殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

運動会

2011年05月31日 16時22分19秒 | みりこんぐらし
近所の小学校では、今、運動会の練習をしている。

運動会が秋から春になって、もう7~8年になるだろうか。

3学期じゃなくて2学期制になった都合らしい。


「きれいな円を作るんですよ!」

「指先まできちんと伸ばして!」

「姿勢!姿勢!」

先生がマイクでガンガン叫ぶ。

厳しい指導の元、小学生は頑張っている。

私も小学生と一緒に叱られている気分だ。

洗濯物を干すのに、つい背筋と指先を伸ばしてしまう。


昔の子供は、運動会が大好きだった。

私もその一人である。

幼稚園の時は、ぜひとも赤組になりたい病にかかっていた。

小学校に上がってもしばらくは赤組病が続き

身長順で分けられる都合で、白組になった年は悲しかった。


高学年になると「花笠音頭」を踊る決まりがあった。

金色の紙を貼った笠に、ピンクのチリ紙で作った花が飾ってある。

それを持って、民謡を踊るのだ。

私はなぜか、これが嫌でしかたがなかった。

花笠音頭を踊らなくていいなら、一生、白組でも構わないと思った。


中学になると人数が増えるので、運動会もゴージャス感があった。

私の大好物、シャリシャリがたまらない、お祭アイスの屋台が来る。

味噌田楽の屋台も来る。

串に刺した三角のこんにゃくに、甘い味噌を塗ってくれるのだ。


田楽の屋台の女主人は、中学の同級生のお母さんだった。

ひそかに、そこの子になりたいと思った。

おんぶヒモで背中に結わえられた赤ん坊の弟や

隣で手伝う幼児の妹達をながめつつ

一人ぐらい増えたっていいんじゃないかと、こっそり考えた。

アホな子供の考えることは、およそ決まっている。

味噌田楽が毎日食べられると思ったからだ。


しかし、中学でも鬼門はあった。

“ゴーゴー”じゃ。

あれは何と言う曲か、歌詞にやたらと「イェイ」と「ハッピー」が登場する

そら明るいメロディで、女子全員で踊ることに決まっていた。

ゴーゴーというのが、恥ずかしくて仕方が無い。

腰を振り振り、グーにした両手を胸の前でグルグル回すのだ。


花笠音頭どころではない。

いっそ思いっきり古いよりも

「ちょい古」のほうが恥ずかしいと知った最初であった。


あれから何十年…

恥も外聞も無いオバタリアンになり果てた今なら

花笠音頭でもゴーゴーでも、いくらだって踊ってやるのに…

と思うが、すでにお呼びは無い。
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人生案内

2011年05月22日 17時30分34秒 | みりこんぐらし
読売新聞の『人生案内』は、身の上相談のコーナーである。

盆でも正月でも、よほどのことが無い限り毎日掲載され

弁護士、精神科医、作家、評論家など

悩みの解決にふさわしい立場の著名人が選ばれて、回答している。

幸せの形は似通っているが、不幸の形はさまざま…と言うけど

その不幸を自ら創る人々の何と多いことか。

このブログのコメント欄でも、時々話題になる。



去る5月20日の内容は、私を非常に喜ばせた。

相談者は、60代後半の未亡人である。

《最近、妻のいる男性と深い関係になってしまった。

 相手はとても優しい人で、彼に誘われて関係を持ち、初めて女の喜びを知った。

 彼の奥様は知らないと思う。

 死んだ夫は酒を飲むと暴力を振るう人だったが

 子供達はとても素直に育った。

 遺族年金と自分の基礎年金とで、月に十数万もらっており

 経済的には何一つ不自由してない。

 男性の家庭を壊そうとは少しも思ってないが、今の幸せを失いたくない。

 この先交際を続けてもいいものか、アドバイスをお願いします》


不倫従事者の言動パターンに完全にはまっている。

あまりにも教科書どおりのところが、かえって興味深い。

①責任転嫁

 “深い関係になってしまった”

 悪いと知ってはいるけど不可抗力だったと、最初にさりげなく強調。


 “誘われて”

 年齢が高くなるほど、この4文字は重要になる。

 決して自分が原因ではなく、向こうが悪いと言いたい。

 さらに、自分は男に関心を持たれ、誘ってもらえる品質だと知らせる

 ダブルの効果を狙う。

 
②美化

“女の喜びを知った”

 モテた経験の無い女が好むセリフのひとつ。

 心身をつつき回してもらって、嬉しいばっかりなんです…とは言いたくない。

 気取って口にしたい、夢の言葉である。


③錯覚

“彼は優しい人”

 不倫相手ってのは、優しく見えると相場は決まっている。

 せっかく無料の女を見つけたのだ…最初のうちは、優しくしないはずがない。

 妻を平気で地獄に突き落とす男が、本当に優しいわけがないのだ。


④正当化

 “死んだ夫は酒を飲むと暴力を振るう人だった”

 “子供達はとても素直に育った”

 無関係の死んだ亭主を引っ張り出して同情を引き、今の行為を

 「無理もない」という位置に寄り切りたい。

 こんなにひどい亭主でも、ちゃんと子供を育てて頑張ったんです…

 だから、少々はいいでしょ?と主張したい。


⑤装飾

“経済的には、何一つ不自由してない”

 お金や生活が目当てではなく、愛情なのだと言いたい。

 貧しくも淋しくもない、満たされた状態で開始したと言っておかないと

 自分がミジメである。

 が、たかだか月に十数万で、何一つ不自由してないと言い切れるのが

 他人に違和感を与えることには気づいてない。

 わざわざ“何一つ”とまで強がらなくていいものを

 ついそう言って、軽薄な行動に重みをつけたくなる。


⑥傲慢

“男性の家庭を壊そうとは少しも思ってない”

 おパンツを脱いだ時点で、すでに壊しているのを絶対に認めない。

 そしてまた、男にとって自分は

 家庭崩壊と引き換える価値のある存在と思い込んでいる。



…いちいち言葉尻をとらえて、いちゃもんをつけるつもりは無いし

こんな感情のひとつひとつは

多かれ少なかれ、誰でも持っているものでもある。

それをセットであらわにしてしまうのが、不倫従事者の特徴といえよう。

「ごもっともです、どうぞこのままお続けください」

と言ってもらえるのをワクワクして待つ、あさましい期待が

相談文の中にゴロゴロしている。


悩むフリをしているが、本当はしゃべりたくて仕方がない。

悩んでいる、相談があると言わないと、誰も聞いてくれないからだ。

うっかり周囲にしゃべると「いい年をして」と非難されそうなので

新聞で不特定多数の人間の目に触れさせたい。

自分のケースだけは特別に許され

共感してもらえるのではないかと思ってしまうのだ。

この記事を「これ、私なの」と、彼氏に見せたら

いくら親切に女の喜びを教えてくれる優しい男と言えど

尻をからげて、飛んで逃げるだろう。


今回の回答者は、世慣れた女性評論家。

適任である。

《岐路では、できるだけ傷つく人の少ない道を選ぶ方がよいと私は思う。

 しかし前半生から、女の喜びを手放したくない気持ちもよくわかる。

 あなたの極楽は、相手の妻の地獄。
 
 その上に乗って進むとしたら、人に相談しないで

 トラブルを一身に引き受けて耐える覚悟を固めるべきでしょう。

 人生が長くなって、高齢期の愛と性はこれから顕在化する予感を持った》


回答を読んでも、相談者には理解できないだろう。

不倫者特有のプラス思考で、都合のいい箇所だけ頭に入る。

社交辞令で前半生をねぎらわれたのと

「わかる」と言ってもらえたのだけを共感と受け止め、喜ぶであろう。


相手の妻を踏み台に、快楽を得る厚かましさをたしなめる所や

そんなこと、人に相談すんなと言われている所は素通り。

最後の一行で“高齢期の愛と性”と

軽く片付けられていることにも、生涯気づきはしない。


本人だけが知らない。

これが不倫者なのである。

憐れでうら哀しい。

彼女には、安らかな晩年を過ごしていただきたいものだが

もう無理かもしれない。
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肉戦(にくいくさ)

2011年05月19日 08時08分51秒 | みりこんぐらし
義父アツシは先月下旬から、しきりに

「胸が痛い、痛い」と言っていた。

犬の散歩で転んだからじゃないのか、と私は言い

長男も口添えした。

「僕も胸が痛かった時、あったよ。それは筋肉痛だよ」

   「そうよ、日にちが経てば治るわよ」

そうか…そうなのか…アツシはホッとしていた。


しかし、痛みは日増しに強くなるばかり。

病院へ行ったら、ヘルペス(帯状疱疹)だった。

   「ギャハハ!お義父さん、ごめんね~!」

笑ってごまかす。


以来、アツシは食欲が無い。

持病とヘルペスの薬の併用が原因かもしれないし

ヤケドや転倒で立て続けに外傷を負った上

今度はヘルペスで、精神的に参っているのかもしれない…と思っていた。


そこで食欲を起こさせようと、手を変え品を変え

色々試してみるが、はかばかしくない。

やればやるほど食べなくなる。


食べたい物があるか…と問えば

義母ヨシコが、思い余ったように言う。

「肉よ!…ね、お父さん!」

夫婦、いつになく心をひとつにし、うなづき合う。

彼らの言う“肉”とは、町内にある田上精肉店の高級牛肉を

大量摂取できるメニューのことである。


確かにこの一ヶ月、病状の悪化によって牛肉を控えていた。

いつも地味な治療食ではつらかろうと、たまに「毒の日」を設けていたが

皆で一気につつける好物にすると、量の制限ができないからだ。


治療食生活も1年を過ぎ、アツシもヨシコも飽き飽きしていた。

豚をバカにし、鶏をさげすみ、魚を軽視して生きてきた彼らは

安い食材をこねくり回すチマチマ料理が不満だった。

タダで届くからこそ、仕方なく食べていたのが

ヘルペスをきっかけにタガがはずれた。

我慢したって、悪くなるばっかりじゃないか…という結論に至ったのである。

ストライキみたいなもんだ。


そうですか、じゃあお肉にしましょうね…と素直に言えないのが

私の悪いところである。

人のオゴリで厚かましい…とまで思ってしまう。


もうヤケじゃ!

ヤケつながりで、焼肉にした。

「焼肉は一ヶ月ぶりだ…犬がうちに来てから、食べてない…」

アツシは嬉しそう。

「久しぶりにこんなに食べてくれた…」

ヨシコも嬉しそう。

「野菜は嫌なのよね!お父さん!」

焼肉をほおばりながら、またもや2人仲良く見つめ合い、うなづき合う。


トサカにきたので、彼らが見下す鶏にしてやりたいところだが

シブシブということで、翌日はしゃぶしゃぶ。

「昨日焼肉だったから、お父さんと今日は落とすだろうと言って

 期待してなかったのよ」

ヨシコはご機嫌だ。

落とすって何だよ、落とすって!

グレてやる!


…そんなに肉が好きなら…フッフッフ…

禁断のユッケが脳裏に浮かぶ。

さすがにそれはヤバかろうと、スキつながりで、すき焼きだい。

がぜん張り切る、すき焼き奉行のアツシ。

「砂糖は今入れるんじゃないっ!」とかうるさい。


ここで夫が根を上げた。

「もう肉は勘弁してくれよ…あっさりしたものが…」

    「そうはいくか!」

財布の敵ということで、明日はステーキにしようと誓う。

どうなっても知らんぞ。


ところがアツシ、見る見る元気になっていく。

食事の内容より、食べる楽しみのほうが

今のアツシの心と体には、いいみたいね。


知識も技術も、手間も愛情もいらない。

とりあえず必要なのは、金だけであった。
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青ものレシピ?

2011年05月12日 11時31分20秒 | みりこんぐらし
これ、うちで使う2日分の野菜です。

だって~お野菜大好きだも~ん…じゃねえよ。

治療食と普通食の両方を作る都合で、青ものが大量に必要。

エンゲル係数だけは高い我が家です。



これ、通称“開かずのつづら”。

昔は子供の服を入れてましたが

今は、使わないけど大事なものを入れています。

滅多に開けないので、最近では夫の携帯の隠し場所になっているようです。





開けてみましょう。



今日はありませんね。


九州の仲居時代、同僚が編んでくれたショールなどが入っています。

隠し場所を知りながら、携帯見ないのかって?

見ませんよ。



携帯を見る見ないで思い浮かべるのが『戦○のサ○妻』って本。

ご主人の浮気がテーマの、実話を基にしたケータイ小説でした。

サレ○(旦那さんに浮気され奧さんのこと)という呼び名を世間に広めて

ひと頃、話題になりました。


以前、立ち読みしたことがあります。

タイトルを見て

「戦争中の国で、サレという服を着た奧さん達が頑張ってるドキュメンタリー」

と思いました。


最初の所だけ見て「あ~、青もの路線ね」で終了しました。

青もの路線とは、私の身勝手な造語で

この年齢になるとちょっと気恥ずかしい、青春ものという意味です。


主人公は子育てが一段落したので、再就職の履歴書を書いていた。

そこで自分の出身高校の漢字を忘れるという奇跡が起き、物語は始まる。

…忘れるか?普通。


まあ百歩譲って、たまたま忘れたとしよう。

そこで携帯電話の変換機能で確認しようと思ったら

なんとたまたま自分のは電池切れという、これまた奇跡。

よって旦那の携帯を手にすることとあいなった、さらなる奇跡。


その上、自分が亭主に送信したデコメがちゃんと届いているか

わざわざ確認しようと思い立った超奇跡。

そこでやっと、浮気メールの発見に至る。


短いプロローグは、すべてが奇跡の連続。

中でも最大の奇跡は、浮気中の旦那が

ロックをかけない携帯を放置して、席を外したことである。

浮気旦那にとって命の次、女の前に大事な携帯を

妻の手の届く所へ放置するわけが無い。

はからずも知ってしまったという状態までこぎつけるのに

いやはや大変な努力である。


浮気発覚の場面には、どこの家でも多少の偶然タマタマがあるものだ。

虫の知らせみたいなものも確かにあり

普段とは違う行動を取ることだってある。

だから、それを嘘だとは言わない。

しかしすでにこの地点で、本は読み終えたも同じ。

結末が想像できる。


旦那は天下一の優柔不断で、相手の女はすっごくタチが悪くなければならない。

家族や友達、頼れるいい人がいっぱい出てきて

失意の主人公を奇跡的な根気で辛抱強く励ます。

なにしろ奇跡の連続であるから

3人の子持ちの主人公を愛してしまう

奇特なチャレンジャーも名乗り出るであろう。

もちろんその男は、砂漠でダイヤモンド級の

奇跡的にいい人でなければならず、子供達も奇跡的になつく。

旦那は奇跡的にオノレの罪を悔いるが、あとの祭。


こうまで奇跡の連続だと、そこへ行き着くしかないと思う。

鼻がむずがゆくなるホームランの連打…それが青もの路線

読みもせず、買いもせず、勝手に筋書き考えてごめんなさ~い。



青ものといえば、私は新緑が大好き。

色々と見て見ぬふりをしてくれる優しい!妻に新緑を見せたいと

夫はあちこち連れて行ってくれます。

近所ばかりですけど、楽しいです。









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キャンディーズ

2011年05月07日 18時52分57秒 | みりこんぐらし
ゴールデンウィーク、皆様いかがお過ごしでしたか?

私のゴールデンウィークは、葬儀で始まりました。

親友モンちゃんのお姑さんが亡くなったのです。

今年はモンちゃんと遊ぶことにしていたので、計画はすべてパーです。

しかし残念な気持ちはありません。

モンちゃんと一緒にお姑さんを見送ることができて、満足しています。


その少し前、モンちゃんと私は

ささやかなお出かけの計画を練るために会っていました。

キャンディーズのスーちゃんの葬儀があって間もなくでした。


私達は、どっぷりキャンディーズ世代。

文化祭の出し物で、キャンディーズのモノマネをしたこともあります。

私はランちゃんの係でした。

それはランちゃんみたいにかわいいからではなく

ちょっと太めの女の子と、やたら細いモンちゃんとのトリオだったからに過ぎません。


当時は、ぽっちゃりしたお姉さんといった印象しか

持っていなかったスーちゃんですが

大人になったら、彼女の魅力がよ~くわかりました。

精密に整った骨格から成り立つ美貌、まろやかな体つき

天然エコーのかかった甘く優しい声…

天性の三拍子を揃え持つ、すごいアイドルだったと。

そして年齢を経るにつれ、神々しいほどに美しさを増していくスーちゃんに

つい早世した義妹、夏目雅子さんを重ね合わせたものでした。


葬儀で流れたスーちゃんのメッセージに、私も涙した1人です。

あの柔らかい口調から、ひしひしと伝わる心の温かさ、気高さ、いさぎよさ…

見事な去り方でした。


    「私なら棺桶のフタ、さっさと閉められて

     やれやれって言われて終わりだわ」

「私の時もそうだと思う」

モンちゃんと私は、そう語り合いました。

惜しまれて逝くには、それなりの人格功績が必要なようです。


その後、モンちゃんの話を聞きました。

「義母には長生きして欲しい。

 だけどこのまま老人施設に入所しながら、持病で入退院を繰り返していたら

 ダブルの出費がきついのよ」


モンちゃんの葛藤は当然でした。

8年間無職だったモンちゃんのご主人は、昨年やっと仕事に就きましたが

アルバイトで、またいつ辞めるかわかりません。

お姑さんの年金に、モンちゃんの収入を足して施設の費用を支払い

さらに入院費が加算されては厳しいでしょう。


昨年の今頃は、認知症の母親に暴力を振るう旦那から引き離すために

必死で老人施設を探していたモンちゃんでしたが

今度はその費用が生活を圧迫する…

入院が3ヶ月以上長引いた場合、施設は自動退去になるそうで

次が見つかるまで、家で介護することになる…

働きながらでは無理だし、旦那がまた暴力を振るう…

モンちゃんの心配は、果てしないのでした。

 
 「施設を出されたら、次が見つかるまで、私が手伝うよ」

なんといい加減なことを…自分でもそう思いました。

無知、乱暴、冷酷…天性の三拍子を揃え持つ私に

他人の介護なんぞできるわけがないのですが

本当にそうなった時に考えればいいことです。


その3日後、お姑さんは急死しました。

モンちゃんは「私に気兼ねしたんじゃないかと思うと、かわいそうで…」

と言いました。

私はお姑さんが「みりこんに介護なんかされたら、どっちみち危ない」

そう踏んだのではないかと言いました。

しかし本当は、どちらでもないでしょう。

お姑さんは、自身の人生を精一杯生ききっただけです。


葬儀場の入り口にある液晶パネルには、故人の写真が映し出され

そこに言葉が添えてあります。

“皆様、本当にありがとうございました。

 幸せな、幸せな人生でした”

あんた、スーちゃんをパクったな…

文字を指さして振り返ると、モンちゃんは涙を流しながら

何度もうなづきました。
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パピやっこ

2011年05月01日 19時31分48秒 | みりこんぐらし

選挙は終わった。

対立候補を応援した、義父アツシのドヤ顔を見るのもシャクだったし

お礼廻りやギャラの支給、実家の父の命日などで外出が続いたので

さらに1週間の休みをもらった。

そして私はまた、夫の両親の食事を作る日々に戻った。


うぐいす稼業から足を洗おうと思ったのは

初黒星がついたからというだけではない。

またやると、食事作りがすっかり嫌になってしまう懸念があった。


治療食って、時間と手間と金がやたらとかかるわりに、地味な作業である。

どんなに工夫しても、おいしい!の声を聞けないのは

作り手にとって報われないものだ。

選挙のゴタゴタなんざ、かわいいもんじゃ。

これ以上外に出て、向いた仕事を楽しむと

今までの暮らしにカムバックできない恐れあり。


そんな私の葛藤など知るよしもなく、夫の両親もまた、葛藤の選挙であった。

対立候補には、昔からいがみ合っている同業者が付いており

私の応援するほうには、これまたとてつもなく仲悪い歴40年の

隣に住む爺さんが付いている。

どっちを向いても今ひとつなら、おとなしくしておればよいものを

選挙となるとじっとしていられないアツシ。


私がうぐいすをすると知った隣の爺さんは、アツシにわざわざ言いに行った。

「あんたも観念して、若い者に従うんだな!」

こんなことを平気で言う爺さんなので、アツシとは犬猿の仲なのだ。

似た者同士だからである。


この一件で噴火したアツシは、おおっぴらに対立候補を応援すると決めた。

義母ヨシコは、アツシにさんざん八つ当たりされ

舅に服従しない私の身勝手を不満に思っていた。


「気にするな、思う存分やったらいい」

気にはしないが、夫の言葉に気を良くし

私は彼に、選挙期間中の小遣いを特別支給した。

その他、急なものいりにと、3万円を引き出しに入れておく。


選挙1日目の夜、引き出しを見ると2万円になっていた。

…ものいりがあったらしい…。

2日目の夜は、1万円になっていた。

…また、ものいりがあったらしい…。


3日目は見るのを忘れ、4日目に見たら、福沢諭吉が樋口一葉になっていた。

さすがに全部無くなったらヤバいと思ったのだろう。

   「ちょっと!男が女になっとるが!」

これが今後、我が家で語り継がれる予定の“諭吉女装事件”である。


さて半月ぶりに夫の実家へ行ってみると、一匹の犬がいた。

うちの2人の息子が割り勘で、祖父母にプレゼントしたものだ。

犬種はパピヨン。

その名も安易に「パピ」。


子犬の時期を過ぎているということで

3万5千円の安値で買われた1歳のパピは

男児ながら、すでに座敷芸者として不動の地位を築いていた。

アツシもヨシコもメロメロで、選挙の確執どころではない。


パピは元気で、部屋中を飛び跳ねるように走り回る。

アツシが転んでやけどをした時だって

「肌が乾燥する」とヨシコが絶対にやめなかったストーブの上のヤカンも

最初からそんなモンは無かったかのように取り除いてある。

旦那≪お肌、お肌≪パピ。


夫一家の犬の歴史は、半世紀近い。

初代はシェパードのアレックス。

この犬は訓練に出した後、時々警察へパートに出ていたそうだ。

賢い犬は長生きしないのか、数年で死んでしまったと聞く。


次のメンバー、コリー犬のジョンの時代に、私は嫁いだ。

芝生にコリーは子供の頃からの憧れだったので

私は非常に満足したが、残念ながら結婚してすぐに死亡。


その後は柴(しば)時々雑種、所によりマルチーズが飼育された。

やがて全員死に絶え、次にやって来たのが捨て犬のポッケ。

次男と同い年の彼は、19年生きた。


ポッケが死んで以来6年…

「死んだら悲しいし、旅行の時に困るから、もう絶対に犬は飼わない」

両親は口癖のように言っていた。

しかし現在、病気のために旅行どころではなくなり

パピの死に遭遇するまで生きられるかも、怪しくなってきた。

死と旅行…ペットにまつわる彼らの心配は、もはや無くなったのだ。

グッドタイミングというか、ペットタイミングである。


気持ちだけは、すっかり元気になった両親。

アツシはパピを連れて、散歩をするのが楽しみになった。

ヨシコも生活にハリができたのか、往年の美貌を取り戻した感すらある。

それをながめる私もまた、穏やかで幸福な気持ちになる。
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