殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

どこの姫やら

2008年12月18日 14時30分55秒 | 不倫…戦いの記録
その夜、夫はさも不機嫌そうに帰って来ました。

今日のように一大事?があっても

泊まったり遅くなったりしないところを見ると

今度はそれが出来ない環境の相手でしょう。


         「会社、つぶれなかった?」

「…ああ。なんとかね」


        「お金、見つかるといいね」


「警察にも届けたけど、無理だろうな」

     「お使いのお金、落とすなんて

      昔話に出て来る丁稚(でっち)みたいだね」


アカデミー主演男優賞を取り損ねた丁稚どんは

思い通りにコトが運ばなかった時にいつもする

これ見よがしの大きなため息をつきました。


九州の仲居時代、板前見習いで入って来た若者がいました。

ものすごいほら吹きで

この仕事に入る前は空港の麻薬取り締まり官をしていたと言います。


愛犬のシェパードと共に、手荷物の中から麻薬を発見した話…

暴力団との激しい攻防…

つらく厳しい訓練…

身振り手振りで臨場感たっぷり、見て来たように話すので

みんな信じきっていました。


そのうちエスカレートして

誕生日には、多忙なパイロットやアテンダントたちが万障繰り合わせて

自分のためにホテルでパーティーを開いてくれた…

というような話になっていき…。

           ありえん…


本当は、暴力事件で服役が終わり保護観察中で

大将が保護司に頼まれて店に入れた子でした。

麻薬取り締まり官どころか、10代からムショ暮らしなので

働いたことすら無いという話でした。


嘘を語る時の彼の目は、あらぬ空間を見つめ

その風貌からかけ離れ、現実から遠くなればなるほど

熱を帯びたように輝きました。


どこかで見たことがあると思えば

自分の夫とそっくりでした。


このタイプの人は、嘘がばれても平気です。

嘘をついた、人をだましたという意識はありません。

夢を語っただけです。

だまされたほうも、あまりに突拍子の無い話だと

怒る気にもなれないものです。

そして誰も相手にしなくなると、新しい人材を探すか

どこかに流れて行って、またつらつらと作り話をするのです。


大ボラを吹くのは、淋しくて注目を浴びたいためか

持って生まれた性格なのか

それとも両方なのか、わかりませんが

しかし上には上がいる…と感心した次第です。 



しばらくは何事もなく月日が流れました。

何も無いというのは、けっこうなことです。

こちらに被害さえなければ、誰と何をしようがいっこうにかまいません。


その頃、私たち夫婦はやっと

お互いの携帯番号とメールアドレスを交換しました。

遠出をするようになった子供たちの事故が心配になり

夫から言い出しました。


前々から、不器用で機械オンチの夫が

メールを使いこなすことすら不思議でしたが

人間その気になったら何でも出来るものだなぁ…と思います。


子供たちがまだ小さい頃

夏祭りで、商工会のメンバーが生ビールの夜店を出すことになり

夫も参加していました。


夫のいる店をのぞくと、ねじり鉢巻きをして

一生懸命ビニールパックに入った紙コップを

取り出そうとしていました。

          おうおう、やっとるな…


子供たちと夜店をめぐり、20分後にその前を通ると

夫はまだ同じビニールを開封しようと苦心さんたんしていました。

マジックで大きく番号が書いてあったので

同じ物とずっと格闘していたのだな…とわかりました。


それほどの猛者ですから、愛してるだへったくれだと

芋虫のように太い指でメールを打つのが

信じられませんでしたが

時折、天気がいいとか他愛のないことで

気まぐれに私にもメールをくれるようになったので

私も時折返していました。


時折…というのはくせ者です。

たくさんの送受信の中に、たまに私のアドレスが割り込むわけですから。


その日はとうとうやって来ました。

「姫♪ごきげんいかが?

 昨夜は楽しかったよ。 

 今日も愛してるよ。チュ!」

どうも朝のご挨拶らしいです。


            なにが姫ぢゃ…

    
コメント (10)
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