梶哲日記

鉄鋼流通業会長の日々

欠礼とリビング・ウィル(その1)

2022年11月19日 05時37分08秒 | Weblog
今年の5月に、次のような内容の直筆の手紙が私に届きました。『私〇田〇郎は、3月30日嚥下機能改善手術を受けブクブクうがい筋トレがんばりましたが、改善せず体重は減少肺炎になり抗生物質を投与されましたが肺炎菌が強すぎて体力消耗力つきてしまいました。コロナ禍でみな様にお会いできず家族にワクチン接種できない孫もいますので残念ながら5月16日一人で旅に出ます。みな様方に引き合わせてくれたことに感謝しています。ありがとうございました。旅費はたっぷり持っています、お気遣いなくお土産に困りますから』。

皆さんはこの手紙をどのように解釈されたでしょうか。私の家内は最初読んだ時には、少し意味が分からないといっていました。私は意図を直感しました。何故ならば私がそのような状態になったら、どうするか考えていたからです。封筒の消印は5月13日でした。5月16日一人で旅に出たのですから、その3日前にこの手紙を出したことになります。つまり命を絶つ3日前に、冷静(私の想定ですが)に行動したことになります。

自ら命を絶ったのか、または延命処置をしていたのを拒んだのかは、これだけでははっきり判りません。ご自宅で亡くなったのか、あるいは病院でそうしたのかも不明です。少なくとも家族には前々からその意志を伝えて、同意を得ていたのでしょうし、かかりつけの医者かあるいは病院の担当の医者には事前に話して、合意を取り付けたてたのではないでしょうか。

冒頭から重い話となってしまいました。先ずは、その方の説明から始めます。今から4~50年も前のことです。まだわが社が江戸川区の葛西に在った頃です。本社の事務所兼倉庫の建物があり、直ぐ近くにもう一つの倉庫がありました。その倉庫に向い合せるように中華料理の店がありました。その店の主人だったのが〇田〇郎さんでした。私より15歳ほど年上でした。働き者の奥様と、三人の子供がいました。

わが社本社の二階には私の両親が住んでいたので、週末家族が集まった時など、その店からよく出前を取ったものでした。わが社の社員も、お昼や夜はそこにいりびたり食事をしていました。主人は自分に厳しい人で、子供にも厳しく教育をしていました。毎朝学校に行く前に、子供三人は家の回りを何回も走らされていました。主人は子供たちが規定の回数を終えるまで、家の前で立っていました。

主人は長年中華鍋を振るうことで生じた、手首の腱鞘炎に悩まされていました。わが社が浦安市に移転することが決まった、その少し前、その一家は千葉市に引っ越すことを決めます。子供も成長して大きな家が必要だったようですし、店の仕事も長く出来ない判断をしたのでしょう。主人は移転に際し、私どもに挨拶に来られました。それから、年賀状のやり取りが始まりした。

この時期毎年11月になると、年賀状の欠礼の挨拶ハガキが届きます。誰がいつ亡くなったとの、家族からのお知らせです。欠礼には二通りあります。一つは、年賀状を出していた本人が亡くなって身内が代わって挨拶する場合です。もう一つは、年賀状を出していた本人の親族が亡くなって喪中の挨拶をする場合です。手紙をもらったその方は、身内が代わって出すのではなく、自ら欠礼の挨拶を書いたことになります。考えてみると、凄いことです。

一つ目の欠礼をもらって、いつも感心するのは、亡くなった方の身内が本人の出していた宛先を押さえていることです。前年まで本人にもらった年賀状から宛先を把握したのか、前もって本人が自分の出しているリストの一覧を身内に知らせているかのか分かりませんが、残された身内にとって大変な作業です。今回欠礼について書いていて気が付いたのは、私はその準備をしてません。手紙をもらったその方は、身内の手間も省いたことになります。

その方は死を目前にして、やはり冷静だったのでしょう。家族に迷惑をかけたくない思いやりや、自分で最後まで始末する高潔さが伝わってきます。我々は死に対して漠然と構えています。死に直面して初めて恐怖や不安を感じるものですが、一方で前もって「死に方」を明確にイメージすることは中々難しいものです。ある年齢に達したら、普段から死に方を念頭に置く必要性を感じます。

今回の手紙の出来事は、人間の理想の死に方といわれる「ピンピンコロリ」の捉え方や、元気な時に治療・延命処置などについて表明する「リビング・ウィル」をどうするかの、問題が内蔵されているのではと思いました。それらについて、次回私の考えをお伝えします。   ~次回に続く~
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