殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

お勝手相談室・他人の就職

2023年07月07日 10時36分09秒 | みりこんおばちゃんのお勝手相談室
先日、用があって、知り合いの久子ちゃんがうちに来た。

私より10才ぐらい年下の、50代の女性だ。


彼女は私と違って、心の美しい人である。

15年前ぐらいに相次いで亡くなった

お舅さんとお姑さんが大好きだったそうで

今でも義父母のことを話す時は涙声になるという珍種だ。


県外在住の義理親とは別居のままだったので

お互いに良い所しか見えてなかったのもあろうし

彼女の親友が、先にご主人の弟と結婚していて

義理親をあからさまに敬遠するので、兄嫁としての意地があった…

私はそう踏んでいる。

しかし彼女の美しい心の中では、実の親より好きだった…

ということになっているのだ。

いずれにしろ早めにいなくなると、こうしていつまでも慕われるらしい。


さて彼女は用が済むと、息子の話を聞いて欲しいと言った。

今、そのことで非常に辛い思いをしているという。


彼女の息子、A君は25才。

東京にある大学を卒業すると、そのまま東京で就職した。

勤務先はベンチャー企業。

職種も聞いたのだが、忘れてしまった。


A君は、やり手と評判の若い社長に心酔し、一生懸命働いた。

都会的な社長は、田舎育ちのA君にとって

素晴らしい人に見えたという。


将来は全国展開を予定している…

君を幹部にして、その管理を任せたい…

社長に言われたA君は、ますます一生懸命働いた。

早出残業代もボーナスも無く

仕事の合間には社長の運転手をさせられるなど

労働条件は良くなかったが、幹部への昇進を励みに寝る間も惜しんで働いた。


が、そのうち激務に耐えられなくなって退職。

半年前、失意のうちに帰郷した。

大学時代から一人暮らしに慣れているので、今さら親と住みたくない…

A君はそう言って地元にアパートを借り、仕事を探していた。

すると友だちが自分の勤務先を紹介してくれて、ほどなく再就職をはたす。


A君は3ヶ月の試用期間を経て、このほど正社員になった。

この会社は地元の企業だそうで

息子が近くに居てくれる心強さに、久子ちゃんはとても喜んだ。


しかしそれも束の間、新しく入った会社の東京支店に配属が決定。

せっかく近くへ帰って来たというのに

また東京へ行ってしまうとなると残念で仕方がなく

久子ちゃんはどうにも自分の気持ちに折り合いをつけられずに

悩んでいるのだった。


同じ東京なら、前の会社に居た方がよかったではないか…

前の会社の社長は有名な芸人やタレントと友だちのビッグな人…

運転手を務める時の息子は、それら芸能人と社長を車に乗せて

銀座や六本木へ行くこともよくあった…

だからあのまま社長の元で頑張っていれば

息子にも輝かしい未来が拓けたのではないか…

いそいそと上京の準備をするA君と、サバサバしたご主人を横目に

久子ちゃんはそんな思いにかられて、毎日苦しいのだという。


心美しき人は、悩みが多いものである。

心が美しい=経験値が低い…ということかもしれない。

涙を溜めて苦しみを吐露する久子ちゃんを

気の毒なような羨ましいような気持ちで眺めつつ、私は言った。

「芸能人とチャラチャラする社長に、ロクなのおらんよ」


「えっ?そうなんですか?」

驚く久子ちゃん。

「電波芸者は飲み食いさしてくれて、小遣いくれる人の所に集まるわいね。

そんなことするより、きちんと残業代払うたり

専属の運転手を雇うのが先じゃが。

お金の使い方を間違う人の会社は続かん。

辛抱しても倒産したら、責任押し付けられるよ」


「ええ〜?!」

呆然とする久子ちゃん。

「じゃあ…息子は…辞めて良かったんですか?」

「当たり前じゃん」

「そう言えば、息子が言ってました。

会社が恵比寿にあったけど、家賃がすごく高いって。

別に恵比寿じゃなくても仕事ができるんだから

そんな大金があったら残業代欲しいって、ボヤいたことがあります」

「地代の高い所に会社が無いと信用されんけん、無理をするんよ。

今どきは家賃の安い田舎に会社を構えて

浮いた経費を社員の福利厚生に使うようになってきとるんよ。

ベンチャーどころか、時代遅れじゃが」

「そういうものなんですか…」

「そういうものよ。

格好で仕事する人の所に長居をしても、あんまりいいこと無いけん

キッパリ諦めんさい」

「わかりました」

ホッとした顔になった久子ちゃんであった。


「ところで息子さんは、どこへ就職したん?」

私は彼女にたずねた。

「◯◯社…」

久子ちゃんは涙を拭きながら答える。

なんだ、ユータローのとこじゃんか。

同級生で唯一のセレブ、ユータローが

親から受け継いで社長をやっている会社だ。


そのことを言うと、久子ちゃんの顔がパッと明るくなった。

「本当ですか?!」

「本当よ。

彼の所だったら大丈夫。

ユータロー社長は、人の痛みがわかる子よ」

「そう言えば、息子も言ってました。

社長は温かい人だって」

「それがわかる子なら、絶対に大丈夫よ。

東京は大事な拠点じゃけん、わざわざ経費を使うて

バカを行かせるわけないじゃん(バカに経費を使う本社みたいな所もあるけど)。

大学も最初の就職も東京じゃったら安心して任せられるけん

行かせるんじゃが(多分)。

息子さんは期待されとるんよ(知らんけど)。

笑うて送り出してやり」

「それでいいんでしょうか…」

「いいんですっ!

出世して、社長の右腕として帰って来ますっ!(どうかわからんが)」

「わかりました!

これで気持ちの整理がつきました!

あの、社長さんに会うことがあったら

息子のことをよろしく言ってもらえませんか?」

「言っときます(同窓会は解散したから、会うかどうか知らんけど)」

「嬉しい!みりこんさんに話して、本当に良かった!」

「私も聞いて良かった。

息子さんに、社長を信じて頑張れって言っといて(我ながら無責任に呆れる)」

「はい!言っておきます!」


ありがとうございました〜…

手を振って帰る久子ちゃんを見送りながら

またいい加減なことを言ってしまったと反省した。
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みりこんおばちゃんのお勝手相談室・仕事について・3

2016年04月13日 10時56分01秒 | みりこんおばちゃんのお勝手相談室
《この数年、古参のクロガネモチをしりぞけ

シンボルツリーになり変わろうとしている

菊桃さん、今年もよく咲いてます》



今回の精鋭は、私じゃなくて夫の所に来たの。

この人が一番の精鋭かもしれない。


《飛び過ぎた男》

6年前のある日、私は何の用事だったのか

たまたま夫と2人で会社にいた。

すると駐車場に、白いヤン車が乗りつけられたわ。

今どきシャコタンよ。

昭和にタイムスリップしたみたい。


車から降り立ったのは、一人の男性。

松葉杖をついて、片足はギプス。

服装は、ラッパーっていうの?

金髪に野球帽みたいなキャップ

ダボダボのトレーナーと膝丈のズボンに

ハイカットのスニーカーを片方。

ピアスも指輪も腕輪もジャラジャラ。


お堅い会社じゃないから

どんな格好してようが別にいいの。

ただし、その男性は40代後半くらい。

姉ちゃん婆ちゃんなら時々見かけるけど

兄ちゃん爺ちゃんってのは

なかなかお目にかかれない。

私は珍獣に出会ったような気分で

つい凝視しちゃった。


夫はその人と親しいわけではないの。

近くの会社で守衛をしている人で

顔は知っているという程度。


彼、C君は事務所の入り口に立つと

藪から棒にこう言った。

「ワシ、市会議員に立候補しちゃろう思いよん」

折りしも数ヶ月後に市議選が迫ってたわ。


「あ、そうなん?」

平凡な反応を示す夫。

夫のこういうとこ、実はひそかに尊敬してんの。

鈍いんだか平常心だか、驚きそうなところで

変に静かなのよ。

私だったら爆笑しちゃう。


「やり方がわからんけ、誰か市会議員、紹介して」

「いいよ」

夫は友人の市議、O君に電話をかけた。

私が専属でウグイスをやっているY市議とは別の人。


O君はちょうど議会が終わったところで

すぐに向かうと言ってくれた。

やがて到着したO市議、C君を見て少々驚いた様子。


「こんにちは、初めまして。Oといいます」

「あ、ども。立候補のやり方、教えて」

O市議、面食らっていたけど、そこはさすが議員。

「足はどうされたんですか?」

と心配そうにたずねる。

「折れたんよ」

「そりゃまあ、見ればわかるけど‥」


気をとり直して、O市議は聞いた。

「どうして市議になろうと思われたんですか?」

「今の仕事が嫌じゃけん、転職したいんじゃが。

尊敬されるし、ヒマそうじゃん」

「‥なるほど」


O市議は親切に、手続きや準備のあれこれを

わかりやすく説明。

C君は応接セットにふんぞり返ったまま

ふん、ふんと聞いていたわ。

「ま、およそわかったけん、帰るわ」

C君は松葉杖にすがって立ち上がる。

「外出許可取って来とるけん、はよ帰らにゃ」

彼、骨折して入院中だったのね。


「ゆっくり足を治して

それから立候補した方がいいですよ。

松葉杖で選挙活動するのは大変だからね。

お大事にね」

O市議に見送られ、C君は

「じゃ」

とクレヨンしんちゃんのように言うと

シャコタンに乗って帰って行った。

「もっとマシなのに会わせてや」

その後、O市議が夫に文句をつけたのは

言うまでもないわ。


そして4年の月日が経った一昨年

C君はまたシャコタンで夫の所へやって来た。

その頃、夫の会社で事務をするようになった私は

会社にいたので、再び彼を目撃する幸運に

ありついたってわけ。


「ワシ、今度こそ転職しちゃろう思いよん。

議員はワシに向いとる。

今年の市議選に立候補するけん」

事務所に入るなり、そう決意を述べるC君だけど

また松葉杖をついてるの。

前回も今回も左足だから、車が運転できるのね。


「足、また折れたんけ?」

夫がたずねる。

「うん」

「どうしよったん?」

「飛び降りたんよ」

「前の時も、飛び降りて折れたん?」

「時々、死にとうなるんよ」

「そうなん」

お互い、日常会話みたいにやりとり。


「足が治ってからの方がええで」

夫は変わらずの鈍感だか平常心だかで

普通に話してる。

「痛かろう」

「うん、まあ」

そう言うとC君は、きびすを返して

よっこらしょとシャコタン車に乗り込むと

改造マフラーの音もいさましく帰って行った。

その年の市議選に、C君は立候補しなかったわ。


結局のところC君は、時々死にたくなり

4年に1回、転職したくなる人らしいわね。

転職先に市会議員‥

向き不向きはともかく、斬新なアイデアだと思うわ。


次の市議選は2年後。

三たび、C君の訪れはあるのかしら。

今度もどこか折れてるのかしら。

それより、生存していればいいけど。

そこが心配よ。

(完)
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みりこんおばちゃんのお勝手相談室・仕事について・2

2016年04月10日 11時03分59秒 | みりこんおばちゃんのお勝手相談室
こんにちは!みりこんおばちゃんよ!

今日も引き続き、仕事について

お話しさせていただくわね。


《食い過ぎた女》

23才のBちゃんは、かわいくておしゃれな

今どきの女の子。

大学卒業後は大手食品メーカーの事務に就職して

元気に働いていたの。


ところが何ヶ月か経った頃、急に元気が無くなって

会社を辞めたいと言いだしたの。

家族が理由を聞いても言わない。

セクハラを心配したお母さんが、友人の私に相談したわけ。


お母さんに席をはずしてもらって、Bちゃんと2人

何もたずねずに別の話ばっかりしてた。

で、たまたま回転寿司の話になったのよ。

そしたらBちゃん、泣きだしちゃった。


「回転寿司、嫌か」

そうたずねたら、Bちゃんは

涙をポロポロこぼしながらうなづく。

「回転寿司、悪いのか」

と聞いたら、首をブンブン振る。

どうも、回転寿司が問題らしいのはわかった。


「おばちゃんも回転寿司、嫌いよ。

Bちゃんが嫌いなら、おばちゃんも一生行かん」

本当は回転寿司、嫌いじゃないけど

この際どうでもいい。

そしたらフッと顔を上げて、Bちゃんは話し始めたわ。


会社帰りに上司のおごりで

同僚数人と一緒に回転寿司へ行った。

「遠慮せずに、どんどん食べなさい」

上司の言葉を真に受けて、Bちゃんは燃えた。


か細いBちゃんの食欲に、最初は盛り上がっていた一同。

一同の期待に応えたくて、皿を積み上げるBちゃん。

でも40皿を越えたあたりから、何やら雰囲気が‥。

支払いの時、上司がボソッと言った。

「親の顔が見たい‥」


以上がコトの経緯。

Bちゃん、食べ過ぎちゃったのね。

かわいいじゃないの。


「お母さんの悪口を言われた気がして

すごく悲しかった‥」

だから親には言えず、一人で苦しんでいたのね、

それ以来、上司を始め会社の人達も

なんだかよそよそしい気がする。

それで会社が辛くなっちゃったのね。


Bちゃんは未熟児で生まれたので

心配な両親と祖父母は

たくさん食べるとほめてくれた。

大人はたくさん食べると喜ぶ‥

Bちゃんはそう思い込んだまま、大きくなったみたい。


Bちゃんは大好きなお母さんのことを

悪く言われたと思って傷ついてるけど

実際は、お金の出どころの問題。

他人のお金でお腹いっぱい食べたら

そりゃ嫌われるわよ。

若いBちゃんは、親と他人の財布の区別を

忘れちゃったのね。


連れて行ったが最後、とことんやられたら

たとえそれが安い回転寿司であっても

「怖いヤツ」と警戒される。

Bちゃんは愛されて育ってるから

世の中の人はみんな

自分のことが好きなんだと思ってるけど

家族の他人率が高かった私に言わせれば

あんまり可愛がられて育つのも、一種の不幸だわ。

こういうことがあった時のショックが大きいもんね。


他人ってね「食う寝る」に厳しいものなの。

食べることと、寝ること‥

そうよ、この二つを落としたら生きられない

人間の本能よ。


我が子がよく食べても、よく寝ても腹は立たない。

これが血の証明なの。

だけど血のかかってない他人は違う。

食う寝るという当たり前のことが

強く印象に残るし、カンに触るものなのよ。


盆正月に旦那のきょうだいが帰ってくる‥

本家の嫁は、嫌よね。

他人の食う寝るを目の前で見せつけられるからなの。

そのための準備に気ぜわしくて、物入りな自分‥

強気になる舅や姑‥

バカバカしくて、やってられないわよ。

でも我が子が帰省するとなると

いそいそ準備するわよね。


会社で居眠りする上司は、誰だって嫌よね。

のんきにイビキまでかきやがって、死んじまえ‥

くらい思うわよ。

これ、父親だったら平気よね。

血って、そういうものなのよ。


仕事って、周りが全部他人じゃん。

血の味方が無いわけよ。

食う寝るには他人の目が光ってるから

細心の注意が必要なの。


与えられた物で足りなかったら

帰って食べ直すとか、先に何か食べておくとか

ご馳走してもらったら何かお返しするとか

その時だけじゃなく

後々会うたびに何回もお礼を言うとか

配慮って大事。

そうよ、面倒くさいの。

タダ飯って怖いんだから。

食う寝るで、知らず知らずに逆境に立つ人は

案外多いのよ。


「部下を回転寿司なんかに連れて行く上司がおかしい!」

私は憤慨して見せるの。

きついことを言われたBちゃんを楽にするため。

他の食事なら一人分の量が決まってるから

こんな事態にはならなかったの。

食後に食べた分を精算する、回転寿司が不運だったのよ。

その不運がかわいそうでね。


「回転寿司が原因で会社辞めても、後悔しない?」

そう聞いたらBちゃん、後悔すると言うじゃない。

仕事は続けたいんだって。

そこで、何ヶ月も経ってるけど上司に謝る‥

ひたすら記憶が薄らぐ時効を待つ‥

会社の宴会か何かあった時、上司にお酌でもして

「あの時はすみませんでした。

深く反省してます」と言う‥

これらの対策を提案したの。


じきに会社の宴会が予定されていたので

Bちゃんは第3案のお酌を選択した。

上司は笑って「気にするな、また行こう」

と言ってくれたそうよ。


親は子供を可愛がるばかりじゃなく

他人の目という怖いお話を聞かせてあげるのも

大切な教育の一つだと思うわ。

(続く)
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みりこんおばちゃんのお勝手相談室・仕事について・1

2016年04月08日 10時46分12秒 | みりこんおばちゃんのお勝手相談室
以前、小姑問題に触れてそれっきりのお勝手相談室。

今日は、仕事についてお話しするわね。


実は前々回までの記事「レジェンド」は

お勝手相談室でやりたかったんだけど

長くなったので、シリーズにまとめたのよ。

まだ話したいことはたくさんあるの。

今日は私が受けた相談の中から選び抜いた

精鋭の話をするわね。


《青過ぎた女》

Aちゃんは、私と同年代のおばちゃん。

職業は団体職員。

可もなく不可もなく、地道に仕事をこなすタイプ。

が、本人が言うには10年ほど前から

急に職場の雰囲気が変わったらしいの。


10年前といったら40代半ば。

ベテランとして、主任や係長といった

肩書きが付き始める頃よ。

だけどAちゃんには付かない。

付かないだけじゃなく

毎年、あちこちの支所や出張所へ

転勤するようになった。

毎年のように、じゃないのよ。

本当に毎年。

ノルマもきつくなって、こなせなかったら

上から厳しいことを言われるようになったそう。


団体職員は品物を売り買いする職業じゃないから

会員の勧誘や、引き落としができなかった会費の集金

団体で扱う保険の勧誘なんかがノルマ。

中でも団体保険の勧誘が厳しいけど

毎年転勤させられたんじゃ

信頼関係が築けなくて難しいらしいわ。


最初のうちは「不況だから」と諦めてたけど

そのうち、わかったそうなのね。

毎年転勤してるのは自分だけだって。

ノルマが達成できなくても

きつく言われてるのは自分だけだって。

肩書きが付くのを待ってたら、肩叩きが来たって感じよ。


「どうしてこうなったか、わからない」

Aちゃんは頭を抱えるけど

私は何年も前からわかってたの。

問題は、その頭なのよ。


Aちゃんは地味で真面目で誠実な子。

だけど学生時代から、隠れアニメおたくなの。

旦那と子供がいても、それは変わらない。

Aちゃんはアニメのヒロインを真似て

髪にこっそりブルーのヘアマニキュアをしていた。


ヘアマニキュアが流行った頃って

20年か30年ぐらい前じゃん。

Aちゃんはその頃からやってたのよ。

毎月、美容院でブルーのヘアマニキュア‥

地味な彼女にとって、唯一のおしゃれってとこ。


最初の数年は、誰にも気づかれなかった。

Aちゃんを昔から知ってる私も気づかなかった。

でも歳月は残酷なもので

Aちゃんの頭に白髪を増やしていったの。


白髪にブルーのヘアマニキュアをしたら

綺麗に色が入るわよ。

Aちゃんの頭は年々、青さを増していったわ。


見た目は地味なのに、頭だけ青いって怪しいわよ。

でもAちゃんが気に入ってやっているのを

「おかしい」だの「怪しい」だの

「よした方がいい」だのとはどうしても言えなかった。

譲れないコダワリって、あるじゃない。

遠回しに「ブルーは卒業して、今ふうの色にしたら?」

などとは言ってみたけど、Aちゃんは聞く耳を持たない。

代わりに私は、彼女が通う加野美容室を憎んだわ。


そうこうしてるうちに、Aちゃんの頭は

暗い所で見てもブルー、というところまで来ちゃった。

その時点で、転勤とノルマが始まったってわけ。


Aちゃん、ずいぶん耐えたんだけど

去年、辞めようか、どうしようかと相談しに来たの。

そこで意を決して、私は言った。

「髪の色じゃない?」


するとAちゃん、驚いたように言ったわ。

「こないだ、上司が朝礼で言ってたのよ!

“職員の髪の色で、お客さんからクレームがきてる”って。

その色は赤だと言いながら、私の方をチラチラ見るのよ。

私はブルーだから関係ないと思ってたんだけど」


上司の気持ち、よくわかるわ。

なかなか言えないのよ、そういうことって。

青を赤に言い変えるなんて、いい上司だと思うわ。


「ピンとくることは、変えた方がいいよ。

働く人の外見に厳しい時代になったのよ。

うちの行ってた病院でも看護部長の方針で

看護師は整形や歯の矯正をしてたよ。

夜勤でも見苦しくないようにってことで

若くない看護師は、眉やアイラインの入れ墨もしてた。

今は赤い髪が問題になってるようだけど

いずれ青も指摘されたら居づらいじゃん」

私はこの時とばかりに言ったわ。


Aちゃんは早速美容院へ行って

ブルーのヘアマニキュアから足を洗い

普通色の白髪染めをした。

その素直さに、ホッとしたものよ。


Aちゃんは現在も働いてる。

この4月から、また移動だけど

定年まであと数年、ヒラのまま

転勤しながら頑張るんだって。


もしも‥と言ってみたところでしょうがないけど

髪が青じゃなかったら、多少は過ごしやすかったかも。

趣味が足を引っ張った例でした。

(続く)
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みりこんおばちゃんのお勝手相談室・小姑

2014年12月28日 19時40分06秒 | みりこんおばちゃんのお勝手相談室
「これも美談?」

今日、夫が買って来てくれた和菓子。

私のイメージで選んだと言い張るんだけど…。





こんにちは!

みりこんおばちゃんよ。


こないだね、検索ワードにこんなのあったのね。

「義母の認知介護で小姑たちの仕打ち」

わかるわ~!口、出したいわ~!

ってことで、今日のテーマはこれ。


そもそも嫁にとって小姑は、存在そのものが仕打ちなのよ。

悪気のある無しは無関係。

顔出しゃ罰、口出しゃ刑。


親が弱ってきたら、仕打ちの登場が増える。

罰も刑も急増よ。

しんどくなるのは当たり前ね。

介護そのものより、全面責任を負うつもりが無い人の

何気ない言動に消耗するもんよ。


私は姉妹だけの家に生まれたので

小姑になるチャンスは一生無いんだけど

だから小姑組合に向ける目が厳しいってわけじゃないのよ。

私に男兄弟がいてごらんなさいよ。

お嫁さんは大変だわよ。


小姑にはなれなかったけど、男の子しか生まれなかったから

姑になる可能性は与えられたわけよ。

はぁん?嬉しいわけないじゃないの。

嫁に死を待たれる身の上ってだけよ。


親に対する考えは、他人である嫁と血を分けた娘で

根本的な違いがあるの。

嫁の頭には、まず「死」ありき。

安らかな旅立ちが目標。

娘は反対に「生」ありき。

痛くても苦しくても、とにかく親には息をしていて欲しい。

基本精神が正反対なんだから、歩み寄るのは無理ね。


義理親には安らかに、そしてできれば早めに

旅立っていただきたい嫁だけど

自分の親にはやっぱり生を望むと思うわ。

一方、自分の親には生きて欲しい娘も

嫁ぎ先の義理親には「まだかいの?」と思ってるはずよ。

立場が変わると、お互い様なのよね。



私の友達の話ですけどね

80才になる認知症の姑さんを介護してたのね。

そのうち姑さんの癌がわかって、家族は決断を迫られたの。

癌は放置して、地元の病院で家族に囲まれながら余生を過ごすか。

遠い都会の大病院で手術をするか。


近くで、できるだけのことをしてあげよう…

手術をしても完治する保証は無いと言われた友達は

ご主人と話し合って、地元の病院の方を選んだの。

生真面目な子だから、毎日通って献身的にお世話してたわ。


ある日、いつものように病院へ行ったら

お姑さんのベッドがもぬけの殻で、荷物も無くなってた。

ぶったまげて聞いたら「今朝、転院されました」。


ご主人の2人のお姉さんが、弟夫婦に内緒で

都会の病院へ転院させていたわけよ。

娘としたら、母親がこのまま衰えていくのに耐えられなくて

手術の可能性に賭けたのね。


友達は何しろ生真面目なもんで

あまりのショックにうつ状態になっちゃって

それきりお姑さんに会うことは無かった。

だって手術を受けたお姑さんは、すぐに亡くなったから。

お姉さん達の賭けは、裏目に出たわけ。


お葬式の時、友達は親族席に座らず

泣きながら一般の参列者が並ぶ庭へ降りたの。

「私は家族じゃないから」って。


どんなに説得しても聞かない。

ほら~、生真面目だからさ。

おかげで介護から解放されたし

そこまでしなくていいんじゃない?

と思うのは他人の考えで

本人は疎外感や絶望で思い詰めていたのね。


ここでご主人はどうしたと思う?

喪主でありながら、奥さんと一緒に庭へ並んだのよ。

私はお葬式には行ってないから

それ聞いて怖いと思ったけど、一応美談らしいわ。


この美談を妻の側から見ると

こういうご主人だから、生真面目が通せる。

お姉さん達の側から見ると

こういう嫁だから、こっそり裏をかくしかなかった。

ご主人の側から見ると、2人のお姉ちゃんと戦うより

妻の差し出す煮え湯を飲んだ方がマシ。

三者の都合が混ざり合って

はい、とりあえず美談成立。


時は流れてその友達、自分の親が具合悪くなったの。

「あれじゃ親がかわいそう」

「兄嫁の気が効かないから、私が…」

「自分の育った家が他人の物になると思うと、なんだかねえ」

あんた、何年か前にそれで悩んでたのと違うんかい…

と思ったけど、そういうもんらしいわ。


余談になるけども、うちの「生きる仕打ち」の話。

先月、姑さんが高い所から落ちて、両足のカカトが砕けちゃったの。

これを目撃した仕打ちはまず、うちへ電話してきたわ。

クールよねぇ。


「すぐ救急車を呼んで、あんたも付いて行きなさい」

母親の指導の元、救急車を呼んで姑さんは手術。

経過は順調だけど、もう歩けない。

だけど入院中に認知症が進んで、来月退院したら

そのまま老人施設へ入所が決まってるの。

そこで終生過ごすと決定。

運の強い人は、どこまでも強運ね。


なんかさぁ、善悪より

クールに強運の鍵があるような気がしない?

あんまり生真面目に考えない方がいいみたいよ。



あ、最後に一つ、この辺の方言をご披露しとくね。

「よおまあ」。

語源は不明だけど、よくもまあ、って感じかしら。

本人は良かれと思い込み、余計な言動で

人の感情や事態を悪化させること。

またはそれを行う人のこと。

常習者になると、もう名前でなく「よおまあ」と呼ばれるの。

嫌われ者の代名詞としては、以前紹介した「カバチたれ」

(さも立派なことは言うが実行は伴わない)と互角の勝負。


何の慰めにもならないけど

「あいつがまた、いらんこと言いやがって、やりやがって…」

と延々言うより、よおまあの四文字で短く断じる方が気分良くない?

え?あんたこそ、よおまあだって?

へへへ。
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