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「しじつがん」

2015-06-21 | 読書
【本の紹介】
●本当に残酷な中国史/麻生川静男著/角川SSC新書/20014年9月25日発行/\820
 「大著『資治通鑑』を読み解く」とのサブタイトルがつく。中国の古典「資治通鑑」の内容を分かり易く説明した一書。「資治通鑑」は、史書であり、中国の文化、中国人の性格を読者に伝える。大部にして、読みづらい編集で、一般に敬遠されていた書のようだ。日本人になじみの「史記」「論語」等から抱く中国人のイメージと異なるものがある。最近の中国人に接して、「いやな奴らだ、品がない」と感じている方が多いだろうが、それが、長い伝統文化につちかわれたものと知る。
 本書は、残酷さ、贅沢・蓄財、陰険さの三つの観点から、史実にあらわれた中国人が語られている。悪行もも善行も、日本人とは、いささか桁が違うようだ。残酷さについて語られた部分には、食人のことがある。日本でも飢饉の時など、ないわけではないにしろ、薬効、美味として食べたり、親に子を食べさせるというような人の心を弄んで楽しむ面が多いようだ。

霊異記の女

2015-06-05 | 読書
 「日本霊異記」を現代語訳で読んだ。訳者は、原田敏明、高橋貢の二名で平凡社ライブラリーの一冊。
 平安時代の初期に編纂されたもので、日本最初の説話集とのことである。
 上中下の三巻からなり、全部で116の話が収められている。仏教の教えにまつわる話が多く、善行、悪行には、生きてあるうちにも、死してのちにも報いがあるという類いのものが中心である。
 こんな話もある。一人の女が、子どもたちに生け捕られた蟹を救う。焼いて食べられようとしていた蟹を自分にくれと頼むが、断られる。それで女は衣を脱いで買う。
 その後、女は蛙をのみこんだ大蛇を見つけ、蛙の救命をあれこれ願うが受け入れてくれない。とうとう「わたしが妻になるから、それに免じて」と頼み、蛙を吐き出してもらう。 女は、蛇に七日後に自分のところへ来るように言う。蛇は、七日後に来る。
 その蛇は、女の家で、八匹の大蟹にずたずたにされる。生き物に功徳を積めばいいことがあるというような話である。
 だけど、蛇にしたらたまったものではない。もともと妻になるつもりなどない女に色気で騙され、生きるための糧たる蛙をのがし、挙げ句の果て、自分の命も落とすことになる。 そんなような話も収められている。
 また、女に関しては、大蛇に犯される女、生まれつき多淫な女などが登場。
 読んでみたい方はどうぞ。

山神のもとに

2015-04-08 | 読書
【本の紹介】
●第十四世マタギ/甲斐崎圭著/ヤマケイ文庫/2014年10月10日発行/983円(税込み)
 サブタイトルに、「松橋時幸一代記」とある。秋田県比立内に棲んだ一人のマタギの伝記である。マタギの家に生まれ、熊を狩って暮らした男の一生が綴られている。自然や人との接し方、そのさまは何とも美しい一語である。渓谷でのイワナ釣り、襲ってくる熊との手に汗握る熾烈な対決、殺した時のケボガイの儀式。山神のもとに生きる敬虔な信仰者を見る思いを抱かせる。現代文明が切り捨ててきたものの姿が記された貴重な一書である。一九八九年に他社から刊行されたものの再編集版である。

生きものとしての桜

2015-04-03 | 読書
【本の紹介】
●桜/勝木俊雄著/岩波新書/2015年2月20日発行/860円
 著者は、高尾にある多摩森林科学園の主任研究員。その森林科学園には、サクラ保存林があって桜の季節も含めて何度か行っている。それで、なんだか身近なものを感じて、本を手にした。はじめに、「生き物としての桜」をテーマとするとのことわりがあった。
 日本に分布するサクラの種と変種が整理して語られ、多種多様な桜が、どのように分類されるのかを学ぶことができた。
 また、桜に関して持っていた知識に訂正しなくてはいけないところがあることを学ぶことが出来た。桜の花には香りがないと思いこんでいたが、オオシマザクラにはあること。桜の木も状況に応じて剪定が必要なこと。栽培品種である染井吉野の誕生には諸説があったこと。読んでよかったと思った。
 ただ、後段になって、「遺伝子汚染」という表現に出会って、しっくりこないものを感じた。雑種が生まれ、増えることをもって、「汚染」というのだろうか。この本が岩波書店から発行されていることと関わりがあるだろうかと思ってしまった。
 また、総じて、雑種への警戒に満ちた言い方に違和感をもった。雑種や外来種がもともとあった生態系を壊すということはあろう。だけど、生き物のいとなみとはそんなものとも言える。
 特に、植物は、古来、遺伝子の混ざり合いが多かったのでなかろうか。もう少し、別の角度からのアプローチがあっていいのでないかと。

馴染み薄きイスラム

2015-03-14 | 読書
【本の紹介】
●イスラム国の正体/国枝昌樹著/朝日新書/2015年1月30日発行/¥760
 イスラム国関係の本が、次々と出版されている。著者は元外交官で、現地情報に詳しいが、その情報源は、中東各国の支配階層の人が中心でないかと友人に言われた。いずれにしろ、日頃、なじみの薄い地域のことで、もう少し、知っておいた方がいいのかなと思った。あのあたりの人、国、宗教・・・複雑という印象。 

森があって

2015-03-14 | 読書
【本の紹介】
●日本人にとって聖なるものとは何か/上野誠著/中公新書/2015年1月25日発行/¥880
 「古事記」や「万葉集」を中心に、古代の人々が、何をもって、聖なるものと感じていたかが語られている。自然、神、天皇に触れつつ、日本人の心の底にあるものが追究されている。日本の風土と日本人の心の深い関わりが感じられる。木や森の大きな大きなウェィト。

信仰によるエクスタシーゆえ

2015-03-14 | 読書
【本の紹介】
●エクスタシーの神学/菊池章太著/ちくま新書/2014年12月10日発行/¥780
 「神学」と言うなじみの薄いものに幾ばくか触れる事ができたように思う。サブタイトルに「キリスト教神秘主義の扉をひらく」とある。宗教による精神の高揚と肉体への影響、恍惚というか、法悦というか、エクスタシーに達すること、そんな事例が紹介されている。神秘主義はキリスト教に限ったことではない。また、人の肉体に表れる現象から考えると、宗教に限ったことでもない。敬虔な信仰者のエクスタシーと只者のセックスによるエクスタシーが、外から見れば同じということ。それにしても、ベルニーニノ「聖女テレサ」、魅力的だなあ。

日本の木を楽しむ

2015-01-06 | 読書
【本の紹介】
●日本の樹木/舘野正樹著/ちくま新書/2014年10月10日発行/950円(税込み)
 日本の代表的樹木三十六種について、その生態や関連エピソード等が語られている。また、著者自身の撮影によるカラー写真が載せられていて、見るだけでも楽しい一書。植物学に関わる記述がいささか教科書風なのが難点と言えるか。散歩の道すがら見かける木について、知識を得ることは、散歩そのものの楽しさを倍加させる。本書を読めば、「柳の枝は垂れているけど、あれは、人の好みがそうさせたんだよ。自然の中では枝垂れ柳はないんだよ」と恋人に語りながらひと時を過ごせられるようになる。

「自分の一生」を

2015-01-05 | 読書
【本の紹介】
●無名の人生/渡辺京二著/文春新書/2014年8月20日発行/810円(税込み)
 本書が「幸福論」であるとの紹介に接し、いまさらと読むのをためらったが、著者が自らの人生を顧みながら語っているのは、近現代文明への痛烈な批判であった。江戸期の人々の幸福に触れるところは、マルクス史観にとらわれた進歩的文化人の愚昧さの指摘となっている。国家が、個人の暮らしの隅々にまで関与する今の時代にあって、自分が自分の一生の主人であるためにとるべき精神のありようが示唆されている。世評にとらわれた現代人の自己愛の強さが不幸を招いていると。

「官能評価」

2014-12-31 | 読書
【本の紹介】
●官能美術史/池上英洋著/ちくま学芸文庫/2014年11月10日発行/¥950
 書名と多くの図版が収められているのに惹かれて、手にし、読み出した。まじめな本で、知が盛り沢山。だけど、なんだか、文章に色気が感じられず、読書休止。わたしの「官能評価」が高くなかったと言うこと。休止はしたが、今後、調べごとで役立ちそうである。

サラダ向きオリーブオイル

2014-12-31 | 読書
【本の紹介】
●オリーブオイル・ハンドブック/松生恒夫・鈴木俊久著/朝日新書/2014年11月30日発行/\1,000
 オリーブ・オイルのことをとりあえず知ろうとするとき、手軽に読める。著者は、オリーブオイル専門家の鈴木俊久と医師の松生恒夫の二氏。
 全体が9章で構成され、1章から6章が基礎編とされ、鈴木氏が書いている。樹木としてのオリーブの特性、オリーブオイルの製造、流通、選び方、使い方、そしてティスティングのことが書かれている。
 7章から9章は、健康編とされ、オリーブオイルの健康への効用等について松生氏が書いている。
 紹介されていたオリーブオイルをスーパーで見つけ、早速買った。それは、野菜サラダにかけておいしいというもの。毎朝、タマネギ、トマト、キャベツ等にかけて食べているのに、オイルの種類によっての用途の向き不向きをこれまで気にすることがなかった。

中国は崩壊するか

2014-12-10 | 読書
【本の紹介】
●2015年~世界の真実/長谷川慶太郎著/ワック文庫/2014年7月31日発行/972円(税込み)
 日本、アメリカ、中国、朝鮮半島、EU、ロシア、中東の政治経済の現況が、一気に見渡せる。日頃、気にさわることの多い中国、朝鮮半島については、近い将来の現体制崩壊の予測がされている。胸がすく思いをする読者も多いだろう。ただ、わが国にも大きなリスクがともなう。一国が、健全で、豊かな社会を維持・発展させるために払わなくてはならない努力、堅持すべき知恵のこと等を考えさせられる。著者が是とする経済政策に、索漠とした社会を感じないわけでないが、視野の広さが光っている。

「死」とともに

2014-10-14 | 読書
 フェデリコ・ガルシーア・ロルカの詩について、何を言いたいのか分からないとの感想を書いた。
 そう言いながら、長谷川四郎訳「ロルカ詩集」(みすず書房)を飽きもせず、何日もかけて目を通した。
 わたしを惹きつけたていたのは、何だったのだろうか。
 気になる詩句があったページの端を折りながら、頁をめくった。
 その部分だけ見かえして、気づいた。
 直截な「死」のことが、そこにあった。
 前に取り上げた詩をはぶいて、幾つか書き写す。

 ●「不意打ち」と言う詩の部分。
  短刀を胸に
  道ばたにころがっていた
  見知らぬ男
  ・・・・・
  短刀を胸に
  死んで街路にころがっていた
  彼を知る者
  一人としていなかった

 ●「デ・プロフンディス」と言う詩の冒頭の3行
  ひからびた地面の下ふかく
  とこしえにここに眠る
  恋わずらいの男女百名

 ●「騎馬行」と言う5節からなる詩の2節、3節
  黒い馬 大きな月
  鞍袋にオリーブの実
  ぼくは道を知っている
  だがコルドバにいけないだろう
  平野をこえ 風をこえ
  黒い馬 赤い月
  死がぼくを見ている
  コルドバの塔の上から

 
 「生まれた人で、死なない人はいない」と誰か言っていた。
 生まれたわたしは、死が気になる。
 死を思うことは、大切なことと、思い込んでいる。
 ロルカの詩には、つねに死の影がある。

王朝の崩壊

2014-10-08 | 読書
【本の紹介】
●中国崩壊カウントダウン/石平著/宝島社/2014年7月14日発行/1080円(税込み)
 中国における秦の始皇帝にはじまり、現在の中国共産党王朝にいたる政治権力の変遷が概観できる一書。王朝の崩壊がいかなる要件のもとに起こるかが分析されている。権力者による国家の私物化、流民の大量発生、知識人の体制批判と離反が指摘され、今の赤い王朝のなかで、それが歴然としてきていると。権力中枢における内部対立、経済成長と同時進行の賄賂の横行、日本の人口を超える流民の発生・予備軍の増大・・・崩壊のシナリオが描かれる。他人事ですまぬ中国のこと、一読しておくのがいい。

たれかとまりて

2014-10-06 | 読書
 堤中納言物語「虫めづる姫君」に、作者の思想・人生観が端的に表れている文言がある。
 格別、めずらしいものではないが、備忘に記しておく。
 「・・・人は夢まぼろしのやうなる世に、たれかとまりて、あしきことをもみ、よきをもみ思ふべき」
 真実は、善悪の彼岸にあるというか、真実といっても、それは、夢まぼろしに過ぎないということか。
 右馬の佐が登場してあとの個所を何度か読んだ。
 歌のやり取り、女装しての姫の屋敷への忍び込み。
 色好みの男たるには、怠惰であってはいけない。怠惰であっては、色好みとはならない。