殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

折り紙から八つ墓村

2023年05月26日 08時16分24秒 | みりこんぐらし
『こんな折り紙、作れる人がいるなんて信じられないわ』


これは先日、ある人から頂いたもの。

手前の薔薇なんて直径4センチぐらいで、花は1センチ弱なのよ。

可愛いったらありゃしない。

私は折り紙が苦手だから、尊敬しちゃう。


苦手といっても、一応は折れますぞ。

先日は2年飼ったクワガタが他界したから

チラシで小さい舟を折って、花をいっぱい飾って埋葬したもんね。

そりゃ美しい小舟になったわ。

写真を撮ってお目にかけたかったぐらいよ。


編物や刺繍、ソーイングなんかの手芸も一通りはできるけど

すぐ忘れちゃうし、もっとやりたいとも思わない。

向いてないのね。


年取って老人ホームに入ったら、こんな手仕事をさせられるんじゃないの?

病院の厨房時代にデイケア(病院直営のデイサービスのこと)があったから

そこでやってるのを見てたけど

折り紙、簡単な手芸や工作、輪投げ、お座敷ボーリング、カラオケ…

あとはクッキーとか蒸しパンなんかの軽いお菓子作り。

ギャ〜!私の苦手なことばっかり!


あとは行事で、施設職員の幼稚な寸劇や歌を鑑賞させられる。

前奏の間、いい大人がカカトを上げ下げしてリズムを取ったあげく

身振り手振りで“チューリップ”なんて歌われた日にゃ、暴れたくなるわよ。


みんなの迷惑になるくらいなら

デイサービスや老人ホームへ行くのもやぶさかではないけど

こういうことをやらされるのはマジで恐怖なのよ。

何もしなくていい施設、希望。


デイサービスといえば、この間、たまたまテレビでやっていたのを見た。

何げにおしゃれをした老人たちが集まって、やるのはマージャンやカジノ。

もちろん、お金は賭けないんだけど、部屋がゴージャスなサロンみたいで楽しそう。

介護職員も、ゲーム中はジャージじゃないの。

蝶ネクタイに黒のベストとパンツで、本物のディーラーみたい。

遊んでる老人も、世話する職員もカッコ良かった。


そのデイサービスで、一番素晴らしかったのは送迎車。

黒塗りのTOYOTAアルファード、つまり高級バンがズラリと並んでる。

車に施設の名前は書いてない。

あえて書かない。


デイサービスの送迎車といったら、たいてい白の安い車で

車体にデカデカと施設の名前が書いてあるじゃん。

老人って、あれで迎えに来られるのが嫌なんだってね。

介護を受ける身の上になったことが近所に知られるし

あれに乗せられること自体が恥ずかしくてつらいんですって。

黒塗りの高級車だったら、どこの車かわからなくて

しかもいい気分らしいわ。

行く時には、おしゃれだってしたくなるというものよ。

その気持ちが大事じゃないかしらね。


今までの介護は、授ける側の立場で進められていたけど

介護を受ける側の気持ちも考える時代になったのね。

こんなデイサービスなら行きたいと思った。

ただしマージャンも賭け事も苦手だから、やっぱり何もしないで放置希望。


こうして改めて数え上げると、私って苦手なものが多い。

好きなものや得意なものって、あんまり無いかも。

これだけは自信あるとか、これに夢中とか、無いわ〜。

唯一、好きと言えて、続いていて、これからも続けていきたいと思ってるのが

このブログかしらん。

地味で申し訳ないんだけど、いつもお付き合いくださって

本当にありがとうございます。


介護で思い出したけど、猿之助さんの事件は衝撃だった。

両親の介護とか、セクハラ記事が出るとか

引き金はあったんでしょうけど、複雑な事件ね。


後出しジャンケンになるけど、彼が若い時分から危うい印象は持ってた。

歌舞伎見たこと無いから、偉そうなこと言えないけど

ダイヤモンドのごとき揺るぎない実力と、ガラス細工のようなはかなさ…

大人と子供の両面を持った、そういう危うさ。

勝新太郎さん、萬屋錦之介さん、松田優作さんたちと同じ香り。

その危うさが、芸に色気と重厚感を醸し出して、目の離せないタイプね。


猿之助さんほどじゃないけど、香川照之さんにも

同じ雰囲気を感じてたわ。

朝の番組、安住紳一郎のTHA・TlMEで金曜日の司会してて

番組が始まるとしばらくの間、世相やご自分の思いを語るんだけど

言葉を短くプツプツ区切るから聞き苦しかった。


東大出で頭いいから、何でもできる人だと思い込んでいた私の勝手なんだけど

政治家になりゃいいのに…とまで思っていたのを撤回。

あれじゃ、岸田総理といい勝負。

演説は下手だわ。


そうこうしていたら、酒場のセクハラ問題が起きて出なくなっちゃった。

TOYOTAにもCMで大きな仕事もらって

いずれ日本を席巻するかのような飛躍ぶりだったのに、もったいなかったわ。


その香川さんが、猿之助さんと従兄弟同士だったとはね。

週刊誌の誇張もあるだろうけど、双方ともご自身の性癖を利用されたのは確か。

香川さんのお父様も、私が子供の頃には不倫で何年も大騒ぎだった。

輝かしい才能を性癖で傷つける人は、いつの時代もいるものよ。


「◯んで生まれ変わって、新しく生き直そう」

家族でそう話してコトに及んだそうだけど、これが本当だとしたら

あまりにも幼な過ぎる。

閉塞的な世界だし、忙しくてあの世のことなんて考える暇も無いだろうけど

選民意識満載の残念なお答え。

自分たちには、それが許されると思っていらしたということね。

知らず知らずとはいえ、その気持ちをうっかり表に出している限り

鼻をへし折ってやりたいマスコミは、騒ぎ立てると思うわ。


わたしゃ警察じゃないから詳しくないけど

一般人であれば、あの状況じゃあ、どう軽く見積もっても

何らかの刑事罰は免れないと思う。

この事件がもしも単なる不幸な出来事として片付けられ

不起訴になって早めに復帰なさったら

伝統芸能を守る影の力に感嘆するしかないわ。

どっちに転ぶか、見させていただきましょ。


長野県の方では猟銃事件が起きたし、物騒な世の中になったわね。

何だか、八つ墓村を連想しちゃった。


犯人は市会議長の息子さんですって?

『凡ソ榮誉ノアルトコロ  必ズ苦禍ノ因アリト知レ』

宮沢賢治が残した言葉を痛感する事件。

芸能界やスポーツ界もそうだけど、自分の立ち位置に驕って

何でも人が悪い、人が悪いと思って暮らしていたら

やがてそこまで行き着くのかも。

気をつけて生活しましょうね。
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現場はいま…その後・4

2023年05月21日 20時13分12秒 | シリーズ・現場はいま…
私の住む広島県では、今日までG7・広島サミット。

うちは会場の広島市内とは離れた田舎だけど

ゴールデン・ウィーク明けあたりから他県の県警のバスが続々とやって来て

何だか物々しい雰囲気だったわ。

この真剣さの何百分の一でいいから、安倍元首相暗殺の前に発揮して欲しかったね。


ともあれ、ウクライナのゼレンスキー大統領まで急きょ参加しなすって

マスコミは大騒ぎだけど、広島県民はわりと冷めてるみたい。

初日にG7の首脳が行った原爆資料館の視察で、みんなわかったわよ。

平和公園に到着した各国首脳は東館から入場して

同じ東館から出て来たもの。


東館は、あんまり当たり障りの無い薄口の展示物がある所。

犠牲者の写真や遺品で被爆の惨状をダイレクトに伝えるのは

東館の隣にある本館。

時間的に見ても、そっちへは行かなかったみたい…

というのが広島の視聴者にはわかっちゃったもんね。


広島は結局、「平和屋」という屋号の貸し座敷に過ぎなかった。

その平和屋で、ロシアとの戦争のために

戦闘機をプレゼントする約束なんかされちゃあ

被爆者やその関係者はやってられないと思うわ。


だけどそれは仕方のないことだと、広島の人たちはわかってるの。

核の脅威が現実になるかもしれない今

人類最初の被爆地、広島の名前が世界に発信された…

それだけでも大きな成果…

そう考えるように努めていると思うわ。


それでも各国首脳が平和公園で献花を行ってくれた時は

このいい加減な私でも胸に迫るものがあって、感動しちゃった。

あの原爆慰霊碑はただのモニュメントじゃなくて

石碑の下に、亡くなった被爆者の名簿が安置されてるのよ。


毎年8月6日の原爆の日が近づくと

石碑の下から名簿を取り出して虫干しをするんだけど

その時、書道の上手な人が2〜3人で

この1年間に亡くなった被爆者の名前を書き足すんだわ。

その名簿が入ってるのよ。


13才の時、あの平和公園の近くで被爆して

37才の時、胃癌と白血病で他界した、うちの母ちゃんの名前も載ってるから

ちょいと他人事じゃないような気がするわけ。

お花、ありがとさん…という気持ちね。

ともあれ、無事に終わりそうで良かったです。


G7のメンバーじゃないけどゲスト的な立ち位置で

昨日、日本入りした韓国の大統領夫妻。

到着後に大統領はサミットへ

夫人の方は尾道の商店街を散策なさって

甘味処でスイーツを召し上がったそうよ。


尾道在住の友だちから送られてきた画像。

尾道の商店街は長いから、ペタンコ靴ね。



サミットの県に住みながら、これといってお目にかけるものも無いから

ご覧くださいませ。



さて、次男の言い出したノゾミスパイ説。

一旦そう思い始めたら、疑いが止まらない様子。

そういう目で見ると腑に落ちる点が出てくるようで

最もカンにさわるのは、ノゾミは会社に保管してある書類に

必要以上の興味を示すことらしい。


興味を持つのはかまわない。

何を見られても、困る物は無い。

しかし社員の過去の健康診断結果を見て

次男に「太り過ぎ」と言った時、彼の怒りは最高潮に達した。


次男は確かに太り過ぎだ。

わざわざ診断結果を見なくても、目で見たらわかるぞ。

しかし、太ったヤツと痩せたヤツには絶対言われたくないそうで

「個人情報を盗み見た上に、本人に向かって太り過ぎなんて許せない!」

と、ひどく腹を立てていた。


会社で彼女より年下は次男しかいないので

話しやすい弟みたいに思っているのだろう。

ノゾミのように子供がいない人は、こういうことになる場合がある。

特に男の子は気位が高いので、うっかりしたことを言うと

大いにヘソを曲げるのだ。

今後、健康診断の結果は私が受け取り、家で保管することになった。


さらにノゾミの興味は郵便物にも波及していて

送る物も送られて来る物も、その内容をひどく知りたがるという。

これも別に知られたってかまわないが、変に見たがられると隠したくなるらしく

次男は警戒する。

今後、届いた郵便物は私が管理し、会社から発送する書類も全て

私がやると約束して落ち着いた。

ちょっと〜、何よ〜…私の仕事、増えとるじゃん!


かくしてノゾミは何のための事務員か

だんだんわからなくなりつつある今日この頃…

今まで無関心だった長男まで、ノゾミへの不信感を口にする。

「硬式テニスのラケット買うた言うて、ワシらに見せびらすんじゃ。

仕事に持って来るか?普通。

やりょうるんは、バドミントンじゃなかったんか。

あいつ、おかしいで」


彼が私にこれを言った時、夫もそばに居た。

「バドミントンも続けとるんじゃろ?」

夫にたずねると

「それがのぅ…」

彼は困ったような顔で答えるのだった。

「会社へ入った途端、バドミントンには来んようになったんじゃ」


はあ?…長男も私も問い返す。

「4月の3日から仕事が始まったじゃん。

前の日の2日に来て、それっきりよ」


はあ?…なおも聞き返す長男と私。

「何の連絡も無いけん、他の人も変に思ようる」

「テニスに転向したんかね?」

「知らん。

うちへ入るのが目的じゃったんじゃないんか?」

「バドミントンは、父さんに近づくために始めたっちゅうわけ?」

「そうとしか思えん。

ヨシキがチラッと言ようたが、ワシもアキバの回し者じゃと思う。

うちへ就職するためにバドミントン始めたんじゃろう」

淡々と言う夫であった。

そう言えばこのところ体温低めというか、落ち着いてきたような…

自分が騙されたと知ったのかもね。


「辞めてもらったら?」

長男がにべもなく言い、夫はやはり淡々と答えた。

「そのうち自分から辞めるんじゃないかの?

こんな最低時給は人生の汚点じゃの何じゃの、文句ばっかり言いよるけん」


騙された悔しさやナメられた無念があるのか無いのか…

彼の気持ちは不明だ。

昔から、こういう時はいつも淡々を通すので、内心を推しはかるのは時間の無駄と学習した。

知ろうとする意欲も無い。

相棒の気持ちが知りたいのは、悔しさや無念に苦しんで

こちらの溜飲を下げさせて欲しいという願望があるからだ。

私には無い。


夫をずっと見てきて実感するが、邪恋の末期はいつも惨めで虚しいものだ。

私だったら、恥ずかしくてとても生きてはおられまいよ。

だが、アレらはそれを長く引きずらない。

自分に甘い性分なので、都合の悪いことはすぐ忘れるため

味わった苦々しさが経験値に加わる暇が無い。

失敗として数えないのだから、何回も同じことを繰り返せるわけである。

その特性を把握してからは、どうでもよくなった。


ともあれノゾミを失うとなると、急に惜しくなった私。

「え〜?また変なのが来たら困るけん、今のでええわ」

ノゾミはロクでもない女かもしれないが

身元だけは、どこの誰だかはっきりしているのだ。

わけのわからん所から湧いて出る女が多い浮気界において

これはポイントが高い。


しかも入社の動機が不純なため、内部のことをしゃべるのは

せいぜい隣の社長と、あとは自分の旦那ぐらい。

不特定多数の人間に、つまらぬことをあれこれ言いふらす心配が少ないので

そこら辺のカタギのおばちゃんより安心感がある。

人を雇う上で、この安心感も重要なポイントだ。

ノゾミには、長く続けて欲しいと願っている。

《完》
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現場はいま…その後・3

2023年05月19日 09時37分29秒 | シリーズ・現場はいま…
事務員ノゾミは、隣のアキバ産業から送り込まれたスパイではないのか…

彼女を疑い始めた次男だが、日を追うにつれて確信を持つようになった。

「考えてもみて?親父は65、ノゾミは41よ。

親父って昔はどうあれ、今はお爺さんじゃん。

親子ほど年の離れたジジイに惚れる?」

なかなか正当な意見だ。


「惚れん」

「金持ちなら、相手がジジイでも色々買うてもらえるけん

我慢もするじゃろうけど、親父じゃあ無理じゃん」

「ジジイと付き合うメリット、無いね」

「ワシ、単価が狙いじゃないか思うんよ」

アキバ産業の社長の愛人と噂されているノゾミは

うちが取引先へ卸す商品の単価を知る目的で入社した…

次男はそう言うのである。


どこの業界でもそうだと思うが、我々の業界でも単価は大事だ。

ことに建設は金額が大きいので、商品単価が全てを左右する。

例えば、とある大手の仕事が欲しいとなると

その会社に競合他社より安い単価を提示して、すかさず接待でもてなせば

乗り換えてくれる可能性が出てくるというわけだ。


このご時世、長い付き合いだの義理だのは、あまり通用しなくなっている。

その傾向は大企業ほど顕著で、現場を仕切る責任者は行きずりの転勤族なので

接待をしてくれて現行より安ければ、納入業者は誰でもいい。

そんな背景のもと、納入業者としては

事前にライバル社の納品単価を知ることができたら

企業側とお近づきになるために何度も接待を行ったり

向こうの腹を探って単価を検討するという手間がいらない。

いきなり見積書を持ち込んで勝負に出られるため

横取り作業はスピーディーに進むというわけ。


よってこの業界は古くから、単価をトップシークレットとして扱ってきた。

女房や娘、兄弟などの身内を事務員に据える会社が多いのも

情報漏洩を防ぐためという明確な理由があったのだ。

それでワリを食ったのが嫁の私なのはともかく

ライバル会社に事務員を送り込めば、パソコンに全部入っているので

取引先の情報も単価も知り放題。

若い正義感で、次男はそれを危惧しているのだった。


「知られてもええじゃん」

私が言うと、次男は驚く。

「ええん?!」

「ええよ」


ノゾミが本当にアキバ産業のスパイだとしても

現実には「単価がわかったから、さあ横取りしましょう」

というわけには、なかなかいかないものだ。

「どこそこの取引先は、単価が◯◯円」

アキバの社長にそう報告したところで、彼に何ができよう。


50代の社長は、スラリとしたイケメン。

見栄えの良さもあって、昔から愛人の噂が絶えない人物でもある。

いつもスーツを着て経営者然としており、現場への関心は薄い。

会社に居ることはほとんど無く、ノゾミの旦那、スギヤマ工業の専務と一緒に

JCか何かの活動に駆け回っている。

言うなれば、ライオンズクラブに入れ込んでいた義父アツシと同類だ。


名誉、社会貢献、地域活性化なんかを謳う団体活動へと

必要以上にのめり込む経営者って、非営利の群れの中では強気だが

単独で利益を追求する場面では行動力が無い。

よって、ひとたびつまづいたら最後、手をこまねくばかりで何もできない。

単価を知ったアキバ社長が、すぐに動くような男であれば

今のような左前にはなってないはずである。


アキバ産業にうちの単価を知られてもかまわない理由は、他にもある。

今どきは、売って納品したらおしまいの一方通行ではなくなりつつある。

時代はSDGs、ストップ温暖化も叫ばれているということで

商売のテーマは「循環」に移行しつつあるのだ。


例えば、うちが商品を納入しているA社という取引先があるとしよう。

A社は製造過程で、大量の廃棄物が出る。

豆腐を作ったらオカラが、酒を作ったら酒粕が出るようなもので

製造者としては後始末をしなければならない。

そのため、かなりの経費をかけて問題の物質を自社処分している。


一方で、県外にB社という会社がある。

ここはA社が廃棄物として扱う物質とほとんど同じ成分の原料を

海外から仕入れているが、近年は価格が高騰し、なおかつ不足している。


で、A社とB社の間に我が社が介入し

A社が処分するはずの廃棄物を、一旦うちが引き取る。

A社に納品した帰り荷で持ち帰るのだから、手間や経費はかからない。

しかしA社からは、荷の重量に見合った引き取り料をいただく。


こうしてストック場に貯めた、A社にとっては不要な物を

今度は遠方のB社に船舶で運び、商品代金をいただく。

ただしA社から出る廃棄物が

必ずしもB社の需要と合致するわけではないので

余る時はB社が窓口になって別の会社に販売することもある。

こちらの地方では必要無い物でも、地域によっては必要とする所があるのだ。

その結果、A社は廃棄物の処理費用が浮き

B社は国産の原料を安値で、しかも安定して入手することができ

うちはA社とB社から利益を得て三方良しというわけだ。


この循環システムは、我々のボスである河野常務が長年描いてきた夢。

そのために彼は、中四国地方の瀬戸内沿岸の主要な位置に

拠点を必要としていた。

我々は、その拠点の一つになるべく合併したのだ。


アキバ産業が欲しいのは、この仕事だとわかっている。

現在、うちで一番利益の多い取引だからだ。

ノゾミがダンプで行きたがったのも、A社一択であった。


世間には、うちがA社に出入りして何か運んでいる印象しか無い。

だからアキバ産業が知りたいとしたら

単価いくらで何を運搬しているか…

A社の社内にどこから進入して、どこへ入るのか…

誰が窓口で、どんな雰囲気か…

そういうことだと思われる。

まさかそれらが県外のB社に船で運ばれているとは

考えてもいないはずだ。


ちなみに本社は、他にも循環の仕事を幾つか行なっている。

よってB社その他、循環先への対応は本社がまとめて行うので

うちのパソコンにデータは無い。

ノゾミがB社の存在を知り、そこにも行ってみたくなれば

彼女は船員になるしかない。


ともあれA社とB社のケースのように、循環の仕事をするためには

煩雑な手続きをして法的な規則に沿わなければならない。

B社の所在地に営業所を作り、そちらへ人員を派遣するなど

かなりの先行投資が必要になるのだ。

本社に総合商社という説得力と財力があったからこそ

実現した仕事である。

落ち目の個人会社が扱うのは、難しいだろう。


これらのハードルを果敢に超え、横取りできるものなら

ぜひともそれを見せてもらいたい。

私は心から期待している…

次男には、そう話した。

《続く》
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現場はいま…その後・2

2023年05月16日 08時14分45秒 | シリーズ・現場はいま…
ダンプで取引先に連れて行って欲しい…

ノゾミから頼まれた次男は、彼女に疑惑を持つようになった。

一回ダメと言われたら諦めればいいものを

理由をつけて執拗に食い下がるのはおかしいと言うのだ。


が、人の旦那と遊ぶだけでは飽き足らず、就職までせしめるような女は

漏れなくおかしいものよ。

対象の人物がマトモかそうでないかは、車の停め方一つを見てもわかる。

社員でも来客でも、今まで会社の駐車場に車を停める人間を

何百人となく見て来た私に言わせれば

およその人間性は車の停め方で把握できると言っても過言ではない。


と言うのも、うちの会社は昔から、白線を引いてない適当な駐車スペースが

事務所の周囲に何ヶ所か散らばっている。

適当だからこそ、停める本人の個性が滲み出るというわけ。


男でも女でもマトモな人間は、事務所から離れた位置へきちんと停める。

この業界は厳格な縦社会、建物に近い便利な場所は役職者の位置という

謙(へりくだ)りの意思を表すと同時に

自分の後から別の車が入って来る可能性を考えて、端っこに駐車するのだ。

駐車には几帳面でも他のことはズサンという夫のアシスタント

シゲちゃんのような例外もたまにはいるけど

駐車の仕方をひと目見れば、大抵のことはわかるというものである。


ノゾミは、事務所のすぐ隣へ斜めに横付けするタイプ。

後から入る車のことを考えるどころか

事務所に一番近いこのスペースに、自分以外は停めさせないぐらいの勢い。

謙虚な常識人は絶対にしない、名付けて“重役停め”だ。

夫の方が遠慮して、ノゾミの邪魔にならないよう、車を隅に停めている。


大昔、義父の会社に入り込んだ夫の愛人、未亡人のイク子も

名前は忘れたが、やはり夫の愛人だったレンタルモップの営業ウーマンも

事務所に出入りする際、このような停め方をしていた。

オトコの会社は自分の物、どこへどう停めても勝手だと勘違いするらしい。


松木氏や藤村も同じような停め方をするので、ついでに言うが

こういうことをする人間はおしなべて仕事が苦手。

縦社会の不文律が肌でわからない者が、この業界で生きていくのは難しい。

そして自分の車が誰かの邪魔になるかもしれないという予測をしない者は

物事を一連の流れで把握できない。

仕事を流れでなく単発でとらえ、作業の内容が一つずつブツ切りになるため

いつまで経っても職場のお荷物だ。


本人にはそれがわかってないので、いっぱしの仕事人ぶるが

一時が万事という言葉があるように、いつまでも周りの手をわずらわせ

やがては嫌われて身を滅ぼす。

初めて会社に来て車を停めた瞬間から、この未来は見抜かれているのである。


とはいえうちの場合、仕事はできなくてもいい。

あの何もしない事務員トトロでさえ、2年も務まったのだから

たいした仕事をやらせているわけではない。

最低賃金の範囲内で、留守番をしてもらえれば十分だ。


何でノゾミの駐車の仕方を知っているかって?

最初のうち、夫は私が会社へ行かなくていいように気をつけていた。

もちろん私も行く気は無く、ノゾミの入社以来、会社とは距離を置いていた。

夫に板挟みのストレスをかけたくないからだ。

彼にはゆったりと過ごしてもらいたい。

そしてできるだけ長生きしてもらって

給料、ひいては年金をしっかりもらっていただかなくてはね。


が、それも長くは続かなかった。

原因は、近頃の郵便事情である。

土日の配達が無くなったのを機に、郵便関連が何かとゆっくりになり

「今日出したから明日着く」という安心感は消滅。

ちょっと油断していると、郵便物の配達が何日も後になってしまう。


残念ながら、夫にはそこまで読めなかった。

期限付きの書類に慌てることが何度かあり、夫から急きょ要請された私は

家で書類を用意して会社に届けたことが何度かあったのだ。


こんな時、事務所に近づかれては何かと困る夫は、外で私の到着を待つ。

事務所の窓には厳重にブラインドが下ろされ

ノゾミも私もお互いの姿を目撃できないようにしてある。

涙ぐましい努力ではないか。


昔はこんなことをされたら、女をかばっていると思って腹を立てただろうが

今は何ともない。

私にザンネンな女を見られたら、福祉だの慈善だのと言って笑われるので

隠しているのだ。

よって、会社へ行った私が見物できるのはノゾミの車だけである。

ホコリをかぶった古いジープを拝んで、さっさと帰るのみ。


前例は未亡人イク子だけなので、データと呼べるほどではないものの

不倫相手の会社にノコノコ就職する女の車って

どうして古いジープなんじゃろか。

イク子もまた、いかめしいジープだったのだ。

「私はそこらの女じゃないわよ」みたいなこだわりは見せたいが

お財布が付いて行かないというところか。

思わぬ共通点を発見し、自身の長年に渡る研究?の成果を

確認したような気がして満足する私であった。


とまあ、私の方はノゾミの車を見て「おかしい」と決めつけていたのだが

次男の言うところの「おかしい」は、どうやら意味が異なるらしい。

ノゾミはアキバ産業のスパイではないのか…彼はそう言うのだ。

アキバ産業とは、うちの会社の隣で営業する同業者。

先代から仲の悪かったライバル会社である。


ノゾミの旦那は、そのアキバ産業の二代目社長の弟分。

いつも一緒に行動し、ニコイチと呼ばれているのは以前から有名だった。

一方で女房のノゾミも旦那と同じく、アキバ産業の社長と親しいらしい。

家族ぐるみのお付き合いというより、「知らぬは亭主ばかりなり」の類いだ。

ノゾミがうちへ入って以降に聞こえてきた、未確認の噂である。


「わざわざ商売仇の愛人を雇うなんて、なんとまぁ懐が大きいもんだ」

そういった皮肉を複数の人に聞かされた次男は

知らぬは亭主だけじゃなく、うちの親父もそうじゃないのか…

ノゾミはアキバ社長の命令で、親父を騙したんじゃないのか…

色仕掛けでうちへ入ったのは、取引先の情報を得るためじゃないのか…

そう懸念するのだった。


ちなみにアキバ産業は昔から、よその仕事を奪うのがお家芸。

義父も何度かやられて怒り狂っていたが

アキバ産業自体は、この手法を繰り返して大きくなった。

ズルいと言いたいのではない。

この業界は常に、食うか食われるかだ。

横取りはれっきとしたビジネススタイル、取られる方に落ち度がある。

アキバ産業は、情報収集や接待の仕方がうまかったのだと思う。


が、長い不況が続くうちに先代が亡くなり

二代目の現社長が引き継いでからは、十何年か前の我が社と同じく

深刻なジリ貧状態に陥っている様子。

交流は一切無くても、そういうことは隣同士であれば感じるものだし

我々は親の会社がダメになっていく過程を実際に体験しているため

手に取るようにわかるのだ。


よその仕事を奪うしか起死回生の手段が無いとなれば

自分の愛人をスパイとして潜入させてでも情報収集に努めるのは

やはりズルいというより企業努力のうちだと思う。

もしもノゾミが本当にアキバ産業のスパイだったとしたら

「あっぱれ」と賞賛しようではないか。

《続く》
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現場はいま…その後・1

2023年05月12日 11時03分29秒 | シリーズ・現場はいま…
さあ、皆さまお待ちかね?の

4月から入社した事務員兼、夫のカノジョ…

ノゾミのその後をお話しさせていただこう。

とはいえ、めざましい進展は無い。

こっちは楽しみにしていたというのに、何とも不甲斐ない女である。


私は彼女に会ったことが無いので、どんな顔形か知らない。

が、夫の相手は皆、似たようなものなので見たいとも思わない。

どいつもこいつも不細工だから、見る価値なし。

そのくせ自信満々で、性格に難あり。

そいつらのトップバッターが私だったから、入籍したまでよ。

美人は自分の商品価値を知っているため、なかなか落ちにくいし

落としたところでお金がかかるので、夫は手を出さない。


次男の話によれば、ノゾミさんはガリガリに痩せていて鶏のようだという。

その鶏、いやノゾミは

前任のトトロより頭がいいだけマシだということで、次男には好評だった。

しかし半月もしないうちに、ボロクソだ。


そのきっかけだが、書類に社員の名前を書く時

ノゾミは自分の付けたニックネームを書いていた。

次男のヨシキは「YOO」、マルさんはただの「◯(マル)」。

その二つを書いていたところで次男が気づき、書き直すように言ったところ

ノゾミがブツブツと言い返したので

「これは大事な書類じゃし、親にもろうた大事な名前じゃけん

勝手に略さんといて!」

そう強く言ったら、ふくれて書き直したという。


この人、あんまり働いたことが無いのかもね。

仕事を無断で自分流にアレンジするのが、その証拠。 

本人は合理化のつもりでも、会社にとって迷惑なことは意外に多く

何も知らないのにそれをやると嫌われる。


問題の書類はどこかへ提出するものではなく、社内用。

だからノゾミは名前を略したと思われるが

数年に一回ある外部の監査では、もれなく監査員のチェックが入る。

その時に社員の名前がYOOや◯じゃあ、「ナメとんか?」ということになり

監査が厳しくなる可能性が生じる。

そんなことを知らないから、できるのだ。


次男から話を聞いた私は、他の社員にどんな名前を付けるのかを知りたくなったが

おそらく話しやすい次男と、人当たりのいいマルさんだけだろう。

こういう無茶をやる人は、安全な相手と危ない相手をちゃんと見極めているものだ。


それから数日も経たないうちに、ノゾミは次男に言った。

「ダンプで取引先に連れて行って。

どんな所か見てみたいわ」

本人は軽いおねだりのつもりらしいが、実はこれ、かなりの大胆発言。

営業ナンバーを付けた車両が

勤務中に部外者を乗せるのは、業界の御法度だからである。


なぜ御法度か。

トラック、バス、タクシー、霊柩車などは

人や荷物を運搬することで運賃を得る。

運賃が発生するのだから、お金にならない物は積まないのがルール。

助手席に運転手の友だちが乗っているタクシーに、客は乗りたいと思うだろうか。

同様に、わけわからんギャラリーを助手席に乗せたダンプにも

大事な荷を運ばせるわけにはいかない。

公私を分けた信用の証が、緑色の営業ナンバー…

通称グリーンナンバーだ。


会社の安全運転管理者でもある次男は、驚いて即座に言った。

「お断りします」

しかしノゾミは納得しない。

「仕事を覚えるためには、実際に取引先に行ってみるのが一番いいと思うのよ」

「勤務中に部外者を乗せるわけにはいかん。

事故が起きたら責任取れんし」

「雇用保険があるから大丈夫」

「気は確か?

決められた仕事以外で怪我しても、雇用保険は出んよ」

「じゃあ、事故を起こさなければいいじゃないの」

「そんなの、誰にもわからんじゃないか。

こっちがちゃんとしとっても、年寄りが突っ込んでくる時代じゃ」

「そんなこと言わずに乗せてよ」

「無理!

乗っとる間、あんたの時給はどうなるんよ。

遊んどっても給料もらうことになるじゃんか。

グルじゃ思われたら嫌じゃ」

「遊びじゃなくて、これは研修」

「あんたの研修の手伝いするほど、わしゃ偉うないもん」

「取引先だけじゃなく、ダンプのことも知りたいのよ。

色々理解しておいた方が、仕事にもプラスになると思うし」

「ダンプに乗らんと仕事が覚えられんのなら、覚えてもらわんでええけん」

「それじゃ困るでしょ?」

「わしゃ困らん」


乗せろ乗せないの攻防はさらに続き、何を言ってもダメなので

「ワシは婚約中じゃけん、子供でも婆さんでも

他人の女を助手席に乗せるわけにはいかん」

最終的にそう言ったら、ノゾミはシブシブ引き下がった。


しかし、これで終わらない。

次のターゲットはマルさんだ。

「僕は会社で一番後輩だから、勝手なことはできません」

ノゾミと次男のやり取りを見ていた彼は、そう言って断った。


ナメている次男とマルさんがダメとなると

ノゾミは他の社員に一人ずつ当たり始める。

しかしその頃には次男から無線連絡が回っていたので、頼まれた者は順番に断った。

長男も自分に頼んできたらケチョンケチョンにしてやろうと

手ぐすねひいて待っていたが、きつい彼に依頼は無かった。


“研修”を依頼されなかった人物は、もう一人いる。

社内で唯一の女性運転手、ヒロミだ。

昼あんどんの藤村が、会社に自分のハーレムを作るつもりで入れた第一号…

いわば藤村の置き土産であるヒロミは、相変わらず勤めている。


たとえ厄介な用事でも、頼まれるはずが頼まれないとなると

世話好きのヒロミは面白くないようだ。

「あの女、男好きなんよ…私にはわかる」

そう言って、かなり腹を立てていたという。


怒り狂う次男からこの話を聞いて、私は何だか懐かしい気がした。

ダンプに乗せろとねだるのは、ノゾミがお初ではない。

その昔、夫の姉カンジワ・ルイーゼもよくやっていたことだ。


30年余り前、義父の会社は景気が良く、イケイケ状態だった。

運転手も新人がどんどん入って来て

中にはジャニーズみたいな若くて可愛らしい男の子も何人かいた。

会社って勢いのある時は、若く優秀な人材が集まるものなのだ。


経理をしていたルイーゼは、取引先に何かと用事を作り

ジャニーズのダンプに乗りたがった。

当時はまだグリーンナンバーの規定が緩く

「運転手以外は乗らない方がいい」という程度の認識だったのである。


ただしルイーゼが乗るのはジャニーズのダンプだけで

オジさんやお爺さんのダンプには決して乗らない。

しかし当のジャニーズたちは

ルイーゼを乗せて取引先に行くことを非常に嫌がっていた。

そもそも運転手という生き物は、一人が好き。

一人が好きだから運転手になるのだ。

逃げ場の無い密室で、遠慮な相手から根掘り葉掘り質問されたり

ドライブ気分ではしゃがれるのは、苦痛以外のなにものでもない。


しかも大型ダンプの座席は高い位置にあるため、ただでさえ目立つ。

ルイーゼを乗せていて、妻や彼女と誤解されたら災難だ。

しかし、社長の娘だから乗車拒否はできない。

次は誰が指名されるか…ジャニーズたちは戦々恐々としていた。


やがて会社が斜陽を迎えると、ジャニーズたちは次々に辞めて行き

オジさんやお爺さんばっかりになった途端

ルイーゼは会社にあまり来なくなった。

そのあからさまに、苦笑するしかなかったのはさておき

ノゾミとルイーゼは似ていると思った。

《続く》
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ブラシ変えたり結婚したり

2023年05月04日 11時34分31秒 | みりこんぐらし
最近、ヘアブラシを変えた。

静電気、抑えるってやつ。

髪がしっとりと落ち着いて、すごくいい。

ブラシはいいのを使ってるつもりだったけど

何年も経つうちに科学は進歩してたのね。



小ぶりで軽く、扱いやすいのも魅力。

年取ると、ブラシすら重たく感じるのよ。

調味料もそうだけど、何でもひたすら軽いのを選ぶようになるもんで

醤油や酒の一升瓶を持ち上げて味付けするのが辛くなるから

割高を承知で小さいのを買うわけよ。


フライパンもそう。

ダイヤモンドコートだの、メーカー品だのは重たい。

長持ちしなくていいから、とにかく持ってみて軽いのを選ぶ。

ブラシも例外じゃなかった。


と絶賛してるけど、実はこれ、seriaの100均ざんす。

100均って結局ガラクタが増えるだけなので

私は滅多に行かないんだけど、先日、久しぶりに行って見つけた。

高いのを買えば、もっといいのがあるんだろうけど

100円という価格に感動。

翌日、また行って何本か買い出し、義母その他、数人に配布した。

皆、気に入ってくれて満足。


「じゃあ私らの頭って、静電気が多いってこと?」

そこで思ったわけよ。

金持ちの髪が綺麗なのは、美容室通いも頻繁だし

メンテナンスも十分なんだろうけど

そもそも安物の化繊の服を着んからかもね。

ハハハ。



そうそ、この連休中に次男が結婚。

可愛くてしっかり者のお嫁さんが来た。

わたしゃ、姑っちゅう生き物になっちまったわ。


入籍だけで式は挙げないという二人の意志を尊重し

事前に二人と両家の両親が顔合わせする食事会を設けて終わり。

それじゃあお世話になった人に対して…とか

晴れ姿が見たい…とかは一切言わなかった。

もうこの年になると、親としての気負いなんか湧いてこないのよ。

ホッとしたのは確かだけど、これで離婚のリスクが発生したとも思ったね。


あっさりし過ぎて冷たいようだけど、言い方を変えれば

お嫁さんはそれほどまで、我々に緊張を与えないタイプとも言える。

夫も私も、彼女が昔からうちの子だったみたいな感じの自然体。


両親の顔合わせと言ったけど、うちの方は義母ヨシコも連れて行った。

家に置いて行く選択肢は無い。

眠り姫のお城に招かれなかった魔女状態になり、あとあと影響するのは明白。

それを避けるためもあったが、両家は初対面同士…

気まずい沈黙が予想される。

その点、ヨシコはお嫁さん一家と同郷だ。

地元の話という共通の話題があるため、賑やかしの目的もあった。


食事会は、町のイタリア料理店。

本当はもっと豪勢にしたかったのだが

あちらのお母さんも、こちらのヨシコも足が丈夫でない。

田舎の飲食店って座敷が多く、椅子の所は味や雰囲気がイマイチ。

そこで考えた末、カジュアルなイタリアンで妥協した。


両家が席に着いてから紹介を…と思っていたが

その両家、店の駐車場にてバッタリ出くわしてしまい

そのまま路上で紹介し合うことになった。

ヨシコはあちらのお父さんに、次男の母親だと間違えられてご満悦。

会食では自分が結婚するかのように張り切って

予定通り、地元の話で賑やかしてくれた。


ご両親はさっぱりした善良な人で

結婚前、一人暮らしだった次男のお嫁さんに時々

私の作った料理を持たせていたけど

それをご両親も何度か召し上がる機会があったそうだ。

恥ずかしい…もっとお洒落に飾り立てて渡せばよかったと思ったが、後の祭り。


「美味しいおかずから、昭和のお母ちゃんを想像していたけど全然違った!

平成のママさんだった!」

お父さんはそう言い、お母さんの方は

「温かい料理をいただいて、きっと仲良くなれると思っていました」

と言っていた。

どちらも飾らない人たちだ。

「本当にうちの子でいいのか?やめるんなら、今しか無いぞ?」

会食の席で、あちらのお父さんはうちの次男に

私はお嫁さんに、それぞれ言ったが、二人の決心は固そうであった。


そういうわけで、滑り出しは順調。

後で結婚式をしたくなったら、その時に考えるとして

この子ら、結婚指輪もいらないと言う。

ダンプ乗りは仕事柄、指輪ができない。

運転中はむくみやすいし、ハンドルを切る時に滑って邪魔になるからで

二人がお揃いの指輪をはめて生きるという本来の目的が

達成される可能性など無いと言うのだ。

そういう形式的な物より、お金の方がいいそうで

今後の生活で有効に役立てたいとおっしゃる。

今どきの子は、そんなものなのか。


そこでせめて形に残るものをと思い、町のハンコ屋さんで

お嫁さんに印鑑をあつらえた。

彼女も社会人生活が長いため、結婚して苗字が変わるとなると

様々な名義変更で新しい苗字の印鑑が必要になる。

それに間に合うように急いで作ってもらい、プレゼントしたら

彼女だけでなく、ご両親も意外なほど喜んでくれた。

大切に迎えてくれる気持ちが、ありがたかったそうだ。


大切にできるかどうか、自信が無くて申し訳ないけど

うちなんかへ嫁いで、うちの息子なんかの妻になって

幸せなんだかどうだかわかんないけど…むしろ可哀想な気がするけど…

とりあえず印鑑は喜ばれると知った。
コメント (12)
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