殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

友の帰省・お出かけ編

2023年06月29日 10時51分47秒 | みりこんぐらし
けいちゃんの家じまいに関する作業は、合計5日かかった。

帰って来たら、まず処分する物としない物の仕分けに2日間

3日目にF工業が現地に行って見積もりを出す。

社長は山陰支社へ出張中だったので、けいちゃんの実家には部長が行った。


処分費用は4トントラック1台につき8万円

2トントラックだと6万円。

これは一般的な金額だ。

それを何台付けて何往復するかで、合計金額が変わってくる。

見積もりでは、合計で約50万円の金額が出た。


安いと思う。

実際にはトラックに積み込んでみないとわからないが

向こうも商売、最初に多めの金額を言っておいて

支払いが少なければ顧客は嬉しいので

高めの見積もりを出してくるはずだからである。


ここで気をつけたいのは、トラック1台分の値段がもっと安い所。

本当にその値段ポッキリで追加料金がいらないなら良いのだが

業者によっては処分場で処分してもらう処分料が

別料金になっている所もある。

安いからといって飛び付かず、作業にかかってもらう前に

処分料が別料金で上乗せされないかどうかをしっかり確認した方がいい。


また、家の立地も値段に影響する場合がある。

トラックが家に横付けできて

ドアや窓から直接積み込める家なら通常料金だけど

田舎の農家や豪邸ならいざ知らず

そのような便利な家は、ありそうであんまり無いものだ。

特に親が亡くなって無人となると

道が狭くてトラックが家のそばまで入らない家が多い。

車の乗り付けができなくて不便だから、誰も住まず無人になっちゃうのだ。


そのような家は、トラックを停めた場所まで人力で運搬しなければならない。

すると業者によっては処分料の他に、その手数料を請求する場合がある。

やはり見積もりの時に、ちゃんと確認する方が安全だ。


けいちゃんの実家も山の中腹で、細い坂道の上にある不便な場所。

しかしF工業は全部ひっくるめての値段なので

かなり良心的と言えよう。


そして2日間の作業が終わり、請求は36万円。

けいちゃんは自腹を切るつもりだったが、意外に安かったので

それまで沈黙を守っていたお兄さんが払ってくれることになった。

けいちゃんは、ものすごく喜んだ。


彼女が見積もりを出してもらった日の夜

我々5人会は集まって飲食にいそしんだ。

帰省後、初の女子会だ。


この日は珍しく、私が車を出した。

けいちゃんが横浜へ行くまでは

下戸の彼女が送迎をしてくれるのが習慣だったが

横浜へ引っ越してからは、うちの夫が送迎担当になった。

しかしこの日、忙しくて行けないと言っていたユリちゃんが

急きょ参加すると言い出したからだ。


「みんな揃って良かったね!」

と喜んだのも束の間、よく考えたら

いつもは居なかったけいちゃんが増えてるんだから

送迎係の夫を足したら、全員で1台の車に乗れんじゃないか。

うちもそうだけど、年を取ると大人数用の車は手放すのよね。

そこで、私が飲まずに運転することにした。

みんな「それじゃ悪いわ〜」とか言ってるけど、口先だけよ。


ともあれ夕方になったので、まずけいちゃんを迎えに地元へ。

急な坂道を車で上がれる所までバックで上がり

ルームミラーを見ながら彼女を待つ。


やがて、細い坂を下る彼女の姿が映った…

と思ったら、急に消えた。

マボロシを見たのかと思って車から降りてみると、違った。

坂道で転び、倒れていた。


「けいちゃん!」

駆け寄った時には、すでに流血。

額を少し切っていて、頬とアゴまで顔の半分は打ち身と擦り傷

腕と膝も怪我をしていた。

が、果敢にもこのまま行くと言う。

すごい根性だ。

そこで持っていたバンドエイドを貼ってやり

マミちゃん、ユリちゃん、それから私の町に戻って

モンちゃんを拾って女子会を敢行した。


次に会ったのは、けいちゃんの家じまいが終わって2日後。

怪我をしたし、家じまいが大変だったので

彼女が少し休みたいと言ったため、2日待ったのだ。

それからはほぼ連日、遊びほうけた。

ユリちゃんは最初の女子会だけで、後は忙しくて参加できないままだった。


お岩さんのようになった紫色の顔半分を

帽子と眼鏡とマスクで隠した怪しい姿のけいちゃんとあちこちへ行った。

大好きな車を手放して数年が経つ、けいちゃんの希望は高度だ。

「山陰へ行きたい」

しかし運転係を買って出てくれたマミちゃんが気の毒なので

「山陽で我慢せい」と言い、福山市にある鞆の浦(とものうら)へ。

鞆の浦は、坂本龍馬にゆかりのある港町だ。

この日、モンちゃんは参加しなかった。


ホテル鴎風亭(おうふいてい)のテラスで、はっさくレモンジュース。

日本海の代わりに瀬戸内海を眺めるのじゃ。



500円也。

ホテルのラウンジってお値段高めの設定かと思ったら

普通だったわ。


同じく鴎風亭のレストラン…名前忘れた…でランチ。


3850円也…だったと思う。


その翌日もまた、お出かけ。

この日はモンちゃんも参加した。

うどんが好きなけいちゃんは「四国に行きたい」と言い出したが

やはりマミちゃんに申し訳ないので、“四国に近そうな島”で誤魔化す。

島の名は、生口島(いくちじま)。

広島県内では瀬戸田(せとだ)と呼ばれる島だ。

日本画家、平山郁夫の生地であり、彼の美術館がある。


が、行ったことがあるのでそこはパスして

けいちゃんが食べたいと言っていた店でジェラート。


どうよ、この地味な色合い。

塩アイス、ピスタチオ、イチジク…

食べたいのだけをセレクトしたら、こういうことになっちまった。

750円也。


お昼はタコ飯が名物の店へ。


1400円也。


実はこれ、不本意。

私は味のついたご飯が、あんまり好きじゃない。

だから、こんなドンブリ飯級のタコ飯は頼んでない。

本来はモンちゃんが注文したものだ。


しかし配膳されたこれを見て、モンちゃんは言った。

「私、こんなに食べられない」

彼女の視線は、私の注文したうどんの隣に置かれた

ごく小さなタコ飯の入れ物に注がれていた。


「残したらええじゃんか」

私は言い、無視してうどんに取り組もうとした。

うどんも実は不本意なんだけど、タコ飯が控えめなメニューといったら

油もののタコ天丼や、暑いのに熱そうなレモン鍋の他にこれしか無く

うどん好きのけいちゃんが注文したので乗っかったのだ。


が、モンちゃんはブツブツ言うだけで手をつけない。

60年の長い付き合いだ。

節約家のモンちゃんの狙いはわかっている。

私のミニタコ飯と、彼女の大タコ飯を交換して欲しいのだ。


うどんと大タコ飯を腹に収めた私は

「悪いから両方払う」と言うに決まっている。

ミニタコ飯をもらったモンちゃんは、無料で済むというわけよ。

交換してくれるまで、絶対に動かない構え。


さっきアナゴ屋さんに入ろうとした時

「物入り…」

彼女がそうつぶやいたのを聞いて、けいちゃんは少し気にしていた。

だからアナゴ屋さんをやめ

幾分安いタコ飯屋さんで妥協した我々であった。


結果、モンちゃんの大タコ飯と私のミニタコ飯を換えてやった。

ただし言いなりになるのはシャクなので

うどんもひっくるめて全部換えた。

よって大タコ飯が私の前にある。

意地で食べた。

不本意だ。


モンちゃんは、私から渡されたうどんとミニタコ飯のお盆を見て

「そんなに食べられない」と抵抗したが、ペロッと完食していた。

不本意だ。


その後も、けいちゃんが横浜へ帰るまで遊びまくった。

この次は、いつ会えるかわからないのだ…

ひょっとしてこれが最後になるかもしれないのだ…

なんて思いながらも楽しかった。


しかし出かけ慣れない私が連続出勤すると

いつもそうなるように、何だか体調が…。

暑過ぎ、食べ過ぎ、はしゃぎ過ぎよ。

そろそろ体調が戻ってきたので、ホッとしている。
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友の帰省・家じまい編

2023年06月28日 08時58分53秒 | みりこんぐらし
今月は、ブログの更新頻度が高いんじゃないかと悦に入ってる私。

なぜって、忙しかった。

忙しいと更新が頻繁になるって変かもしれないが

普通に忙しいと他のことも燃える…私はそういうタイプ。

暇な時は、何もかもやる気がしなくてグウタラしている。

ものすごく忙しいと、ブログに取り組む時間が無い。

そういうわけで、今月は普通に忙しかったようだ。


などと、はしたなくも「忙しい」を連発する私だが

その原因は、同級生の友人けいちゃんの帰省。

私と一緒に勤めていた病院を定年退職した後

お姉さんを頼って横浜に転居した彼女が、半月ほど帰っていた。

だから仲良し同級生5人で結成する通称5人会で、遊びまくっていたのだ。


彼女の帰省の目的は両親亡き後、無人になっている実家の片付け。

実家は神戸在住のお兄さんが相続し、別荘として使われていた。

しかし誰でもそうなるように、せっせと通っていたのは最初の1年ぐらい。

この数年は、飽きて放置されていた。


このまま実家が荒れ果ててしまうと、近所に迷惑がかかる…

けいちゃんもお姉さんも、いい加減な兄夫婦にヤキモキしていた。

特にけいちゃんは数ヶ月前から、両親が何度も夢枕に立つようになったという。


「お父ちゃんとお母ちゃんが夢に出てきて

“家が心配やから何とかしてくれ”言うんやわ。

特にお母ちゃんは食器棚のガラス扉を開けて、中からヌ〜と出てくるんやで。

怖いから、思い切って帰ることにしてん」

WBC以来、ヌーは大人気だけども、こっちのヌーは歓迎できないわ。

食器棚から出てくるお母さん…

そんな話を聞いたら、私だって怖いよ。


彼女は実家に置いてあるタンスやベッドを始め

問題の食器棚などの家具や古い電化製品

それから庭にあるプレハブの倉庫3つとその中身などを処分すると決めた。

そして、現在勤めている老人ホームの厨房で長期休暇を取ったが

帰る前になって、「誰か処分業者を紹介して」と5人会のLINEで言ってきた。

ネットで調べたらたくさんあるけど、全然知らない所ばかりなので

家に来てもらうのは怖いという。


…もっともである。

就活ブームで家じまいの費用は高騰し、値段はあって無いようなものだ。

業者の方も現金が儲かるので、雨後のタケノコのように新規参入が増えている。

そんな昨今、最も怖いのは業者によって大きく異なる費用と人間の質。

費用は業者の言い値になることが多く

あまりの高額に値切ろうとしても、怖いお兄さんたちが相手だと言いにくい。

そうよ…こういう業者って、お世辞にも上品な人たちじゃないのである。


うちの隣も一人暮らしだったおばさんが去年、息子に引き取られ

無人になって売りに出された。

売り出すにあたり、家をもぬけの殻にする必要があるため

不動産会社の繋がりであろう、遠方から家財の処分業者が訪れていたが

そりゃもうひどいものだったわよ。

見るからに半グレや不良みたいな人たちが3日間

大音響と怒鳴り声を響かせて作業に当たっていた。


寄せ集めのメンバーらしく、処分の仕方なんて知らない様子。

食器なんかを金属の箱にガンガン投げ入れて延々と割りまくるもんだから

うるさいどころの騒ぎではない。

ことに隣は華道の家元。

花器や鉢、花瓶の類いが山ほどあるので

それらを割る音といったら、気分が悪くなるレベルである。


すすけた金髪にタトゥーの見た目や騒音もだが

トラック3台を乗り付けるので、うちの駐車場も無断で塞がれた。

もちろん挨拶なんてしやしない。

顔を合わせても知らん顔の野良犬状態。


あまりの暴挙に近所も騒ぎ出し、文句を言おうかと検討もしたが

隣のおばさんの耳に入ったら悩むと思い、通りかかった警察に注意してもらった。

その瞬間はおとなしくなったものの、時間が経つと元通り。

いつかは取り組む家じまいだが、あんなのに来られたら困る…

我々近隣住民はそう話したものである。


余談になるが、隣のおばさんは

「息子が来い来いと言ってくれるので…」

と嬉しそうに言って引っ越したものの、じきに老人ホームへ入れられた。

先日、おばさんから電話がかかって知った。

彼女の家はこの春に売れ、若い夫婦と3人の子供が入居したが

おばさんは何も知らなかった。

年金を含むお金は全部、息子夫婦が管理しているので

歯医者にも行けなくて困っているそうだ。



そんなわけで、処分業者ならどこでもいいというわけにはいかない。

けいちゃんは近所迷惑になったり、悪い業者に当たって

べらぼうな金額を請求されてすごまれたりと

怖い目に遭うことを心配して5人会に相談したのだった。


が、この方面となると、ガテン系の私しかいまい。

業者選びは、各種の条件を満たす会社でなければのう。


一つ目は、礼儀が徹底している所。

女一人で対応するのだから、怖がらせたり迷惑をかける所はいけない。

社員教育が行き届いていて

愛想の良いきちんとした人たちで構成されている所が望ましい。


二つ目は、自社で処分場を持っている所。

処分業者はたくさん存在するけど、業者の数だけ処分場があるわけではない。

引き取った家財をバラバラに潰して粉砕する処分場は

家屋解体の専門業者なら持っているが、下請けや転職組であれば

持っていない所の方が多い。

処分場を開設して維持管理するには、市民生活に影響の無い広大な土地購入を始め

困難な資格取得、大がかりな機械設置など多額の費用がかかるので

おいそれと誰でも持てる施設ではないのだ。


処分場を持ってない業者は、顧客の家から家財を運び出し

処分場へ運搬するまでが仕事になる。

そして処分場に行ったら荷物の重さを計量し

重量に見合った、けっこう高い処分料を支払って後始末をしてもらう。


その処分料はもちろん、顧客が払う。

顧客は処分料がいくらなんてわからないので

業者によっては家財の運び出し作業の料金に加え

その処分料にいくばくかの水増しをして請求する所もある。

つまり儲かるから、処分業者が増えているのである。


よって、食品でも産地直送の方が安いように

自社処分のできる業者に依頼した方が安く上がる可能性大。

明朗会計を希望するのであれば

自社で処分場を持っている業者かどうかを確認し

事前の見積もりをしてもらうのが安心というわけである。


三つ目は、金持ちの所。

自社で処分場を持っている業者は、基本的に金持ちだ。

先ほども述べたように、処分場を持つには大きな資本がかかるからだ。

元々金持ちの上に、自分とこの会社だけでなく

よその処分業者からも処分料がザクザク入るとなると、ますます儲かる。


儲かっている会社は、長く儲けていきたいので信用を大事にする。

怪しげな従業員を雇わないし、水増しだの上乗せだのと

みみっちい欲を出さないので安全という理論が

全てではないものの、ある程度は成立するのである。


ということで、私がけいちゃんに紹介したのは市外のF工業。

ここでもお馴染み、うちの取引先であり

夫と次男をスカウトしてくれた社長のいる会社だ。

F工業は建設の他に、家屋解体や家財処分の仕事もしている。

安心な業者を他に知らないので、選ぶも何もここしか無い。


私は社長と話し、とりあえずけいちゃんの帰省に合わせて

見積もりに行ってもらうことになった。

けいちゃんは喜んだ。

見知らぬ業者だと怖いので、お姉さんと二人で帰省することになっていたが

私の知り合いということでお姉さんも安心し、一人で帰ることになった。

一人の方がいいに決まっている。

お姉さんの都合を気にせず、うちらと遊べるもんね。

《続く》
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手抜き料理・続 あとの夏祭

2023年06月26日 10時06分22秒 | 手抜き料理
カレー、ミンチカツ、エビパン、マカロニサラダ

そら豆、ナス・バンジャン…

お祭の料理は以上のメニュー。

もうね、目新しい物にチャレンジとか、手間をかけた料理はしないの。

我々の気力と体力は、年々確実に衰えている。


その一環として今年からコロッケをやめ

作業工程の少ないミンチカツに変更した。

ジャガイモを蒸し、皮を剥いて潰し

炒めた挽肉とタマネギを合わせるコロッケより

挽肉と生のタマネギをいきなり混ぜるミンチカツの方が

早くできると考えた私は、“楽”をテーマに乗り切るつもりだった。

私らだってずっと台所にこもらずに

一目でいいから外の祭を見たいじゃないのさ。


が、手抜きのはずのミンチカツには、思わぬ罠が…。

タネを作って丸め、パン粉をつけたら昼が来てしまったので

ユリちゃん一族や、早くから来ている数人の近しいスタッフと一緒に

昼ごはんを食べようということになった。


私はこのまま一気にミンチカツを揚げてしまいたかったが

120人分ともなると、ものすごい量だ。

寺の冷蔵庫は例のごとく、缶ジュースや麦茶

ユリちゃんの兄嫁さんの手作りデザートでいっぱいのため

ミンチカツのタネを冷蔵する余地など無い。

しかも「みんなで楽しく食べよう」、「少しは休憩した方が…」

という声に、それもそうだと思ってつい従ってしまい

生のミンチカツを常温で放置したまま昼の会食をしてしまった。


そりゃ暑くなってきた時期だから、常温放置は気になるさ。

できるだけ急いで食べて片付け

それからいよいよミンチカツを揚げる作業に入ったが

タネは室温で温まって緩み、ダランとした塊に変化していた。

揚げるハシから挽肉の脂がどんどん溶け出し

サラダオイルと混ざって、すぐにドロドロの液体と化す。

サラダオイルをガンガン継ぎ足しても

肉の脂の方が勝つので焼け石に水。

揚げるというより、ドロドロの粘液で煮る感じだ。

時間がかかって、ちっとも手抜きにならなかった。


結果、脂の抜けたカチカチのミンチカツになったが、あとの祭。

ミンチカツはパン粉を付けたらすぐ揚げるという鉄則を

無視した天罰だ。

これなら、温度変化に強いコロッケの方がマシだった。


エビパンも同じ身の上さ。

昼の会食の間、これも放置していた。

常温になったエビパンのタネからは、泉のごとく水分が湧き出ている。

せっせとキッチンペーパーで吸い取っても

永遠に雨上がりの甲子園球場。

仕方なく、さらに片栗粉を足し

パンに塗って無理矢理揚げたら、油がハネるのなんの。

人間も台所も、ちょっとした地獄絵図よ。


そうだった…1年ぶりなので忘れていたが

エビパンのタネを作ったら、エビから水分が出ないうちに

速攻で揚げないとハネるんだったわ。

結果、思いっきり水分の抜けたエビのすり身はミイラのように縮み

硬いフリカケ状と化してガリガリの食感。

やっぱり会食をしないで、さっさとエビパンを揚げればよかった…

激しく後悔したが、これもあとの祭。


ミンチカツもエビパンも昨年同様、大人気だったが

それは誰かが作った物をタダで食べられるからに過ぎない。

料理としては水準が低く、料理番一同の手をわずらわせてしまって

無駄な疲労を与えたと反省しきりである。


会食が長引いたのも、良くなかったかもね。

ハッちゃんや嶋田さん、リッくんにシノブさん

他にも新顔が何人かいたため、ユリちゃんのご主人モクネン君が

食後に一人ずつ自己紹介する場面を設けたのだ。

主催者としては、もっともな行為である。


最初に指名された私は、一刻も早く台所へ戻りたいので

「飯炊き1号、みりこんです」とだけ言い

マミちゃんもモンちゃんも2号、3号と続いた。

が、モンちゃんの隣に座っていたリッくんがいけなかった。

張り切って演説を始めてしまったのだ。


「え〜、私は◯◯と申しまして、茶道◯◯流の師範を務めております。

本日は献茶をさせていただくということで…」

そこからが長いのなんの。

流派の説明、茶道との出会い、現在の活動状況…

もはや講演会の様相。


10分ほど経過して、やっと終わったので

他の人たちも名前だけ言って終わり…かと思いきや

あの意地悪な嶋田さんが、また長い。

何やら仕事に必要な資格を取得したそうで、拍手の要請の後はご自慢が続く。


こっちが焦ってるからなんだけど

こういう場面で長くしゃべるのって腹立つわ。

同じ長く聞くなら、この日に初めて会った若い大学教授の話や

いつもの芸術家の兄貴の話を聞きたかったけど

兄貴なんて時間が長引いたから、自己紹介すらしなかった。


ともあれカジュアルな会食で講演会をしたリッくんに

この後、不幸が訪れる。

モクネン君は、彼を生意気とジャッジしたらしい。

午後にあった献茶の打ち合わせの時に

モクネン君特有のブラックジョークを何か言われたようで

「みりこんちゃん、俺、もうダメ…帰る」

と涙ぐんでいた。


メンタルの弱い人がうっかりモクネン君と話したら

メゲるのはよくわかる。

言われた人はきつく感じるけど

モクネン君はそれをジョークと思っているからタチが悪い。

この寺に関わる者は、これに耐えなければならないのである。


涙を拭いて落ち着いたリッくんが話すには

色々言われたけど、一番ショックだったのはこの言葉だそう。

「今年は建物の中を通って本堂へ行くのではなく

一旦外に出て、境内を歩いて本堂へ上がってください。

そしたら、より大勢の目に触れてバエるでしよ?」


な〜んだ…たいしたこと無いじゃん。

むしろ宣伝して弟子を増やしたいリッくんを思いやった

優しい配慮じゃんか。

こういうのは、モクネン君の良い所だ。

もっと別のことに反応しろよ。

「バエるって、何なんだよ…茶道に対する冒涜だよ」

しかしリッくんは傷ついているのだった。


ゲイのメンタルはようわからんが、今年になってから

リッくんには弟子が一人できた。

その頃から師範としてのプライドがものすごく高まり

何だか高慢ちきになった気がしていたのだ。


弟子の男性は、祭で師範の行う献茶を見学する予定だったが

直前になって急に遠方へ転居し、いなくなったのはともかく

昼の会食で立場もわきまえず、長々と講演をしたのはその現れだし

祭の前、ユリちゃんに

「今年も献茶を行う予定でよろしいですか?」

と上から目線のLINEを送って怒らせたのもそうだ。


去年のリッくんは、もっと謙虚だった。

ユリちゃんはリッくんのために

「やらせてあげる」というスタンスで

リッくんは「やらせてもらう」というスタンスだったのだ。


そして今年、ユリちゃんの「やらせてあげる」は変わらないが

リッくんの方は「やってあげる」に変化していた。

ユリちゃんはそれが気に入らず、祭の当日もリッくんに冷たかった。

坊主憎けりゃ袈裟までを地で行くつもりか

シノブさんにも、あからさまにそっけない態度を取った。


もちろんシノブさんは気づいていて

「お台所は楽しいけど、来年はもう無いかな?」

と笑っていたものだ。

私は二人を誘った手前、申し訳ない気持ちになった。

 
ともあれ「来年以降のことはどうでも、今年はやり遂げなさい!」

シノブさんと私にゲキを飛ばされて

その日のリッくんは何とか献茶を終えた。

しかし祭が終わった後も、彼の心はメゲたままだったらしい。

ユリちゃんに電話をして、モクネン君の発言を訴えたそうだ。


そしてユリちゃんは、憎い旦那へのクレームを

上から目線で延々と言うリッくんに怒り心頭。

二人は見事に決裂した。


後日、両方から話を聞いた私。

二人とも同じレベルだと思い、密かに苦笑した。

そして両方に「今回はリッくんが悪い」と言い、その理由を述べた。

茶道は謙虚を重んじる世界…

お情けでよその座敷へ行って活動しておきながら

そこで自分のプライドを尊重するようでは茶人とは言えない…

謙虚が無ければ、一期一会も侘び寂びもあったもんじゃない…。


今回は結果的にユリちゃんの味方をする形になったので

彼女はもっともだと言ったが、リッくんの方は当然、気に入らない。

モヤモヤした気持ちを抱えて

東京に住む茶道の師匠の所へわざわざ相談に行ったそう。

が、師匠にも全く同じことを言われて厳しく叱られたと

私に言ってきた。

来年の献茶は無いかもしれないけど、あとの祭。

《完》
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手抜き料理・あとの夏祭

2023年06月24日 09時15分38秒 | 手抜き料理
半月ほど前の話になるが

今年も同級生ユリちゃんの実家のお寺で夏祭があった。

毎年のことだけど、祭に参加するのではなく

祭を手伝う人たちに提供する食事を作ったのだ。


今年はコロナ明けということで、大人数が予想された。

お寺で食事をする人は、我々裏方を含めて総勢30人ほど。

だったら30人分でいいじゃん…というわけにはいかない。

昼食と夕食、そして深夜には打ち上げの夜食

そして合間では、檀家や来客に持たせる手土産の折り詰めが必要。

さらに祭で疲れたユリちゃん一族が

翌日もごはんの支度をしなくていいように、キープする分も必要。

ということで、細かく計算するのが面倒になったため

およそ120人を作ることにした。


メインのメニューは、昨年と同じくカレー。

業務用の大きいジャワカレー2箱に

同じく業務用のバーモントカレー1箱を使う。

ジャワカレーは1箱で40皿分、バーモントカレーは50皿が作れるので

3つの箱で130皿分、作れるというわけ。

これを昼も夜も深夜も明日も、食べたらええんじゃ。


カレーを大量に作る場合

パッケージに表示してある野菜の分量を守ると

野菜の甘みが出てお菓子級に甘くなり

美味しくないのは去年お話しした。

だからジャガイモ、タマネギ、ニンジンは人数分の半分以下に抑える。

具材が見えなければ、溶けて無くなったと言えばいい。


オーストラリア産の牛バラ肉は、2キロ。

これも表示より格段に少ないが、ダシの扱いなので気にしない。

小さく切って使い、何とか皆に行き渡れば上等。

分量通りを律儀に買っていたら、高額なカレーになってしまう。


大人数のカレーを作る時は、鍋が焦げつきやすいという伝説がある。

特にユリ寺の大鍋は煮込み用ではなく

底が抜けそうに薄くなった古いアルミの鍋だ。

ユリちゃんは過去、何度も焦がして台無しにした経験から

ちょくちょく台所をのぞいては加熱中のカレーを指さして

「鍋!鍋!」と鬼のような顔で指摘する。


が、シロウトの指図は受けんぞ。

洗い物が増えるのを惜しんで、炒めも煮込みも全部

一つのアルミ鍋でやってしまうから焦げるんじゃ。

容赦なく軽薄なアルミ鍋の底に、炒めて焦げついた野菜と肉の破片が残る。

カレールーを入れて粘度が増したら、その破片が焦げつきを呼ぶんじゃ。

野菜や肉を別のフライパンで炒めてからアルミ鍋に移すと

焦げつきにくいんじゃ。


もちろん量が多いので、肉は肉、芋は芋と具材別に分け

それぞれの具材を数回に分けて炒めることになるが

その手間と、誰かが一日中カレー鍋に張り付いて

焦げつかないようにかき混ぜ続ける手間とを比較すると

前者の手間の方がよっぽど軽症ではないか。


具材を炒め終えたフライパンは

そのまま洗わずに水を入れて煮立ててから鍋に入れる。

具材の旨みが利用できるし、フライパンもそこそこ綺麗になるってもんよ。


ちなみにタマネギ、ジャガイモ、ニンジンを炒める時

市販の小さな缶に入ったカレー粉をふりかけて炒めると

パンチの効いた味に仕上がる。

去年は初めてのカレーだったので遠慮したが

今年は辛くしてやろうと企てていたので

炒める時に、一缶全部使った。

出来上がりは、それでも野菜の甘みに負けて

想像よりマイルドだった。


煮込む時には、野菜ダシを投入。

コンソメではなく、茅乃舎の通販で買うパウダー状の野菜ダシ。

小袋に分かれているやつを5〜6袋程度入れ 

具材をケチった分のコク不足をカバー。

野菜ダシはちょっと高いので、自腹だ。


野菜ダシが惜しければ、何でもいいから

市販のレトルトカレーをこっそり投入してもいい。

コクが出て、美味しくなる。





さて、この日の料理番は

いつもの同級生マミちゃんとモンちゃんと私の奴隷トリオに

公務員OGの梶田さん。

それから今年も祭り前の法要で献茶を行う同級生のリッくんと

彼のお茶席を手伝っている70代のシノブさん。

さらにユリちゃんの従姉妹で我々より一つ下のハッちゃんと

ユリちゃんの亡きお兄さんの所で働いていた、嶋田さんという50代の女性。

総勢8人だ。


ユリちゃんは今年から、寺の台所の今後を担う“若手”として

お気に入りのハッちゃんと嶋田さんのコンビを動員したという。

けれども私は、親戚の身分に甘えるハッちゃんをあてにしていない。


嶋田さんの方は独身なので、さらにあてにできない上

私は彼女が気難しいのを知っていた。

ユリちゃんの前ではゴロニャンなこの女、仕事では意地悪よ。

とある機関で働く彼女と、接触したことがあるのだ。

いかにも寝起きの顔で機嫌が悪そうな彼女の対応が

あまりにもひどかったので口喧嘩になったのは昨年のこと。

今回の夏祭では、お互いに初対面として挨拶したが

マスクをしていたので向こうは覚えてないだけよ。


ともあれ料理をするには、人数が多ければいいというものではない。

狭くて動線が最悪、調理器具も十分でない台所で

この8人がどう動くかが、この日の鍵といっても過言ではない。


だが、心配するほどでもなかった。

シノブさんは自身の住む町のお寺で、年に何度か行事食を作っている。

大人数の料理に慣れており、手際がいい。

下ごしらえは彼女がにこやかに指揮を取ってくれたので

私はカレーの制作に専念することができて助かった。


梶田さんは安定のサポートぶり。

手の回らない所をさりげなくカバーしてくれて

ずいぶん助けられた。


この日のメニューはカレーの他に、ミンチカツ。

合挽きミンチ5キロに、タマネギ4キロで制作。




他には豚肉の味噌焼きをしようと思ったが、豚バラが高いし

外で炭を起こすのもかったるくなり

毎年作って慣れているエビパンに落ち着く。

冷凍エビ4キロ、ネギ4束で制作。



エビはこの祭のために買った、私物のみじん切り器を持ち込んだ。

包丁で叩いた方が早かったような気もするが

マミちゃんがチャチなみじん切り器でせっせと刻んでくれた。



他には、マミちゃんが家で作って持って来たマカロニサラダ。




マミちゃんが人からもらい、現地で茹でたそら豆。



もう一品、ユリちゃんの兄嫁さんに頼んで

毎年人気のナス・バンジャンを作ってもらった。

これらをサニーレタスやトマトを飾った8枚のオードブル皿に盛りつける。

カレーと共に、人が食べに来たら出し

減ったら足して、また別の人に出すことを繰り返すのだ。

盛りつけた写真は、残念ながら無い。

余裕が無くて、撮り忘れた。

《続く》
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近時事・外見問題

2023年06月22日 09時10分45秒 | みりこんばばの時事
広末涼子さんのダブル不倫でガヤガヤ言ってるけど。

芸能人の不倫って、日常茶飯事だと思うけど。

美人に色恋は付きものだわよ。


美しい上に有名人とくりゃ、人生優待生活。

物事をあんまり考えなくても周りが良くしてくれるから

頭や心が子供のままという人もいるんじゃないかしら。

彼氏におバカな手紙も書いちゃうってもんよ。


その手紙が何で週刊誌の手に渡ったのかは

色々と裏があるんだろうけど

マスコミの騒ぎようは、まるで魔女狩りみたい。

何でああまで騒ぎ立てるかといえば

料理人だという相手の男…その見た目かもしれないわ。


「俺よりブサイクなのに、ヒロスエと!」

「何でこいつが、ヒロスエと!」

マスコミは男が多いから、そんな不満を持つ人口も多いと思う。

ぶつけどころの無い不満は、嫉妬に変わるものよ。


「こいつに惚れるくらいなら、俺でもよかったんじゃね?」

「何でこんなヤツを選ぶんだよ!」

渦中の美人女優に対する疑問も湧く。

答えの見つからない疑問は、怒りに変わるものよ。


それら嫉妬と怒りは、“俺より落ちる男”と

“俺でなく、そいつを選んだ美人”に制裁を加えることで

溜飲を下げるしかない。

家族を傷つけた…

世間を騒がせた…

関係者に迷惑をかけた…

不道徳、不謹慎…

制裁の理由はたっぷり。


マスコミが騒がなければ、旦那さんの方はともかく

子供さんまでが知ることは無かったんじゃないの?

自分たちが騒いで大ごとにしておきながら

子供が傷ついたも何もあったもんじゃないと思うけど。


思い出すと、モデルだかの最初の旦那さんと別れた後で

今の旦那さんと再婚した13年前は、一瞬の騒ぎで終わったような…。

入れ墨だらけの不気味なロウソク屋さんに、私はびっくりしたけどね。

そのわりにお名前の方は、めっぽうわかりやすい“キャンドル・ジュン”。

このギャップには、うすら笑いするしか無かったわ。


その時のマスコミは、あまりに異様な姿のお相手に面食らって

遠巻きにしてる感じだった。

広末さんのゲテモノ食いぶりを目の当たりにして

言葉少なだった記憶があるわ。

報道で外見のことをあんまり言っちゃいけない規則ができてたし

広末さんの慈悲や人類愛という方向で、まとめられた印象。


「異形の私を受け入れてくれて…」

当時の彼がインタビューで語っていたのを覚えてる。

変わり者なだけかと思っていたけど、言うことはちゃんとしてて

人前でお話しするのが好きそうなのは意外だった。


今回も出て来て奥さんをかばってたけど

しゃべり慣れてて、やっぱりお話しが好きみたいね。

そりゃあね、事務所から無期活動自粛を言い渡されたんじゃ

一家の死活問題だもの。

奥さんから目をそらせないとね。


久しぶりに見た旦那さん、ずいぶん太めになっていらしたわ。

耳に動物か何かのツノをぶっ刺して、相変わらずの不気味は同じ。

おうちじゃ優しいのかもしれないけど

見た目が怖いからテレビで映すのはやめていただきたいの。

そういうわけで、広末さんのダブル不倫問題は

そっとしてあげてください。



話は変わって、とある国の首脳の息子問題は

なかなか楽しませてもらったわ。

公邸で親戚と写真を撮った件よ。

あの画像を誰が流出させたのか…私の疑問はそれだけ。

一緒に写真を撮った人の中に、バカか悪人がいたのは間違いないわ。


息子本人だったりして。

機密事項を仲良しの女性記者にバラした前歴があるからね。

それか、画像を他の人にも送っちゃって拡散しちゃったか。

地元に帰ってる時、女子大生をお持ち帰りしたのも

外遊先のヨーロッパで観光や買い物に公用車を使ったのも

スルーや苦しい言い訳で切り抜けたけど

この写真が出たことで、やっと辞任したのを見ると

彼じゃないとは否定しにくいわ。


安全とおもてなしで例の国際会議を成功させたご両親のお手柄は

あの子のお陰で消えちゃった。

意味違うけど、好きだわ、こういう子。


そもそも第一秘書に任命された時点で、危ないとは思ってた。

だって、顔に書いてあるじゃないの。

「甘ったれ」って。


どこに?って…私の無責任な印象だけど

お酒か不規則な生活か、ツヤの無いオジさんの肌に

幼い子供の目鼻が乗っかってるアンバランスなところ。

浅黒いのは日焼けというより、未だに親の保護が強そうな産毛。

だからスーツ姿が、高校の制服みたいに見えてしまう。


身のこなしもスマートとは言えず、それでいて本人は

引き締まった表情や堂々とした歩き方を狙うけど

気負って背伸びしてるから、かえってオドオドして見える…

そう、やんごとなきお姫様と結婚した、あの男に似た感触。

あの男と違って、ええとこのサラブレットでも

同じ雰囲気が出ちゃう子っているのね。

親としては、そこがまた可愛いんでしょうけど。


第一秘書って、親分より賢くないとできないのよ。

カバン持って、付いて歩くだけじゃ無理。

経験豊富で誰よりも気配りができて

メンタルが強靭でないとこなせない仕事だから

お給料も高いんじゃないの。

お父さんはいつも我が子と一緒にいられて癒されるでしょうけど

そんな癒やし要員を税金で養われちゃ、国民は迷惑よ。


お母様は独身時代、重役秘書をしていらしたのに

息子に指導してあげなかったのかしら。

せっかく家族に秘書経験者がいるというのに、もったいないこと。

まあ、母親の言うこと素直に聞く男の子って

あんまりいないからねえ。


将来、お父さんの地盤を継ぐのは確定だったと思うわ。

政治家になると言うより、民間企業で務まりそうにないから。

お父さんの票を受け継いで、お人形先生になる方が安泰よね。

税金で食べさせる値打ちは無いことが

早めにわかって良かったんじゃない?

あれが、先で賢くなるとは思えないもの。


あ〜あ、今日も勝手なこと言っちゃってごめんなさいね〜!
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現場はいま…転換期編・6

2023年06月20日 19時34分25秒 | シリーズ・現場はいま…
病気で退職する松木氏の後任として

顔見知りの板野さんが来ることになり、ひとまずの安堵を得た我々。

すると気になってくるのは、なぜ彼が選ばれたのか…である。


本社は藤村が労基に訴えられて以来、年配者の中途採用をやめていた。

職にあぶれたオジさんを安く雇うメリットより

その人物からもたらされるデメリットの方が大きいことに気づいたからだ。

よって、中高年の新人が赴任することは無いとわかっていた。

しかし本社の直接雇用者ではなく、我々と同じ合併組の板野さんが選ばれるとは

思いもよらなかったのだ。


夫が常務に聞いた話から推測すると、この意外な人事はダイちゃんが原因かも。

「松木が退職するのを聞いたら、小川が(ダイちゃんのこと)ここへ来たい…

言うて、ワシんとこへ来たんじゃ」

…あの人、やっぱりうちへ来たかったらしい。


「自分なら、ここの様子がようわかっとるし

事務ができて事務員の給料も浮くけん

松木の代わりに営業所長で行かしてくれぇ言うんじゃ」

…これを立候補の理由にすると思ってたよ。


「まさかあいつが、そげなことを考えとるとは全然知らんかったけん

わしゃ、たまげてのぅ。

お前に車1台持たして、高速代と燃料代払うてここへ通わしたら

事務員雇うてお釣りが来るわい、言うて怒ったんよ」

常務はかなり驚いたと同時に、ショックで不愉快だったようだ。


この話を聞いた夫もまた、ひどく驚いていた。

ダイちゃんは、もっと地道で冷静な人だと思っていたからだ。

「母さんの言うた通りじゃった…ワシにはわからんかった」

しみじみと言う夫。

そうさ、人の心がわからないからノゾミみたいな女に騙されるのさ。


ダイちゃんは残りの人生を賭けて勝負に出たつもりだろうが

人の上に立つ者って、目をかけてきた部下の野心を一番嫌うものだ。

織田信長、豊臣秀吉、徳川家康…歴史を紐解いても、それは顕著である。

常に部下が野心を抱かないかを見張り

部下の野心を封じるため、さまざまな画策に明け暮れ

発覚すると猛烈に腹を立て、残酷な仕打ちで見せしめにした。


私は人の上に立ったことが無いのでわからないが

ある程度の地位に上り詰めた人は

部下に芽生えた小さな野心がやがて組織を揉ませ

自身の築いた環境を脅かし、ことと次第によっては

寝首をかかれるまでに発展するのが本能的にわかるらしい。

だから本能寺の変…じゃないよ。


さて話は戻って、常務はダイちゃんの申し出をバッサリ却下。

改めて本格的な人選に入った。

ダイちゃんをぐうの音も出ないようにするには、誰を選ぶべきか…

それを踏まえての人選だ。


そして思いついたのが、板野さん。

彼は島の工場へ通勤してはいるが、自宅はうちらの住む隣の市にあり

島と我が社との中間地点だそう。

高速は使わないため、通勤費の問題はクリア。


それに板野さんには、重機の操作がうまいという特典があった。

同じ二刀流なら、営業所長と事務より

営業所長と重機オペレーターの方が断然いい。

事務の代わりはナンボでもいるが、オペレーターの代わりは滅多にいないのだ。

夫の交代要員が務められるし、先で夫が退職しても

しばらくは板野さんで回せる。

なんなら役に立たないシゲちゃんに何とかお引き取り願って

事務員の給料よりよっぽど高い彼の人件費も削減できるではないか。


重機は、ダイちゃんが絶対に太刀打ちできない分野である。

彼が松木氏の後釜を狙わなければ

常務の頭に板野さんは浮上しなかったかもしれない。


ちなみに藤村は、松木氏がうちと一緒に担当していた県東部の生コンへ配属になった。

肩書きは、松木氏と同じく工場長。

松木氏は自宅から工場まで1時間ぐらいで行けたが

藤村は広島県の西の端から東の端までの通勤になる。

大変そうだ。



板野さんは後任に決まった翌日から、こちらへ出勤を始めた。

前任の二人のように威張らず、挨拶もきちんとするという。

つまり普通。

彼の性質については、夫が「コンニャクみたい」と

面白い表現をしたので笑った。

着任早々、常務にガミガミ言われる彼を見て思ったそう。

うちらは慣れているけど、初めてだったら恐いと思う。

それこそコンニャクみたいにボ〜ッとして、ユラユラしちゃうかもね。


松木氏も藤村も、このガミガミが恐くて

元々持っていた嘘つきの才能がバージョンアップしていった。

気の小さい人間は、自分が助かるために人を売るしかなくなるのだ。

板野さんが今後、どう変化していくかは不明だが

今はこの人と働くしかないんだから、見守るのみ。



会社では、そんな板野さんの歓迎会が行われることになった。

松木氏の送別会も兼ねて、日程は7月初旬の夕方。

彼が入院しないうちにやるそうだ。


ここでしゃしゃり出たのが、例の事務員ノゾミ。

会社の敷地でバーベキューをやりたいと言い出した。

今回の歓送迎会は、福利厚生費から一人5千円の予算が出る。

これでどこかへ食べに行きゃあ簡単に済むものを

バーベキュー、バーベキューと言って聞かないらしい。


夫はノゾミの提案に、あっさりOKを出した。

鉄板などの道具を借りるため、親戚の会社へ頼みに行ったり

ノゾミのノゾミを叶えるために準備中だ。

それはかまわないけど、重病人を呼び、日陰の無い屋外でバーベキュー…

松木氏に生命の保障は無い。

それもかまわないけど、彼は来ないと思う。


ともあれ人の旦那にちょっかい出す女って、たいていバーベキューが好きなものよ。

料理は苦手だが、甲斐甲斐しく世話を焼く姿を人に見せたいらしい。

その甲斐甲斐しさは、いつも他の誰かのサポートで成立しているが

本人は自分がやっていると思い込んでいて、楽だから好きなのだ。


好きと言えば、わざわざ肩や脚の出る服を着て参加するのもお好き。

いかにも「やってます」のそぶりで下を向き

あればの話だが、皆様に胸の谷間をちらつかせたり

大袈裟にしゃがんで、短い曲がった脚をあらわにするのもお好き。

自ら肌を露出しておいて

「あ〜ん、蚊に刺された〜、ほら〜真っ赤〜」

などと甘えた声を出し、首筋なんかを見せるのもお好き。

残念でした。

会社は海のそばなので、蚊はいませ〜ん。


そんなヤツが、終わったら片付けなんかやるわけねぇだろ。

やったことが無く、やる気も無いから言えるのだ。

バーベキューの女王を自称する運転手のヒロミと

醜いポジション争いを繰り広げればいいのだ。


それが楽しみなので、夫には“バーベキュー着”を買ってやった。

ヒンヤリする生地のスポーツウエアと、揃いの半ズボン。

野球メーカーのローリングスの、おしゃれなやつよ。

今どきはスポーツメーカーも、素敵なデザインを出している。

父の日だったからさ。

これを着て、チャラチャラしたらええが。


あ、私?呼ばれてないんだから、行かんよ。

ノゾミがいるのに、夫が呼ぶわけないじゃんか。

それに私、バーベキューは苦手だから興味無し。

暑い所で何か焼くなんて、ユリ寺だけで十分じゃわ。


以上、静かな現場から中継でした。

《完》
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現場はいま…転換期編・5

2023年06月19日 08時51分17秒 | シリーズ・現場はいま…
退職する松木氏の後任が決まる時を、まんじりともせずに我々は待った。

次に来る人物によって、自分たちの進退を決めようと考えていたからだ。

松木氏や藤村のような社会人不適格者はもう、こりごり…

この思いは強い。


とはいえ、彼らばかりが悪いのではない。

我々にも非はある。

松木氏にも藤村にも、初対面から礼儀正しく友好的…

つまり、新人を迎え入れる際に取るべき普通の態度で接した。

その対応が彼らを勘違いさせたのは、大きな失敗である。

こちらの謙りに気づかず

彼らは自分の方が偉いと思い込んで増長を続け

あげくは夫を追い出して、自分が成り代わろうと画策した。


人によっては、きつい言葉でビシバシと

牛馬のごとく接するのがふさわしい者もいる…

それを学んだ我々は、次もどうせロクでもないヤツが来るだろうから

“無愛想”、“無関心”、“冷淡”に徹して様子を見よう…

悪と判断したら容赦なく叩き、恐怖で支配しよう…

そう決めていた。


この手は私が義父にさんざんやられてきたので

人には絶対にしたくないし、家族にもさせたくないが仕方がない。

それが嫌になったら、あるいはその態度が問題になったら

かまうことはない、一家で退職だ。

とにかく変なヤツが来て、こりゃダメだと思ったらさっさと辞める。


その一方で息子たちは、藤村の復帰を案じていた。

「あいつが来て俺らが辞めるというのは、悔しい」

と言うのだ。


しかし我々夫婦は、その線は無いと確信している。

自身が入社させた女性運転手にハラスメントで訴えられ

傷病手当や慰謝料といった賠償が完全に終わったのが、今年に入ってからだ。

まだ日が浅いのに戻らせたら、労基を欺いたと受け止められ

見せしめに本社が叩かれるだろうから、藤村の路線は無い。

それに小心者の彼は、長男をひどく恐れているので

万が一、任命されても拒否すると思う。


次に予想される人物は、藤村の子分だった30代後半の黒石。

藤村が居る時は、彼の後継者気取りでうちに入り浸り

こっそり3トンダンプの練習までしていた。

言わば、うちのことを多少知っているのがセールスポイント。

おべっか使いを優遇し、見当違いの野心をやる気とみなす

本社の性質を鑑みた場合、全くあり得ない人事ではない。

もしも彼が来た場合、若いのとアホなので扱いやすいだろうから

最初に叩くビシバシ路線の対応と決めた。


他に考えられるのは、ダイちゃんだ。

しかしこれは、私だけの予測。

これを言うと、家族は鼻で笑った。

事務畑のダイちゃんをわざわざ営業部に移動させて

こっちへ配属させるよう手間をかけるわけがない…

彼もよくわかっているはずだから、それだけはあり得ない…

などと口を揃えて言う。


けれども私は以前から、彼の奥底に揺らめく野心の炎を感じていた。

夫と息子たちがいくら否定しても、この感触は消えない。


彼は次期取締役のはずが、宗教の勧誘が原因で

肩書き無しの一般社員に格下げされ

ほぼ同時期に厚生年金の受給が始まったため、今は嘱託社員の身の上だ。

肩書き無しの一般社員が嘱託社員になると、定年は65才。

それが本社の規定で、私と同い年の彼は

あと2年しか勤められない計算になる。


もちろん特例もあるし、取締役の胸先三寸でどうにでもなる規定だ。

現に、夫より一つ年上の松木氏がそうだった。

うちで役に立たなかった彼は県東部の生コン工場へ

工場長の肩書きで配属されたが、そこで62才を迎え

肩書きはそのままに嘱託社員として定年を待つはずだった。


しかし64才の時、藤村がハラスメントの不祥事を起こしたお陰で

彼の人生は一変した。

営業所長だった藤村の交代要員として

うちの仕事を少しは知っている松木氏を呼び戻すことになったが

労基との兼ね合いで、松木氏を藤村より上の立場にする必要にかられたのだ。


当時は訴えを起こした神田さんを職場復帰させる前提で

労基の指導のもと、和解を進めていた。

その指導によれば、悪質なハラスメントが発生した職場なんだから

責任ある立場の人間を配属して監視させるという

労基の出した条件を満たさなければならない。


しかし本社の責任ある立場の人たちは

遠い上に厄介な問題の起きたうちへなんぞ、来たくない。

そうだ、松木氏をそういう人間に仕立てれば早い…

この合理的な考えから、彼を正社員に戻し

藤村より一つ上の本社付き次長の肩書きを付けて

松木氏をうちへ配属した。


本社付き次長になれば、65才定年の縛りは消え

退職時期はあって無いようなものとなる。

そんなラッキーボーイの松木氏が、それからわずか1年

病気で退職を余儀なくされたのはさておさ

この前例にダイちゃんが燃えないわけがない。

彼としては定年が近づいた今

松木氏と同じ、この先も勤続できる肩書きが欲しいはず。


だって彼の所属する教団は、毎月の寄付がたくさんいる。

退職して年金生活になると、寄付金の額や回数が

今までと同じというわけにはいかない。

すると会社だけでなく教団からも、泡沫信者として窓際に追いやられる。

この屈辱をできるだけ先延ばしにしたい気持ちが強いのは

絶対に間違いない。


しかも彼は、松木氏も藤村もできなかった事務ができる。

事務のできる営業所長になれば、事務員を雇わなくていいので

人件費節約を主張できる。

事務と回し者の二刀流を上層部にアピールして認められたら

嘱託社員から正社員へのカムバックと昇進は

まんざら夢物語ではなくなるのだ。


彼はまだ、諦めてはいない…

だから私はここ何年も、ずっとそう思っている。

宗教にハマる人間は、神仏が希望を叶えてくれると信じているので

身の程を知らないものなのだ…

そんな私の主張をせせら笑う家族だった。



そして先日、また河野常務が来ることになった。

後任を伝えるためなのはわかっているので、夫はソワソワしていた。

変なのが来たら辞めると家族で決めはしたが

ノゾミをほっといて自分がいなくなるのは

気が引けるというところだろう。


結果、松木氏の後任は予想外の人物だった。

うちより少し前に本社と合併した、島しょ部の生コン工場がある。

本社の前身と同じ生コン会社なので、仕事の内容がわかっているのと

へんぴな島であること、規模が小さいなどの理由から

松木氏や藤村のような回し者は送られず、のどかに営業している所だ。

そこに長く勤め、今は工場長をしている板野さんという62才の男性が

うちを担当することになった。


彼は本土に用がある時、たまにうちへ寄るので

我々家族は彼と面識があった。

穏やかで、おっとりした人だ。

彼は工場を自営していたわけではなく、勤続の長い社員だが

合併の悲哀は味わっているため、夫と通じ合うものがあった。

今まで通り、島の工場を管理しながら

週に3回、午前中にこちらへ来るという。

普通を欲していた我々は、この人事を歓迎した。

《続く》
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現場はいま…転換期編・4

2023年06月16日 11時01分15秒 | シリーズ・現場はいま…
ノゾミが社用車を使い始めたことにより、彼女に対する夫の熱量は見て取れた。

かなりの低体温。

のぼせていれば、あの車に乗るのは絶対に止める。

ダイちゃんにはノゾミに社用車を使わせる権限があろうが

社内のことなので、夫にもそれを止める権限ぐらいはある。


時速70キロの普通車がノーブレーキで右運転席に突っ込み

その衝撃で段差のある歩道へ飛ばされた軽自動車のダメージは大きい。

メチャクチャになった現物を見れば、そして車に関する仕事をしていれば

どんなに修理をしたって元通りにならないのはわかる。


修理には1ヶ月かかり、直って来たらドアが開かなかったため

車を届けに来た修理工場の人は外へ出られず

そのまま修理工場へ逆戻りした。

さらに何週間か経って車は戻って来たが

それ以来、誰もが遠巻きにして、乗ることはなかった。

そんな恐怖の車をノゾミに使わせて平気とは、ひどいではないか。


まあ、自分は人と違って特別だと思い込んでいるのが

不倫者というものよ。

一方、特別という見地では、この車の特別ぶりも負けてはいまいから

特別なノゾミにふさわしい、“スペシャル・カー”ということにしておこう。


もっとも夫が完全にぞっこんなら

ノゾミが昼食を摂りに自宅へ帰ることは無いので

スペシャル・カーを使うことも無い。

夫はガソリン代を惜しむ彼女を連れ、町で外食するに決まっているからだ。


亭主持ちで、よその旦那の愛人を営業しつつ

そのかたわら夫に遠征中というノゾミの立場を考えた場合

二人で昼どきの食堂なんかへ行くと目立つ。

淫靡な雰囲気というのは、それと知らない人にも伝わるため

亭主や彼氏の耳に入る恐れがあり、冷静に考えれば都合が悪いかもしれない。

しかしそれ以上に、愛人はタダメシが大好きな生き物だ。

タダメシを前にしたら、自分を抑えられない悲しいサガがある。

噂も発覚もなんのその、誘われたら這ってでも行くのは間違いない。


30年近く前の古い話なので、前例として活用できるかは疑問だが

未亡人イク子を会社に入れた時は、毎日連れ立って外食していた。

夫からの福祉サービスの一環だが

のぼせたら片時も離れたくないのが夫の習性でもある。

当時はヤクザの情婦を営業中だったイク子も

うるさい彼氏にバレるのを気にせず、当然のように同行したものだ。


昔、記事にしたが、イク子が入社したことも

二人で外食していることも知らなかった私は

毎朝、夫の弁当を作っていたものだ。

夫はそれを夜、庭で飼っていた雑種犬のポッケに与えていた。

ポッケの食欲が減退したのと

弁当箱のフチが犬の歯でガタガタになっていたのとで

ようやく夫が弁当を食べてないことがわかったのだが

この時は最高に腹が立った。

私は朝の弁当作りが苦手だからである。

愛人と外食するなら、「弁当はいらない」と早く言って欲しかったぞ。


ともあれ夫は依然として毎日、昼には家に帰って来る。

若かったあの頃ほどの情熱は、無いと言っていいだろう。

だからといってどうということもないが

体温が低いということは、燃え上がって駆け落ちとか

嫉妬にかられて嫌がらせなどの“祭”が開催されないまま

静かに自然消滅のコースを辿るという

ここ10年ばかり繰り返してきた地味路線に落ち着くと思われる。

祭が無いとなると何やら残念な気もするが、高齢者だから仕方がない。


そんなある日、正確には先週

本社から河野常務が来ることになった。

前日、夫にかかってきた電話によると、何か重大な発表があるらしい。


当日の朝、常務が会社に到着すると、続いて松木氏も会社に来た。

彼が入院中だと認識していた夫は一瞬

「やっぱり転移は嘘だったのか」

と思ったそうだ。

が、松木氏の衰弱ぶりは圧巻で

能天気な夫もさすがに尋常でない雰囲気を感じ

重大発表とは、松木氏の進退に関わることだと直感した。


常務、松木氏、夫の3人が事務所に揃うと、常務は厳かに発表。

「松木が退職することになった」

聞いていた通り、ステージ4の肺癌と肝臓への転移だった。


今は一時的に退院しており、来月からまた

抗がん剤治療のために長期入院に入るという。

常務の計らいで、しばらくは会社に籍を置いたまま傷病手当をもらい

それが切れた時点で退職の運びになるという話だ。


「父さん、本当にお疲れ様でした」

夫から松木氏退職の報告を聞いた私は、心からねぎらったものである。

あの男の嘘と芝居に翻弄された12年は、我々にとって長かった。

彼が無くした重要な郵便物も、彼がしでかした重大なミスも

あっけに取られるような嘘と芝居によって、全て夫のせいにされてきた。

去年の夏、よそに届けるお中元を夫が開封するように仕向けて

泥棒扱いしたことや、次男の素行をねつ造して

本社に提出する告発文を作成したことなど

彼の悪事の数々は、到底忘れられるものではない。


病気がそうさせた…という考え方もあるかもしれないが

それは否定する。

知らない国の言語で寝言を言わないのと同じく

元々、本人の持つ素地がなければ、あのようなことはできない。

世にも稀なる醜い心を持った男と、ようやくおさらばできるのだ。

爽やかな風が吹いたような清々しさを感じた。


思い返せば、無実の罪を着せられて悔しがる夫や憤慨する息子たちに

私は何度言い聞かせたか知れない。

「必ず報いがある。

嘘をついて人を陥れる人間が最後にどうなるか

あんたたち、よ〜く見ておくのよ!」

もちろん、腹立ち紛れの憎まれ口だ。


そして12年の歳月を経て

それなりの結果が訪れたとも思える事態になった。

この分では、いつもここで人の悪口を言ってる私なんて

どれほど苦しんで死ぬかわからんぞ。

くわばら、くわばら。

元気なうちに、もっと言っておこう。


とは言っても松木氏のことだ。

傷病手当をもらって休んでいるうちに病気が良くなり

華麗なる復活を遂げる恐れもあるため、手放しで安堵するわけにはいかない。

なにしろ出勤したら寝ていればいいのだから、重病人でも続けられる。

病気ということで、本社も大目に見るだろう。

最後まで油断すまい…

我々はそう戒め合いながらも、つい笑顔がこぼれてしまう一日であった。


ともあれ松木氏がいなくなると、後任が気になるところ。

本社の措置について、たいていのことは

「どうにでもしてくれ」という諦めのスタンスでいる我々だが

この後任問題だけは、そうはいかない。

また松木氏や藤村のような、とんでもクラスはもうこりごりだ。

本社の回し者として、うちのお目付け役に就任するのは誰か…

我々の興味は、この一点に集中していた。

《続く》
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現場はいま…転換期編・3

2023年06月14日 09時27分02秒 | シリーズ・現場はいま…
松木氏不在の事務所で

楽しい時間を過ごしているらしき夫と事務員ノゾミ。

通常、妻としては居ても立っても居られない心境ではないのか…

そう思われるかもしれないが、慣れというのは恐ろしいもので、平気だ。


太古の昔、未亡人イク子が運転手として入り込んだのを知った時は

初めてだったので確かに凹んだ。

「そこまでするのか?!本当に血の流れる人間なのか?!」

人並みに驚き、おめおめと女の言いなりになる夫に絶望し

私を追い出して妻になろうとする彼女の欲望に寒気をもよおしたものである。


その後も、会社へはまだ入り込んでいないものの

やがては妻に、引いては夫の共同経営者に就任するつもり満々の女たちが

何人も通り過ぎて行った。

しかし会社が危なくなり、同時に親が病気で手がかかるようになると

そのような野心を持って私に挑んでくる女たちはパタリと出現しなくなった。

貧乏と介護は、愛人のお好みではないらしい。


他人の旦那と会社が欲しいなら、ついでに親も付けるから持って行けよ。

私と違って彼女らは

根性とハングリー精神で不可能を可能にする稀有な人材…

マジでそう思っていたというのに、不甲斐ない。


彼女らの不甲斐なさは、それだけではなかった。

自分の存在を妻に知らしめたいのは不倫者の習性なのか

最初のうちは自己アピールに余念が無い。

夫が常に身につけるキーケースや名刺入れをプレゼントしたりな。

財布は高いので、くれん。

安価で買いやすいキーケースか名刺入れと決まっている。


もっと貧民になると、車にハンカチやマスコット人形など

しょうもない物を置き忘れる。

免許証や鍵など、忘れたら困る物は絶対に忘れない。

人数をこなすうちにわかってくるが

これらのアピール行為は、妻へのささやかな挑戦状なのだ。


彼女らは夫との仲が親密になって行くにつれ、将来設計が確立して行く。

自分が幸せになるためには、妻が邪魔。

そこで妻への嫉妬心が湧いてくるものらしい。


嫉妬するのはこっちのはずだが、すでに男が自分の物だと錯覚しているため

すんなり別れない妻が憎くてしょうがない。

そのため、これでもか!という思いで、わりと大胆な行動に出る。

曇った車のガラスに自分の下の名前を指で書き残したり

差出人の無い手紙を送りつけたり、家に無言電話をかけて

家族に嫌がらせをするようになるのだ。

これで家庭紛争となり、キレた妻が出て行けばしめたもの。


しかしそんなことをしていると、身バレするのは時間の問題だ。

やがて夫の相手が自分だとバレた途端、今度は急に大人しくなって

妻をまるで怪物か幽霊のように恐れおののく。

だって、身元がバレると慰謝料に繋がるじゃんか。

得をしようと不倫しているのに、金を取られたのでは元も子もない。


逃げ出す者はこの時点で逃げるが

まだ欲望の炎が燃え尽きてない者は途端に大人しくなって、こう言い出す。

「夫婦の問題なんだから、夫婦で話し合って。

私は良い結果を待ってます」

こうして男に丸投げした以降は、沈黙を守るという不甲斐なさを発揮するものだ。


丸投げされた男が、使命をはたすもんかい。

何事もきちんとできないから、浮気に走るのだ。

女に叱咤激励されて最初は燃えても、だんだん飽きてどうでもよくなり

男の能力以上のことを望んでうるさく言って来る女がうとましくなる。


こんなにガミガミ言うんなら、うちの女房と同じじゃないか…

ということで、そのうち自然消滅して終了。

み〜んな、これだよ。

同じパターン。


愛人とは、他人の土俵で幸せになりたい弱い人たちだと知った。

なんだ…夫と女を一瞬でも笑顔にさせたくない一心で離婚に応じない私より

ずっと根性無しじゃないか。

一生付いて行くとか、言ってたじゃん。

海の見えるお家であなたと暮らしたいとか、手紙に書いてたじゃん。

見ててやるから、やってみろよ。

もっともあのままだったら、会社は潰れてホームレスだろうけどよ。


とまあ、必要の無い体験だけは豊富な私。

それらがメンタルを鋼鉄に鍛えたのはさておき

このような愛人騒ぎよりも、老人騒ぎの方が何倍も大変だった。

愛人VS老人だと、絶対に老人の方が厄介。

だからたいていのことは、「老人よりマシ」で済ませられる。

ましてや夫との結婚を望まず、会社も欲しがらず

本当の彼氏のために愛人芝居をしているノゾミなんて、まだ可愛いものだ。

しょせん芝居なんだから

少なくとも我々家族に何か仕掛けるような情熱は無いと踏んでいる。


そのノゾミさん、元経理部長のダイちゃんに取り入って

最近、社用車をゲット。

ダイちゃんは彼女に事務の指導をするため、時々本社から来ているのだ。

ノゾミが思わせぶりな態度を取るので、こちらに来るのが楽しいらしい。


またダイちゃんが来るようになって、嫌じゃないのかって?

いいえ、あんまり。

ダイちゃんの相手をするのはノゾミ。

彼が信仰する宗教に誘われるのもノゾミ。

入信したらええんじゃ。

彼女がいれば、夫や社員は安全である。


あ、社用車?

1月に夫と義母ヨシコが交通事故に遭った、あの軽自動車よ。


宗教に入らなかった報復で、夫の社用車を軽に変えたダイちゃんだったが

軽の恐ろしさを知った夫は事故後、自分の車で通勤するようになったので

社用車関連の雑用を担当する彼は、その始末に困っていた。

問題の軽を引き取ってくれる支社を募集したが

事故車であることはすでに知れ渡っており、使うと名乗り出る者は皆無。


車は会社の駐車場に放置されたまま、数ヶ月が経過した。

本社はどんな車でも、使用しないで放置することを忌み嫌う。

「車を遊ばせる」という行為は、御法度なのだ。

ダイちゃんは夫に再三、使うように言ったが、夫はガンとして応じない。

このままでは上層部から厳しく追求されてしまうので、彼は明らかに焦っていた。


その軽に目をつけたノゾミが、乗りたいと言い出す。

彼女は昼食の時、会社からほど近い自宅に帰るが

その往復に、社用車を使いたいと申し出たのだ。

自分の車を使うのはガソリン代がもったいないという

身勝手な理由からだが、ダイちゃんにとっては渡りに船。

すんなり許可され、ノゾミは例の軽を使うようになった。


これも実は、松木氏不在の賜物。

彼が事務所に居たら、ダイちゃんは許可に躊躇しただろう。

日頃からダイちゃんと牽制し合っている松木氏が尾ひれをつけて

本社に何を言いつけるかわからないからだ。

ノゾミによろめいて社用車を与えた…なんてチクられたら身の破滅。

松木氏のいない日常は、夫とノゾミの蜜月だけでなく

ダイちゃんの独断をも促進した次第である。


とはいえこの軽、廃車案件を無理に組み立て直したホビー作品。

事故車というのは夫が話していると思うが、ノゾミは当時のダメージを知らない。

走っている途中でバラバラになっても、知らんもんね。

《続く》
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現場はいま…転換期編・2

2023年06月12日 13時00分00秒 | シリーズ・現場はいま…
事務員ノゾミの夢は教師。

そのために毎年、公務員試験を受けては落ち続けている。

もちろん来年度の採用試験も受ける予定。

合格したら、ここを辞めると周囲に宣言している。

ダブル不倫の相手のために、他社の旦那を誘惑して

スパイ役を買って出るような女が

はたして青少年を導くに相応しいかどうかは神の采配に委ねるしか無いだろう。


さてここからは、私の大サービス。

珍品が手に入ったので、ご紹介しよう。

悪趣味と思われるかもしれないが、これが現実というものである。


今さら腹が立つわけでもなし、沈黙する選択もあった。

私はもう、二人の幼な児を抱えて明日の暮らしに怯えながら

夫と女の一挙一動に心を傷める若い母親ではない。

この道40年のベテランだ。

伴侶と愛人の所業を人に訴えて気を晴らすような

ヤワな神経は持ち合わせていない。

アレらが果てしないアホだとわかってからは

むしろ彼らが持って生まれた不治の病に同情すらしている。


実際にこの10数年、口に出すことなく握り潰したあれこれもある。

カッカきていたのはせいぜい最初の数人まで…

相手の数が二桁になると、本当にどうでもよくなるのだ。

が、たまには刺激的な内容も良かろうというサービス精神から

お目にかけることにした。

これよ。




多くの人には、「何のこっちゃ?」だと思う。

これは、学校ごっこの痕跡。

教師に憧れるノゾミは、夫が書いた“設備”という文字の

“備”が間違っていると指摘し、自分がお手本を書いて夫に練習させた。

そしてちゃんとできたということで

ノゾミが赤い花丸と「good」を与えてやったのだった。


昔、長男の副担任だった愛人ジュン子も、同じようなことをやっていた。

あの子は花丸の下に、「believe yourself」などと書いていたが

何だか懐かしい。

ノゾミが夫に教えた“備”の字が正解か否かはともかく

二人で過ごす時間の増えたアレらは、こういう遊びを楽しんでいるのだ。

私も備を書いて提出したら、花丸がいただけるかしらん。


色の世界から遠い、言うなれば恵まれた人々は

これを見てもピンと来ないと思う。

家裁に提出しても証拠物件にならないので慰謝料が取れない

ただの落書きである。

女のタバコの吸い殻やジュースの空き缶と同じく

いたってしょうもない物体。


しかし一度でも伴侶の色の洗礼を受けた人には、わかるはずだ。

でへへ、と鼻の下を伸ばして一生懸命、お手本通りに書く相方…

それをしたり顔で見守る女…

その時の情景が、妻の脳裏に広がる。

そして、妻の直感したイメージに狂いは無い。


これは、嫉妬と似て非なる感情だ。

我が子が不良と親しくなったら、親はどんな気持ちか。

当然、先が心配になって不安を覚えるだろう。

親は、家庭に心配や不安を持ち込んだ不良を憎み嫌う。

悪いのは、不良にシッポを振って付き歩く我が子とわかっているけど

不良さえ目の前に現れてくれさえしなければ…

親ならばそう思う。

その気持ちと同じである。


とはいえ私は、その「先」を何度も見ている。

その先は、飽きられて捨てられるだけ。

不倫の主導権は、たいてい女にある。

男はアホだから、何もかも自分次第と勘違いしているが、実は逆。

「この男から獲れる物は、もう何も無い」

女がそう判断したら、不倫はたちどころに終わるものだ。

そしてアレらは、今だに普通の社会人としてシャバにいる。

ということは、概ね大丈夫。

だから何とも思わない。


親しさを友情と呼ぶ不良も、恋と呼ぶ愛人も、中身は同じさ。

女はヤカン、男は土瓶。

女が冷めるスピードと、男が冷めるスピードは異なる。

その異なりに大きな差があり過ぎると

刃傷沙汰やストーカーなどの事件が起きる。

人はそれを不幸な出会いと呼ぶが、うちの夫の場合

そのような事態にはならなかったので

どれも幸せな出会いだったのだろうよ。


ところで、これを何で私が持っているか。

この紙の裏には、商品の数量を走り書きした夫のメモがある。

私は仕事上、そのメモが必要だ。

夫は、裏に何が書いてあるのかを忘れて私に渡した。

だから手元にある。


こういうことをする男女が、いかにおバカさんか。

皆様には、それを認識してもらいたい。

何か書いたら残ってしまう…

それが第三者の手に渡る…

結果、人目に触れて笑われる…

そういう予測ができない者が、不倫なんかするのだ。


この先、周囲の誰かの相談に乗ったり

あるいはご自身が、そのような目に遭うことがあるかもしれない。

その誰かに、あるいは自分に言ってあげて欲しい。

「バカだから大丈夫、やらかすことはみんな同じ。

たかが知れてるから恐れるに値しない」と。


私は夫のマズい字はもとより

花丸を付けてもらって喜ぶガキっぽさをさらすのは恥と思っているし

勉強のできるバカというのは、彼女が初めてではないので

親ほど年配の上司に向かって嬉しげに花丸を付ける

ノゾミの頭にも苦笑している。

本人たちは大真面目でも、人にはお笑いコントだ。


しかし、こういうことを平気でやってのけるのが不倫者なのだ。

どこまでも厚かましく貪欲、そして無知。

人は、あまりの厚かましさと貪欲と無知に驚き

何か裏があるのではないかと無闇に悩んでしまうが、何も無い。

アレらの頭を叩いたら、「スッカラカ〜ン」と高い音がするだろう。

それを覚えておいていただきたい。


しかし惜しいものよ。

昔はこのような、取るに足らぬ軽い物ではなく

お下品なラブレターや思わせぶりなメモ

“とにかく明るい安村”もタジタジの

あられもない姿の写真など、楽しい物的証拠がザクザク入手できた。

携帯が無かったので、もちろん画像は残せず

純心!だった私は、穢らわしくて片っ端から捨てていた。

あんなのをここで公開したら、さぞかし喜ばれたと思うが

しょうもない薄口物件しか手に入らず、申し訳ない限りである。


この体たらくであっても、夫は私にとって大切な人だ。

時にこのようなバカバカしいことをやらかしてくれるが

彼の稼ぐお金は、それと比べ物にならない価値がある。


また、小言や愚痴を一切言わず、話して楽しい伴侶を持つことは

妻にとってこれ以上無い幸せだ。

そして自分の母親だけでなく、私の実家の母も大切にしてくれるのは

何よりもありがたい。

例えそれが、後ろめたさからの贖罪であったとしても

実質のサービスは同じなので、何ら不満は無い。

彼がスネに傷を持たない真っ当な男であれば

女房の実家なんて知らんと言われても文句は言えないだろう。

私は、そのスネの傷をあてにしているのだ。


そういうわけで、自分が楽しいんだから

よその女も楽しいのは当たり前だと思っている。

が、とりあえず、アレらには言いたい。

「もっと濃く書いてくれんと、見えにくいじゃんか!」

《続く》
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現場はいま…転換期編・1

2023年06月09日 18時54分52秒 | シリーズ・現場はいま…
現場はいま…静かだ。

3月の末に会社で意識不明となり

倒れた拍子に頭蓋骨を軽く骨折した夫のアシスタント、シゲちゃんは

今月始めから再び出勤している。


話は3月に遡るが、シゲちゃんが数日の入院を経て退院した時 

本社は労災認定をして1年半の傷病手当を支給することに決め

彼に自宅でゆっくり療養するようにと伝えた。

ただし、それは優しさとは違う。

就業中に意識不明で倒れたとなると、安全な事務職ならいざ知らず

危険を伴う現場では危なっかしくてしょうがない。

同じことがいつまた起きるかも知れず、倒れるタイミングによっては

他者を巻き込む大惨事にも繋がりかねないではないか。


労働基準法では、病気を理由に社員のクビは切れない。

しかし58才のシゲちゃんが1年半休んだら、60才になる。

それまでは傷病手当を支給することで彼の出勤を制止し

1年半後、60才という区切りを迎えた彼に肩叩きを勧めるのが

本社の思惑であった。


今どきは定年が65才に引き上げられたので

60才になっていても働けはするが、夫は彼が重機をたびたび壊して

仕事がストップするのを迷惑がっていたし

運転手は彼の積込みが遅くて雑なのを嫌がった。

こんなにトロトロしていたのでは納品が間に合わないという焦りや

ダンプを壊されるのではないかという恐怖は、運転手にとって非常に辛いものなのだ。


最初は彼の一生懸命さを信じ、慣れるまではと我慢して丸2年…

いくら教えても進歩しないどころか、度重なるミスによる萎縮と加齢によって

入社した頃より手がかかるようになった。

これには夫も社員も辟易していたので

内心では密かに彼が倒れたことを退職の好機とみなしていた。

1年半の間、彼の生活の面倒を見て誠意を示し

自宅療養中に60才になったら

こちらの誠意に免じて自ら勇退するようにコトを運ぶ…

本社も夫もそのつもりでいたのだ。


しかし今月に入って、シゲちゃんはどうしても出勤したいと言い出した。

働きたいというより、家で老いた母親の相手をするのが嫌になり

外に出たくなった様子。

検診結果が異常無しを示しているからには

労働基準法上、彼の働く意思を拒絶することはできない。

社員一同の落胆は大きかったが、シブシブ受け入れた経緯がある。


一方、本社の回し者、松木氏は

以前から患っていた肺癌が肝臓に転移したということで

先月末から入院中。

去年だったか一昨年だったか、彼が肺癌と聞いた時、我々は半信半疑だった。

手術を受けて退院した後も、会社でタバコを吸っていたからだ。


本当に肺癌なら気の毒なことだが、何しろ嘘をつかせたら右に出る者がいない男。

都合が悪くなると重病のフリをして休み、ほとぼりが冷めたら出社して病人ぶって

非難や追求を回避するのは今回が初めてではない。

今回の肝臓への転移説は、シゲちゃんが倒れた時に労災隠しを企てて

本社から大目玉を喰らったことに加え、うちの他にもう一ヶ所

お目付け役として担当している生コン工場で起きた一件が

関係しているのではないかと思っていた。


その一件とは、5月のある日、以前から犬猿の仲だった30代の男性社員に

強い口調で罵倒されたというものだ。

「仕事せんのなら、来るな!」

そうすごまれただけでなく、その場にいた他の社員たちにまで

激しく文句を言われたそうだ。


やることは図々しくて横柄だが、肝が人一倍小さい松木氏は

そのてん末を夫に話し、彼らをなだめてもらおうとした。

しかし夫が取り合わなかったので、松木氏は怖い生コン工場へ行かなくなった。

その小さい肝に肺癌が転移した話はともかく

労災隠しと、生コン工場でのいきさつが続いたため

ほとぼりを冷ます目的ではないかと思っていたのである。


ともあれ松木氏の病欠が始まり

入れ替わりにシゲちゃんが出勤し始めたとなると、会社の方はどうなるか。

事務所のソファーを温めるのが仕事の松木氏がいないということは

人目の無い時間が増えたということである。

そしてシゲちゃんが、役に立たないなりに夫の代わりを務めることで

夫には多少の暇ができた。

つまり松木氏の監視の無い、清々しい空気の事務所に

夫が滞在する時間が増えたということだ。


その事務所には、事務員のノゾミが鎮座している。

2月だったか3月だったか忘れたが

「ゴールデンウィークに友だちの納骨をするため

僧侶を含む同級生数人と一泊で京都へ行く」

夫が私に言ったことから始まった、一連の騒動の主役である。

何だかんだで、それまで勤めていた事務員のトトロを辞めさせ

趣味のバドミントンで知り合ったノゾミを雇ったことは

『春爛漫』という記事で、すでにお話しした。


余談になるが、“ゴールデンウィーク”と“泊まりがけ”の二つを聞いて

ピンと来ないようでは、浮気者の女房なんか務まらない。

浮気者というのはゴールデンウィーク、盆正月、クリスマスに

怪しい動きを見せるものだ。

本人でなく、女がこだわるから言うことを聞くしかないのである。

よその旦那にちょっかいを出す女というのは

人の金で年中行事をやりたがる習性があるからだ。


あと、アレらは自分の誕生日や出会いの日から何年といった

個人的な記念日にもこだわる。

いつもより豪勢な食事やプレゼントを恵んでもらうためだ。

その日程は、こちらにわからないため

全国的にメジャーな行事日が発覚の日となる場合が多い。



さて、前置きが長くなった。

夫と事務員ノゾミが二人きりで

事務所という密室で過ごす時間が増えたとなると

当然、楽しい時間が流れるというものだ。


「あれ?ノゾミは隣のアキバ産業の愛人で、スパイじゃなかった?

旦那もそれに気づいたんじゃ…?」

そう疑問に思われる方もおられよう。

なんの、浮気者をあなどったらいかんよ。

人の愛人だろうとスパイだろうと、浮気者には関係ない。

ひとたび自分の方へなびいて見せた女を

すぐ手放すような潔いことはしないのだ。

むしろ他人の所有物とわかったら、かえって張り切るものよ。


隣のスパイというノゾミの素性を知った夫は、いっときはショックだったと思う。

しかし、すぐに忘れるのが彼のいい所。

夫の辞書に幻滅という言葉は無いので

自ら正気に戻る機会は無いと言っても過言ではない。

こいつらだけでなく、不倫の主導権はたいてい女にある。

女が飽きて捨てない限り、男はズルズルと追いかけるものだ。


時期が来なければおさまらない、それが浮気という持病。

病気と浮気は、一字違いじゃん。

病いは気からと言うじゃん。

浮気も、れっきとした気の病いなんじゃよ。


で、二人きりのラブリータイムが増えた夫とノゾミ。

事務所で何をしているかというと

お医者さんごっこではなく、学校ごっこらしい。

41才、子供無し…そんな彼女の夢は教師である。

《続く》
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粉飾ファンデ

2023年06月05日 17時31分28秒 | みりこんぐらし


『資生堂プリオール 美つやB Bジェルクリーム n』

近頃、クリームファンデーションはこれ。

色は一般的な、オークル2。


何年もずっと、同級生マミちゃんの店で

資生堂ベネフィークのを買い続けていた。

おしゃれなボトルもさることながら

軽さと伸びの良さ、保湿力が気に入っていたからだ。


けれども近年、ツヤとカバー力が物足りなくなってきた。

それだけ私の肌が衰えてきたということ。

そこで意を決し、同じ資生堂でもおばさん専用に特化されたシリーズ

『プリオール』の軍門に降った。


プリオールはCMも盛んだし

ドラッグストアで販売されている大衆的なシリーズ。

価格もベネフィークの半額以下、3千円。

しかし義母ヨシコが使っているため、良い商品であることは知っていた。

87才の肌が、ツヤツヤして綺麗に見えるのだ。

これ以上、わかりやすい例があろうか。


ということで、買ってみた。

一回つけて、びっくり。

さすが高齢者御用達…ボロがよく隠れること!

私のこだわる軽さと伸びの良さ、保湿方面も見事にクリアしつつ

カバー力がハンパない。

早く使えば良かった。


私のファンデーションの付け方なんだけど

ただ肌につけて伸ばすのではない。

いつぞやネットで見て試したところ、明らかな効果を感じたやり方だ。

そのやり方というのをご紹介したいと思う。


まず大事なのは、つける量。

1回の使用量は7ミリのパール1粒分だそうだが

その1,5倍ほどを手のひらに出し、反対の指で

額、眉間、鼻先、それから両頬、下唇の両口角…

合計7点に置く。


両頬とは言ったが、基本形は目の下のクマができる所と言われている。

しかし高齢になると、目の下には小じわが待機。

肉眼では見えずとも、やっぱり細かいシワは寄っているのよ。

そこへファンデーションを置くと、小じわの中に入り込んで

目の下だけ白っぽくなってしまい、修正は不可能となる。

だから頬の高い所、つまり小じわの少ない部分に置く。

あご先ではなく、下唇の両口角に置くのは

加齢によって、ただでさえ下がりがちな口角を上げて見せるため。


7点置きが終わったら、それを顔全体に丁寧に伸ばす。

両頬など面積の広い所は

左手に残っているファンデーションを足しながら伸ばす。

標準使用量の1,5倍を顔に伸ばすのだから、いくら顔が大きくたって

顔の上で余ってギトギトになる。

旅芝居に出演できそうな厚化粧に、驚いてほしい。


この厚化粧ができあがったら、スポンジの出番。

何も付けてないスポンジだ。

スポンジは、化粧用なら何でもいい。

私はパウダーファンデーションに付いていた小さいスポンジか

別売りの大きいスポンジを使用している。

スポンジは汚れると吸収力が落ちるので

食器洗いの洗剤とぬるま湯でたびたび洗って陰干しをし

傷んだら取り替えるのは言うまでもない。


そのスポンジで、顔全体を優しくポンポンと叩く。

ギトギトをスポンジに吸わせつつ

ファンデーションを肌に叩き込んで馴染ませるのさ。


その時、絶対に横に滑らせてはならない。

ファンデーションも一緒に滑ってカバー力が無くなるので

ひたすら優しく叩くだけに徹する。

これから描かなければならない眉や

ファンデーションの溜まりやすい目の下、鼻の下は念入りにポンポン。


ひと通りポンポンが終わったら

仕上げにパウダーファンデーションを軽く乗せる。

すると自然な感じでありながら、ツヤのある陶器のような肌になる。


私はその上にパウダー、つまりおしろいをパフでポンポンとはたく。

ここまでやるとスベスベになり、老いた肌は完全にねつ造される。

アイカラーやチークカラーの配色が冴え

アップで見られても堂々としていられる。

まさに粉飾とは、このことだ。


慣れると早くできるようになるので、急ぐ時も大丈夫。

脂症の方は知らないが、乾燥肌の私には粉飾が終日保たれる。


短所としてファンデーションの減りが早いことが挙げられるが

30グラムの内容量を毎日欠かさず使って2ヶ月弱ぐらい持つので

さほど驚くほどの減り方ではない。


もっともファンデーション代が少々かさんだところで

美しい肌を入手した喜びの方が大きいため、気にならない。

高い基礎化粧品をあれこれ試すより、ずっと安くつく。

チビチビと惜しみながら

ギリギリの量のファンデーションを肌に擦り込み

化粧乗りの悪さを嘆くよりも、精神衛生上よっぽどいい。

粉飾肌によって得る自信と余裕は、プライスレス。

興味の無い方には申し訳ないけど

ご用とお急ぎでない方は、ぜひトライしてみてちょ。
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女子会なのか?

2023年06月01日 10時06分31秒 | 手抜き料理
今年も祭がやって来る。

同級生ユリちゃんの実家のお寺で開催される夏祭だ。

そこで先日、ユリ寺の料理番である同級生のマミちゃん、モンちゃん

そして私は、打ち合わせのための女子会を行った。


今回の女子会には、我々の同級生リッくんを召集した。

リッくんのことは、いつぞやお話ししたことがある。

茶道の師範として活動している独身男だ。

アメリカで日本語教師をしていた経歴を持っている。


彼は昨年の祭で、ユリちゃんのご主人モクネン君の厚意により

献茶の儀式を行った。

祭が始まる前の法要で、仏様にお茶を捧げるのだ。

献茶は、茶道に関わる人にとって憧れの儀式らしく

彼は今年もやる気満々、料理のお給仕も手伝うというので呼んだ。


女子会にはもう一人、参加者がいる。

リッくんの開くお茶席を手伝っている70代の女性、シノブさん。

この人は、フリーのツアコン。

さすが世界を知る女…見識が広く、おしゃれで優しい。

それでいて謙虚な可愛らしい人だ。


毎月行われるリッくんのお茶席に参加するうち

我々はすっかり彼女に魅了され、親しく交流するようになった。

最近の女子会は、もっぱらユリちゃん抜きでシノブさんを誘い

4人で行っているが、イベント好きのシノブさんも

ユリ寺のお祭を手伝いたいと言うので一も二もなく呼んだ。


ちなみに、リッくんとシノブさんは親友。

とある仕事に関わったのが縁で、知り合った。

二人は親を見送った後、一人暮らしをしながら

姉と弟のような良い関係を保っているのだった。



さて、我々3人とリッくん、シノブさんの女子会は

マミちゃんのお義兄さんがやっている和食店で賑やかに始まった。

我々はまず、リッくんの悩みを聞く。

「今年も献茶を行う予定でよろしいですか?」

ユリちゃんにそうLINEを送ったら、いつも返信の早い彼女なのに

一週間も返事が無かったという。

そしたら昨日、やっと返信があったが、いつもの優しいユリちゃんではなく

「やりたければやってもいい」といった冷淡な文面だったので

気にしているそうだ。


私はユリちゃんの返事が遅れた理由も、冷淡な返信の理由も知っていた。

彼女からの電話で、直接聞いたからだ。

リッくんの文面が、上から目線だというのである。

自分が上から目線なので、人にやられると非常に腹が立つらしい。

「感じ悪かったから返してないの」


もっともじゃ…

私はその時、ユリちゃんに言った。

リッくんの文面に、「俺は師範なんだから」という気位を感じたからだ。

去年は同級生のよしみでやらせたところ

リッくんは緊張しつつも喜んでいたというのに

今年は「やってあげるぞよ」みたいな立ち位置に変わっとるじゃないの。

私でも「お願いします」とは、素直に言えないかもね。


「昨年は献茶の栄誉に預かり、誠にありがとうございました。

お陰様で、良い経験をさせて頂くことができました。

つきましては今年もぜひやらせて頂きたいのですが

ご都合はいかがでしょうか?」

相手は選民、それくらいの謙(へりくだ)りは必要である。

こちらが先に折れてこそ、寺との穏便な関係が成立するのだ。


「師範でござい」は通用しない。

モクネン君は、皆から“お上人(しょうにん)”と呼ばれていて

その宗派においては尊き存在。

ユリちゃんはその妻であり、やはりお上人と呼ばれていた亡き父親の娘だ。

言うなれば、生まれながらに俗世より高〜い所に居ると自負している。

その気位に比べれば、師範なんてシモジモのうちである。


寺というのは面倒くさい所なのじゃ。

今後も献茶をするつもりなら、リッくんには師範の気位を捨ててもらい

謙遜を習得してもらわねばのぅ。

向こうもハンパなく気位が高いんだから、ぶつかり合うと

献茶どころか喧嘩になるからのぅ。


ともあれ私はユリちゃんに、早く返信するように言っておいた。

先延ばしにしても、いいことは無い…

リッくんには、私から厳しく言っておく…。

これを聞いて心が落ち着いたユリちゃんは翌日、返信したようだ。

文面が冷たいあしらいになったのは、無理もないことである。


そして女子会では、リッくんにユリちゃんとのやり取りを言わず

寺との付き合い方をレクチャー。

お上人と師範じゃあ、師範が負ける…

今後もやりたいのなら、こっちがプライドを捨てるように…

うちらが奉仕するのはユリちゃんでなく、仏だと心得よ…。


つくづく自分のことをコウモリみたいだと思うが

ユリちゃんとリッくんの両方に本当のことを伝えるわけにはいかない。

調整は大事だ。

こういう準備をすっ飛ばし、いきなり寺の台所に入れると

不満が出たり喧嘩になったり、面白くない結果を招くことが多い。


シノブさんは早くも

「私、お手伝いするのは今年が最初で最後になりそう」

と笑い、皆も笑う。

リラックスできる店で、美味い酒に美味い料理…

気の置けない女子会は、楽しく進行するのだった。


ところで、男が混ざった女子会なんて、おかしいんじゃないか…

そう思われるかもしれない。

しかしこの日、リッくんから正式にカミングアウトがあった。

彼はゲイである。

お化粧をしたりナヨナヨする方面ではなく

見た目は全くの男性で、心が女性というクチ。

彼は中学生の頃、自身の傾向に気がついたそうだ。

よって、女子会でも問題は無いような気がする。

シノブさんとの親友関係も、だからこそ成り立っているのである。


「俺さ、ゲイなのよ」

リッくんが軽いノリで言った時

マミちゃんとモンちゃんは口もきけないほど驚愕し

固まっていた。

私は中学生の頃から感じていた、彼の中性的な印象に納得がいって

感慨深いものがあった。

「独身、ロス在住の過去、年取ってからの茶道とくれば

まずゲイよ」

海外事情に詳しいシノブさんは言ったものだ。


その後は祭で作る献立を決め、役割分担も話し合った。

今年からはお客様が喜ぶ料理ではなく、我々が楽に作れる料理と決めている。

それでもこのところ、私が家で作る料理は手抜きばっかりなので

体力が続くかどうか心配だ。


『カプレーゼ』


プチトマトとモッツァレラチーズに

パセリとテキトーなドレッシングかけて

「イタリアンじゃ!」と言い張り、威張る。

パセリはもちろん刻まない。

買ったら形のまんま、洗って水を切って冷凍。

使う時は、カチカチの冷凍パセリを手で崩しながらかけるだけ。

おかずにはならんが、彩りだけはいい。


『ナスと厚揚げの炒め煮』


文字通りナスと厚揚げを油で炒めて、ダシと砂糖醤油で煮ただけ。

「シンプルな和食」と言い張りながら

買い置きのモズク酢や刺身こんにゃく

冷奴なんかを日替わりで添えて、作ったフリ。

もうね、長時間台所に立って、こねくり回して作るのがしんどい。


心も身体もすっかりナマッてしまって、祭ではちゃんとできるのかしら。

今から体力作りしても、間に合わんわね。

頑張りま〜す。
コメント (4)
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