カワセミ側溝から

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

人情紙風船

2011-11-22 | 映画
人情紙風船/山中貞雄監督

 時代劇だけどチャンバラじゃない。人情劇だけどホラーかもしれない。妙にリアルで人間くさく、しかし現実の話としては悲しすぎる。映画そのものの出来栄えもさることながら、批評性も感じられる。確かにさすがにフィルムの状態は古くなっているし、ところどころ音声の状態も良くないようだ。そうではあるが、やはり名作と名高いという意味も良く分かるし、その割に意外と知られていないというのも同時によく分かる貴重な映画なのかもしれない。もちろん僕自身も、山田洋二シリーズが無ければ観ることも無かっただろう。
 落語の世界では長屋というのはよく出てくる設定である。熊さん八っつあんのような人達が、本当に馬鹿らしい事をしでかすと相場が決まっている。そうして僕らの時代にはよく分からないのだが、大家というのがいちいち首を突っ込んでくることになっている。もしくは甲斐甲斐しく世話を焼く。その当時の制度なんだろうけど、本当に長屋というのが生活する上で密着した共同体になっていたようだ。住んでいる人達のそれぞれの仕事はバラバラだし身分の違いもあるようだが、同じように貧しく協力して暮していたようだ。
 また、庶民や町民とヤクザ(というか、その原型だろうな)との密接な関係もあったようで、はっきりしない社会を分かりやすくしていたものであるらしい。分かりやすいというのは要するに、金で暴力を利用しやすい社会だったのだろう。
 スジの中心は、そういう組織に属さない男の矜持の物語でもありながら(まあ、しかしやっていることそのものは実にチンピラ的だが)、うだつの上がらない組織から外れた武士の悲しい物語でもある。現代風に言うと、当時の就活の厳しい現実の物語である。
 それにしても何としても仕事を世話してもらいたいあまりに、執拗に一人の人を頼らざるを得ないしつこさもまた描かれていて、それは仕方のないことなのかもしれないが、いささか割り切れなさを感じるのも確かだった。内職をしている紙風船の生産性をあげるとか、傘張りに精を出すとか、もう少し何か割り切ることができないものなのかとも思うのだった。録をもらうというのは、結局は今でいう税金で食っていく、というか、公務員になるようなものだから、それ以外の仕事の許されない武士という階級とプライドが、人間の生き方をさらに厳しくしているわけである。後のことは言わないが、自分自身の精神が自由で無いから、結局は頼るしか他に道が無いのであろう。つまるところそういうものは、現代人においても同じことなのではあるまいか。
 この監督が戦死しなければ、さらに名作映画を撮り続けたに違いないといわれている。そういうことを含めて、もっと多くの人に観ておかれなければならない作品なのだろう。
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