殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

現場はいま…ゴーヤ騒動記・3

2024年05月30日 10時25分07秒 | シリーズ・現場はいま…

兄社長が使い物にならなくなったため

急きょ新社長に就任した現在のアキバ社長。

後になって、わざわざ反社系のT興業と組んだのは

当時の恐怖体験が作用しているのかもしれない。

すでに目をつけられてしまった身の上としては

仕事をする限り、終生小さくなって暮らすか

または、いっそのこと別の反社に近づいて

御守り代わりになってもらいつつ

似たような振る舞いで横柄に暮らすか。

この二つしか方法は無いのである。

 

御守り代わりとは、危険防止のアイテムという意味。

あの世界の方々には複雑な人間関係が存在していて

以前、同じ職場?にいた人たちが、あちこちに散らばって起業?し

本店と支店のような関係を築いているものだ。

その関係性を熟知する人物が近くにいれば

何かある前に予防できたり

何かあっても上の者同士で話をつけられる場合があるので

危険を回避できる可能性が高まるというわけ。

 

さて、仕事を増やしたいのは山々だが

F工業を敵に回したら、もしかして自分の会社が危ないかも…

それを悟ったT興業がピカチューを止めたので

アキバ計画は頓挫したかに見えた。

F工業の訪問を河野常務に止められたこともあって

ピカチューもおとなしくなり、静かな日が1週間ほど続いた。

 

けれどもその静けさは、次なるアキバ計画の前触れに過ぎなかった。

アキバ計画には、第二弾があったのだ。

「ピカチューが事務所のホワイトボードに

“B社サンプル持ち込み”いうて書いとる」

ある日、次男が私に言い、続いて帰宅した長男も同じことを言った。

 

B社…その社名が我が社の予定表に記されることは

絶対に無いはずだった。

しかもサンプル持ち込みとは、こちらの商品をB社に持って行き

品質を確認してもらうこと。

つまり、うちとB社が一緒に仕事をする可能性を示している。

息子たちはこれに違和感を感じた様子で、私も同じ気持ちだった。

 

B社のことは何年か前

『行いと運命』という記事で触れたことがある。

亡き義父アツシとB社の先代社長、B氏は若い頃からの友人だ。

 

やがて、それぞれが起業。

アツシはB社から、仕事をもらうようになった。

多くの土地を所有していたB氏は

バブル期の土地高騰をうまく利用して会社を急成長させ

アツシにとってB社は、メインの取引先となった。

その縁で、B夫妻は我々夫婦が結婚した時の媒酌人を務めた。

 

しかしやがて、ある選挙が二人を分つ。

一騎打ちの選挙でアツシは前回と同じ現職を

B氏は新人を支援することになったのだ。

仕事をあげているんだから…という理由で

B氏はアツシに寝返りを要請。

しかしアツシは頑固に拒否。

選挙結果は、B氏の支援する新人候補が勝った。

 

その翌朝、アツシはB社に呼ばれて取引停止を言い渡された。

B氏の言うことを聞かなかった報復である。

アツシの会社を切っても、B社は困らなかった。

取引停止になったその日、次の業者が納品を開始したからだ。

その業者というのが、隣のアキバ産業。

B社とアキバ産業は水面下で手を組み、選挙期間中には

すでにアツシを切る準備が整っていたのである。

 

両親はB氏の傲慢とアキバ産業のずるさを憎んだが

私はアキバ産業の方がアツシより賢かっただけだと思った。

メインの取引先を失ったのは、選挙バカのアツシの自業自得だ…。

 

しかし、アツシに成り代わって

B社と親密になったアキバ産業のその後を見るにつけ

あの選挙はB氏と決別する良い機会だったと考えを改めた。

なぜって、B氏が通勤に使う車が古くなると

相場よりかなり高い現金でアキバ産業に買い取らせ

自分は新車を買う。

そしてB氏に買わされたお古の車は、アキバの先代社長が乗るのだ。

それがB氏の求める忠誠の証であり、お小遣いであった。

 

選挙が無ければ、そのうちアツシも

B氏のお古を高く買い取って乗ることを強要されただろう。

彼の性格からして、即座に拒否するのは間違いない。

いくら仕事をもらっているからといって

高いお金を出して人の中古車を買い、それに乗るのは私だって嫌だ。

遅かれ早かれ、アツシとB氏は決別する運命だったように思う。

 

やがてB氏もアキバの先代も亡くなり

会社はそれぞれの子供に引き継がれた。

B社は私と同年代の息子が社長に就任したが

父親に倣って今のアキバ社長に同じことを強要している。

 

が、誰だって中古車に、相場より高い現金を出すのは惜しい。

会社が落ち目になってからは、死活問題だ。

そこでアキバ社長は考えた。

「別の誰かに同じことをすれば

B社長に払う現金が用意できるじゃないか」

 

人間、切羽詰まると名案が浮かぶものである。

彼がターゲットに選んだのは、スギヤマ工業の専務。

弟分ということで、B社長がアキバ社長に売りつけた古い車を

やはり相場より高い現金で買い取らせ、乗らせるのだ。

魂を売った彼らには、自分の好きな車に乗る権利さえ無い。

 

ちなみにスギヤマ工業の専務は

うちの事務員アイジンガー・ゼットの亭主。

アキバ社長もスギヤマ専務も、嬉しげにB氏のお古に乗っている。

ついでに話すと、次男がわずか1年の新婚生活を送ったアパートは

アイジンガー・ゼット夫婦の近所だと聞いていた。

次男は離婚後もそのアパートで寝起きしているが

先日、用事でそこを訪れる機会があった。

 

すると、車1台がやっと通れる道路を挟んだ真向かいに

古ぼけた平屋があり、駐車場には見覚えのある古いジープが。

次男のアパートとアイジンガー・ゼットが住んでいる

アキバ産業の社宅は本当にお向かいだったのね。

そしてその平屋は、アキバ産業が本社事務所として使用している

古い建物の裏庭にあった。

本当にアキバ産業と仲良しなのね。

 

ともあれ第二アキバ計画の開始を感知した私は

取り急ぎ、その全容究明に取りかかるのだった。

《続く》

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

現場はいま…ゴーヤ騒動記・2

2024年05月28日 13時58分23秒 | シリーズ・現場はいま…

ピカチューを使ってF工業を排除し

代わりにT興業のダンプをうちへ入れる…

T興業は持ち前のコワモテを発揮して社内を揉ませ

夫や息子たちを始めとする社員を一掃、ジワジワと会社を衰退させる…

やがて、うちは消滅、アキバ産業が本社の子会社に成り代わり

T興業も安泰…

これが、アキバ計画である。

この業界で、切羽詰まっている者が考えることは皆同じなのだ。

自力での解決が困難となれば、諦めて倒産するか

あるや無しやの仁義を捨てて、誰かの食いぶちを奪うしか道は無い。

 

厳密に言えば、我々のように大手と合併する手段もあるが

これは自分から売り込んでどうにかできるものではない。

向こうが言い出してくれて初めて実現するので、レアケースだろう。

本社の物好きと河野常務の憐れみ深さによって合併に至ったが

今や競合他社が成り代わりたがる道を

十年以上前に選択した自分の判断に満足している。

 

だからアキバ計画を知っても、腹は立たない。

以前の我々と同じように大変だろうから、同情すらする。

ただ、アキバ社長は、いつも誰かとグルになる。

50も半ばを過ぎたというのに、未だに一人で勝負できないんだなぁ…

などと、若い頃から見知っている整った風貌の彼を

おぼろげに思い浮かべる程度である。

 

ともあれ、ピカチューがF工業に会うのを止めたT興業の判断は

正しかったと思う。

それは、平和のためではない。

ピカチューがF社長と会っていたら、T興業は危なかった。

 

ピカチューがアポを取りたがっている…

このことを次男から聞いたF社長は、瞬時にアキバ計画を見抜いた。

ピカチューと喧嘩した夫が辞めると言って帰った後

彼が夫の机を片付けていた…

あの“机事件”に怒り心頭のF社長だったが

その時、次男には、こうも言っていたのだ。

「うちを切ってT興業を入れるんなら、M物産の仕事、取っちゃろ」

 

M物産とは、F工業とT興業の中間に位置する大手の会社。

つまりT興業にも近いが、F工業にも近い場所にある。

そしてT興業にとってM物産は、最大の取引先。

T興業のT社長はアキバ社長と仲良しではあるものの

仕事の方はM物産がメインである。

大口で美味しい仕事なので、まずそっちを優先し

M物産から呼ばれずに余った1台か、たまに2台を

アキバ産業へ行かせているのだ。

 

太客が一本だけというのは、経営者にとって非常に怖い。

向こうの都合や気まぐれで切られたら、会社は一巻の終わりだからだ。

確実な顧客を増やしたいT興業がアキバ計画に乗るのは

当然といえば当然である。

 

その、T興業にとって命綱であるM物産の仕事を

F社長は奪うと言っているのだ。

だって今回の場合、うちへ入っているF工業の仕事を

先に取ろうとしたのはT興業。

ここで我々の業界の掟、「取ったら取り返していい」がまかり通る。

F工業にも近く、大口で美味しい仕事を振ってくれるM物産は

ぜひとも欲しいところだ。

 

F工業にとってのアキバ計画は

「うちの仕事を奪うなんざ、とんでもないヤツだ!プンプン!」

と怒って終わることではない。

M物産の仕事を正々堂々と奪える、絶好の理由になる。

そのために、うちの仕事を先にT興業に奪わせる手も

あるということだ。

 

F工業が去ってT興業が入って来たら

厄介なことになる恐れはあるものの、その期間は短いだろう。

M物産の仕事を奪われたT興業は早晩

二度目の倒産を迎えることになるからである。

 

我々の業界では、たまにこの手が使われる。

目の前にエサをぶら下げて、相手が食いつくのを待ち

エサが取られたら、報復と称して相手のエサを取るという高度な手口だ。

今回のエサは、うちということになるけど

たいしたエサでもなし、F社長の役に立つなら全然かまわない。

信頼し合う同志と仕事ができるのは

変な輩から変な計画を立てられたり、足をすくわれたりの不快を

大きく超越する喜びである。

 

エサをぶら下げて先に取らせ、報復に出る手口は

20年近く前、我々も見たことがある。

この手に引っかかったのは、他でもないアキバ産業だ。

 

当時の社長は今の社長のお兄さんで

次男の現社長は専務だった時代である。

亡き父親の後を継いで社長に就任したばかりの兄社長は張り切り

あちこちに顔を出しては、単価を下げて取引を持ちかけるという

アキバのお家芸を炸裂させていた。

 

常々申し上げているように

我々の業界にはカタギとクロウトが混在する。

この世界で生きていくならば、まず業界の歴史を学び

違いを見分ける選球眼を養うことが不可欠だ。

しかし兄社長は、チャレンジャーであった。

どこの取引先であろうと分け隔てなく、果敢にアタック。

その噂は、危険な行為として業界に広まっていた。

 

やがて兄社長のチャレンジ精神は

絶対に誰も手を出さない聖域にも及んだ。

同業者では県内で一、二を争う大手、かつ“その筋”の親玉として

戦後の復興時から業界に君臨してきた会社、K商事である。

お兄さん社長は、このK商事の取引先であるD総業へ行き

「K商事より単価を下げるので、うちと付き合って欲しい」

と申し込んだのだ。

 

するとD総業は、いとも簡単にOKした。

喜んだ兄社長は後日、契約を詰めるために再びD総業を訪問。

その時には、K商事のスリリングな方々が多勢でお待ちだった。

そう、D総業は最初から乗り換える気など無かった。

見境いの無いアホがいるということで

K商事と共に兄社長をからかったのである。

 

K商事の縄張りを荒らした兄社長はスリリングな方々に連れ去られ

スリルを味わったそうだ。

以後、兄社長はちょっとおかしくなってしまい

弟が社長を交代して現在に至っている。

《続く》

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

現場はいま…ゴーヤ騒動記・1

2024年05月26日 16時37分04秒 | シリーズ・現場はいま…

我々のお目付役、ピカチューが

F工業のF社長とゴールデン・ウィーク明けに会う…

このことは前回のシリーズでお話しした。

 

改めてご説明するが、彼は隣の商売仇、アキバ産業と癒着している。

そこで、うちと一緒に仕事をするF工業との契約を切り

アキバ産業と仲良しの反社系会社

T興業を招き入れるための準備として、F社長と面談したがっていた。

酒好きの彼は契約を切る前に

F工業とT興業を天秤にかけるそぶりを見せ

F社長から酒の接待を受けるつもりでいた。

 

彼に契約を切ったり結んだり

天秤にかけて接待をさせる権限があるのか…

そう問われれば、無い。

所長から所長代理に降格した現在は、ますます無い。

しかし彼は、あると思い込んでいる。

隣とT興業、そしてうちの事務員アイジンガー・ゼットにそそのかされ

すっかり勘違いしているのだった。

 

ピカチューは連休明けの5月7日、F社長に電話をして

会う日を決めるはずだった。

しかし結論から言うと、彼がF社長に電話をかけることは無く

当然ながら二人の面会も泡と消えた。

うちの夫を辞めさせようとした件で腹を立てているF社長が

ピカチューと会ったら面白いことになると思っていたが、残念である。

期待してくださった皆様、すみませんでした。

 

さて、F社長とピカチューの面会が立ち消えた理由は二つある。

一つは、河野常務に止められたから。

 

松木氏に始まり、藤村、ピカチュー…

本社から回された歴代のお目付役は

毎日のスケジュールを入力する義務がある。

それを本社に居る河野常務がチェックするのだが

彼らお目付役は、このスケジュール入力作業が苦手。

何もわからなくて一日中ブラブラするしかないのに

毎日、何かをやるフリをしなければならないのだから

いくら嘘つきとはいえ、さすがにつらい。

しかもいい加減なことを書くと、ガンガン追求される。

彼らは、それを心底恐れていた。

 

肝の小さい者なら誰でも、この恐怖から逃れたい。

常務の叱咤は、それほど厳しいものらしい。

我ら一家は義父アツシの怒号に慣れているため

常務が優しく感じられるが、この環境が初めての者は

頭がおかしくなる級の恐ろしさのようだ。

 

そのおかしくなった頭で、やがて考えつくのは

夫を追い出して成り代わること。

子会社の責任者である夫に、スケジュールの報告義務は無い。

本社直轄の営業所長と、子会社のトップを兼任すれば

何となく忙しそうな雰囲気になり

報告義務から解放されると思うらしい。

 

夫が本社からスケジュール管理をされてないのは

取引先の管理と入荷出荷の調整を行いながら

ダンプ輸送にまつわる各種の管理をこなしつつ

重機での積込み作業をしているから。

一日中、用事があるのは明らかなため

わざわざ報告するまでもないというわけ。

 

しかし彼らには、それがわかってない。

長年の経験と勘だけで仕事をこなす夫が悠長に見え

恐怖から逃れたい一心で、夫の排除に血道を上げるようになる。

彼らお目付役がおかしくなるのには

この恐怖心も大いに影響しているのだ。

 

7日の朝も、“恐怖”が発動した。

河野常務から、ピカチューに着信だ。

「おまえ、今日の仕事は電話1本だけか!」

“F工業、F社長に電話でアポ”

ピカチューは事務所のホワイトボードに書き込んだように

スケジュール報告にも同じことを入力したらしい。

 

「F工業に何の用事ね」

「挨拶に…」

「何の挨拶ね」

「社長に挨拶がまだだったので…」

「はあ?1年も経ってからや」

「はい…向こうの都合が合えば今日、行くつもりで…」

「行かんでええ。

ガソリンと時間の無駄じゃ」

 

こうしてF工業訪問は泡と消えた。

「で、今日は何するんね」

その後、ピカチューが常務がらネチネチと突っ込まれたのは

言うまでもない。

 

F社長との面会が未遂に終わったもう一つの理由…

それはF工業を切ってT興業をうちへ入れるアキバ計画に

肝心のT興業が、待ったをかけたことである。

 

我々ギャラリーとしては

鳶(とび)職由来の伝統的任侠系、F工業と

背後が反社系組織のT興業との対決を見たいところだが

現実はもっと地味。

これはひとえに、両社の規模の違いなのだ。

かたや多角経営のかたわらダンプ数十台を所有し

県の内外に幅広い顧客を持つF工業。

かたや計画的とはいえ、一度倒産した過去を持ち

数台のダンプで細々と営業するT興業とでは

社会的信用や資金力に大きな差がある。

 

F工業を切ってT興業を入れると言ったら柔らかく聞こえるが

我々の業界でそれは、T興業がF工業に喧嘩を売るということだ。

実際に仕事を盗った盗られたに至らずとも

ピカチューがF社長と会って本題に触れた瞬間から

両社は敵同士になる。

天秤にかけられたF工業は、絶対にT興業を許さない。

業界の体面上、許してはならないのだ。

それがこの業界のワイルドな所である。

 

よその仕事を盗ろうとした時から

仕返しも邪魔もOKの長い戦いが始まり

何だかんだ言っても最終的には資金力のある方が勝って

弱い方が潰されるものだ。

仲間と夢を語っているうちは良くても

いざ実行に移すとなると、T興業がひるむのも無理は無かった。

《続く》

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

手抜き料理・宅配弁当

2024年05月22日 10時19分49秒 | 手抜き料理

お風呂から上がって真っ先に顔を拭いたら、すぐ化粧水をつける…

これ、何十年も前から知っていた。

私のような乾燥肌の人には特にいいというのも知っていた。

だけどやらなかった。

理由は、浴室に化粧水を持ち込むのを忘れるから。

百回思い出して、百回忘れた。

 

絶対に忘れない方法として

最初から化粧水を1本、風呂場へ置いておく方法もあるが

それには抵抗があった。

浴室の湿気と気温で、変質の恐れがあるからだ。

さらに忘れっぽい私の場合

化粧水を浴室に置いたことすら忘れる恐れ濃厚。

 

しかし、そうも言っていられなくなった。

栄養クリームを置き薬の物に変えて以来、肌砂漠はひとまず終わったが

そうなると欲が出て、もっと潤いたくなる。

10キロ痩せた喜びと引き換えに

目の下のクマやら額のシワを入手してしまったが

そんなのは老眼が進めば無いのと同じさ。

欲しいのは触感でわかる潤いなのさ。

 

欲にかられた私は、いよいよ風呂場化粧水を実践することにした。

水もしたたる髪も身体も後回しにして

まず顔だけの水分を軽くタオルドライしたら

間髪入れず化粧水を手に取って顔にパシャパシャ。

 

結果…すごく潤ってびっくり。

風呂上がりに髪や身体を拭いたりパジャマを着たり

基礎化粧品の置いてある部屋へ移動する間も

顔は刻々と乾燥し続けている。

その前に化粧水でフタをすれば

その後のスキンケアもみずみずしく続行でき

翌日もしっかり潤って化粧のりもいい。

 

欲深い私は、なんならスキンケア御一行様を全部

浴室に持ち込んで済ませてしまおうかとも考えた。

が、これから暑くなる。

汗で流れてしまうだろうから、思い止まった。

また冬になったら、やってみようと考えている。

 

 

さて、潤いは手に入れたが、自由は未だ手に入らない私よ。

人間、一番欲しい物は手に入りにくいもの。

そうよ、実家の母に弁当を届ける習慣は、今も続いている。

この先も続くと思う。

これは、ある日の弁当。

左上からサバの生姜煮、アコウの煮付け

焼き豚と、その隣はエノキと梅干しの炒め物

お好み焼き。

 

またある日は、左から高野豆腐の煮物とナスの揚げ浸し

ミンチカツとポテトサラダ、冷凍たこ焼き

それから塩サバの焼いたの。

 

「またまた…自慢げに見せびらかしちゃって。

これのどこが手抜き料理なのよ」

と言われそうだけど、私にとっては立派な手抜き料理。

 

まず、3日か4日に一度のペースでやっているのが最大の手抜き。

実家通いを減らそうとして、一度にたくさん持って行ったら

老人のことだから、次に届くまで持たそうとするだろう。

それで食中毒になったら厄介だ。

少しは自炊もしないとボケるだろうから

だいたい2日で食べ終わる量に調節している。

 

実家は同じ市内とはいえ、車で15分かかる。

弁当を渡してすぐ帰るわけにもいかないから

なんやかんやで半日仕事になってしまう。

毎日だと息切れして続かないのはわかっているため

自分のペースを崩さない、つまり言いなりにならない決意は大事だ。

 

それから、うちの晩ごはんのおかずを午前中に作ってしまい

午後、それを詰めて持って行くシステムを確立しているので

思ったほど負担にはならない。

むしろ自分とこの晩ごはんが、すでにできているという安心感は大きく

実家へ行った帰りに、同じ町内にあるマミちゃんの洋品店に寄ったり

スーパーで買い物をして帰ったり

先月打撲したヒザのリハビリに行ったりと

やりたいことが色々とできて、午後から夕方までを有効に使える。

 

宅配弁当の品目は基本的にうちの晩ごはんのおかずだけど

他には老人が作りたがらない揚げ物や

調理に時間がかかるので絶対に作らないであろう物

買うことはほとんど無いであろう冷凍食品など

老人にはご無沙汰がちの食品を見繕って詰めている。

 

他には母が魚好きなので、息子たちの釣果の消費に貢献。

焼きゃあいい、煮りゃあいい魚料理は、ほんに早くて便利。

うちのおかずに、これら魚料理を加えて3〜4パックに増やせば

いかにもあれこれとたくさんに見えるではないか。

 

よって、人が思うほど大変ではないのだ。

親に弁当を届けていると言ったら

いかにも大層な慈善をやっているみたいに聞こえるけど

手軽にとらえて楽しくやれば、それは手抜き料理になる。

 

が、こんなにいい加減な私にも、一つ問題が。

母は時々、この宅配弁当にお金を払うと言うけど

私は自分の家のついでだし、プレッシャーになるからと受け取らない。

そこで、町内にあるカフェで奢ってくれようとする。

町外在住の料理好きで美しい奥様が

無人になった古民家を借りて道楽でやっている店よ。

値段はちょっとお高め。

 

母は、このカフェで出されるランチやスイーツが好き。

しかしそこは田舎のお婆さん、一人で入る勇気は無いので私を誘うわけ。

コーヒーが美味しいし、カフェのママさんは私の知り合いだし

それは構わないんだけどカフェのメニューがつらいのさ。

 

細くて美人って、野菜と酸っぱい物が好きみたいね。

日替わりのランチには、てんこ盛りの野菜サラダに

舌を刺すほど酸っぱい手作りのレモンドレッシングがたっぷり。

メインにも柚子ソースやら、バルサミコソースやら

ブルーベリーソースやらの酸っぱいソースがかかっていて

付け合わせの温野菜もツンツンと酸っぱい味付け。

スイーツも、レモンの登場多しの似たり寄ったり。

口内炎ができた時なんか、ちょっとした地獄だったわよ。

 

私、酸っぱい物が嫌いってわけじゃないけど

大量の生野菜に酸味のオンパレードだと

身体が冷えてお腹が痛くなっちゃうのよ。

母にもママにも言えないけどさ。

メルヘンなカフェで酸味と戦いながら

もう何百メートルか先にある和食店に思いを馳せる私。

だから弁当を届ける時は、カフェの定休日に合わせるよう努力している。

コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

それから…

2024年05月13日 10時07分38秒 | みりこんぐらし

4月の始め、性懲りもなくお寺料理をした数日後…

私は転んで病院通いになった。

近年では、これが一番ショックだったかも。

 

トシだから転んだのではない。

例のごとく、義母ヨシコによる悪意なき人災。

この人には危険予知能力が欠落しているため

突然とんでもないことをやらかし

私を含めた家族は、時たま被害に遭うのだ。

 

今回の怪我は、家で起きた。

実家の母に料理を届け、帰りに買い物をした私は

両手に重たい荷物をぶら下げて車から降り

ガレージの出入り口になっている金属製の引き戸を開けた。

そして玄関に一歩踏み出した途端、バタッと転んだのだ。

引き戸の足元に、高さ40センチほどの

やはり金属製のバリケードが置いてあったからである。

 

このバリケードは数年前まで、飼い犬パピのために使っていた。

彼が引き戸の隙間から、外へ出ないようにする目的だ。

しかし近年の彼は肥満著しく

隙間を通り抜けるのは不可能となったので

ガレージの隅に放置したまま、存在すら忘れていた。

それをわざわざ引っ張り出し、まさか設置していようとは。

急に思い立って無駄なことを行い、人に危害を与える…

それがヨシコである。

 

出かけた時には無かった物が、帰った時にはあることを

全く予測してなかった私は

パンチを受けたボクサーのごとく横倒しになった。

両手に下げた荷物で足元が見えなかったのもあり

無防備のまま、絵に描いたような転び方をしたのである。

 

倒れた先には、高さ50センチほどの陶器の水瓶があった。

どこでどうなったのか、転んだ私の頭の横で割れ

中に入っていた雨水まで被る羽目になったものの

石のタイルでヒザを強く打ったらしく、痛くて動けない。

 

「こりゃ、折れたわ…」

救急車を呼ぶため、バッグから携帯を取り出そうと

投げ出された荷物の方へ身をよじったが

荷物の中で一番軽いバッグは手の届かない所に飛んでいる。

這って取りに行こうとしたら…あらら、立ち上がれたわ。

骨折してなかったみたい。

 

何とか歩けたので家の中へ入り

この時ばかりはヨシコに怒りをぶつけた。

「ちょっと!何でバリケードするんよ!コケたじゃんか!」

寝転んでテレビを見ていたヨシコ、ゆっくり振り向いて

「はあ〜?」

すでに事実を認識していながら、トボけている微笑み。

そりゃそうだろう、玄関のドアは開いていた。

いくら耳が遠くても、私の悲鳴や水瓶の割れる音は聞こえていたはずだ。

腹立つわ〜。

 

「遊びよるモンが、働いとるモンを怪我さしてどうするんよ!」

「知らんわいね、そんなこと!」

しばらく言い合ったが、やがてヨシコ得意のこのセリフ。

「まるで私が悪いみたいじゃないの!

私が気にするが!」

 

冗談で言っているのではない。

本気だ。

一言謝りゃあ済むものを、いつもこれで周囲を呆れさせて終了。

「私が気にするが!」

人と口論になった時は、試しに言ってみるといい。

あまりの自己中に、たいていの相手は言葉を失う。

 

私の左ヒザは腫れあがり、歩行困難な身の上となった。

それから毎日、通院だ。

腫れは数日で引き、痛みも無くなったが

怒りがおさまらないので、これ見よがしに毎日通って1ヶ月…

今はもう何ともない。

 

さて、通院している間に、世間では物騒なことが起こったではないか。

栃木県那須町の、夫婦遺体損壊事件。

次から次へ半グレのヤカラが登場し、別世界の出来事のように思えた。

首謀者が夫婦の娘の内縁の夫、つまり身内と判明してからは

さらに大騒ぎ。

 

でもあれ、私に言わせれば、起こるべくして起きた事件。

娘婿と一緒に仕事するって、周りが想像する以上にストレスがかかるのよ。

ダメオだったら腹が立つし、デキればデキたでシャクにさわる。

娘婿の方も、最初は気に入られようと一生懸命頑張るけど

結局、義理親が自分に求めているのは従順のみであり

生かさず◯さずコントロールしたがっているのがわかってくると

だんだん嫌になってくる。

 

特に被害者夫婦は、女の子二人の親。

語弊を承知で言えば、男の子の扱いを知らないので

娘と同じく娘婿にも従順を求めてしまう傾向が強い。

そして意に沿わなければ…意に沿わないことが多いんだけど…

パシリとしてぞんざいに扱うようになる。

 

娘婿が、これに甘んじれば平和だ。

しかし男の子はプライドが高いので、辛い日々となる。

実家の父も、忍の一字で耐えていたものだ。

よく祖父を◯さなかったと思う。

一般人だろうと半グレだろうと、この気持ちは同じだろう。

 

うちらの業界にも、こういうケースはよくある。

男社会なので、女の子だけの家は娘婿に登板してもらうことになるのだ。

しかしうまく行くケースは少なく、辞めて別の仕事に就くか

離婚する人の方が多い。

娘婿と一緒に仕事をする人は、扱いに気をつけた方がいいと思う。

 

そうそ、離婚で思い出したけど、この1ヶ月の間に次男が離婚。

初めての結婚記念日に離婚届けを出すという、ふざけたことをやったわ。

夫と私が証人の署名をしたけど

離婚届けの用紙って縁取りの緑色が、昔よりくすんだ色になってた。

私、人の離婚シーンには何回も立ち会って署名してるのよ。

婚姻届けもだけど、離婚届けもやっぱり印鑑はいらなかったわ。

ちなみに婚姻届けの茶色の縁取りは、昔よりピンクがかってた。

 

離婚の理由?

簡単に言えば次男の給料より

お嫁さんのカードの支払いの方が多かったということかしら。

結婚前から、長いこと持ち越していたみたい。

 

一応、たずねてはみた。

「カードの借金を綺麗にしてあげたら、結婚を続けられる?」

でも次男が聞かんかった。

お金じゃなく信頼の問題だって。

 

人一倍質素だったから、そっちの癖は全然わからなかったのよ。

ブランド物や服の借金ならわかるけど

身体の弱い両親の看病で職を転々としてきて

無職の期間に生活費をカードで賄っていたのが積もり積もったらしいわ。

実家は私らより裕福そうなのに、どうしても親には言えなかったみたい。

 

明るい子だけど、結婚当初からそういった家族関係に

闇を感じてたのは確か。

だから続かないと思い、近所や親戚に挨拶回りはしなかった。

それが今となっては、安堵につながっている。

 

彼らも我々家族も、サバサバしたものよ。

お祝いを言ってくださった皆様、申し訳ありませんが

こういうことになりましたので、悪しからず。

コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

手抜き料理・久々の寺

2024年05月12日 15時13分54秒 | 手抜き料理

会社のことをお話ししているうちに、1ヶ月が経ってしまった。

その間、家でも色々なことがあったので

お話ししたいと思う。

 

とりあえずは4月の始め、同級生ユリちゃんの実家のお寺で

久しぶりに料理をしたことをお話ししたい。

この日はお花見と銘打って、招集がかかった。

 

お花見の料理は去年も作った。

ユリちゃんの身内と仲良しさんだけのために働いた私とマミちゃんは

忸怩たる思いを抱えつつ何とかやり過ごし

「来年はもうやるまい」

と言い合ったが、敵もさるもの…

今年は「主人のため」と、コンセプトを変更してきた。

ユリちゃんのご主人モクネン君は去年の2月

心不全で倒れて生死の境をさまよった。

その後、復活は遂げたものの、今年に入ってから

また元気が無くなってきたという。

 

「みんなで楽しく食事をしたら、元気が出ると思うの」

彼女は電話でそう言った。

人の旦那なんか知るか…と思ったが、もはやユリちゃんは

我々料理番が彼女のために動かないと悟ったらしい。

だから目的を変えてきたのだ。

 

その努力に免じ、そして6月に迫ったお祭料理のウォーミングアップとして

私は承諾した。

マミちゃんとモンちゃんに出欠をたずねると

マミちゃんはやると言い、モンちゃんは年度始めなので

去年と同じく欠席すると言った。

 

その後、ユリちゃんとの連絡で

もう一人の料理番、梶田さんも来ると聞いた。

梶田さんにはこのところ、嫁ぎ先のモクネン寺で

何度も料理を作ってもらっているという。

お花見は、その慰労も兼ねたいそうだ。

 

そうはいくか…

来るんなら働いてもらうぞ…

ということで

「梶田さんに、おむすびだけ作って来てと伝えて」

と言った。

モンちゃんがいないため、おむすびまで手が回らない…

と言ったら聞こえはいいけど

米を研いだりおむすびにするのが、かったるいのだ。

梶田さんは親切なので、二つ返事で引き受けてくれるはず。

 

こうして我々も含め、総勢8人のお花見と元気付けと慰労の会は

当日を迎えた。

お寺で作業を開始したが

本当に去年の秋だか冬だか以来の久しぶりなので

カンが鈍っているのがわかる。

いいもんね〜。

量が少なければ我慢してもらい、時間に遅れれば待ってもらい

無償の奉仕は年相応。

マミちゃんと私はそう決めたのだ。

 

この日のメインは

『マミちゃん作・ビーフシチュー』

缶詰のブラウンソースを使うと簡単だそう。

 

『マミちゃん作・春キャベツ入りのペペロンチーノ』

 

『みりこん作・関西風お好み焼き』

夏祭りのメニューにどうかと思い、試験的に作ってみたけど

キャベツを荒みじんに切るのと、焼くのに時間がかかるのでボツ。

 

『大葉とチーズ入り味噌カツ』

これも夏祭りにどうかと思って作ってみた。

豚肉はショウガ焼き用の薄切りを2枚使い

間に大葉と溶けるチーズを挟んで揚げる。

 

チーズは、マミちゃんの提案でシブシブ挟んだ。

手間だったわりには、チーズの存在が豚にかき消され

大葉の香りはチーズでかき消されていたので不要と思った。

ソースは田楽用の味噌を買って胡麻をぶち込み、かけただけ。

こっちはお祭り料理として、まあまあイケそう。

ただしチーズは却下。

 

『みりこん作・スズキの刺身』

前日、息子が釣ってきたので、お寺で刺身にした。

 

『みりこん作・スズキのバターソテー』

刺身の余りに塩コショウと小麦粉をまぶして焼いただけ。

仕上げに醤油。

 

 

『梶田さん作・ルーロー飯』

ルーロー飯て、どこか暑そうな国の煮豚ぶっかけ飯のこと。

頼んだのはおむすびのはずだけど、こうなっていた。

ユリちゃん夫婦は梶田さんのルーロー飯が大好物なので

作ることになったようだ。

 

八角の香りが強烈で、私はちょっと苦手かも。

白っぽい長方形の物は豚じゃなくて厚揚げ。

豚肉も近頃は高い。

梶田さんは材料費をもらわない主義なので

少ない豚肉に厚揚げでカサ増ししたそう。

私は代用品を使うくらいならレパートリーから除外するタイプだけど

梶田さんは豊富なアイデアで突き進むタイプ。

 

梶田さんはデザートに

チーズケーキとパンナコッタも作ってくれていた。

「豊かな食卓でした!まんぷくぷく!」

ユリちゃんの口癖。

じゃかましいわ!

さあ、来月のお祭り料理、手抜きで頑張るぞ。

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

現場はいま…ピカチューの乱・11

2024年05月04日 16時50分03秒 | シリーズ・現場はいま…

酔ったピカチューが、次男に電話をかけてから約1ヶ月。

当事者の次男はもとより

長男も、父親と弟が受けた仕打ちに怒り狂っていたが

第三者のF社長が介入したことによって落ち着いた。

 

私も悟っているわけではないが

彼らは私以上に、まだ人間がわかってないため

狂った凡人がいかに厄介な存在かを知らない。

ピカチューの狂気を正面から受け止め

彼らが暴言や暴力に及ぶと損なので

その兆候が無くなったことにホッとしている。

 

同時に私の持論、“共通の敵は結束を深める”に沿って

兄弟二人が団結するようになったのは非常にありがたい。

会社のことはどうにかなるが、兄弟仲だけは

親が何を言おうとどうにもならないので

むしろピカチューに礼を言いたいくらいだ。

 

夫は感情を口に出さないので、怒りの度合いがわからない。

だから先日、たずねてみた。

「松木氏と藤村とピカチューの中で、一番厄介なのは誰?」

夫は間髪入れず断言した。

「ピカチュー」

だとよ。

 

松木氏と藤村は夫とあまり口をきかず

自分の思い通りにやって自分でコケていた。

しかしピカチューは、どんな小さなことにも食いつき

根掘り葉掘り聞きたがる。

それがアキバ社長の命令であることは察しがついているが

しつこくて鬱陶しいそうだ。

 

そんな彼を夫は、「どちて坊や」と呼んでいる。

どちて坊やとは、一休さんのアニメに登場したキャラクター。

何でも「どちて?どちて?」と大人につきまとって聞きたがる

鬱陶しい幼児である。

 

 

こうしてピカチューの乱は、我々の中では終わろうとしている。

また面白い動きがあればご報告することにして

思い返せば夫を排除して自分が成り代わろうとした者は

松木氏や藤村、ピカチューだけではない。

トップバッターは、夫の姉カンジワ・ルイーゼだ。

 

彼女の野望はただ一つ、父親の後を継ぐ女社長。

シチュエーションは違えど告げ口、罠、嘘など

松木氏、藤村、ピカチューとそっくりなやり口は

義父の会社が危なくなるまで30年近く続いた。

 

暗黒の30年は、長かった。

それに比べれば松木氏、藤村、ピカチューのトリオなんて

どうってことない。

身内より他人の方が気楽だ。

家じゃ顔を合わせなくて済むし、夫も彼らもトシなので先が見えている。

 

そして夫とルイーゼの争いは血を分けた姉弟ゆえの

どうしようもない問題と思っていたが

他人でも同じだったとわかり、気が楽になった。

自分が座りたい椅子に何の努力もしないで座る夫が

目障りになるという、単純明快な話だったのだ。

 

ルイーゼに始まり、松木氏、藤村、再び松木氏

そしてピカチューと、4人のリレーはほぼ途切れることが無かった。

どうしてこうも次々と、夫を邪魔にする人間が現れるのか。

そういう人を4人見てきた私には

人の野心を刺激する素質が夫にあるとしか思えない。

誰でも持っている欲が、夫に近づくことで刺激され

そこに暇が加わると、野心が一気に開花するのではなかろうか。

 

だって夫を見ていると、「これじゃあな…」と思うことが満載。

はっきり言えば“落ち度の帝王”、それが彼である。

趣味のバドミントンで出会ったブサイクに騙され

事務員として会社に入れたら商売仇の愛人だったところなど

落ち度の帝王ぶりを象徴しているではないか。

のほほんとしている夫を見ていたら

簡単に交代できるような気がするだろうし

むしろ自分が交代した方がいいんじゃないかと

思ってしまうのだろう。

 

しかし、夫と交代したい人々を観察した場合

「こいつでは絶対無理」と断言できるのも事実。

夫が陰で、それほど高度な仕事をしているというわけではない。

創業者直系の男子でなければ、業界で相手にされない…

それだけ。

その身の上に甘える落ち度の帝王と

業界の掟を覆したい身の程知らず…

この二者によって、会社のゴタゴタは織りなされていくのである。

 

ところでF社長との面会を連休明けに控え

上機嫌だったピカチュー。

自分とこの裏山で採れたタケノコを何本か持って来て

得意げだったという。

運転手のヒロミとアイジンガー・ゼットが持ち帰ったそうだが

現物を見た息子たちに言わせると

「あれはタケノコじゃなくて、竹!」

だそう。

 

ピカチューがくれるといったら、そんなものだ。

昨年の着任直後、自分の作っている米を買って欲しいと言い出したが

誰も買わなかったので、気の毒になった次男が30キロ買った。

自分が米を買うことで、新しく来たピカチューとのコミュニケーションが

円滑になれば、と思ったのだ。

 

翌日、ピカチューは米と一緒に

お礼だと言って玉ねぎを5個、持って来た。

可愛いとこ、あるじゃん…と思ったのも束の間

ポリ袋に入れられた玉ねぎは、5個全部が腐っていて異臭を放った。

米は不味かった。

 

うがった考えの好きな私は、思うのだ。

ちょっと親切にしてやると、それを逆手に取る人間がいる。

自分の言うことをきく子分だと思ってしまう、危ないヤツだ。

ピカチューは、その人種だったのかもしれないと。

 

そのピカチュー、5月に入ってから急に元気が無くなったらしい。

94才のお母さんが◯にそうなんだって。

「心臓が弱っているので

いつでも連絡が取れるようにしておいてください」

病院からそう言われたと、涙目で夫に話したそう。

敵に泣き言を言う、それもピカチューなのだ。

 

「94才なら、もうええじゃないか」

夫は答えたそうだが、ここで私の指導が入る。

「“そういう話は事務員か隣に聞いてもらえ”

って、ついでに言うんよ」

「わかった、次はそうする」

夫は言ったが、次があるかどうかは定かでない。

《完》

コメント (9)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする