殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

わかってください・Ⅱ

2009年01月31日 18時59分26秒 | 異星人
          「みりこん、いっそ仕事人になりたいの図」


それから25年が経過。

40代となった私たち同級生は

3年に一度開かれる小学校の同窓会に出席した。


ザワザワ…ホテルの宴会場の入り口が騒がしくなった。

招待した先生たちが、皆、立ち上がっている。

男子たちに囲まれて、近づいて来た男…。


「ギャー!!」

女子の悲鳴があちこちで上がった。

ヤツだったのだ。

坊主頭も、顔も、まったく変わっていない。

心地よいほろ酔い気分は、一気に醒め果てる。


幹事がマイクを取って紹介。

「今年から、転校して行った人を捜して声をかけました~!」

        おのれ、余計なことを…


挨拶を促され、ヤツはおもむろに着ていたコートを脱いだ。

「ああっ!!」 

一同、驚愕の声。

某…国を守る機関の制服を着ていたのだ。


「皆さん、お久しぶりです。僕は今、こういう商売をしています」

その勝ち誇ったような顔!

「多忙なため、こんな格好で駆けつけてしまいました」

        見せたくてわざわざ着て来たくせに!

それは式服と思われた。

金のラインが何本も入っているところを見ると、相当出世しているみたい。 

それにしても、この違和感!

まるでヒトラー…。


「皆さんとの楽しい思い出を忘れたことはありませんでした」

    お前には楽しくても、うちらには血塗られた地獄の黙示録…

「皆さんの住む日本を守るために、頑張ります」

     やかましい!人をさんざん危険にさらしといて

     国なんか守っていらんわいっ!


私たちはすぐさま幹事を捕まえて口々に抗議。

「ちょっと!あんた!なんであんなの呼んだのよっ!」

「一生恨むからねっ!」

「正月から見たくないわよっ!」


「なんで~?みんな喜ぶと思ったのに~」

幹事の男子は胸ぐらをつかまれて、オロオロした。

「捜すの、けっこう大変だったんだよ。人から人へ聞いて…。

 そしたらすごいエラい人になっててさぁ、彼に電話つながるまでに

 秘書を二人通過するんだよ…」

もういい、来たものはしょうがない…幹事を解放した私たち女子は

収容所へ連行された捕虜のように、自然に大きなひとかたまりになった。


ヤツは先生たちのテーブルに落ち着いたので、ひと安心。

先生は代わる代わるヤツの手を握り、涙をぬぐう。

そりゃあそうでしょう。

さんざん手を焼いた生徒が、故郷に錦を飾った理想的なケース。

教師みょうりに尽きるというものざます。

そう…彼ら教師は、結果が命。

教え子のわかりやすい出世は、教師のステイタス。


「なんで制服着てるのぉ~?あざといわ~」(おかよさんふう)

「うわ!あの姿、声、全部いや!」

「私、怖い。もう帰りたい」

大人になったんだから、さすがに何もされないだろうと思ったが

子供の頃からひどい目に遭わされてきた我々は

もう同窓会を楽しむことはできなかった。


ヤツから年賀状が届き始めたのは、翌年からだった。

      「ギャー!」

そう…同窓会に入会している者には、全員の住所と電話番号が書かれた

同窓会名簿が届く決まりである。

だからあの時、ヤツを捜してまで入会させた幹事に詰め寄った。

我々は皆、あの名前を見るのも、ヤツに自分のを見られるのもイヤなんじゃ。


しかしながら、年の割りにはまだ幼い子供の名前や写真

子煩悩丸出しの手書きの一文を見ると、ヤツも人の子…という気がしないでもない。

ヤツがしたような残酷な仕打ちを、もしもヤツの子供たちが受けたら

どんな気持ちになるかしら?な~んて、思ったりもしたが

一応礼儀として、私も年賀状を返した。

それが大人の対応だと思ったから。


以来、儀礼的に年賀状の交換だけが数年続く。

そして去年、単身赴任中だという内容の年賀状が届いた。

携帯にメールがくるようになったのは、それからだ。

名簿にアドレスを載せるようになったのだ。


メールなら、さほど苦もなく対応ができた。

ヤツのメールは

「今、新聞やテレビでお騒がせしていますが…」で始まることが多く

      お前が騒がせてるんじゃないだろっ!

      お前の持ち物かっ!

と心の内で突っ込みながらも、私もつい合わせて

「大変そうですね」などと返す。

そうすると決まって

「国家機密ですので、この話はそれくらいで…」

      お前が振った話だろっ!      

      じゃあ最初から言うなよっ!

という具合に、口では言い表せない感じの悪さは健在。


私は、男女を問わず故郷を離れている同級生たちに

しょっちゅうこちらの様子や同級生の消息などを

メールで面白おかしく伝えたり、名物を送り合ったりしている。

いつの間にか、ヤツもその一人のように錯覚してしまい、つい同じようにした。

いつまでも生きていられるわけじゃなし、過去の恨みは忘れよう…

という奇特~な気持ちもあった。


それに気を良くしたらしく、たまに夜、電話がかかるようになった。

ヤツは一人で淋しいので暇つぶしだろうが、こっちには家族がいる。

「電話は遠慮してほしい」と言うと

「なぜ?後ろめたいことをしているわけじゃないのに」

そうじゃなくて…と繰り返し説明してもわからないので

「亭主が浮気者だから、つまらんことで落ち度を作りたくねえんだよっ!」

という心の声が、うっかり口に出てしまった。


証拠を握られた浮気者というのは

あらぬことで、相手を同じ位置へ引きずり降ろそうとする。

稚拙な手を使って、戦意喪失に持ち込む可能性は充分ある。

戦う気、言い争う気はすでにないが

そんなことになって脱力することだけは、精神衛生上、避けなければ。

しかも、好きな男ならまだしも

ヤツとの電話がそのネタになるのは絶対にいや~~!!


ヤツは、しばしの沈黙の後、こう言い放ちやがった。

「そうか…。なんて言ったらいいか…。

 俺にだけ秘密を打ち明けてくれたんだな…」

       ち、ちがう…!!

「そこまで意識してくれてるなんて、なんだかうれしいよ」

       オー!ノー!

                  続く
コメント (8)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

わかってください・Ⅰ

2009年01月30日 10時10分41秒 | 異星人
映画「マトリックス」に出てくる、いかつい丸坊主のおっさんを想像してちょ。

浮かばない人は、昔のプロレスラー「ストロング金剛」をどうぞ。

…ますますわからんか…じゃあ、モアイ像が海坊主なった感じでよろしく。


そいつは同級生男子。

出会いは5才の時。

町には保育園と幼稚園があった。

人形劇の催しがあり、我々幼稚園の子も保育園で見ることになった。


保育園へと続く、ひと気のない山道に、そいつは立っていた。

「幼稚園の子は来るな!保育園の子しか見たらいかん!」

棒きれを片手に通せんぼ。

この世の理不尽を初めて知った日。


やがて小学校入学…おりやがったんだ、こいつが。

以来中学2年まで、学年女子全員は恐怖と戦慄の日々を送ることになるんじゃ。


乱暴者とか、いじめっ子とか、そんな生やさしいもんじゃない。

体が大きく、口が立ち、運動神経がずば抜けているので

やることの予測がつかない上に言い訳がうまく、逃げ足の早いことといったら。

血も涙もないジャイアン、または悪魔が憑依した両津勘吉との半生の幕開け…。


トイレをのぞいたり、ランドセルや靴を川に投げ込んだり

持ち物を破壊、投石、遊具から突き落とすなんて、ごく日常。

男子には何もしない(男には弱いらしい)。

上級生にも何もしない(縦の関係には弱いらしい)。

下級生にも何もしない(妹がいたから)。

とにかくターゲットは同学年女子。


保健室送りや病院送りは常識、ヘタすりゃ命に関わりそうなこともたくさんあった。

家庭科が始まった頃は、みんなビビッてたね。

なぜって、針とハサミがあるっしょ。

針でブスッと刺されたり、髪や服を切られた子、多発。

私は逃げ足が早かったから、体に針の穴はあかなかったけどね。


ヤツに乱暴されることを怖れ

当時はこんな単語すらなかった「不登校」もあった。

団結して、新学期から同じクラスにしないでほしいと

学校に集団直訴をしたお母さんたちもいた。


しかし、教師たちの彼に対する考えは違った。

親子に付き添って謝罪に同行したり、家庭訪問を繰り返すうちに

歴代の先生たちは、いつも彼を擁護する側に回った。

先生の前で、ヤツは「ワンパクだけど根はいい子」を演じていたからじゃ。

それに、今ならわかる。

多分ヤツの家は、運動神経以上に、ずば抜けたスーパー貧乏だったと。


飲んだくれで仕事の続かない父親と、内職に精を出す母親

絵に描いたような光景に、教師が聖職魂を揺さぶられたと想像するのは容易だ。

どんなに糾弾されようとも、ヤツは庇護された。

昔は、苦しむ被害者を救済するよりも、加害者を更正させるという

目に見える努力が尊ばれたもんよ。


我々児童とて、手をこまねいて為すがままに翻弄されていたわけではない。

親や教師があてにならんなら、自己防衛しかない。

命と学用品を守るため、絶対一人で行動しない、接近してきたら大声を出す

登下校時には、ヤツと時間が一致しないようにずらす…

などの自衛策をとった。

ヤツを消す計画まで練って、おおいに盛り上がった。

同級生女子の結束の強さは、この時に生まれた。


4年生の時、クラス委員を選出する場で、担任が力説した。

「ワンパクな人ほど、本当はリーダーに向いているんです」

新しい一面を引き出すつもりだったのか、暗にヤツに投票するよう根回し。

昔の子供は単純だ。

ヤツは満場一致で委員になりおった。


「お母ちゃんに票の数を教えてあげるんだよ」

夕焼けの教室…担任の言葉に頬を紅潮させ、教室を飛び出すヤツ。

いいシーンだ…児童小説なら。


我々にも打算はあった。

これで安全な生活が送れるなら、票のひとつやふたつ、安いものだ。

しかし、それは自信に満ちた独裁者を誕生させたに過ぎなかった。

しょせんは田舎の小学生…

満場一致というのは、ヤツも自分に投票していたからこそ成立することを

みんな忘れていた。


中学になり、ヤツが興味を示す相手が特定されてきたことに気付く。

家で集めたゴキブリを女子の背中に突っ込み、それを上から叩きつぶす…

ライターご持参の上、教科書を燃やす…

テスト直前に鉛筆を全部折り、さらにシャーペンの芯を抜かれる…

こういう物質的被害を受けるのは、美人と決まっていた。

中学あたりになると、美醜の差がはっきりしてくる。

この時ばかりは、美人に生まれなくて良かった…と心から安堵したものさ。


美人でない私は、完全に解放されたか…といえば、そうでもない。

家が商売をしている子には、口での攻撃が待っていた。

家業をねじ曲げた言葉で、それはそれは執拗にはやしたてるのだ。

肉屋の娘なら「牛殺し」、お寺の娘は「死神」、私は「汚職屋」ね。


まあそのくらいなら、どうってことはない。

商売人の娘というのは、どこか肝がすわっているところがあって

「また言ってら~」と聞き流す。

ゴキブリや鉛筆に比べれば天国じゃわい。

ヤツの家庭環境から発生する、性や経済への歪んだコンプレックスが

起因しているということも、その頃になると薄々気付き始めていた。


中学2年の3学期、しかし私は痛恨の一撃を打ち込まれることに…。

通知表の音楽が、生まれて初めて5段階評価の「4」になったんじゃ。

ピアノを心の友とし、ピッコロとフルートを愛し

この3年生からは、ブラスバンドの部長になることが決まっていた。

勉強は苦手でも、音楽だけはトップというよりどころがあった。

できれば音楽に関わる仕事に就きたいという野望もあった。

そのために、音楽の成績は重要なわけよ。

ガラガラ…あ、これ、積み重ねた自信が崩れる音ね。


「なんで4なんですか?」

担任であり、音楽教師であり、ブラスバンド顧問のところへ抗議に走る。

「しかたがないでしょう。こう忘れ物が多くては…」

忘れ物などしたことは無かった。

この教師は生活態度に厳しいタイプだったので、ことさら注意していた。


日頃は音楽室の壁にぶら下げてある、自己申告制の忘れ物ノートを見せられる。

○月○日…リコーダー、○日…ノート、○日…リコーダー…。

私は音楽の時間に、毎回忘れ物をしたことになっていた。

そりゃもう丹念に、びっしりと書き込まれているではないか。

ページをめくると、前の月も、その前も…。


「何で一言聞いてくれなかったんですか?

 誰かがやったんです!私じゃありません!」

先生は三人目の子供を生んだばかりだった。

そんなこと、いちいち本人に確かめているヒマはないのだ。

「人のせいにしないの!仮に誰かがやったとしても

 そういうことをされる自分の日常を振り返りなさい!」

とにかく…と先生はろう人形のような目つきで言った。

「今回4だったから次は6というわけにはいかないのよ」

一度つけてしまった成績に文句を言われては困るというわけよ。


職員室でのこのやりとりを、ニヤニヤしながらのぞいていた者がいる。

ヤツだ。

待ち構えたように近寄って来て、小声で言った。

「…どう?俺の置きミヤゲ」


ヤツは、今学期限りで転校が決まっていた。

父親が病気になったので、一家で母親の故郷へ行くのだ。

それを知った時、我々は狂喜乱舞した。

完全にうかれていた。

最後の最後まで気を抜くべきではなかったのだ。

ヤツはヤツなのだ…。

今さらヤツを責めて、騒ぎを大きくしたって、成績は戻らない。

いつも5の私が4になったと話を広めるだけだ…。

これ、中2なりの打算ね。


ともあれ、ヤツはいなくなった。

これは正真正銘の僥倖であった。


                     続く
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

これって、アレよね…。

2009年01月28日 10時16分22秒 | みりこんぐらし
古~いお話。

時は1970年代の終わり。

3月某日。


まだ可愛かったみりこんは、当時交際中の彼とドライブに行きましたんよ。

目的地は山陰の海岸。

夕日を見ようと誘われて…。


でも案外遠くて、着いたら日暮れだった。

外泊はおろか、男の車に乗ったなんてことが家にばれたら殺害…

私は、気が気じゃなかったんどす。


帰りたい一心で、ひと気の無い砂浜をとりあえずササッと散策。

車に戻ろうと、きびすを返したら

そこに二人組の中年男性が立っていました。


「こんばんは。私たちは警察です。この海岸をパトロール中です」

       ひ~~~!警察!

それでなくても後ろめたい気分の私の頭は

①補導②親に連絡③殺害…の図式がかけめぐり…。

マジでちびりそうで、固まっていました。


   「そうですか。ご苦労様です」

彼は平然とそんなことを言ってます。

オトナねぇ。



「どこから来られましたか?」

    「○○県です」    (えぇ~?そうなの?)

「お名前は?」

    「○○○です」    (誰?おまえ?)

「職業は?」

    「浪人です」     (なんですと?)

「体格が立派だけど、何かスポーツをしていますか?」

    「ボクシングと空手を」 (野球と柔道じゃなかった?)

「免許証を見せてください」

    「車に置いて来たので、今ありません」(も…持ってるじゃん!)


二人組は顔を見合わせると…

「タバコの火を貸していただけますか?」

    「タバコは吸いませんので」    (ヘビースモーカーじゃろが!)

「そうですか。では、気をつけてお帰りください」


突然湧いて出たような現われかた。

暗闇でちらりと見せてすぐにしまった手帳。

正しすぎてかえって不自然な標準語。

きっちり分けた七三の髪型。

双生児のようにお揃いの、背広にジャンパー姿。

パトロール中にタバコを欲しがる警察官。


          違和感満載じゃん。


その時思ったのは

       「彼は大嘘つきだ…」


答えたことが、全部ウソだったから。

      こんな男とつきあえねぇや!


でも、最終的には結婚してしまったんですがね。へへへ。




そのまま20年経過…。

心の底にちょこっと引っかかっていたその思い出は

報道によってはっきりした形を成してきました。


あの時、彼が真実を言ったら

完全に某国の住民になっていたと思います。



どっちが良かったかしら?…な~んて考えることもあります。

だから、人ごとじゃないんですよ。ほんと。
コメント (12)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

100回記念・最終回

2009年01月27日 11時28分38秒 | 不倫…戦いの記録
今日でこのブログは100回になります。

そして、どうしたことか今日…1月27日は結婚記念日です。


今朝、心から夫に言いました。

「二十○年間、夫婦でいてくれてありがとうございます」

おまえはマゾか?と言われそうですが、そうではありません。

アマチュアスポーツと国技との違いをわきまえず

優勝パレードに自国の旗を振る相撲取りのようになりたくないだけです。

どんなに祖国が大事でも、今日本で金儲けをしているのです。

我慢、抑制からにじみ出る日本の美学を大切に生きて参りたいと思います。


このような夫と添えばこそ、珍しい体験をさせていただき

強く鍛えていただき、そしてなによりブログのネタになっていただいたから

こうして皆さんとお会いできたのです。

感謝せずにはいられませんとも。


いつも楽しいコメントを寄せてくださる皆さん

立ち寄ってくださる皆さん

本当にありがとうございます。



さて、U子は小さなビンを手にとって

私の顔を馴れ馴れしくのぞき込みます。

「このクリームはね、お肌がとってもうるおうんですよぉ!」

          知っとるわい…

          ちっともうるおわんかったわい…            

          
     「おや、私の肌がカサカサということですの?」

「いいえ~!そんなことは…。あ、こっちの化粧水なんかどうです?

 うちのは、すごくいいんですよ」

     「うちのって…あなたがお作りになったの?」

「キャーハハハ!面白いかた!」

この女、元ホステスだけあって、客あしらいは多少知っているようです。


「これはね、お肌の調子を見ながら必要な水分を調節して

 今お肌にベストな水分量を空気中から取り込むんです」

     「まあ、すごい。化粧水がそんなことをするんですか?」

「そうなんです。これは業界でも新しい…考える化粧水なんですよ」

     「化粧水のぶんざいで、人間様の肌を見て考えるなんて。

      …知能がありますの?」

「アハハ…ほんと面白いわ!

 知能というか…それほどすごい成分が配合されているということですね」

  
   「まったく素晴らしい。ぜひ学会に発表して、人類を救うために

    活用なさったらよろしいのに」


「いえ~、そんなことをするより、お客様をキレイにしてあげるほうが

 いいんですよぉ」   

    「ほぉ~。なんと奥ゆかしいこと」

            川口浩か…


嘉門達夫の歌です。

俳優の川口浩は、昔、探検の番組を持っていました。

私たち子供は、ジャングル奥地や秘境を探検する彼の一挙手一投足を

固唾を飲んで見守ったものです。

未知の原住民や、あらたな生物を毎週発見するのですが

決して学会に発表しないのです。

その奥ゆかしさをたたえる?歌でした。

「やらせ」という単語がまだ無かった時代です。


私が厄介な客だということでしょう。

個人情報記入で接触した若い男も、ヘラヘラと近づいて来ました。

「○○様~!ちょっと手につけていただいたら

 良さがわかってもらえると思いますよ~」

こいつは私の名字を知っているのです。


名字を聞いたU子の動きと愛想笑いの声がピタッと止まりました。


         「けっこうです」

「おぉっと!そんな淋しいことおっしゃらずに…

 わざわざ遠くから来ていただいてるのに~」

       何が淋しいだ。日本語は正しく使え!

       バカタレが… 


「遠くからですか?どちら?」

    「あなたがサロンを開かれるという○○市ですよ」

「…へぇ~。じゃあ…開店したらぜひいらしてくださいね」

    「ほほほ。もしもつつがなく開店されましたら…ね」


この女、かなりの負けず嫌いのようです。

不屈の精神で、化粧水のフタを開けました。


私の手を取って、化粧水をつけようとするので…

     「やめておいたほうがいいと思いますよ」

「え?」

    「私、病気ですの。感染するかもしれません」


「また…ご冗談を…。元気そうじゃないですか。

 もし体調が良くないなら、いいサプリメントもありますよ」


      「いえ、現代医学ではどうにもなりませんから」


「それって…」


      「ご想像にお任せしますわ」


U子とおちゃらけ男、それに両隣にいた「梅仲間」が飛び退きました。

      「ちなみに…主人から感染しました。

       あなたのパートナーの!」

             ニヤリ


固まっているU子たちを尻目に

私はそのままゆっくりと会場を出ました。

外に出ると、夫が車の中にいました。

呆然と見つめる夫の横をすり抜け、家路に着きました。


のちほど私が書いた負債うんぬんも、U子の耳に入るでしょう。

みじんもパートナーを疑うことなく

ぜひとも真実の愛を貫いていただきたいものです。


その後、二人がどうなったのかはわかりません。

ただ、「サロン」が町に開店することはありませんでした。 



               ~完~ 


    長らくご愛読くださり、まことにありがとうございました。
         
コメント (13)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

梅になる

2009年01月25日 21時13分21秒 | 不倫…戦いの記録
「来月、○○市中心部でサロンを開設される予定の○木U子さんです!」

紹介されて現われたのは、30代半ばの派手な女性でした。

自分の住む町なので、私は注目しました。


スピーチが始まります。

「去年までホステスをしていた私が、このビジネスに出会い、決意して…」

横にいた世話好きそうなおばさんが

自分の連れて来た子分に物知り顔で話しています。

「ほら、前にスナックのママが殺された事件があったでしょ。

 あそこにお勤めだったのよ。

 あんなことになっちゃって、違うお店に行ってたんだけど 

 いつまでもやれる仕事じゃないから、と決意されたの。

 あなたも頑張ってね!」


どこかで聞いたような話…。

私は平成の大合併を忘れていました。

あのスナック・ゆ○のある市と、この会場は別の市だと認識していましたが

合併でいつの間にか同じ市になっていたのです。

全然違う地区だと思っていたのは私だけで

実はあの忌まわしい事件のお膝元に来てしまったようです。


スピーチは続きます。

「サロン開設のメドが立ったのは、お客様とスタッフの皆さんのおかげです。

 中でも、このかたとの出会いがなければ、不可能でした。

 今日は無理を言って、来ていただきました。 

 紹介させてください!」

  
照れながら舞台にのこのこ出て来たのは、見覚えのある大男。

       あれはたしか…うちの夫という生物やんけ…


仕事がおわってから、この場面のために駆けつけたのです。
 
       お父ちゃんのスーツ着やがって!

こういう出番があるので、着替えがたくさんいるのでした。


「私の素晴らしいビジネスパートナー、○○さんです!」

涙声でのたまうU子さん。


司会者もはやし立てるように続けます。

「お二人は、公私ともに大切なパートナーなんですよね~」

おぉ~!とどよめき、盛り上がる会場。

         やかましいわい!


クネクネと体をよじり

ビジネスパートナーとやらに寄りかかるU子さん。

    こーゆー場合、あたしゃどうしたらいいんだろう…


ゆ○ママの不幸な事件の延長で懇意になり

夫はU子の言いなりになったのでしょう。

脱力して帰りたくなりましたが、それもシャクな気がします。


二人が仲良く舞台袖に消えると、今度は第3部の始まりです。

感動の後は、入会や数字の話が待っているという筋書きでした。


3つのテーブルはそのままに、席替えが行われました。

各テーブルのメンバーはランク分けされているようでした。

外見と、最初に書いた個人情報が元になっているのは一目瞭然です。

みりこん流に言えば「松」「竹」「梅」。


「松」のテーブルには、例の医師夫人を始め

ブランドや金目の物を身に付けた人たちが集められていました。


「竹」には、旦那の職種と年収を書き替えた奥さん以下

そこそこまあまあの中くらいのメンバーです。


負債を書き込んだ私はもちろん「梅」です。

梅は残念な人たちが主流でした。


それぞれのテーブルごとにスタッフや世話人のような人たちが張り付いて

懇談という名の洗脳が始まりました。


私は夫に見つかったら気まずいのでヒヤヒヤしましたが

大勢の中に入って行ってぺちゃくちゃしゃべるのが苦手なのは

長い付き合いで熟知しています。

愛人とせっかく会ったら

用事だけでさっと切り上げて帰れないセコさもよ~く知っているので

どこか外で待っていると思い直しました。


「松」では「投資」や「輝き」という単語が

「竹」では「夢」「年収倍増」などの言葉が熱く飛び交っていましたが

「梅」では「ハングリー精神」とか「夕食が豚肉から牛肉に」などの

しょぼいフレーズです。


テーブルでは差別されても

「製品のお試し」だけは平等にさせてくれるようで

お盆に載せた化粧品やサプリメント、入浴剤や塩などが運ばれてきました。


気が付いたら、私の後ろにU子がいました。

「このクリームは、とてもいいんですよ」

U子は、私が誰か知らないようでした。


パーティーに来た者の名前などは会社側か、誘って連れて来た者が管理し

2部で主役だったU子は、今日は成功のお手本としてテーブルを回り

来場者とアトランダムに接する役目のようでした。
コメント (14)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

裸の王様

2009年01月23日 08時51分21秒 | 不倫…戦いの記録
部屋にはすでに数人の先客があり

頭の軽そうな若い男の指導のもと

渡された紙に真剣な表情で記入を始めていました。

住所、氏名、年齢、職業…。


「あ、ここから下は任意です。書き込める所だけお願いしますね」


「書き込める所だけ…」というのがミソです。

あくまで本人が書きたくて書いた状況を作るのです。


男は勉強を見る教師のように、腕を後ろで組んでかがみ込みます。

家族構成、配偶者の勤務先と職種、所帯年収、資産…。


隣に座った私と同年代らしい上品そうな女性が何か書くたびに

「ご主人はお医者様ですか?すごい~」

「ほぅ~!そんなに!」

男はわざとらしく感嘆の声を挙げます。

その医師夫人を連れて来たらしき世話好きそうなおばさんも

「そうよ~!セレブでいらっしゃるのよ~!」

と、得意そうです。


それに触発されたのか、反対側の横で書いていた仕事帰りらしきおばさん。

夫の職種を「会社員」から「管理職」に変え

空欄だった年収を1千万と記入しました。


「管理職ですか~!」

と声をかけてもらって、とても満足そうです。


私が任意の所へは何も書かずに提出しようとすると

「あれ?これだけですか?」

男はさも残念そうに言います。

「出来れば、もうちょっと書いてほしいなぁ~…なんて…」

    そんなに書いてほしけりゃ書いたるわい…


夫の職業や年収までは正直に書きました。

          「資産」…そうねぇ…

私は「資産」の字に斜線を引いて、横に「負債」と書き入れました。

銀行に1億、商工ローンに2千万、消費者金融も8百万にしとくか…。

こんなのを真面目に書くやつはアホです。


男は何も言わずに受け取りました。

あきらかにヒイています。

             うっしっし


案内されて宴会場に進むと、すでに30人くらいの客がいました。

皇居にでも招かれたのかというほどの正装をした者

昔なつかし一張羅を引っ張り出してきた者

かといえば、ジーンズにトレーナーでエプロンだけ外して来たような人など

見るだけでも面白い千差万別状態です。

30代から50代の、いずれも女性でした。


3つのテーブルには、それぞれ駄菓子とサンドイッチ…。

胸に名札をつけた社員らしき若い男女が6、7人

テーブルを回っては、しきりにお辞儀をしたり笑わせたりと忙しそうです。

飲み物や、ひからびかけたサンドイッチを勧められましたが、断りました。

       盗っ人一味のほどこしは受けん!


やがて食べ物が片付けられ、第2部とやらが始まりました。

こいつがこの地区の親玉でしょうか。

真っ白なスーツを着た、先生と呼ばれる派手なおばさんが紹介され

演台に上がって「お話」が始まりました。


最初にどこぞでパクってきたらしき

GNPの低下、雇用問題、経済危機などを集めたダイジェストビデオ。

「皆さん、これから世界はどんどん深刻な不況へと陥って参ります。

 その時、我々女性はどう行動するか。

 家庭があっても無くても、節約だけでは無理な時代に突入するのです。

 守りから攻めに転向し、大事な家族を守りましょう」


「真の幸福とは、お金と健康と愛、この3つを手に入れて

 生涯のがさないことなんです!」


ここに来ている人たちは、すでにどっぷりつかっている者と

初心者とがいるようです。

どっぷり派は、涙を流さんばかりにいちいちうなづき

「その通り!」などと声をかけます。


始めに厳しい時代を強調して不安感をあおり

合間で身近な話や人情話でほろりとさせ

シメは「これに入るとこんなに素晴らしい人生が待っている」。

選ばれた者だけに与えられる現世利益の数々…。

これがピンとこない者は、バカ…。

        裸の王様大量生産…


自分にだけは神風が吹く…と思い込ませる手口。

マルチも宗教も、勧誘の仕方は同じです。


そして使い古された殺し文句。

「チャンスの神様には前髪しかありません。

 つかみ損ねるともう二度と会えないんです!」


不思議な話です。

自分の後ろ髪ひとつ生やせない神様が、人の幸せを左右できるのでしょうか。

    後ろがつるッパゲの神様なんか、会いとうないわい。    

    気持ちの悪い…


この集団は、まず求めやすい価格の化粧品や健康食品で顧客をつかみ

その中で資金や才覚のある者には

まず目標である「エステサロン」を開くようそそのかし

そこを拠点にさらなる顧客拡大を目指すシステムのようでした。


その最終目的は、エステに使用する高額な美容機器と

エステ客のみに使うという高額化粧品の大量仕入れ

それにサロンを開いた者だけが優待で受講できるという

メーカー直営のエステスクールのトリプル利益です。


エステに来ない客には

引き続き販売用の化粧品や健康食品で取りこぼし無し。

もちろん、顧客を増やすほど仕入れが安くなるというマルチの香りもしっかり。


「喜んでいただきながらお金の入ってくる、不況に強い最高のビジネスです」

    ほんとにそうなら、人に言わずにおまえだけでやれ… 

 
やがて第3部…この半期、頑張った人たちの表彰です。

それぞれ、活動地域や売り上げなどをアナウンスされながら

しずしずと舞台に上がります。

ここで私は、座っていた椅子からずり落ちそうになりました。

私の住む町で、今度そのサロンとやらを開くことになったという女性が

登場したからです。 

コメント (14)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

潜入

2009年01月21日 10時43分01秒 | 不倫…戦いの記録
友人から電話があったのは、それから数日後のことでした。

「エステのお店を始めるって、本当?」

        なんですかいの?それは…?


「水くさい…。ひとこと言ってくれればいいのに。

 もし始めるなら、私行っちゃうわ!」

            
              話が見えん…


「主人から聞いたのよ。いよいよ多角経営に進出ですって?」


友人のご主人は商工会議所に勤めていて、夫とも知り合いでした。

先日から度々、夫からエステ店開業にあたっての問い合わせがあったそうです。


友人には、すぐご主人に連絡して夫の話に取り合わないよう

伝えてもらいました。

本気で相手にしていたら、彼女のご主人はクビになります。


夫の怪しい行動に気付いても

昔のようにドリフのコントよろしく

金ダライが頭上に落下するような衝撃は受けなくなって幾年月…。


長い間、それは私が成長したタマモノと思い込んでいました。

しかしよく考えてみると、必ずしもそうではないことに気付きました。


ショックだの裏切られただのと

手放しで嘆き悲しんでいられた頃は、まだ余裕があったから…。

そのうち自分と子供が食べるのに必死になってきて

亭主の浮気くらいでいちいち泣いていられなくなっただけ…。


不況が進み、そのうち日本中が生きることすら大変な時代になると

浮気だ不倫だとのんきに騒いではいられなくなるでしょう。

亭主がよその女と寝たのを知った女房が

「それでいくらもらった」とたずねる時代が来るかもしれません。

浮気や不倫で悩むのはゼイタクとなる日が来るかもしれません。

愛情や誠実よりも、今夜の食事を確保したい時代が

すぐそこまで来ているのです。


そんなご時勢に多角経営!

しかもエステ!

こんな人口の少ない田舎で!

        …チャレンジャーじゃん…

だまされているに違いありません。


「わかったわよ!」

友人は、ご主人からいろいろ聞いてくれました。

店主は、市外在住の女性の名前。

バックは聞いたことのない化粧品メーカー。

夫の会社が一部出資する予定だと話していたそうです。

店の場所もおよそ決まっているそうです。


「でも大丈夫。うちの主人はまだ問い合わせに答えているだけの段階よ。

 悪いけど、主人もちょっと疑ってたみたい」


私は夫の実家へ急行しました。

2階の一室に入ると、出るわ出るわ…

消えたスーツを始め、化粧品の各種パンフレット

販促用のサンプルが詰まった段ボール…。

この男は昔から、私に見られて困るものは

こうして実家へ隠す習慣があるのです。


「あらあら、たくさんに…」

私に付いて来た義母は、のん気に感心しています。
  
  
女の口車に乗せられ、出資を約束したものの

しょせん明日をも知れぬ貧乏会社。

家賃や開店資金を銀行で借りられないので

商工会の貸付け制度に目をつけたと思われます。

頭が悪いくせに、妙なところで妙な知恵の回るところがあるのです。


私がガイドの用件で商工会に出入りしてもらっては

出くわす怖れ、噂を聞きつける怖れが懸念されます。

それで私を商工会に行かせないようにし、作り話をして断念させたのでした。


夫が女にだまされるのは勝手です。

しかし、私のやりたいことを潰してまで

ご奉仕するのは黙認できません。


そして実は、私を激怒させた原因がもうひとつありました。

数ヶ月前から、私はその化粧品を夫経由で買わされていたのです。

…知り合いが夫婦で始めたから、付き合ってやってほしい…。

私も知っている人だったので、快く了解しました。

夫婦で転職…大変だろうけど頑張ってね…という気持ちで

私はすっかり善人気取りでした。

           
            許さん…  


夫の幼稚な真剣さは、幼稚ゆえに被害を拡大させる威力が充分にあります。

私のみならず、すでに商工会の友人

店を出す予定のビルのオーナーを巻き込んでいます。

会社は、すでに子供の代に向かって動き始めています。

今よその女にだまされて、金はおろか信用まで失うわけにはいきません。


スーツが何着も必要だったところを見ると

夫はすでにこの商売に深く入り込んでいる気がしました。

パンフレットの中に大量の「パーティー券」を見つけたからです。

とうに過ぎた日付のものから

少し先の日付のものまでありました。

知り合いに配れと言われて持ち帰ったものの

配れないまま放り込んだ…という感じ。


この券を配っては人を集める商法のようでした。

女は、パーティーという単語に弱いのです。

お父ちゃんの服を着込んでは、こんな所へ行ってたんだ…


     お~の~れ~!どうしてくれよう…


父の服を使ったのが、最終的な導火線になりました。

パーティーとやらは、明後日の日付。

             行っちゃる…


私には、今まで無かったものがありました。

それは「ヒマ」です。


午後6時に合わせ、私は車で1時間かけて会場へ行きました。

いきなり行って入れてくれるかどうかわかりませんでしたが

ダメなら入り口でわめいて

素敵な雰囲気にしてやろうと思っていました。

      知らない土地なら、何だってできるわい…


「○○○ス・パーティー受付」

そう書いてある紙を貼った机で取りすましている若い女に券を出すと

すんなり会場へ入れてくれました。


安ホテルの会場は人かげもまばら…

と思っていたら、本当の会場はもうひとつ奥の部屋でした。

来た者はまずテーブルに座って、住所氏名などを書くようです。

たくさん書かなければならない項目がありました。    
コメント (10)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

人違い

2009年01月20日 10時16分19秒 | 不倫…戦いの記録
ガソリンスタンドで修行していた次男が、家業に入社しました。

これで私の目標は、ひとまず達成されたわけです。


この日のために耐えがたきを耐え、忍びがたきを忍んできたのですが

手放しで感無量というわけにはいきません。

兄弟のうち、どちらかを切り捨てるというつらい作業が待っていました。


家族で仲良く甘い汁…という時代は終わりました。

たとえ今日会社がつぶれても、明日からすぐ別の場所で働ける男に

育ててきたつもりです。

つまらぬプライドに邪魔をされて

泥舟もろとも海底に沈んでしまうような子供は、うちにはいらないのです。


子供が二人とも社会人となり

私には働き続ける強い理由が無くなりました。


婆姫と別れてから、夫は何を思ったか

徐々に給料を家に入れてくれるようになっていました。

これといった養う相手がいなくなったのでしょう。

通算7年ほど完全に別会計でしたが

久々に手にしてみると、道で拾ったように嬉しくありがたいものでした。


同僚綱吉は単身赴任の中年医師と仲良しでした。

親切で優しく、患者にも人気のある先生だったので

みんなに慕われていましたが、綱吉はとくに好意を持っていたようです。


その間、暴君ぶりは影をひそめ

恋する女子高生みたいになっていたので

我々は平和を満喫していました。

同時に、先生の優しさを勘違いしている

恋に不慣れな綱吉の行く末を少し心配もしていました。

その心配は、あらぬ方角で的中することとなったのです。


ある日、私は定年間近の検査室のおばちゃんに呼び止められました。

「I先生とおかしな関係っていうのは、あなた?」

             「はぁ?」

「給食のぶんざいで、先生と親しいって評判よ。

 先生が給食なんか、本気で相手にするわけないじゃないの。

 先生には家庭がおありだし、少しは身のほどを考えなさいよ」

        「お言葉ですが、人違いですよ」

「なにとぼけてんのよ!他に誰がいるっていうのよ!」

     「何を根拠にですか?

      もし違ってたら、どうなさるんです?」

「私は噂を聞いた時、絶対あんただって思ったのよ!」

       なんでや~!


「とにかく、給食なんだから、謙虚にしなければね」         

すごい差別発言の数々ですが、本人気付かないようです。

無理もありません…これで何十年も生きて来たのです。


何も考えずに年だけ取って、プライドのみ高くなった女は

絶対に自分の非を認めません。

認めれば、次は謝罪が待っているからです。


すでにI先生の相手がどうこうではなく

放った言葉を謝らずにどう処理しようか…という当惑の色が

おばちゃんの目に表われていました。

おばちゃんも、ひょっとしたらI先生憎からず…なのかもしれません。


「…まぁ、いいわ。これは私の胸に納めておくから

 今後は気を付けてちょうだい」

おばちゃんはそう捨て台詞を残すと

太り過ぎで水の溜まった足を引きずりながら慌てて逃げて行きました。


とんだ濡れ衣です。

病院中の嫌われ者である彼女に何と思われようが

誰も相手にしないのはわかっているので

身の潔白を証明したいという気にもなりませんでした。

しかし、あるひらめきが走りました。

          「潮時…?」

こんなことが起きるのは

もうここで修行する必要がなくなったという啓示?

ものすごく都合のいい解釈ですが、私にはそう思えました。


この数年間でたくさんのことを学びました。

自分が馬鹿にされ、見下げられることで

私が本来持っていた「人がバカに見える性格」も

かなり改善されたように思われます。


      助さん、格さん、もういいでしょう…


私は退職し、念願の主婦となりました。
   
ひさかたぶりで家の中をゆっくり掃除したり、飾ってみたり…。

そこで初めて気が付きました。

父の形見のスーツが何着も消えていることに…。


父は身を飾るほうではありませんでしたが

昔の人は、決まった仕立て屋で季節季節のスーツを作ります。

「作ったけど結局着ないうちに死んでしまった」

と言って、母は流行の型のものを抜粋して形見にくれたのです。


父は身長があり、恰幅も良かったので

夫にも息子たちにも、あつらえたとしか思えないほどぴったりでした。
     
夫はともかく、息子たちに着せるつもりでした。


           出たな…スーツ病


いつから無くなっていたのか、皆目わかりません。

しかし、働いている時ならいざ知らず、今は自由で暇の身です。

もしも突然、何かとんでもないことが起きたとしても

以前のように、仕事の合間を縫って片付けるような

慌ただしいことはしなくてもよいのです。

あわてずゆっくり、成り行きを静観しようと思いました。
   
コメント (10)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ガイド志願

2009年01月19日 10時04分30秒 | 不倫…戦いの記録
病院は、一人の女性によって牛耳られていました。

看護課長。

彼女のご機嫌をそこねると、シモジモはもちろんのこと

医師であろうが上役であろうが、ただちに退職に追い込まれます。


彼女には数名のスパイを兼ねた眷属(けんぞく)がおり

公務員というシモベを束ねておりました。

宴会があると、司会のシモベが紹介します。

「では、この病院の女王、看護課長ですっ!」

言うほうも言うほうですが

女王と言われ、平然と出るほうも出るほうです。


彼女の長年の独裁により、多くの人が涙を飲み

彼女が踏み越えたそのシカバネは

その後ろに累々と列をなしていました。


しかし私は、彼女を尊敬していました。

眷属やシモベの頂点に君臨する姿は、コソコソと見苦しく立ち回るよりも

いっそのこといさぎよく気持ちがいいからです。

もちろん、直属の部下だったら、とてもじゃないが付いて行けません。

対岸の火事は面白いものです。


夫婦で事務の同僚…という中年カップルもいました。

昼あんどんの亭主と、悪魔のような妻です。

通常、夫婦が同じ職場の同じ課に居続けるのは

自営以外では難しいです。

しかも公的機関では、不可能に近いでしょう。


しかしこの二人は、折々の人事をなぜかうまくかいくぐり

長年机を並べていました。

もちろんペナルティとして、どちらも出世コースからは

完全に外されています。

それが時にストレスとなるのか

ぼんやりの旦那はともかく、妻のほうの底意地の悪さは

昔の少女漫画をほうふつとさせるような見事さでした。


ごく一例…病院で働く者には、年2回の健康診断が義務付けられています。

最近は、肝炎の抗体の有無も調べるようになりました。

抗体の無い者は、毎年五千円近くを払って

抗体を植え付ける注射をしなければなりません。


私と綱吉はなぜか抗体があり、注射の必要がなかったのです。

注射がいらないという意味がわからなかったので、医師にたずねました。


「うらやましいよ。僕なんて、毎年注射してるけどダメなのに」

昔学校で行われていた予防接種では、注射器の回し打ちが普通だったので

知らない間に肝炎の抗体が植え付けられている人もいるという話でした。

入れ墨の習慣の多い地方ではよくあることで、心配はない…。


食堂で医師と盛り上がって話していたのを

こっそり盗み聞きしていた悪魔妻…。

医師が去るなり、我々の前に立ちはだかって

「あんたたち、将来絶対発病して、苦しんで死ぬんだからね」


飯炊きのぶんざいで、医師と親しく会話したことが気に障ったらしいです。

長年、外界から遮断された世界で

与えられた安定と特権の上にあぐらをかいていると

進歩が止まるのでしょうか。

そういえば…この人のよそ行きドレスはいつも

いまだに肩パット入りのボディコン・スーツでしたな。

頭はまだ昭和なのでしょう。


事務といってもやる仕事がなく

夫婦揃って一日ブラブラしているだけでは物足りないようで

こういうことにも目を光らせるのを生き甲斐にしていました。


厨房の中も外も、このようにスパイシーな毎日でしたから

退屈はしなかったのですが

もう充分勉強になったし、これ以上長居をすると

魂が汚れ放題になる気がして、そろそろお別れしたくなっていました。


私はしばらく前から、何か人に喜ばれることをしたいと思っていました。

その時興味を持っていたのは、町の美観地区のボランティアガイドです。

ガイド養成講座の申し込みは年1回。

夫がいつになく、申し込みをしてやると親切に言うので

来年の講座の予約を頼みました。


しかし夫はその日、家に帰って来ると

「よしたほうがいいと言われたので、申し込まなかった」

と言うではありませんか。

「大変なところらしい。古い世話役が居座って、若い者にはガイドはやらせず

 ゴミ拾いばっかりだってさ」

「えぇ~?」


だからこの町はダメなんだ…などと言い合ったものですが

それが夫のワナだったとは、夢にも思わなかった私でした。
コメント (10)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

結婚被害者

2009年01月17日 14時33分56秒 | 不倫…戦いの記録
 
同僚、綱吉は

離婚の際に子供たちを夫の元に残していました。

原因は嫁姑と、それを見て見ぬふりをした夫でした。


離れて5年…19才になった娘は

家出して来て、そのまま綱吉と一緒に暮らし始めました。

我々同僚有志は、それを我がことのように喜び

アパートを世話したり、引っ越しを手伝ったりと、はしゃいでいました。


しかし、引き取ってからわかったことですが

娘は引きこもりの上、摂食障害とリストカットを繰り返す

綱吉にとって、はなはだ都合の悪い存在に変わり果てていました。


想像の及ばない行動を取る娘を持て余しながらも

別れた旦那への意地から、持て余しながらも返品せずに

仕方なく養っている格好の綱吉を見てハラハラし通しでした。


中でも「日本のおっかさん」といったふぜいのマダム・リーと

自分の頭の蝿も追えないくせに人のことは気になる私は

つとめて母娘を食事や遊びに連れ出すようにしていました。


短大を中退してしまった娘に、何とかして就職か進学をさせたい…。

そう強く願う綱吉は

娘に「このままじゃダメだ」という種類の話をしてやってほしいと言いました。

気休めに遊びに行くだけでは手ぬるいということらしいです。


もちろん、断りました。

「他人の言うことより、母親の本音のほうがいいと思うよ」

「今は焦らずそっとして、心を癒やしてやるほうがいいと思うけど」


しかし、綱吉は

「私が気が狂いそうなのよっ!」

と言います。


症状をなんとかするような器量はありませんが

娘に叱責か沈黙でしかアクセスできない綱吉を

精神的に安定させてやらなければ

そのうち娘を責め殺してしまうような気がしました。


私たちは打ち合わせをして、説教がましいことは言わず

「やるべき時にやるべきことをやらなかった人間の見本」

としてお茶をにごそう…と決め

ケーキなんぞを持って、のこのこ綱吉母娘のアパートへ行ったのでした。


普通の会話から、だんだんその方面の話に近づいて来たので…

「Yちゃん、若いうちにちゃんと勉強しておかないと

 おばちゃんみたいに年取ってから

 キツい仕事しなくちゃいけなくなるんだよ」


「そうだよ。Yちゃんのお母さんは、調理師学校出てるから

 すぐ出世できたし、みんなに命令できる立場になったんだよ」

もちろん、精一杯の「おじょうず」です。

 
しかし綱吉は、このフレーズに着火しました。

いきなり目をつり上げて、テーブルをガンガン叩き

我々の仕事のやり方を非難したり指示したりし始めました。

離れていた娘に、自分の立派な姿を見せたいのだろう…と思いました。


さんざん怒られた末、私たちはほうほうのていで退散しました。

しかし、我々の尊い犠牲のもと、険悪きわまりなかった母子関係は

その後ひとまず、やわらいだようでした。


しかし数ヶ月後、娘はまた家出してしまいました。

綱吉のクレジットカードを盗んで…。

キャッシング機能のあるカードを何枚か持ち出し

ATMでそれぞれ満額、合計数百万を借り入れていたことがわかりました。

暗証番号を全部誕生日にしていたからでした。


すったもんだの末、出来た借金は元夫が肩代わりしてくれ

娘は、金を使い果たしてから父親の元へ帰りました。

娘から解放された綱吉は、心底ホッとしていましたが

その時に元夫から言われた

「やっぱりおまえじゃ無理だったな」

の一言は、相当悔しかったらしく、当分ブツブツ言っていました。


綱吉母娘に関わった月日は、私にさまざまな感慨をもたらしました。

いつまでも過去の仕打ちにこだわって、そこから抜け出せないでいると

結局は一番かわいい、一番大事なものが壊れていく…。


浮気されるのは確かにつらい。

しかし、それと引き替えにどれほどたくさんの恩恵を受けて来たことだろう。

満たされない、残念な一点ばかりを見つめ続けていると

どんどん深い淵に堕ちて行くばかりではなかろうか。


また、この頃には我が子も成長して

お嫁さんをもらってもおかしくない年齢になりつつありました。

この子たちがもし結婚して、嫁の気にくわないことをしでかしたら…。

嫁に嫌われ、冷たくされる息子と、それによって悲しむであろう孫を

私はどんな気持ちで見守るのでしょうか。

夫の浮気なんかより、ずっとつらいのではないでしょうか。


いつまでもうかうかと「結婚被害者」の身の上に甘んじていてはいけない…。

自分が「妻」というヒロインでなければ気がすまなかった人生舞台。

つらいつらいと言いながらも、人には譲らず演じ続けたい。

主役にこだわればこだわるほど

事態はおかしなほう、あらぬほうへ転がって行きました。


私も年を取り、やっと

「村人A」「石ころB」でも充分…という気持ちになりました。

役どころは、木でも、草でも、何でもよくなったのです。

名も無い、生命の中継者。

    おお、これこそ、すばらしい人生ではないか…


病院の厨房に来なければわからなかったであろう

たくさんの気づきと学びによって、重いよろいを脱いだような気分でした。        

       で…達観したかって?

           なんの!


よろいは脱いでも、まだカブトが残っておりますがな。

今度はまた、ろくでもないことが起こり

私はさらに、とんでもないことをしでかすのでありました。
コメント (14)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

不幸選手権

2009年01月13日 10時36分48秒 | 不倫…戦いの記録
父の死で香典や列席など

院長から同僚まで良くしてもらったので

請われるままにもう少し仕事を続けることにしました。

またまた「お礼奉公」というやつです。


女郎じゃあるまいし…とも思うのですが

辞めようと思っていた時期にこういうことになるのは

やはり意味深いものがあるような気がしていました。


私が病院の厨房に行ったのは

不幸のメカニズムに気付くためだったのかもしれません。


まず「綱吉」。

あみきちではありませんよ、つなよしです。

ニックネームは私が付けました。

ペットの犬が命で、暴君だからです。

離婚して実家に帰ったものの

老後が心配になってきた綱吉は、皆に離婚を勧め

そのうち「なかなかしない!」と一人で怒りだします。


誰かを同じ境遇に引きずり込もうとする執念は

すごいものがあります。

人は、ひとたび出口の無い不幸の迷路に迷い込んでしまうと

どうにかして仲間を増やし、安心したいという本能があるようです。


そして「ドルジ」。

見た目がそっくりだからです。

家族の病気、犯罪、金銭トラブルなど

息つく暇もないほど次々と不幸に見舞われますが

本人はいたって明るく

「こういう時のために市役所や社会保険事務所がある」

と豪語します。


「大変なんです。困ってるんです」

と訴え、あわれと思ってもらえれば、必ず道は拓ける…

いや、蛇の道はヘビ、公務員が拓いてくれるのだそうです。

家にこもって「大変」と言っているだけではダメで

その機関へなんとしてでも出向いて直接訴えることがコツだそうです。


おおかたの人間は、その「敗北宣言」をしたくないばっかりに

無いものを無いと言えず、必死で踏ん張っているのではないでしょうか?


「無いんだから、税金で助けてもらうのは当たり前」

恥ずかしい…情けない…そんな感情を取っ払ってしまえば、確かに楽です。

ある意味、甘え上手?


医療費貸付け制度のことや、年金より生活保護の金額のほうが多いことなど

ドルジから教えてもらいました。

将来困るようなことになったら、ドルジの指導を仰ごうと考えています。

      
この綱吉とドルジ…ものすごく仲が悪いのです。

というより、ほとんど憎しみ合っていました。


綱吉は「ドルジのような病人だらけの貧乏人とは違う」と言い

ドルジはドルジで「うちには金は無いが愛がある」と負けてはいません。


お互いの不幸をあざ笑う目くそ鼻くそ…ではありますが

すぐ人がバカに見える私には、そこで自分も他の者と同じなのだと

思い知る必要があったのだと思いました。


夫から愛されてない私は、ずっと不幸なのだと思って生きてきました。

しかしその代償として与えられた多くのもの…

自分や家族の健康、なんとか人並みの生活

困らされることのない身内などなど…

そのありがたさに気付かず、足りないものにこだわり続けた結果

どんどん悪い方へ悪い方へ落とされて

とうとうここまで来てしまったと心底痛感していました。

でも、まだ足りなかったようです。


他にもいろいろ出入りがあり、それぞれに個性的な人がいました。

「マダム・リー」

自己中で理不尽なことばかり言うのですが

憎めないサバサバした人だったので、そんなニックネームをつけました。

その心は…

「りふじん」「りーふじん」で美しく「マダム・リー」。


中でも圧巻は「コロちゃん」です。

長年の姑仕えで人間が出来ており

することが何でも早いのですが、雑なのが玉にキズでした。


ある日、元気が無いので「どうしたの?」と聞くと

「今朝、車を車庫にバックで入れたら…」

「…?」

「車庫に犬をつないでいたのを忘れていて…」

「い…犬は…?」

「死にました」

殺し…のコロちゃんです。


コメント (10)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

浮気処理係

2009年01月09日 14時36分04秒 | 不倫…戦いの記録
ほどなく、実家の父がころりと急死しました。

どこも悪いところが無く、死因もわからないままでした。

名付けて「うっかり死に」。


この時ばかりは、夫に感謝しました。

ゆ○子にも死なれ、ちょうどフリーだったので

家族として非常に良く尽くしてくれました。


通夜や葬儀の前後もずっと姿を消さないので

子供たちは不思議がりました。

「オヤジ、今フリー?」

「ずっといるなんて、おかしい」

などとヒソヒソ話し合っていました。


恋愛中だったらこうはいきません。

その昔、上の妹の結婚式にもデートのためにいなくなり

式をすっぽかしました。

出て来たのは披露宴、つまり飲み食いが始まってからです。


「私の身内だからとバカにしている!」

当時は私も青かったので、怒り狂ったものです。


結婚式でもそうですから、辛気くさい身内の葬儀など

いつもあえてデートの約束をして、抜け出します。

なぜだと思います?

スーツ姿を彼女に見せたいからです。


ナルシストの夫は、いつもの仕事着ではなく

スーツが一番似合うと思っています。

普段何でもない時でも、見せるためにこっそり着て行き

結局元通りにしまい込むのが面倒で、車の中や会社の倉庫に放置します。

何ヶ月も経ち、虫喰いや汚れで無残な布きれとなった物体を

誰かが見つけることになります。


そんなにスーツばかり着たけりゃ

会社を大きくして、営業やデスクワークだけの身分になればいいことです。

建物も小屋でなく、立派なビルにして

スーツにふさわしいたたずまいにすればよいのです。

彼には無理ですが。


歴代の彼女にはひと通り、喪服や礼服もあるというのも見せたいのです。

必要性にかられてせっかく着た時は

公然とご披露できるチャンスなので、必ず会いに行きます。

正当な理由があれば、堂々と私に服を片付けさせられるからです。


でもねぇ、黒い服って厄介なんです。

上着に付いたファンデーションや

ズボンに付着した男女双方の分泌する液体は

乾くとすっごく目立つんですよね~。

女性のほうにも少しは気を付けてもらいたいものです。


さすがにこれは恥ずかしいので、クリーニングに出す前に

せっせと染み抜きをする私です。

    落ちにくいったらありゃしない。

    あんたらのシモの始末してんのは、私なんだよっ!

    始末料くらい、およこし!ってんだ…



そんな罰当たりな夫が

休日には、元気の無い私を連れてドライブや食事に出かけたり

優しく励ましてくれたりして

頭でも打ったのかと私のほうがびっくりしました。

夫は私が苦手ですが、父のことは好きだったので

そちらに義理立てをしていたのかもしれません。


このように、夫には…いいところも…あるんですよ?(苦笑)


大好きな父が他界したのは悲しかったですが

私にはありがたい変化がありました。


ショックでそれっきり生理がアガッてしまったのです。

40代半ば…年齢的には早い閉経でした。

女でなくなり、心底ホッとしました。


急に昔の仕打ちを思い出して悔しくなったり

居ても立ってもいられない

吐き気すらおぼえるほどの悲しみや憎しみにさいなまれる周期は

確かに毎月のものと関係していました。

しかし、その苦しみから永遠に解放されたのです。

これは父がもたらしてくれた最後のプレゼントだと思うことにしました。


不特定多数の人間と交渉する夫とは、もう長い間ただの同居人です。

性病やガンなどのウィルス感染が怖いからです。

しかも他人の旦那を盗ってやろうかとたくらむ女と

出し入れを共有するのは絶対にごめんです。


私のそういう意固地なところが

夫の息を詰まらせ、遊びを増長させる結果になったかもしれません。

しかし、時に女、時に母…と器用に切り替えの出来ない私は

どちらかをスッパリ断ち切らなければ

人を恨み、おのれの不幸を呪い

ずっと地獄の釜の底で苦しみ続けていなければなりません。

身も心も女を卒業したこの爽快感!

歌まで出ちゃうね。

        ♪すっからか~んのすっぽんぽ~ん♪

         ♪らららのら~♪ 


(ここは1オクターブ低い声で…)

         ♪うっしっし~♪ 



今では心から思っています。

「粗末なモノでも、人様に喜んでいただければ幸いです」

恵まれないおかたのお役に立てれば、これほど嬉しいことはございません。

「平和とは、需要と供給の一致から」…字あまり。

           な~んてね。


あ、ゆ○子を殺害した犯人…。

いまだにわからないままです。
コメント (10)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

とんだマドンナ

2009年01月08日 11時44分46秒 | 不倫…戦いの記録
夫は車で連れ去られました。

パトカーではありませんでした。


一人になってから

私は過去の記憶をたどり、二つのことを思い出していました。


ひとつはずいぶん昔…新婚の頃の話です。

…町内のホステスさんが河口に浮かんだことがありました。

死因が溺死でなく他殺だったので

「特に」親しかったお客が数人、警察に呼ばれました。


その夜、駅前の商店街では

警察署から戻って来たご主人たちのシャッターを叩く音

チャイムを鳴らす音、謝る声があちこちで聞こえたそうです。


若かった私は、その話にバカ受けし、大笑いしたおぼえがあります。

まさか自分の身に降りかかるとは、思ってもいませんでした。ははは。


もうひとつは、十年余り前…。

近くの町で、男性教師が教え子を殺害した事件。

恋愛関係のもつれです。

その教師の奥さんは、夫から電話でそのことを聞いて

何をしたかというと

すぐさま家の預金を引き出し、保険を解約し

離婚届けを提出して子供と家を出ました。

ちまたの反応は冷たかったですが

私は「あっぱれ!」と感動したものです。


この頃には、夫の奇行?も進行していたので

自分がもし似通った身の上になったら

絶対そうしよう…と思いました。

しかし、もちろん、それを参考にするようなことが

我が身に降りかかろうとは、やはり夢にも思っていませんでした。


夫に人が殺せるとは、そして平静を装って生活できるとは思えません。

でも、私はいまだに夫がよくわからないのです。

「こういう人…」と思っていたら、まったく違う面を知る…の連続でした。


夫が多面性を持っているというより

どうも付き合う相手によってコロコロと人格が変わっていくようです。

影響を受けやすいのでしょう。

決して人は殺せないと思っていても

いつコロリと変化しているかわかりません。

「ゆ○子色」に染められた夫が、殺人をしないという保証は無いのです。


万一を考えて部屋を片付け、通帳や印鑑をひとまとめにしていると

夫が帰宅しました。

拘留されなかったところを見ると、犯人ではないようです。


          「カツ丼、出た?」


興味津々でたずねると、夫は怒り出しました。

「出るわけないだろっ!」


「そういう言い方はないだろ」

長男が厳しく言いました。

「ここへ座って、ちゃんと説明しなさい!

 殺人事件にまで関係して、よく平気でいられるな!」


おとなしくなった夫の言うことにゃ…


  車のことは、時期が一致していたので、あくまでも参考のために聞かれ  

  その場で廃車手続きを行った業者に確認された。

 
  ゆ○子の携帯の履歴からだいたいのことはわかっていた。

  息子を女手ひとつで育てていると苦労話をし

  やれ病気だ進学だと偽って

  金を巻き上げられた者もいるから怨恨であろう。
   

  ゆ○子の息子はとっくに成人しており、すでに家庭がある。

  自分を若く思わせるために、子供の年齢を中学生に下げていたようだ。
  
  
  親しかった相手から一人ずつ事情や被害金額を聞いているが

  家ではしゃべりにくいこともあるだろうから、ということで

  連れて行かれた。           
  
  自分はまだ金を無心されてないと答えた…。
      
    
さすが、ゆ○子は夫より嘘つきです。

上には上がいるもんです。


合格祈願には、夫とゆ○子、二人で行ったそうです。

確かに、大人の息子は会わせられません。

夫には今回の合格から請求が来る予定だったのでしょう。  

何回目のお受験でしょうか。


    だから誰の名字で祈ろうと、関係ないわな…     


    「彼氏が何人もいたってこと?」


「そうらしい…」

    「あっらぁ~!残念だったわねぇ」

「…」


殺人犯の妻になるのは嫌でしたが

頭の中ではずっと、あのメロディが流れていました。

      ♪チャ、チャ、チャ~ン♪


ラストはいつも崖の上…。

「そうよ!私が殺したんだわっ!」


吹きすさぶ風、打ち寄せる波…

そんな聞き取りにくい場所で

なぜかえんえんと犯行の一部始終を告白…。

話し終わると、聞いたヤツを殺そうとする…。

自分でしゃべっておきながら…。


そしていつもギリギリのところで刑事到着…。

「来ないでっ!」

「死んではだめっ!あなたは罪をつぐなうのよっ!」


岩崎宏美の歌が流れる中をパトカーは走り去るのぢゃ…。

         ジャ~ン♪


ちょっと、期待してました。

           
長男は「死刑になればよかったのに」と言い

次男は「母さん、父さんを人間と思ったらだめだよ。違うと思えばいいんだよ」

と言いました。




             合掌

コメント (8)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

愛人警察

2009年01月06日 14時50分59秒 | 不倫…戦いの記録
部屋にいる夫を呼ぼうとしましたが

人の好さそうな初老の巡査は

ニコニコしながらまず私に質問しました。


「半月ほど前に、車を換えられましたね」

      「はい…主人の車ですけど」


老眼が進んでいるらしく、手帳を手元から離して読みながら

「車種は○○○○で、色は白、ナンバーは○○○ですね」

           「はい…」



それから少し間を置いて


「奥さん、○○市の○○山…という町をご存じですか?」

    「○○市は知ってますが

     ○○山という所には行ったことありませんねぇ」


そして矢継ぎ早に質問です。

「車はなぜ換えたんです?」

      「主人がぶつけたとかで…」

「なぜ下取りにしないで廃車にしたんですかね?」

      「さぁ…」



昔から、車をぶつけるのが得意な夫です。

普通に走っていれば大丈夫なのに

女性を乗せて道なき道を走り

なぜか山奥や人けのない場所へ行きたがるので

どうしても早く傷んでしまいます。

切り株に乗り上げて車のお腹が壊れ、なんか水分が漏れたり

大事な所が歪んでダメになるのは珍しいことではありませんでした。


そんなに山奥が好きならジープにすればいい…と何度も言うのですが

どうもジープではムードが出ないらしく、いつもセダンにしたがります。

第一印象を良くしたいらしいのです。

私たち家族は「一人相撲の王者」と呼んでいました。   


今度のも「ぶつけた」と言うので、そのまま受け流していました。

いつもの癖で再起不能になるほど壊したのでしょう。

でも、こんなことを説明するのは面倒なので、夫を呼びました。

やりとりはまる聞こえのはずなのに

グズグズと出て来ないチキンぶりが憎らしくもありました。


しぶしぶ玄関まで出て来た夫に

「○○市の○○山…という町をご存じですか?」

巡査はすぐさま質問しました。


「…え…」

「どっちですか?○○市の○○山という町をご存じですか?」

「…はぁ…」

「○○市の○○山という町ですよ」


    なるほど…こうやって同じ質問をするのが手なんだな…
  
    表情の変化を見るんだ…


生返事の夫を見ていると、警官でなくても怪しいと思います。

    「あなた、ちゃんと答えないと。

     …あの…殺人って、誰が殺されたんですか?」


「半月ほど前、○○山でスナックのママさんが殺されましてね」

  「ああ、ニュースでやってましたよね」

「それで、被害者宅によく停まっていたという車を探しているんですわ。

 ここも、ナンバーが似ていたもんでね。しらみつぶしというやつです」

           「大変ですね」

「ハハハ、仕事ですからねぇ」


家族を傷つけないためでしょうか。

それとも彼の権限の問題でしょうか。

なかなか核心には触れません。


私は店の住所は知っていましたが 

ゆ○子さんの名字や自宅の住所は知らなかったので

ニュースを見ても、ピンと来ませんでした。


でも、今やっとピンと来ました。

      あ~らら、彼女、死んじゃったのね…


警察がどこまで調べているかはわかりませんが

事件と前後してタイミング良く車を廃車にした夫はもちろん

私もまた疑われている気がしました。


包丁でメッタ刺しと報道していましたが

三角関係のもつれで、妻が愛人を殺す…なんてことも考えて

私に質問したのだと思いました。


          失礼な…
    
          逆上してすぐバレるようなことをするもんですか

          初心者じゃあるまいし… 



多分…恐がりの夫にメッタ刺しは無理です。

重みで圧死…ならあるかもしれませんが。

しかし、かばう気にはなれませんでした。

何が起こるかわからないのが世の中ですもの。


こうなったら私も、いち市民として捜査に協力しなくては!


 「主人が、その人と関係があったから疑われているんですね?」  

「いやいや、奥さん、そういうわけじゃ…」

  「いいえ!わかっています!証拠もありますわ!」


私は足取りも軽く部屋へ取ってかえし

例の神社の葉書やライターを差し出したのでした。
   
           うひょひょひょ…


しかし、期待していたほど喜ばれませんでした。

刑事ドラマとは、やっぱり違うようです。


外で待っていたのか、もう一人刑事らしき人物が現われました。

「どうでしょう、ご主人。

 ちょっと署のほうでゆっくり話をうかがえませんか」

コメント (12)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

本当にあったサスペンス

2009年01月05日 14時00分26秒 | 不倫…戦いの記録
待ち望んでいた2年が過ぎました。

私は調理師試験が終わり

ペラペラの免状を手にすることになります。


ここに至るまでに、苦難の道があるとは夢にも思いませんでした。

地元調理師会が催す2日間の講習を受ければ

よほどのことが無い限り合格します。


しかし、その前に手続きの段階が困難でした。

厨房で2年以上働いたという証明書を

病院からなかなかもらえなかったのです。


国家試験は年に一回ですから

提出期限を過ぎれば来年になってしまいます。


しびれを切らして庶務課長にたずねると

「パートは資格を取っても待遇は変わらないので

 それを不満に思って辞められたら困るのよね」

と言います。

         「不満になんて思いませんよ」

「本当?すぐ辞めない?」

       「はい。だから早く印鑑押してください」

「合格しても、今のままよ…本当にそれでいいのね?」

       「そんなこと期待してませんよ」


しかも、やっともらった証明書を保健所に持って行くと

「誰が書いたんですか…これ…。

 書き方がデタラメですね…。え?事務の人?課長さん?

 へぇ~!よくこんなので勤まるなぁ。

 公立病院でしょ?」

新しい証明書をファイルから出そうとします。


私も書き方が変だとは思いましたが

消せないし、印鑑があるからいいだろう…と思い、提出しました。


    「書き直せと言われても

     もう休みを取ってはるばるここまで来る暇はありません。

     これでどうにかしてくださいっ!」


なんだかんだ言ってたけど

書き方がわからなかったんだな…。


厨房は厨房で、私の受験に怪しいムードが付きまといました。

一部の仲間に

免許を取って時給を上げてもらおうとしている…

と思われたのです。


誰かが入る時に

「免許も無いんだから、この時給ね」

と言われたらしく

だったら免許を取ればもう少し高い時給になるのかも…

という発想になったようです。


だったら自分たちも受験すればいい…と言いたいところですが

すでに免許を持って長く働いている2人以外は

2年以上この仕事に従事した人がいません。

受験資格があったとしても

手続きだの勉強だのに関わる自体が嫌な人たちでもありました。

変わったことをして、上からにらまれたら、ここに居られなくなる…

そんな風潮もありました。


野心どころか、ここでずっとやって行く気すら無いのに…。

でも、畑違いの場所へのこのこやって来たことで

そこが自分にとって最上のステージだと思っている人間を

不愉快にさせる結果になってしまったことは

申し訳なかったと思っています。


          あ、これはイヤミです。



なんやかんやで、当初の目的は達成しましたが

「取ったわ、はいさよなら」

もナンだし…と思い、もうしばらくは勤めることにしました。

ま、お礼奉公というやつですな。



夫は相変わらず

ゆ○のママさんと順調に交際を続けていたようです。

ようです…というのは

仕事がきつかったので、よく知らないのです。

すいません。


ある日、近所の駐在さんが我が家にやって来ました。

「○○市内で起きた殺人事件のことで

 ご主人にちょっとおたずねしたいことがあるんですが…」


スナック・ゆ○のある市です。

コメント (8)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする