梶哲日記

鉄鋼流通業会長の日々

企業と人材(その4)

2022年05月27日 13時46分39秒 | Weblog
今回は、わが社にとっての「パーパスとは」について話します。パーパスは目的の意味ですので、会社であればその存在意義となり、経営理念と同義語といえます。最近の経営関連記事では、経営理念は多くパーパスと表現されています。カタカナのパーパスに私は少し抵抗感がありますが、日本もグローバル化になったと受け止めています。社内に浸透させるだけに留まらす、社会に広く発信していく「パーパスブランディング」という概念も、近年注目されています。

そして「目的」といえば「手段」、目的と手段とは対語となっています。目的とは「何の為に」であり、手段は「何をする」です。目的が「心」であるなら、手段は「形」ともいえます。少し回りくどくなりましたが、目的を明確にすることが大事であり、その目的を達成すべく、後に手段がくるべきで、この目的と手段を履き違えてしまうことが多々あります。

例えば、私は健康のためにウォーキングをします。この場合、健康になるためが目的で、ウォーキングをするが手段となります。しかし、やらなくてはならない気持ちが先行して、ウォーキングが目的となってしまうと、やり過ぎて体を壊してしまうこともあり、本来の目的は達成できません。また健康のためならば、手段のウォーキングに拘る必要はありません。食生活を改善することも、立派な手段となります。

私の父は、昭和27年にスケール回収業で会社を創業します。「戦後の日本で、自分や家族を養っていくために仕事を始めた」と、昔明言していました。当時の先代の企業目的は、「自分が食っていくためお金を稼ぐ」でした。事業が順調に発展して、社員も多くなり、取引先も増えていきました。社長の金儲けのためだけで社員はついてきませんし、いつしか得意先からも必要とされる企業となり、経営のステージが変わることで、事業の目的の昇華も進んだのだと思います。

ここまででいえるのは、目的と手段を間違えないことと、会社の目的は経営者の個人的なものではないということです。経営者が手段と目的を間違えると、世間から相手にされず、働く社員も不幸になります。では、企業は金儲け(利益を出すこと)をしたらいけなのでしょうか。企業の存続や発展のために、利益は絶対に必要です。がしかし、少なくとも利益は目的ではなく手段です。どんな手段を使っても儲けようとする利益至上が目的の会社に対し、取引先などは相手にしないからです。

それでは、わが社の経営理念とは。『わが社は、わが社の鋼材商品をユーザーに提供し、社会に貢献する』と、『わが社は、わが社の仕事を通じ楽しさを分かち合い、社員の物心両面の豊かさを追求する』です。理念の理は、「ことわり」です。ことわりとは、物事の筋道ないしは法則のことです。さらには、自然界の摂理ともいえます。世の中には、何事も順序・秩序があり、支配している原理には逆らえないという意味です。この理に反すれば、会社の存続もないとのことになります。そして理念の念は、「常に心の中を往来してる思い」です。わが社の理念も、それに添ったものでなければなりません。

会社は公器であり、社会との関係性なしでは、会社として成り立ちません。従って、世の中で何か役立っているかの視点、つまり社会への貢献が最も大事です。我々の得意な分野の鋼材商品で、わが社がどれだけ社会貢献できているかです。それは、やはり利他の精神です。私利や私欲だけで、貪欲に浮利だけ求めれば、世間から抹殺されるでしょう。これは理です。 

「人間の生きる目的は幸福であり、不幸を求める人はいない」と、いったのはパスカルです。物心両面の豊かさとは、金銭的な豊かさと精神的な豊かさです。人間の生きる目的の幸福は、物心両面の豊かさで追求できます。また、生きることは働くこと、働かない者は生きる資格はないのだ、ともいわれます。働くことで、仕事を深めれば仕事を通して楽しさも実現でき、その成果の報酬も享受できます。物心どちらが欠けても、豊かさや幸せは達成できません。これも理です。

会社の社会貢献と社員の仕事の喜びが繋がっているか。経営理念は公と個を繋ぐ橋渡しだと私は考えます。さてその個の社員の、社訓(わが社社員としての心構え)について次回ふれて、今回のテーマを終えたいと思います。   ~次回に続く~

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企業と人材(その3)

2022年05月21日 05時21分21秒 | Weblog
会社を船に例えて、「社員はみんな一つの船に乗っている」と表現することがあります。海が荒れて遭難するかもしれない危険もあり、運命共同体ともいえます。安全運航のために、乗組員にはそれぞれ役割があります。乗組員(社員)にはその船に乗るのかを選ぶ自由もあります。一方船長(社長)には、この船がどのような仕様で、何処へ向かおうとしているのか、説明・開示する責務があります。場合によって、船長は航行に支障をきたす乗組員は船に乗せない権限もあります。

企業において、どのような仕様で何処へ向かおうとしているのか、それを示しているのが、経営計画書であると思います。その中でも特に大事なのが、経営理念、社訓、ビジョン、です。社員には、これらに共感・共有してもらうことを望みます。勿論、経営計画書を作成していない会社もあるでしょうが、わが社は27年前から毎年作成し、会社存続の目的や手段を、そして具体的に会社は何を行うか、社員に理解してもらおうと努めてきました。

毎期経営計画書を作成していますが、利益計画や部門目標などは作り直すものの、経営理念や社訓やビジョンは、一度定めたら大きく変えません。そして、これらを確立するのは社長の使命となります。船長の例えではありませんが、会社を何処へ向かせるかは社長の仕事だからです。逆に、利益計画や部門目標を立てるのは、社長の仕事ではありません。何故なら、それを実行・実現するのは幹部以下社員の任務だからです。 

わが社の経営理念や社訓やビジョンは、私の社長時代のものを踏襲しています。前述したように、後継の社長が就任して2年8カ月が過ぎました。来期がスタートする7月に向けて踏襲してきたものを、私と社長とでニカ月ほど対話を重ね見直しています。これを社長の腑に落とし、自分の言葉として語らなければ、社員はついてきません。従来の基本軸を共有できれば、これからは現社長のカラーを出してもいいと思っています。不易流行。将来のビジョンなどは、時代のニーズに合わせ変遷するものです。

『よりユーザーに接近する/環境に影響されない基盤作り』『工場を商品化する/徹底した5Sの実現』『オリジナリティを構築する/オンリーワン技術の伝承』『新たな価値を創造する/立体加工への挑戦』。この四つが、現在のわが社の将来ビジョンです。これらは、全社員がそれぞれの部門で参画・行動してもらうことが必須で、実践の度合いで方向性の模索は続くことになります。(注釈 5S:整理、整頓、清潔、掃除、躾 立体加工:企業内起業したプラス・ワン事業)

政府(経産省)は、人的資本経営に向けた実践に関して、オンラインセミナーを今年3月に実施しました。人材版伊藤レポートを監修した伊藤邦雄氏をはじめ、日本を代表するCHRO(最高人事責任者)や投資家がこのセミナーに参加しました。その中のCHROの一人の方が、「社員の自律こそ近道」であるとした提言です。その大旨は次の通りです。

わが社は、自社のパーパス(存在意義や究極的目的)実現のため、従来の「会社の中の自分」から「自分の中の会社、仕事」への意識改革を断行した。自分の人生に比べたら、たかが会社、人生の目的達成のための舞台にしか過ぎない。社員には「MYパーパス」を考え、自社パーパスと重ね合わせて自分化してもらう。上司もコーチング技術を習得する。従業員エンゲージメントではグループ共通KPIでパーパスの浸透を計画している。イノベーションが必要なときには上意下達ではなく、多様な個性が自ら動く必要がある。社員が自律して働くことは、遠回りに見えて実は近道だと思っている。(注釈 KPI:重要業績評価指標/会社の大きな事業目標を達成するためには、その進捗度合いを数値化し計測できるようにした指標)

このような主旨です。かなり思い切った意識改革をしているようですが、社員一人一人の個に着目するなら、その個の人材と会社の関係において、お互いに選び合い応え合う関係を創っていくことを、あらためて感じます。人材重視でわが社の経営計画を遂行していく上で、ヒントになります。自分の人生に比べたら、たかが会社、人生の目的達成のため、わが社のビジョンは社員に対する会社での生き方の提言なのかもしれません。

では、わが社にとってのパーパスとは。企業と人材の観点で、もう一度私自身、自社の存在意義や究極的目的を考え直してみたいと思います。   ~次回に続く~
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企業と人材(その2)

2022年05月14日 07時09分09秒 | Weblog
前回のブログで、雇用流動化に対応する人材育成については、世の中では22年を「人的資本投資の元年」と位置付ける動きがあるようだと書きました。最近の日経新聞の全面広告欄に、“日本版エグゼクティブ教育研究会”の第6期会員募集中の宣伝が目立ちます。この日本版エグゼクティブ教育研究会は、日経が変革の時代に挑む経営人材育成を目的に2017年に発足させたものですが、今回の募集企画は経済産業省の動きとも連動しているようで、少し調べてみました。  

経産省のホームページを見てみますと、「人的資本経営」として紙面を割いています。「人的資本経営」とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方である。経産省は、持続可能な企業価値の向上と人的資本に関する研究会を2020年1月から開催し、この報告書は通称「人材版伊藤レポート」として2020年9月に公表した。更に人的資本経営の実現に向けた検討会を2021年7月から立ち上げた。と、経産省HPにありました。先にあげた日本版エグゼクティブ教育研究会の座長は、この人材版伊藤レポートを書いた方です。

この伊藤とは、伊藤邦雄氏のことで、1975年一橋大学商卒、92年同大学教授。現在は一橋大学CFO教育研究センター長をされている方です。経産省HPにアップされている、そのレポートを読んでみました。第1章の「持続的な企業価値の向上と人的資本」、第2の「章経営陣、取締役会、投資家が果たすべき役割」、第3章の「人材戦略に求められる3つの視点と5つの共通要素」からなっています。企業経営の主要な決定因子が有形資産から無形資産に移行していて、中でも人的資本は経営の根幹であり、これが企業自体の新たな価値を創造する。と、レポートは強調しています。

つまり、企業は人材を「人的資源」と捉えることが多かったが、これからは人材を「人的資本」と位置付けるようになるだろう。人的資源と捉えるなら、いかにその使用・消費を管理するかとなり、人材に投じる資金もコストとして見てしまう。しかし人的資本と見直すなら、企業が成長し価値を創造する担い手となる、人材に投じる資金は投資となる。従って、新卒一括採用、終身雇用、年功序列型賃金のようなかつての日本型の人事も転換を迫られる。持続的な企業向上を目指す経営戦略と、人事部門だけでなく経営陣がイニシアティブをとる新たな人材戦略の連動が必要である。以上が、第1章と2章の主旨でした。


第3章の人材戦略に求められる3つの視点と5つの共通要素、その中で私が特に興味を引いたのは、5つの共通要素の一つ「従業員エンゲージメント」です。従業員エンゲージメントとは、簡単にいうと、会社に対する愛着心や思い入れのことです。社員の、会社への貢献意欲や仕事への熱意の度合い、ともいえます。人的資本の人材が、その能力やスキルを発揮してもらうためにも、社員がやりがいや働きがいを感じてもらうことは不可欠な要素になると、私もそう思います。

「企業においては、企業理念や存在意義(パーパス)、経営戦略やビジネスモデルを含めて従業員に積極的に発信・対話し、共感や納得感を得ていく取り組みを進め、定期的な状況を把握していく必要がある。特に企業と個人との間の情報に非対称性をなくし、情報をオープンにしていくことが、個の自発性を後押しすることにつながる」。レポートにはそう記されています。

コロナ禍でリモートワークが進展する中、会社への帰属意識も薄らいで人材の流出が懸念される、わが社の取引先商社の正に取り組む課題がこれです。会社の存在意義や目的意識を、これからどう社員に伝え育成していくか、経営陣が新たに取り組む課題です。本来社員は一人一人の個です。その個の人材と会社の関係において、お互いに選び合い応え合う関係を都度創っていかなくてはなりません。その意味では会社側からの一方通行ではなく、受け止める側の従業員エンゲージメントの度合いが重要になってきます。

さて、わが社の場合です。「企業と人材」の問題は大手企業だけのもではありません。むしろ中小企業の生き残りをかけて、ますます大切になってくるでしょう。私の後の社長が就任して、2年8カ月が過ぎました。来56期がスタートする7月に向けて、従来からあるわが社の、経営理念、社訓、ビジョン、など私と社長とで対話を重ね見直しています。次回は、それらを含めた、企業と人材の話をしたいと思います。  ~次回に続く~
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企業と人材(その1)

2022年05月07日 05時19分06秒 | Weblog
過日、取引先の鉄鋼商社の方が来社されました。先方の担当者は、私が社長時代からの長い付き合いの方でしたので、わが社の社長とともに私も同席いたしました。先方の担当者から、鉄鋼商社としても今後取り組む二つの大きな課題があるとの話しが出ました。

一つ目は、鉄鋼メーカー自体が脱酸素を目指す中で、商社も対応を迫られる。鉄鋼メーカーは、過去のような単に儲けられる注文を大量に受注する時代ではなくなってくる。先々メーカーも流通加工業に対して、脱酸素に積極的に取り組んでいく企業を選別せざるを得ず、その中間に立つ商社も、長い取引であるとか高い口銭が取れるとかで、販売先を選ぶことができなくなってくるとの話でした。

二つ目は、人材の流出。中堅の社員が退職して、異業種に転職していってしまう。新卒で採用し育成して、業界の知識も習得してもらって、突然辞めてしまうのは会社として大きな損失である。当然、その欠員を中途採用で確保しなくてはならない。何故か転職していく先は、コンサルティング業務が多く、高収入が得られ、それまでのキャリアも活かされるのではないかとのことでした。

人材流失の根底には、次のような要因もあると分析していました。コロナ禍で在宅勤務が主流となり、週4日出社する人もいれば殆んど出てこない人もいる。結果を出す社員にとっては、出社時間で判断される抵抗感や、上下の関係や横の繋がりも薄らいで、会社への帰属意識が薄らいでいる。上司が部下を評価するにも従来の基準が適応しづらくなっている。そもそも、会社の存在意義や目的意識をこれからどう社員に伝え育成していくか、経営陣は新たに取り組む課題となるであろう。そのような危機感でした。

雇用流動化と人材育成については、その取引先商社だけの問題ではないようです。二つの視点で新聞を追ってみますと、最近関連する記事が多く載っています。働く側からすると、雇用流動化(転職)はやりがいのある職場に活路が見いだせ、さらに収入増が見込めるのであれば加速します。雇用側からすれば、人材育成(確保)は事業を創り続ける上で企業の将来がかかっています。現在は、コロナ禍での働き方や、デジタル化や、脱酸素など、劇的な環境変化が起きていますので、この二つは相反しながら進むことになるのでしょう。

雇用流動化についてです。4月17日付日経新聞の第一面に、『ミドル転職 5年で2倍』との見出しの記事が載っていました。中高年の転職が活発になっている。41歳以上の転職者数は2022年までの5年間で2倍に増え、若い世代より伸び率が大きい。コロナ禍をへて企業が新たな成長事業の立ち上げを急ぐなか、経験豊富な人材への需要が高まっている。年功序列的な要素が強い日本企業では、国内の転職は「35歳が限界」といわれてきたが、その常識が変わり始めた。中高年への追い風は賃金にも表れ、50歳未満まで収入増が見込める。そのような内容でした。

当然この雇用流動化の広がりは、企業側の活発な中途採用活動の表れです。日経新聞には関連する記事が続きます。『中途採用、全体の3割超えに』の見出しです。日経がまとめた主要企業の採用計画調査で、22年度の中途採用は、新卒を含む採用計画全体に占める比率が初めて3割を超える。17年度までは10%台だった。デジタルトランスフォーメーション(DX)や脱酸素の需要が加速し、各社は即戦力である中途採用を重視する計画を強めている。テレワークの定着などもあり業務のDXは加速し、必要なスキルが目まぐるしく変化する職種では、新卒の育成よりも中途採用に軸足を移す動きが広がる。との主旨でした。

更に別の記事です。経団連の21年の調査では、5年程度先の見通しとして新卒採用の割合を減らし既卒者(中途採用)を増やすとした企業は43%。AIなどの専門人材の確保については、6割超の企業が「主として即戦力の外部採用」か「社内育成と外部採用を同程度」にするとした。デジタル化の加速が、新卒一括採用を標準としてきた日本企業に人材戦略の見直しを迫っている。新卒と中途が混在する多様性の高い組織には、勤続年数や社内歴に基づく評価システムはなじまない。優秀な人材を獲得するには「人主体」から「仕事主体」へと人事制度全体を刷新する必要がある。との主旨でした。

正に取引先の鉄鋼商社の方の話しを裏付ける記事でした。一方人材育成については、世の中では22年を「人的資本投資の元年」と位置付ける動きがあるようです。それについては次の回に譲ります。   ~次回に続く~
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