殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

ウグイスの卵

2015年05月27日 10時18分22秒 | みりこん童話のやかた
『庭で見つけたウグイスの卵』


私、ルビーのような卵から、もうすぐ孵化してウグイスになるのよ。

ワクワク!


でもちょっと心配なことが…。

ここのおうちには、みりこんっていう人間ウグイスがいるそうなの。

ママに聞いたわ。


人間の世界には選挙というのがあって

みりこんっていう人は、その時だけウグイスになるんですって。

滅多にウグイスにならないのに、先輩ぶって鳴き方に点数を付けたり

叱咤激励されるっていうじゃない。

孵化したばかりで、まだうまくさえずれない時なんて

ボロクソらしいわ。

羽も無い人に、何でゴチャゴチャ言われなきゃいけないのかしら。


そんなスパルタな所に卵を生まないでもらいたいけど

うちは代々ここに決まっているの。

ママが言うには、人間に聞かれる緊張感が大事なんですって。

ウグイスは鍛えられて成長するんですって。

でも私はほめられて成長したいわ。


「虎は我が子を谷に落とす」

ママは言うけど、私は虎じゃないってぇのよ。

「あなたはサラブレッドなのよ」

ママは言うけど、私は馬じゃないってぇのよ。


なんだか孵化するのが憂鬱になってきたわ。

頑張りますぅ。
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二代目の事情

2015年05月21日 20時19分13秒 | みりこんぐらし
いつでもおしっこが漏れてしまう、尿漏れのおチヨ

どこでも太ももをあらわにインスリン注射を打つ、インスリンのおタツ

睡眠薬を飲み過ぎて、しょっちゅう病院に担ぎ込まれるバランスのおシマ

嫁との確執に晩節をけがす、骨肉のおトミ

そして1日の大半をトイレ通いに費やす我が姑、かわやのおヨシ

以上のメンバーで構成される年寄りの友達…

人よんでヨリトモ軍団は、ただいま活動休止中。

昨年末、メンバーの送迎を受け持っていたおタツが足を骨折し

軍団が移動の足を失ったからである。


おタツの回復を待っているうちに、かわやのおヨシの旦那…

つまりうちの義父アツシが他界し

今度は骨肉のおトミの旦那が病いに倒れた。

おトミが病院に詰めているため、軍団の活動再開はまだ先になりそうだ。


平均年齢81才のメンバーに、「いずれ」「いつか」は望み薄のような気がする。

月に1、2度行われていた軍団の集まりが無くなり

一番残念がっているのは私かもしれない。

ヨシコの外出が減る…それは嫁の私にとって、ゆゆしき問題である。

亭主元気で留守がいいとはよく言うけど

姑は元気じゃなくていいから、とにかく留守がいい。

軍団の復活を衷心より祈る私である。



さて先日のこと、夫はある会合に出席した。

そこでたまたま同席したおトミの息子に、相談を持ちかけられる。


おトミの息子、マサヒロ君は夫の同級生だ。

自営業者の二代目であり、会社の規模や父親のワンマン体質

昔の栄華は今いずこ状態、その渦中で当の父親は死にかけており

あとのいっさいがっさいは長男の自分に押し寄せる予定など

夫と彼には共通点が多々ある。

夫の方は母親と姉、彼の方は母親と妹の組み合わせだが

一卵性母子がゴタゴタの種をまくのも同じだ。


しかし当人同士は正反対。

頭脳明晰で弁の立つ、真面目な坊ちゃんタイプの彼は

放蕩者の夫を軽蔑しており、昔から仲が良くなかった。


「負債が7億あるんだ。

オヤジが死ぬまでにやっておくことを教えてくれないか…」

父親の後始末を終えたばかりの夫は、この質問の回答に適任ではあるが

反目する自分に話すのは、よっぽどのことだと感じたそうだ。


ともあれこの状況で、おトミはハイミスの娘に家をプレゼントした。

家計が厳しくなって働きに出ていたお嫁さんは

それ以来、同じ家に住みながら口をきいてくれなくなった。

おトミの骨肉は、自分で作ったものと言える。


骨肉のおトミは、そもそも生まれた時から骨肉であった。

造り酒屋のお妾さんから生まれたおトミは、祖母に育てられ

年頃になると本宅の意向で、この町のワケあり男の元へ片付けられた。

おトミが嫁ぐずっと前から、相手の男には内妻がいたという骨肉ぶりだ。

本宅の奥座敷から、正妻の高笑いが聞こえてきそうではないか。


数年前にその女の人が亡くなるまで、三角関係は続いた。

毎月渡していたお手当がいらなくなったので

娘の家のローンを組んだというのが真相らしい。

この短絡によって、嫁と骨肉の間柄になったのは自然な経緯といえよう。



さて、おトミの息子マサヒロ君から

ヤバい会社の二代目として心得をたずねられた夫は

自身の体験を細かく話した。

「いずれにしても司法書士は必要になるだろうから

遠くの司法書士をいつでも紹介する」

そう付け加えたと聞き、私は大いに拍手した。


遠くの司法書士…これ、重要ポイント。

この町に司法書士は1人しかいない。

それがいい人で、守秘義務があるとはいえ

同じライオンズクラブでキャッキャやってた仲間に実情を知られるのは

死ぬほど恥ずかしいものだからだ。


勇気が出るのを待っているうちに親父さんが亡くなったら

打つ手があっても打てなくなる。

ことによっては弁護士が必要になるかもしれないので

夫はやはり遠くの人を紹介する約束をした。

負債がいくらあろうと、それは金との戦いではない。

プライドで築き上げた幻をいかに早く、どこまで崩せるかの戦いであることを

父親の一件で思い知った夫であった。



「板倉の所も、えらいことになっている」

その時、おトミの息子は言ったという。

アツシの四十九日の日に亡くなった隣の隣のおじさんの息子、板倉君も

夫と同級生なのだ。

自営業者の二代目であり、会社の規模や父親のワンマン体質

昔の栄華は今いずこ状態など、やはり共通点があるが

おトミの息子と同じく、夫とは一線を引いている人だ。


我々が夫の実家で寝起きするようになった3年前は

板倉君の奥さんをよく見かけた。

毎週末、義父母の家にやって来ては

足の弱った姑の手を取り、優しく語りかけながら散歩をさせていた。

近所では嫁の鏡とうたわれ、ヨシコはしきりに羨ましがっていたが

私の目にはいかにも芝居がかって見えた。

「続きゃせんわい」と冷ややかに言っては

ヨシコのひんしゅくを買っていたものだ。


ぷっつり姿を見なくなったのは一昨年の秋。

おじさんの通夜葬儀に板倉君の奥さんがいなかったことは

近所でも話題になっていたが、その頃離婚したらしい。

原因はやはり金だという。


「自分だけが大変だと思っていたけど、よそも大変だったんだな」

夫がしみじみと言う。

「うちは本社に拾ってもらって、本当にラッキーだった。

同じ二代目でも、あいつらの方がずっと頭いいのに…

人生、頭じゃなくて運の違いなんだな」

私が心の中で「女房の違いだよ」とつぶやいたことは秘密だ。
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人間ドック

2015年05月08日 22時51分48秒 | みりこんぐらし
『これは人間ドッグ』


2月に義父アツシを見送り、四十九日の法要と香典返しを済ませ

相続問題もほぼケリがついて、私の日常は平静を取り戻しつつある。

不肖ながら作業の音頭を取ることになったのは、他に誰もやらないからである。

とはいえ葬式は葬儀社、仏事はお坊さん

香典返しは進物店、相続は司法書士…

それぞれの専門家に振るだけだ。


あとはVS身内。

長兄亡き後、祖父母が遺した土地が

次兄のアツシの物になっているのではないかと

彼のきょうだい達に疑われたり

この際、両親の墓を建て替えてアツシをそこに入れろだの

ついでに絶えた母方の永代供養をしろだの

親にかける手間もお金も惜しんだ者ほど指図がうるさい。


一人っ子で、きょうだいのゴタゴタに慣れてない義母ヨシコは

そのたびに寝込んだが、私にとっては想定の範囲内。

かしこぶってあれこれ言い出すけど、しょせんアツシのきょうだい…

底が浅いのはわかっているので、適当にあしらう。


その一方、アツシとヨシコが付き合う価値無しと判断し

敬遠していたきょうだいや親戚が

世話になったことを忘れず、心から冥福を祈っていたことも知った。

人が1人死ぬと、各自の本心がよく見える。

今後の親戚付き合いの参考にするまでだ。


3年間、入院中のアツシに差し入れていた弁当作りに比べれば

死後の後始末なんざ、チョロい。

できることを淡々と行うのみ。



夫の方も、できることを淡々と行っている。

毎日ヨシコを連れてのアツシ詣(もうで)から解放され

身も心も爽やかにバドミントン。


夫がこのスポーツを始めたのは、20年ほど前。

当時交際していた生保レディに誘われたのが発端である。

野球と柔道でこしらえた身長180センチ、体重85キロの巨漢に

軽やかな印象のバドミントンは似合わないような気もするが

そこそこ楽しかったらしく、熱心にやっていたものだ。

以後は相手によって、行かなくなったり再開したりを繰り返し

現在は数年前から付き合っている生保レディ千和子と一緒に

同じクラブで元気に活動している。


妻はバドミントンのことなど知らないと思っているから

毎週日曜日の朝は、何やかやと理由をつけて消えなければならない。

最初のうちは、やれ同級生の集まりだ、それ知り合いに呼ばれて…

と弁解に忙しかった。


そこで「休みの朝は人数が1人でも少ない方が助かる」

と言ったら、ずいぶん気楽になったようで

去年あたりから、日曜日の朝は起きたら消えているのが普通になった。

狭い台所に夫と息子、3人の大男が集結すると

酸素が薄くなるような気がするので本当に助かる。

汗でベタベタになったシャツやリストバンドなんかを

洗濯カゴに突っ込んでいるからバレバレだが

本人は秘密のつもりで、バドミントンのバの字も言わなかった。


アツシの死後はバドミントンに本腰を入れ

日曜の午前中だけでなく火曜日の夜も練習に参加するようになった。

夜の部はごまかしやすい。

長年の習慣であるサウナと言っておけばいい。

が、行きはよいよい帰りは怖い…

帰宅してから風呂に入る必要が生じる。

問題解決のために、帰ったらまず犬の散歩に出なければならない。

「ああ、散歩で汗をかいた、参った参った」という設定。

火曜日は犬がよく走るらしい。


困るのは、犬が留守の日。

うちの犬は時々、長男に連れられて友達の家に行く。

そこにはミラちゃんというチワワがいて、2匹は仲良しなのだ。

小道具が外出中の時は「今日のサウナは熱かった」

火曜日はサウナの温度が高くなるらしい。


洗濯物が出るので、やはりバレバレだが

本人は依然として秘密のままだと信じている。

洗濯カゴの一番底に突っ込んでおけば大丈夫と思い込んでいるのが

あわれに面白い。


夫がどこへ行って何をしようと興味は無い。

若い頃は大変興味があったが、今はどうでもいい。

盗った、盗られたでカッカしていたのは

ひとえに夫と私、そして親達の若さゆえであった。


見てみい!

愛だ恋だといくら騒いだって、親に手がかかるようになったら

結婚したいと言い出す女はいなくなったじゃないか!


それは夫の加齢が主因であり、彼が高齢化すると相手も高齢化して

結婚したがる独身女性が寄り付かなくなったからだが

それでも私は立候補を待っていた。

特にこの3年は、アツシの弁当を作ってくれる女性の登場を

首を長くして待った。

千和子にその気は無いようだし、やる気が無いならリストラして

別のにしてもらえないだろうか…などと思った。


彼らが簡単に口走る愛や恋は、人間に対してではなく

その時その時で移り変わる条件に向けられたものなのだ。

浮気者の実力なんて、こんなもんなのさ。



それはさておき先日、夫は年に一度の人間ドックに入った。

そして帰るなり言う。

「俺の心臓、去年より一回り大きくなってるんだって!」

「心臓肥大?」

「いや、元気になってるらしい」

「何で?」

「やっぱりバドミントンかなあ。

週2回に増やしたから、あれが効いたのかも!」

「良かったね」

「ウン!」

「これからも頑張ってね」

「ウン!」

自白したことにに気づかないほど嬉しかったらしい。
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