殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

動物関係

2017年11月13日 08時25分36秒 | みりこん童話のやかた
『犬のつぶやき』

人間関係って色々と面倒らしいけど、オレたちにも動物関係があって

色々面倒なんだ。

こいつは夏に生まれたインコ。

手乗りにさせるとか、しゃべらせたいとか言って

家族はみんな、こいつに夢中。

面白くないったらありゃしない。

嫉妬がメラメラ。

情緒不安定になっちゃって、アゴをかきむしってたら毛が抜けたぞ。

アイドルはオレ様だ。

新参者には渡さないからな!



『インコのつぶやき』

みんな、あたしがしゃべるのを期待してるけど

あたしってばそんなに頭良くないわよ。

犬のやつ、いつもあたしをジロジロ見てはさ

隙あらばいじめてやろうと身構えてんのよ。

それより何?

あたしの名前。

ピンコよ?

ここんちの人たちって、ほんと、名前のセンスが無いわ。

犬のやつはパピヨンだからパピ。

あたしはインコだからピンコ。

いい加減にもほどがあるわ。



『人間のつぶやき』

そして3ヶ月が経過。

すっかり家族の一員になったピンコでした。

でも10日前‥

お兄ちゃんはピンコが肩に止まっているのを忘れて

庭へ出てしまいました。

ピンコは飛び立ち、それっきり帰って来ませんでした。

数日間、捜索が続けられましたが、ピンコの行方はわかりません。



『犬のつぶやき』

やった〜!

いなくなった!

アゴの毛も生えてきた!

オレ様の天下だ!



『インコのつぶやき』

あたし、ポンコ。

ピンコと一緒に生まれたんだけど

あの子が目立つもんでノーマークだったの。

ピンコは『バードパレス』って名前の可愛い鳥かご買ってもらって

あたしはダサいお古の鳥かご。

何だか不公平を感じてたわ。

でもピンコがいなくなったから、あたしがバードパレスに引っ越しよ。

やったわ!



『人間のつぶやき』

バードパレスに引っ越して、ルンルンのポンコちゃん。

これからピンコちゃんの身代わりとして

厳しいおしゃべり教育が始まるのですが

そんなことは知らないポンコちゃんでした。

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王女と蛙

2017年09月12日 07時11分13秒 | みりこん童話のやかた
昔むかしのある国に、一人の王女様がおられました。

その国では古くから、高貴なご身分の方々が通われる学校が

決められていました。

王女様も小さい頃からその学校へ通っておられましたが

ある時、校長先生が交代しました。

新しい校長先生は隣の国と仲良しで

ことあるごとに王女様を隣の国との交流に参加させようとします。

不穏な気配を感じられた王女様は、別の学校へ変わることになさいました。


そのご判断が正しかったかどうかはともかく

新しい学校で、充実した学生生活を送っておられた王女様は

やがて一匹のカエルが後ろを付いてくるのに気がつかれました。

「コムロロ、コムロロ」

カエルは鳴きながら、王女様の後を追います。

動物好きな王女様は、このカエルを憎からず思われ

そのままにしておかれました。


本家の伯父様が歯並びの良くない女性とご結婚されて以来

王女様は笑うことを遠慮するように言われておりました。

王女様の美しい歯が人目に触れますと

伯父様の奥様のご機嫌が悪くなるからです。

だからといって仏頂面はできませんから

王女様は常に口元に力を入れ

微笑んでいるような表情をなさっておいででした。


けれどもカエルと一緒の時は、思い切り笑うことができます。

「このカエルの前だと、本当のわたくしになれる‥」

王女様はいつしか、カエルを大切な存在と思われるようになりました。


そんなある日、カエルは突然、人間の言葉を話しました。

「結婚してください」

カエルがしゃべったので、王女様は驚かれました。

「今はカエルの姿をしていますが、僕は本当は王子なのです」

「どちらの王子様ですか?」

「海のほうです」

「‥‥」


あっけにとられる王女様に、カエルは言います。

「悪い魔女に魔法をかけられて、カエルになってしまいましたが

王女様と結婚した時、僕は人間に戻れるのです」

「本当ですか?」

「本当です。

さあ、幸せになりましょう」

優しい王女様はカエルの言葉を信じて、コクリとうなづかれました。


それからのカエルは、鳴き方が変わりました。

「コクサイコウリュウ、コクサイコウリュウ」

そのうち、母ガエルも顔を出すようになりました。

「オンナデヒトツ、オンナデヒトツ」

と鳴きながら、息子の後を付いて歩きます。

それは人々の目に、奇妙な光景として映りましたが

カエルの家には姿見が無いので

自分たちが普通や一般的という基準から外れていることには

気づいていませんでした。


一部の敏感な人々は大いに怪しみ、カエルの素性をとやかく言い始めました。

「定職が無いのに、どうやって生活していくのだ」

「国籍と家系図を明らかにしろ」

「父ガエルと祖父ガエルの自殺について説明がない」

「母ガエルとカルト宗教の関係はどうなっている」


カエルは持参金目当てと言われれば、これ見よがしに食費の節約本を買い

フリーターと言われれば、正規職員を公言しました。

しかし哀しいかな、そこはカエル。

王女様に食費2万円の生活を強いるつもりか‥

弁護士を目指している話は嘘だったのか‥

と、人心をますます不安に陥れるとは考えつきません。


けれどもカエルのツラに小便とはよく言ったもので

「人は何と言おうが、let it be」

カエルは明るく笑うのでした。

王女様が幸せになられるかどうかはわかりませんが

少なくともカエルは幸せになれそうです。


(この物語はフィクションであり、実在の人物や団体とは関係ありません)
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ある噂

2017年06月11日 08時41分00秒 | みりこん童話のやかた

跡取りがナンだし‥




嫁もナンだし‥





「海外、海外」言うもんで、出しゃあボロ着て恥かくし‥





出さなきゃ犬にお手振りさせるし‥





一生懸命、気遣ってきたけれど‥





この頃は孫まで、今ひとつようわからん‥




能力が怪しまれている‥




脳力が怪しまれている‥




身体も心配‥




頭も心配‥



そこで発表‥

早めに交代します‥





国民「えっ?!」


国民「ほんと?」




写真と本文は関係ありません。

《続くかも》


画像は皇室全般掲示板様、雅子様大好き様より拝借させていただきました。
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クラブ・竜宮城

2016年12月30日 10時24分35秒 | みりこん童話のやかた
ようこそ、クラブ竜宮城へ。

私がママのキン子です。

赤い盛り髪がトレードマークですの。


今夜のお客様は、黒田さんと前田さん。

今年はお二人ともお忙しかったようなので

リラックスしていただけると嬉しいわ。


可愛い女の子も揃っております。

どうぞよろしく。



ところで今日は、ブログ開設からちょうど3000日目。

2008年の10月、ブログなるものに手を出して以来

もう3000日も経ったんですね。

コメントしてくださる皆様の優しさに支えられ

今日まで続けることができました。

本当にありがとうございます。


夫の浮気ネタから始まり、身の回りの出来事

人間関係、世相など様々なテーマに触れてまいりました。

大したことを載せているわけではありませんが

真実と客観を柱に行ってきたブログライフを

今後もできる限り継続させていただく所存でございます。

改めてよろしくお願い申し上げます。

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まさかさま・嫁姑篇

2016年12月20日 08時19分25秒 | みりこん童話のやかた
森のお屋敷に嫁がれて、心のご病気ということになられ

いつまで経っても温かく見守って欲しがるまさか様。

ご要望通り、温かく見守り続けた村民ですが

十年を超えますと「いい加減にしろ!」と言い始め

次の当主様になられる予定のご長男を心配する声も

大きくなりました。

「女房一人に手を焼くようで、当主様が務まるのだろうか?」


村人たちの疑問は、当主様ご夫妻にもおよびました。

「舅、姑として、まさか様にご指導なさる様子もなく

黙認しておられるのはなぜか?」

中でもお姑様であるマチコ様に対する疑問の声は大きいようです。


高貴なお生まれの当主様に解決を求めても

無理なのは誰でもわかっています。

村人たちの期待は、マチコ様に集まりました。

民間出身なので、浮世のことが多少はわかっておられるだろうし

才媛ともうかがっているからです。


お美しいだけでなく、賢くて思いやり深いマチコ様‥

マスコミの喧伝する内容が真実であれば

きっと鮮やかに解決されるに違いありません。

その手腕を見たいのもありましたが

人は、間違った者が権力者に諭されて反省し

心を入れ替えるドラマを見るのも大好きです。

十年、二十年‥村人たちはその時を待つのでした。


けれども心待ちにしていた瞬間は、いっこうに訪れません。

あてが外れた村人たちは

マチコ様を女神と信じて過大評価していたことに気づきました。

そして、まさか様を黙認し続けるマチコ様を

疑惑の目で眺めるようになったのです。


「黙認以外に無いでしょう」

村に住む、自称・嫁姑研究家のみりこんさんは言います。

この人は、ちょっと義理親と暮らしているからといって

すっかり研究家気取りの厚かましいおばさんです。


そう言うと、このおばさんは怒るのです。

「何を言う!

うちの姑は、マチコ様と同年代であるぞよ!

マチコ様と姑を並べるのは恐れ多いが

姑と暮らしてみたら、多少のことは理解できるのじゃ!

控え、控え〜い!」

まったく、かわいげのないおばさんです。


そのみりこんおばさんは言います。

「あの年代の一般女性は、きついとか、怖いと言われるのを忌み嫌います。

たとえば自他共に認める鬼のような女性であっても

“きつい”とだけは絶対に言われたくありません。

“怖い”なんて言われたら、大ショックです。


戦前生まれで戦中育ちの子供は、いわば非常時の申し子。

戦争に行く予定の男の子と違い、銃後に残る予定の女の子は

大人にとって扱いやすい人間になる必要がありますから

おとなしく従順な女性を尊ぶ教育が行われました。

そのため、突出した激しい性格を恥とする意識が強く

個性という言葉が普及してから生まれた人とは、感覚が違うのです。


戦前生まれの戦中育ちというと

いかにも根性があってたくましそうですが

根性があってたくましいのは、戦時中に大人だった親の代です。

戦後に成人した、あの年代の女性は意外と合理主義。

柔軟な合理精神で、交通や情報、電化製品などの

目まぐるしい発展に順応してきました。


合理的にできていますから

頑張っても成果の得られそうにない事柄とは戦いません。

ガミガミ言って、きつい姑という不本意な称号を得ても

恨まれるだけで、嫁は変わらないことを知っています。

自分がそうだったからです。


しかもまさか様のお輿入れに最も熱心だったのは、マチコ様。

まさか様を逃すと、お屋敷に釣り合う高貴なお家柄から

お嫁さんが来てしまう予定だったからです。


嫁姑の体験が無い人には想像もつかないでしょうが

どこの姑も、嫁の方が上というのは、そのまま屈辱です。

顔、頭、性格などもそうですが

特に家柄に関する屈辱は大きいものです。

努力や手術や言い訳ではどうにもならないからです。

民間出身のためにご苦労されたマチコ様にとっては

今までの半生が全否定される気分といっていいでしょう。


そこで、ご長男の恋をそっと後押しするという形で

まさか様を推されましたが

これが大ハズレとくれば、重大な責任問題ですよ。

嫁を叩き直そうと奮闘しても無理

ミスを認めて謝罪したって何の解決にもならないとくれば

無かったこととしてスルーしかありません。

これこそが合理的手段です。


ことに高齢ともなりますと、自分の行いや他人の言動で

心を波立せるのはしんどいものです。

マチコ様も立派な後期高齢者。

お気をもまれたり、お心を痛められると寿命が縮みますから

黙認しかないのです」


みりこんおばさんはそう言って、この写真を取り出しました。



1994年2月21日(平成6年)
お舅さんの還暦祝



翌日の1994年2月22日


「結婚翌年にやらかした、偽装妊娠の一発芸です。

世間には、こういうオイタをするお嫁さんもいるのです。

注意や指導の段階を超越しているのがおわかりでしょう。

こんな嫁が来たら、ホラーですよ。

周囲は愕然とした後、怖くなって何も言えなくなります。

触らぬ神に祟りなし。

くわばら、くわばら」


どっとはらい。


この物語はフィクションであり

実在する団体や人物とは一切関係ありません。
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まさかさま・ファッション篇

2016年12月05日 15時40分19秒 | みりこん童話のやかた
森のお屋敷に嫁がれた、まさか様のファッションは

本家のご長男の嫁という強いお立場と、豊富な予算によって

遠慮なく繰り出される豪華版です。

最初のうちこそ、お祝いムードの追い風参考記録もあいまって

「素敵」「お美しい」などの声も聞かれましたが

黄褐色のお肌のまさか様を引き立てる衣装となると

なかなか難しいようでした。


いえ、まさか様がお悪いのではありません。

デザイナーが悪いのです。

お屋敷付きのデザイナーは、良家の子女しか取り扱いません。

良家の子女というのは、色白で上品なかたが多いため

デザイナーは、上品なかたをより上品に見せる‥

つまり最初から仕上がっているものに少し手を加える

ゲタ履き工法しか知りません。

ウルトラCで大逆転の実力は、培われていないのです。


まさか様のお肌に映える色は、イエローゴールドか

誰でも似合う白しかありません。

この二色はご婚約とご結婚の時に使われ

その後も、ここ一番のシーンで頻繁に使用されていますが

それだけで一生を過ごすわけにはいきません。

色とりどりの衣装をひねり出す義務があります。


似合わない色の時は、まさか様を白塗りにしてみたり

色の方はあきらめて胸元のデザインに凝り

お顔から視線をそらす撹乱法を用いたりして

試行錯誤を繰り返しますが、やはり今ひとつ。

村民も次第に飽きてきて

まさか様のファッションを賛美する声は次第に消えました。


療養生活が長くなりますと、お身体への負担が少ないということで

たまのお出ましは地味な色合いのパンツスタイルが多くなりました。

これがまた、似合わないだの陰気だの

訪問先をナメているだのと、ご評判はかんばしくありません。


「確かにパンツは、スカートよりも格下の装いですが

今のまさか様が安心できるお衣装は、パンツだけなのです」

自称・お屋敷ファッションウォッチャーのみりこんさんは言います。

この人、自分はイモなのに

人の着る物にはいちゃもんをつける、図々しいおばさんです。


そう言うと、このおばさんは怒るのです。

「何を言う!

私が子供の頃、ファッションのお手本はお屋敷だったのじゃ!

女の子のお出かけ着は、抑えた色調のアンサンブルに

帽子かヘッドドレスが当たり前だったのだぞよ!

今じゃそんな格好してたら笑われるぞ!

控え、控え〜い!」

まったく、嫌なおばさんです。


そのみりこんおばさんは言います。

「パンツスタイルのまさか様は

パートの面接を受けに行くおばさんそのものです。

どんなおしゃれも思いのままのご身分でありながら

働く庶民のスタイルに手を伸ばす。

遊び暮らしつつ、楽な衣装に走る。

そこが皆さんのシャクにさわるのです。


けれどもまさか様は、わざとやっていらっしゃるのではありません。

パンツスタイルは、おみ足の甲を隠蔽するためです。

私も太っていた頃に経験しましたが

肥満傾向で運動不足の方に多いムクミの問題です。


爪先の細いハイヒールだと、むくんだ肉が靴におさまりきらず

時間の経過と共に、甲の肉が盛り上がるのです。

それが週刊誌に掲載され、甲が注目されるようになると

早退を心がけるようになられました。

ムクミは時間との戦いですから

お出ましの時は、ひどくならないうちにお姿を消すわけです。


しかし今度は、この早退に非難が集中しました。

そこでまさか様は、ダイエットや体質改善よりも隠蔽を選択され

なるべくパンツを選ばれるようになったのです。


お召しになるパンツは、甲の肉が盛り上がって溜まる

靴の履きこみ部分が完全に隠れなければなりません。

絶対に甲が出ないデザインとなると、丈が長め、スソ幅が広めで

動いても揺れず、しゃがんでもめくれない

ハードな生地のパンタロン型に限定されます。

するとどうしても、昭和の古臭さが漂います。

猫も杓子も、厚底の靴に長めのパンタロンをかぶせて

足長に見せようとした、あの昭和です。


そこへシワの寄った、きつそうな上着を組み合わせ

アクセントにザンバラ髪を広げれば、だらしない印象は欲しいままです。

お金に糸目をつけずにおしゃれができるお立場にありながら

ファッションがコンプレックスの隠蔽で終わってしまうのは

もったいないことです」

みりこんおばさんは、残念そうに言います。


「とはいえ、コンプレックス隠蔽が

ファッションの第一条件になってしまうのは

お姑様が元祖です。

このお方について、あれこれ申し上げるつもりはありませんが

ファッションだけはいただけない。

長年の着道楽がいっこうに功をなさなず

珍妙なファッションのまま、とうとう半世紀越えです。


呉服界垂涎の見事な“なで肩”をお持ちで

和服の着こなしは素晴らしいのですが、お屋敷の正装は洋装。

お洋服やドレスは着映えがしません。

そこで編み出されたのが、巨大な肩パットのケープスタイル。


このケープスタイルは

ご主人である当主様よりも肩幅が広くなってしまうのと

上半身だけがいかつくなって全身のバランスが取れないため

不評で、憧れる者とていませんでした。

しかしこのような時はなぜか

“お屋敷の関係者によると‥”という文面で始まる週刊誌によって

麗しい言い訳が広められるのが恒例です。


ケープについては

“寒い時期にコートを着ると、脱ぎ着に手間どり

村民と触れ合う時間が少なくなってしまうため

コート無しでも暖かいケープをご考案された”

という理由が広められました。

それを聞いた村民は深いお考えに感動し、口をつぐんだものです。


なで肩隠蔽のためなんて、言っちゃダメですよ。

ましてやケープは、尊敬なさるローマ法王とお揃いのデザインだから

なんて、絶対言っちゃいけませんよ。


ちなみにお帽子についても、深いお考えが伝えられました。

ツバ広の大きなお帽子だと

村民にお顔を寄せてお話ができないからだそうです。

これを聞いた村民一同、あまりの思慮深さに思わずコウベをたれ

コミカルなお帽子に触れることは控えたものです。


お屋敷のご先輩にお帽子のかぶり方を注意され

それ以来、お帽子がどんどん小さくなって花笠に変貌した、とか

花笠はお屋敷のしきたりに無いから、誰も注意できない、なんて

言っちゃダメですよ!


ただしお帽子は小さくなっても、ケープの肩パットに阻まれて

お顔はなかなか寄せられません。

そこで、この名言が誕生したのです。

“心を寄せる”。

キャー!そんなこと、言っちゃダメダメ!」


「言ってないし!

全部、あんたが言ってんじゃん!」

村人たちのブーイングをよそに、みりこんおばさんは涼しい顔で

こう付け加えるのでした。

「隠れた共通点がある嫁って、かわいいもんらしいですよ」


どっとはらい。


この物語はフィクションであり

実在する団体や人物とは一切関係ありません。
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どちらさま

2016年12月01日 23時01分27秒 | みりこん童話のやかた
下は13才の春。

こちらはご本人と思われます。






下は14才のお誕生日。

これはあまりにも大胆。





《妄想》

思春期に入って、本物の成長と足並みが揃わなくなり

たくましいOLみたいな写真になったため

以前よりささやかれていた替え玉説が信憑性をおび

ダイエットの勅命がくだる。



そして15才のお誕生日。




《妄想》

ダイエットは簡単ではなかった。

やりすぎた。

誕生日の写真撮影は避けられないため

学校を休んで体重増加に専念

何とかここまで体重を取り戻した。



画像は優秀なブロガーさんからお借りしています。
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まさかさま・報道篇

2016年11月23日 14時35分36秒 | みりこん童話のやかた
森の高貴なお屋敷の嫁、まさか様のご病気が長引くにつれ

村人たちの心配は増えていきました。

まさか様のご体調を案じる者は、すでに誰一人いません。

お屋敷と、村の未来への心配です。

その心配の中で、最大なのがこれ。

「ご主人であるご長男をそそのかして、お屋敷のしきたりを変え

一人娘のサイコ様を女性当主にまつり上げてしまうのではなかろうか」


単なる取り越し苦労とは言えません。

何しろご長男は、まさか様のために

公の席で爆弾発言をなさった実績があります。

「まさかのキャリアと人格が否定される言動があったということです」


父親のコネで就職したものの、使えないと評判で

主な仕事がコピー取りだったキャリアと

周囲がこぞって首をかしげる人格に

少々の否定があったとしてもどうってことなさそうなものですが

年取って迎えた女房がかわいいのは、世の常です。

奥様に崇高なキャリアと人格が存在すると信じ

お屋敷といえど、たかだか一組の夫婦仲のために

村中を巻き込んでどや顔のご長男に

人々はいちまつの憐憫を感じると同時に、多くのことを理解しました。


まさか様がご婚約発表の席で暴露なさった

「僕が一生お守りします」とは

このように短絡で稚拙なものだと知った脱力‥

この分だと先で何を言い出すか、わかったもんじゃない危惧‥

やがて人々は、こう言うようになりました。

「次期当主様には、ご次男の方がふさわしい!」


自称・お屋敷観察家のみりこんさんは

この現象をもっともなことだと認めつつ

「より多くの人がお屋敷に注目するようになったのは

とても良いことですが

報道に踊らされないよう、注意が必要です」

と、したり顔で言います。

この人は戦争に行ったお祖父さんと、軍人の娘だったお祖母さんが

筋金入りのお屋敷尊敬派だったため

ごく小さい頃からお屋敷に注目して育ったのをひけらかす

口うるさいおばさんです。


そう言うと、このおばさんは怒るのです。

「何を言う!

祝日には玄関に旗を掲げ

お屋敷のことが報道される新聞やテレビの前では正座に座り直し

わたくしごとよりもまず、お屋敷の弥栄をお祈り申し上げる

トラディショナルな家庭で育った私じゃ!

お屋敷がおかしくなった今になって興味を持つ者は多いが

うちでは祖父母の代から興味しんしんだったのじゃ!

控え、控え〜い!」

まったく、面倒臭いおばさんです。



そのみりこんおばさんは言うのです。

「ご次男を当主様に、と望む村人は増えています。

私とて、淡い期待が全く無いとは言い切れません。

美しく、賢く、どこへ出しても恥ずかしくないご次男夫妻が

村の代表としてすっくと立たれるお姿を想像してごらんなさい。

考えただけで誇らしい気持ちになります。

ドタキャン、ドタ出も無く

無期限で温かく見守って欲しいなんて甘ったれたことは

口が裂けてもおっしゃらないはずです。


しかし高貴とは元々、理不尽で非合理なもの。

序列の前には、人柄や能力など関係ありません。

あっちがダメだからこっちという、利便と合理性は通用しないのです。

すでに存在しているものを却下して

新しいものを持ってくるという道は、高貴にはありません。


あるものは使います。

ザンネンだろうがナンだろうが、何が何でも使います。

お屋敷が高貴なのは、反逆や下剋上による

当主交代の歴史を持たないからです。

野望、陰謀で穢れていない、無傷の座だから玉座なのです。

人気や人望でどうにかなる類いのものではありません。

逆説的に言えば、あるものは使うわけですから

今はお小さいご次男のお坊ちゃんが

やがて当主様になられることも明白です。


村民の意見が高まったからといって

ご次男は、“そうですか?それじゃ‥”と玉座に座られるでしょうか?

そのようなお方でないことは、皆さんも本当はご存知のはずです。

男子輩出という大手柄を立てながら

ご自身のはたすべきお役目を熟知され、ナンバー2に徹する‥

そのお姿に武士道を見るからこそ、ご次男に惹かれるのではありませんか。


ご長男の方は、あれはあれでしょうがないのです。

良妻や優秀性は、高貴の必須アイテムではありません。

あればなお良いですが、そこまで望むのは欲張りというものです。


当主様は、社長業とは違います。

リーダーを求めてはいけないのです。

打てば響くような性質であれば、精神的に無理がきます。

ご次男はお若い頃から、お兄様の特徴をちゃんとお察しで

今までも、これからも、サポートを続けられます。

それが使命だからです。


ご静養もご鑑賞もお仕事としてカウントされ

大々的に発表されるご長男夫妻と

ハードワークをこなされるが、報道は地味なご次男夫妻との不公平に

危機感を抱く必要はありません。

ご長男一家のことを報道すると、村民は先行きが心配になり

不安を感じます。

保険業に代表されるように、不安は商売になります。


次の当主様が、ご長男で大丈夫なのか

まさか様は、ずっとこのままのおつもりか

どれが本当のサイコ様なのか

男系のしきたりを破って、ザ・サイコ様シスターズのどれかの子が

女性当主になったりしたら、村は終わりじゃないのか‥

たくさんの人が心配し、不安になります。


人は不安に対してお金を惜しみません。

自分の抱く不安がどの程度なのか、知りたくなります。

不安をあおると、新聞雑誌や関連本が売れます。

テレビは視聴率が上がるので、スポンサーが付きやすくなります。

安心、安定のご次男一家より

不安を感じさせるご長男一家を出した方が儲かるのです。

報道の内容が物議をかもせば、なお儲かります。


人はセレブも好きですが、疑惑と不幸も大好きです。

この3点セットが不安をかもし出せは、もはや立派な“商品”。

売りたい商品を目立つ所に陳列する、それが商売というものです。

商売を念頭に置きながら観察すれば、より楽しめると思います」


どっとはらい。


この物語はフィクションであり

実在する団体や人物とは一切関係ありません。
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まさかさま・ご病気篇

2016年11月17日 09時43分31秒 | みりこん童話のやかた
森のお屋敷に嫁がれて、心のご病気が長引くまさか様。

何年経っても相変わらず、乗り気なことには絶好調。

そうでないことには、ご体調の波が訪れる様子に

不審がる村人たちが増えてきました。


「理解できないもどかしさを

心のご病気で片付けるから

おかしなことになるんじゃないでしょうか」

村に住む、自称・小姑研究家のみりこんさんは言います。

この人は、ご主人のお姉さんが

ちょっとばかり変わり者なのを鼻にかけ

すっかり研究家気取りのおばさんです。


そう言うと、このおばさんは怒るのです。

「何を言う!

うちの義姉は、まさか様にそっくりだぞよ!

見た目は違うが、中身は同じなのじゃ!

控え、控え〜い!」

まったく、厄介なおばさんです。


そのみりこんおばさんは主張します。

「あれは病気じゃなくて、性格です。

まさか様と義姉とでは、周囲のとらえ方が異なるだけです。

庶民であれば変人ですみますが

注目を浴びるおうちに変人がいては、何かと不都合。

始末に困って病気ということになったのです」



みりこんさんの義姉こすずさんは、36年前

一人っ子の銀行員と結婚しました。

田園地帯の兼業農家で、ご主人の両親と同居です。

両親は、こすずさんに多産と農作業への期待を明言する

伝統的な田舎の人。

この結婚は続かないと、誰もが思いました。


が、案ずるより産むがやすし。

こすずさんは新婚早々、この悪条件を見事に打破します。

ご主人の安月給と、自分の弟の嫁が無能であることを理由に

実家の会社を手伝う正当性を主張。

毎日の里帰りを承認させ、日常の農作業は免除されました。


何かと慌ただしい農繁期には、病気で対処。

風邪、疲労、頭痛、胃痛、腰痛‥体調の波は頻繁で

その都度実家へ泊まり込み、長期に渡るご静養です。

もちろん仮病ですが、農業に不向きな虚弱と印象付けることで

就農問題は片付きました。

虚弱の印象操作と、1年の半分以上はご主人と別居という

生命誕生における物理的事情により、子供も一人っ子ですみました。


こんなことをすると、居心地が悪いのでは?

人はそう思うでしょうが、心配ご無用です。

こすずさんは両親と口をききません。

商業大学を卒業した経理のプロに多産と農業継承を強要して

人格とキャリアを否定する相手は敵だからです。


役立たずもいっそ突き抜けると、周りが遠慮して機嫌をうかがい

腫れ物に触るがごとく丁重に扱うようになるものです。

頼りの息子は妻の言いなり‥

何か言えば若夫婦の家庭を壊すことになりかねず

可愛い孫と会えなくなるかもしれない‥

この環境に耐えかねたご主人の両親が

母屋を出て新築した離れに移るまで、2年もかかりませんでした。


「こうして義姉は、農家の嫁という伝統に打ち勝ち

ぬるい生活を手に入れたのです」

みりこんさんは言います。


「やがてお屋敷にまさか様が嫁がれ、ご病気が噂されるようになると

この手段が義姉に似ていると思いました。

よく見れば、キョロキョロおどおどした態度も似ていますし

黒人を異様に恐れ、病人や老人などの弱者をひどく嫌うところや

人の不幸をことのほか喜ぶ、会話が続かない、お辞儀がヘタ

気に入った異性には執拗に話しかけ、そうでない相手は徹底無視

普段は人目を気にするおしゃれさんなのに

ここぞという時にボロをまとって現れるなど

まさか様と共通点が多く、同じ性格だと確信しました」


「まさか、衣装ストーカーまで同じじゃあるまい」

村人はせせら笑いますが、みりこんさんはかまわず続けます。

「なんとおっしゃるウサギさん。

義姉は昔から、人の服装や持ち物を真似る習性があります。

記憶しているところでは、田丸美寿々さんというキャスターが発端です。

名前が似ていることもあり、彼女の服装や髪形、仕草まで

徹底的に模倣していたものです。

田丸さんがテレビに出なくなると、別の人を何人か経由した後

ここ十年は黒木瞳さん一筋。


この習性は憧れの対象だけでなく

時にライバルや、見下げている相手にも摘要されます。

同じような服装をしたり、似た品物を手に入れて

“私の方が素敵”と知らしめるためです。

こういうところが、理解しにくい部分なのです。


私も彼女の見下げメイトの一員ですから

結婚前の嫁入り箪笥(たんす)を皮切りに、何度かありました。

見下げメイトに対する模倣の場合、相手より少し高い物を選びます。

箪笥の場合、店も材質もデザインも同じでしたが

取っ手の細工の違いにより、金額に数万円の差が出ました。

この差が、生涯彼女を満足させます。


“私の方がちょっと高い”

何度も独り言のように繰り返す義姉の真意に

若かった私は気づきませんでした。

お揃いの箪笥を選んだのは友好の印だと思い込み

近づいては痛い目に遭いました。

長い誤解の旅でしたが、義姉が悪いのではないのです。

普通の女性だと思い込んだ私がいけなかったのです。

まさか様は、そのことに気づかせてくださった恩人です」


そしてみりこんおばさんは、笑顔でこう結ぶのでした。

「お屋敷の方々はお育ちが良く、お優しいため

一生懸命まさか様を理解しようとなさいましたが

上品な方々には無理というものです。

そこで平和的解決のため、ご病気ということになったのです。


考えてもごらんなさい。

本当にご病気なら、お立場がお立場だけにご自分を責めて苦しまれ

申し訳なくて人前にヘラヘラ出られませんよ。

いつまで待っても治りゃしません。

病気じゃなくて性格なんですから」


どっとはらい。


この物語はフィクションであり

実在する団体や人物とは一切関係ありません。
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まさかさま・ヤフオク篇

2016年11月07日 10時10分16秒 | みりこん童話のやかた
森のお屋敷に嫁がれて

心のご病気になられたといわれるまさか様。

ご病気なのか、あるいは仮病なのか

見分けがつかないままに長い年月が経ち

まさか様は「ロイヤル・ニート」という

なんとも気高い称号で呼ばれるようになりました。


それでも村人たちは、祈る思いを捨てきれませんでした。

本当にご病気であっても、あるいは仮病だとしても

「いつかきっと、目覚めてくださる」

そう信じていたのです。

けれども皮肉なことに、目覚めたのは

まさか様ではなく一部の村人たちでした。


「まさか!」

ある時、彼らは叫びました。

見てはならぬものを見てしまったからです。

誰でも参加できるオークションに

勲章、刀剣、小物、お召しもの

乗り物のお籠(かご)、調度品など

ご先代様やごー族の遺品が、たくさん並んでいたのでした。


「トプカプ宮殿」「菊栄」と名乗る二人の人物によって出品された

数十点の品々は、総額数千万円にのぼる珍品揃い。

それもそのはず、お屋敷に伝わり

大切に保管されているはずの品々ですから

珍品しか無いのでした。


このような物を個人が大量放出できるとなると

さしあたって考えつくのは泥棒です。

盗品であれば、大変なことです。

お屋敷に泥棒が入り、窃盗が行われたことになります。

警備の行き届いたお屋敷に忍び込み

大小さまざまの品をまんまと盗み出せるのは

ルパン三世並みの大泥棒に違いありません。

しかし警察は、なぜか動きませんでした。


泥棒でなく、承知の上で行ったとすると

お屋敷の経済がひっ迫していることになります。

財政難で売却に踏み切ったとすれば

これもやはり大変なことです。

村を挙げて救済しなければなりません。

しかし村長以下、村議会は知らん顔です。


泥棒でも財政難でもないとすると

お屋敷のどなたかのしわざということになります。

これは最も大変なことでした。

伝統を現金に変えようとする大馬鹿者が

高貴なお屋敷に生息していることになるからです。

しかしお屋敷は、沈黙したままです。


村人たちが騒ぎ出したためか

オークションに出品されたおびただしい品々は

取り下げられました。

出品に至る経緯を詮索されると都合が悪いことは

間違いないようです。


これをやったのが誰なのか

一部の村人たちには想像がついていました。

出品された品の幾つかに、それをカメラで撮影する人影と

撮影された部屋の様子が写っていたからです。


写り込んだ背景は普通の家屋ではなく、洋風の豪華な御殿。

一般的でない家に住み、鏡面加工の金属が

文字通り鏡の役割をしてしまうことに気づかず

オークションなんかに出したら大変なことになるのも知らない

世慣れぬ人物であることは確かです。


カメラを持つ手つきとヘアスタイルが

カメラ好きと言われるあのお方に似ていること‥

別の出品物に写り込んでいた顔が

あのお方の奥様の妹様に似ていること‥

出品されたポートレートのうち

あのご夫妻の写真だけがケタ違いに高値のスタート‥

全ては闇に葬られたため、真相は謎ですが

例のご夫妻ではないかとささやかれるようになりました。


この一件以来、一部の村人が前々から

何となく抱いていた疑惑は

彼らの心の中で大きくなっていきました。

お屋敷が、何やら大きな勢力に取り込まれ

いいように操られているような疑惑です。


けれどもそれを口に出し、問題にすることははばかられます。

ナンなのは知っていても、まさかここまでとは

誰しも思いたくありませんし

これほどの大問題をなぜ皆が揃って黙認しているのかを

薄々は知っていたからです。


あのお方の奥様の元カレと言われる男性が2人

偶然にも海外で非業の死を遂げています。

海外に強いといえば、奥様のお父様‥

などと言っている場合ではありません。

余計なことを言っていると

自分の所に偶然が訪れるかもしれないので

滅多なことは言えないのでした。


誰もオークションのことを究明しないまま

時効が満了になった翌年

お屋敷の当主様が村民に向けて

お気持ちを発表されることになりました。

村民一同は固唾を飲んで見守り

「年だから退職して譲りたい、摂政制は嫌」

という内容に、賛同したり異を唱えたりしました。


オークションの一件を知る一部の村人たちも

同じく固唾を飲んで見守り、そしてうなだれました。

まさか「長男一家がナンで困る」とか

「オークションとは何の関係もありません」

などとはおっしゃらないだろうけど

少しは次代を考慮したご発言が

あるかもしれないと思っていたからです。


血統と序列で織られたカーテンの向こうには

人柄や能力とは無関係の

庶民に計り知れない世界が存在するようです。

それを高貴と呼ぶ者あり。

闇と呼ぶ者あり。


どっとはらい。


この物語はフィクションであり

実在する団体や人物とは一切関係ありません。
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まさかさま・芸風篇

2016年11月03日 10時00分46秒 | みりこん童話のやかた
森のお屋敷に嫁がれて、心のご病気になられたまさか様。

「少しずつ快方に向かっている」

「徐々に回復の兆し」

「次第に回復してきている」

「回復の兆候が見える」

これを十何年も繰り返しますと

真面目に聞く人は誰もいなくなりました。

バカにしているのか!という声も

次第に大きくなりました。


「バカにしておられるのではありません」

村に住む、自称・芸能評論家のみりこんさんは言います。

この人は以前、ちょこっとエキストラをやったのが自慢で

すっかり芸能界に詳しいつもりのおばさんでした。


そう言うと、このおばさんは怒るのです。

「何を言う!

私はこ◯らけ◯ごのブサイクな女付き人から

“役作りの邪魔になりますから話しかけないでくださいねっ!”

と注意を受けたのだ!

ヤクヅクリ、だぞよ!

こんなに古典的な注意を受ける者は滅多といないぞよ!

しかも朝ドラ見てなかったもんで

話しかけるどころか芸能人と知らず

無視っていたのに、だぞよ!

控え、控え〜い!」

まったく、食えないおばさんです。


「あれは芸風です」

そのおばさんは言うのです。

「たまに出てきて、手を振られるのが

すっかり芸風として定着したのです。

ごらんなさい。

いかにもやっつけ仕事に見せる、あの技術!

あれは生半可な芸ではありません。


目線とおへそを同じ方向に揃えると

上品で誠実な印象を与えてしまいます。

ご次男の奥様が、常にこれをやっていらっしゃいます。

ですが、オリジナリティを追求なさるまさか様の場合

おへそは進行方向に向けたまま、首だけ動かして

目線だけを村人に向け、手を振られます。

これがいかにも横着そうな雰囲気をかもし出し

“来てやったぞ、喜べ!”

と言いたげな、やっつけ仕事の芸となるのです。


目線をあえて、おへそと別の方向に向けることによって

目つきはどうしても、横目や上目遣いになります。

それが物欲しげや媚び、やぶにらみといった

えもいわれぬ表情を作り出します。

この技術は、一朝一夕では身につきません。


それもそのはず、その昔

ご婚約が整って村人が騒ぎ出した頃のことです。

まさか様のお母様は、お向かいの老婦人にお願いされたそうです。

“まさかが家に出入りする時は、お二階のバルコニーから

手を振ってやってください。

高い所を見上げると、あの子の目が大きく見えるから”

品性よりも目の大きさにこだわる家風が

まさか様に受け継がれ、あの芸風が確立したのです」


「まさか!」

村人たちはせせら笑いましたが

嘲笑をものともせず、みりこんおばさんは自論を展開します。

「まさか様が何をお召しになり、どんなことをやってくださるのか。

今度は何と言い訳して病欠するのか。

次はどこの子をサイコ様だと言って連れて来るのか。

世間をなめくさった人間が、先でどうなるのか。

楽しみな人は多いはずです。

民衆に見たい気持ちを起こさせ、楽しみを与える存在‥

これこそが芸能の真髄ではありませんか」


呆れて、ため息を漏らす村人たちに向かい

みりこんおばさんはこう結ぶのでした。

「お出ましに、“笑点”や“お笑い花月劇場”のテーマ曲が似合うのは

お屋敷にあの方しかいらっしゃいません!」


どっとはらい。


この物語はフィクションであり

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まさかさま・お姑様篇

2016年10月26日 10時54分08秒 | みりこん童話のやかた
森のお屋敷に嫁がれて

心のご病気になられたまさか様。

療養生活が長引いてきますと

「本当にご病気なのか?」

と不審の目を向ける村人が増えてきました。

しもじもの立場から眺めて

明らかにかったるそうなことは病欠され

明らかに楽しそうなことには

率先してお出ましになるからです。


「少しは休み方が上達しそうなもんだが

こうもあからさまでは‥」

村人たちは渋い顔でささやき合いながら

まさか様のお舅様とお姑様である

お屋敷の当主ご夫妻を案じるのでした。

「跡取りの嫁がこれでは、さぞかしご心痛だろう」


そして10数年が経った頃

当主ご夫妻を案じ続けた村人たちの心には

こんな疑問が生まれていました。

「嫁にご指導はなさらないのだろうか?」

当主様はともかく、お姑様のマチコ様には

まさか様を教え導くお役目があるのではないかと

村人たちは思ったからです。


とはいえ、それがいかに空虚な発言であるかは

彼らにもよくわかっていました。

息子が惚れて、迎えた嫁が今ひとつ‥

これを体感する者は、村にも数多くいたからです。


可愛がろうと思えば実家へ逃げる。

孫には滅多に会わせない。

婚家の行事は仮病でサボり、実家の行事は飛んで行く。

優しくすればつけあがり

厳しくするとふくれあがって、可愛い息子が当たられる。

げに嫁というのは

この世で一番扱いにくい生き物なのです。


マチコ様もまた

嫁の扱いに戸惑う姑の一人だということは

しもじもにもわかっていました。

まさか様と同じく

民間から高貴なお屋敷に嫁がれたマチコ様も

お若い頃は、窮屈なお屋敷の慣習に苦しまれ

時折お倒れになったり、ご病気になられて

療養されたご経験がおありですから

まさか様に「ちゃんとしなさい」と

言いにくいであろうことは、庶民にも想像できます。


マチコ様の場合、強い味方がありました。

マッチーブームです。

若く美しいマチコ様は、ご婚約当時から大人気。

ご結婚後、早々とご長男をご出産された頃には

押しも押されぬ大スターで

村人はマチコ様の一挙手一投足に熱狂しました。


スターのマチコ様を敵に回すと、村人が黙っていません。

この際、どちらが正しいか否かは無関係。

マチコ様がお悲しみになったら

悲しませた方が悪いことになり

「嫁いびり」と騒がれます。


この現象によって、村へ嫁いだお嫁さんたちは

ずいぶん楽になりました。

マチコ様が倒れられたり、ご病気になられると

すぐさま犯人探しが行われ

周りが悪者として非難されるさまを

村人たちは何度も目の当たりにしたからです。


嫁いびりをしていると思われたら

何を言われるかわからないので

嫁に対する村人たちの意識は変わりました。

他人の目が光っているという認識が

広く浸透したからです。

嫁の地位を向上させたのは

マチコ様の大きな功績といえましょう。


その功績の代償として、お屋敷は

人気に左右される存在へと変化していきました。

ひとたび味わった興奮を手放したくない村人たちは

お屋敷にアイドルを求めるようになったのです。


マチコ様がお年を召すにつれて

マッチーブームは静かに去り

次のアイドルはまさか様のはずでした。

これがパッとしないとなると

お姑様として心配なのは当然です。


軌道修正したいのは山々ですが

一応はご病気と聞いていますから

へたに干渉して悪化すると大変です。

まさか様の激しい性質もご存知ですから

機嫌をそこねて暴露本でも出されたらおおごとです。

手をこまねき、お心を痛めつつ

ひたすらまさか様のご回復を待つしかないのが

現状でした。


マチコ様にマッチーブームという味方があったように

まさか様にも強い味方がありました。

ご実家のご両親です。

自らを「準お屋敷族」と名乗って何かと口を出し

自分たちの孫であるサイコ様を当主にしたがり

うっかりするとお屋敷を乗っ取られそうな勢いです。

まさか様のご両親の、まさかの行状は

上品なお屋敷の方々にとって脅威でした。


家を守るという大意のためには

多くの現実を黙認するしかない時もあるものです。

それを甘やかしと言われようとも

夫妻が衰えて静かになるか

まさか様が人として成長されるか

その時をひたすら待つしかないマチコ様でした。


マチコ様は、ある機会にこう話されました。

「屋敷に関する重大な決断が行なわれる場合

これに関わるのは当主の継承に連なる方々で

その配偶者や親族が関わってはならないとの思いを

ずっと持ち続けておりましたので‥」


解釈の仕方によっては、お屋敷の重大事に

配偶者と親族が関わろうとする状況が

ずっと続いているということであり

まさか様のご両親に対する牽制と

受け止めることもできるご発言でしたが

いつもながらにオブラート二枚重ねの

遠回しな表現でしたし

マチコ様には、嫁を甘やかす姑のイメージが

すっかり定着していたので

取り立てて話題になることはありませんでした。


どっとはらい。



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まさかさま・海外篇

2016年10月17日 11時08分02秒 | みりこん童話のやかた
高貴な方々の住まわれる

森のお屋敷に嫁がれたまさか様。

心のご病気になられて、長い年月が経ちましたが

ご回復の兆しはありません。


「海外が好き」「海外へ行きたい」

まさか様はご結婚当初から、要望を述べておられました。

そして、それが叶えられないので

ご病気になられたと言われておりました。

「海外へなかなか行けないことに適応するのが難しい」

病名は、まさか様がおっしゃった

このご発言によって決まりました。


「そんなに海外がお好きなら

もっと頻繁に行かせてさしあげたらどうだ」

「海外旅行より男のお子様を生む方が先なんて

封建的過ぎる」

最初の頃、村人たちは憤慨し、まさか様に同情したものです。


しかし年月が経つにつれ

「なぜ海外へ行かせてさしあげられないか」

その理由が、何となくわかる村人が出てきました。

まず、ファッションに敏感でおしゃれな者です。

お屋敷の女性たちのファッションを楽しみに眺めるうち

お身内やお客様と同じ色のお洋服をお召しになり

ご満悦のまさか様に気づいて

強い違和感をおぼえるようになりました。


次は、上流階級のマナーに詳しい者が気づきました。

衣装かぶりは、仲良しごっこや

お茶目ないたずらでは片付けられないからです。


上流階級は身分がすべて。

たとえば真珠のネックレス一つをとっても

上の身分の方より大粒のものは付けられません。

上の方より豪華では失礼になるからであり

張り合うのは下賤のすることだからです。

お屋敷の女性たちは細心の注意を払い

厳格な身分の序列を守っているのです。


この環境で衣装ブッキングした場合、自動的に

位の低い方が礼を欠いたことになりますから

本来は位が高い方ほど気を遣うのがマナーです。

まさか様は跡取りの妻ですから

お屋敷の女性の中での身分は

お姑様の次に位置するナンバー2。

まさか様の行いは、身分を利用した意地悪としか

受け取りようがなく、マナーに詳しい者は

頭をひねるようになりました。


おしゃれとマナーは上流階級の必須アイテム。

これに問題があるとしたら

「一時が万事のザンネンさん」で間違いありません。

この決定に例外が無いことは

おしゃれとマナーの世界を知る者にとって常識です。


彼ら、彼女らは、それぞれに思いました。

「ひょっとして、海外へ行かせないのではなく

ザンネンを受け入れてくれる国が無いのではないか」


そう考える頃には、まさか様は海外で

食欲妻と揶揄されるようになっていました。

とてもよくお召し上がりになるからだそうです。

のどかな村にも外国語のわかる人が増え

庶民でも海外の話を訳せるように

なってきたのでした。

都合の悪いことは村人に隠蔽されますが

遠く離れた海外で、有色の外国人に向けられる目は

冷静で厳しいものなのです。


奥様がナンであっても

ご主人であるご長男がまともであれば

どうにか格好がつきますが、これがまたナンでした。

ご長男は元々、あまり見栄えのしない方ですが

それでも独身の頃は、気品や威厳のようなものが

備わっておられました。

しかしご結婚なさって以降は、恐妻家ひとすじ。


ご長男がナンであることは

海外にもすでに知れ渡っています。

ちょこまかと動き回られるお姿から

小エビと揶揄され、ご評判はかんばしくありません。

端正や優美といった視覚的長所を

持ち合わせておられないご長男は

その点、不利でした。


加えてご長男には、どこへ行かれても

ご趣味のカメラを手離さない困った癖がありました。

降ってもカメラ、照ってもカメラ。


ヨーロッパのある国では

王妃様のお顔をさえぎって、お手を伸ばし

無心に風景を撮影されました。

これは大変無礼な行為で、世が世であり

それを行なったのが庶民であるならば

打ち首になっても文句は言えないお振る舞いでした。


その国の民衆からは非難の声があがりましたが

森のお屋敷は海外においても格が高いため

直接クレームがつくことはありません。

また、真に高貴な方々は口が堅く慈悲深いので

失礼があっても怒ったり笑い者にはせず

温かく見守られます。

そのため、修正の可能性も無いのでした。


ご夫妻がいくら海外へお出かけになりたくても

行けば恥をかきますから

お屋敷の関係者は、出すに出せません。

その上、まさか様の衣装かぶりの問題があります。

まさか様はなぜか

ご自分の行きたい国の要人をターゲットになさるため

嫌われてお招きが無くなるからです。

残っているのは、まさか様が行きたくない国しか

ありません。


出すに出せないお屋敷。

行きたくても行く国が無いご夫妻。

これもマッチングと呼ぶのでしょうか。

どっとはらい。



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まさかさま・4

2016年08月30日 20時38分39秒 | みりこん童話のやかた
「まさか様、ご病気」

そんなニュースが村を駆け巡ったのは

お嬢様のサイコ様が、まだお小さい頃のことでした。

なんでもまさか様は、精神的なご病気だそうです。


「お産の後はホルモンバランスが崩れて

気鬱になりやすいものよ」

村の母親たちはそう言いながらも

口には出さず、ひそかに心配するのでした。

元々あった精神的な問題が

出産を引き金に表面化した女の人というのは

村にもいくつか実例があったからです。

「まさか‥そっちじゃないでしょうね」


まさか様のご病気は

「ご体調の波」というものに支配されているそうです。

この波のしわざによって

できることとできないことが出てくるのだそうです。

「そんなことは気にされず

ゆっくりご静養していただきたい」

村人たちはまさか様を心配し

ご回復を祈るのでした。


3年が過ぎ、5年が過ぎました。

まさか様にご回復の兆しは見えません。

ご体調の波は相変わらず

猛威をふるっている模様です。


そのうち村人たちは

まさか様の「ご体調の波」を

見分けられるようになりました。

家族旅行、レジャー、外食、お買い物

ご実家の方々とのお出かけをされる時は

良い波が訪れるようです。


スキーは何時間も頑張られるし

テーマパークでも長時間、ご辛抱なさいます。

サイコ様のために、ママ友とのお茶やランチも

けなげにこなされますし

高級レストランでのフルコースにも

立派に耐え抜かれます。


そういえば欧米から白人のお客様が来られた時も

波の調子が良いことが多いようで

お出迎えの大任をはたされることもあります。

その懸命なお姿に、村人たちは感動するのでした。


悪い波の方は、お屋敷の法事やお墓まいり

古くから伝わる行事の時に訪れます。

暑い国から来られたお客様をお迎えする時も

波の調子が良くないようです。


「次はお出まし」「今度は欠席」と

賭けや予言で遊ぶ不届き者もいますが

村人たちの多くはカウンセラー気分で

まさか様を苦しめる病気を

理解した気持ちになるのでした。


やがて10年も経つと

人前にチラリとお姿を見せるだけで

「ご体調の波をおして頑張られた!」

「よくおやりになった!」

と、やんやの喝采です。


たまに、ご体調の波が心配される

お屋敷の法事や行事に参加されると

「ご決意!」「お覚悟!」

と、狂喜乱舞です。


一部の村人たちは思いました。

「高みを目指して努力を重ねるよりも

まず、できないと宣言し

周囲をあきらめさせてから

少しやって見せる方が評価が高いようだ‥」

このからくりは、人生を楽に渡るには

効率の良い技術ですが

働かなければ食べていけないしもじもには

適さないところが難点ではありました。


さても世の中というのは

温かいようで冷たいものです。

人は、誇りに思い、尊敬し

憧れる対象を見るのも好きですが

もっと好きなのは「怖いもの」。

怖いもの見たさは、人間の本能です。


村人たちがまさか様を気にかけるのは

人気者だからではありません。

謎と不思議をまとった、怖いものを見たいからです。


心配だ、お気の毒だ、早くお元気に‥

口ではそう言いつつ

いつまでも今のままでいて欲しいのです。

村人たちは、まさか様のなさることに

驚いたりあきれたり

頭をひねったりし続けたいのです。

このまま老いたらどうなるかも

見てみたいのです。


今さら回復されて、普通になられては困ります。

刺激が無くなると、面白くないからです。


村人たちの本心を

まさか様がお知りになったら

きっと、こうおっしゃるでしょう。

「まさか!」






この物語はフィクションであり

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まさかさま・3

2016年08月27日 10時55分42秒 | みりこん童話のやかた
高貴な方々の住まわれる

森のお屋敷に嫁がれた、まさか様。

ご結婚されたら、待たれるのはお子様です。

ことに森のお屋敷では

代々男の子が家督を継ぐ決まりがあります。

男児の出産は、希望というより義務でした。


まさか様にご懐妊の兆しは

なかなか訪れませんでした。

「子供はコウノトリのご機嫌にお任せして‥」

ご婚約の際、ご長男は名言をおっしゃいましたが

コウノトリのご機嫌は、ずっと良くないようです。


気をもんで8年、とうとうまさか様は

可愛い女の子を出産されました。

村は大きな喜びに包まれ

「やがては男の子もお生まれになるだろう」

誰もがそう思いました。


生まれた女の子は「サイコ様」と名付けられ

それはそれは大切に育てられました。

大切にされ過ぎて、滅多に人目に触れることは

ありません。


隠されると見たくなるのは人の常。

村人がうるさくなると

チラッと見せてくださいます。

それを見ては

「大きくなられた」

「いっそう可愛らしくおなりあそばした」

と目を細めながら、次のお子様を待つ村人たちでした。


何年かが経ちましたが

次のお子様がお生まれになる気配は

いっこうにありません。

コウノトリのご機嫌は、再び悪くなったようです。


お屋敷の存続について、村はかしましくなりました。

男系男子が家督を継ぐという厳格なルールで

野心の発生を抑制し

血なまぐさい後継者争いを回避しながら

長い歴史をつないできたことを知らない馬鹿者は

「男女同権の時代なんだから、決まりを変えて

女の子が当主になってもいいじゃないか」

などと、とんちんかんなことを言い出す始末です。


そんな中、すでに2人のお嬢様の母である

ご次男の奥様がご懐妊されました。

「お許しが出たのでね」

ご次男が語られたこの言葉に

敏感な村人はハッとしました。

ご次男夫妻は、3人目のお子様を作るのを

誰かに止められていたのだと気づいたからです。


もしも止められていなかったら‥

今さら言っても仕方がありませんが

ご次男夫妻はもっとたくさんのお子様たちに

囲まれておられるはずであり

後継者について、他人からゴチャゴチャ

言われることもなかったはずでした。


「お許し」

この言葉は、目上の人にしか使いません。

お屋敷で、ご次男より目上の方といえば‥

家族計画というデリケートな問題に触れることができ

ご次男が従わざるをえない相手といえば‥

この失策を不問にできる立場の相手といえば‥

「まさか!」は、まさか様だけで充分です。

敏感な村人は

それ以上は考えないようにしました。



月満ちて、ご次男の奥様は

男の子をご出産されました。

お屋敷の方々も、村人たちも大喜びです。


「生むな」から「生め」へ

手のひらを返した要望であろうとも

ご次男の奥様は「人格否定」などとはおっしゃらず

お家のために命懸けの任務をはたされました。

しかし、ほとんどの村人は何も知らないまま

「奇跡が起きた」と喜びました。



さて、サイコ様の方は小学校へ入学されました。

お屋敷の他のお子様たちのように

お辞儀やご挨拶をされませんし

お声も滅多に聞けませんが

「内気でおとなしいご性質なのだ‥」

村人たちは、そう思うように努めました。

学校でのいじめや不登校がおありだと

聞きはしましたが

これは庶民にもよくあることなので

かえって親しみがわきました。


村人たちがサイコ様に同情し

通学や授業に付き添われるまさか様の

お暇をうらやんだり

ご心痛をおもんばかったりしているうちに

サイコ様は中学生になられました。

この時、サイコ様は初めて

村人の前でご挨拶をされました。

「ありがとうございます」

一言だけでしたが、村人たちは喜びました。


村ではその少し前から、自分の健康に

自信の持てない人が増えつつありました。

たまに見かけるサイコ様が

太ったり痩せたり、身長が伸びたり縮んだり

髪質や仕草が違っていたり

時にはお顔さえも別人に見えることがあるからです。


村人たちは「まさか!」とつぶやいた後で

自分の目や記憶力の異常を疑うようになりました。

正常では困ります。

サイコ様が時々、別人と

入れ替わっていることになるからです。


何より、ご両親であるご長男とまさか様が

平然とご一緒されているのです。

「平然ではないと思う。

サイコ様が違って見える時の

ご長男の微笑みは緊張感があり、目が笑ってない。

まさか様は『いつもより余計に笑ってます』

でありながら、目は『いつもより余計に開いてます』で

周りを見ている」

などと言う者もいますが

しもじもが憶測で騒ぐのは、無礼千万です。

村人たちは、じわじわとふくらむ「まさか!」を

自分の目や頭のせいにして、加齢を嘆くのでした。


どっとはらい。


この物語はフィクションであり

実在する団体や人物とは一切関係ありません。
コメント (4)
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