先日、こたつ布団を買いに行った。
隣の市にある大型スーパーへ着くやいなや
夫は待ちかねたように
「ちょっとトイレ!」
浮気をする亭主というのは
女房と出かけると、よくトイレに行く。
おしっこではない。
携帯チェックのためだ。
これも頻尿と称していいものだろうか。
夫をトイレに残し、そのまま売り場へと向かった。
私は買物が早いほうなので、さっさと決めてさっさと買う。
今年は毛皮みたいなのにした。
色はシックなブラウン。
以前なら絶対選ばなかった色だ。
私もオトナになったもんだわ~…と一人感慨にふける。
布団を抱えて売り場を後にするが
荷物持ちがいないではないか!
いつもなら音もなくそばに控えているはずなんだけど…。
布団は最初フワフワして軽かった。
しかし持って歩いていると、ケースの下に溜まって
ジワジワと重くなってくる。
「セバスチャン…セバスチャンはいずこ?」
つぶやきながら、執事兼下男のセバスチャンを捜す。
そうだわ…トイレに行ったきりだったわっ。
セバスチャンめが!
私はベンチにたどり着き、座ってしばらく待つ。
そのうち心配になってくる。
セバスチャンはもう若いとはいえないし
晴れ時々不整脈…中性脂肪もコレステロール値も高い…
もしもトイレでこときれていたら!
喪服はやっぱり和装がよかろうか…
喪主の挨拶は長男にさせようか…
待っても来ないので、また布団を抱え
人ゴミの中をトイレの入り口まで戻ったら、まだそこにいた。
こちらに背中を向けて
誰か…もちろん女性…と親密そうに話している。
たまにこんな“事故”が起こる。
ここまでの規模の店は他に無いので
休日ともなると周辺の町民が一気に集結するのだ。
不倫に忙しい女だって、買物くらいはする。
友人の唱える説…「田舎ほど色は濃い」を思い出す。
古い因習や概念の抑制の中
遊び慣れない者がのぼせると、始末に負えないという意味だ。
そして今回のように
娯楽が少ないゆえに、同じ場所に行き合わせる確率が高い。
そこで刺激を受けた「色」は、さらに発展の一途をたどる。
セバスチャンの頭の動きがせわしない。
しきりに周囲を見回して、私の接近を警戒している模様。
やがて女性は、家族がいるのか
食品売り場のほうへ去って行った。
ごく普通の中年女性だ。
しかし私とてこの道は長い…間違いないであろうよ。
女性の後ろ姿を見送るセバスチャン。
その横顔には、偶然の恐怖に耐え
無事体裁を保った安堵感が漂っていた。
驚かせるのは気の毒と思い
一旦その場を離れてから、たった今ここまで来た感じを演出。
「探しちゃったよ~」
なんて声をかける。
おお、女優じゃん…と自画自賛。
セバスチャンはいつもの習慣どおり
こたつ布団を私の手から受け取る。
そして、もう帰ろうと言う。
買物してごはん食べるんじゃなかった~?
と言いたいが、いくらセバスチャンといえども
プライドというものがあろう。
バツイチの設定になっているだろうから
長居をして私の存在を知られると、非常に都合が悪いはずだ。
なんて優しい私…と自己満足。
しかし、もう遅いのじゃ…へへへ。
私はエリンギの山の向こうから
この光景を凝視する彼女の視線をすでに感じている。
こんな時、私は後で姉ということになるらしい。
ちょっと気に入らないが、しかたがない。
女は図々しい生き物なので
起きたことを自分に都合良く解釈し
むしろ媚薬にしてしまう。
男は反対に繊細なので、平静を装いながらも
ハートをうち震わせているのだ。
今後はそのギャップを色で埋めるべく
田舎者同士、せいぜい頑張ってもらいたい。
家に帰って、さっそく買った布団をかける。
ええ感じじゃ。
毛皮(もどき)の手触りがなんとも言えんわい…。
そのうちうたた寝をして、夢を見た。
ライオンを飼っている夢だ。
小さい時はかわいかったけど、大きくなったら持て余す。
ライオンは、しきりにじゃれてくる。
今も昔も、飼い主である私の気持ちが同じと信じているのだ。
しかたなくフサフサのたてがみを撫でてやる私。
困ったなぁ…どこへ捨てよう…
動物園で引き取ってもらえないかしら…
そんな夢であった。
隣の市にある大型スーパーへ着くやいなや
夫は待ちかねたように
「ちょっとトイレ!」
浮気をする亭主というのは
女房と出かけると、よくトイレに行く。
おしっこではない。
携帯チェックのためだ。
これも頻尿と称していいものだろうか。
夫をトイレに残し、そのまま売り場へと向かった。
私は買物が早いほうなので、さっさと決めてさっさと買う。
今年は毛皮みたいなのにした。
色はシックなブラウン。
以前なら絶対選ばなかった色だ。
私もオトナになったもんだわ~…と一人感慨にふける。
布団を抱えて売り場を後にするが
荷物持ちがいないではないか!
いつもなら音もなくそばに控えているはずなんだけど…。
布団は最初フワフワして軽かった。
しかし持って歩いていると、ケースの下に溜まって
ジワジワと重くなってくる。
「セバスチャン…セバスチャンはいずこ?」
つぶやきながら、執事兼下男のセバスチャンを捜す。
そうだわ…トイレに行ったきりだったわっ。
セバスチャンめが!
私はベンチにたどり着き、座ってしばらく待つ。
そのうち心配になってくる。
セバスチャンはもう若いとはいえないし
晴れ時々不整脈…中性脂肪もコレステロール値も高い…
もしもトイレでこときれていたら!
喪服はやっぱり和装がよかろうか…
喪主の挨拶は長男にさせようか…
待っても来ないので、また布団を抱え
人ゴミの中をトイレの入り口まで戻ったら、まだそこにいた。
こちらに背中を向けて
誰か…もちろん女性…と親密そうに話している。
たまにこんな“事故”が起こる。
ここまでの規模の店は他に無いので
休日ともなると周辺の町民が一気に集結するのだ。
不倫に忙しい女だって、買物くらいはする。
友人の唱える説…「田舎ほど色は濃い」を思い出す。
古い因習や概念の抑制の中
遊び慣れない者がのぼせると、始末に負えないという意味だ。
そして今回のように
娯楽が少ないゆえに、同じ場所に行き合わせる確率が高い。
そこで刺激を受けた「色」は、さらに発展の一途をたどる。
セバスチャンの頭の動きがせわしない。
しきりに周囲を見回して、私の接近を警戒している模様。
やがて女性は、家族がいるのか
食品売り場のほうへ去って行った。
ごく普通の中年女性だ。
しかし私とてこの道は長い…間違いないであろうよ。
女性の後ろ姿を見送るセバスチャン。
その横顔には、偶然の恐怖に耐え
無事体裁を保った安堵感が漂っていた。
驚かせるのは気の毒と思い
一旦その場を離れてから、たった今ここまで来た感じを演出。
「探しちゃったよ~」
なんて声をかける。
おお、女優じゃん…と自画自賛。
セバスチャンはいつもの習慣どおり
こたつ布団を私の手から受け取る。
そして、もう帰ろうと言う。
買物してごはん食べるんじゃなかった~?
と言いたいが、いくらセバスチャンといえども
プライドというものがあろう。
バツイチの設定になっているだろうから
長居をして私の存在を知られると、非常に都合が悪いはずだ。
なんて優しい私…と自己満足。
しかし、もう遅いのじゃ…へへへ。
私はエリンギの山の向こうから
この光景を凝視する彼女の視線をすでに感じている。
こんな時、私は後で姉ということになるらしい。
ちょっと気に入らないが、しかたがない。
女は図々しい生き物なので
起きたことを自分に都合良く解釈し
むしろ媚薬にしてしまう。
男は反対に繊細なので、平静を装いながらも
ハートをうち震わせているのだ。
今後はそのギャップを色で埋めるべく
田舎者同士、せいぜい頑張ってもらいたい。
家に帰って、さっそく買った布団をかける。
ええ感じじゃ。
毛皮(もどき)の手触りがなんとも言えんわい…。
そのうちうたた寝をして、夢を見た。
ライオンを飼っている夢だ。
小さい時はかわいかったけど、大きくなったら持て余す。
ライオンは、しきりにじゃれてくる。
今も昔も、飼い主である私の気持ちが同じと信じているのだ。
しかたなくフサフサのたてがみを撫でてやる私。
困ったなぁ…どこへ捨てよう…
動物園で引き取ってもらえないかしら…
そんな夢であった。