殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

秘密の言葉・5

2017年02月26日 16時34分22秒 | みりこんぐらし
「引き抜きの話が来たら給料を2倍出す」

本社の社長は全社員に公言する一方、取締役会議では

「引き抜きたい人材がいたら、2倍の給料で引き抜いてもらいたい。

向こうがその倍出して引き留めたら、こっちはさらに倍出す」

と明言した。

自社の人材に危機感をつのらせる社長は

社員の流出を止めるかたわら、優秀な人材の調達を計っていたのだった。


破格の待遇で迎えたい人材が、事務や現場に必要とは思えない。

しかしどの世界でも営業だけは、人次第で雲泥の差が出る。

社長は、永井部長の率いる営業部の補強を考えているのだ。


幸か不幸か、社長の思いに気づかない永井部長は

腹心を失い、人材調達の急務にかられていた。

引き抜き奨励のお達しを聞いて自信を得た彼は、ある人物に白羽の矢を立てる。

同じ建設業界のD社で営業マンをしている田辺氏である。


49才の田辺氏は元々、C社の営業だった。

C社の前身は任侠の世界。

彼が新卒入社した頃には、とっくにカタギの会社になっていたが

任侠道は脈々と息づいており、彼はその中で鍛えられた。


このC社で一昨年、後継者争いが勃発。

社長派と専務派に分かれてしのぎを削った結果

社長が勝利し、専務は責任を取って依願退職した。

田辺氏は専務派だったため、専務に義理立てして共に退職。

が、すぐにD社から請われて再就職し、以来D社の発展ぶりはめざましい。


つまり田辺氏は、その実力と男気において業界の有名人。

年齢と職種は永井部長と同じでも、立つステージは格段に違う。

それを引き抜いて部下にしたいと恋い焦がれる、身の程知らずが永井部長であった。


「会って、話すだけでも‥」

永井部長はツテを頼って何度も面会を申し入れるが、田辺氏は無視。

当然である。

田辺氏は昔から、夫の親友なのだ。

向こうの方が10才年下だが、C社と我が社は長年の取引があり

その過程で親しくなった。

都市部のC社を辞めて隣市のD社に転職してからは、仕事で組む機会が増え

ますます親密度が増した。

夫が嫌う人間と、会うはずがない。


その一方で、夫は営業部の若手数人に田辺氏を紹介済みである。

建設業界には、絶対に訪問してはいけない会社というのが存在する。

何も知らずに飛び込みで契約を取り、喜んでいたら

社長さんの小指が見当たらない‥(本契約まで登場しないから)

専務さんの背中にお絵描きが‥(厚着の冬に親しくなり、薄着の夏でドッキリ)

こんな漫画みたいなことが本当にある。

永井部長の下で働く若者たちは、日々危険にさらされていると言っても過言ではない。

何か起きたとしても、助けてくれる上司はいないのだ。


この事態を回避するため、また有事の際の保険として

夫は営業部の若手に田辺氏を引き合わせ

「何でもこの男に聞いてから動け」と言い含めてあった。

行ってはならない会社、近づいてはいけない人物など

業界の裏を知り尽くした彼の指示を仰げば安全である。

若者たちも田辺氏を慕い、営業の基礎を教えてもらったり

仕事の力添えをしてもらったり、良い関係ができあがっている。

知らないのは永井部長と、その子分だけであった。


永井部長は相変わらず、田辺氏との接触を試みていた。

十何回目かで、田辺氏は返事をする。

「ヒロシさんの許可があれば会います」

夫と懇意なのを初めて知った永井部長は、しばらく声も出なかったという。


さんざん意地悪をしていた相手が窓口とわかれば、常人ならここで引く。

しかし、そこは持ち前のハイエナ精神で

今度は夫に「会わせろ、会わせろ」が始まった。

今までの仕返しとばかりに、夫が焦らして楽しんでいると

また河野常務を引っ張り出してきた。

「ワシもあの男には、いっぺん会うてみたいんじゃ。

ぜひとも会わせてくれ」


常務が言うんだから仕方がない‥ということで気の済んだ夫は

田辺氏に、河野常務と永井部長との三者面談を打診して了解された。

「2人は、会えるんならどこでも行くと言ってる。

うちでもいいけど、いっそ本社へ乗り込んだら?」

「それは面白い、そうしよう」

ということになり、約束の日、田辺氏は単身本社の門をくぐった。


「D社を辞めて、うちへ来ないか」

引き抜きの話を彼は即座に断り、それから雑談をして帰ったそうだ。

義理堅い彼が、倒産でもしない限り転職するわけがない。

ないが、もしも転職したと仮定すると、永井部長に明日は無い。

営業部長の座は早晩、必ず奪われる。

やる時はとことんやる田辺氏の性格上、会社も追われる。


現に彼の勤めるD社は、大躍進と引き換えに犠牲者を出している。

その犠牲者は奇しくも、夫の父親の会社が危なくなった時

何度も夫に嫌がらせをした2名である。

そのうち、会社も食われそうな勢いだ。

このジョーカーみたいな男を入れたら自分の身が危ないとは思わないのだろうか‥

我々は永井部長の頭を心配してやるのだった。



田辺氏と会って以来、河野常務は不自然な沈黙を守っている。

彼の性質から察すると、この逸材に惚れ込んだのは確かだ。

しかし同時に、彼のジョーカー性をも感知したはずである。

生え抜きの永井部長を葬られては、本社の沽券にかかわる。

ダメな子ほど可愛いというやつで、複雑な心境に陥っていると思われる。


永井部長の方は、態度が激変した。

用があって我が社を訪れた際

「すごい人に会わせてくださって、ありがとうございました」

そう言って夫にお辞儀をした。

合併以来、その瞳に揺らめいていた侮蔑の色は消え、代わりに緊張が宿っている。

「いやあ、あの人とお友達とは恐れ入りました」

おべんちゃらまで言う。


永井部長が帰った後、夫は田辺氏に電話してたずねた。

「あいつ、別人みたいになっとるけど、何か言うたんか?」

「別に、たいしたことは‥

ヒロシさんが色々とお世話になっているそうで、ありがとうございますと。

今後、何かあったら必ずご挨拶に行きますと。

まあ、お礼ですね」


お礼じゃない‥それ多分、お礼じゃないよ、田辺君。

《続く》
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秘密の言葉・4

2017年02月24日 13時43分37秒 | みりこんぐらし
本社営業部が入れてくるチャチャの中で、夫が最も傷ついた行為がある。

ある日、夫と懇意なA社の社長がやって来て言った。

「近々、大きな工事の入札がある。

取れたら、材料と運搬はあんたとこに頼みたいから書類を揃えてくれ」

公共工事には、入札という関門がある。

工事をいくらで請け負うか、値段を表示し

一番安かった業者に仕事が依頼されるのだ。


入札に参加を希望する業者は、工事計画書を公共機関に提出し

内容が認められればエントリーできる。

計画書には、落札したあかつきに参画する予定の会社が

提出する物も含まれる。

建設資材と運搬を生業とする我が社の場合

工事に必要な資材の成分分析表を始め

各種許可証、運搬車両の車種、ナンバー、車検証、免許証

保険証券などのコピーを添付してA社に託す。

この時点で、今回の入札においてA社と我々は一蓮托生の間柄となる。


特殊な工事だったため、入札のライバルはB社だけで

一騎打ちの結果、B社が勝った。

「悪かったね」

律儀にも謝りに来たA社の社長。

「なんのなんの、社長にご指名いただけて光栄でした」

「またやりましょう!」

「ぜひ!」


これで終了のはずだった。

しかしここで永井営業部長、登場。

「落札したB社に頼んで、工事に入れてもらってください」

何を言うか、永井‥

我々の業界で、それはホイト(この辺りの言葉で、こじき)と呼ばれる

最も恥じるべき行為である。


ひとたび入札で敗れたからには、たとえ食い詰めて死んでも

相手方に尻尾を振ることはできない。

声をかけてくれたA社への裏切りのみならず、業界で笑い者になってしまう。

笑い者になるだけならまだいいが、信用を失う。

口が固いことを求められる業界で、コウモリのように

あちこち入り込んでいては、誰も相手にしなくなるのだ。

これで仕事を失った会社をいくつも見てきた。


しかもB社は反社会勢力の企業舎弟。

こっちは付き合う価値無しと無視しており

B社もまた、盃を交わした兄弟同士が助け合えば

仕事はこと足りるので、うちに見向きもしないのだ。


永井部長は我々の仕事を知らず、また知ろうともせず

さらに地元の人じゃないので事情を知らない。

入札で負けたら終わりではなく、仕事はそこから始まると主張し

頼み込んで入れてもらうのを「営業努力」

怪しい会社と仲良くするのを「改革」と呼んだ。


永井部長は「頭を下げて頼みに行ってください」と夫に言い

夫は「絶対にできない、代わりの仕事も用意してある」と答え

「だいたい、何であんたがワシらの仕事に口出すんじゃ!」

と怒鳴った。

永井部長いわく「アドバイス」だそう。


こうして2人は決裂し、終了‥ではなかった。

永井部長は我々のボス、河野常務に言いつけた。

「独断が多く、やる気が見られない」


さあ、河野常務が会社にやって来た。

「おい、どうなっとるんじゃ?」

毎度、この展開。


夫はいつものように事情を説明するが、なにしろ生来の無口と口ベタ。

総合商社の花形部署、営業部トップの永井部長が

大バカなのだと言うわけにもいかず、口ごもる。


営業部の無知と無茶で突然始まり、やがて河野常務に言いつけられ

夫が苦手とする説明を求められる。

常務は口ベタな夫の説明を一生懸命聞いてはくれるが

子供の喧嘩に親が出たのと同様、解決に至ることはなく

「まあ、仲良くやってくれ」で終わる。

このもどかしい一連のプログラムが、夫には心底つらいのだった。


夫は愚痴を言わない人間だが、永井部長を軽蔑しており

その軽蔑する相手に何度も引っ掻き回されて

精神的に疲労困ぱいしているのはよくわかる。

この光景は、私にとって懐かしいものだからだ。

本能のままに突っ走り、言うことを聞かない人間がいると

強い者にあること無いこと言いつけ、後ろでほくそ笑む‥

それは昔、夫が私にしていた行為そのままである。

今の永井部長が昔の夫であり、河野常務が義父だ。

お帰り!因縁!


当時、私は「子供の為」と自分に言い聞かせ

ケリのつかない腹立たしさ、もどかしさを無理矢理踏み越えたものだが

夫に今さらそんなことを言ったって、屁にもならん。

彼にはやはり「国の為」で辛抱してもらうしかない。

「今は我慢の時よ!国の為よ!」

私は意気消沈した夫を励ますのだった。

寝ても覚めても国の為、降っても照っても国の為。

そうしているうちに、面白いことが起きた。


発端は、本社の社長が新年会で述べた話に始まる。

「皆さんに引き抜きの話があったら、すぐ僕に知らせてください。

相手の提示した給料の2倍払います。

これは皆さんと僕の約束です!」


直接聞いた夫や子供たちも、彼らから又聞きした私も楽しみに待った。

「ぜってー、ワナにかかるバカがいる」

この約束は、踏み絵だ。

引き抜かれる値打ちがあり、会社が手放したくない者にしか適用されない。

よそが欲しがる人材になれということであり

そうなれば、会社はお金を惜しまないという意味なのだ。


はたして、バカはいなさった‥営業部に。

永井部長の一の子分が引っかかったのだ。

引き抜きの話があった‥彼は社長に申し出た。

そして「どうぞ」と言われ、退社することになった。

我々一家が手を打って大喜びしたのは言うまでもない。


腹心を失った永井部長は、焦った。

失敗をなすりつけたり、行きたくない所に行かせていた人形が

いなくなったのだ。

取り急ぎ、新しい人形を確保する必要があった。

今度は自分の代わりに仕事を取ってくれる逸材が欲しい‥

彼がそう考えるのは、自然の流れであった。


《続く》
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秘密の言葉・3

2017年02月22日 22時11分05秒 | みりこんぐらし
夫の仕事愛は、意外に深い。

ひたすら会社を愛し、顧客を愛し、商品を愛している。

昔はどうだか知らないが、大手企業との合併を機に

一緒に働くようになったこの5年、その精神に揺らぎは無い。


しかし親の会社でしか働いたことがない彼にとって

組織や建て前という未知の世界は理解しにくかった。

あちらを立てればこちらが立たず

良かれと思ってやることは、本社の誰かの立場を危うくした。


なぜ恨み言を言われるのか、どうして誰かの都合が悪くなるのか

本能と本音だけで生きてきた夫にはわからず、消耗していった。

「やれるだけやって、ダメなら辞めればいいさ」

合併以来、この精神で来たものの

できれば生涯、好きな仕事をさせてやりたいのは山々である。

私は軽い頭を大仰にかしげるのだった。


我々一家の頭上にうっすらと暗雲が立ち込め始めたのは

昨年の秋だったろうか。

「利(り)は元(もと)にあり」というスローガンを本社が打ち出してからだ。


これは「利益は良い仕入れから生まれる」という意味。

たいていの人は「安く叩いて仕入れりゃ儲かる」と解釈するが

この言葉のキモは「良い仕入れ」にある。

安く仕入れるのも「良い仕入れ」のうちではあるが

売るのは良い商品でなければならない‥

顧客の喜ぶ良い商品を売るには、良い商品を仕入れる必要がある‥

良い商品を安定して回してもらうには

仕入れ先も顧客と同じく尊重して大事にしなさい‥

そんな商道の基本を説いた言葉だ。


ここで張り切ったのが、我らの天敵。

永井営業部長率いる本社営業部である。

「利益を出すには、安く仕入れること」

利は元にありを短絡に解釈した彼らは、値切りに血道を上げ始めた。

全社に関わる仕入れ先に行っては「安くしてくれ」とねだるのだ。

何しろ営業部は人材の墓場のメッカ。

本業がパッとしないので、スローガンへと逃げた。

彼らはそれを交渉と呼んでいたが、その恥ずかしい噂は

離れた我々にも届いていた。


その触手は、じきに我が社にも伸びてくる。

仕入れは安いに越したことはない。

時には見直しも必要だ。

しかしこれを商品知識の無い人間が勝手にやろうとして

仕入れ先に乗り込み、相手をひどく怒らせてしまった。


この事態が夫に伝わっていれば

長い付き合いに免じてどうにかなったのは明白である。

しかし当事者は、自分のミスを隠すのに必死だった。

本社上層部は営業部の失態をかばうため、そのまま別の仕入れ先に変え

「見直しの努力の結果、以前より仕入れが安くなった」

という結果オーライに寄り切った。


仕入れ先が変わると商品の品質が変わる。

値段を叩けばランクも下がる。

国産を中国産に変えたようなものだと思っていただきたい。


わずかな差でも顧客にはわかってしまう。

たちまち減少した売り上げと、増加したクレームに

夫は言うに言えぬ怒りを押し殺す日々が続いた。

説明しても、彼らにはわからない。

夫にサラリーマンのフィーリングが無いのと同じく

サラリーマンには商人のフィーリングが無いからである。


このような心境でいると、次々に嫌なことが訪れるもので

天敵にやられっぱなしの日々が続いた。

夫は、以前からたらしこんでいた営業部の若手の協力を得て対抗し

彼らも頑張ってはくれたが

いかんせん、ペーぺーでは太刀打ちできない状況だった。


そこへ、我々の精神的疲労を察知した本社の経理部長ダイちゃんが

宗教勧誘の追い討ちをかける。

「なかなか入信しないから、運命が停止するんだよ。

このままだと、どんどん悪くなるよ」

キー!



何もかも思い通りというわけにいかないのは、わかっている。

安定を得たからには、面倒臭いモロモロもセットでついてくる。

「ダメなら辞めればいいさ」でやってはきたが

バカにやられっぱなしで逃げたのでは女がすたる。

この状況を打破すべく、我が社も独自の合言葉を作ろうではないか‥

私は提案した。


「我々の仕事の目的は?」

さあ‥と首をひねる、不甲斐ない男ども。

「国土強靱化じゃろが!」

はあ‥と、やはり心もとない反応の男ども。


この数十年来、我々の生きる建設業界に対する目は厳しくなり

予算を削られて日陰を歩んできた。

利権をむさぼった先達や政治家がいたから仕方ないにしても

この間にどれだけ天変地異が起き、大切な命が奪われたか。


強い砂防、崩れにくい道路、しっかりした橋があれば助かった命も

少なからず存在する。

防ぎようのない天災とはいえ、人事を尽くして天命を待つことができなかったのは

不況との戦いに忙しかった我々業界人の努力不足も一因ではないのか。

国土強靱化は我々の使命である‥

などとまくし立てているうちにひらめいた。

「国の為だ!」


我々は国の為に働くのだ。

国の為であるからには、細かい人間関係に翻弄されている場合ではない。

我が社のスローガンは「国の為」に決まった‥

いや、一人で勝手に決めた。


「国の為」‥いい!

何にでも通用する。

自分や子供や親という小さな範囲でなく、国単位で物事を眺めるのだ。

働くのも国の為、嫌なことを我慢するのも国の為

家事も育児も嫁姑も、国の為。

あの人が悪い、この人がずるいと虫眼鏡で凝視を続けたらしんどい。

大きく漠然としたフィルターを通せば、景色が変わるのだった。


《続く》
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秘密の言葉・2

2017年02月20日 15時44分09秒 | みりこんぐらし
「元気の出る言葉を教えて」

ユリちゃんからこの宿題をもらった時、少し躊躇した。

今現在、好んで愛用中の言葉はある。

たった5文字の短さだが、意外に重量があり

人によっては胡散臭く聞こえるかもしれない。

何やら特殊な思想を持っていると誤解されたら面倒臭いので

誰にも言うつもりはなかった秘密の言葉だ。


しかしお寺の奥さんとして多くの人に会い、様々な話を聞く日常を過ごし

仏教に明るく、また茶道華道のプロとして

私とは比べようもない知性教養を持つ彼女が

「教えて」とへりくだるからには

どこぞから引っ張ってきた、小綺麗なフレーズではごまかせない。

私は正直に宿題を提出した。

「国の為」


一瞬の沈黙の後、ユリちゃんは問う。

「‥それだけ?」

「うん」

「国って、日本のこと?」

「うん」

「これ言うと、元気が出るの?」

「私は出る」


再び短い沈黙の後、ユリちゃんは軽く会釈をして言った。

「説明をお願いします」

説明のお願いをお願いしたかった私はホッとした。

どうやら右翼とは間違えられてない模様。

私は喜んで説明した。



子供時代を含め、独身の頃の悩み苦しみは

成績や性格、所作言動など、自分でどうにかなる事柄が大半で

おおかたの努力精進は「自分の為」でケリがついていた。

が、20代半ばで夫の両親と同居するようになると、らちがあかなくなった。

両親は私を無給の家政婦と勘違いし、私は私で

彼らの繰り出す要望に応えるのが嫁の努めと勘違いしていたからである。


朝から晩まで必死に働いたが、彼らが満足することはなかった。

夫は依然として浮気を繰り返し、朝帰りや駆け落ちにいそしんでいる。

私は何のために生き、何のために辛抱しているのかわからなくなった。

とっくの昔に「自分の為」でケリがつかなくなっていた私は

「子供の為」を活用するようになっていた。


早くに母親を亡くした私は、とにかく生き続ける必要があった。

子供を産んだからには、死なないことが最大のプレゼントだと信じていた。

夢も希望もあるものか!

ストレス?そんなもん、日々のスパイスじゃ!

私のしてやれることは生きることであり、辛抱することであった。


10年後、「子供の為」ではやはりらちがあかなくなり、私は家を出た。

最初は子供たちも一緒だったが、すぐに取り返され、何ヶ月か離れて暮らした。

そのうち夫が子供たちを連れて家を出て、再び家族4人で生活するようになった。


月日が経ち、子供たちは成人した。

「子供の為」と歯を食いしばっていたことも忘れた5年前

元々危なかった義父の会社に倒産が迫り、同時に両親の病気が悪化した。

義父は糖尿病からの腎不全で入院中、義母は胃癌である。


ここでいきなり「親の為」が始まる。

自分で考えたのではなかった。

夫から発生する「親の為」に感化されたと言う方が正しい。

彼が「愛人の為」以外で必死になるのを初めて見た。


義母は癌から生還したが、義父の病状は重篤で

我々夫婦の目標は、瀕死の義父を安心して旅立たせることに定められた。

義父と血を分けた夫は「安心」に

他人の私は「旅立たせる」にウェートを置いていたように思うが

一家で実家に舞い戻り、走り回った。

「親の為」と思うと、なぜだか力が出た。

何一つ親孝行しないまま死別した自分の両親の分まで

ついでに孝行しているような気分だった。


大手企業との合併で倒産を回避し、2年前に義父を見送った。

「親の為」がひとまず終了し、手持ち無沙汰の感があったが

我々はすでに新たな試練に足を踏み入れていた。

若いうちからよそで働いてきた私はともかく、夫には苦しみが訪れていたのだ。

自由に動けない試練である。


何十年も親の会社で自由に生きてきた夫は、誰かの指示を仰ぐ習慣がなかった。

何事もまず、合併先の本社に報告して指示を仰ぐという

パッと見、普通の行為が、彼には難しい様子だった。


ひとたび本社に報告すると、指示を待つことになるのは当たり前だが

この指示がなかなか出ない。

同じ建設関係でありながら業種が畑違いなので、まず相手先の調査から入る。

昔から取引があって支払いも確実な、気心の知れた会社だと言っても通用しない。

それは致し方ない面もある。

会社がコケた者の言うことなど、聞かない方が安全だからだ。


これで判断が遅くなるが、結局いつもオーケーが出る。

しかし許可が出たとなると、今度は営業が取り合いをする。

お墨付きをもらった取引を自分の成績にしたいからだ。

さんざん待たされたあげく、指示が出る頃にはよそに取られて後の祭り。

結果、全ては夫のせいになる。


若造ならいざ知らず、60近い夫はこの繰り返しに耐え兼ね

そのうち独断で突き進むようになった。

本社と様々な軋轢が生じ、私や子供たちも板挟みになった。

合併で安定はしたが、夫にこの生活は向かないのではないかと思い始めた。

《続く》
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秘密の言葉

2017年02月16日 10時01分03秒 | みりこんぐらし
先日、月一のペースで開かれる同級生の女子会をした。

いつもは10人前後だが、今回は4人と少なめ。

あえて広く声をかけなかった。

友人のユリちゃんと、じっくり話すためだ。


ユリちゃんはお寺の娘。

彼女のお父さんは私たちの中学の先生であり、お寺の住職でもあった。

お兄さんが一人いたが、お寺を継がなかったので

彼女が同じ宗派のお寺の跡取り、モクネンとお見合い結婚をした。

将来的に、実家のお寺の方もまとめて面倒を見てもらう約束の

バーター結婚である。


婚家と実家は車で1時間半程度の距離があり

相手には二つの離れたお寺を往き来して仕事をする負担が生じるが

ユリちゃんは、その負担がかすんでしまう条件を持っていた。

美だ。

相手が飛びついたのは言うまでもない。


結婚してしばらくはユリちゃんの両親も健在で

約束を履行するのはずっと先に思われた。

しかし5年後、60才になったばかりの両親は

相次いで病気になり、亡くなってしまった。

さらにその5年後、お兄さんが40代の若さで亡くなった。


一人ぼっちになったユリちゃんに、夫のモクネンは冷たかった。

その前から、子供ができないことを理由にユリちゃんを責め

酒に女にと遊び回っていたが、さらにひどくなったのだ。


「身寄りが無くなると、バカにされても仕方ないよな」

僧侶とは思えぬモクネンの言葉に、深く傷ついたユリちゃんだが

実家のお寺の仕事をしてもらわなければならない。

忍の一字で仮面夫婦を続けながら両方のお寺を守り

モクネンの父親の介護をした。


舅は数年後に亡くなったが、姑がいる。

この姑さんに私は会ったことがあるが、さすがモクネンの母。

挨拶はできないが、高慢と横柄はしっかり身についているおばあちゃんで

ユリちゃんに対する態度は冷ややかだった。

昨年末、その姑さんは転んで骨折し、入院中。

退院したら介護が待っている。


ユリちゃんの話は愚痴や苦労話ではなく、淡々とした報告だが

その中に潜む壮絶はヘビー級。

去年、その壮絶を目の当たり、いや耳の当たりにした。


ユリちゃんと一緒に車に乗っている時、モクネンに連絡する急用が生じた。

「お寺って、ゆっくりした商売と思われがちだけど

人が亡くなるのは突然だから、緊急の用も多くて。

何が困るといって、わざと電話に出てくれないのが一番困るの」

長い呼び出し音の間、そう話すユリちゃん。


その日、幸運にも電話は繋がった。

「どこそこのおうちの誰それが亡くなってどうのこうの‥

‥よろしくお願いします」

ニュースを読むアナウンサーのごとく、ひたすら一方的に話し続けるユリちゃん。


その不自然さに耳をそばだてるが、モクネンの声は聞こえない。

それもそのはず、電話に出てから切るまで一言もしゃべらないという。

黙って出て、黙って切るのが当たり前なのだという。

モクネンの性格の悪さにゾッとすると同時に

ユリちゃんの壮絶は想像以上だったと認識した。



前置きが長くなったが、この壮絶を歩むユリちゃんと

自分ではまあまあ色んな目に遭ってきたと思い上がる私は

人生について語り合える数少ない友人である。


その日のメンバーはユリちゃん、マミちゃん、けいちゃん、私。

同級生の中では最も気の置けない集合体である。

通常なら、ここにもう一人モンちゃんが加わるが

直前に鎖骨骨折で入院したため、欠席。


ユリちゃんと私は、前回会った時のテーマ

「鬼子母神(きしぼじん)」の続きを話す。

鬼子母神の由来は、ざっとこんな感じ。

我が子が難病になり

子供の生肝(いきぎも)を食べさせたら良くなると言われた母親が

よその子供をさらっては腹を裂き、肝臓を奪い続けた。

お釈迦様はある日、その母親の子供を隠した。

嘆き悲しみながら我が子を探す母親に、お釈迦様は言った。

「あなたがさらって殺した子供たちの母親も、同じ思いなんだよ」

母親は深く後悔し、子供を守る神様、鬼子母神となった‥。


私はこれを殺人鬼の再就職の話と思っているし、そもそも

「子供の生肝を食べさせたら病気が良くなる」

なんていい加減なことを言ったヤツが悪いと思っている。

連続猟奇殺人を犯したサイコパスが、曲がりなりにも神なんざ言語道断だが

そこはそれ、おとぎ話のようなものなので追求は控える。


論点は、母性と搾取。

生肝なんて物騒な物はともかく、我が子のために他者から搾取する行為は

現代社会でも日常的に発生している‥

金品や労働力の搾取である‥

我が子のために他者を犠牲にする行為も、尊厳の搾取という意味で同じである‥。


早い話が姑のことだ。

母は皆、その危険性を保有しており

息子を持つ私とて、鬼子母神候補生の例外ではない‥

2人でハハハと笑い、前回はここで終わった。



今回、私はユリちゃんに疑問を投げかける。

「生肝だけど、どうやって食べたのかしらん。

生食限定だから加熱調理はできないはずだし、やっぱスライスしてゴマ油?」

「さあ‥」

「それを瀕死の子供が食べられるかね?」

「わかんないわ‥」

「頑張って食べたとして、病状は改善したのかね?」

「みりこんちゃんの疑問って、そこ?!」

「ユリちゃん、ひとつモクネン君に聞いておくれでないかい?」

「知らないと思うわ。

それより、口もきかないのに質問に答えるわけないでしょっ!」

またハハハと2人で笑う。

これで満足な両人である。


「ところで‥」

ユリちゃんは言った。

「宿題の方を聞かせてちょうだい」

今回の集まりのために連絡を取り合った時

私はユリちゃんから宿題を出されていたのだ。

「元気の出る言葉を教えて」

《続く》
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デンジャラ・ストリート 陰謀篇5

2017年02月11日 10時40分04秒 | みりこんぐらし
加瀬じいにバッサリやられた後、集会所建設の話がどうなったかは知らない。

が、森山さんがメゲていないことはわかった。

ほどなく彼から回された回覧板に、こう書いてあったからだ。

「近日中に、住民の皆さんの生年月日と個人番号を記入する用紙を配布します。

これは安全管理のために必要なので、ご協力をお願いします」

森山さんは、住民全員の生年月日と個人番号を知りたくなったらしい。


私は大いに怪しんだ。

去年の春だったか、森山さんから回された名簿に

うっかり名前を書いて面倒なことになったからだ。


「リバーソーシャル活動にご賛同いただける方は

名簿に名前を記入してください。

これは川の美化を推進する活動です。

署名がたくさん集まると県から奨励金が出ますから

ふるって記入してください」

はい、ふるって記入しましたとも。

よその家もふるって書いてあったので

私も負けじと一家全員の名前を書きましたとも。


数日後、森山さんがうちに来た。

「今度の河原の草刈り、息子さんも参加してくださるそうで」

「え‥」

「リバーソーシャル活動に署名したじゃないですか。

署名した人は河原の草刈りに参加するんですよ。

息子さんには、草刈り機で草を刈ってもらいたいんです」

明るくおっしゃる森山さん。


彼の説明でこの時初めて知ったが、リバーソーシャル活動というのは

春と秋に自治会費で外注していた河原の草刈りを

住民が自力でやると誓約したら、年に5万円の奨励金をもらえるシステム。

そのお金で、草刈りの参加者が飲み食いしようというのが彼の意向だった。


「うちの子、草刈り機なんて使ったことありませんが」

「だから後継者を育てるんですよ」

「無理です!」


私は言葉を尽くして説明した。

協力はしたいが、人には素質というものがある‥

河原は傾斜がきつくて長い‥

草刈りと無縁の環境で育ち、丁寧や慎重とは真逆の性質を持つ彼らが

そのような難所でいきなり草刈り機を持って、無事に終わるはずがない‥

取り返しのつかない事態になる前に、別の作業を振ってくれ‥。


すると森山さんは、笑いながらおっしゃる。

「誰でもできますよ、僕だってできるんだし」

どうしてもうちの息子たちを草刈り隊にしたい森山さんと

草刈り機以外の仕事を要求する私の攻防は続いたが

やがて彼はこともなげに言った。

「心配ないですよ、保険に入ってますから」


頃合いを見計らってストンと落とす、この話術。

これでケムに巻かれ、だまされる人間がいるかもしれない‥

私は当時、ふと思ったものだ。

同時に、ひとたび見込んだら蛇のように執念深い

森山さんの本質を垣間見た気がした。


「保険に入っていたら、飛んだ指や足が元に戻るとでも?」

「アハハ、そんなわけないじゃないですか」

依然として明るい森山さん。

「後進を育てる意味で息子さんにと言ったんですが

ナンならご主人でもいいんですよ」

「あの人に草刈り機なんか持たせたら、死人が出ますよ」

「アハハ、まさか、そんなことありえないでしょう」

「誰がそれを証明します?何かあってからでは遅いんですよ」


逃げたいのではない。

私は真剣だ。

ズバ抜けたウカツは、夫の大きな特徴である。

バイクのエンジンをかけたまま、幼児だった長男を

うっかりマフラーの横に立たせ、彼のふくらはぎに火傷を負わせた夫‥

次男が生まれたばかりの真夏、エアコンを最低温度に下げて寝入り

横に寝かせていた赤ん坊を紫色にした夫‥

室内でゴルフの素振りをし、シャンデリアを粉砕した夫‥

身の毛もよだつ記憶の数々が蘇る。


他人の森山さんは、夫の呪われし秘密を知るよしもない。

「じゃ、やっぱり息子さんにお願いしますよ。

若者はお宅しかいないんですから」

この調子で延々とリピート、それが森山さんである。


よく読まずに署名した自分を悔やむ私よ。

いや、これはワナだ。

読んでも多分わからなかった。

他の住民も、リバーソーシャルなんてカタカナに惑わされ

わからないままに署名したに違いない。


最終的に森山さんは

「じゃあ、お宅はご協力いただけないということで!」

と不機嫌に言い捨てて帰った。

駐車場親子の世話をした美談の人に、疑いを抱き始めた最初だった。


が、これであきらめないのが森山さん。

草刈りの前日、庭に出ていた息子たちを呼び止めて

参加の約束を取り付けてしまった。

「断りに行く!」

森山さんの執拗と息子たちの安易に激怒した私に、息子たちは平然と言う。

「奥さ〜ん、明日は雨よ〜」


「あんたら‥それ知って返事したんか」

「当たり前じゃん」

「よその息子をつついて子分にしたがるおじさんは時々おるもんよ。

たいてい息子がおらんか、息子とうまくいってない人。

男の子の扱い方知らんけん、一回関わったらどこまでも図々しいんじゃ」

「俺ら、ああいう人に何べんも会うとるけん、対処の仕方は知っとる」

クロいやつらだ‥親の顔が見たい。

翌日はやはり雨で中止となった。



話が飛んだが、その森山さんが‥

署名でワナを仕掛ける森山さんが‥

今度は生年月日と個人番号を書けと言ってきた。

入手したあかつきには、これを元に新たな獲物を探す気配、濃厚。


なにしろ後期高齢者揃いのデンジャラ・ストリート。

近い将来、空き家になる予定の家はたくさんある。

持ち主がしっかりしておらず、後継者がいない家を探し

今度は「空き家バンク」とかなんとか言って管理を申し出るつもりか。

だんだん森山さんの手口がわかってきたような気がする。

そのうち「安全管理」のために、印鑑証明を欲しがるかもしれない。

ワナに打ち勝つには、彼より長生きするしかないのだ。


名簿が回ってきたら「お断りします」と書いてやる‥

そう決めて待つこと半月、生年月日と個人番号を記入する紙は

いまだ、どの家にも届かない。

今度も誰かが森山さんに抗議して、立ち消えになったと思われる。

また何か判明したらお知らせすることにして、ひとまず終わらせていただこう。


《完》
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デンジャラ・ストリート 陰謀篇4

2017年02月08日 14時48分24秒 | みりこんぐらし
集会所建設の発表を聞いて、一瞬は喜んだデンジャラ・ストリートの面々。

それは森山さんが、とても素晴らしい出来事として発表したからであり

梅干しを見たら唾液が出るのと同じ、条件反射だった。


住民たちは、集会所のことをすぐに忘れた。

集会所なんていらないからだ。

ストリートには金持ちが多いと言った。

金持ちの家は、たいてい広い。

住民の集まる機会があり、よその自治会の集会所が借りられない時は

誰かの家に集まればいいのだ。

「うちは狭くて‥」

なんて言葉が聞けるのは、人数の多い我が家だけ。

他の家は子供と暮らしていた頃に建てた、だだっ広い邸宅を持て余している。


趣向を凝らした自宅をお目にかけたい人は多く

いつも誰かが「うちでよければ」と名乗り出る。

皆が知り合いで、怪しいゲスが存在しないからできることだ。

昨年から始まった老人の集いも、毎月誰かの家で行われている。

30〜40人くらいなら、余裕で集合できるのだ。

ストリートができて45年、ずっとこれでやってきた。

集会所の必要性は、森山さんしか感じてなさそう。



年が明けて間もなく、集会所の必要性を感じる森山さんから

組長を通じて住民に連絡があった。

「自治会という団体として集会所の土地を受け取ると

寄付した方に税金がかかることがわかったので

6人の個人で受け取るという緊急措置を取らせていただきたいと思います。

受け取るのが6人以上の個人であれば、税金がかからないからです」


これが抜け道である。

6人という数字がオールマイティーなのか

土地の広さから割り出された人数なのかは知らないが

団体じゃダメだから個人で受け取るなんて、あからさま過ぎる。

この内容では、いつものように文書にして回覧板で回すわけにはいかない。

証拠が残るとまずいので、組長からの口伝えという方法を取ったようだ。


今の組長は、左隣の若夫婦。

90才を越えた親と暮らすため、3年前に関西からUターンした。

64才のはずなのに、どう見てもジャニーズ系のご主人と

私より一つ上の58才のはずなのに、どう見てもアラフォーの

垢抜けたカップルである。


若奥さんが森山さんの伝言を伝えに来たので、たずねてみた。

「6人の個人って、まさか森山さん夫婦にAさん、Bさん、Cさん?」

「ええ、それと森山さんのお嬢さん」


最初から、こういう計画だったのだ。

何年も前から森山さんの狙いは、彼の自宅に隣接する駐車場だった。

家族と仲良しの合計6人で受け取るまでこぎつけたら

あとは月日が流れるのを待てばいい。

な〜に、そう長くはかからない。

設計のAさんはやもめの病人、施工のBさんはバツイチのアル中

水回りのCさんはお人好しで奥さんが重病。

しかも3人とも子供がいない。

うるさい者はいないのだ。


何年か経てば、後期高齢者だらけの住民も大半が死に

経緯を知る者はいなくなる。

残りの半分も、足りないといわれるおばあちゃんの息子が相手だから

どうとでもなる。

駐車場経営も視野に入るのだ。

うちの隣のおばさんやトキちゃんの畑より、ずっと魅力的である。

集会所建設に向けて頑張ったけど、補助金の抽選に当たらず

結果的に「仕方なく」自分の物となる筋書き。

それにしてもプロなんだから、もちっと巧妙な手を知っているかと思ったが

王道を行ったとは、いささか驚きだ。


「おかしいわよねえ!」

若奥さんも眉をひそめて言う。

「私、おかしいと言ったのよ。

納得する人、いないですよって。

他の人も言ってたけど、森山さんはあくまで緊急措置だからって」


ドラマなら、ここで住民が立ち上がり

森山さんの陰謀をこっぱみじんにするところだろうが

寄付金の3万円は未だ徴収されておらず

森山さんが怪しいというだけで実害がない。

顔すら知らない駐車場の息子さんのために、戦う情熱も湧かなかった。


が、心配はいらなかった。

若奥さんから伝言を聞いたおじいちゃんが立ち上がった。

腸閉塞で入退院を繰り返す電力会社のOB、加瀬さん84才だ。

「森山君、わしゃ、あと何年も生きられんけん

集会所なんかいらんぞ」

先日の町内清掃の時、加瀬じいは森山さんに言い放った。

加瀬じい、自治会の集まりやレジャーには奥さんが出るが

掃除の時はやせ細った身体に鞭打って参加する。

奥さんから集会所の件を聞いて、怒り心頭だったらしい。


「回りを見てみい。

棺桶に片足突っ込んどるモンばっかりじゃないか。

集会所作ったって、集まる人間はいなくなるんだぞ。

寄付金も払わんからな」

「いや、加瀬さん、住民の皆さんのためにはですね‥」

ここは老人力を活用する加瀬じい、聞こえないふりをして

森山さんの常套手段であるねちっこい説明をかき消す。


「個人名義なんか、誰が頼んだ!

ややこしいことせずに、土地は返してやれ!」

「加瀬さん、じっくり話し合えばわかっていただけると‥」

「弱者から物を取り上げるな!」

「取り上げたのではなくて、ご寄付いただいたわけでして‥」

「どっちにしても同じじゃないか!

弱い者の資産を守ってやるんならまだしも、寄付なんかさせたら

だましたやら、そそのかしたやら、人は好き勝手を言うもんじゃ!

あんたは平気かしらんが、わしらには恥じゃ!」


死を目前にした加瀬じいの剣幕に、他の高齢住民たちも賛同し

森山さんはなすすべもなかった。

よそから嫁ぎ、親の高齢化という成り行きでやって来た私は

ここに根をおろして生きてきた人々のストリート愛を見たような気がした。

「加瀬さん、かっこいい〜!」

隣の若奥さんと私は、加瀬じいのファンになることを決めた。


《続く》
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デンジャラ・ストリート 陰謀篇3

2017年02月05日 12時15分29秒 | みりこんぐらし
隣のおばさんの畑をあきらめ、トキちゃんの畑から手を引いた森山自治会長。

さすがに懲りたかと思いきや、違っていた。

おばさんの畑もトキちゃんの畑も

彼がもくろむ計画の道すがらで見つけた

ほんのオマケに過ぎなかったのである。



我々一家が、夫の実家のあるデンジャラ・ストリートで暮らし始めて

この3月で5年になる。

ストリートに来た当時の私は、森山さんが立派な人だと思っていた。


彼の家の隣に、5百坪ほどの駐車場がある。

持ち主は、隣の市に住むおばあちゃん。

亡くなったご主人から相続したものの

住まいが離れているし、高齢で持病もあり、管理は難しかった。


おばあちゃんには同居している50代の一人息子がいたが

この息子さんは前出のトキちゃん同様

「お察しください」のおかたで、頼りにならない。

そこで隣に住む森山さんが駐車場の管理を申し出て

親切にも無料で代行してやるようになった。


2年後、持ち主のおばあちゃんは持病が悪化して、寝たきりになった。

息子さんから相談を受けた森山さんは

各方面に手続きをして、おばあちゃんを施設に入所させ

その後もおばあちゃんの施設や息子さんの住む家に

時々通って世話をした。


やがておばあちゃんは、森山さんに感謝しながら亡くなったという。

このことを本人や他の人から聞いて

「なんと殊勝な人がおられることよ!」

私は感動し、尊敬すらしていたのである。



森山さんの本当の計画を知ったのは、昨年の冬だった。

自治会の集まりで、彼はにぎにぎしく発表した。

「自治会の集会所を作ります!」

デンジャラ・ストリートには集会所が無かった。

必要な時は、隣の自治会が持っている集会所を借りていたのだ。


発表を聞いて住民一同は拍手したが、すぐに疑問もわいた。

「どこに?」

森山さんは得意満面で答えた。

「うちの隣の駐車場です!」


彼の説明は、こうだ。

駐車場のおばあちゃんは、後を頼むと言って息を引き取った。

その「後」とは、頼りない一人息子のことも含まれていると思うので

息子さんの代わりに駐車場の管理を続けてきた。

先日、息子さんと話していて集会所の話題になった。

すると息子さんが、自ら申し出てくれた。

「うちの駐車場を半分、寄付します。

そこに集会所を建ててもらえれば、亡き母も喜びます」

他に証人もおらず、足りないという話の息子さんが本当に発言したかどうかは

定かでない。


「また半分かい!」

心でそう突っ込んだのは、隣のおばさんと私だけだったと思うが

ともあれ集会所の建築にあたり、森山さんは説明に入った。

宝くじ協会が、集会所の建築費用を出してくれる制度がある‥

上限は5百万円で、抽選になる‥

年に一度の抽選に応募を続けながら

自分たちでできることは進めていきましょう‥

設計はAさん、施工はBさん、洗面台やトイレの設置はCさんに

できるだけ安く行ってくださるよう

すでにお願いして了承をいただいております‥

森山さんは取り巻きの住民の名前を挙げた。

「業者を雇わずに、手作りで安くあげましょう」


つきましては‥

森山さんはいよいよ本題に入る。

「抽選に当たったとしても、5百万円では集会所は建ちませんから

一軒につき、一口3万円の寄付を集めたいと思います」


ここでブーイングが出ないのが、デンジャラ・ストリート。

元々金持ちが多く、若い頃から見栄の張り合いをしてきたので

決して本音を口走るわけにいかず、我慢比べになるからである。


金持ちが多いのは偶然ではない。

この通りには昔、二つの工場があった。

工場が移転することになり、宅地として売りに出されたが

販売には持ち主から出された条件が3つあった。

持ち主が認める買い手であること、ひと区画100坪以上、それに即金。


工場の持ち主と知り合いとなると、どうしても社長仲間が多くなる。

100坪以上の土地代金を即金で用意できるのも、同じく。

というわけで、知り合い同士の社長仲間の家々が

揃ってデンジャラ・ストリートに並んだ。

45年を経て、我が家は没落したが

他の家は現役時代の蓄財で持ちこたえているというわけ。



さて3万円の寄付と聞いて、見栄を張る必要の無い私も黙っていた。

金が惜しいと反論したいのは山々だが、この話は難航すると踏んだからだ。

はたして住民から寄付を集めるところまで、こぎつけられるかどうか。


森山さんがお帳面のプロなら、こちとら土木のプロ。

「ウワモノ建てる前に、駐車場のアスファルトを誰がハツるんじゃ。

これにどんだけの労力とゼニがかかるか、知らんのか。

カッターは、ドリルはどうするんね。

しかもハツったアスガラ(アスファルトの残骸)を

どこへ持って行くんじゃ。

ルート持っとんか、ボケ」(心の声)


「ハツる」とは土木建設用語で、削って剥がすという意味。

プレハブならいざ知らず

アスファルトを敷いた駐車場にまともな家を建てる場合

まずアスファルトを剥がし、それから整地をしなければ

次の段階には進めない。

厄介な基礎を飛ばして間取りやトイレを語る森山さん。

建設業界で生きる私には、現実味が感じられなかった。


それに公共の建物のために個人の土地を寄付した場合

そのままだと受け取った方でなく、寄付した方に税金がかかる。

逆ならわかるが、本当にそうなのだ。

この金を誰が払うというのだ。


しかし抜け道はある。

お帳面のプロ、森山さんが、どうやって抜け道を通るのか。

そして集会所は本当に建つのか。

お手並み拝見といこう。

《続く》
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デンジャラ・ストリート 陰謀篇2

2017年02月03日 19時38分37秒 | みりこんぐらし
デンジャラ・ストリートの一角に、4百坪ほどの空き地がある。

この空き地の持ち主は、ストリートの住人ではない。

トキちゃんという78才の女性。

一人暮らしのトキちゃんは、週に何度か

1キロほど離れた自宅から自転車をこいでやってくる。


空き地に来て何をするかというと、本人が言うには畑仕事。

主な作物はツクシと松。

松の方は煮ても焼いても食えないが、ツクシの季節には

雑草混じりの干からびたツクシが、うちにもたまに届く。

よって空き地は「トキちゃんの畑」と呼ばれている。


資産家だったトキちゃんの両親は、そんな一人娘を案じながら亡くなった‥

両親と同郷の義母ヨシコが話していた。

両親亡き後のトキちゃんは、彼らの案じた通り

いろんな人からお金や土地をだまし取られ

残っているのは自宅と、この空き地だけになった。

父親の植えた松の周りで草取りをするのが

トキちゃんの生き甲斐である。


隣のおばさんもまた、トキちゃんの両親と懇意だったので

身寄りの無くなった彼女に優しく接していた。

トキちゃんもおばさんを慕い

畑の帰りには時々、おばさんの家に立ち寄っていた。


昨年の秋のこと。

トキちゃんはおばさんの家に来るなり叫んだ。

「うちの畑が無くなっとる!」


その前の週、トキちゃんは森山自治会長から話を持ちかけられたという。

「お宅の畑の隅を少し、自治会のゴミステーションに

使わせてもらえませんか?」

トキちゃんの畑のそばにある収集場所は

住民は増えないのにゴミは増え

収集日になると車の離合が難しくなっていたのは事実である。

人の好いトキちゃんは、二つ返事で了承した。


森山さんからの回覧板が回っていたので、住民たちはこのことを知っていた。

「以前から苦情の出ていたゴミステーションの件ですが

◯本トキコさんのご厚意で、畑の一部を貸していただけることになりました。

お見かけしたらお礼を言ってください」

という文面だ。


が、回覧板が回った頃、空き地に大きなショベルカーが入ったのも

住民たちは知っている。

何本かの松が抜かれ、畑の半分が見る見る更地になったので

住民たちはのんきに話したものだ。

「トキちゃんの畑は駐車場になるのかしら」

「だったら月々決まったお金が入るから、トキちゃんも安心ね」

「良かった、良かった」


一方、トキちゃんは森山さんから

「ゴミを置きやすくするために、ちょっと手を入れるから

しばらく畑はお休みしてください」

と言われたので、言葉通り来なかった。

そして一週間後、畑に行ってみると予想外の展開になっていたわけ。


トキちゃんはショベルカーを操る見知らぬ男に抗議したが、男は

「雇われただけで、何も知らん」

と、取り合ってくれなかったという。

「少しとか隅とか言うけん、ええよと言うたんじゃ。

まさか半分取られるとは思わんかった!」


隣のおばさんはピンときた。

おばさんの畑と違い、トキちゃんの畑は正方形の平地。

二辺が道路に面している角地で、向かいは川。

静かで日当たり良好の優良物件だ。

しかも持ち主は、お人好しの後期高齢者。

その上、身寄りが無いとくれば、あとは時間の問題。

森山さんが来なくなったのは、新しい獲物を見つけたからなのだ。


おばさんは、ますます森山さんが怖くなり

「何とかしてよ」と懇願するトキちゃんをなだめて、お帰りいただいた。

その帰り道、トキちゃんはデンジャラ・ストリートの住民

86才のE氏を見かけて、このことを訴えた。


市役所のOBで弁の立つE氏は、すぐさま森山さんに掛け合い

畑から手を引かせた。

E氏は妻帯者でありながら、エロ爺さんなので嫌われているが

アンチ森山の台頭だったことが幸いしたようだ。


数日後、ショベルカーを乗り入れるために破壊した生垣を

仏頂面で復元する森山夫妻の姿を見た。

ほどなく森山さんから回された回覧板には、こう書いてあった。

「先日お知らせしたゴミステーション移転の件ですが

土地の持ち主の心変わりにより、お借りできないことになりました。

残念です」


隣のおばさんは「心変わり」の文字に震え上がった。

「機嫌を損ねた仕返しよ!」

そして住民ではないトキちゃんが、この回覧板を見る機会が無いことと

自身が水際で助かったことに安堵した後、悲しそうに言った。

「森山さんにとって、トキちゃんと私は同じなのね。

足りない、だましやすい人間ということよね‥」

「どっちも資産があるからよ」

私のフォローは虚しく響くのだった。


《続く》
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デンジャラ・ストリート 陰謀篇

2017年02月02日 09時09分58秒 | みりこんぐらし
デンジャラ・ストリートが好評(ご一名様)なので

調子に乗って続けることにした。

今度はちょっと深刻。



我々一家の住む後期高齢者だらけの通り

名付けてデンジャラ・ストリートは

その名の通り、デンジャラスな局面を迎えている。

自治会長、森山さんの暗躍である。


この界隈では若手の森山自治会長は、67才。

この人には以前にも触れたことがあるが

住民は、明るくて世話好きな彼をあがめる信奉者と

その暑苦しさを嫌うアンチ派とに分かれている。


昨年は二年に一度の自治会長改選だったが

他になり手が無くて彼が再選された。

その頃から、何やら怪しい雰囲気が漂い始める。


最初の被害者は、うちの隣に住む一人暮らしのおばさん、84才。

昨年の春頃から様子がおかしくなり、近隣では認知症がささやかれていた。

そこでしゃしゃり出たのがいつものバカ‥

そう、隣人の私。

毎日、晩のおかずなんぞ持って隣へ行き、1時間ほどおしゃべりをして帰る。

自分でやっておいてナンだが、日課となると非常に忙しい。

しかも苦労話と自慢話を延々と聞くばっかり。

が、努力の甲斐あってか、2ヶ月ほど経つとおばさんは少し明るくなった。


夏が過ぎ、秋が過ぎ、おばさんはすっかり元気になった‥

と思っていたけど違った。

その頃になって初めて、彼女はコトの真相を打ち明けたのである。



ご主人が亡くなった当初、森山さんは自治会長として

おばさんの家を頻繁に訪れ、何くれとなく世話を焼いた。

おばさんもまた、森山さんを信頼しきって

誰にでもそうするように、家族のことをすっかり話してしまった。

一流大学を出て、一流企業に勤める息子さんのこと。

お嬢様大学を出て、エリートのご主人と結婚した娘さんのこと。

このへんで止めればいいのだが、どちらも心優しい人格者であることも

長いエピソードをまじえて披露せねば気がすまない。


しかしそうなると、今度は矛盾が生じてくる。

その一流の人格者たるお子様たちが、日帰りできる距離に生活しながら

淋しがるお母様を放置する不思議である。


そこで何もかも話す羽目になる。

有能なため多忙につき、帰省どころではないこと

都会に家を建ててしまったので、Uターンの可能性は無いこと

それぞれの配偶者が冷たいので、帰省の許可が降りにくいこと

「だから私はいつも一人」

この結論に着地してしまう。



ここまでしゃべってしまうのが、おばさんの人の好いところだが

近隣住民はさすが人生の達人揃い。

彼女の自慢話に辟易しつつ、ひそかに危惧していた。

「淋しいとか、いつも一人とか言いふらしてるけど

悪い人の耳に入ったら危ないわ」



そんなある日、森山さんはおばさんに持ちかけた。

「お宅の畑を隣のお寺に売りませんか?

お寺が駐車場を欲しがっているんですよ」

森山さんは土地売買や相続問題を扱う自営業。

土地の仲介はビジネスになるのだ。


おばさんの家は代々、自宅とは別に

デンジャラ・ストリートの一角に小さな畑を所有していた。

畑とは名ばかり、何も作らなくなって久しい荒れ地で

縦に長い畑の半分は、裏山の斜面にせり上がっているという難のある土地。

3年前にご主人が亡くなり、この畑はおばさんが相続した。


永遠に放置するしかない畑なので、とても良い話に聞こえるが

土地の形状と同じく、この話には難があった。

「ただし買いたいのは道路に面した半分だけで、斜面はいらない」

という虫のいいものである。


「全部でないと、売るわけにはいかない」

おばさんは断った。

しかし森山さんは売れ、売れと日参してくる。

お寺の方とは、すっかり話ができあがっている様子だったという。


おばさんがなかなか首を縦に振らないので、森山さんは作戦を変更した。

「お宅の畑の溝が詰まって、雨が降ると水浸しになっていますよ。

掃除をしないといけないが、年だから無理でしょう。

僕がやりましょうか?」

おばさんは他に言いようもなく

「よろしくお願いします」と言った。

後日、森山さんが明るく2万円の請求書を持って来たので

おばさんは怖くなって払った。

畑の溝が掃除されたのかどうかは不明。


また別のある日は

「お宅の畑、使わないなら、僕が菖蒲園にして

ちょっとした観光地にしたいと思うんです」

と言ってきた。

2万円をふんだくられた経験から、これはさすがに断ったという。


おばさんは怖くなった。

彼は、他人の登記簿や戸籍を閲覧できる国家資格を持っている‥

子供たちが帰って来ないことも話してしまった‥

自分一人を落とせばいいと、調べはついているのだ‥

悩んだおばさんは不眠症に陥り

病院でもらった精神安定剤を服用するようになった。


おばさんがおかしいと言われ始めたのは、その頃である。

ぼんやりしたり、人と話していて急に泣き出したり

意味不明のことを口走るようになった彼女を

近所の者はうつ病や認知症と噂したが、どうやら安定剤のせいだったらしい。


一年ほど経過した頃、森山さんはあきらめたのか、足が遠のいた。

私が隣へ通い始めたのも、同じ頃。

森山さんが来なくなり、おばさんは安定剤の服用をやめたので

次第に元気になったというわけ。

私の功績じゃなかったのは確かだ。


《続く》
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