殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

みりこん流・ニュースはこう読む

2017年09月29日 08時57分29秒 | みりこん流

隣の国が放ったミサイルが、日本の上空を飛ぶ時代になっちゃった。

危険な国とわかってはいるものの、周囲の目もあるし

さすがにそこまでは‥

そう考えていたけど、やりやがったわね。

日本人は、急増した天変地異のみならず

ミサイルにも怯えなければならなくなったわけ。


大きな国難を迎えたこの時期に

衆議院は解散、総選挙に踏み切ったわ。

多くの人の心中は、穏やかではないでしょうね。


でも、むやみに揺れないでいただきたいの。

9年前、マスコミと組んで夢のような政策を喧伝した民主党(当時)。

不況にあえぐ国民の多くは飛びついたわ。

「一回やらせてみたらいいじゃないか」

そう言って一回やらせ、国をますます弱らせた

あの失敗を忘れないでちょうだい。


今回も、マスコミをうまく使って

新党を立ち上げた都知事がいらっしゃるわ。

元プロなので、イメージ戦略はとてもお上手。

先に行われた都議選で、近々産休に入るとわかりきっている妊婦を

複数当選させた実績は、あきれるしかないわよ。

出す方も出す方なら、出る方も出る方。

生き馬の目を抜くと言われるお江戸には

お優しい有権者がたくさんおられることよ‥私は驚いたものだわ。

こういう実績はすごいんだけど、ご本人の方は

仕事でこれといった実績は、まだ残していらっしゃらないみたいね。


それでいて、今度は国政。

慣れた古巣だから抵抗が無いんだろうけど、かなりの欲張りね。

寄せ集めたお仲間は、はっきり申し上げてガラクタが大半。

政党を変えなければ当選が危うい人やら

イメージに乗っかって楽に勝ちたい人やら。


「野合的駆け込み寺政党」

ベストな表現だと思うわ。

他にも「野望の党」「絶望の党」と、素敵なニックネームが付いて

私のハートはくすぐられっぱなし。


地方在住者の私に、都政は遠い存在。

首都だから、回り回って地方にも関係するとはいえ

部外者や観客の気分が強くて申し訳ないけど

マスコミの使い方がうまい彼女には関心を持っているの。


当選からしばらくは、親切にも彼女の身の安全まで心配していたけど

今まで大丈夫なところを見ると、戦略の一つだったみたい。

おじさんやおじいさんを怒らせ、マスコミを利用して被害者の印象を作り

世論を味方につけて最終的に勝利宣言。

桃太郎戦法は、なかなか見ごたえがあるわ。


みりこん命名の桃太郎戦法とは

①敵を設定

②逆境の正義に回る

③家来登場

④世論を味方に付けて勝つ

⑤宝物を乗せた車は家来に引かせるが、持ち帰る先は自分の所


日本人が好む勧善懲悪のドラマを作り上げるプロデュースに

長けていらっしゃるみたい。

昔から、これに似た形でやってこられた人だけど

都知事選の立候補で完成したように思うわ。

公認をくれない自民党を敵に設定し、正義をアピール

逆境の自分に付いてくる家来を登場させて盛り上がりを促し

④、⑤につなげるパターン。

当選後も古参の都議、元知事、元総理など

設定する敵には事欠かなかったわ。


でも、何回もやると手の内がわかってくるわね。

「ひょっとして、ナメてんの?」

なんて気にもなっちゃうわよ。

こういう人は犬、猿、キジを

用無しになったらバッサリと、微笑みながら切るのもお決まりよ。


今後も何をやってくれるのかを楽しみにしつつ

心ある都民が感じておられる怒りと当惑は、いかばかりかと案じる今日この頃。

目の前で繰り広げられていることがパフォーマンスなのか

本当に日本のためなのかを冷静に見極められる

賢い有権者になって、と願わずにはいられないわ。


で、解散総選挙。

偉そうに言うわりに、難しいことはわからない私だけど

解散総選挙=開店休業。

それが私たち建設業界人の常識。

いつものことだもの、覚悟の上よ。

日本を本当に守れる人が、たくさん当選なさるといいわね。

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段取り女

2017年09月24日 08時46分39秒 | みりこんぐらし
「四十九日は家でやることにした」

夫の姉カンジワ・ルイーゼ様がおっしゃる。

先日亡くなった姑さんの四十九日である。

「仕出しは取るけど、30人ぐらい集まるから手伝ってね」

ルイーゼ様はこともなげにおっしゃる。


ルイーゼの旦那キクオは、庭の離れでほぼ寝たきりの父親を一人で介護している。

繊細な彼は母親亡き後、父親への愛着が強まった様子で

残して出かけるのが不安らしい。



「人が少ないので、通夜葬儀も初七日も皆さんで来てください」

通夜の前日、キクオは我らに言った。

初めて親の死に遭遇した一人っ子としては

淋しくも心細くもあり、自然な発言といえよう。


彼は持ち前の几帳面さで、親戚中にくまなく参加を要請した。

よって善良な親戚一同は、通夜葬儀と初七日の法要に

一家総出で参加したため、予想に反して賑やかなものとなった。

このメンバーが、そのまま四十九日にスライドするらしい。



こら、ちょっと待て‥私は言いたかった。

これは無謀以外のなにものでもない。

考え直しを進言したいのはやまやまだが、この人たちとも長い付き合い。

言い出したらきかないのは知っているので「いいよ」と答えた。


なぜ家で法事を行うのが無謀か。

だってキクオの家には駐車場が無いんだもん。

田舎の農家といったら敷地が広くて

駐車場に困らないイメージがあるけど、ここは違う。

道路から数メートル高い所に家があり、庭へ上がる坂道が細いので車が入らない。


庭を支える石垣をくり抜いたガレージは、ルイーゼ夫婦の車と耕運機で満員御礼。

お客のために自分たちの車を移動させる気働きが無いことは

長い付き合いで知っているし

移動させようにも、移動先が無いのも知っている。


周辺にも車を停められるスペースは、腹が立つほど無い。

そりゃもう見事に無いったら無い。

ど田舎過ぎて忘れられ、車の発展から完全に取り残された地域なのだ。


強いて言えば少し先へ行った所に、車1台がやっとの草むらがある。

そこを逃すと淋しい山奥へ続く細い一本道で、片方は崖。

ホンマに、とんでもない所なんじゃ。

「あそこしか無い、あそこを取るんじゃ!」

他のお客のことなど、考えてはいられない。

我ら一家は当日、誰よりも早く到着する決意を固めるのだった。


駐車場、つまりハード面の問題はこれでどうにかなるにしても

ソフト面の問題が残っている。

キクオは一人っ子。

当然、兄妹やその配偶者は存在しないため、人手が足りない。

しかもキクオはパーキンソン病で、あまり動けない。

その妻ルイーゼは人間嫌いで会話が苦手。

彼らには36才の一人息子がいるが

父親の神経質と母親の薄情をバッチリ受け継いだ不思議クン。


人は誰しも秘められた可能性を持っている‥

案ずるより産むが易し‥

そんな言葉もあるにはあるけど

こいつらが家にお客を招いて法事を取り仕切れるはずがない。

何も知らないから言い出せるのだ。


段取り女の私なので「手伝ってね」と言われたからには

10月半ばの法事に向けて、目下準備中。

仏事の道具と手順の確認を始め、座布団、ポット、お盆、エトセトラ‥

ルイーゼ宅に無い物を用意するのだ。

あの家には足りない物がたくさんある。

というか、足りない物の方が断然多い。


家族5人で弔問に行った時は、湯呑み2個にグラス2個

あとはプラスチックのコップ1個に麦茶が注がれて出てきた。

こだわって嫁入り道具にしたノリタケ・ボーンチャイナやグラスセットは

とっくの昔に割れたと言う。

実家ばっかり帰って家にほとんどいないからお客が来ないのか

駐車場が無さすぎて人が寄り付かないのか

いずれにしても補充や新調の必要性を感じないまま生きてきたのだ。

このありさまで、お客を招く度胸は認める。


よって食器類も貸し出すことになりそうだが

グラスは貸さないと心に決めている。

持ち運びが厄介だし、洗うのも面倒なので

ビールには使い捨てのコップをお勧めするつもり。

いまどきは丈夫で洒落た物も出回っているため

サンプルを用意してプレゼンを行ってみようと思う。

頭の固いルイーゼが納得するかどうかは不明。


あとは法要後、会場のセッティングさえスムースにできれば

飲めや歌えの宴会でもなし、どうにかなるものだ。

なぁに、座ってご馳走になろうと思わなければいい。

お客ではなく、働きに来たと思えばいいのだ。

労働量は、家で家事をするよりずっと軽い。


最後に大事な準備が‥

「本能のままに動かないこと」

これを自分に言い聞かせている。

性格上、自由に仕切らせてもらえれば楽なんだけど

私は弟の嫁、故人とは赤の他人、部外者、影。


この件に関しては過去、家庭や選挙事務所での苦い体験がいくつかある。

何も考えず、ついチャキチャキ動いてしまう私だが

それは時として一部の女性にストレスを与え、傷つけ、恨みを買った。

自分無しでは回らないと信じている女性たちだ。

この中には義母ヨシコやルイーゼも入る。

今は親しくなった一回り年上の友人ヤエさんも

3つ年上の友人ラン子も、最初はその一人だった。


決して私が有能なのではない。

段取りとスピードの違いだけである。

この段取りとスピードは、気難しい舅アツシのおかげで鍛えられた。

人間、恐怖と嫌悪を前にすれば、どんなこともやれるもんだ。

そして病院の厨房で働くうち、コツをつかんだに過ぎない。


集団で一番大切なのは「和」。

それに気づかず、がむしゃらに働いた青い時代の反省をふまえ

私は自分に言い聞かせる。

控えめに、上品に‥

これが一番難しい。
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鳥じい

2017年09月19日 19時52分16秒 | みりこんぐらし
しばらく前から、私たち家族は夫をこう呼ぶ。

「鳥じい」。

夫は元々、人たらしの術に長けている。

彼に会うため、本社や支社の人が引きもきらないが

この頃は鳥まで手なづけているのだ。


いつも仕事をしていると

「グェ〜」とか「ガ〜」という、いくぶん押さえた鳴き声がする。

ガサガサと羽の音が近づいてきて

気がついたら事務所は鳥にトリ囲まれている。


鳥は身分差がはっきりしているようで

まず一番体の大きいトンビの夫婦がひと組、舞い降りて

夫のお出ましを待つ。

彼らはデカいので、バッサバッサと翼の音がすごい。


夫はいそいそと駐車場に出て

大きめにカットしたトンビ仕様のパンを投げてやる。

この食パンは、夫の友人が営むパン屋の売れ残り。

それで足りない時は、買ってまで与える。


トンビの夫婦が満足して飛び去ると、カモメの番だ。

10羽ぐらいが飛んで来て

「ギャ〜」

と挨拶。

夫は中くらいにカットしたカモメ仕様のパンを投げてやる。


カモメが去ると、すかさずカラスが登場。

この頃になると、がぜん数が多くなる。

事務所の屋根や駐車場は、さながらヒッチコック劇場。

夫は小さくカットしたカラス仕様のパンを投げてやる。


カラスは人間関係‥いやカラス関係が色々あるらしく

ホラーな黒い大群が満足して飛び去った後

残っていた何羽かが、おこぼれにありつく。

居残りのカラスは何となく痩せており、羽も乱れている時がある。

世渡りが下手そうな彼らのために、夫は残しておいたパンを与える。


痩せガラスがちらほら残ってパンをつついていると

待ってましたとばかりにスズメの大群が現れ

駐車場は茶色になる。

スズメは、痩せガラスが安全と知っているのか

それともバカにしているのかは不明。

夫は極小にカットしたスズメ仕様のパンをばらまく。


夫は暇を見つけては、ハサミでせっせとパンを切っている。

鳥の口に合わせて大、中、小、極小の四種類を用意し

パンの大きさごとに入れ物を変える念の入れよう。

「食パンばっかりじゃあ栄養が偏る」

と心配して野菜を買い込んでいたが、鳥には不評だったらしく

再びパン切りの内職に燃えるのであった。


一度、私のハサミを使っているところを目撃したので

文句を言ったら、パン切り専用に新しいハサミを買っていた。

高級なハサミでないと、うまく切れないらしい。


「生態系が乱れるんじゃないのっ?」

「野生だから自立が必要なんじゃないのっ?」

鳥に厳しい私は、しばらくの間ガミガミ言っていた。

なぜなら会社の車や通勤車に大小のフンをするからだ。


「父さんがかわいそうだから言わないけど、実は掃除が大変」

息子たちがぼやいていたので

それもそうだと思い、夫への小言を続けた。

「あんたらもタダメシにたかるばっかりじゃなくて、芸でもしたらっ?」

鳥にも厳しく言う。

シモべに毎日パンを貢がれて

こやつら、だんだん太ってきたような気がする。

「舌切り雀のおばあさんみたいじゃ‥」

夫はつぶやく。


が、じきに鳥どもは、ある特殊技能を身に付けた。

会社でフンをしなくなったのだ。

「鳥はわかってくれる」

夫はご満悦である。


「そんなはずはない!」

私は大いにいぶかしみ、観察を始めたところ

謎はほどなく解明。

夫はなにげに駐車場から離れた場所でパンを与えていた。

だからフン害が無くなったのだ。

「鳥が礼儀を身につけた!」

鼻高々に自慢する夫だが、私はトリックだと思う。
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王女と蛙

2017年09月12日 07時11分13秒 | みりこん童話のやかた
昔むかしのある国に、一人の王女様がおられました。

その国では古くから、高貴なご身分の方々が通われる学校が

決められていました。

王女様も小さい頃からその学校へ通っておられましたが

ある時、校長先生が交代しました。

新しい校長先生は隣の国と仲良しで

ことあるごとに王女様を隣の国との交流に参加させようとします。

不穏な気配を感じられた王女様は、別の学校へ変わることになさいました。


そのご判断が正しかったかどうかはともかく

新しい学校で、充実した学生生活を送っておられた王女様は

やがて一匹のカエルが後ろを付いてくるのに気がつかれました。

「コムロロ、コムロロ」

カエルは鳴きながら、王女様の後を追います。

動物好きな王女様は、このカエルを憎からず思われ

そのままにしておかれました。


本家の伯父様が歯並びの良くない女性とご結婚されて以来

王女様は笑うことを遠慮するように言われておりました。

王女様の美しい歯が人目に触れますと

伯父様の奥様のご機嫌が悪くなるからです。

だからといって仏頂面はできませんから

王女様は常に口元に力を入れ

微笑んでいるような表情をなさっておいででした。


けれどもカエルと一緒の時は、思い切り笑うことができます。

「このカエルの前だと、本当のわたくしになれる‥」

王女様はいつしか、カエルを大切な存在と思われるようになりました。


そんなある日、カエルは突然、人間の言葉を話しました。

「結婚してください」

カエルがしゃべったので、王女様は驚かれました。

「今はカエルの姿をしていますが、僕は本当は王子なのです」

「どちらの王子様ですか?」

「海のほうです」

「‥‥」


あっけにとられる王女様に、カエルは言います。

「悪い魔女に魔法をかけられて、カエルになってしまいましたが

王女様と結婚した時、僕は人間に戻れるのです」

「本当ですか?」

「本当です。

さあ、幸せになりましょう」

優しい王女様はカエルの言葉を信じて、コクリとうなづかれました。


それからのカエルは、鳴き方が変わりました。

「コクサイコウリュウ、コクサイコウリュウ」

そのうち、母ガエルも顔を出すようになりました。

「オンナデヒトツ、オンナデヒトツ」

と鳴きながら、息子の後を付いて歩きます。

それは人々の目に、奇妙な光景として映りましたが

カエルの家には姿見が無いので

自分たちが普通や一般的という基準から外れていることには

気づいていませんでした。


一部の敏感な人々は大いに怪しみ、カエルの素性をとやかく言い始めました。

「定職が無いのに、どうやって生活していくのだ」

「国籍と家系図を明らかにしろ」

「父ガエルと祖父ガエルの自殺について説明がない」

「母ガエルとカルト宗教の関係はどうなっている」


カエルは持参金目当てと言われれば、これ見よがしに食費の節約本を買い

フリーターと言われれば、正規職員を公言しました。

しかし哀しいかな、そこはカエル。

王女様に食費2万円の生活を強いるつもりか‥

弁護士を目指している話は嘘だったのか‥

と、人心をますます不安に陥れるとは考えつきません。


けれどもカエルのツラに小便とはよく言ったもので

「人は何と言おうが、let it be」

カエルは明るく笑うのでした。

王女様が幸せになられるかどうかはわかりませんが

少なくともカエルは幸せになれそうです。


(この物語はフィクションであり、実在の人物や団体とは関係ありません)
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手土産オンチ

2017年09月07日 15時35分38秒 | みりこんぐらし
37才の堀井君は、息子の友達。

仕事を通じて親しくなった。


高知県出身だが、仕事上、県北の山奥に住んでいて

月に何度か、息子たちと釣りに出かける。

帰りが遅くなるとうちへ泊まるが

礼儀正しいイケメンで、そのわりに癒し系。

泊まっても全然苦にならない。


彼が食事をした後、箸袋にきちんと揃えて収められた割り箸を

息子たちに見せて指導。

「よそでご飯を食べた後、箸袋に入れるのは誰でもやる。

でも、これをごらん。

新しい割り箸みたいに、きちんと揃えて入れてある。

あんたたちも見習いなさい」


風呂で使うバスタオルもちゃんと持って来て、持って帰る。

「ここまでする子はあんまりいない。

あんたたちも見習いなさい」

男の子は母親からこんなことを言われると反発するものだが

堀井君に関しては素直に聞く。

躾に便利な堀井君である。


そんな彼は独身。

結婚に憧れているという。

無理もない。

転勤で知らない土地へ配属され、そこが寂しい山奥村とくれば

嫁さんの一人や二人は欲しかろう。


以前は彼女がいたけど、突然振られたそうだ。

理由はわからないと本人は言う。

高身長、高学歴、勤務先は大手で地位もそこそこ

明るく優しく顔もいいのに、もったいないことだ。


そんなある日、堀井君が手土産を持って来た。

「いつもご馳走になって、すみません。

ほんの気持ちですが‥」

看護師だというお母さんの教育が行き届いている。


「あっら〜!気を使わないで〜!」

と言いながら、喜んで包みを開ける私。

中には黄金色のフタも神々しい瓶詰めが一つ。

ニンニクの唐辛子和えだ。

辛い。


「手作りの弁当に飢えているから作ってあげて」

息子から言われ、何回か作ってやると

「ほんのお礼です」

と、また何か持って来た。

青唐辛子の佃煮、ひと瓶。

辛い。


その次は赤唐辛子の味噌漬け、ひと瓶。

辛い。


辛いものが好きなのかと問えば、そういうわけではでないと言う。

山奥村の道の駅には、こんなのしか売ってないそうだ。

そりゃわかるよ‥寒い土地だし、あんまり特産物が無い地域だもんね。

でもね、食べられんのよ‥辛すぎて。

「堀井君、ほんと、気を使わないで!お気持ちだけで充分!」

私は心から言うのだった。


なんか、結婚しそびれた理由がわかったような気がする。

プレゼントのセンスがイマイチだったのではないのか。

彼女の誕生日には、何をあげていたんだろう。

やっぱり道の駅製?


そして先月の下旬。

彼は遅い夏休みを取って故郷の高知県へ帰省した。

「本場のカツオのたたきを買ったから、楽しみにして!」

こちらへ戻る日、息子に連絡がある。

初めてマトモなお土産と遭遇できる喜びを胸に

我々一家は彼の訪れを待った。


我々はてっきり、高知からの帰りに寄ると思っていたが

ゆっくり休みたいので、まっすぐ帰るという話だった。

次の日も、まる一日ゆっくりしたいということで、訪れはなかった。

ここでふと、脳裏に暗雲が。

「生ものなのに、大丈夫?」


うちの子もそうだけど、独身が長い男って自分本意なところがあるものよ。

それはかまわないけど、生ものの土産はできるだけ早く届けるのが鉄則。

だから多くの人は、危険を伴う生ものを土産にしない。

でも‥私は思い直す。

「本場生まれなんだから、管理方法はわかってるはず」

自分にそう言い聞かせ、暗雲を打ち消すのだった。


その翌日、堀井君は立派なカツオのたたきを

2本たずさえてやって来た。

この日はうちへ泊まり、明朝早くから息子と釣りに出かけるのだ。

「さあ!晩ごはんにしましょう!」

私は準備していたカイワレや玉ねぎスライスをいそいそと出す。


と‥堀井君、真顔でおっしゃる。

「待ってください!

お口に合うかどうかわからないので、感想を聞く勇気がありません!

明日、僕が帰ってから食べてください!」


そうよ、彼は繊細なの。

故郷から持ち帰った名物が、もしもお気に召さなかったら‥

と心配しているのだ。

その気持ちを汲んで、私はたたきを冷蔵庫に収めた。


翌日の夕食で、我ら一家はいよいよカツオのたたきを食す。

おおっ!さすが本場もん!切る時の感触からして違う!

スッ、スッと小気味好く包丁が入る!

この時点で、絶対においしいのがわかる!


そして食べた。

う‥うまい!

お口に合うどころじゃない!

「全然違う!」

「目ぇつぶって食べたら肉じゃ!」

我ら一家は堀井君初の快挙を寿ぎつつ、むさぼり食うのであった。



‥異変は午前3時に起こった。

胃がムカムカして目覚める。

吐きそう。

長男も起きて言った。

「気分が悪い‥たたきだと思う‥」

一番多く食べた彼と私は、あたったのだった。

幸いにも吐いたり下げたりは無かったが

微熱と手足の軽い痺れは、いやしい母子を2日間に渡って悩ませた。


病床でよくよく思い出してみれば、説明書では冷凍だったはず。

食べ方よりも、解凍の手順を長々と書いてあった。

しかし私が受け取ったのは解凍済みの柔らかい物だった。

どうも、ここに問題があったらしい。


1日目、堀井君は現地で冷凍のたたきを買い求め、赴任先へ戻る。

2日目、自宅の冷蔵庫で自然解凍された。

3日目、うちへ持ち込まれたが、堀井君の繊細により見送る。

4日目、食べた。

そりゃあたるわ。
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見そびれた理由

2017年09月05日 15時09分21秒 | みりこんぐらし
夫の姉カンジワ・ルイーゼの姑さんが亡くなった。

認知症が進んだ2年前、老人施設に入所したものの

やがてお決まりの肺炎。

しばらく前から危ないと言われていたので、誰も驚かなかった。


その朝、ルイーゼはうちに来て言った。

「お義母さん、さっき死んだんよ。

白いシーツ、無い?」

遺体を寝かせる布団が花柄のシーツじゃあ、ちょっと‥

ということで、調達に訪れたのだ。


無ければ買えばいいようなもんだけど

この人は昔から、実家には何でもあると思い込んでいる。

母親が打ち出の小槌みたいに、出していたからだ。


確かに昔はもらい物の多い家だったし

贈答品やお返しの品として多用されていた石鹸やシーツの類いは

押入れに山積みだったが、今じゃ打ち出の小槌も期限切れ。

しかし、長年の刷り込みは消えない。

実家に無いという現実を認められない娘と

何とかひねり出してやりたい元打ち出の小槌は

細い4つの目で私を振り返るのだった。


死人が出そうな家は、新品の白いシーツを用意しておくのが常識‥

希望的観測ながら、私はそう考えて常備しているので

それを献上。

あとはお茶っ葉や、葬儀で着る和服に必要な小物などを揃え

打ち出の小槌代理を務める。


農村地帯の兼業農家、本家、一人息子の嫁‥

何かと厳しそうな立場のルイーゼだが、そこはさすがの彼女

初めての不幸にも、いたって平常心である。

だって彼女の義理親は、どちらもアラ90。

毎日の里帰りを37年続けるうちに

嫁ぎ先の親類縁者は代替わりを済ませた。

舅は病気で、庭の離れから出てこられない。

旦那は一人っ子なので、小舅小姑やその配偶者も存在しない。

あとは過疎で、近隣住民も無関心。

口うるさい者がいない環境は、余裕をもたらすらしい。


そんなわけで夕方、一家揃ってお悔やみに行ったら

静かな遺体(当たり前か)とルイーゼ夫婦だけの

静寂とくつろぎの世界。

弔問に駆けつけた我々に、ルイーゼの亭主キクオは言う。

「人が少ないので、通夜と葬儀には皆さんで来てもらいたいんです」

我々もそのつもりだと答えると、嬉しそうだった。


亡くなる前から、義母ヨシコに言われていた。

「キクオさんは一人っ子で身内が少ないから

家族みんなで行ってやりたい」

もちろん私も同意した。

ええ、細かいことは言いませんとも。

私の父が死んだ時、キクオは一切来なかったなんてね。


あ、そうだわ、古い話になるけど

私の祖父が死んだ時も、ルイーゼ夫婦は完全無視だった。

いやいや、それ以前に義父母も来なかったわ。

当時、夫は長男の小学校の先生と熱烈交際中。

義父母はそっちとの再婚を望んでいたので

いつ交代するかわからない嫁の身内の葬式なんて、どうでもいいわけよ。

親がこれじゃあ、ルイーゼ夫婦も従うわよね。


25年も前のことを覚えてるんだから、私も執念深いわ。

でも、全て過去だもんね。

ルイーゼの姑さんは、私や子供たちに良くしてくれたもの。

お祭に呼んでくれたり、子供たちにお年玉をくれた。

だから私は、できることをやるだけよ。


「あんなに毎日実家へ帰られたら、嫁も孫も可愛がる暇が無い」

姑さんは会うたび、そっと私にこぼしたものだ。

時には私の手を取り

「うちの息子は何であの人を選んだのか‥

私はどうしてもあきらめきれない」

涙を浮かべてそう言った。

年寄りは雰囲気で適当なことを言うので鵜呑みにはしないが

おそらく彼女と私は同士。

一卵性母子と家族になってしまった者として

同じ気持ちを確かに共有していた。


長かった姑さんの苦悩は、とても他人事には思えない。

私と同様、彼女も耐え忍んだ37年であった。

「今までありがとうございました。

大変でしたね、お疲れ様でした」

亡骸に向かい、そうねぎらう私だった。


この日曜が葬儀と初七日だったため

どこの誰とは言わないけど、例の記者会見をライブで見られなかった。

怪しさやキモカワを好む私にとって、非常にソソられたお方。

でも発表が終わってみると、どうでもよくなった。
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