殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

スプレー売り

2024年06月21日 10時45分14秒 | みりこんぐらし

今月始め、90才になる実家の母が裏庭で転倒した。

高齢者はこういう時に骨折することが多いが

頭から突っ込んだのが幸いしたのか、首の捻挫で済んだ。

 

20年前に父が他界して以来

母は趣味のコーラス、俳句、編み物に勤しみながら

気丈に一人暮らしを続けていた。

しかし昨年、90才の声を聞いた途端に強い不安を訴え始め

夜昼なく頻繁に呼び出されるようになった。

そこで近所の主治医と心療内科の連携で投薬治療を開始したものの

今回の転倒を機に不安は強まる一方。

誰かそばに居れば落ち着くと本人は言うが

そばに行けるのは私しかいないため

実家への日参を開始して現在に至っている。

 

実家への日参といえば、夫の姉カンジワ・ルイーゼ。

が、このところ出席率悪し。

週に一度のペースで2才になる孫娘もみじ様の子守りをする彼女だが

68才の近頃は疲れが残るようになり、子守りの翌日は来なくなった。

 

もみじ様の子守り日に、翌日の休養日

それから彼女が老人体操教室に参加する木曜日と

義母ヨシコが老人体操教室に参加する金曜日も来ないので

ルイーゼは週に4日は来ない。

私が家を空けて実家に通うのが

何気に不満なヨシコの気をそらすため

できるだけ来てもらいたいところだが

厄介な人間ほど、必要な時に役に立たないのは世の常。

そんなもんよ…と思っている。

 

ともあれ私が話したいのは、そんなことではない。

実家通いのために毎日外出するとなると

出たついでにスーパーへ寄る機会が増える。

ここしばらく、食料確保の手段といったら

生協の宅配と金曜日の移動スーパーが中心で

スーパーへ行くのは肉の調達くらいだったのが

現在はスーパーが中心になりつつあるのだ。

 

先日も買い物を済ませ、陽射しのきつい駐車場に出て

車に乗ろうとした。

すると、黄色い日傘をさした若い女の子が駆け寄って来るではないか。

日傘といっても普通の女物ではなく

何やら宣伝文句の書かれた晴雨兼用の傘だ。

黄色いシャツの腰周りには、殺虫剤みたいなスプレーや雑巾

毛ばたき、タオルなどをぶら下げた太いベルトをしている。

 

「30秒でお車のライトをピカピカにしませんか?」

これ以上無いほどの笑顔に、ハイテンションの声。

スッピンの角ばった顔は、日焼けして赤くなっている。

年齢は20代後半と見た。

 

勢いがすごいので、私は思わず問い返す。

「へ?」

慣れているのだろう、女の子は間髪入れず言った。

「微妙なお返事、ありがとうございます!

30秒しか、かかりません。

ライトをピカピカにしませんか?」

「あなたが?」

「はい!」

どこまでも元気いっぱいだ。

 

「何で?」

そう問いつつも、私はすでに気づいていた。

腰にぶら下げた、車の絵が描いてあるスプレー…

彼女はスーパーの買物客に、これを売りつけたいのだ。

少し離れた所で、やはり同じような格好をした若い男性が

年配の女性に話しかけている。

 

「ご質問、ありがとうございます!

ライトをピカピカにしたいんです!

30秒いただけたら、ピカピカにします!

新商品のデモンストレーションなんです!」

「ふ〜ん…」

 

鈍い反応に、相手は戦略を変えた。

「お客様、このお車はコーティングをしていらっしゃいますか?」

「私のじゃないから、ようわからんわ」

私のだけど、面倒くさいのでそう言う。

 

「コーティングしてないお車でも、コーティングしたみたいになるんです」

「…ライトを磨くだけで?」

「アハハハ!まさか!」

部活帰りの女子高生のような底抜けの笑顔で

よどみなく彼女は言うのだった。

「このスプレーはライトだけでなく

お車全体を磨ける特別な商品なんです!」

「それが1本、ナンボ?」

「3,500円です!」

 

「3,500円!」

「これでお車がピカピカになります!」

「ほぅ…この田舎で1本3,500円のスプレーを何本売ったら

あなたと、あっちのお兄さんの日当が出るわけ?

商売にしては効率悪過ぎじゃない?」

「私たちは一人でも多くのお客様に

この商品を知っていただきたくて…」

「あっちの人はいいわよ、男だもの。

だけど、あなたはどうよ。

若い娘がこの炎天下に外で、身体に悪いわよ。

シミができたら元に戻らないし、リスクを考えて働かないと」

「いえ、あの…」

「こんな商売、やめときなさいよ」

「……」

「私、忙しいから、じゃあね」

女の子を凹ませようと思って言ったのではない。

彼女のことを考えて、本気で言った。

 

家に帰って、長男に話す。

「駐車場で、車のスプレー売る人がおったわ。

この辺も都会みたいになったんじゃね」

「変に明るい若者が、ライト磨いてくれるやつ?」

「それ、それ」

 

長男はこともなげに言った。

「あれ、宗教よ。

昔、スルメなんかの干物を売って、家を回りようたろ。

ワシ、子供じゃったけど覚えとるわ。

あれの車版よ。

安いスプレーを高い値段で売って、差額を宗教に寄付するんじゃ」

「え〜!」

 

そういえば、あのハイテンション…

立板に水の明るいしゃべり方…

洗脳された人特有のものだったかも。

何やら懐かしい気がしたのは、30年ぐらい前

一軒一軒、家を訪問しては玄関でいきなり歌を歌い出す

干物売りの若者と同じだったからなのね。

干物売りは、旧統一教会だったそうだけど

今度のもそうなのかしらん。

ちょっと驚いた。

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

手抜き料理・夏祭り編

2024年06月10日 12時25分38秒 | 手抜き料理

6月某日、同級生ユリちゃんの実家のお寺で

恒例の夏祭りがあり、私はいつもの料理番仲間…

同級生のマミちゃん、モンちゃんと一緒に料理をした。

もう一人の料理番、公務員OGの梶田さんも手伝ってくれたので

大変助かった。

 

お祭りの料理は、もはや惰性。

メインは昨年、一昨年と同じくカレーじゃ。

カレー制作中の私と、右側はカレーに入れるニンジンを炒めてるマミちゃん。

私は小さい鍋を抱え、大鍋の中身の一部を移して

カサ増しを狙っているところみたい。

 

 

それから、適当な物を並べたオードブル。

年々体力が落ちて、もはやメニューを考えるのも面倒くさい。

今年のオードブルは鶏の唐揚げ、ハンバーグ、卵焼き

ポテトサラダ、それから冷凍の枝豆という手抜き祭り。

 

センターはフキと油揚げの煮物。

前日、台所の裏庭にフキが群生しているのをユリちゃんが獲って

「お祭り料理の一品にして欲しい」

と言ったけど、フキって下処理が厄介なので断固拒否。

そしたらユリちゃんの兄嫁さんが、煮てくれてた。

フキが一番美味しかった。

 

鶏の唐揚げは、5キロ分。

下味をつけて揚げればいいので、決めた。

味付けは市販の塩麹に、ショウガとニンニクを加えただけ。

酒も醤油も入れず、塩麹だけなのに

けっこう美味しくてびっくりした。

自分が言い出しておいて、我ながら無責任なものよ。

 

ハンバーグは合挽ミンチ5キロで、小ぶりなのを120個作った。

去年作ったミンチカツの衣付けが大変だったので

小麦粉、卵、パン粉を見捨て、裸のまま焼いただけ。

肉汁が滲み出て、食べる人の服を汚したらいけないと思い

硬めに仕上げたらカッチカチのパッサパサ。

 

卵焼きは、お祭りを手伝うのは男性が多いということで決めた。

うちに余っていた卵を持ち込んで、適当に焼いただけ。

 

ポテトサラダは、マミちゃんが家から作って来てくれた。

人に作って持って来させるのは、最高の手抜き。

 

冷凍枝豆もマミちゃんのアイデア。

国産の良い枝豆で、よく太っていて美味しいものだった。

 

これで万全!とタカをくくっていた我々を、予想外のアクシデントが襲う。

2升釜で1升と8合炊いた、カレーのごはん。

規定量いっぱいの2升を炊くと

“釜が張る”といって、ごはんがパサパサするので

ちょっと少なめに炊くのが常識なんだけど

今回はお米の芯が残って、ひどくパサパサだった。

 

米と水を計量したモンちゃんが、間違ったらしい。

彼女は普段、こんなに大量に炊くことは無いので、無理もない。

スイッチを入れたのは私。

その時、水加減をちゃんと確認すればよかったと思ったが

あとの祭り。

 

けれども対処法はある。

生煮えのごはんに茶碗一杯ぐらいの日本酒を回しかけて

もう一度、炊飯スイッチを入れれば何とかなるものだ。

何とかならなければバターで炒め

上からカレーをかけて誤魔化そう…と思いながら

恐る恐る日本酒投入後の炊飯器を開けてみたら

何とかなっていたのでホッとした。

 

1升8合のごはんは昼食のカレーでほとんど無くなったので

午後になると、同じく1升8合をもう一回炊き直し

小さい1升釜でも8合を2回炊いた。

カレーのごはんもだが、大量のおむすびも必要だからだ。

 

こうして頑張ったお祭り料理だが、今年は大学生の大軍が来ず

我々ぐらいの年代の爺婆が多かったので

ごはんもカレーもオードブルも大量に余り

持ち帰りの折り詰めを作る方が忙しかった。

打ち上げの夜食なんて、大学生がいないということで

生ビールなどの酒類が出たため、食事に取り組む者とていなかったのだ。

若者がいないと、こんなに余るのか…改めて驚いた。

 

ところで今年は梶田さんが朝から終わりまで手伝ってくれたので

一緒にいる時間が長かった。

我々4人は人の耳を気にしつつ、色々なことを話したが

梶田さんも、お寺料理にはかなりの不満をお持ちの様子。

 

お祭りの翌々日も、「義姉が疲れているから」という理由で

ユリちゃんから昼ごはんを作って欲しいと頼まれているそう。

我々がお寺料理を拒否した時は、優しい彼女に頼むのが

近年の習慣になっていた。

「シブシブ引き受けたけど、ホントは嫌。

疲れが残るから、息子にもいい加減にしろって言われてる。

私はあんたたちより三つも年上だし、しんどいのよ」

 

翌日じゃなくて翌々日の理由、我々にはすぐわかる。

翌日はお祭り料理が残っているので、お寺人はそれで食いつなぐのだ。

そして食べ尽くした翌々日、梶田さんの料理で再び食いつなぐ寸法。

こういう下心が透けて見えるのを見えないフリするのが

お寺料理の面倒くさいところなのよね。

 

特に梶田さんが納得できないのは、ガソリン代なんだそう。

彼女はユリちゃんの嫁ぎ先のお寺と実家のお寺の

ちょうど中間にある町に住んでいて

二つのお寺までは、どちらも車で30分かかる。

「気軽に呼び出してくれるけど

こっちはガソリンは使ってるんだからね。

やってられないわよ。

だから最近は材料費を請求するようにしたけど

今までの習慣が染み付いてるから

後で渡すと言って、そのままのことも多いんだわ」

なるほど…。

 

彼女は美しい料理を作るだけでなく

こだわりの食器まで持ち込んで飾り立て

使った食器はそのまま持って帰って家で洗うシステムを取っている。

そしていつも明るく楽しそうで、周りに気を使う。

そんな彼女を、我々は聖人君子と崇めていた。

心いやしき我らに彼女の真似はできないと、いつも言っていたのだ。

が、聖人君子にも色々と思うところがあったと知って

ホッとした次第である。

コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

現場はいま…ゴーヤ騒動記・6

2024年06月06日 10時37分28秒 | シリーズ・現場はいま…

事務員のアイジンガー・ゼットが次男に話した内容から

ピカチューが河野常務に怒られたことを知った我々は

第二アキバ計画の終焉を知った。

アキバ一味には、もうちょっと頑張って欲しかった。

人を罠にはめるつもりなら、途中でうまくいかなかった場合に備えて

次の手を用意しておくのが悪人の常識ではないのか。

不甲斐ない奴らだ。

 

さて、常務に怒られたピカチューは急におとなしくなった。

相棒のアイジンガー・ゼットもバッチリ疑われていることだし

しばらくの間、静かにせねばなるまい。

 

そこで彼が思い出したのは、第一アキバ計画。

F工業を訪問してF社長に会い、F工業がやっているうちの仕事に

T興業も混ぜると伝える件だ。

F社長が承諾すれば、徐々にT興業の割合を増やしていき

最終的にはT興業に切り替える計画である。

 

常務に怒られてからさほど日をおかず、彼はF社長に連絡を取った。

F工業へ行くことは常務に止められたので、もちろん内緒だ。

今のうちにやりたいことをやっておかなければ

監視の目が厳しくなった場合、身動きが取れなくなる。

そのため、原点に戻って行動してみたと思われる。

 

原点に戻ると言えば聞こえはいいが

T興業と天秤にかけることでF社長を焦らせて

接待の酒をせしめるのが彼の目的であろう。

アキバ社長に覚えさせられた蜜の味を

F社長からもいただくつもりなのだ。

 

「明日ならいい」

F社長の承諾を得たので、ピカチューは電話をかけた翌日

いそいそと出かけて行った。

 

F工業の本社事務所へ行くには、片道1時間ほどかかる。

出かけたピカチューが帰って来たのは、3時間後。

夫は1時間ほど話ができたのかと思ったが、違っていた。

来客中ということで、1時間待たされたそうだ。

 

1時間後にF社長が現れ

名刺交換をして挨拶を済ませたら、面会は1分で終了。

ピカチューは何も言い出せず、すごすごと帰ったらしい。

F社長の方が10才ぐらい年下だが、貫禄負けしたと思われる。

すでに夫とピカチューは、ほとんど口をきかなくなっているが

この時ばかりはブツブツ言ったそうだ。

 

後で、F社長から次男に連絡があった。

「ギャンギャン言うちゃろう思よったけど

相手するのが馬鹿らしゅうなったけん、待たせたった」

だそう。

放置の刑…ギャンギャン言われるより厳しいかも。

以後のピカチューはますますおとなしくなり

今のところは静かな日々を過ごしている。

 

さて、常務に疑われたことを気にするアイジンガー・ゼットは

どうしているか。

お待たせしました…ここでタイトルにあるゴーヤの登場。

 

5月のある日、彼女は事務所の窓の外周りに

ゴーヤの苗を植えなすった。

まだ常務に疑われる前で、ピカチューともラブラブだった頃だ。

 

「植物のカーテンで事務所の光熱費を節約する」

それが彼女の主張。

公務員試験に受かったら、の話だが

彼女は理科の教員免許を持っているのだ。

何回受けても落ちるので、教師の道は諦めたらしく

事務所で理科を実践するらしい。

 

アイジンガー・ゼットは4本の苗と4個の大きな植木鉢

土に肥料にゴーヤのツルを這わせるネットなど

ゴーヤ栽培一式を買い込み、植えたという。

もちろん、それらの代金は会社の経費。

アイジンガー・ゼットにねだられたピカチューが

会社の小口現金から、出金を許可したのだった。

 

「塩まいて枯らしちゃるんじゃ!」

次男は息巻いている。

事務所を我が物のように扱うアイジンガー・ゼットのやり方に

怒りを覚えているのだ。

 

愛人体質の女って、こういうことをよくやる。

勤務先に私物を置いたり、趣味を押し付けたりで

自分の物のように振る舞うのだ。

動物本能の強い人間が無意識に行う一種のマーキングである。

自腹を切るならまだしも

人の金でやろうとするのもこの人種の特徴で

そのような習性が他者の不快を招く場合も、ままあることだ。

 

「およし」

私は次男に言った。

「何で?やっちゃあいけんの?」

不満そうな次男。

「いけん…塩は残る」

「……」

 

ええか?よう聞けよ?…

私は不思議そうな顔の次男に向け、ゆっくりと話すのだった。

「イタズラは、バレんようにするけん面白いんじゃ。

塩は白いのが残るけん、誰かがやったのはバレバレじゃん。

ブサイクなこと、したらいけん」

「じゃあ、どうしたらええん?」

「塩水」

「その手があったか!」

 

会社の前は海なので、海水ならたっぷりある…

しかし潮位によっては、汲みあげるのにバケツとロープが必要になる…

大げさなことをしたら人目につく可能性が高まるため

もっとコンパクトに行うのだ…

私はそう説明しつつ、台所にある食塩とカラのペットボトル

そして小さいペットボトルの口から

塩と水をスムーズに入れるためのジョウゴを渡す。

 

「あんた、ここまでタチ悪い人間じゃったんか…」

細い目を丸くして、呆然と私を見る次男。

「あんた、知らんかったんか」

「知らんかった」

「昔の子供は皆、こんなモンよ。

今どきの子供はイジメはよう知っとるが、イタズラは知らんけんね」

「そうなんか…」

「ささ、お水を入れてシェイク、シェイク」

二人で楽しく塩水作成だ。

 

「母さんは、いっつも人に意地悪したらいけんて言うじゃん。

何で今回は協力してくれるん?」

次男は私に問うた。

「昔から、会社に実の成る植物を植えたらいけん言われとるんよ。

商売人じゃない人は、それを知らん。

温暖化対策が流行って、窓にゴーヤ植える会社が増えたけど

たいてい売り上げ下がっとるか、無くなっとるはずじゃ」

「あ、そういえば…」

「光熱費が上がったら、節約もええかもしれんけど

家と会社は違うんじゃ。

それ以上の利益を上げてやる、いう気概を持たんと

会社は落ち目になるもんよ。

ゴーヤの世話するいうて、時間潰すし

そういうヤツは寒うなってグチャグチャになったのを

放っとくのもお決まり。

一旦枯れたら、ツルが硬うなって後始末が大変じゃけん

皆、見て見んフリよ。

あんた、ゴーヤがブラブラしとる会社見て、どう思う?」

「貧乏くさい思う。

それから、暇なんじゃの…て思う」

「じゃろ?

貧乏と暇は商売の敵じゃ。

そんな会社を誰が盛り立ててくれようか。

雇われとる身で、そういうことをやるのはいけん」

「ようわかった…行ってくるわ」

次男は濃い塩水の入ったペットボトルを握り

誰もいない会社へ行った。

 

翌朝、ゴーヤの苗は見事にしなびていたという。

しかしアイジンガー・ゼットは諦めない。

またゴーヤの苗を買って来て、同じ植木鉢に植えた。

が、塩水をたっぷり含んだ土では、やはり育つ前にしなびてしまう。

現在も彼女は、それを繰り返している。

もう4回目だ。

 

苗の代金がもったいないって?

なんの、我が子と一緒にやるイタズラの楽しさ

そしてゴーヤのお陰で色々教える機会を得た喜びは

プライスレス。

理科の先生なんだから、せいぜいお気張りやす。

あれ?そういえばずいぶん昔

夫と不倫した長男の副担任ジュンコも理科の教師だったわ。

何の因果かしらねぇ…フフ!

《完》

コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

現場はいま…ゴーヤ騒動記・5

2024年06月04日 10時11分39秒 | シリーズ・現場はいま…

B社へサンプルを持ち込む際、ピカチューが夫に同行を求めたら

それはアキバ産業とB社の仕掛けた罠…

そう判断した私は、ピカチューの予定に気をつけるよう

そして我が家の3人のうち、誰が誘われても絶対に行かないよう

夫と息子たちに言った。

君子じゃなくても、危うきには近寄らないに限る。

 

我々はまんじりともせず、ピカチューが動くのを待った…

と言いたいところだが、彼は翌朝、早くも動いた。

「B社へ行く時、一緒に来てもらえん?」

夫にそう言ったのだ。

わかりやす!

 

サンプルを使って試験をする際、重機が必要になる…

B社は重機は貸すけど人員はそっちで用意するよう言っているので

こちらがオペレーターをやることになる…

自分には難しいので、一緒に来て重機を操作して欲しい…

それが夫を誘う理由だった。

 

お誘いを受けた時の夫の対応は

みりこん家恒例の家族会議で打ち合わせ済み。

「ワシは行かん」

まず、即座に断る。

何で?何で?…ピカチューは執拗に問い続けるだろう。

そこで言うのだ。

「常務に行けと言われたら、行く」

 

常務がB社の話を知ったら、絶対にピカチューを止める。

今のところ止められてないということは

毎日、報告義務のある予定表にも

サンプル持ち込みの件を入力してないということである。

だから常務は何も知らない。

第二アキバ計画を成功させるために秘密にしているのか

それともB社の仕事獲得を自分一人の手柄にしたくて

ギリギリまで黙っているつもりなのかは謎だが、どうでもいい。

 

ところでB社に関わったら、なぜ常務に止められるのか。

うちとB社との因縁を、彼は身をもって知っているからだ。

 

常務とB社長は建設協会の役員同士という関係で

昔から懇意だった。

若かったB社長を気にかけ、何かと世話をしたのも常務だ。

やがて、うちが本社と合併すると、常務は自らB社に営業をかけた。

我々は無理だと言ったが、常務は

「B社長がワシを粗末に扱うはずが無い」

そう言って自信満々に乗り込んだものである。

 

が、うちの名前を出した途端、B社長は烈火のごとく怒り出し

けんもほろろに追い返した。

あまりの剣幕に驚いた常務は、夫から事情を聞いて納得。

可愛がってきたB社長が自分に牙をむいた不快もあり

以後、B社は存在しないものとして

完全無視の方針を取ってきたのだった。

 

 

さて、夫は打ち合わせ通りピカチューの誘いを断り続けた。

依然として誘うからには、B社のことを常務にまだ言ってない…

我々はそれを確認しながら日を送った。

 

そのうち、B社にサンプルを持ち込む前日が訪れた。

第二アキバ計画には、夫の参加が不可欠。

夫がのこのこB社へ行った既成事実が無ければ

彼がK商事の仕事を奪おうとした筋書きは成立しない。

アキバ社長にハッパをかけられたし、B社長も待っているし

ピカチューは何としても夫を連れて行かなければならないのだ。

 

その日もしつこく誘うピカチューに、夫は言った。

「シゲを連れて行け」

これ、我が家基準では賞賛に値する機転である。

夫にはシゲちゃんという手があったのだ。

3年前、夫の重機アシスタントとして雇ったものの

アシストするのは夫の方で、未だ一人前には遠いシゲちゃん。

彼にはこういう時こそ、役に立ってもらおうではないか。

 

そして当日、ピカチューは渋りながらも

シゲちゃんを連れてB社へ行った。

夫が行かないのだから、仕方がないではないか。

これでK商事の仕事を奪おうとしたのは

夫でなくピカチューということになるのだが

彼はそこまで気づけるタマではない。

 

知らない会社へ連れて行かれることになったシゲちゃんは

緊張していたが、いつになく頑張ったようで

つつがなく任務を終えた。

そしてB社はその日のうちに

「サンプルを使ってみたが合わなかった」

ということで、ピカチューに断ってきた。

B社長とアキバ社長は、さぞ失望したことだろう。

 

話は飛ぶようだが、その数日後

次男はアイジンガー・ゼットから相談を持ちかけられた。

「私、常務さんから疑われてるみたいなの。

私が板野さん(ピカチュー)を裏で操ってるって」

「何で」

「板野さんが常務さんに怒られて、そう言われたんだって」

「ほ〜ん…」

「常務さんに、違うって言ってくれないかな」

「ホンマのことじゃないん」

「私が?私はあの人たちとは無関係よ!」

「わしゃ知らん」

“あの人たちとは無関係”という発言で

すでにグルだと自白しているようなものだが

本人はお気づきでないご様子。

 

常務に怒られたピカチューは

アイジンガー・ゼットにそのままを伝えたのだ。

核心を突かれ、相当うろたえたと思われる。

恋愛経験の少ない爺さんは、罪深いものだ。

相手を危険にさらさないという大前提を知らないもんで

自分が危なくなると簡単に女を売る。

 

ともあれ、この“相談”でわかるのは

ピカチューがB社の件をとうとう常務に話したということ。

その内容は仕事のことではなく

夫の非協力的態度についての告げ口だったのは想像に容易い。

夫を連れて行かなかった不守備をアキバ社長とB社長に責められ

怒りのぶつけどころが無かったのだろう。

 

ピカチューは、夫の職務怠慢を告発するにあたり

B社にサンプルを持ち込むことになった経緯を

説明する必要が出てくる。

飛び込み営業で話をつけたと言っても

あのピカチューでは信じてはもらえないだろうから

アキバ産業の紹介だと正直に言うしかあるまい。

商売仇から怨恨の相手へのあり得ない紹介ルートを聞いた常務は

ピカチューが二社から踊らされていることを察知したのだ。

その流れで、中継役のアイジンガー・ゼットが浮上したと思われる。

 

とはいえ、常務が何らかの対処をするとは期待してない。

上に立つ者は難しいのだ。

ピカチューを配属させたのも、アイジンガー・ゼットの正社員登用も

最終的には常務の決済。

それをいちいち処分していたら、常務自身が人選能力を問われる。

ピカチューを所長代理に降格させたばかりだし

これ以上を望むのは贅沢というもの。

ただ、知ってくれているだけで満足だ。

この状況を楽しむ方が、我々にはお似合いである。

《続く》

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

現場はいま…ゴーヤ騒動記・4

2024年06月02日 16時55分01秒 | シリーズ・現場はいま…

事務所のホワイトボードにB社の文字があったと聞いて

アキバ産業の新たな陰謀を察知した私だった。

選挙の恨みで義父との取引を切っただけは飽き足らず

メインバンクに手を回し

義父の会社と取引をしないように命じたB社長と義父アツシは

もちろん絶交。

二人のオジさんは憎しみ合ったまま生涯を終え

父親の言い分しか聞いてないB氏の息子もまた

我々一家を憎み続けて現在に至っている。

 

そのB社にうちのサンプルを納入するとは

そのサンプルで試験的に製品を製造してみて

問題が無いようであれば価格交渉の上、うちから納品させる…

つまり継続的にうちの商品を買ってくれるということだ。

父親に背いた罪で我々を憎み続けたまま

社長を引き継いだ現在のB社長が、ウンと言うわけがない。

つまり、あり得ないことが起きようとしているのだ。

この不自然に、心は騒いだ。

 

「どのサンプルを持って行くか、調べるわ」

やはり尋常でない雰囲気を感じ取っている息子たちは、言った。

B社は、製造材料のほとんどをアキバ産業に納入させている。

それなのに、うちの商品サンプルを所望するとなると

アキバ産業の仕事がわずかでも減るということではないか。

アキバ社長は取引を継続するために

B社長のお古の車を買って乗るほど一連托生の子分に甘んじているのだ。

たとえ一種類だけの商品でも、みすみす譲るわけがない。

しかも宿敵の我が社へ。

あまりにもおかしい状況であった。

 

サンプルの商品名は、すぐに判明した。

午後になると事務所のホワイトボードに

ピカチューの字で商品名が書き添えてあったからだ。

「◯A◯!」

商品名を確認した次男は、ぶったまげたという。

 

「おおごとじゃ!」

早めに仕事が終わって帰宅した次男は、少々おどけて言った。

「◯A◯は、先月からK商事が納品しょうる!」

アキバ産業の兄社長にきついお灸をすえた、その筋の親玉

あのK商事のことである。

 

次男の話によると、この商品は特殊で

アキバ産業には仕入れのルートが無い。

よって、これだけは別の会社から仕入れていたそうだ。 

しかし価格交渉の決裂なのか

B社長が例によって忠誠心を試したくなり

何らかの要求をして断られたのかは不明なものの

とにかくB社はその会社を切り

先月、新たにK商事と契約を結んだという。

 

この話を教えてくれたのは、昔、アツシの会社に勤めていたO君。

転々と仕事を変えるうちに50代も半ばを過ぎて就職が難しくなり

泣く子も黙るK商事に拾われた彼は

今でも時々、次男と電話でおしゃべりをしているのだ。

 

隣の市内に住むO君は、住まいがB社に近いという理由により

問題の商品“◯A◯”をB社へ納入する専任要員として

K商事に雇われた。

そのために新車のダンプを買ってもらった…

O君は先月、嬉しそうに語っていたそうだ。

 

B社へ納品するためにダンプの新調までしたK商事を差し置いて

うちが同じ商品のサンプルを持ち込むということは

K商事の仕事を奪おうとしていると思われても仕方がない。

「ワシらの誰かが連れ去られるかもしれん」

息子たちは笑いながら、そう言って盛り上がっていた。

 

というのもアツシの会社だった頃は、K商事と取引があった。

我々夫婦も何度か、豪奢な事務所へお邪魔したことがある。

行きがかり上、まだ小さかった子供を連れて行ったこともあり

K商事の人々は優しくしてくれたが、普段うるさい子供たちは

妙におとなしくて行儀が良かった。

 

ついでに話せば、今の本社と合併話が持ち上がるのとほぼ同時期

親切なことにK商事も合併の話を持ちかけてくれた。

スリルとサスペンスに目をつぶり、開き直って染まれば

もしや我々は安泰だったかもしれない。

大手のK商事と手を組めば、アキバ産業と組むT興業や

町内の同業者で企業舎弟のC産業よりも

そっちの世界ではずっと格上になるため、楽ちんだと思う。

しかし緊張感は必要になる。

あの夫や息子たちが粗相をしない保証は無いため

丁重に辞退した経緯があった。

 

ともあれピカチューとB社が繋がったところへ

K商事が絡むとなると、コトの次第を早めに見極め

対処を考えなければ。

そのためには慎重に行きたいところだが、結論は一瞬で出た。

考えつくのは、一つしか無いからだ。

 

その考えによると、B社長はK商事と取引を始めたことを後悔している。

離れた市外にあるK商事の素性を知らないまま、契約したのだろう。

アキバ社長はそれを知って止めたが、もう遅い。

冷徹と評判のB社長でも自分から切ることはできず

取引相手に色々と要求して忠誠を誓わせるどころか、逆になりそう。

 

子分のアキバ社長は、親分のお役に立つために考えた。

そして、この名案に行き着く。

「そうだ!隣のヒロシ社とK商事を戦わせよう!」

彼は、うちとK商事の古い付き合いを知らないようだ。

 

その内容とは、K商事が納入している商品をうちが狙い

B社にサンプルを持ち込んだことにする。

獲得したばかりの仕事を奪われそうになったK商事は当然、怒る。

チャラリ〜♩抗争勃発。

夫は、アキバ兄のように連れ去られるという算段。

 

これが大ごとになれば、B社がK商事を切るもっともな理由になる。

しかし、大ごとにならなくても大丈夫。

B社長は「何も知らなかった」と言ってピカチューと夫のせいにし

今まで通りK商事と取引を続ければ、無かったことと同じだ。

むしろシロウトよりも義理を立てるK商事は

何事も無ければ良い取引先である。

 

そして夫は、アキバ兄のように使い物にならなくなって会社を去り

残るはアキバの傀儡に成り下がったピカチュー。

こうなりゃ、彼らの思い通りだ。

自分の手を汚さず、人を操って目的を遂げるという

アキバ社長の思考回路はわかっている。

 

以上のことを帰って来た夫に話したら

フフ…と笑っていたのはさておき

この仮説が事実だと証明する方法が、一つだけある

B社にサンプルを持って行く時

ピカチューが夫に同行を求めるか否かだ。

彼が一人で行けば、我々の杞憂。

普段、一緒に行動しない夫に何らかの理由をつけて

B社へ連れて行こうとすればビンゴである。

《続く》

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする