梶哲日記

鉄鋼流通業会長の日々

介護職研修と介護崩壊!?(その10)

2024年05月25日 05時36分59秒 | Weblog
高齢者介護について、新聞社による直近の調査で世論の認識は以前と比べ様変わりしたことは、前回述べました。しかし障害者介護においては、どうなのでしょうか。現在私が勤めている障害者の介護現場で、障害者を受け入れる世間の意識にギャップを感じる事件があり、今回お伝えします。

私は午後からその介護施設へ出勤します。4時間ほどの勤務で仕事は、半分は所内で利用者さんのレクレーション活動の補助や排泄の介助など、後半分は利用者さんを自宅やグループホーム(以下GH)へ送るドライバーです。余談ですが、その車での雰囲気が私は好きです。車には乗り降りの介助をする添乗職員が1人つきます。ホームに帰る途中で、利用者さんと添乗員の会話で、色々本音が聞けるからです。

GHは、多くを入居させる大規模施設から、少数を受け入れる一般家屋を利用した施設まで、まちまちです。事件は、後者のようなGHで起こりました。一人の利用者さんが入居しいるGHは閑静な住宅街にあります。高齢のご両親は、私たちのデイサービス以外の、自宅での毎日の介護に限界を感じ、2カ月前からそのGHに週末以外は娘さん(その利用者さん)を預けることにしたのです。

そのGHに初めて送って行き驚きました。近隣の住人がGH反対表明をしているのです(欄外の写真)。私が勤めている施設の代表によれば、そのGHが入所の際に、近隣への説明を一切不動産会社に任せてしまい、そこから行き違ったようです。別に自治体の条例に反している訳でもないとのことです。ただし、近隣の一方的な退去要請を避けているのか、GHが説明を尽くしていない様子は掲示物から窺われます。

その矛先が私たちに向かった時の状況です。他の利用者さんを送ってきた違う車がGHの前に停まっていて、狭い道を占有しています。道はGHでドン詰まり、先に待機のスペースはありません。雨が降っていて、しばらく待ってもその車は移動しません。添乗員と相談しGHの手前、ある民家の前ですが、車椅子の私たちの利用者さんには降りてもらい、私は車の後方でボタン操作し昇降機を収納していました。

その時、前方から“ドン”という音が聞こえました。フロント硝子を強く誰かが叩いたのです。見知らぬ人物が車の後方に突然現れ、「お前、人の家の前でエンジンをかけながら、こんなことをするな!!」と叫んだ瞬間、車椅子の昇降機のアーム側面を足で蹴り、シートベルトを固定する器具を壊してしまいました。

目の前で繰り広げられた事象を、即座に理解できませんでした。が、気を取り戻し、「これは器物破損になりますよ!」「状況を見て下さい。後ろの車が中々移動しないので、仕方なくここでやっているのです」と私。するとその男性(40歳代)、少しひるんだのか「これは、こうやって、二つが外れたけど、こうやって、付ければいいんだろ!」。結果、器具は元通りになりました。「二度とうちの前で、するな⁉」と吐き捨てた男性は、家に戻って行きました。

翌日の朝、嫌がらせがありました。我が施設の代表が、私の報告を受け自らGHにそこの利用者さんを迎えに行ってくれましたが、狭い道には二台の車が道路の真ん中に停まっていて、奥まで入って行けなかったそうです。一回きりでその嫌がらせは終わっていますが、近隣住民が結束していることは明らかです。代表曰く、「私たちには直接は関係なく、そのGHと近隣の問題なのだけれど」。これが、私が感じた世間の受け入れ意識のギャップです。障害者を自分に置き換えてみることもなく、できれば排除したい他人事なのです。では世の中で、誰が何処でどうやって障害者を受け入れてくれるのでしょう。

四カ月の介護職初任者研修で、学んだことです。「明日は我が身の欠如」「認知症も障害者も他人事」。私の認識のなさでした。研修で感じたことは、我々健常の人間ではごく当たり前にできる行動欲求、排泄、食事、入浴、外出、等々要介護者は普通にできません。しかし要介護者は要求できる当たり前の権利なのです。研修では視覚障害者になってみて、目隠しをして介護を受ける実習がありました。全く違う世界を体験しました。

要介護者の尊厳保持と自立確保は、誰かが介助・介護することによって達成します。誰か、の役割を担うのは、とりもなおさず介護職員です。研修時の講師が、熱く語っていました。看護士より介護職が利用者と接する時間が多い。だから介護については、看護士には介護職の意見を尊重してもらいたい。しかし医療については、介護職は看護士の意見を真摯に聞くべきだ。それが専門職としての自負である。そんな言葉も印象的でした。このシリーズ長きに亘り読んでいただき、有難うございます。




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介護職研修と介護崩壊!?(その9)

2024年05月18日 06時09分34秒 | Weblog
厚生労働省研究班が5月8日、認知症の患者数が2030年に523万人にのぼり高齢者の14%にあたる「7人に1人」に迫る、との推計を発表しました。その見解を受けて、日経新聞が翌9日一面トップに関連記事を載せました。

仕事と介護の両立(ビジネスケアラー)が困難な人が増えると、経済的な損失は年9兆円に及ぶとの試算もある。最大の課題は介護人材の確保で、政策とテクノロジーの活用の両面での取り組みが欠かせない。経産省によると、ビジネスケアラーは増加の一途をたどり2030年時点で約318万人、経済損失は大企業1社当たりで見ると年6億円に上る。との記載が続きます。

最大課題の介護人材の確保と政策とテクノロジーの活用については、次のようなコメントです。厚生省は25年度にも、訪問介護サービスで在留資格が「特定技能」の外国人が働けるようにする。介護現場ではAIを使って、人手不足の解消を狙う。入居者の呼吸数や心拍、睡眠の深さなどを測定して分析し、異常があれば職員に知らせるAIシステムを開発した企業もある。との内容でした。

振り返りです。私はこれまで介護崩壊の打開策があるのではないかと、色々と方策をあげてきました。それで楽観的になった訳ではありませんが、この記事による高齢者の認知症患者の増加や企業に内在するビジネスケアラーの漸増は、介護に新たな課題を残してしまいます。

認知症はいうまでもなく後戻りしない病(現在)です。認知症の中でアルツハイマー型認知症はその60%を占めるといわれ、経過は大きく三期に分けられます。初期は記憶障害が中心で、不安や抑うつなどの合併が見られますが、比較的慣れた日常生活はおくれ自立できます。中期になると、日常のことができなくなる、人・時間・場所が分からなくなる見当識障害などが表れ、要介護状態となります。末期では過去の記憶もなくなり、思考や判断の能力が低下し、人格変化もみられ、次第に寝たきりになっていきます。

ビジネスケアラーが仕事をしながら身内を介護できるのは、認知症でいえば初期~中期の序盤位までではないでしょうか。それ以降は、デイサービスに通うか訪問介護を受けるか、最後は施設への入居になります。しかしこれらの介護が、介護職不足で受けられなければ、仕事を辞職して介護することになります。このケースが世の中で、確実に増加する現実が迫っているのです。

また新聞の引用となりますが、朝日新聞の5月4日の第一面です。『人手不足、「感じる」7割』との見出しの記事、不安の最上位「医療・介護」80%。外国人労働者の拡大、賛成派が急増。とありました。同紙が全国世論調査で、「人手不足社会」をテーマに尋ねた結果です。外国人労働者の受け入れ拡大する政府方針には賛成62%が反対28%を引き離し、賛否が二分した5年前余り前の調査から、大きく様変わりした。とのことです。その記事の隣には、ビジネスケアラーについても書かれています。

二紙の最近の記事からも分かるように、認知症、ビジネスケアラー、外国人労働者などは、今や全て介護問題(介護職不足)と直結しています。これらの世論調査で明らかになったのは、介護について必要性を実感し、後追いかもしれませんが、ここ数年で世の中の人々の認識が確実に変わってきたことです。

ただしその介護については、世代によって受け止め方は違いがあるようです。朝日新聞による別の質問で、介護について「(保険料などの)負担が増えても、サービスが減らないほうがよい」か「介護サービスが減っても、負担が増えないほうがよい」かを尋ねた。各世代とも、「負担が増えても、介護サービスが減らないほうがよい」の方が上回ったものの、若い世代ほど「介護サービスが減っても、負担が増えないほうがよい」を選ぶ割合が高まった。との調査結果だそうです。年金給付一つとっても、今の若者世代が将来抱えている不安は多く、介護はまだ先の課題なのかもしれません。

「人間の叡智と努力によって、介護崩壊はおこさない」。それに越したことはないのですが、国による制度改革は、世論よりもっと後追いになることは否めません。少なくとも民意レベルの介護問題の認識がもっと高まることを願っています。しかし、現在私が勤めている障害者介護の仕事で、障害者を受け入れる、世間の理解にギャップを感じる事件がありました。次回その話をして、介護職研修を受けてからの心境を書いて、今回のテーマを終わりにしたいと思います。    ~次回に続く~ 




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介護職研修と介護崩壊!?(その8)

2024年05月11日 06時01分37秒 | Weblog
今回も、崩壊しない介護に向けて介護職不足の打開策はあるのかのテーマです。が、視点を変えます。介護職を増やす努力ではなく、介護を受ける高齢者を減らす話しに切り替えます。前回取り上げた新聞記事、『介護現場「ご近所」で支える』にヒントがありそうです。

支える主役はアクティブシニアと呼ばれる元気な高年層。深刻化する介護現場の人手不足を穴埋めするのは、食事の配膳やシーツ交換など間接業務で外部の動き手で、資格・経験が不要の業務を手助するシニアの存在です。アクティブシニアが増えることは、介護に頼らない元気な高齢者を増やし、介護職(既存人材)の奪い合いではなく、介護職の「足る」を促す動きに繋がっていくと思いました。

アクティブシニア人口が確実に増えているのは、調査で明らかになっています。『「70歳以降働く」最多の39%』日経新聞が行った、郵送世論調査の結果です。日経新聞が年に一度行っている調査(日経リサーチが全国の18歳以上の男女を無作為に抽出して実施)で、去年11月は6回目とのこと。働き方・社会保障に関する質問で、何歳まで働くつもりか尋ねたところ、70歳以上の回答が39%で調査開始以来最も高かったようです。

何歳まで働くかの内訳は、「60~64歳」は11%、「65~69歳」は27%、「70~74歳」が21%、「75歳以上」が18%。また、自分の将来のどのようなことに不安を感じるか複数回答で聞いたところ、「生活資金など経済面」が70%に上り、18年から22年の調査は「健康」がトップで、入れ替わった。仕事を継続する選択にいたる背景の一つとみられる、と分析しています。因みに介護の不安は、三番目で50%です。

「経済」「健康」「介護」は、若い世代にはまだ漠然としているでしょうけれど、将来の不安の関心事であることは確かです。逆にシニアにとって、生活資金など「経済」で働かざるを得ない現実だとしても、働くことは「健康」に留意することであり、「介護」から遠ざかる要因になると考えられます。

高齢者の活発な求職動向は、ハローワークの数字にも表れています。65歳以上のシニアがハローワークで職を探す有効求職者は25万人と、10年間で2.2倍に。ハローワークで仕事を探す人は徐々に高齢者にシフトしています。有効求職者を年齢別にみると、01年から18年は25~29歳が最多でフリーター対策など若者の雇用先確保が重視されたが、現在は65歳以上が逆転した。とのデータがあります(欄外の表参照)。

一方で高齢者就業に足枷があります。高齢者は稼げば年金支給減額、「意欲をそぐ月収48万円の壁」があります。どんなことなのか、その説明です。公的年金は一定の所得がある人の給付を減らす在職老齢年金制度がある。2023年度は厚生年金を含む収入が月48万円になると、超える分の支給額が半分に減る。金額カットのケースもある。

この制度の対象が次第に増えている。厚労省によると21年度末の対象者は65歳以上のケースで、49万人で、働く受給権者の17%にあたる。1965年に導入された時の狙いは、働く人も一定額の年金を支給することだった。年金を払うための制度だったが、21年度末には年金を「もらえない額」が4500億円まで膨らんだ。以上がこの制度のあらましです。

この制度への賛否はあるでしょう。しかし65~69歳の就業率は5割を超え、今や年金受給年齢になっても働く人が多数派になりました。働く高齢者は所得税を納め、社会保険の制度の財源を負担します。働く意欲をそぐ年金減額は、社会保障の担い手を細らせているようにも見えます。

シニアの就業を後押しするような発言があります。日本老年学会は、「高齢者ドライバー、中止前に代替え手段検討を」と提言します。「高齢運転者と危険運転を同一視するような差別的イメージは誤り。社会全体で多面的な取り組みを推進する必要がある」と強調。その上で「ゼロリスクにできる限り近づける科学的根拠を示し、免許更新の際などに適切な運転技能の判定が必要」、そして「運転中止前に、自身で運転する以外の代替手段を検討すべき」、との主張です。

つまり高齢だから安易に免許証を返納するのではなく、運転の代替え手段を十分検討しないと、いずれ自らの行動範囲まで狭めてしまう、との警鐘だと捉えます。運転を中止した高齢者は、継続した高齢者と比べて要介護状態になるリスクが高かった、との報告もありました。正にアクティブシニアが増えれば介護職不足は軽減・回避されるの真髄です。 ~次回に続く~


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介護職研修と介護崩壊!?(その7)

2024年05月04日 06時21分02秒 | Weblog
今回も、崩壊しない介護に向けて介護職不足の打開策はあるのかのテーマです。雑誌『介護異次元崩壊』の中で、「大規模化と収益増を図る投資ファンド、ファンド主導で介護業界の経営改革が進む」との記事がありました。介護業界へのファンドの介入の是非はともかく、この経営改革は、外国人労働者と同様に介護者不足を解消する方策になると、私は捉えます。何故なら、介護職員を減らせる人員配置基準を、緩和する動きに繋がるからです。順を追って説明します。

雑誌では、構造改革に取り組むニチイ(売上高2689億円)の事例が紹介されていました。労働集約型で合理化が難しいとされてきた介護業界に、ICT(情報通信技術:情報のデジタル管理)を取り入れ、目指したのは介護スタッフが介護に専念できる体制。欧米系ファンドベインの下で、書類など紙文化も廃し独自のアプリで業務効率化を図り、3年の構造改革の結果、営業利益は2倍になった。との内容でした。

さらに他企業の事例もあげ、ファンド主導などで中堅・大手の業界再編が起きていて、大規模化で業務の効率化の流れが加速しているとの指摘でした。経営が行き詰まるのは中小の事業所に多く見られる一方、大手はネガティブな介護職のイメージを刷新し、報酬も成果によるインセンティブも付与し、若手中心の正社員採用に成功している。他大手に共通しているのはICT導入等、やはり介護スタッフが介護に専念できる体制作りです。

中小ではICTの導入で生産性を上げようとする動きには反発も強い。しかし、介護職員1人が稼げる額に上限があるために低賃金となっているのも事実。介護施設では、入居者3人に対して1人の介護職員を配置することが義務づけられてきた。利用者1人が使える金額には上限があり、介護職員が稼ぐ額は、介護保険報酬の3人分にしかならない。この人員配置基準を緩和し1人の介護職員が4~5人を介護できるようになれば1人当たりの稼ぐ力が強まり低賃金構造から抜け出せる。以上も記事からの情報です。

今回の国の介護報酬改定で、人員配置基準を緩和するルールができました。それは2024年度からICTを導入するなど一定の条件を満たした施設には3.33対1に緩和されたことです。人員配置基準の見直しは、21年、内閣府規制改革推進会議でSOMPOケアが22年度中に人員配置を実質4.1対1にまで下げられるという目標を掲げたことで、動き出しました。緩和は拙速ではないかとの声もありますが、地道に介護の情報デジタル管理を進めていけば、早晩人員配置基準は4対1になると私は思います。

つまり介護施設内での(訪問介護ではない)人員配置基準の緩和で、職員1人に利用者3人だったものが、職員1人で利用者4人を看れることになるのです。その分だけ、介護職不足が解消されることになります。介護業界の職員は、2021年度の215万人に比べ、40年度は70万人近い人手不足が想定されています。25年には800万人の団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となることが背景としてあります。人員配置基準緩和は、この70万人の人出不足に、一役買うことは間違いないと考えます。

介護施設の中では、介護職員が直接介護と間接業務を行っているところがあります。直接介護とは利用者の介護に直接関わっている仕事で、間接業務とは介護に関係のない掃除や洗濯やゴミ捨てや配下膳などの仕事です。間接業務専任の人を採用することは人件費増ですが、間接業務を介護専門職から切り離すことになり、これも介護職の不足を解消する手段です。

先月の日経新聞に、『介護現場「ご近所」で支える』との見出しの記事が載りました。深刻化する介護現場の人手不足を穴埋めするため、外部の力を借りる動きが広がってきた。白羽の矢が立ったのは施設の「ご近所さん」で、食事の配膳やシーツ交換など資格・経験が不要の業務を手助けしている。アクティブシニアと呼ばれる元気な中高年層の新たな活躍の場としても一役買っている。活躍するのは有償ボランティア。との主旨です。

介護現場と外部人材をつなぐサービスを提供する会社もあるとのことです。施設職員の業務を細分化し、資格や経験を必要としないものを切り出して募集をかける。全国約500事業所が利用し、業務は清掃や季節行事の飾りつけ、レクレーションなど70種類に及ぶ。一方、手伝いたい人は事前に助っ人として登録し、仕事を選ぶ。今年4月時点で5千人超が登録し、7割は未経験者。報酬は施設側が決め、1回当たり数百~数千円程度。

この会社の代表曰く、「既存人材の奪い合いではなく、支え手を増やすことで人手不足を解消したい」。導入施設への費用補助をする町村もあり、連携する自治体は拡大の見通しとのこと。アクティブシニアは、いまや不足する介護職を支える有力なワーカーになっているのです。   ~次回に続く~
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