集団的自衛権の「限定行使」
想定 現実離れ
元政府高官 「貨物船が武器運んでくるわけない」
安保法制懇は、集団的自衛権の「限定行使」の事例として、(1)朝鮮半島有事での米軍支援(2)ペルシャ湾での戦闘下での掃海活動―などを想定しています。しかし、このようなケースでの集団的自衛権行使は、現実の国際情勢とはかけ離れた虚構でしかありません。
朝鮮半島有事
安保法制懇で議論(第3回会合)されたのは、(1)集団的自衛権を行使して「被攻撃国」(韓国)を支援する米国が、攻撃を受けた際の防護(2)攻撃国(北朝鮮)に武器を供給する船舶の停船・立ち入り検査(臨検)―です。
まず、北朝鮮による韓国侵攻を意味する「朝鮮半島有事」自体、ほとんど想定されないというのが専門家の共通した見方です。
南北の兵力が比較的接近していた1960年代には、北朝鮮の越境攻撃が目立っていましたが、戦力に大きな差がついた現在は、核・弾道ミサイル開発に力を集中して米国を脅すことで、「体制維持」を図る路線に転換しています。
そもそも、現行の日米軍事協力の指針(ガイドライン)のきっかけになった事態は、北朝鮮の侵略行為ではありません。93年の「北朝鮮核危機」を契機とした、米軍の北朝鮮軍事介入に日本を動員することです。
また、北朝鮮へ武器を運ぶ船舶への「臨検」も想定しがたいケースです。柳沢協二元内閣官房副長官補は、「常識的に考えて、物資は中朝国境を越えて陸路で輸送される。戦闘下で、日本の近海を貨物船が武器を運んでくるわけがない」と指摘しています。
ペルシャ湾紛争
安保法制懇では、イランによるペルシャ湾封鎖(海上交通路への機雷敷設)を念頭に、「日本への原油供給の大部分が止まる」として、停戦前にも掃海活動を行う考えを検討しています。(第3回会合)
これも非現実的な議論です。イランでは昨年8月に就任したロウハニ大統領が対米強硬路線を転換。今年1月に欧米との「核合意」履行を表明しています。ペルシャ湾封鎖自体、現時点では考えられません。
仮にイランで再び強硬派が台頭してペルシャ湾周辺で武力攻撃が発生した場合はどうか。91年の湾岸戦争では自衛隊も含む複数の国がペルシャ湾で掃海活動を行いましたが、いずれも停戦後に開始しています。戦闘下での掃海活動は危険だからです。
各国が掃海艦派遣を見送る中、自衛隊が砲火を浴びながら掃海活動を行うというのでしょうか。