あたりのキッチン!
原作漫画があるらしい(※1)。コミュ障で対人関係の苦手な辺清美だったが、絶対味覚の持ち主でもあり、食べたものの原材料や調味料を自分の舌で言い当てることができる。なんとかアルバイトをやりながら、病的な性格を修正し、得意の料理を活かせないかと「阿吽」という定食屋で働くようになる。そうして、そこの家族や仲間たちに支えられながら、得意の料理の腕も伸ばしていくことになるのだったが……。
対人関係に難があるので、注文聞きにまず大きな問題がある。目を見て話すことができないので、近視の眼鏡をはずして注文を取りに行ったりする。そのようなハチャメチャはあるものの、料理を行う際の準備など、手際や理由についての飲み込みは早く、店主が何を考えて調理をしているのか、瞬時に見破る。高価な食材を使って、繊細な料理を作る店では無いが、客の好みに合わせて、一つ一つ丁寧に作ることを店主はモットーにしている。それに清美に対しても非常にやさしい。事情を汲んで、彼女ができることを十分に伸ばせるように配慮し、さらに的確なアドバイスもする。神である。
ここに高校生の店主の息子清正が絡んできたり、大学での先輩で医学部の食の細い桜との関係も生まれる。そうしてこの桜に惚れたために、清美に協力を求める秋斗などが現れる。面白いのは、それぞれが何となく食べ物への問題であったり、奇妙なこだわりが強かったりしているわけで、彼女彼等は共通して支え合うような関係になっていることかもしれない。
後半は料理に対する将来性を考えるようになり、謎の小学生が清正のライバルとして立ちはだかることにもなる。清美の知られざる過去も明かされ、彼女はこれからどう生きていくべきかという、人生の大きな選択を迫られることになるのだった。
出てくる料理は、確かになんとなく地味な面もないでは無いが、ちょっと食べたいかもな、という絶妙さが感じられる。晩御飯も食べに来ているようだが、客が酒を飲んでいる風ではないのが、なんだか僕には不思議だ。ビール一本、お銚子一本、などルールがあるんだろうか。そもそも酒は置いてないとか……。うーん、ちょっと考えられないのだが、お話なので仕方なかろう。店主は、仕事の終わりにビールを飲んでいる。すべて片付けてアテは無しのようだ。こういうあたりが、酒を飲む僕にとってはミステリな訳である。それで生活が成り立つ人々というのは、本当に可能なのだろうか。
しかしながらいつの間にか見ハマっていたという感じで、奇妙さもあるけれど面白かった。ゆるい人間関係だけれど(誰の恋愛が進展するか、すべて不透明だ)、それがほとんど保留的にも感じられるが、彼女らには長い将来がある、ということなのであろう。今を頑張るよりないのだから、これでいいのだろう。
※1 実はネットで少しだけ読んでみた。漫画なので少し設定が違うが(息子の清正が野球をやってるなど)、なるほど基本的にはドラマも同じようなキャラクターになっている。漫画なのでギャグ豊富な展開ではあるにせよ、主人公のコミュ障であるとか、料理のエピソードは、だいたいにおいて同じである。それに、やっぱり漫画として面白い。ドラマ化されるのは、当然のことだったのかもしれない。