散歩していると時々変な人とすれ違う。もちろんあちらだってこちらの事を変に思っているのかもしれないのでお互いさまだけど、しばらく動悸がおさまらなくなって困ることだって起こる。かなり前の話だが、血のようなものの付いた包丁を握って走りさっていくオジサンを見たことがあるが、その後新聞を子細に見ても何事も報道は無かった。あれはなんだったんだろうな。まあ、急いではいたんだろうけど。
最近の気になる人は、厳密にはすれ違う訳ではなく、あるアパートのそばの駐車場である。いつも必ずという訳ではないが、そのアパートの脇の比較的大きな溝のわき道を抜けていると、ガサッ、ガサッっという音が響いている時がある。見ると車をバックで駐車しようとしている旧式カローラである。そのアパートの駐車場は段差が大きく、車を止めようとすると底を擦ってしまうらしい。そのこと自体はお気の毒なことであるが、問題は駐車しようとする位置が微妙に気に入らないらしく、何度も駐車入れをやり直しておられることだ。ある時はたまたま杏月ちゃんが大の方を致しておいでで、僕はその処理に追われていた。処理をしながら見るともなしに見ていたのだが、その間に計4回ほどガサガサ音を立てておられる。やっと輪留めのところまで下がったのでこちらもホッとしていると、またおもむろに前に出て、ガサッと云う音を再度立てている。厳密に言うと駐車の位置を変えているというより、単に前に出て後ろに下がるという行為を繰り返しているにすぎない。手前に民家があり、妙齢のご婦人が庭の掃除か何かしておられた。そうしてアパートの駐車場の方角をチラリとみて「チッ」というような舌打ちをした。なんだか僕は恐ろしくなってその場を後にした。
基本的に散歩コースはそんなに変えないが、ちょっと前の道に差し掛かったところでガサ、ガサという音が聞こえる事があると、このわき道を回避することにしている。しかし、音がしないので安堵して道に入ると、いきなりガサガサ音が始まることもあるので油断ならない。少し休んでは、また前後運動を始めるものらしい。音のしない朝は大抵まだ車は止まっておらず、僕がそこを通る7時前に家に帰ってこられるらしいというのだけは分かった。夜間のお仕事なのか、それとも朝方どこかにちょっと出かけておられるのか、そういうあたりはまったく不明である。