カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

エロも隠さぬ民主主義の見本   エール!

2020-04-13 | 映画

エール!/エリック・ラルティゴ監督

 仏映画。農場を営む4人家族は、長女以外は聾唖であるようだ。酪農中心にチーズ販売などで生計を立てている様子。家族間では皆手話が使えるので問題は無いが、販売や家計にかかる外部折衝は、(おそらく中学生くらい。初潮を迎えていたのでそう思ったが、何か日本の学校の制度とは違うのかもしれない)一人だけ耳の聞こえるの長女が、学校に行きながら電話などで行っている。
 長女が学校のイケメン君に憧れてコーラス部に入るが、意外に高音に才能があると教師に認められ、同じくイケメン君と一緒にレッスンに励むことができるようになる。そんな中にあって、田舎を開発して雇用を増やそうという政策を打ち出した現職町長に対抗して、聾唖でありながら町長選挙に父親は打って出ると言い出した。そうなると、基本的には手話通訳ができるのは長女のみで、音楽レッスン後にパリの学校に行けるチャンスまで失ってしまいかねない。葛藤の中にありながら、家族ともども混沌に巻き込まれていくのだった。
 日本だと子供向けの映画というとらえ方ができそうな展開なのだが、恐らくそうはならないだろう。何故ならセックスにおおらかなギャグだらけだから。聾唖の両親は、田舎というのもあるのかもしれないが、子供にお構いなくセックスしているし(音が気にならないので大胆である、という設定)、そのための性的な病気の受診であっても、娘の通訳を通してしかできないことも気にしてない。友人は簡単にボーイフレンドとセックスするし、子供たちの話題は、ふつうに誰と寝るかという女子トークだ。日本の子供だってそういう面はあるだろうが、日本の大人社会はそういうことには寛容ではないので、むしろ子供には見せられない類の微妙な扱いをされそうな映画である。エロトークは満載だけど(要するに下品)、しかし絵的に露出の多いセクシーな映画ではない。それにしても、フランス人というのは、屁理屈は上手だけど、考えていることの7割くらいはあの事ではないかと疑ってしまう。日本人からすると、発情期の野生動物である。
 という変な物語だが、日本のスポ根のように熱くならないでも才能のあるやつは伸びるし、確かに葛藤は描いてはいるが、例えばイケメン君の悩みの多くは、なんとなく中途半端にしか描かれていない(ひょっとするとカット編集されているのかもしれない)。この物語では重要であるはずの父の選挙の結果さえ分からない(予想はできるが)。
 だから悪い話かというと、そういうこともいえない。フランスの風俗も分かるし、その考え方の根本も分かる。日本の聾唖との比較もあるが、社会の成り立ちがずいぶん違う。自分の家族が聾唖であることを友達には隠していて、しかし家に連れて来てもそのことを話さないのでトラブルになるなど、ちょっと日本では考えられないかもしれない。しかし、その分親も子供も素直だし、日本だと顰蹙を買いそうなことも平気で議論するので、本当に偉いものだと思う。いわゆる、民主主義とは家族であってもそうなのだ!(要するに日本の民主主義というのは、相対的にちゃんと根付いていない、ということが分かる) ということかもしれない。最終的には自分らのエゴも超えて、家族の愛も深まるということなんだろう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする