小説・「夜と光と絶対性」

2010-11-12 10:58:26 | Weblog


「でもあんただって、夢くらいは見たことがあるだろ?」

その女は俺の眼をのぞきこみながら言った。

「夢?」

「そうだよ、夜に見る夢さ」

俺は諦めて、正直に言うことにした。

「俺にとっては夢の世界が本当の世界だから

夢を見てるって感じじゃないんだ」

女は俺の顔をまじまじと眺め、

「あきれた、本気でイカれてるんだね」

と言った。


光はいまや、地上のあらゆるものを浸食しつつあり

俺達の乗った旧式で巨大な船も、その例外ではない。


「ねえ、そのうちみんな光に喰われちまうよ」

女はそう言うけれど、本当はどう思っているのか

俺には全然、わからなかった。


でも確かずっと前にも、こんなことがあったはずだ。

何ひとつ思い出せやしないけど、 きっと間違いなく。

俺は俺であることを放棄してただ、光に溶けてゆく。

それは至福、と言うことも出来るし

絶対的な孤独、と言うことも出来る。

そしてようやく俺は

夢を見るのをやめることが出来るのだ。

結末としては、そう悪くない。


「眠っちまったのかい?」

女が俺の頬をはたきながら言う。


光の雨は止むことがなく、

すべてはスローモーションのように ゆっくりになっていって、

でも永遠に止まることはない。


その時、俺はわかったような気がしたんだ。

頭の中がどこまでも透き通って、

他人が考えることをみんな、理解してしまったような。


でもそんなのは一瞬のことで、

目を開けてみても見えるのは真っ白い光だけだった。


そして俺達を乗せた巨大なスクラップみたいな船は

凍てついた夜の中をどこまでも漂っていく。







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