガーナチョコレートがあったから。
おじいさんの借金のカタに売られ
南の島からやって来たガーナちゃん。
場末のスナックで明るく頑張るガーナちゃん。
日本は寒いと震えるガーナちゃん。
ほれ、空想のガーナちゃんが
生き生きと動き出したではないか。
次は所作。
女装は指先、足先が大事。
「脇を締める!」
「小指は立てる!」
「内股!」
正月休みの間も、ビシバシ鍛える予定。
あとはヅラとヘビー級のつけまつ毛
大きな髪飾りなどの小道具を買えばOK。
そこで一同、ハッと気づいた。
「履物は?」
上だけゴテゴテに飾っておいて
裸足というわけにはいかない。
仮に27・5センチのハイヒールを
手に入れたとしても
父親似の下駄足では入らない。
再び家族会議。
ゴムぞうりに花をつけるという
発展的な意見も出たが
最終的に地下タビに落ち着く。
おぞましいガーナちゃんができあがりそうだ。