殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

65の手習い・1

2024年10月06日 09時21分29秒 | みりこんぐらし
最近、同級生のトキちゃんと遊ぶようになった。

彼女とは小学校が違ったが、中学、高校は一緒。

上品で美しい彼女はテニス部だった。

誰もが認めるコートの女王を、男子がズラリと並んで

よく見学していたものである。


そのトキちゃんは、ある専門分野で働く夢を叶えた後

高校時代から交際していた年下の彼氏と結婚した。

彼女ほどの美人なら、もっといい男がいただろうし

職場も高レベルの男を選べる環境にあったと思うが

そこは美人あるある。

美しい人種は、案外な伴侶で早々に手を打つことが多いものだ。



その彼女が結婚後も働きながら、私と同じ町で暮らしているのは知っていた。

しかし一度も会うことが無いまま40年以上が経過したこの春

とあるイベントで偶然再会したのだ。


向こうは懐かしさにびっくりしていたが

こっちは昔と変わらない美貌にびっくりした。

昔と同じ髪質髪型、優しい微笑み、品のある仕草

少し低い落ち着いた声、控えめで上質なファッションまで

そのまんまだ。

彼女は中高生の時分から、すでに完成された大人だったのかも。


そんな申し分ない彼女にも悩みはあるようで

その根源は、お兄さんの結婚にあるらしい。

なにしろトキちゃんの兄嫁は

彼女と幼馴染みの同級生であり、親友のサキちゃん。

家が近所で親同士も仲良し、中高のテニス部ではダブルスを組んでいた。

第三者の私には、ジャイアンのママみたいなサキちゃんが

トキちゃんの引き立て役に見えていたが

二人にそんな屈折した感情はさらさら無く、実の姉妹のように仲良しだった。


この何もかも近過ぎる結婚は

婚期を逃しかけていた長男を心配したトキちゃんの両親が

娘の親友に目をつけ、トキちゃんが御膳立てをしたのが始まり。

親友が義理の姉妹になったのだから、いつも夫婦ぐるみで一緒に出かけ

家族や親戚のイベントでは協力し合って楽しくやってきたそうだ。


暗雲が立ち込め始めたのは、お互いの両親が80代になった10年前から。

トキちゃんの両親とサキちゃんの両親が

それぞれ認知症と病気で手がかかるようになったのだ。

責任感の強いサキちゃんは、娘として自分の両親を

長男の嫁としてトキちゃんの両親を、一生懸命世話していた。


やがて両家の父親が亡くなり、残された母親は90代になったが

二人とも認知症が悪化の一途だそう。

どちらもククリは独居老人だし、要介護3なので

介護保険で手厚い介護が受けられるはずだが

二人の母親は他人の介入を頑なに拒否。

よって日々の食事や入浴を始め、家事全般をサキちゃんに頼っているという。


しかし、それは仕方のないことかもしれない。

トキちゃんのお母さんは中年期に事故で

サキちゃんのお母さんは病気で、共に身体が不自由だった。

それを誰にも見られたくない気持ちが非常に強く

デイサービスに行ったりヘルパーに来てもらうと

この事実を知られてしまうので、他人を寄せつけないのだった。


そんなわけでサキちゃんは毎日、婚家と実家の2軒をハシゴしては

介護に明け暮れている。

さらに最近、トキちゃんのお兄さん…

つまりサキちゃんのご主人に癌が発覚し、闘病が始まった。

サキちゃんは二人の婆に加え、ご主人まで支える身の上になったのだ。


「だからサキちゃんに悪くて、私も楽しいことを自粛してきたの」

トキちゃんは言う。

サキちゃんの苦労を考えると申し訳ない気持ちでいっぱいで

自分だけが楽しむわけにいかないと思ってきたそうだ。


なんと壮絶な…私は胸が締め付けられた。

今のところ家族は元気で、施設の手を借りながら

実家の母サチコ一人にアタフタしている自分なんて

まだまだヒヨッコじゃないか。

反省しきりである。



本題に入る前に長くなってしまったので、次に続けさせていただきます。

え?まだ本題じゃないんかい!前置き長過ぎだろ!って?

すんませ〜ん!

《続く》

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