梶哲日記

鉄鋼流通業会長の日々

人を追い詰める(その2)

2017年03月24日 21時44分17秒 | Weblog
仕入れする方が購入する物の値段を叩いてしまうのは、その結果少しでも安くなれば、仕入れ側の利益となるからです。しかし販売する方からすれば、値段を叩かれれば利幅を圧縮されて、販売側の利益を喪失することになります。互いに損得で対峙します。

継続的な商売なのかスポット的なのか、数量や金額の多寡によっても、値引き交渉の真剣さは違ってきます。例えば最初の見積もりの価格にしても、含みがあるのかギリギリの線なのか、そこをどう読むか双方の思惑が絡むこととなります。

当時私が行っていた行為は、先代の値引き交渉が刷り込まれていたのかもしれません。車両や機械設備を購入する都度、先代は相当厳しい値引きを要求していました。その業者が限界かと思うと、更なる値引きに応じている、それを傍らで私は見ていました。

甘い経営をして会社が傾いたら誰も救ってはくれない。会社を守る為に言い値で買ってはいけない。経営者が厳しい交渉をするのは大義名分があります。しかし先代と私が決定的に違っていたのは、キャリアと年齢とそして人格だったかもしれません。

先代の交渉を観察すると、支払い条件とか納期を譲るとか、相手にもメリットを与えていたことを、その後気が付きました。損して得取れではありませんが、先方も商売です。その証拠に、その販売担当がわが社を嫌って、近づかなくなったような人はいませんでした。しかし、わが社が他社のどこよりも安く仕入れていたことは明らかです。

確かにお互いに利益は大事です。しかし言葉を替えれば、後味として残るのは何なのか、なのでしょう。一線を超えて人間の本性まで暴き出そうとした、そこまで追い詰めてしまった、私の冷酷さがあったと思います。同じ事をされたら私も切れていたでしょう。私の方が正しいと思っていた当時でしたが、その考えが変わってきたのは、そのような観点からです。

数年前から、私はこのような値段の交渉を100%行わなくなりました。メインの仕入れ材料にしてもその他の購入品にしても、私は価格交渉の場すら立ち会っていません。最終決済を私が承認する形ではありますが、ナンバー2以下に折衝は任せることにしました。

勿論私は、仕入先の商社や購入先の業者の担当の方とお話しをすることはあり、お会いすれば一般的な話はします。私は一切価格の交渉の話はしないので、相手の会社の担当者とも良い関係が保つことが出来ます。

敢えて言えば、わが社の担当者が悪役となってくれるので、私は善人を装うことが出来ます。トップが我欲をむき出しにすると、会社の雰囲気が悪くなり、会社の品格も失われてしまうと最近考えるようになりました。

反省も大いにありますが、今ではそのような若かった自分を懐かしく思います。長い取引が出来るのは、どちらも上でもなく下でもなく、お互いの立場を理解して信頼し合ってこそだと認識しています。日々此れ学び、となります。
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人を追い詰める

2017年03月18日 09時37分41秒 | Weblog
今から20年以上も前の話です。自分の責任感から、人を追い詰めてしまったことがあります。そしてその人は“切れる”、つまりプッツンと切れてしまったのです。しかし当時は、私の方が正しいと思っていました。最近、その考えが変わってきています。

27年前先代から、突然事業継承のバトンを受け取りました。それまで経営を知らない私にとっては、会社の利益を出すには仕入れを押さえることであるとの思いが先行して、材料にしてもその他の購入品についても、かなりシビアになっていました。

当時東鉄連の下部団体の一つでは、錦糸町にサロンクラブを持っていました。会員が安心して低料金で飲めて、懇親を深める目的で会員制のサロンを作ったのです。その団体の方に誘われてそのお店に行った時に、ある女性がバイトで働いていました。

彼女の日中の勤務先は、葛西だと言うのです。わが社から歩いて5~6分の所にある、大手自動車メーカーの販売店に勤めていたのです。丁度わが社は営業用の車を検討中だったので、彼女との商談となり、話しが進み見積書を提出してもらいました。

彼女曰く、この金額は多少含みもあるので、購入を決定してもらえるのであれば値引きは可能とのこと。更にやり取りは続き、最後は一万円単位の端数を切り捨ててくれれば決めたいと伝えたところ、会社側にはそんな無理な話はもう言えない、だったら端数は自分で払うと言い出しました。結局その言い値で購入を決めましたが、彼女の怒りをかってしまうことになりました。

もう一つの話しです。同じく東鉄連の傘下である江戸川鉄栄会は、かつて組合を作りました。江戸川区内では将来工場を維持できないとの危機感から、千葉県等に工業団地を共同購入したらどうかとの発想でした。その副事業として、各社が使用する消耗品や資材をまとめることで仕入れ価格を下げる、いわゆる共同購買事業を行って、口銭を組合にも落とすとの考えでした。

その一つとして、年賀タオルの共同購買がありました。組合の一社で長年取引があったタオル業者が起用されて、値段は仕様や数量にもよるので各社が交渉する運びとなりました。そして、その業者がわが社にも回って来られました。

わが社は、数量的には他社よりも多い自負がありました。見積もってもらったところ、確かにわが社が従来発注していた業者よりも安価ではありました。更に値引きは出来ないものかと、私も食い下がりました。

するとその社長は、個人で経営しているので他の会社と比べ、経費が掛かっていないので安いはずだと主張されます。それでも二年くらいは実績を作った方がよいとの判断で、言われた値段で頼みました。

そして再度値引きの話を出しますと、温厚なその方の顔色が急に変わって、「俺は慈善事業をやってるのではない!無理を言うなら今回で降ろさせてもらう」と。私の方が驚きましたが、この件でギクシャクして、その業者との関係性も薄くなり、わが社は従来の業者にまたお願いすることとなりました。
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人手不足に対処

2017年03月11日 09時51分18秒 | Weblog
連日新聞紙面に、最大手宅配業者の関連記事が登場しています。宅配クライシスと題して、厳しい時間指定で昼食を取る時間もなく、再配達が恒常化して、長時間残業を強いられていることを取上げています。

また人手不足で、小売業界では閉店時間の繰上げや、あるいはファミリーレストランの24時間営業の見直し等の記事が載り、人手の確保難により従来のサービスが提供出来かねない社会現象を伝えています。

宅配クライシスの背景には、やはり最大手のネット通販会社の急成長があり、それによって運転手不足の中で宅配業者の負担が高まり、現状のシステム維持や事業継続性のためには、その大手宅配業者は全面的な値上げが不可避と判断したようです。

既にその宅配業者とネット通販会社との運賃交渉は開始されているでしょうが、簡単に収まらないことが報道されています。しかし宅配業者が値上げをすれば、要求されるサービスの負担を全て背負わされるばかで、早々に人材不足解消に繋がるわけでもありません。

これは明らかに過剰サービスが辿り着いた結末と私は考えます。例えばネット通販で本を買ったとすると、朝早い注文であればその日に届くこともあります。しかし買い手からすると、皆が皆そんなに早く届いても直ぐに読むわけではありません。

宅配のサービスにしても、日中留守にしていて不在通知の案内が入っていて、電話をすれば夜でも再配達されるから頼んでしまう。翌日以降で受け取れる時間に届くなら、何ら支障が無いケースもあるのではないのでしょうか。またお店が夜遅くまで開いているから、私たちはそのお店に行く。本当にその必要性があるのでしょうか。

これ程の深刻な社会現象なっている実態を、私たちが理解していなかったことにも原因があります。過剰なサービスが、私たちにとって当たり前になっている実態です。修復する方法は、ユーザー側の私たちが譲歩すれば、問題は解決するようにも思います。

私の知人に運送会社の経営者が二人います。私の弟も運送会社を経営しています。共通している深刻な悩みは、慢性的な運転手不足です。補ってきたのは定年を引き上げたりする高齢化対応で、少子化の日本では運転手不足はこれからが本格化します。

私の知人の一社の運送会社はコンビニの商品を、またもう一社の運送会社は大型トレーラーでコンテナを配送しています。どちらの会社も従業員が多く、運転手不足は二桁だと話されます。運転手不足は大手宅配業者のみならず、身近な運送会社にも及びます。

昔は我々がお店に出向いて、買い物に行きました。デパートの配送はありましたが、日にちなど指定は出来ませんでした。深夜開いているお店等ありませんでした。しかし待つ楽しみや、辛抱するという学びはありました。

人手不足に対処する一つの手段は、ロボットや人工知能を活用した生産性の向上も欠かせないとの新聞の論調ですが、行き過ぎたサービスによる人手不足なら、私達の側にもこのサービスを再考する時期が来ていると感じます。
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されて嫌なこと

2017年03月04日 06時37分58秒 | Weblog
ゴツンと鈍い音がしました。「しまった、やってしまった!?」。心の中の声です。駐車場で、バックして車を停めようしていた瞬間です。車を降りて、確認したところ、やはり相手の車にはへこんだ傷があり、私の車には当てた後があります。

少し事情を説明しますと、私には会社で貸与されているプリウス車と、自分で所有している日産キャラバン車があり、このキャラバンでの事故です。キャラバンは商業用バン車として多く使われているもので、乗用車から比べるとかなり大きな車になります。

バックをする時に、たまたま前方右に障害物があり、それが気になっていました。そして右にハンドルを切りながら後退していたところ、私の車後ろの左バンパーを、左隣に停めてあった車の前方右側ドアーに当ててしまったのです。

誰も周りには居ません。ほんの一瞬です、これで私が立ち去ったらどうなるのだろうかと。逃げる気持はさすがにありませんでしたが、想像したのも事実です。逃げてしまったらずっと後悔するし、自分がされたらどうなのか、直ぐにそこへ行き着きました。

でもこれからどうすれがいいのか。当ててしまった相手はそこに居ません。警察を呼ぶことも考えました。しかし私の後の時間が押していました。それでも30~40分ほど待ってみましたが、相手の方は現れません。保険を使わないで、自弁する腹を決めました。

「大変申し訳ありません、私の不注意で御車に傷をつけてしまいました。暫く待ってみましたが、どうしても後の予定があり、ここから移動します。つきましては、この修理代は私が責任を持って支払いを致します」。更に私の氏名・住所・電話番号を明記したメモ紙を、相手の車のワイパーに輪ゴムで括り付け、その場を立ち去りました。

それから三時間ほどして、その方らか電話が入りました。「梶さんの携帯ですか。逃げられてしまうこともあるのに、メモを残してくれていて・・・」。その方の開口一番の言葉でした。私は平謝りでしたが、この一言に救われた思いでした。

相手がどのような人なのか全く分かりませんので、立ち去った私からしたら、どのような請求が来るのか、実は内心不安でした。話している内に、常識を持たれた方だと分かりました。千葉県の野田に住んでいる方で、私はそちらの懇意にしている修理工場で直してもらいたい旨を伝えました。

一回目の電話を切ってから、またその方から掛かってきました。「場合によっては梶さんが何時も出されている修理工場で直してもらって構いません」、との話でした。自分が被害者にも関わらす、こちらの配慮をしてくれようとしています。更に頭が下がる思いです。その申し出を丁重にお断りして、先方の修理工場ですることをお願いしました。

後日その修理工場の方から電話が鳴りました。「今の世の中当て逃げするケースも多いのに・・・」との言葉が、また出て来ました。色々修理箇所の説明がありましたが、その内容で全額お支払いすることをお伝えした次第です。

自分がされて嫌なことを相手にしてはいけない、との教えがあります。見も知らぬ相手を信用する、また相手もこちらを信頼してくれる。日本人が大切にしてきた心も、同時に感じました。


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