みつばやま小零庵だより

宇宙の塵、その影のような私ですが、生きている今、言葉にしたいことがあります。

いなくなったら

2019-07-26 10:03:28 | 芸術
「伊藤比呂美編 石垣りん詩集」(岩波文庫 2015年発行)を、公民館図書室に取り寄せてもらって読んだ。
今や「戦前」となった時代において、この詩集の「戦後」の感覚が懐かしい。手放し忘れてしまった感覚の尊さが眩しい。



人間の宿命の感覚も、鮮やかに表現されていると思う。特に私の心に鋭利に刺さった一篇を記しておく。


     声

 釘に
 帽子がひとつ
 かかっています。

 衣紋かけにぶらさがっているのは
 ひと揃いのスーツ。

 本棚に本
 玄関に靴
 石垣りんさんの物です。

 石垣りんさんは
 どこにいますか?

 はい
 ここにいます。

 はい
 このザブトンの温味が私です。

 では
 いなくなったら片付けましょう。


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