ある種の陰謀にはめられて、遅くまでというか、朝早くまで痛飲。
僕は時計をもっていないし、入ったところが時計のない店であった。妙に玄人くさい人たちが集まってくるものだと思ってはいた。彼女らは仕事が終わって飲みにきているのであろうから、朝まで飲むのが当たり前なのだろう。もちろん別に付き合っていたわけではないけれど、どうしてみんな帰らないのかとは思っていた。正直にかえりたいといってもよかったのかもしれないが、僕が一番の若輩者である。現実的な封建社会において忠実な教育を受けており、とても言い出せるものではない。その上、最初の頃は宴会やって、二次会やって、三次会過ぎて四次会だったので、ビールに日本酒・焼酎・ウイスキー・ブランデーのちゃんぽんは制覇してしまっていた。ちゃんぽんはよくないというが、酒を混ぜると悪酔いするという説は間違いであろうと思う。単に量を飲んでいると普通は酔っ払うだけである。ちゃんぽんするためには量を既にこなしているのである。悪酔いするのは実に合理的に当たり前の結果である。飲んで気持ちがいいというより、かなりやけくそな気持ちになっていたように感じないではない。酔ってなくてもやけくそなので、別にそれは僕自身の異常な状態ではないが、体力的につらいことにはかわりがない。
店を出ると、既にタクシーさえ動いていないようだ。何とか先輩が代行をつかまえたので、だいたいの方向まで乗せていってもらって、てくてく坂道を歩いて帰る。散歩するならなんでもない距離だが、寒くて長い道のりのように感じた。距離感は精神的なものである。マラソン選手は35キロ過ぎから本当のレースが始まるといわれる。大変なんだろうな、とお気の毒である。
帰ってくると玄関脇のポストには既に新聞が配達されていた。新聞を少し読んでから寝ると、信じられないくらい早く本当の朝がやってきた。
こういう日は不思議と変わった仕事がやってきて、いつもと違うペースである。変な高揚感と、どうしようもない疲労感が交錯し、自分が自分で無いようだ。まあ、いつもがちゃんとした自分だという自信もないのだが…。とにかく早く一日が終わって欲しいと祈るだけである。