殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

セバスチャン

2009年11月30日 13時16分53秒 | みりこんぐらし
先日、こたつ布団を買いに行った。

隣の市にある大型スーパーへ着くやいなや

夫は待ちかねたように

「ちょっとトイレ!」


浮気をする亭主というのは

女房と出かけると、よくトイレに行く。

おしっこではない。

携帯チェックのためだ。

これも頻尿と称していいものだろうか。


夫をトイレに残し、そのまま売り場へと向かった。

私は買物が早いほうなので、さっさと決めてさっさと買う。

今年は毛皮みたいなのにした。

色はシックなブラウン。

以前なら絶対選ばなかった色だ。

私もオトナになったもんだわ~…と一人感慨にふける。


布団を抱えて売り場を後にするが

荷物持ちがいないではないか!

いつもなら音もなくそばに控えているはずなんだけど…。


布団は最初フワフワして軽かった。

しかし持って歩いていると、ケースの下に溜まって

ジワジワと重くなってくる。

「セバスチャン…セバスチャンはいずこ?」

つぶやきながら、執事兼下男のセバスチャンを捜す。


そうだわ…トイレに行ったきりだったわっ。

セバスチャンめが!

私はベンチにたどり着き、座ってしばらく待つ。


そのうち心配になってくる。

セバスチャンはもう若いとはいえないし

晴れ時々不整脈…中性脂肪もコレステロール値も高い…

もしもトイレでこときれていたら!


喪服はやっぱり和装がよかろうか…

喪主の挨拶は長男にさせようか…


待っても来ないので、また布団を抱え

人ゴミの中をトイレの入り口まで戻ったら、まだそこにいた。

こちらに背中を向けて

誰か…もちろん女性…と親密そうに話している。


たまにこんな“事故”が起こる。

ここまでの規模の店は他に無いので

休日ともなると周辺の町民が一気に集結するのだ。

不倫に忙しい女だって、買物くらいはする。


友人の唱える説…「田舎ほど色は濃い」を思い出す。

古い因習や概念の抑制の中

遊び慣れない者がのぼせると、始末に負えないという意味だ。

そして今回のように

娯楽が少ないゆえに、同じ場所に行き合わせる確率が高い。

そこで刺激を受けた「色」は、さらに発展の一途をたどる。


セバスチャンの頭の動きがせわしない。

しきりに周囲を見回して、私の接近を警戒している模様。


やがて女性は、家族がいるのか

食品売り場のほうへ去って行った。

ごく普通の中年女性だ。

しかし私とてこの道は長い…間違いないであろうよ。


女性の後ろ姿を見送るセバスチャン。

その横顔には、偶然の恐怖に耐え

無事体裁を保った安堵感が漂っていた。


驚かせるのは気の毒と思い

一旦その場を離れてから、たった今ここまで来た感じを演出。

「探しちゃったよ~」

なんて声をかける。

おお、女優じゃん…と自画自賛。


セバスチャンはいつもの習慣どおり

こたつ布団を私の手から受け取る。

そして、もう帰ろうと言う。


買物してごはん食べるんじゃなかった~?

と言いたいが、いくらセバスチャンといえども

プライドというものがあろう。

バツイチの設定になっているだろうから

長居をして私の存在を知られると、非常に都合が悪いはずだ。

なんて優しい私…と自己満足。


しかし、もう遅いのじゃ…へへへ。

私はエリンギの山の向こうから

この光景を凝視する彼女の視線をすでに感じている。

こんな時、私は後で姉ということになるらしい。

ちょっと気に入らないが、しかたがない。


女は図々しい生き物なので

起きたことを自分に都合良く解釈し

むしろ媚薬にしてしまう。

男は反対に繊細なので、平静を装いながらも

ハートをうち震わせているのだ。

今後はそのギャップを色で埋めるべく

田舎者同士、せいぜい頑張ってもらいたい。


家に帰って、さっそく買った布団をかける。

ええ感じじゃ。

毛皮(もどき)の手触りがなんとも言えんわい…。


そのうちうたた寝をして、夢を見た。

ライオンを飼っている夢だ。

小さい時はかわいかったけど、大きくなったら持て余す。

ライオンは、しきりにじゃれてくる。

今も昔も、飼い主である私の気持ちが同じと信じているのだ。

しかたなくフサフサのたてがみを撫でてやる私。


困ったなぁ…どこへ捨てよう…

動物園で引き取ってもらえないかしら…

そんな夢であった。
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家庭科部隊

2009年11月27日 10時03分40秒 | みりこん昭和話
中学時代の家庭科の副読本。

題名…『フルコースのいただきかた』

順を追ってテーブルマナーを解説する薄い冊子だ。


この本はまず、同年代のおかっぱ頭の少女が

テーブルに着くところから始まる。

とりすましてナイフとフォークを操る小さい白黒写真が掲載されている。


家庭科の授業の休憩時間…我々ガキ一味は

同じクラスにいる家庭科部の部員たちの厳しい視線と

「またやってる!」の小言を尻目に

写真のおかっぱ少女の仕草を真似て喜んでいた。


クライマックスはなんといってもデザート…

“くだもののいただきかた”。

皿の上に、バナナが一本。

なぜにバナナ…。

ここで爆笑する段取りになっている。


今でこそ、スポーツやダイエットにいいとかで

かなり格上げされたものの

バナナは、我々が子供の頃は

おばあちゃんの部屋に行くと黒くなったのが置いてある

ダサい果物の代表選手であった。


検討の結果

バナナが高級品だった世代の人たちがこの冊子を作った…

ケーキなどの派手なものでは子供が興奮するから…

という結論に落ち着く。


出演のおかっぱ少女も、こころなしか表情が冴えない。

それでも口を真一文字に結び

ナイフを使ってバナナの表皮を果敢に切開。


最後の写真は、一口大にされ

皮の中でおとなしく横たわるバナナを見下ろして

満足げなおかっぱ少女。

たった今、仇討ちをすませた武士のようである。

我々もまた、家庭科部隊の執拗な制止を振り切って

最後まで演じた安堵と達成感に浸った。


これは我が校だけの現象であろうが

家庭科部隊には、非常にきまじめな面々が揃っていた。

きまじめではあるが、その性質は

学業のほうにあまり生かされていなかったと記憶している。


幼い頃から親の手伝いで家事と親しんだ者が多く

記憶や理解よりも、経験と反復によって成り立つ

家庭科だけがよりどころであったと思われる。


彼女たちは、モノマネにはしゃぐ我々が許せない。

興奮しやすい者に至っては

「やめてよ!家庭科を侮辱しないで!」

などと乙女っぽく叫ぶ者もいる。


「へ~んだ!お尻ペンペン!」

そう返されて、泣きやがる。

なにしろきまじめなので

注意したら反省して謝る…という

望ましい展開以外には当惑してしまうのだ。

泣かした…ということで、ますます非難ごうごう。


そもそも我々は、この家庭科部隊と折り合いが悪かった。

永遠に相容れない水と油であった。


家庭科の時間は彼女たちが仕切るような雰囲気があり

その根拠の無さに反発していたのかもしれない。

ブラスバンドだからといって、運動部だからといって

音楽や体育の授業を仕切ろうという発想は起きない。


部隊はなぜか末っ子ばかりで構成されており

得意科目でお姉さんぶりたい背伸びも垣間見えた。

これまたゴーマンな長女ばかりだった我々は

それを敏感に感じ取り

意固地になっていた面も確かにあった。


休憩時間、数人で教室にかたまって

コソコソとリリアン刺繍などの手芸にいそしむ部隊。

コソコソしているわりには、誰か近寄ると

「針が危ない」「気が散る」

と、待ちかまえたように小言を言う。

危ないなら家でやれ…なんて言おうものなら

泣くわ、わめくわ、先生に言いつけるわ大騒動であった。


部活でお菓子を作ったと見せびらかし

男子にだけ頬を染めながら「ひとつずつよ…」

などともったいぶって食べさせる。

そうじゃ…お菓子をくれなかった恨みなのかもしれない。


止められるとますますやっちゃうのが子供。

よせばいいのに意地になり

我々はさらにモノマネにのめり込んだ。


今思えば、本当にしょうもないことに燃えていたものよ…。

目の仇にされてまで、やり遂げるようなもんではない。

やれやれ…バカなことをした。


つまらぬことに心血を注ぐ性分は

あの頃すでに発露していたのだ。

その情熱をもう少し勉学の方向へ向けるべきなのは

私のほうだったかもしれないが

時、すでに遅し。
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千代さんハウス

2009年11月25日 16時47分06秒 | みりこんぐらし
二人旅は、写真を撮るのが下手じゃない人と行ったほうがいい。

豆粒のような自分の写真を見て、ため息をつく私よ。


「もっと寄って!」と言えば、シブシブ一歩出る。

しかし何かの結界にはばまれるのか、どうしても近寄れない。

うるさく言うと雰囲気が悪くなるので妥協。


人物を大きく撮れない人は、だいたいセコくて気が小さい。

来るだけで精一杯なので

周辺の景色を出来るだけ入れないと損な気がするようだ。

それとも私という被写体の存在を認めるのがイヤで

風景の一部にとり紛れさせたい本能が働くのであろうか。

はい…夫のことです。


先日、作家宇野千代の生家を見学に行って来た。

山口県岩国市、錦帯橋にほど近い場所にある。

やっと念願が叶ったというところ。


私の希望する場所へ夫がすんなり同行するなんて

今までほとんど無かったと思う。

とりあえず、トシ…ということにしておこう。


民家の立ち並ぶ通りにひょっこり現われる

昔の普通の小さな平屋。

立派でも広大でも趣向を凝らしたものでもない。

ただあるがままの姿をそのままに保った

靜かで自然なたたずまい。

足を踏み入れると、しっとりと柔らかい空気に包まれる。


圧巻は板塀に囲まれた、家と比べてかなり広い庭である。

ふわふわとみずみずしい苔を台座に

そこここにモミジの木々がたたずんでいる。


禅でもない、ワビサビでもない、懐古調でもない。

どの部類にも属さない「普通でない普通」。

型や様式にとらわれず、本人がただ好きでやったことが

うっかり他を魅了してしまう…

それが粋というものであろうか。


    「大工さんに、直すより新築したほうが

     よっぽど安くつくって言われたんだって」

「へえ…」

しかたなく相づちを打つ夫。

庭のベンチで待つと言うので、私だけ屋内を見学する。


熱心に資料に見入る人、チーンと仏壇を拝む人

縁側に腰掛け、じっと庭を眺める人…

年配者だけでなく、若くてかわいい女性もいる。


狭い部屋を行き交う時は譲り合い、目と目が合うとにっこり会釈。

どなたもおっとりと上品な感じがする。

さすが宇野千代の生家を訪れたいと思うかたがた。

心が美しい…ワタクシのように…フッフッフ。


30代の始めで宇野千代の自伝に出会ったことは

私にとって幸運だったと思う。

それまでの私は、厚顔無恥の現在とは真逆であった。

亭主に遊ばれる恥ずかしい女房として…

婚家で粗末にされるみじめな嫁として…

言われた言葉、やられた仕打ちを反芻しては

「うらめしや…」

と、どこかの幽霊のように暮らしていた。


しかし、たまたまこの人の半生を知って驚いた。

「こんなことまでやらかしても、生きてていいんだ!」

溢れる才能と美貌

それに性格も良かったであろう彼女の生き方を

自らに重ね合わせることなど到底出来はしないが

恥や不幸の基準が大幅に変動した。


明治生まれの千代さん…

10代で小学校の先生になってすぐに、同僚の教師を好きになる。

夜這いが噂になり、小学校をクビに。

退職の日、彼氏に美しい自分を見せたくて

髪を派手な桃割れに結って登場…用務員室に隔離される。


それから隣国に渡るも、こっそり戻って会いに行く。

困惑した彼氏に突き飛ばされて竹ヤブの斜面を落下。

落ちてそのまま帰る。


やがて親戚のエリートと結婚して札幌へ。

応募した懸賞小説の結果が知りたくて上京。

当選していたので作家の道に入り、東京に居着く。

夫とは生涯それっきり…なぜなら東京で一目惚れした人がいたから。

…とにかくフットワークの軽いおかたなのだ。


以後も作家として活動を続けながら

画家の東郷青児など才能ある人と同棲や離婚再婚を繰り返し

雑誌の発行、着物のデザイン、時に破産…。

1996年、98歳で終えた生涯は

おしゃれも贅沢も人一倍、恋の相手も超一流。

でも自慢はしていない。

淡々と、そしてピンチの時ほど生き生きと面白く描いている。


波瀾万丈、極彩色の豪奢な人生を生きてたどり着いた境地。

それが故郷の小さな家であり、シンプルなモミジの庭なのだ。

「書いた、恋した、生きた」

パンフレットにはそう記してあった。


さて、帰宅するなり救急箱を出す夫。

「あの庭のベンチで手にトゲが刺さった…」

旅の満足感に微笑む私であった。
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雨女

2009年11月22日 13時23分37秒 | みりこんぐらし
息子の小学校時代の先生は雨男だった。

校庭で着任の挨拶を始めたとたん

それまで晴れていたのが

一天にわかにかき曇り、雨が降り出した。


以後、運動会も遠足も

外でやる体育の授業でさえ、本当に雨がよく降った。

雨男、雨男といつも児童たちにからかわれ

とても悲しそうだった。

「商売にさしつかえるので…」

と謙虚であった。

転勤して行った途端に、行事で雨は降らなくなった。


ところが私の周囲に生息する

雨女たちの威張りようはどうだ。

知人の中に数人、自称「雨女」がいるが

何かあるたびに、嬉しそうに言う。

「ごめ~ん!その日、雨かもしれない!先に謝っとこ」

じゃあ来るな…と言いたいところだが

私もオトナ…我慢する。


で、もしもその日に本当に雨が降ったら

ものすごく得意げ。

「ほら!ね!降ったでしょ!」

まるで天気を操れる神秘の力が

証明されたかのような強気のかまえ。


中には龍神さまがどうのこうのとまで言い出す

怪しいのもいる。

本当にそんな能力があるのなら

干ばつに苦しむ国へ行って永住したらどうだろう。

きっと喜ばれると思う。


どの人も一様に、曇りだったら「降るかも…」と嬉しそうで

晴れたら素知らぬ顔。

それを指摘されると、急遽誰かを「晴れ女」に任命する。


天候ってのは、雨の他には曇りと晴れくらいのもんだ。

雪の時は雨として数え

曇り2回で雨1回くらいに都合良く換算される。

四季のはっきりした地域の多い

日本での勝率?は高い。


この人たち、雨の日だけ覚えているのではなかろうか…

と疑惑の目を向ける。

パチンコをする人が、負けたことは忘れて

勝った時の記憶だけを後生大事に反芻するのと

似ているかもしれない…などと考える。


うちの義母も、自称雨女の一人。

雨が降ったら

「ごめんね~!みんな~!私がいるから~」

と自己申告する。


他人を間近で継続的に検証できないので

身近な義母の動向を観察するしかないのであるが

彼女の場合、梅雨の時期になると外出が増えるような気がする。

「暑くなる前に…」という気持ちが働くようだ。

当然、雨降りの日に出かけることも多くなる。


秋にもよく出かける。

「涼しくなったから…寒くなる前に…紅葉が…」

と遊びやおけいこ、病院通いなどに忙しい。


秋もわりと雨が多いし、台風も来る。

嵐にでもなろうものなら

「ほ~ら!私が出るといったらこれなんだから!」

…喜んでいるようにしか見えない。


他の季節はどうかというと

「気候がいい」「今のうちに」「誘われて」「おっくうだけど」

なんだかんだ言いながら、やはり出かける。

何回かに一回は、確率からいってどうしても雨が降ることになる。


私の周辺に限ってであるが

雨女を自称する人は、主婦、あまり忙しくない自営など

時間的に自由のきく人が多い。

だから気軽に出かけられる。


「雨女=結局出好き」の法則が

私の中で成立するのだが

本当のところはどうなのであろうか。
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問題は耳

2009年11月20日 09時15分23秒 | みりこんぐらし
自分では、あわてんぼうでもそそっかしいほうでもないと

思っている。

お魚くわえたドラ猫を裸足で追いかけたり

買物しようと街まで出かけて財布を忘れるようなことはしない。


しかし、聞き違いはたまにする。

聞き違えたまま突っ走る。

ふとした拍子に思い出してしまったので

その中でも特に恥ずかしかったものを

自戒を込めて書き留めておこうと思う。



中学の時、授業前に先生が私に言った。

「みりこんさん、家帰って」

私はハッとして立ち上がり

理科室を出て泣きながら玄関に向かう。


家で何かあったんだ…

先生は気を使って、さりげなく言ってくれたんだわ…

ううっ…きっと誰か死んだんだわ…

小学生の時、家族の危篤を学校で伝えられ

体操着のまま迎えの車に乗ったのを思い出していた。


「お~い!どこ行くんだ~」

先生が追いかけて来た。

私の座っていた位置が、先生の席順表と違っていたらしい。

先生はそれに気づいて

「入れ替わって」

と言ったのだった。

ただでさえ恥ずかしいお年ごろ…

みんなに笑われて、穴があったら入りたかった。



長男が幼稚園に入って間もない頃

園で初めての行事があった。

開会式の時、園児たちに向かって

かわいらしい女の先生がりりしく号令をかける。

「合掌!演歌!」


私はおもむろに手を合わせ、目を閉じた。

そして心静かに演歌が始まるのを待った。

お年寄りもたくさん来てるから、こんなサービスがあるのね…

子供たちは何を歌ってくれるんだろう…

北島三郎か…八代亜紀か…。


♪よいこ~ あつま~れ~ た~のしい ようちえん~♪

流れてきたのは、幼稚園の園歌であった。

先生は、合唱…園歌と言ったのだった。

ハッと目を開けて周囲を見回すと

ジロジロ見られており、赤面した。



小学生になった長男の勉強部屋から声が聞こえる。

「人を撃つ!」

おもちゃのピストルが流行っていた頃だった。


階下でそれを聞いた私は、階段を駆け上がった。

「人を撃ったらダメよ~!」

あまりに急いだので階段を踏み外し

向こうずねをいやというほど打った。


次に聞こえてきたのは

「ふたあつ!」

みい~っつ…よ~っつ…

宿題の本読みだった。

痛いのと恥ずかしいのとで、ちょっと泣いた。



OLの頃、運送会社の男性が新しい電話帳を配達に来た。

「そうそう、捨てるものがあったら回収しますよ」

   「そんなサービスがあるんですか?」

「はい。遠慮なく持って来てください。捨ててあげますよ」


私は倉庫へ行き、遠慮なく

古い書類などの廃棄物が満載された台車を

ゴロゴロ引っ張って来た。

目をむいて固まる男性と同僚たち。

回収すると言ったのは、いらない電話帳のことだった。

相当恥ずかしかった。



ある年末、病院の上司が言う。

「昨日仕事の帰りに墓地を買いに行ってね…」

     「ええ~?墓地を?仕事の帰りに?」

いくら高給取りでも、年の瀬の仕事帰りに

気軽に墓地購入とは…この人、本当は太っ腹?


「お買い得でいいのがあったのよ。

 こういうのは早めに用意しとかなきゃね」

      「それはそうですけど…すごいですね!仕事帰りに…」

「気になっていたけど、これで落ち着いたわ」


この人でもたまにはマトモなことするんだ…

ご主人のことをいつも“死ねばいい”と言ってるけど

死んでからのこともちゃんと考えてあげてるんだ…

ちょっと意外…見直したかも…


上司は出勤してきた他の同僚にも同じ話をしていたが

どうもおかしい。

ショウユだのキナコだの言ってる。


…墓地ではなく、正月用の餅の話であった。

この人は出身地の方言が強いので、アクセントが逆なのだ。

一瞬でも尊敬した自分を恥じた。



最近は無いような気がする。

家に居るようになって、あんまり人と話さないからだと思う。

安全である。
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仕分け人

2009年11月18日 10時23分48秒 | みりこんぐらし


我が国では、既存の公共事業を検討し直すために

「仕分け人」というチームができているそうだ。

予算を削りたい、または廃止したい国側と

削られたくない、廃止なんて絶対イヤな

公共事業側の代表が丁々発止やり合う。


数日前、ニュースで

「激しいバトルが繰り広げられました」と言っていた。

レンホウ参議院議員と

国立女性教育会館の女性館長とのやりとりであった。


物見高い私のこと…もちろんかぶりついて見ちゃった。

冷ややかな口調で

立て板に水のごとく質問というか尋問を重ねるレンホウさん…

こっちにもしゃべらせろと感情的になる館長さん…

そのうちなんだか、いたたまれないような

恥ずかしいような気持ちになってくる。


一方は、チャンス!とばかりに、デキる女をアピール。

一方は、こんな扱いを受けるなんて!と憤慨。

目的が最初からズレている。

「だから女は…」と言われても仕方がない。


綺麗なだけじゃなくて

怜悧な頭脳の持ち主であると言いたいがために

老館長をカモにするレンホウ議員の残酷。


老館長、あっさりそのワナにはまる。

まさかああまで簡単に引っかかってくれるとは

レンホウ議員も予測していなかったのではなかろうか。


館長、語気を荒げて反論するが

話す時間さえあれば逆転できると思い込んでいる甘さ。

どっちも、なんだかなぁ…。


レンホウ議員は、お茶の間に最もわかりやすい攻め方を選択した。

さすがタレント出身…見せ場を心得ておられる。

さえないおばあさん館長を悪者に見立て

正義の味方である賢い自分が

コテンパンにするパフォーマンスを演じる。


主演俳優が監督も兼ねる映画にヒット作が少ないのと同じだ。

カッコ良さを追求するあまり

見せられるほうは、やがて気恥ずかしくなる。

意地の悪い私としては、このキャスティングも

党のプロデュースの元、彼女が選んだのであれば望ましい。


日頃かしづかれ慣れている館長は、それを「心外」と言う。

女の武器無しで(失礼)ここまで登り詰めるには

努力もしただろうし、世渡りもうまかったと思われる。

それを生意気な小娘に

なんで公衆の面前でコケにされにゃならんのか…

なるほど心外であろう。


レンホウ議員、過去にはキャスターもやって

色々わかってるつもりなんだろうけど

結局自分の言動の大半は演技で

本当はそんなに賢くないというのを露呈してしまった。

気づいてないのは本人だけ…というのがちょっとお気の毒。


急に扇千景元議員の老獪(ろうかい)さが

懐かしくなる私であった。

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長文キーワード

2009年11月16日 16時33分15秒 | 検索キーワードシリーズ
検索キーワードに、時々長いのがある。

『祖父 家に帰りたいと言う 老人ホーム 可哀そう』

きっと真面目で優しいかたなんだと思う。

その優しさがあるなら、おじいちゃんに会いに行ってもらいたい。

心底かわいそうと思うなら、引き取ったらいい。


おじいちゃんは肉親の面会に感情を揺さぶられ

つい「帰りたい」と言っちゃったのかもしれない。

涙ながらに見送った後はケロッとしている人も多い。


祖父母に対するこういう気持ちは

親の感情に影響されている場合も少なくない。

自分は面倒を見ないで

「親を老人ホームに入れた」

と兄嫁なんかをひそかに恨むのだ。


…遠いから…任せているから…でも親がかわいそう…

出来ない理由ははっきりと。

心だけ痛めたつもりでエア介護。

手を出さない者ほど「かわいそう」を連発する。


老人ホーム=かわいそうでは、そこで生活する人や

働く人に失礼である。

話半分に聞いておくほうがいい。


もっと長いのがこれ。

『娘が結婚 母(私)の知(娘と面識なし)

 からの娘への祝い品のおかえしは?』原文ママ

かわいい娘を嫁がせる母の気持ちが

ひしひしと伝わってくるではないか。


娘のいない私は、そんな気分を味わうことは生涯無い。

味わいたくもない。

女の親のほうが、気を使うことが多いと思う。

怠け者の私には無理だ。


お祝いの品のお返し…そもそもこのご時世に

見たこともない、ましてや好みもわからないよその娘に

品物を贈るのが間違っている。

検索した人は、それで戸惑っているのではないだろうか。


贈るほうも、現金が贈りにくい場合は

しないほうが親切というものだ。

人が選んだ品など誰も喜ばないのだから

それはすでにお祝いではない。

お返しは礼状とお菓子くらいでいいと思う。


うちの息子が結婚する時は、現金には現金で返そうと思っている。

結婚出来れば…の話である。

私がネックになって結婚しにくいような気がする。

あんな姑のとこなんか、行かんわ!と言われそう。


実は前科がある。

長男は婚約直前まで行ったが、破談の原因には

少なからず私が関与している。

相手のお母さんに、えらく嫌われたのだ。


結婚の意思を固めた二人が

先に私のほうへ伝えたのが気に入らなかったらしい。

らしいというより、そうはっきり言われた。

「最後に聞かされた私の立場はどうなるんです?!」

…知るかい。


いったんそうなれば腹の立つことだらけのようで

「派手」「常識が無い」「身勝手」と

本当のことをおっしゃる。

私とお母さんの年齢が同じというのも、良くなかったようだ。

色々面倒なことはあったけど、我が子のために耐えたつもり。

しかし最終的に、墓の問題で破談となった。


彼女は姉妹の長女…いずれ家は絶えるので

実家の墓を守って行く必要があると言う。

彼女の母親も姉妹の長女。

将来的には母親の実家の墓守も予定している。


そして我が家に嫁げば、いずれ我が家の墓も気にすることになる。

しかも私まで姉妹の長女。

私の亡き後には、うちの実家の墓まで押しつけられる…と言うのだ。


「お墓のオモリが多くて、娘がかわいそう」

というのがあちらの主張であった。

婚約にあたって、その境界線をはっきりして欲しいと言ってきた。

つまり、こっちで手一杯だから

おまえらの墓までは知らん…ということだ。

いくらなんでも気の回しすぎであろう。


嫁より私の方が長生きする可能性もあるのだ…

二人が幸せに暮らしてくれれば、墓なんて関係ない…

死んで極楽へ行ったら遊ぶのに忙しかろうし

地獄へ行っても針山登山や血の池スイミングでわたしゃ忙しいんだ…

草葉の陰で未練がましく墓参りを待つヒマはないわい…


私は言おうとした。

「墓はそれだけじゃない!義母のヨシコんちの墓もある!」

しかし、長男が先に言った。

「さいなら」

それっきりである。

長男はその後、向こうが何を言ってきても一切取り合わなかった。


最初からこれでは、結婚しても続かなかっただろう。

今にして思えば、悪気があったわけではないと思う。

あちらのお母さんも、嫁姑や小姑で苦労したという話だった。

高飛車な態度を貫くことで

「嫁いでやる」というポジションを保ちたかったのだ。

未然に防げたのは、ご先祖様のお陰だと思っている。
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忘年…かい?

2009年11月14日 15時37分42秒 | みりこんぐらし


病院の厨房に勤めていた頃のこと。

ある年の忘年会は趣向を変えて

病院の敷地にある宿舎の空き部屋で行われることになった。

「料理が得意」「アウトドアに詳しい」

などと自称する男性職員数名が中心となり企画した

庭でのバーベキューだ。


この病院の皆様の自称くらいアテにならないものは無い。

歌、楽器、コント…宴会では

JAROの目が届かないのをいいことに

誇大広告が横行。

彼らの言う“料理が得意”も「作ったことがある」

アウトドアのほうも「行ったことがある」という程度だ。


見苦しいものを見たくなければ欠席すりゃいいんだけど

持ち前のデバガメ根性が邪魔をする。

しかもこの病院、後片付けが必要な時は

シモジモの給食係にも熱心に声がかかる。

我々も、後始末やゴミ捨てのために全員参加を決めていた。

翌日やらされるよりいいからだ。


今回は店を使わない分、食材に還元したのでごちそうが出る…

という触れ込みであったが

ここに入るまでは一般社会で生活してきた

我々一般人にとっての「ごちそう」と

狭い囲いの中で純粋培養された

彼らにとっての「ごちそう」は少々異なる。


どちらもおいしいものには違いないが

彼らの場合、それに「タダ」や「得」がついて回る“オイシイ”。

別の意味での期待に、私の胸は躍るのであった。


さて忘年会当日…

遅番の仕事をすませ、暗い裏庭を横切って会場へ向かった。

会場の前まで来ると、どんちゃん騒ぎに混じって

「お~い…お~い…」

と声がするではないか。


暗闇に響くその声は、まこと気持ちが悪く

「今夜も“お出まし”か…」

とげんなりする。

にぎやかなのにつられて、この世の住人でないおかたが

時々出没なさるのだ。


あまり相手にしたくないので、無視して入ろうとすると

声は玄関脇にあるトイレから聞こえてくる。

「お~い…誰か…」


小窓の鉄格子から、ハゲ頭をのぞかせて叫ぶ

囚われの身の事務長。

「どうしたんですか~?」

「鍵が壊れてて、トイレのドアが開かないんだよ…

 もう30分も閉じ込められてるんだ」


シブシブ給食室へ戻り、ドライバーを持って来て事務長を救出。

そんなことはどうでもいい…

いくら宴たけなわといったって

安ブシンの狭い一戸建て…誰も気づかないはずがないのだ。

酒席で誰一人トイレに行かないのもおかしい。

わざとだ…わざと。

厨房以外の部署でも、イロイロあるらしい。


数十人がひしめき合う座敷へ入ると

これからいよいよ肉が焼かれるという。

開始から1時間半…今までは何を食べていたのだ…同僚に聞くと

「焼きうどんとおにぎり」


なるほど…皆の空腹をまず炭水化物で満たした後で

ゆっくり肉を出す作戦だ。

会費を浮かせて、自称功労者だけの二次会に備えるのである。

いつもながら、このいやらしさ…こうでなくっちゃ。

それでこそ我らが病院だ。


焼いた肉を載せた皿が回って来たので

同僚が受け取って自分の前に置いた…

「その肉はあんたたちのじゃないっ!」

看護課長と庶務課長が、鬼のような顔で叫ぶ。

「それは管理職の肉よ!」


肉は管理職用の高級黒毛和牛と

シモベ用の輸入牛とに分かれていたのである。

「あんたたちの口に入るような肉じゃないんだからねっ!」


さすが!

感嘆の口笛を吹くワタクシ。

言いにくいことをはっきり言ってくださる思いやり!

こんなことをマジで思いつける心くばり!

…お里が知れるでのぅ…

あ~っ…また言ってはいけないことを口走ってしまうじゃあないか♪


和牛をさんざん上座へ見送った後

黒こげのシモベ肉がちょこっとふるまわれた。

手を打って喜ぶワタクシ。

“忘年”どころか、忘れられやしない。
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しゃぶしゃぶ

2009年11月12日 11時09分28秒 | みりこん胃袋物語


先日、薬膳しゃぶしゃぶを食べに行った。

クコの実やら松の実やら

よくわからない葉っぱ、なぜかキクラゲ…

なんだか体に良さそうなものが入っている鍋に

豆乳を投入…。


しゃぶしゃぶはおいしかったけど、一緒に行った人がまずかった。

友人夫妻…ご主人と一緒に食事をするのは初めて。

この旦那が俗に言う“鍋奉行”であった。


長いことフツーの人だと思っていたのに

鍋を前にしたら人格が変わった。

普段おとなしいタイプなので

変貌の落差がより大きく感じられる。

浮き上がってくるアクが許せないらしいのだ。


上質な牛肉はアクがあまり出ない。

年を取ってくると、お腹いっぱいを目指すよりも

少量の上質を求めるようになる。

それでも彼は思い詰めたような表情をして

わずかなアクというかアブクを

親の仇みたいに待ち伏せる。

右手にハシ、左手におタマという戦闘態勢にて

せわしなく監視と撤去を繰り返す。


合間で肉や野菜の入れ方、量、食べる順番…

「早い」だの「多い」だの「はい!今食べて!」だの

いちいち命令。

ああ…うるさい。


なんだよ…こいつ…無言で友人に目配せする。

友人は、ゴメンね…いつもこうなの…と目で言う。


鍋奉行がのさばるのは、鍋をつつくという団らんの席で

コトを荒立てたくない人が多いからだと思う。

しゃぶしゃぶの場合、アクをすくうという作業が

ひとつ余計についてくるので、うざさ倍増。

善意で世話してくれるものを

うざったいからよせとは言いにくい。


鍋奉行…それは食べ物が原因の喧嘩を恥じる

日本人のゆかしさに甘えた反社会的行為…とさえ思えてくる。


おとなしい!私とて、一応抵抗は試みた。

彼のオゴリなら我慢もしようが、今日は割り勘。

条件は平等なはずじゃ。

とはいえ私も和を尊ぶコモノなので、セコいことしか出来ない。


まずは軽いジャブ…

「気配りに忙しくて、食べた気がしないんじゃない?」

イヤミを込めて質問してみる。

「僕はいいんだよ。みんながおいしく食べられたらそれで…」

この方法はどこそこの有名店で教わった食べ方で…

などとウンチクが長くなり、逆効果であった。


今度は、1回の入浴は2きれまで…

と厳しく制限された白菜を

ガバッと入れて反応をうかがう。

「ダメッ!」

すぐさま制止され、白菜は引き上げられて連行。


ちょっとでも彼の意に反した行動を取ろうものなら

ただちに粛清(しゅくせい)されそうな勢い。

もはや奉行どころではない…鍋将軍じゃ。

そうだ!おまえは鍋ジョンイル!


「ポン酢が濃いから、ダシを入れようっと…」

などと言いながら、スキを見ておタマ略奪。

戦利品のおタマを彼の死角へと隠蔽。

フン…平民だって抵抗する時はするのだ。


しかしその頃には豆乳のタンパク成分はすべてすくい取られ

透明な普通のしゃぶしゃぶと化している。

おタマを奪われ、キョロキョロと落ち着かない目つきで

再度奪還のチャンスをうかがう彼。

渡すものか…ガルルル。


しかしつかの間の抵抗むなしく

しゃぶしゃぶはほどなく終戦とあいなった。

せっかく薬膳なのに、体に悪かったような気がする。
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風呂掃除

2009年11月09日 21時16分39秒 | みりこんぐらし


同級生の飲み会…もとい…バンド活動に

今回初めて参加したキヨシ。

「もう10時だから帰る」と言い出した。

まだいいじゃん…と引き止める一同。

キヨシは仕事が終わって、1時間前に来たばかりだ。


「嫁さんが風呂掃除するから、早く帰らないと」

「風呂掃除~?」

音楽愛好家らしく?みんな同時にハモって聞き返す。


「僕が入ってからでないと、掃除できないでしょ」

最初は冗談と思っていたが、キヨシは大まじめ。

我々が日頃、湯を落としながらチャッチャとやるようなのではなく

大がかりな掃除なのか…とたずねてみるが

そういうわけでもないらしい。


「掃除するの待ってると思うから…じゃあね!」

彼はそそくさと帰って行った。


女房の風呂掃除のために帰る…新鮮な驚きに、小さくつぶやく私。

…要するに、10時までに帰って来いということか…

…それ以降になるのは許さないってことか…


あの様子から察するに、新婚の頃から続く習慣であると思われる。

「早く帰れ」とストレートに言わず

風呂のせいにすればカドが立たない。

その言葉どおり、彼の妻は風呂掃除を毎晩せっせと行い

夫の潜在意識の中に定着させていったのだ。


な~るほど…清らかな家庭というのは

こうして運営されていくのか!

お見それしました…。

我々の学年の男子は、子煩悩で家庭を大事にする者が多いけど

それは裏を返せば

賢い奧さんをもらったからだと言えるかもしれない。


うがって考え過ぎか…とも思うが、いたいた…仲間が。

隣にいたサエコも同じような事を考えていた。

「風呂掃除でマトモな亭主になるんなら、すり減るほど磨くわよ」

なんて言ってる。


サエコの夫は、浮気はしないけど仕事が続かない。

このところの求人難というのもあって

今回はもう2年くらい家に居る。

サエコが堅い所で高給取ってるからいいようなものの

家事を手伝うでもなく、ただブラブラしているそうだ。

こんな亭主も相当イヤだろうなぁ。


疲れて家に帰って、亭主の顔を見ると

腹が立つどころの騒ぎではないだろう。

ずっと子供の面倒を見てくれ、今では体の弱った姑さんを

見限るわけにいかなくて現状維持を続けている。


サエコと私は同じ商店街で育ち

たまたま同じ町へ嫁いだ。

それぞれの夫も、たまたま幼なじみの同級生である。


昔からいつも二人で

「あの干支(えと)はいけない」

「うちらと組み合わせが悪かったんだ」

などと勝手なことを言い合い、溜飲を下げてきた。


実際にあの組は、困ったクンの宝庫。

仕事や女で問題が無ければ、酒か借金。

こマシなのは病気になる。

葬式も多い。

呪われた学年なのじゃ。


私は三択で見事ハズレを引いたが

サエコは物静かで古風な美人なので

引く手あまただった。

それなのにわざわざ今の旦那を選んだ。


わかっている…わかっていますとも…

しょせん自分と似通った相手と結婚したのだ。

サエコも私もおそらく

誰と一緒になったところで結局同じことになる気がする。

自業自得、お互い様…充分思い知ったその上でなお

我々はヒソヒソと話し合う。


家事にいちいち意味を持たせて、もったいつけときゃよかったんでは…

毎回目の前で、大変そうにこれみよがしにすればよかったんでは…ひひひ…

どこまでも悪質な二人であった。
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いい仕事

2009年11月07日 13時19分57秒 | みりこんぐらし


                “絵と本文は関係ありません”


離婚して日の浅い知人のルミに

「いい仕事があったら紹介してほしい」

と頼まれていた。


子供もまだ幼く、生活が変わったばかりで不安定なので

日曜が休めるところを探したけれど

ハローワークにも本当に無いそうだ。


劣悪な労働条件で評判の工場に

覚悟を決めて就職したものの、3日で挫折したという。

「こんな時期に、仕事も無いのに離婚すな!」

と思うのは簡単だが、それぞれのっぴきならない事情がある。

ここはひとつ、そのチャレンジ精神を評価しようではないか。


大変ねぇ…でやり過ごせばいいものを

困っていると聞いてじっとしていられないのが

私のバカなところ。


こんなのは、降って湧いた宝くじ並みの話でなければ

人の言うことなんて聞きやしないのだ。

下手な鉄砲の構想で、あちこちタネをまいときゃ万が一…

相手はそれを期待しているのだ。

わかっているのに、つい首を突っ込んでしまう。


心当たりに問い合わせたら、議員事務所の電話番があった。

念のためにもうひとつ用意…

生き物の研究センターでエサをやる仕事。

正社員にこだわらなければ、あることはあるのだ。

何でもいい…まず外に出ることで道は拓ける。


早速ルミに連絡する。

「議員事務所~?」

ジーンズで行けないよね…

電話とか苦手だし…

「エサやり~?」

生き物は苦手なのよね…

冷え性だし…


要するに、どっちもお気に召さない。

「日曜さえ休めたら、贅沢は言わない…」

って言ったじゃん…。
 

何でもいい…と言ったって

あんまり本人とかけ離れたものでは失礼にあたる。

もし言われたのが自分であっても

行けそうな所を選んだつもりなんだけど。


…ずっと以前、仕事をしようかな…と考えていた頃。

知人と何気なくそんな話をしていたら

途中から割って入った別の知人に

「道路工事のガードマンは?募集してたわよ!」

と熱心に勧められた。


同じ人が後日

「お弁当屋さんのごはん炊きがあったわ!」

得意満面でチラシを持って来てくれた。

午前4時から8時まで…。

二つも紹介してやった…と言わんばかり。


しかし、こちらの都合を言わせてもらえば

温度変化に弱く、注意力散漫な私に

ガードマンは勤まらないと思う。

小中学生の子供のいる身(当時)で

毎朝4時から8時まで家を空けることは難しいと思う。


なんでもいい…あてがっておけ…

それが彼女なりの「親切」であり

彼女にとって私はそういう存在であったということだ。


私はその人にたずねた。

もし自分がそこへ行けと言われたら行く?

「私が?行くわけないじゃないのっ!失礼な!」

と真顔でおっしゃる。


この経験をふまえ、以来仕事に関しては

たとえ漠然とした話でも

思いつきで無神経なことは言わないようにしているツモリ。


じゃあ、他にどんなのがいいのか?

ルミに聞いてみる。

「各種保険とボーナスがあって~

 欲を言えばやり甲斐があって、残業が無いところ。

 正社員ならなおいいけど」


そんなのがあったら、あんたに言わずに私が行っとるわい。

まあ、なかなか仕事が見つからない人ってのは

こんなもんだ。

彼女の求めているのは「仕事」ではない。

「いい仕事」という夢なのであった。


紹介した2カ所に断りの電話を入れる。

「おまえが来い」と言われ、ロウバイする私。

電話番はさておき、実はその生き物が怖い。

たいしたものではない。

魚類である。


人には紹介しても、いざ自分が行くとなったらやっぱり躊躇する

口ほどにもない私よ。

取り急ぎ、身代わりを探す日々である。
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マーキング女

2009年11月05日 23時31分37秒 | みりこんぐらし


昨日、夫の車に同乗して出かけた私。

外気温度を表示するボタンがわからなくて

運転しながらあれこれやっている夫を見かね

ダッシュボードから説明書を取り出そうとする。


車検証にはさまれ、サンドイッチの具みたいに出て来たのは

折りたたまれた小ぶりな紙袋。

若い子向きの化粧品メーカーのものだ。

クリスマス限定セット専用の

きらびやかなデザイン…今年のやつ。

つい「もうクリスマス!」と言ってしまう。


「あ、それ…お袋のだ」

夫は前を向いたまま言う。

「こないだ乗せた時、そこに入れてた」

よせばいいのに、そこまで言う。


義母はこんな化粧品は使わない。

誰かに袋だけもらったとしても

近くに販売店の無い、発売されたばかりのものが

何かの理由で義母の元に来るのは、時間的に無理がある。


第一あの年代の女は、いくら息子の車であろうと

不要なものを残して降りるような不作法はしない。

特に義母は、ドアとシートベルト以外のものを触ったら

大変なことになると思い込んでいるので

ダッシュボードの存在すらも知らない。

ましてやご丁寧に車検証にはさむなんてことをするわけがない。


何事も無かったように元に戻すが

夫の繊細なハートはダメージを受けたようだ。

夫自身もこんなものが出てきて驚いたのだった。


「あ~!おもしろくないっ!」

これ見よがしに大きなため息をつきながら

チラチラとこっちの表情をうかがう。


「楽しくドライブしてたのに!一瞬でこうなっちゃうんだもんなあ!」

おいおい…それは通常こっちが言うセリフでは…?

昔はそれでムッときて、口喧嘩に発展したこともあるが

もうそんな若葉マークはしない。


路肩にソフトクリームの屋台を見つけ、買い与える。

おとなしくなる夫。

やれやれ。


車に痕跡を残す女…

絶滅種と思っていたけど、まだいることはいるらしい。


昔、人形やクッションを置いた女がいた。

人形のほうは、重さや材質がリアルなタイプで

どうも二人の間に生まれる予定の男の子…

という設定であるような気がした。


私も若かったもんで、腹が立った。

人形の顔は描き直して白目をむかせ

クッションにはゴミを詰めておいた。


助手席の窓ガラスに

「ヒロシ ラブ ジュンコ」

と指で書き残したのもいたっけ。

くもると浮き上がる。


こういうのは、バカ丸出しの人形やクッションよりも感じが悪い。

バレてほしいわけじゃないけど

こっそりマーキングせずにはいられない…

姑息な挑戦状と受け取られても仕方がないではないか。


その時もやはり若かったもんで

ラブのラを×で消し、ブの次にスをそっと書き加えた。


今度もその手のおかたみたい。

よその家に小石を投げてみたいのであろう。

同じ投げるんなら、漬け物石投げんかいっ!

ま、久々のヒットではある。
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爪美人

2009年11月03日 08時49分06秒 | みりこんぐらし


「スカートが…」

「マニキュアで…」

電話中の長男の部屋から

怪しげな単語が聞こえた時、マジで思った。

この子…大丈夫かしらん…。


真相は、釣りの仕掛けの話であった。

疑似餌になにやらフリフリしたものをくっつけ

ひらひらさせては魚を誘うのをラバースカートと呼び

マニキュアは、鯛釣りの仕掛けを手作りする時に塗るのだそうだ。


この夏は鯛の当たり年だったので

私はたびたびネイルカラーを買いに行かされた。

自分で行けばいいのに

「誤解されたら困る」と言う。

それもそうだ…婿入り前だもんね。


百均のではなく、化粧品売り場に置いてある

ちゃんとしたメーカーのものが

やはり仕上がりがよろしいようだ。


私が普段使うピンクやベージュ系のおとなしいものではダメと言う。

できるだけ派手な原色や蛍光色、ラメなどが良いと言う。

鯛がそれを好むと。

…生意気な鯛め。


しかし、いくらネイルカラーをたっぷり塗っても

海水ですぐ輝きが失われるとぼやく。

「あら、トップコートを上塗りすればいいじゃん」

と言ってから、しまった…と思う。

私のトップコートは、ほどなくカラになり

またまとめて買いに行かされる。


トップコートの効果は満足のいくものであったらしい。

「オシャレな母親を持って、良かったのぅ」

誰も言ってくれないので、自分でそう言う。


鯛のシーズンもひとまず終わり

私のドレッサーには、長男からもらった

えげつない色のコレクションがたくさん並ぶこととなった。


自分の肉体の中で、自信のある部位を述べろ…

もしもそう言われたら、人は何と答えるだろう。


私の場合、迷わず爪だ。

爪しか無いので、迷う必要は無い。

自信があるというより

これといった大きな難は見あたらないという低レベルなんだけどね。


ハワイでつけ爪を買って付けていたら

行く先々で現地の人に聞かれた…

「ステキねぇ!どこのサロンへ行ったの?」

ABCストア!と答えたら、誰しもびっくりするのが快感であった。

既製品のつけ爪が修正無しでぴったりはまるのが

便利と言やあ便利。


しかしこの爪で迫害?を受けたこともある。

指先ギリギリまでが爪本体のため

学校の清潔検査では、いつも「長い」と無実の罪に問われる。

マニキュアをしているだろう…と、よく誤解もされた。


病院に勤めていた頃は、しょっちゅう「爪を切れ」と言われていた。

…切ったら血が出ますがな。

自分のアマガエルみたいな形状が正しいと信じているらしい。


てめぇを基準にモノ言うな、バーロー…

みんながおまえみたいに醜いわけではないわい…

上品!で、奥ゆかしい!私は、いつも心でそう叫んだ。


爪が自由の身になった今、少し伸ばして

ズラリと並んだネイルカラーを消費する楽しみに

時間を費やす。


サロンは遠いので行かない。

以前はちょっと通ったこともあるが

今じゃ家でプータローの身の上…

人に見せるわけでもなし、もったいない。


自分でやると、利き腕の右手がうまくいかないが

細い筆やグッズを買い込んで

グラデーションをつけたり、模様を描いたりして喜んでいる。


しかし欲を言えば

もっとはっきりした箇所…頭とか顔とか胸とか…を

「自信がある」と言ってみたい。
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呪いのネックレス

2009年11月01日 17時43分45秒 | みりこんぐらし


夫がネックレスをくれた…

と言ったら、ちょっと聞こえがいいではないか。

ネックレスはネックレスでも、健康用品の類である。

ほとんど首輪。


見た目はベージュの布製…というか

薄汚れた包帯を編んだ…といったふぜいのハンドメイドな感じ。

ダサさ満点。

なんかスジや筋肉がほぐれて軟らかくなるそうだ。

くれるんなら、もっといいモノをくれぃ!


いつも行く整体で買ったらしい。

とにかくその首輪は我が家にやって来た。


よくある原色のものと違い、見た目の見事なじじくささから

かえって目立つらしく

「それ何?」とよく聞かれたらしい。

いちいち説明するのに嫌気がさした夫は

1日で飽き飽きしてしまい、私の首にかけてくれたのだ。


これで本当に筋肉が軟らかくなって凝りがほぐれるのならば

筋肉の存在がほとんど認められず、凝りも無い私がしたら

もしかして痩せるのではないか?

などという、かなり都合の良い期待がふくらむ。


1日目…なんら変わりは無し。

2日目…やはり変化無し。

体が軽いとか、どこか特にほぐれたり軟らかくなった気もしない。

3日目…見事に飽きて、入浴の際にはずしたまま忘れる。


翌朝を迎えて…

「グェッ!」

起き上がろうとして、首と背中の痛みに悲鳴を上げた。

頭もガンガンする。

なんとか起き上がったら、腰まで変だ。

全身が筋肉痛みたい。


「おかしい…」

昨日食べたものや動きを考えても、心当たりがない。

唯一思い当たることといえば

じじネックレスをせずに寝たことであろうか。


「あ~…オレに合わせて選んだタイプだから

 きつかったのかもしれんな」


じじネックレスには数種類あって

その中から自分に合ったものを選ぶという。

夫に合わせているから、私には合わないということか。

当たり前じゃ…ケガレきった夫と清らかな!私とでは

流れる血液からして違ってもらわなければ不公平じゃ。


どうやって数種類から選ぶのか…と問えば

オーリングで決めると言う。

両手の親指と人差し指でワッカを作るアレだ。

合わなければワッカははずれ

合えば両手はくっついたままだという。


「ケッ!」

私は吐き捨てる。

とうとうそこまで落ちぶれたか!


オーリングに限らず、近頃多いのだ。

こういう不思議を売り物にする奴らが。

昔は奇妙な屋敷や寺でひそかにやっていて

出入りする人々も、見るからに怪しげ…

自ら関わりたいと願わなければ接触の機会はなかった。


しかし今日びは、普通のあんちゃんやネエちゃんが

エステ、アロマ、サプリ、石…

普通の店で普通を装い、カモを待つ。


なんだかんだ言っても体が資本の整体術。

一人一人に一生懸命になっていたら、センセイの身が持たない。

かといって、機械治療に比重を置いたら患者が減る。


そこで便利なスピリチュアル。

楽な上に尊敬され、固定客となるからじゃ。

横着が発覚しないように

目線を別のところへ持って行く根性が気に食わん。


そんなモンで決められるなら

学校や仕事や結婚相手もそれで決めればええんじゃ。

食料品も車も服も、それで買えばええんじゃ。

なんならその整体の入り口でやってみたらどうか。

ワッカがはずれた者は帰りなされや~♪


「そのうち気やパワー送るとか手かざしかなんか始めて

 お告げとか言い出すんじゃないの?」

「お告げはしないけど、気を送る。

 そのネックレスにも入ってる」

「…」


異変の原因はそれだったのだ。

横着モンの気なんかいらん!

感染したらどうするんじゃい!

わたしゃ、ますますタラタラしてしまうじゃないか!


これは、つけたら何ともないけど

はずすとソッコー祟る呪いのネックレスだ。

ハサミで切って捨てた。
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