期日前投票には行ったけど、自民大敗、野党躍進はわかっていたし
安倍さん亡き後は楽しみも無く、高市早苗さんが総裁選で敗れたのもあって
今一つ燃えなかった。
え?高市さんファンかって?
そういうわけじゃないけど、疲弊した日本に
何か灯りを灯してくれそうな期待感はあった。
もはや、期待だけでいいのだ。
そんな冷めた心でも、一応はウグイスだもんで
新聞の選挙関連の記事には入念に目を通す。
その記事の中、とある選挙区に見覚えのある人物を発見。
某野党から、初めて立候補した人だ。
これは、なかなかの衝撃だった。
彼のことは昔、記事にしたことがある。
関わっていた選挙選で同じ陣営にいた、当時20代の若者だ。
いずこからか、この町にやって来たばかりの彼は
市の活動がきっかけで候補夫妻のお気に入りに落ち着いた。
彼は資格を頼りに就職が決まっていたが
本格的に出勤を始める前の準備期間を利用して
選挙カーの後続車両に乗ることになった。
整った顔立ちの爽やか男子に、陣営の奥様たちもトリコ。
A君、A君とアイドル並みの大人気である。
一方、私は彼を冷ややかな視線で眺めていた。
後続車とはいえ、選挙車両に搭乗する身でありながら
ジャージの上下、つまりリラックス用の衣類を着ていたからだ。
「普通のきちんとした服、着て」
と注意したら、スポーツ関連の仕事のため
ジャージしか持ってないと言う。
候補の奥さんの口添えもあって私が折れたが
ああ、こいつは都合の悪いことに理由をつけて逃げるタイプじゃな…
と理解した。
ジャージの厚かましさもさることながら、私の猜疑心を刺激したのは
候補夫妻のお気に入りという点である。
田舎の議員というのは社会経験が乏しく
人間関係に揉まれてない人が多いので、たいてい人を見る目が無い。
この候補は坊ちゃん育ちなので、特にその傾向が強い。
地元でしっかり票を集める働き者は、自分の意見を言うので煙たがり
何もできないよそ者をチヤホヤする悪癖があった。
通りすがりの人間は責任が無いので、従順だからである。
そんな候補が目に入れても痛くないほど可愛がっているからには
マユツバと見て間違いないのだ。
案の定、選挙期間中の彼は私の期待にこたえてくれた。
路上に並んでお辞儀を繰り返す時には、自分だけ平然とスクワット。
体育会系なので、お辞儀を繰り返す暇があったら
ちょっと似た動作のスクワットをする方が、彼にとって合理的なのだ。
本人が言うには癖だそうで、改めることはなかった。
票の方にはとんと関心が無く、頑張るのは食事のお代わりだけ。
大量摂取で腹がふくれたら、選挙事務所で唯一のトイレを占領。
食べたら出すのが、彼にとっての体育会系らしい。
他の者は別のトイレへ走るので、午後の出発はいつも遅れた。
そして午後は、後続車でスヤスヤと就寝が日課である。
トドメは最終日。
期間中、彼を可愛がりまくった候補の奥さんが
「A君、明日は選挙に行ってね」
そう言うと、彼の返事は素晴らしかった。
「僕、こっちへ来て日が浅いから選挙権が無いんですよ」
彼の投票用紙は、前に住んでいた関西に届いているそうだ。
明るく爽やか、素直でやたらと元気のいい仮面のその裏は
能天気で図々しく、常識を知らない役立たず…
睨んだ通りの人物像に、私はほくそ笑んだ。
「楽しかったです!」
解散する時、彼は明るく私に言い
「二度と来るなよ」
私は笑顔で言った。
20年ぐらい前のことだ。
その選挙が終わって以降、彼に会うことは無かった。
しかし今回、この町とは違う土地で
衆院選に立候補しているではないか。
どうしてこんなことになったのか。
空白の20年を辿る気も無いが、あの時に選挙の楽しさを知ったのかもしれない。
爽やかなイケメンヅラは20年の時を経て
濃ゆい顔の中年と化している。
しかしあの顔、あの名前、あの年齢、あの経歴、間違いない。
私のブラックな喜びをご理解いただけるだろうか。
そして結果…彼は落選した。
だけど顔と体格が良くて見栄えがするのと
野党の勢いもあって票はかなり取ったので
翌日には比例で復活当選しおった。
二度と来るなどころか
当時の候補よりずっと偉い代議士先生になっちまったでねえか。
あんなヤツのために貴重な税金が使われるのか。
チッ!
しかし思えば、無責任でいい加減
逃げるのがうまく、おのれの利益には貪欲…
議員の素質は十分である。
今後の活躍に期待?したい。