早乙女蔓のつけたしみ

2008-08-17 | 【草花】ETC
 朝、4時50分頃、遠くでカナカナの声。
 すぐさま近くでもカナカナの声。
 いつもより少し遅いようだ。
 カナカナの声に誘発されたように小鳥たちが囀る。
 朝の光に手をひろげて見る。
 昨日、早乙女蔓の実を潰したとき、
 指先と汁の飛んだ手のひらに茶色のしみが残った。
 洗ったが、おちなかった。
 今朝見ると、そのしみは、ほぼおちていた。
 カナカナの声に、さまざまな思いが去来する。
 おちることのないしみもあるなあ。

乙女もすなる屁糞かな

2008-08-16 | 【草花】ETC
 オオイヌノフグリ、ママコノシリヌグイ、ヘクソカズラ・・・どういうわけか、野草には下半身がらみの名をつけらたものがある。しかし、それゆえに、名を覚えてしまう。
 住まいの前の駐車場の網状のフェンスに、ヘクソカズラ(屁糞蔓)がつたい絡まっている。可愛い花をつけまだ青いが、実もでき出している。その実を指先にはさみ潰すと、茶色の汁が出て、命名のわけが察せられる。ただ、近づくだけでは、臭いはしない。虫や動物に囓られたときに発するのである。生存戦略のひとつと言える。
 ヘクソカズラには、ヤイトバナ(灸花)の名がある。花の中心部の紅紫色が、お灸の痕のようだからである。また、サオトメカズラ(早乙女蔓)の名もある。花の印象からいけば、こちらなのだろう。

赤裸のウサギちゃん

2008-08-16 | 【草花】ETC
 古事記の稲羽の素兎(因幡の素兎・イナバノシロウサギ)の話である。
 毛皮を剥がされ赤裸の兎に、大国主神は、次のように教える。
 「今急くこの水門に往きて、水もちて汝の身を洗ひて、すなはちその水門の蒲の黄(はな)お取りて、敷き散して、その上に輾い転ぶ轉びなば、汝の身本の膚のごと、かならず差(い)えなむ」(武田祐吉訳・角川文庫)
 蒲の黄とは、ガマの花粉のことである。その花粉(穂黄)は、古来、切り傷や火傷の薬として用いられた。
 程久保川ぞいを歩いていて、水底から生える蒲(ガマ)を見た。茶色でソーセージ状の穂がついていた。

桐はノウゼンカズラ科

2008-08-16 | 【樹木】ETC
 アオギリ(青桐、梧桐)は、幹が緑色をしていて、見分けやすい木である。
 一ヶ月少し前だろうか、茶色っぽい花をつけているのを見た。
 そうだったのだと幾度か振り返って見た。
 住まいのマンション前には駐車場がある。
 その脇ににキリ(桐)の木があった。
 薄紫の花をつけるキリである。
 いつの間にか伐られてしまったことに気づいた。
 中国では、キリには桐、アオギリには梧の字をあてるそうだ。
 キリは、ノウゼンカズラ科キリ属。
 アオギリは、アオギリ科アオギリ属。
 いずれも葉は大きいが、形が異なる。
 そういうことなのだ。
 ちなみにイイギリ(飯桐)は、イイギリ科イイギリ属。

ヒグラシにシェリー

2008-08-15 | 【樹木】ETC
 少しドライブをすれば、葡萄狩りができるだろうな。
 葡萄の木のしたで、その実を食べるのもいいな。
 葡萄の棚の木漏れ日というのもいいな。
 だけど、道は混んでいるだろうな。
 帰り道、きっとうんざりするだろうな。
 夏の日の夕暮れ、ヒグラシの声を聞きながら、
 ぼんやり遠い日のことなども思いつつ、
 食事前、葡萄からつくられた酒を飲む。
 スペインのシェリー。
 透明で、きりっとした冷えたやつ。
 生牡蠣があるといいな。
 ドライ・シェリーにあいそうだな。
 ・・・・・・・・・
 あいつは、あの世で今頃、
 あいつは、この世で今頃、
 何してるんだろうな。
 ヒグラシにシェリー、なかなかいいよ。

枯れてなお立つ

2008-08-14 | 【草花】ETC
 近くの駐車場わきで、檜原の山道で、枯れた薊(アザミ)を見た。
 鰭薊(ヒレアザミ)と野薊(ノアザミ)である。
 それらは、全身を茶に変色させつつ、枯れてなお、過ぎた季節の形のまましっかり立っていた。決して美しいとは言えないが、枯れて倒れずにいた。
 悲しいことなのかも知れない。何かが強いのだろう。

暑い季節に赤い花

2008-08-13 | 【樹木】ETC
 暑い季節に赤い花。
 サルスベリ(百日紅)の花が暑苦しい。
 白い花のはましだけど、それでも、もこもこし過ぎ。
 同じサルスベリ属にシマサルスベリがある。
 漢字では、縞百日紅と書くと思いこんでいた。
 樹皮が剥げたあとの肌に縞があるからと。
 島百日紅と書くようだ。
 その分布域が、種子島や奄美大島という南の島だから。

真木からしたたる雨滴

2008-08-12 | 【樹木】ETC
 【新古今和歌集】
 山里の峰の雨雲とだえしてゆふべ涼しき真木の下露(太上天皇)
 夕暮れになり
 雨雲が行き過ぎて
 峰々に降りそそいでいた雨がやんだ
 真木のしたには
 枝葉をつたった水滴がしたたり落ちている 
 すがすがしく涼しげである
 新古今和歌集の夏歌シリーズも、これでお終いである。
 真木の説明を白洲正子著「木」(平凡社ライブラリー)の「槙」の章の冒頭に見つけた。
《槙は古く「真木」と書いた。「真木柱太き心」「真木柱ふと高しきて」「みよし野の真木立つ山」「真木さく檜のつまでを」云々と、『万葉集』に謳われたように、それは大きく美しい木で、立派なものの形容に用いられた。ただし、今私たちが知っている槙ではなく、当時は檜や杉の総称を槙と呼んだのである》

たそかれの軒端の萩

2008-08-12 | 【樹木】ETC
 【新古今和歌集】
 たそかれの軒端の萩にともすればほに出でぬ秋ぞ下に言問ふ(式子内親王)
 雲まよふ夕べに秋をこめながら風もほに出でぬ萩の上かな(前大僧正慈円)
 新古今和歌集の夏歌から、植物が詠み込まれている歌をピックアップしてきたが、秋の七草のひとつであるハギの登場である。秋というより夏の植物なので、夏歌に分類されているのだろう。
 サクラ(桜)という名前の木がないように、ハギ(萩)という名前の木もない。サクラというと、今ではソメイヨシノが思い浮かべられる。同じように、ハギというのは、ミヤギノハギ、シラハギ、マルバハギなどの総称で、単にハギというと、なじみのあるヤマハギ(山萩)のこととなる。
 それだけ、日本人に親しまれた植物ということであろう。万葉集には、サクラよりも多く詠まれている。

ほのぼのと夕顔の花

2008-08-11 | 【樹木】ETC
 【新古今和歌集】
 白露のなさけ置きける言の葉やほのぼの見えし夕顔の花(前太政大臣)
 朝顔(アサガオ)、昼顔(ヒルガオ)、夕顔(ユウガオ)、夜顔(ヨルガオ)、花の開く時刻による命名である。見た目からも察しはつくところだが、確認のため、記しておく。
 アサガオ、ヒルガオ、ヨルガオは、同じヒルガオ科。
 ユウガオはウリ科で、キュウリやカボチャと同じ。
 ちなみに、ヨルガオは、夜開草、ムーンフラワーの名ももつ。

楸生ふる片山蔭

2008-08-10 | 【樹木】ETC
 【新古今和歌集】
 楸生ふる片山蔭に忍びつつ吹きけるものを秋の夕風(俊恵法師)
 楸は「ひさぎ」とよむ。キササゲ(木大角豆)の別名をもつノウゼンカズラ科の落葉高木である。梅雨の頃、枝先にに円錐形の花序をつける。とりたてて感興をよぶ木とは思えぬ。だから、いつのまにか、秋の風が吹き出すという自然の静かなうつろい、特になにもない夕べの穏やかなひとときの雰囲気が、この歌から感じられる。

野沢に茂る蘆で

2008-08-08 | 【樹木】ETC
 【新古今和歌集】
 蛍飛ぶ野沢に茂る蘆の根のよなよな下に通ふ秋風(摂政太政大臣)
 夜ともなれば
 蘆の葉に
 蛍も光る
 沢の野よ
 いつしか
 季節がめぐり
 秋風が川面に吹く
 蘆原を通い吹く
 パスカルは言った。
 「人間は考える葦である」
 人間は、いろいろ考える。
 芦の茎ですだれをもつくる。
 そのすだれ、葦簀(よしず)と言う。

庭の玉笹うちなびき

2008-08-08 | 【樹木】ETC
 【新古今和歌集】
 露すがる庭の玉笹うちなびきひとむら過ぎぬ夕立の雲(権中納言公経)
 岩井汲むあたりの小笹玉こえてかつがつ結ぶ秋の夕露(入道前関白太政大臣)
 今、日本列島は猛暑のなかにあるが、新古今和歌集の夏歌を読み進むうち、秋のおとずれを詠うところにまでいたりつつある。
 ところで、笹には風や露があうようである。
 先般、タケ(竹)とササ(笹)の植物学上の分類は、皮(葉鞘)が落ちるものかどうかでされると書いた。それでは、タケは、木か草かとなるとどうか。木がそうであるように林をつくる。だけど、木のように幹が太ることはない。地中の根茎が伸びて増える。結局のところ、タケはタケ。以前にも書いたが、木とも草ともいいかねる独特のものということになる。
 また、タケは根茎が伸びると言ったが、熱帯性のバンブーでは、そんなに伸びることはなく大きな株をつくる。その株から稈(地上茎)が叢生する。日本では、ホウライチクというのが、このタイプに近い。

清水流るる柳蔭

2008-08-07 | 【樹木】ETC
 【新古今和歌集】
 道の辺に清水流るる柳蔭しばしとてこそ立ちとまりつれ(西行法師)
 この歌の柳は、栃木県那須の芦野に生えていた。当時の柳は朽ちたのだろうが、いまなお植え継がれているという。旅を行く芭蕉も、西行を想いつつ眺めた柳である。「奥の細道」に次のようにある。
 
 また、清水流るるの柳は、蘆野の里にありて、田の畔に残る。この所の郡守戸部某の「この柳見せばや」など、をりをりにのたまひ聞こえたまふを、いづくのほどにやと思ひしを、今日この柳の蔭にこそ立ち寄りはべりつれ。
  田一枚植ゑて立ち去る柳かな