カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

思春期ってこんなだったっけ   惡の華

2021-07-14 | 読書

惡の華/押見修造著(講談社)

 11巻からなる漫画。おそらく二部構成になっていて、中学生編と高校生編以降は大きく話は異なる感じだ。友人はいるが、いつも背伸びした本を読むのが好きな中学生の少年・春日は、ひそかにクラスのアイドル的存在の佐伯さんに憧れている。しかし、ふつうに会話できる機会などは、望むべくもない間柄だ。春日は忘れ物を取りに放課後の誰もいない教室に戻るが、その時に偶然佐伯さんの体操服の入った袋を見つける。教室には誰もいず、いけないこととは思いつつ、何かあらがえない気持ちになって、あこがれの佐伯さんの体操服の匂いを嗅いでしまう。そこで物音が聞こえて、慌てて逃げるのだが、体操服まで一緒に持って帰ってしまう。翌日当然この盗難事件は問題になる。何か変態事件が疑われるからだ。クラスメイトには、根暗で危険な問題児である仲村さんという女の子がいる。放課後自転車をこいでいると、仲村さんが道端に座っており声を掛けられる。そうして昨日の体操服の件を目撃したといわれる。そうしてこれをバラされたくなかったら、契約を結べと言われ、主従関係が始まるのだった。
 この設定が決定的に面白いのだが、後になんと、春日と佐伯さんは付き合うことになっていく。仲村さんを挟んでの微妙な危ない関係を持続しながら、思春期の性的な衝動と、田舎の閉鎖的な空間にありながら、鬱積した内情から何もかも破壊したいようなドロドロしたものを徹底的に直視しながら物語は進んでいく。
 ちょっとしたはずみでいけないことをしたという秘密が、どんどんと大きなひずみになって、ますます変態的なことになって、取り返しがつかない方向へ進まざるを得なくなる。中学生がこんなだったかどうかは忘れてしまったが、これが世間に知れると、おそらく生きてはいけない問題であろう。しかし、普通そうな少年だった春日は、主に仲村との誘導によって、その危うい状態が快感のようになっていくのではないか。しかし、そこにかかわってしまった優等生で憧れの佐伯さんまでも、思春期のドロドロは内包しているのだった。これは変態なのか純愛なのか、はたまた三角関係なのかどうか、何もかも分からなくなっていくのだった。
 アニメ化も映画化もされたというが、何か本当にすごいものを見てしまった、という印象の残る作品であった。後半のことは書かないが、つながっているとはいえ、僕には別の話のようにも感じた。とにかく前半が凄い。そうして、本当に犠牲になった佐伯さんが素晴らしいのではないか、と感じた。後半でも重要な設定があるが、限りなく切なく、損なわれた喪失感の中で生きることを強いられた女性として描かれている。こんな女性を放って置く男なんて、本当にこの世にいるんだろうか。春日君よ、反省しなさい。
 この漫画は、おそらく作者も描きながら成長していくようなところがあって、最初のころと中盤と、そうして最後の方は、主人公たちの成長もあるのだけれど、全く別人のような絵のタッチに変貌していく。いや、たぶんこれは別人である。しかしちゃんとつながってもいて、まったく僕には理解できない行動ばかりとっているけれど、しかしとてつもなくリアルだ。そういうところが文学的な作品といっていいのではなかろうか。漫画だけど。
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