殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

現場はいま…それから・4

2020年12月31日 23時17分32秒 | シリーズ・現場はいま…
本社に送られた文書に添付された

藤村と神田さんのラインの内容だが

我々は見ていないので知るよしもない。

ただ、神田さんが次男に相談していた頃、聞いたことはある。

「今、起きました」、「今、帰りました」

といった小学生の日記系と

「僕の愛をわかってほしい」

「君のことを考えながら寝ます」

といった色恋系の2種類が、とにかく頻繁に送られてくるという話だった。


こりゃあ、気持ちが悪かろう…

我々は神田さんに同情したものだ。

これらのおびただしいラインが、社長や重役の目に触れるなんて

私だったら生きていけないかもしれない。


藤村はその日、本社に呼ばれてかなり絞られたようだ。

それ以来、元気が無い。

自分のやらかしたことよりも、河野常務が一切口をきかなくなったのと

永井営業部長が彼を避けるようになったことがこたえているようだ。

永井部長は、年上の大男にペコペコされるのが嬉しくて

藤村を寵愛していたものの、これ以上関わると自分の身が危ないため

手のひらを返したのだった。


ともあれ我々は、神田さんが提出した証拠の中に

長男とシュウちゃんの言った悪口の書き起こしが

添えられているかどうかに注目していた。

長男もシュウちゃんも、聴取ではすっとぼけていたが

悪口はちゃんと言っているのだ。

私もそのことは、長男から聞いて知っている。

「プレデター」、「アバズレ」、「藤村のオモチャ」…

実際に彼らは、神田さんをそう呼んでいた。


けれども神田さんは、ダンプに無線を付けてない。

付けるも何も、彼女は業務用アマチュア無線の免許を持ってない。

その神田さんが、何で自分の悪口を言われているのがわかるのか。

どこにでもいるじゃないか…

何でもかんでも言いつけて、揉ませる人間が。

今回の場合はチャーター業者であるM社の社員、通称チョンマゲだ。


チョンマゲとは文字通り、髪を伸ばし

後ろで一つにくくっているからである。

50半ばのダンプ乗りが、そのような頭をしているのは

この近辺では稀というより奇異だ。


チョンマゲは以前、神田さんと同じ会社の同僚だった。

数年前にM社へ転職し、藤村と癒着しているM社から

うちへチャーターで入っていた。

神田さんはこのチョンマゲがお気に入りなので

藤村に推薦し、毎日うちへ呼んで楽な仕事に従事させていたのだ。


長男とシュウちゃんが無線で悪口を言っている…

同じ周波数で2人の会話を聞いたチョンマゲは、神田さんに教えた。

怒った神田さんは、チョンマゲに録音を頼んだ。

そして録音されたものは、藤村のラインと共に某機関へ提出された。

このことは、神田さん本人から次男が直接聞いている。


ボイスレコーダーは、良い証拠となるはずだった。

が、ここに電波法が立ちはだかる。

無線で傍受した内容を第三者に伝えてはいけない…

録音もいけない…

電波法には、このような決まりがあるのだ。

神田さんは無線免許を持ってないので、そのことを知らない。

免許を持つチョンマゲも、知らないからそんなことができるのだ。

ゲスの友は、やはりゲスである。


怒りに燃えた神田さんが、この録音を証拠として提出した場合

長男とシュウちゃんは、神田さんをいじめた罪に問われることになる。

しかし同時に、無線を傍受して内容を第三者に伝えた罪と

録音した罪も公になるため

神田さんだけでなく、チョンマゲも無事では済まない。


電波法は厳しい。

神田さんが取ろうとしている慰謝料より

電波法違反の罰金の方が高いかもしれないのだ。

長男もシュウちゃんも、そのことを知っていた。

だから悠長だったのである。


それでも録音を証拠に彼らの罪を追求したなら

我々は神田さんをあっぱれと褒め讃えるつもりだった。

が、やはり無線傍受は証拠として上がってこなかった。

プレデター神田も、しょせんはただの人だった。


長男たちが石原部長の聴取でトボけたのは、このためである。

ラインと違って証拠が出せないのであれば、それは無かったことなのだ。

無かったことをわざわざ認める必要は無い。

こうして2人の罪は、消えた。


ついでに話すと、積込みを終えた夫が

神田さんに合図のクラクションを鳴らさなかった罪も

いつの間にやら消えていた。

最初の訴えでは、クラクションを鳴らさないと

業務の安全性が損なわれるだの何だのと

文書にクドクドと書き連ねられていたが

こちらもやはり証拠が無いので、諦めたらしい。

危険走行の女王、神田さんが安全性を唱えるとは、お笑いぐさである。


現在は、慰謝料の金額を打診している段階。

解明も解決もありゃしない。

「“金取ろう”には、ちぃとゼニを握らせて、さっさと終わろうや」

というのが本社、並びに弁護士のスタンス。

が、最終的な話し合いはできていない。

神田さんが体調不良を理由に、逃げ回っているからだ。

なぜかというと、話し合いの席に着いたら慰謝料の金額が決まって

この問題は終了してしまう。

彼女は毎月の休業補償を得るために、できるだけ長引かせる所存らしい。


藤村は、神田さんの手慣れたやり口に

「後ろにヤクザが付いて、入れ知恵しとるんじゃないか」

と怖がっている。

休業補償を引っ張るために話し合いを避けるのは、よくある手だ。

初心者の藤村は知らないので

「知恵をつけた者はおろうが、ヤクザはあり得ん」

という夫の無責任な慰めをよすがにしている。


とまあ、今のところはこんな感じ。

現在、本社では藤村の左遷が検討されている。

春の移動シーズンにならないとわからないが

女性のいない支社や支店がほとんど無いため

行かせる所が無く、結局こちらに居続けることになるかもしれない。

しかしそんなことは、もはやどうでもいい。

藤村が多少おとなしくなったため、夫は気持ち良く働いている。

それが何よりだ。


その藤村だが、先日

神田さんの後釜として41才の男を一人入れた。

この男、かなり怪しい人物だ。

なぜなら11月の末に神田さんがキレて辞めた翌日

フラリと会社を訪れ、「雇って欲しい」と言った。

ハローワークに募集を出すどころか

つい昨日、ダンプが空いたことを知っているのはおかしい。

しかも彼は、神田さんと同じ弁当会社に勤めていた経歴がある。

偶然にしてはあまりに不自然なため

神田さんの彼氏ではないかと疑った夫は

雇うのを止めたが、藤村は強引に決めた。


その怪しげな男は、年明けから入社することになり

年末、さまざまな手続きが取られた。

その過程で、運転免許を取り上げられた過去が判明。

しかし藤村は、なぜ取り上げになったのかをたずねなかった。

そういうことを把握しておくという常識すら、知らないのだ。

飲酒や大きな違反など、よっぽどのことをしなければ

免許取り上げにはならない。

つまり運転の仕事をするには不適格と言っても過言ではないだろう。


新年からは、この怪しげな男も加わる。

さあ、どうなるのか。

藤村はうそぶく。

「新人を入れたら、会社の空気も変わるだろう。

このところ、雰囲気悪かったからな」

誰が雰囲気を悪くしていたというのだ。

お前だろがっ!

しかし、これが藤村なのである。


《完》



お立ち寄りくださる皆様、今年も本当にありがとうございました。

いつも心から感謝しております。

来年もよろしくお願いいたします。

皆様にたくさんの幸福が訪れますように。
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現場はいま…それから・3

2020年12月29日 13時33分55秒 | シリーズ・現場はいま…
シュウちゃん、長男、夫の聴取があった数日後

次男の聴取が行われることになった。

今回は商工会議所が借りられないそうで

場所は町内のホテルにある小会議室。


今回の聴取に際し、私と次男の準備は念入りだった。

藤村の行いを本社に知らしめる

最大にして最後かもしれないチャンスがようやく巡ってきたのだ。

次男はおしゃべり上手な口先男なので安心感はあるが

それだけに万全な形にしたい。


私は彼が話そうと考えていることを聞いて

推奨かストップかを決めた。

ストップをかけたのは、現場の者にしか理解できない事柄。

相手は現場を知らないホワイトカラーなので

わけのわからないことをつらつら並べると飽きられたり

説明に時間がかかって、肝心なことが耳を素通りしてしまうからだ。

また、次男にとってはぜひ紹介したいエピソードでも

それが上役の石原部長に響くとは限らない。

立場が違えば、響きどころが全く違うものだ。

そのため、話す内容を“推奨”、“特に推奨”に分類し

“特に推奨”の事柄を早めに話すよう、打ち合わせた。


そして当日。

録音付きの聴取は、まず石原部長の説明から始まった。

「今回起きている問題を正しく見極めるために

今日は第三者である君の話を聞きたい。

君はこの問題をどう思ってる?

正直に話してもらいたいんだ」


次男は答える。

「じゃあ、正直に話します。

本社に恩があるから我慢していますけど

僕も何回、藤村さんを訴えようと思ったかわかりません」

「ええっ?どうして?」

「いつも解雇するとか、クビと言われるからです」

「ど…どんな時?」

「有休を取る時や、修理で経費を使う時。

神田さんが入ってからは、ほとんど毎日になりました」

「なんでっ?」

「男はみんな辞めさせて、女だけのハーレム作るけん

お前らは早く辞めろって」

「……」

「ハーレムができたら神田さんを主任にするけん、男は邪魔って。

僕のダンプも売り飛ばすって、いつも言ってます」

「…昇進の決定権や、車両の売却の権限なんて

藤村さんには無いんだよ?」

「藤村さんは、あると言ってます」

「なんてことだ…それは僕でも訴えるわ。

…それで君は、藤村さんに何も言い返さないの?」

「それパワハラよって、何回も言いました。

でも藤村さんは、俺はパワハラ教育、受けてないから

何言うてもええんじゃ、って」

「……」

愕然とする石原部長。

パワハラ教育を受けてないから何を言ってもいい…

これこそ次男と打ち合わせた、“特に推奨”のエピソードである。


石原部長は、いい人で通っている。

会社でいい人と言われる人物は、仕事に対して真面目なものだ。

そして仕事のかたわら

責任者に任命されたパワハラホットラインにも

真面目に取り組んでいる。

パワハラについて社内の誰よりも勉強しているし

定期的に社内講習も行っていて

もちろん藤村も、彼の講習に何度も参加しているのだ。

それを「パワハラ教育を受けてない」なんて言われたら

石原部長の面目は丸つぶれ。

この怒りは、他の者には計り知れないランクだろう。


石原部長は、震える声で言った。

「今度、藤村さんから解雇と言われたら、すぐ僕に電話しなさい」

「はい」

「他にも話したいことがあったら、今ここで全部話して」

だから次男は、チャーター業者との癒着を始め

無茶な仕入れや経費の無駄使い、配車の偏りなどを全部言い

石原部長と永井部長は頭を抱えた。


やがて質問は、藤村と神田さんの関係へと移る。

石原部長が、ターゲットを藤村1本に絞った瞬間である。

「藤村さんと神田さんを見ていて、どう思った?」

「事務所でいちゃいちゃして、気持ち悪かった」

「藤村さんが交際を申し込んだというのは、本当?」

「本当」

「藤村さんは、そんなことしてないと言うんだよ」

「僕は神田さんから相談を受けたんで、間違いありません」

「……」


腕組みをしたまま、しばらく沈黙していた石原部長は

思い切ったようにたずねた。

「藤村さんが神田さんに

セクハラと受け止められるようなことをしたのを

見たことがある?」

「尻を触りょうるの、何回も見た」

石原部長は絶句し、テーブルに突っ伏した。

「手もつないどったし、神田さんは藤村さんから

日に何回もいやらしいラインが来るけん、嫌と言うとった」

石原部長からはもう言葉が出ず、聴取は終わった。


「僕、喉が渇きました」

商工会議所と違って、ここはホテルなので

次男は飲み物をねだる。

石原部長と永井部長と3人でコーラを飲みながら

雑談をして解散した。


その翌日、某機関から本社の社長宛に三通目の文書が届く。

中には藤村と神田さんがやり取りした

おびただしいラインの書き起こしが添付されていた。

神田さんが証拠として、某機関に提出したものである。

《続く》
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現場はいま…それから・2

2020年12月27日 12時08分32秒 | シリーズ・現場はいま…
石原部長と永井部長が行う聞き取り調査は

商工会議所の一室で始まった。

シュウちゃんをトップバッターに長男、夫の順で一人ずつ来いという。


1時間後、シュウちゃんは会社へ戻ってきた。

内容を聞く暇も無く、次は長男が商工会議所へ出発。

とはいえ内容も何も、シュウちゃんは天然なお爺ちゃんで

面倒なことは「年じゃけん、忘れた」で済ませるタイプ。

だから調査の内容を聞いたって、あまり参考にならない。


次に行った長男の話によると、全ての発言を

ボイスレコーダーに録音することに同意を求められたので

はい、と返事をしたそうだ。

それから石原部長は、神田さんの悪口を言ったかどうかをたずねた。


「言ったかもしれませんが、よく覚えていません」

長男が答えると、石原部長は言った。

「君もか…困ったねぇ。

悪口を言ったか言わないか

言ったとしたらどんな内容かを知りたいんだ。

この問題は、君たち2人が

無線で神田さんの悪口を言ったことから始まったと

藤村さんは言っている。

だけど君たちの話も聞かないと、正しい判断はできない。

僕は何が本当なのか、事実を明らかにしたいんだ。

神田さんは、できれば会社に戻りたいと言っているし

会社としても、神田さんに今まで通り働いてもらいたいんだ。

そうすれば穏便に解決できるからね。

そのためには事実関係をはっきりさせて

これからどうしたらいいかをみんなで考えたいと思っているんだよ」


石原部長と初めて話した長男は、感じの良い人だと思ったが

話す内容には失望したという。

やっといなくなったプレデター神田を会社に戻すなんて…

何もわかっちゃいない…

この人も藤村の嘘を信じているんだ…。


長男は石原部長の発言をそう受け取ったが、これ、実は違う。

石原部長は、教科書通りの手順を踏んでいるだけだ。

パワハラホットラインの責任者として、それなりの知識を持つ石原部長は

まず穏便に解決する道を探っている。

シュウちゃん、長男、夫と、下から順に呼ぶやり方がそうだ。

先にシュウちゃんと長男から、悪口を言った確証を取りたいのである。


最高に理想的な穏便は、シュウちゃんと長男が悪口を言ったことを認めて

神田さんに心から謝罪し、2人を許した神田さんが訴えを取り下げて

何事もなかったかのように働くことである。

そうなれば慰謝料がいらないし、代わりの社員を雇う必要も無いので

無駄な経費を使わなくて済む。

本社の危機にこれをやり遂げれば、石原部長の株はグンと上がるはずだ。

次は常務か専務で間違いない。

だから彼は、無理とわかっていても

一応その路線を辿らなければ次へ進む気になれないのだ。


そして神田さんが会社に戻りたいというのは、建て前である。

結婚や引っ越しを知らせるハガキに、よく書いてあるだろう。

「お近くへお越しの際は、ぜひお立ち寄りください」

だからといって本当に立ち寄られたら困る、あれと同じよ。

お金目当てで訴えを起こしている者は

「戻りたい…働きたい…

でもあの人に傷つけられて、もう仕事は無理かも…」

このスタンスを保つ必要がある。

「あんなとこ、二度と嫌!ツ〜ン!」

これと比較すると、某機関や会社の心象が違うし

慰謝料の額が変わる場合があるからだ。

石原部長はそれを感知しながらも

自身に都合のいい、元のサヤ路線を尊重したがっているに過ぎない。


ともあれ若いモンは常に

事態が自分の思い通りになることを熱望しているものだ。

それ以外の方向へ向くと簡単に絶望するが、この絶望が事態を悪化させる。

ふくれたり、恨んだり、ヤケになった結果

あらぬことを口走ったり、喧嘩になり、嫌われて自滅することが多い。

だから前夜の講習で、私は長男に言ってあった。

「本社の方針が、あんたの予測とかけ離れていた場合は

あんまり喋らず、一旦終了に持ち込んで帰って来い」

とりあえず、どんな様子かを聞かなければ仕切り直しができないからだ。


40才の中年息子に過保護かもしれないが

バカが変な女を会社に入れて、その女から訴えられ

張本人のバカからは罪をなすられるなんてこと

滅多に起きるものではない。

ここは母親が、乏しい知恵をあてがうしかないじゃないか。



さて長男は、物忘れの多い無口君を装って帰って来た。

話すのは石原部長だけで、その横に座る永井部長は終始黙っていたそうだ。

石原部長とは、そういう話になっていたのかもしれない。


こうして前座は終わった。

トリは夫である。

彼と石原部長は、会えば親しくおしゃべりをする仲。

石原部長はやはり

シュウちゃんと長男の悪口説に持ち込みたい様子だった。


「そうですね、それが一番穏便ですね。

でも石原さんのことだから、もうそんな段階じゃないって

わかっておられるでしょう」

夫はやんわりと言い、私との打ち合わせ通り

配車にまつわるエピソードを話した。

「癌になったから配車はもうできない」

夫にそう言いながら、次男には

「親父の配車に協力するな」

と言った件である。

「こういう人だから、会社がゴタゴタするのは当たり前ですよ」


この具体的なエピソードは効き目があったようで

石原部長のみならず永井部長も驚いて、顔を見合わせていたそうだ。

それからは、夫の目から見た藤村の行状をたずねられ

夫が答えるというやり取りが続いた。

彼らの注目は、シュウちゃんや長男から藤村へと移ったのだ。


やがて質問は、神田さんのことに及んだ。

「もし戻らせたら、また一緒に働けるか」

という問いに、夫は

「僕はかまいませんが、本当に具合が悪いんなら

藤村さんと一緒に働けないでしょう。

それに運転に向いていませんから、続かないと思います」

と答えた。


そんなにヘタなのか…経験を積んだら何とかならないか…

石原部長はなおも問う。

神田さんを戻らせて丸く納める理想的解決を

諦めきれない様子だ。

しかし夫は首を振った。

「パワハラの告発の次は、事故ですよ」

石原部長は、これで諦めがついたようだ。


もちろん、全ての会話は録音されている。

これを第三者に聞かせてもいいかと問われたので

夫は、どうぞと答えた。

第三者とは、河野常務や弁護士だろう。

望むところである。


こうしてこの日、夫の発言によって

シュウちゃんと長男が生け贄となる事態はまぬがれた。

そして石原部長の疑惑は、ようやく藤村に向けられ始めたようだ。

私がそれを確信した理由は

部外者ということで予定に無かった次男の聴取が

日を変えて後日、行われることに決まったからである。

《続く》
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現場はいま…それから・1

2020年12月24日 22時08分02秒 | シリーズ・現場はいま…
《前回までの経緯》

63才と高齢化した我が夫に代わって

会社を仕切るようになった本社の回し者、56才の藤村は

取引先で働く女性ドライバー、48才の神田さんを気に入り

今年の盆明けに、こっちへ転職させた。


ゲス同士の2人は、同じ穴のムジナとして仲良くやっていた。

しかし11月、藤村が神田さんに愛の告白をして以来

険悪になった。

神田さんが藤村を訴えると言い出したため

夫がそのことを本社の社員に伝える。


社員から事情を聞いた藤村の上司、永井営業部長は

自ら解決するべく、二度に渡って我が社を訪れた。

一度目は神田さんの事情聴取

二度目は藤村、神田さん、我が夫、そして長男を交えた

五者サミットである。


しかし、藤村と似たり寄ったりの永井部長が出たところで

収拾がつくはずもない。

二度目の話し合いで永井部長は終始、藤村の擁護に徹したため

感情的になった神田さんは退職を宣言し

週明けに、某機関へ訴え出た。


数日後、某機関から本社の社長宛に郵便が届く。

「あんたとこの社員の神田さんから、訴えが出ている」

という内容の文書である。

この問題は、本社の顧問弁護士の一人が対応することになった。


《その後》

訴えられたのはまず我が社と、それを統括する本社。

それから特定の個人名が添付されていた。

藤村、長男、社員のシュウちゃん72才

そしてなぜか夫の計4人である。

藤村はパワハラとセクハラの罪

長男とシュウちゃんは神田さんの悪口を言った罪

夫は、積込み終了時に

クラクションを鳴らす合図をしなかった罪だそう。


藤村は打ちひしがれていたが、夫、長男、シュウちゃんの3人は笑い

話を聞いた私も笑った。

そう、ここは青くなるところではない。

笑うところなのだ。


事態が本当に深刻で、他に方法が無い場合は別として

お金目的の場合は訴える相手が多いほどいい。

慰謝料のためである。

今後、審査が進むにつれて事実関係が明らかになってくると

名前を挙げられた者は黒、グレー、白の三種類に分けられていく。

最初にできるだけ多人数の名前を挙げておけば

どこかで引っかかる可能性が増えるではないか。


藤村と長男の名前が挙がることは確信していた我々だが

ほとんど無関係のシュウちゃんと夫まで

告発の対象になるとは考えなかった。

神田さんは元々、賢い女性とは言えなかったが

そこまでとは思わなかったからである。


しかしこれで、彼女の目的がお金だとはっきりした。

傷ついて思い余った挙句ではないので

我々も反省したり、彼女に同情してやる必要は無さそうだ。

気が楽というものである。

このことについてシュウちゃん、夫、長男の3人は

何ら気にしていない。


ともあれ最初の訴えは、神田さんの一方的な言い分。

今度は、こちら側が事実関係をはっきりさせ

弁護士を通じて提出する番だ。

ここで登場したのが本社の取締役総務部長、石原氏。

60代の彼は、数年前に発足した

パワハラホットラインの責任者でもある。

魑魅魍魎うごめく本社の中で

数少ないマトモな人という定評の彼は、社命により

永井営業部長と2人でこの問題に取り組むことになった。


石原部長はまず藤村を本社に呼び、数回に渡って事情を聞いた。

数日後、聞き取り調査の終わった藤村が元気を取り戻したことから

ひとまずは彼の主張がまかり通ったと推測できた。

藤村の主張とは、長男とシュウちゃん

そして今回、新たに悪人として名前の挙がった夫の3人が

陰で神田さんをいじめていることを知り

自分が彼女を守ろうと一生懸命になり過ぎて

誤解が生じた…というものである。


それから数日後、今度は夫たちから聞き取り調査をすることになり

石原部長と永井部長がこちらへ来ると決まった。

この聴取は会社の事務所でなく、商工会議所の一室で行われるという。

「会社は盗聴器が仕掛けられているかもしれない」

藤村が、そう主張したからだ。

そこまで神経質になる必要は無いと思うが

後ろ暗い藤村にとっては大事なことらしく、そういうことになった。


聴取はシュウちゃん、長男、夫の順番で1時間ずつ行われる。

3人とも「あ、そう」といった感じで、緊張のかけらも無い。

やましいことが無いので、当たり前である。

緊張しているのは嘘をついている真犯人、藤村だけだ。


良い機会なので、私はその前夜

夫と長男に聴取される側の心得を少し伝授しておくことにした。

夫には、いつもの癖でヘラヘラするなと言う。

なぜなら向こうには、事情聴取というご大層な名目で

はるばる来てやったという尊大な気持ちがある。

どんな上役も、例外は無い。

ヘラヘラしていたら、事態を真剣に受け止めてないと思われて

損だからである。


それから、いつぞや藤村が

「俺は癌だから、もう配車はできない」

と夫に言っておきながら、次男には

「親父の配車に協力するな」

と言った、この件だけは絶対に話すようにと念を押す。

藤村の人間性が一発で伝わる、わかりやすいエピソードだからである。


長男には

「不平等、不公平を絶対に口にするな」

と言った。

藤村のことを話す時、これらの言葉を使わないのは骨が折れるだろうが

この熟語が出ると、上役は途端に拒絶反応を示し

あと先の話をちゃんと聞いてもらえない。

上役とは、そういう生き物なのだ。

これらの言葉を安易に発して損をする人間を

実に数多く見てきた。

よって、言わない方がいいというのが私の意見である。


神田さんのしたことに当惑したり逆上するほど、我々は純粋ではない。

人を雇うとは、こういうことが付いて回るものだ。

義父の会社だった頃にもあった。

こんなことでいちいちビビッていたら

会社なんか、やっていけないのである。


とりあえず、メリークリスマス!


《続く》
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新犬

2020年12月20日 11時15分57秒 | みりこんぐらし



社員の山本さんの娘一家が、念願のマイホームを手に入れた。

そして犬を飼うという夢を実現。

今どきはネットの譲渡会があるそうで

娘さんはこれを利用し、生後3ヶ月の子犬をもらった。

ダックスとビーグルのミックスである。


ところが、もらってすぐにギブアップ。

子犬があんなに鳴くとは…

子犬があんなに動き回るとは…

子犬があんなにいたずらをするとは…

子犬があんなに粗相をするとは…

つまり子犬があんなに手のかかる生き物だとは

知らなかったのだ。


子犬の粗相で、新しい家が汚されていく。

だからといって檻に閉じ込めたら、クンクン鳴き続ける。

「赤ちゃんより大変」

小学生の子供がいる娘さんは思った。

そこで決断…誰かに譲渡しよう。


娘さんは実家に相談したが、母親に引き取りを断られた。

そこで父親の山本さんを頼る。

が、山本さんは奥さんと別居中なので、アパート暮らし。

飼えるはずもない。


困った山本さんは、うちの長男に相談した。

相談と言えば聞こえはいいが

要するに子犬の引き取りを頼んだのだ。


長男は即座に断わった。

だってうちには10才のパピヨン、パピがいる。

ずっと家族のアイドルとして君臨してきたのに

子犬が来たら、パピの精神的苦痛が大きいと考えたからだ。


あてにしていた長男に断られ、山本さんは困った。

娘は子犬のせいで、ノイローゼ状態。

子犬を楽しみにしていた孫は、いざ飼ってみると無関心。

何とかしなければ、娘の家庭の存続が危ぶまれる。


他の人にもあたってみたが、血統書付きでもなく

小さくて人気の犬種でもなく

何より見た目があんまり可愛くないので

もらい手は無かった。


困り果てた山本さんは、うちの次男に話を持ちかけた。

我が家の兄弟の性格を知り尽くす山本さんは

弟なら断らないと考えたようだ。

何しろ弟は人当たりがいい分、無責任。

目の前の親切を優先して、後のことを考えない。


次男はいとも簡単に了承したと思われる。

というのも我々家族に、このことは秘密だったからだ。

「ちょっと出てくる」

先日の晩、次男はそう言って出かけた。


そして帰った時、彼は右手に大きなカゴをぶら下げていた。

カゴの隙間からは、ゲロらしき物体がダラリと垂れ下がっている。

中には茶色の子犬が入っていた。

長男が山本さんに子犬の引き取りを頼まれた時

皆が反対したので、いきなり連れて帰る作戦だったらしい。


「山へ捨てるしかないとまで言うけん

引き取るしかないじゃないか」

次男はさも良いことをしたように言うが

こいつの魂胆はわかっている。

連れて帰れば、誰かが何とかすると思っているのだ。

ずいぶん前に人からもらった、つがいのウズラもそうだった。

連れて帰るだけで世話は一切せず

エサ1袋買うでもなく、無視。

ウズラは6年だか7年だか生きて

一昨年、相次いで亡くなった。


ともあれ12日17日の夜、我が家に突然子犬がやって来た。

聞きしに勝る、大変ないたずらっ子だ。

お暇を出された理由がわかるような気がする。

家が新築で、仕事をしながら初めて犬を飼うのでは

難しいかもしれない。

このようなワンパク者には、犬に慣れ、ボロ家に住み

生活やしつけを分担できる大人数の家族がふさわしい。


先住民のパピは、想像通り機嫌が悪い。

新人、いや新犬をいじめはしないが

「ふ〜ん、あんたら、そういうつもりだったんだ…」

とでも言いたげな表情。

次男が生まれた時の長男に似ている。

当惑しつつ耐えている様子がフビンなので

パピは今まで通り自由に暮らし

子犬は義母の部屋に組み立てた檻を拠点とした。


大きな檻は、この子の婿入り道具の一つだ。

他にも座布団や毛布、エサとおやつ、おもちゃ

ペットシーツに消臭剤と、豪勢な品揃え。

山本さんの娘の意気込みが伝わる。

最初は誰でも張り切るものよ。


翌日、獣医さんの所へ行く段になって

取り急ぎ名前を付けることになった。

名前を付けておかないと、カルテが作れないからだ。

ワンパクぶりから「ゴジラ」が候補に挙がったが

獣医さんで名前を呼ばれて恥ずかしくないもの…

ということで、義母が提案した「リュウ」に決まった。


獣医さんの話によると、リュウはかなり大きくなるらしい。

楽しみなような、怖いような。
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忠臣蔵

2020年12月14日 15時44分08秒 | みりこんぐらし
今日、12月14日は赤穂浪士討ち入りの日。

江戸は元禄時代、犬公方で知られた五代将軍綱吉の頃の話である。


元禄14年3月14日

播州赤穂城主、浅野内匠頭(あさのたくみのかみ)が

江戸城、松の廊下で吉良上野介(きらこうずけのすけ)に斬りかかる。

殿中で刀を抜いた罪により、浅野内匠頭はその日のうちに切腹。

主君の切腹で赤穂城はお取り潰しとなり、家来は浪人となる。


軽症だった吉良上野介は、両成敗の掟があったにもかかわらず

おとがめなしだった。

この措置を不服とした家来の有志が

城代家老の大石内蔵助(おおいしくらのすけ)をリーダーに

仇討ちを企てる。

そして翌年の12月14日、吉良上野介の屋敷に討ち入って

主君の無念を晴らすが、世間を騒がせた罪により

47人の浪士たちには、揃って切腹のお沙汰がくだる…

そういう物語だ。


赤穂浪士の討ち入りは実際にあったそうだが

センセーショナルなこの事件はその後

かなり脚色されて歌舞伎や芝居の演目となった。

そのため今や、元の話がどうだったのかはっきりしないらしい。

よって忠臣蔵は、史実というより物語として

今も生き続けているわけだ。


物語では、若い浅野内匠頭が

朝廷からの使者を迎える接待役に選ばれ

今で言うと官僚みたいな立場の老人

吉良上野介から指導を受けることになる。

しかし吉良の指導に対するお礼の贈り物が少なかったため

意地悪をされながらも頑張る。


接待役の仕事が本番を迎え、いよいよ今日で最後という時

吉良から接待役のドレスコードを教えられ

その通りに紋付袴で儀式に臨む。

しかし本当は第一礼装の烏帽子大紋(えぼしだいもん)

だったことを知り、大ショック。

家来の機転で烏帽子大紋に着替え、出てきたところを

松の廊下で吉良上野介と出くわして、また意地悪を言われ

とうとうキレて斬りかかった…

ということになっている。


が、歴史研究家と言われる人たちがテレビで主張するには

浅野内匠頭は精神的に弱いタイプで

重責による緊張によって吉良上野介を逆恨みしたのだという。

そして主の死によって自動的に無職、つまり浪人となった

赤穂浪士と呼ばれる人たちも

仇討ちを期待する世間の声に押されて仕方なくやったのだ…

あるいは再就職ゲットのために、忠臣アピールをしたかったのだ…

という話。


今となっては何が本当だかわからないが

逆ギレした殿様と、家来の打算を組み合わせることで

残念な事件にしたがっているような気がしないでもない。

忠義だの恩だの仇討ちだの、嫌う勢力がけっこういるからね。


その真偽はさておき、私はこの忠臣蔵が昔から好きで

さまざまなテレビ放映やDVDをたくさん見てきた。

なぜ好きになったかというと祖父の影響もあったが

浅野内匠頭の妻あぐりが、広島県の人と知ったのが大きい。

あぐりさんは、県北にある三次の出身だそうだ。


物語に出てくる数々のエピソードは

日本人の好む事柄が盛り込まれているため

見るたびに血湧き肉躍るわけだが

わずかばかり会社の経営に関わっている身としても

しみじみとうなづけたり、参考にできることが多々ある。


『贈り物事件』

朝廷の使者の接待役に選ばれた浅野内匠頭は

指導係の吉良上野介に贈り物をすることになった。

一緒に接待役をする別の藩の殿様は、吉良に豪華な贈り物をしたが

浅野内匠頭の贈り物は少なく、これがいじめの発端となった。


贈り物を届けた家臣がつまらん…

私はそう思っている。

主君が質素でいいと言ったとしても

家臣は身銭を切ってでも、他藩に並ぶ贈り物をするべきだった。

最初にプレゼントを惜しんだばっかりに

殿様は死に、お家は取り潰されたのだ。

後でいくら泣いても、取り返しはつかない。


『畳事件』

浅野内匠頭は、朝廷の使者の休憩所をセッティングする。

吉良に畳替えの必要をたずねると、しなくていいと言われ

そのままにしていたら、前日になって畳替えをしてないと怒られる。

家臣が奔走して畳屋を集め、翌朝までに数百枚の畳替えを済ませた。


普段、威張っていると人から嫌われる。

こういう火急の時、誰の世話になるかわからないので

日頃から人には親切にしておかなければならない。


『ドレスコード事件』

冒頭で述べた、略式礼装の紋付袴か

第一礼装の烏帽子大紋かの問題。

吉良から紋付袴でいいと言われていたのに

会場へ行くと列席者は皆、烏帽子大紋姿だった。


仰天して控え室に戻った浅野内匠頭に、家臣は言う。

「このようなこともあろうかと、烏帽子大紋を持参しております。

ささ、お着替えください」

相手は意地悪な吉良だ。

これくらいの準備ができなければ、社会人として一人前とは言えまい。


『偽物発覚事件』

討ち入りのリーダー、大石内蔵助は京都の花街で

チャラチャラと遊びほうけ

吉良を討つ意志は毛頭無いと見せかけていたが

いよいよ仇討ちが近づいて、江戸に下る時がやってきた。

ドラマによって名前は異なるが、ここではその中の一つ

垣見五郎兵衛という名前を使ってご説明しよう。


江戸へ向かう大石内蔵助には、荷物がたくさんある。

途中で調達した、討ち入りで使う武器や装束だ。

垣見五郎兵衛は幕府のご用をする人物で

朝廷や幕府の大事な荷物を運ぶのも仕事だった。

大石内蔵助は、この垣見五郎兵衛の名をかたり

荷物と共に旅をしていた。


ところがある宿で、本物の垣見五郎兵衛とブッキング。

先に宿へ着いた偽物が、垣見五郎兵衛ということになっていたので

後から到着した本物は当然、怒る。

抗議に行った本物の垣見五郎兵衛を待っていたのは、大石内蔵助。

垣見五郎兵衛は家紋を見て仇討ちを悟り

自分が偽物だと言って宿を立ち去る。


私は、このエピソードが一番好きだ。

お芝居で演じるために後から作られた創作だろうが、やっぱり好きだ。

大石内蔵助の心を察し、自分が偽物だとまで言える

垣見五郎兵衛のスマートさに惚れ惚れしてしまう。

忠臣蔵で一番かっこいいのは、この人だと思っている。

ドラマによってはこのシーンが無いものがあり

その時は残念な気持ちになる。


ひと目で全てを察し、引くことができる…

これはなかなかできるものではない。

押すことや投げ出すことはできても

さらりと引くのは難しいものだ。

これができれば、一流の人間といえるのではなかろうか。

私はまだまだ…などと、はるか元禄の昔に想いを馳せるのである。
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幸福の園・3

2020年12月13日 12時57分08秒 | みりこんぐらし
ひと通りの見学が終わると、私は2人を引っ張るようにして

兄貴に別れを告げた。

「センセ、なんだか私、体中が浄化されたような気がしますぅ」

「私もぉ!うかがって良かったですぅ」

ありがとうございました〜…

振り返り振り返り、兄貴に叫ぶ2人。

兄貴は笑顔で手を振っていたが、ありゃ絶対怒っとる。


やっぱりこの人たちには、田舎定食と田舎スーパーがお似合いだ…

人付き合いにはそれぞれ、ふさわしい場所がある…

変わった所へ連れて行くもんじゃない…

ましてや第三者に会わせるなんて、もってのほかだった…

私は激しく後悔しながら、次のプログラムへと進む。


今度はユリちゃんのお寺の料理で知り合った、梶田さんのカフェ。

明るくて気持ちのいい彼女は、兄貴のお気に入り。

この秋から兄貴に頼まれて、毎週日曜日にカフェを出店している。

先ほど我々が過ごした飲み物中心のカフェとは違い

こっちは食事系。

梶田さん得意の西洋あか抜け定食、一品だけのカフェである。


ここには先月、同級生で結成する5人会で訪れたが

味はもちろん、テーブルセッティングや器も

梶田さんのセンスが光っていた。

それで、ぜひまた行きたいと思って計画したのだ。

2人には腹を立てていたので

強引に連れて帰りたいところだが、行くことは伝えてあり

我々の分をキープしておくように頼んであったので

行くしかないのだった。


梶田さんは我々の訪れをとても喜んでくれた。

その日はお客さんが少なかったそうで、店には我々だけ。

そして最後の客になりそうだ。


ここでも2人は、先ほどの体験を得意げに話す。

「それは大変だったねえ。

私は何もわからないほうだけど

そういう体質の人はつらいって聞くよ」

優しい梶田さんは2人を慰め、2人はそれが嬉しくてますます上機嫌。

長居をして、しゃべりまくっている。

私は相変わらずチッと思いながら

時々「もう帰ろう」と提案しつつ、その光景を眺めていた。


2人の気が済んで、やっと帰れる瞬間がやってきた。

会計でラン子は1万円札を出したので

梶田さんが申し訳なさそうに言う。

「ごめんね〜!今日はお客さんが少なかったから

お釣りが足りないのよ」

ラン子はいつもそうだ。

遊びに行くのは先月からわかっているのに

お金を細かくしておく配慮を一度もしたことがない。


私も両替をしてやるほど千円札を持っていなかったので

ラン子の料金を立て替えた。

「え〜?悪いわ〜!」

ラン子は一応言うが、過去の前例から

戻ってくる確率は5割というところか。


だから嫌だけど、そんなことでグズグズしたくない。

兄貴という教養人を不快にさせた2人が

今度は梶田さんという善人に危害を加えないうちに

一刻も早くその場を去りたかった。

ヤエさんとラン子にとっては今日限りの相手だろうけど

私にとっては今後も付き合いを続けたい人々だ。

私にはこんな友だちしかいないと思われたら…

いや、実際こんな友だちしかいないんだが…

恥ずかしいではないか。


帰りの車中で「楽しかった」を連発する2人に

「コーヒーまでご馳走になって、兄貴に申し訳なかったわ」

私がつぶやくと、ヤエさんが言うではないか。

「ああ、あのお金は私が払っといたから」


終わった…と思った。

ここは、「ごちそうさま」と甘えるところだ。

黙って支払いをするのは

人の気持ちを踏みにじる不粋というもの。

パリの粋が信条の兄貴に、これは相当きつい仕打ちである。


ヤエさんはそういう人なのだ。

気配りの人なんだけど、時々配慮の的がズレる。

厳しい半生を送ってきた後遺症で、配慮の的がズレるのか。

それとも配慮の的がズレているから

厳しい半生を送らなければならないのか。

わたしゃ何となく、後者のような気がしてきた。


翌日、ユリちゃんを介して兄貴からの伝言が伝えられた。

「せっかくコーヒーをご馳走したかったのに

どなたかが払ってくださってて残念だった。

次は甘えてね」

それから、霊騒ぎの件も指摘があった。

「場所を考えてね」


私はユリちゃんに謝罪の言葉を託した。

「本当にごめんなさい。

アレらは二度と連れて行きません」

ユリちゃんはちゃんと伝えると言い、そしてたずねた。

「ところで25日、暇?」

その日は檀家さんが集まって年末の大掃除をするので

昼ごはんを作って欲しいという話だった。


主婦が年末に暇なわけ、ないじゃろが。

来年までごはん作りは無いって、言うとったじゃろが。

しかしこんなことになってしまったので、拒否しにくい。

おそらくユリちゃんも、そのつもりで言ったと思う。

行くと答えるしかなかった。

最初は万引きが見つかって、ゆすられるようになった主婦が

だんだん悪の道に足を踏み入れて行く…

そんなサスペンス気分よ。


25日は、ちょうどクリスマス。

鶏肉に、あとは赤と緑でごまかそうと思っている。

《完》
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幸福の園・2

2020年12月11日 10時14分57秒 | みりこんぐらし
「どんな所かしら?ワクワクするわ!」

「楽しみ!」

期待にはずむ2人を乗せた車は、やがて目的地に到着した。


兄貴は、オバさんトリオを歓待してくれた。

この日は日曜日なので、庭に仮設のカフェが出ている。

兄貴と仲良しのパティシエが営業しているのだ。

「みりこんさんには、いつも美味しい物を食べさせてもらってるから

今日は僕にご馳走させて」

兄貴は言い、コーヒーとケーキのセットを注文してくれた。


温かい陽射しの中、兄貴と話しながらコーヒータイム。

ヤエさんは彼の人柄に魅了されたらしく、とても楽しそうだ。

良かった…と思った。


その後は兄貴の案内で、庭を散策。

所々に彼のオブジェが点在する以外は

野趣あふれる…というか、木が生えっぱなしのナチュラルガーデンだ。


そして、いよいよメインの古民家へ。

そこは兄貴の作品や、おびただしい骨董のコレクションが

部屋ごとに展示してあるギャラリーのようなものだ。

展示してあるだけで売り物ではないのが

欲の無い彼らしいところである。


幸福の園…

今までに何度か訪れた、この庭と古民家

そしてそれを取り巻く自然溢れるスペースを

私は密かにそう呼んでいる。

好きとか、癒されるのとは違う。

むしろ、あんまり好きなジャンルではない。

それなのに、自分の歩いてきた長い道がここへ繋がっていたような

一種不思議な感覚だ。


他にも見学に来たお客がチラホラいるのに

兄貴は我々に張り付き、丁寧に説明してくれて申し訳なく思う。

ユリちゃんの息がかかっている我々一行は、特別扱いなのだ。

古民家が大好きなヤエさんは非常に喜び、作品に歓声を上げて

すっかりハイテンション。

やはり連れて来て良かったと思った。


やがて我々は骨董を展示した、ほの暗い一室に案内される。

セキュリティの問題から

滅多に人に見せないという骨董を見せてくれた時

ヤエさんが騒ぎ始めた。

「ここ、変です!何かいる!

私、気分が悪いわ…頭が痛い!」

「え〜?何ともないよ?」

「私、ダメなのよ。

これよ!これが良くないみたい!」

ヤエさんは、一体の動物の人形を指差して言う。


それを見ていたラン子も、少し遅れて騒ぎ始めた。

「あっ!私も胸が苦しいっ!息ができない!」

胸を押さえ、うずくまるラン子。

こいつはいつもそうだ。

人が霊絡みで騒ぐと、後発でその気になる。


兄貴は平然と言った。

「明るい所で、少し休んだら」

隣の部屋へ移ったヤエさんとラン子は

頭が痛いだの、胸が苦しいだのと騒ぎ続けている。

私は恥ずかしさと、兄貴に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

滅多と人目に触れない特別なコレクションを見せてくれたのに

変なモンがいると言われた兄貴の気持ちは、いかばかりであろう。


静かにしろ、と言いたかったが

それで静かになるのか、ますます騒ぐのかが全くわからない。

私はチッと思いながら、2人が落ち着くのを待つしかなかった。


思えばこの2人が霊の方面で騒ぐのは、今回が初めてではない。

霊を感じられるのが

さも敏感かつ優れた人間であるかのように、突然騒ぎ出す。

ラン子の方は、ヤエさんが騒いだ時に負けじと騒ぎたくなるマユツバ。

私はしばらく会わないうちに、この悪癖を忘れていたのだ。


記憶によると、ヤエさんが騒ぎ出すのは

たいてい名所旧跡、つまり古い建物や古い物のある所。

そして薄暗い所、建物の構造による気温の低下を感じる所。

つまり古いという認識に加え

視覚や体感温度の変化といった物理的な条件が整うと起こる

一種のヒステリーじゃないのか…

私にはそう見える。


ヤエさんは古民家が好きだと言うが

古民家には古い物が置いてあるものだし

中へ一歩入ると暗かったり寒かったりするものだ。

発症?の条件が揃っているために、古民家が好きなのかもしれない。


田舎じゃ、このようなパフォーマンスがまだ通用することがあるけど

ヨーロッパ育ちの兄貴の前でこれをやらかしても

不発は確定だ。

他のお客さんもいることだし

彼女たちの反応をツイッターなんかでつぶやかれたら

迷惑千万じゃないか。

何かを感じるのは個人の自由だが

騒いでいい所とそうでない所はある。

気分が悪ければ、黙って席を外す配慮が欲しいものだ。

この配慮ができない人は、みだりに霊を語ってはいけない。


とはいえ彼女たちは、兄貴やこの場所が嫌なわけではない。

むしろ気に入っているから、やらかす。

自分は一般の人とは違う特別な人間です、というのを

兄貴に印象付けたいのだ。

そんな独りよがりの背伸びが、場の雰囲気を台無しにし

人の善意を踏みにじることなど、本人は知るよしもない。

長く生きていると、そういう人を見る機会はたくさんある。


「気分が悪いんなら、帰ろうや」

私は怒りを押さえて言ったが、2人は首を振って

「ううん、もっと見たい!」

これが私の診断?を裏付ける証拠である。


アレらはそれで満足かもしれないが

変なのを連れて来て、兄貴に失礼を働く結果になった私は赤っ恥よ。

兄貴やユリちゃんとの付き合いにも

今後は支障が出るかもしれない。

私は2人を連れて来たことを心から後悔した。


兄貴に霊能?の披露を済ませた2人は

私の落胆をよそに、ますます張り切りなさる。

別棟に行くと、今度はヤエさん

「あっ!上から話し声が聞こえる!

誰かが私に話しかけてる!」

他のお客さんに聞こえないか、ハラハラした。


スピリチュアル・ジェネリックのラン子も続く。

「本当だ!聞こえる!

何?この声!」

兄貴は相変わらず平然と

「裏手に民家とカフェがあるからね」

「あ、そうなんですか」

あっさりと騒ぐのをやめる2人。

穴があったら入りたい心境とは、このことだ。


《続く》
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幸福の園・1

2020年12月09日 09時41分32秒 | みりこんぐらし
先週の日曜日、一回り年上のヤエさんと

3つ年上のラン子の3人で、久しぶりの女子会をした。

この2人は10年ほど前の選挙で知り合った友人。

親しくなった当初は月1のペースで会っていたが

ヤエさんは姑さんの介護や自身の病院通い、ラン子は孫のお守りや転職

私は同級生の集まりと、それぞれ忙しくなって遠のいていた。


3年ほど前だったか、姑さんを見送ったヤエさんが

燃え尽き症候群になり、外へ出たくないと言うので

ますます会わなくなった。

一昨年の西日本豪雨で彼女の家が被害を受けた時

少し接触したものの、まだ本調子でないのがわかったので

それっきりになっていた。


それからまた月日が経過し、やっと集合したのは今年の3月。

ヤエさんは元気そうだったので、ホッとしたものだ。

が、会うと開口一番

「みりこんさん、弁護士を紹介していただけない?」

昔から何かと悩み多きヤエさんは、その時も深く悩んでおられた。


彼女が言うには、亡くなった姑さんから

ご主人が相続した土地のことで悩んでいるそうな。

そしてそのことを相談した司法書士に解決を断られ

ひどく立腹したそうな。

それで土地の件を解決してもらいつつ

庶民の味方をしない司法書士を罰したいそうな。

司法書士の上といったら弁護士だろうから、お願いしたいそうな。

これはロクでもない内容に違いない…

うっかり紹介したら、弁護士から恨まれる…

すぐにそう感じた私だった。


ヤエさんの話によれば

姑さんから相続したのは、山の上にある小さな荒れ地。

姑さんも、その荒れ地を先代から相続した。

電気や水道はおろか、道路も通ってないので行くことすら困難だが

価値の無い土地であっても

それなりの固定資産税は払わなければならないそうだ。


一方、姑さんがその荒れ地と一緒に相続した土地の中に

全く別の場所にある宅地があった。

姑さんはその宅地を相続した時

なぜか自分の遠い親戚に贈与していたことが

亡くなってからわかった。

当時、そこもやはり荒れ地だったが

今は開発が進んで周りに家がたくさん建ち、値打ちが上がったという。


つまりヤエさんの主張は、彼女のご主人が相続した荒れ地と

何十年か前、遠い親戚に贈与された宅地とを交換したいというもの。

それを司法書士に相談したら「無理です」と言われたので

今度は弁護士に相談したいということだった。


知ったかぶり屋のラン子が横から口を出すのをうるさく思いながら

私は司法書士と同じことを言う。

「無理です」

なぜ無理なのかをこんこんと説明し、自分の体験や周りの出来事を話し

そして解決するまで払うのを止めているという荒れ地の固定資産税を

早く払うように言った。

「放っておくと、サラ金並みの利息がつくよ」


私の反応が不満だったらしく、ヤエさんはその後も嘆き続けた。

「一生懸命、親の面倒を見て頑張ってきた結果がこれなの?」

「そうです。

親の面倒を見たからといって、良い物ばかりが回ってくるとは限りません」

「この固定資産税は、子供から孫へ受け継がれるの?」

「そうです。

ハンカチ落としのハンカチ、ババ抜きのババ…

土地とは厄介なものなのです」

「じゃあ、私たちは泣き寝入りなの?」

泣き寝入りも何も、ヤエさんが住む家土地や農地は

彼女夫婦が相続しているのだから、あれは欲しくてこれはいらない

交換してくれ、なんて虫が良すぎるというものだ。

が、面倒くさいので言わない。

「全部、おばあちゃんが悪いのです」

そう言ったら納得した。



この時、ヤエさんの精神状態はまだ回復していないとわかったので

また疎遠になった。

しかしラン子がやいのやいのと催促するため

9ヶ月ぶりの再会が実現した次第である。


が、その日もヤエさんは苦しみの中にいた。

会わなかった間に、関東に住む社会人のお孫さんが亡くなっていたのだ。

事故なので仕方がないと言いつつも、彼女は自分を責めていた。

この人の人生は、本当に厳しいものだ。

とてもいい人なのに、いつも彼女を目がけて

災難や悲しみが降り注ぐような気がしてしまう。

どうしてこうなるのだろう。


ともあれ姑さんが亡くなって以来、ヤエさんは車の運転が嫌いになり

ラン子は免許を持っていないので

この女子会の運転手は私ということになっている。

行き先は運転手に一任されるため

私はヤエさんを車に乗せ、隣町へラン子を迎えに行くまでの10分間

どこへ行こうかと必死で考えた。

ヤエさんからお孫さんのことを聞かされるまでは

近場のレストランでランチ、その後はスーパーで買い物…

とテキトーなプログラムを考えていたので、慌てていた。


何でテキトーかというと、この集まりは燃えないのじゃ。

ラン子の愚痴と家族自慢を延々と聞きながら

「ついでにあそこへ行ってみたい」

「せっかくだから、あそこもいいな」

運転しない人がよくやる、ついでやせっかくのおねだりに

うっかり返事をしないように気をつけながら運転するのは疲れるからじゃ。

ヤエさんも運転が嫌になったと言っているが

実はこれを避けたいからではないのか。


いずれにしても、楽しかったらもっと度々会っとる。

楽しくはないけど、まんざら嫌でもない…

人はそれを惰性と呼び、私はそれを魅力と呼ぶ。



さて、ラン子を車に乗せる直前になって、私はやっと思いついた。

ヤエさんを“兄貴”に会わせよう…

今のヤエさんを元気づけるのは、新しい出会いだ…。


兄貴とは、同級生のユリちゃん夫婦が慕ってやまない芸術家である。

私も最初は半信半疑だったが、彼と接する機会が増えるにつれて

その教養や洗練されたセンスに圧倒され

芸術、食、神仏への造詣の深さ、人脈の広さに感嘆するようになった。

だからといってお高くとまるでもなく

彼と話すと心が洗われるような、何やら自分が進化していくような

不思議な気持ちに包まれる。


その兄貴は、とある古民家に活動スペースを持っており

ちょっと遠い所だが、運が良ければ会えるはず。

多忙な兄貴が不在でも

ヤエさんの好きな古民家は彼女の心を癒やすだろう。

見慣れた近場をウロチョロして、「次、どこ行く?」を繰り返すより

いっそ目的をはっきりさせて遠出をする方が

消耗を避けられるのではないのか。


ユリちゃんに電話をすると、兄貴に連絡を取ってくれて

「お待ちしています」との返事をもらってくれた。

こうして我らオバさんトリオは、兄貴を目指すことになった。

この他力本願の思いつきが甘かったことなど

私には知るよしもなかった。

《続く》
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近時事・湯豆腐、大統領選、年賀状

2020年12月08日 08時25分38秒 | みりこんばばの時事
会社の話にかまけているうちに、友人のけいちゃんは東京へ引っ越した。

11月、我々仲良し同級生5人はお別れ会と称し

観光に食事にと寸暇を惜しむように会った。

あんまりお別れ会が続くので、マミちゃんは家族にたずねられたという。

「一体、何人の人とお別れするの?」

一人だと答えると、あきれられたそうだ。


普段あまり出かけない私も

「また?」、「え?今日も?」と家族に驚かれながら遊び回った。

夫の実家で義母と暮らすようになって9年、こんなに出かけたことは無い。

そんな前代未聞の11月を過ごした私は、少しばかり賢くなった。

お出かけが増えたもんだから

晩の下ごしらえをして出るのがかったるくなり

外出した日の晩は湯豆腐が便利と知ったのだ。

公称は、あくまで湯豆腐。

夕食までのタイムリミットによって具材を増やしたり減らしたりして

湯豆腐と鍋ものの間を行ったり来たりする。


時間の無い時は、豆腐と乾燥ワカメだけ。

鍋のワカメは義母の好物なので、外せない。

乾燥カットワカメをぶち込むだけなので、簡単だ。


タレは麺つゆとネギと削りカツオ。

これに各自が、湯豆腐のダシを好きに入れて食す。

出先で買った土産代わりの惣菜を並べれば

家族は満足すると知った。


少し時間がある時は、白菜、白ネギ、水菜、マロニー、餅…

残り時間と冷蔵庫の中身によって具材を増やしていく。

肉、あるいは魚が入って鍋ものに昇格したり

都合によってバリエーションを変化させられる湯豆腐って最高。


ハッ!

家族の健康診断の結果が良かったのは

もしかして、これ?

風が吹けば桶屋が儲かるじゃないけど

私の外出が家族の健康にいいなんて皮肉なものね。

ま、いいか。



なんて言ってるうちにアメリカ大統領選は

どんどん大変なことになってるわ。

よその国のトップが誰になろうと知ったこっちゃない…

と言いたいところだけど、そうもいかんのよ。

アメリカは世界のリーダーみたいなものだから

軍事、経済その他でアメリカの庇護下にいる日本への影響は

大きいと思うわ。


国によって政情が違うから、いちがいには言えないかもしれないけど

首相とは段違いの大きな権限を持つのが、大統領。

アメリカの大統領は、核爆弾をいつでも発射できるボタンまで持ってんのよ。

何年か前にオバマ大統領が来日した時も、核のボタンは一緒に来日したそうよ。


で、その大統領選、ひとまずバイデンさんが勝ったことになったんだけど

不正選挙が行われたとして、現職のトランプさんが訴訟を起こしてる。

その不正には、中国が深く関わってるという話。


バイデンさんはオバマさんと同じく、よく言えば中国と仲良し

悪く言えば中国の操り人形らしいけど

世界中にコロナウィルスをまき散らした国を優遇されては困るわね。

バイデンさんには小児性愛癖があるとも言われてるけど

本当かしら。

潔白なのにそんな噂が出たら、悲しいわよね。

私が彼なら名誉毀損で訴えるし

世界に向けて記者会見を開いて潔白を叫ぶけどな。


それにしても、アメリカが選挙結果を巡ってゴタゴタし始めたら

マスコミはトランプさん批判とバイデンさん上げ一色だったわね。

で、不正選挙の証拠が次々と明らかになるにつれて

だんだん静かになってきて、今度は様子見のつもりか

マッチの不倫疑惑、アンジャッシュの片方の反省会見で騒いでた。

盛りを過ぎた元アイドルの色恋や

シモの癖が悪いコメディアンの涙なんか、誰も見とうないわい。

もっとマシなネタは無かったのかしら。


それが落ち着いたら、トランプさん下げもバイデンさん上げも消えてたわ。

そしたら「桜を見る会」が蒸し返されて、安倍さんが追求されてる。

ひょっとしたらトランプさんと仲のいい安倍さんには三選の目があって

それを是が非でも阻止したいために

今のうちに安倍さんを潰しておきたいように思える。

今や世界中の嫌われ者になってしまった中国様を守るためには

中国様に都合のいい大統領が必要で

そのためにマスコミがこぞって協力しているように見えるわ。

トランプ大統領、応援しています。



そうそ、かのやんごとなきお宅も、お嬢様の結婚で大変そうじゃないの。

なんだかんだ言いたくないけど

「お気持ち」っていうのを発表さえしたら

願望がまかり通るのが恒例になってしまったわね。


この問題は人々の心を妙に刺激するらしくて面倒だから

季節柄、年賀状についてお話しさせていただくわ。



何年も前のものだけど、知ってる人の間では有名な年賀状よ。


年賀状にこんな絵を描く神経の方はともかく

左下の数字を見たんさい。

50分の1って書いてあるから。


これね、有名な画家や版画家が、自分の作品に打つナンバーなの。

これだと、同じものを50枚制作したうちの

1枚目ってことになるわ。

1枚目って、値打ちがあるのよ。

たかが自分の描いた年賀状にナンバー打ちなんて

普通はおこがましくてできないわよ。


でもやる。

やらずにはいられない。

「私には年賀状を出すお友達や知り合いが50人いるのよ。

その中で最初の1枚をあんたに出してあげるわ」

さりげなく、そう言いたい。


で、「今年は私たち、こういう関係になりましょうね」

と思わせぶりな絵で気を持たせ、財布を繋ぎ止める。

うまいわ。

さすがよ。

絵じゃなくて、やり方よ。





画伯。
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再び・現場はいま…12

2020年12月05日 09時01分40秒 | シリーズ・現場はいま…
「この人がいたら、みんなが不幸になるんです!」

神田さんは藤村を指差して言った後

「私、もう辞めます!」

突然の退職宣言をすると、事務所を出て帰ってしまった。


とり残された永井部長、藤村、夫、長男。

「…自主退社だよね」

永井部長は藤村にそう言い、藤村はうなづく。

欲しかった自主退社の言葉を手に入れた2人は

早くも神田さんのダンプに誰を乗せるかを話し始めたので

夫と長男は仕事に戻った。


神田さんのダンプの乗り手を探すのは、難しいだろう。

だって彼女のだけ、ノークラッチ。

今どきは、大型ダンプにもオートマチックがあるのだ。

運転が楽なので初心者向けだが、力が弱くて小回りがきかないので

道路を行ったり来たりする単純な運搬作業に使われることが多い。

クラッチを駆使する現場仕事には向かないため

男のダンプ乗りにとってはパッとしない乗り物といえよう。


藤村は早い段階で神田さんに目をつけ

彼女のためにノークラッチダンプの購入を押した。

つまり彼女もまた、ダンプ購入前の早い段階から

こちらへの転職を決めていたのだ。

ノークラッチを言い訳にすれば

きつくて技術のいる現場仕事に行かなくて済み

楽で簡単な運搬仕事だけに専念できる。

ノークラッチダンプは、神田さんを釣り上げたい藤村にとっても

実際に働く神田さんにとっても都合の良い車であった。


藤村の考えでは、また女性を雇えばいい。

神田さんが入社した時点で、候補者はすでにいたからだ。

亭主が酒乱で有名な、神田さんの元同僚である。

その人はすでに神田さんから、藤村の変態ぶりを聞いていたため

転職する気は失せていたが

藤村だけは、この話がまだ生きていると思い込んでいた。


ともあれ神田さんが怒って帰り、永井部長も帰った後で

藤村は彼女がダンプのキーを持ち帰ったままなのを思い出した。

どこの会社でも、運転手は終業すると

ダンプのキーを事務所に返して退社するのが義務になっているが

なぜか彼女だけは自分のバッグに入れて持ち歩いていたからである。


翌朝、藤村は神田さんに、ダンプのキーを返すよう電話した。

一緒に保険証も返し、退職届の印鑑を押すように、とも伝えた。

すると神田さんは

「今日と月曜日は、用があるから行けません。

火曜日の朝、行きます」

と答えた。


この返事が生意気だと不満を持った藤村から

火曜日と聞いた夫は、後で私に言った。

「行く気じゃわ」

どこへって、例の公的機関である。

「月曜に行くつもりじゃ」

なぜ、そんなことがわかるのか…

それは我々にとって常識の範疇だった。


毎週土曜日、神田さんだけは休んでいいことになっていたので

月給のうちだから、わざわざ来る気はない。

その土日を利用してLINEなどの証拠を整理したり

知り合いに相談して知恵をつけ、準備を整えてから

月曜日、おカミに訴え出る。


そこでアドバイスに従い、診断書をもらいに病院へGO。

もちろん保険証返すな、退職届の印鑑押すな…などのアドバイスもある。

体調を崩したとなると病院へ通う必要があるし

回復するまでは、社員として給料の80%の非課税休業補償を

会社から支給させて、生活を維持する権利があるからだ。


こうして後ろ盾を得てから

敵にとって全てが後の祭りとなった火曜日に

敵と対面してダンプのキーを返す。

キーを持ち帰ったというのはあまり聞かないが

このプログラムは、業界でよくあることなのだ。


火曜日、藤村はキーを返しに来た神田さんから

告発の事実を告げられた。

彼女が去ると、すぐ永井部長に連絡。

その後は本社に呼ばれて、その日は戻らなかった。

また長男のせいにしたことは、わかっている。


行きがけの駄賃ではないが、神田さんも

藤村と長男のダブルでやられたと主張するだろう。

事実、彼女は次男にそう言った。

藤村個人をチマチマと攻撃するより

藤村の所属する本社と、彼女の所属するこっちの二社を

相手取ることができるからだ。

お金になるとなれば、この際何だってやるものよ。

かまわない。

肉を切らせて骨を断つ所存だ。


それで長男に嫌気がさして辞めたとしても、仕方がない。

元々、彼には合わなかったのだ。

それを義理や恩のために我慢させていた、我々親も悪かった。

40才の彼は老後が近い。

ここらで自由になるのもいいかもしれない。

当の長男は、とりあえず一人いなくなったので

気が楽だと言っている。


ただ、神田さんが事務職であれば彼女の主張は全面的に通るだろうが

藤村の下心を知りながら、彼の保護を前提に

まだ女性を受け入れる準備ができていない会社へ入り

男と同じ給料を受け取りながら

周囲の我慢と譲歩を受けて働こうとしたのは彼女の意思である。

ママさんバレーを始めて日の浅い人が、まかり間違って全日本チームに入り

レシーブができなくて怪我をしたのと似たようなものだ。


男性中心の職場で、女性の社会参加を阻んだ見せしめとして

とことんやられるのか。

それとも双方の言い分を考慮した、正義に近い判断が下されるのか。

時節やタイミングによって多少変化するであろうこの辺りが

私の関心事である。


ともあれこの問題は、本社の顧問弁護士が対応することになった。

藤村の嘘は、弁護士によって明らかになるだろう。

それでもおそらく、本社は藤村をかばう。

変態でもだ。

人に性(さが)があるように、会社にも性がある。

直接雇用の人間をかばうのは、会社という組織の本能なので

どうしようもないのだ。


藤村は、神田さんの別れたご主人の職場へ行き

訴えを取り下げるように頼んだり

本社や例の機関に呼び出されたりと、このところ忙しそうだ。

ちなみに本人は、営業と言い張っている。


そんな中、会社の健康診断の時期が来たので、夫は病院へ行った。

こんな毎日だから、さぞ悪くなっているだろうと覚悟していたそうだが

胃潰瘍が治っており、胆嚢に2つあったポリープが無くなっていて

医師も驚いていたという。

なんだかんだ言っても、健康第一。

我々夫婦は手を取り合って喜んだものである。


とりあえず現場は今、こんな感じです。

ではまたいずれ。

《完》
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再び・現場はいま…11

2020年12月02日 10時02分32秒 | シリーズ・現場はいま…
何もかも長男のせいにして、逃げ切る策の藤村。

藤村を信じるというより、ほとんど共謀の永井部長。

絶望する長男。

事務所は重苦しい雰囲気に包まれていた。


この時のことについて、後で長男は私に言った。

「急に悪者にされたことより

親父が何も言わなかったことの方が悲しかった…」

自分もいい年だから、親にかばってもらおうとは思わないが

まるで他人事のように知らん顔だったのが情けなかったという。


「貝が出たんよ」

私はそう答えた。

夫は口下手なので、とっさに気の利いたことを言えず

貝のようにおし黙るしかないのだ。


長男を妊娠中の新婚時代

私が酔ったオジさんにいきなり絡まれた時も

隣に居た夫は終始無反応。

そのオジさんが夫の知り合いだったにもかかわらず

ただ眺めるだけだった。

その表情は平然、あるいは恍惚として見え

何と冷たい人よ…当時はそう思ったものだ。


酔っぱらいが立ち去ると、夫はごく普通に言った。

「災難だったね」

私の驚きと絶望が、おわかりいただけるだろうか。

これが我が夫、ヒロシである。

自分の身は自分で守らなければ…

この時に悟った私は、自身の弁舌を頼りに生きることにした。


以後も似たような体験を重ね

危険を感じると貝に変身するシステムは理解した。

浮気を繰り返すような男は、どこか故障しているものだ。


それでも長く暮らすうちに、いい人なのがわかった。

口で人は守れないが、その分、こまめな行動でカバーしている。

不甲斐ない貝への変身が、結果的に良い方向へ向いたことも何度かあり

気にするほどではないのもわかった。

一番の収穫は、自分と家族を口で守れるようになったことだろう。


余談になるが、妊婦の私に絡んだ酔っぱらいは

何年も後、寸借詐欺でお縄になった。

市内ではスポーツ関係の世話役として知名度があり

好人物と認識された人なので

皆は驚いていたが、私は胸がすいた。


ともあれこのような体験から、長男の情けない気持ちはよくわかる。

「わかるよ…悲しいし、悔しいよね」

これは個性じゃけん、仕方のないことなんよ…

代わりに父さんは子供を叩いたり、きつい言葉を浴びせたりを絶対にせん…

気分で家族に当たることも絶対に無い…

あんた、小さい頃から父さんのご機嫌をうかがったことなんか

一回も無いじゃろ…

それで十分じゃないか…

口で自分の身を守れるようになりんさい…

今のボキャブラリーじゃあ、まだ手薄ということよ…

長男にはそう話し、彼も笑顔になったのでホッとしたものだ。



さて、現場に戻ろう。

永井部長は、全てを長男の責任にして一件落着にしようとした。

「ま、そういうことだからね。

君もよく考えて、藤村さんに従ってください。

会社の悪口を言ったことに関しては後日、誓約書を作成して届けます。

今後、会社の悪口を言わないという文書にみんなでサインをしたら

藤村さんを通じて本社に提出してください。

約束を破って、また悪口を言ったり

サインを拒否した場合は退職してもらいます」


永井部長の愚かな頭の中を想像するのは困難だが

彼の目的は、この誓約書だったのではないかと思う。

彼は、神田さんが労働基準局監督署へ訴えるのを止めたいのだ。

会社にとっては最高に迷惑かつ不名誉なことなので

取締役として未然に防ぎたいのは当然である。


会社の悪口を言わないなどと子供っぽい表現をしているが

これはおそらく、守秘義務に関する誓約書のことだ。

10何年か前から、医療機関や介護施設、金融機関などで

職員にサインさせるのが慣例になっている。

サインさせれば大丈夫というわけではないが

永井部長は、きちんと解決したことを上に見せるため

実は長男よりも神田さんの誓約書が欲しいのだと思う。


しかし悲しいかな、彼は危機管理の初心者。

謝罪を忘れている。

下手な小細工をせず、藤村が神田さんに心から謝ればよかったのだ。

藤村は頭を下げたくないばっかりに嘘をつき

何につけ我が社憎しの永井部長もそれに乗ったが

長男の責任で押し切るなら

長男に神田さんへの謝罪をさせなければ片手落ちだ。


その謝罪を神田さんが受け入れたら、和解成立となる。

納得しなければ和解の努力を続け

和解が無理であれば、第三者を挟んで示談交渉に進む。

危機管理は小細工より、誠意ある謝罪が先なのだ。

この基本中の基本を忘れて、コトが収まるわけがない。

こんなおバカさんを取締役に任命し

危機管理をさせる本社の行く末は暗そうだ。


また、長男に謝罪をさせなかったのは

彼らが嘘をついている証拠である。

嘘をついて無実の者に罪を着せることはできても

謝罪までは、なかなかさせられるものではない。

もっとも、長男に謝罪までさせようとしたら

永井部長は今頃、長男の手で藤村ともども病院送りだろう。



ともあれ藤村のスケベ問題のはずが

とんでもない方向へ行ってしまった。

永井部長は名奉行のつもりで得意満面

藤村は難を逃れて安堵の表情を浮かべ

父親は依然として貝。

それを眺める長男の頭に、退職の二文字が浮かんだその時だった。

「私のことはどうなるんですか!」

神田さんが叫んだ。


「だからね、あなたも誓約書が来たらサインをしてくださいね」

立ち上がり、帰ろうとする永井部長。

「私が藤村さんから受けた被害は、何も解決してないじゃないですか!

気持ちが悪くてごはんが食べられないし

夜もちゃんと寝れないんですよ!」

食い下がる神田さん。


「お気の毒ですね、お大事にね。

誓約書のほう、お願いしますね」

そう言いながらドアに向かう永井部長の前に

立ちはだかる神田さん。

「待ってください!

今日は藤村さんが私にしたことを

はっきりさせるんじゃあなかったんですか!」

「だから僕がマコト君に取締役部長として厳重注意をして

はっきりさせたでしょ?

それで誓約書にサインをすることになったんでしょ?」

のらりくらりとかわす永井部長。


「何が誓約書ですか!

そんなもん書かすんなら、藤村さんに

パワハラとセクハラをしない誓約書を書かせてくださいよ!」

「君ね、終わったことをだね

そういうふうに蒸し返すのは、どうかと思うよ?」

「終わってません!

何も解決してないじゃないですか!

私は被害者なんですよ!

私が受けた心の傷は、どうしてくれるんですか!」

「そう言われてもねえ」

「あなたがたは最初から、何もしてくれるつもりがないんですね!」

「何をして欲しいんですか…」

「藤村さんに謝ってもらいたいです!」

「それは…」

「この人がいたら、みんなが不幸になるんです!」

プレデター神田は、藤村を指差して吠えた。

《続く》
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