カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

強敵はどこまで我々を欺き続けられるのか    ウォッチメイカー

2018-10-25 | 読書

ウォッチメイカー/ジェフリー・ディーヴァー著(文藝春秋)

 車椅子捜査官の活躍する、いわゆるリンカーン・ライム・シリーズの7作目らしい。殺人現場にある型の時計を残していく謎の連続殺人犯を追って、特捜チームが奔走する。同時にライム特別顧問が捜査の中心人物であることには変わりないのだが、もう一人の主人公の、ライムの公私ともにパートナーでもあるサックス捜査官が、父を含む過去の刑事の汚職事件を追っている。尋問についてはダンスという西海岸から一時期来ている警官が、かなり重要な役回りを演じる。役者がそろって重厚な構成の物語が緻密に展開されるサスペンスになっている。
 二段組みで500ページを超える分量なのでさすがに重たいが、最後が気になって読んでいるというより、いくつもいくつも様々な山が連なって物語が進んでいくので、読んでいる時間自体がエンタティメントで楽しめる構成になっている。改めてこの作者の恐るべき力量と、アイディアの豊富さに舌を巻くより無い。まあ、多少は出来すぎではないかというような完全な筋書きの展開が、本当に齟齬無く実行可能なのか疑いを覚えることはあるが、文中世界の中においては、そういう問題はほとんど無いように感じられる。構成力がずば抜けていることは間違いないだろう。そうでありながらスケールは後半どんどん大きくなって、アッと驚くどんでん返しが何度も起こってしまう。これはもうテレビ・シリーズをやるか、映画にするかという事で、さまざまなエージェントがてんやわんやの騒ぎを演じているのではないだろうか。
 この物語のように、一見関係ない事象が後から密接に絡んで驚かされるという構成は、やはり事前に計画されたのちに構築されていくものと思える。これをいくつもやりすぎると、いくらなんでも収拾がつかなくなってしまうことにもなる。実際に細やかに人々を追って考えてみると、それぞれに別の分野に発展しそうな話もあるし、厳密に言ってウォッチメイカーは未完に終わっている可能性がある。そういうことを含めて、別の派生のシリーズがまた生まれていくという事になる。ある意味で大変に商売上手である。
 心理葛藤も物語の重要な流れになるが、ある意味でキャラクターの性格がそれなりに極端なところがあって、そういう部分だけは分かりやすく描かれているようにも感じる。結果的に主人公たちには優しい話になっているようにも…。このあたりは作者の愛着のようなものがあるかもしれないし、シリーズとしてファンの要望があるのかもしれない。いつまでも走り続けることは大変だと思うが、これだけの作品を生み出す能力のある人ならば、いつまでも走り続けるより無いのであろう。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 青葉城、瑞鳳殿 | トップ | 鳴子温泉 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。