梶哲日記

鉄鋼流通業会長の日々

新たな仕事(その9)

2023年11月04日 06時08分44秒 | Weblog
「新たな仕事」のテーマで書き始めて、9回目となります。後2~3回で、その施設の利用者や職員、この仕事をする上での資格、そして自分の今の心境、などを書いてこのテーマを終わりにしたいと思います。

前回も書きましたが、私が働いている施設は24時間の入所式の重度障害者用ではなく、自宅やグループホームから利用者さんが通ってくるデイ介護施設です。映画『月』のような人里離れた場所で個室(密室)があるような施設ではなく、ここは街中にあり利用者が一同に介する明るいフロアがある施設です。

利用者は、身体、知能、精神に障害がある方達です。ハンディによって、ひとり一人行動力も表現力も違ってきます。自力で歩ける、杖を使えば歩ける、常に車椅子を利用する、方々。普通に話せる、話せるけれど支障がある、全く話せない、方々。生まれつきではなく、ある年齢で突然障害を負った方もいます。医者の指示で精神安定剤を常用されている方もいます。従って職員も、個々の利用者さんへの対応は異なってきます。

ある利用者さんの話しです。その方は「O」さん、男性で40歳前後です。毎月施設では誕生会を開きます。利用者と職員の誕生月を祝う会です。そのOさんの誕生会の最後、司会役の職員から「Oさん、写真を撮るのでマスクを外して笑って下さい!」と声が掛かると、Oさんは満面の笑いを作り出したのです。私はOさんの笑顔を初めて見ました。

Oさんは表情が硬く、話す言葉も早口で何回も繰り返すので聞き取れませんでした。話そうとすることを紙に書いてもらうと、しっかりと書いてくれます。しかし書く内容が消極的です。例えば、「酒やタバコをやるとサタンがつきまとう」とか「ストーカー行為をすると地獄に行く」。彼は、酒やタバコはやらないそうですが、好きな女性タレントはいるとのこと。能力

施設の代表に尋ねると、Oさんのお母さんが厳しい人のようです。夜間家を抜け出して警察に補導されたり、長いこと精神科の病院に入院させられたり、そんなこともあったようです。そんな彼をお母さんは心配して、時に強く彼を威圧・抑制するようです。私は誕生会の翌日、Oさんに提案しました。「会った時マスクを外して、お互いに笑顔を作りましょう!」。Oさんは、毎回応えてくれるようになりました。

それから暫く経って、レクリエーションの準備の作業中、Oさんは突然笑い出しました。今までにないことです。利用者さんを車で送って行く時、彼は盛んに私に話しかけてきました。早口で理解出来ませんので、「指を一本一本折るようして、一語一語話してみて」と話すと、実行してくれて、聞き取れるようになりました。しかしそれも束の間、また機関銃のような早口に戻ります。その繰り返しが続きます。

もう一人の利用者、女性で50歳半ば「K」さんとのやり取りです。Kさんは立って歩けますが、大人になって発病して、軽い記憶や身体障害が残ります。会話は普通にでき、むしろ積極的に私には話をしてくれます。新米の私としては、利用者さんの言うことに極力応えようとします。

やはりリクレーションの準備の作業中、Kさんから「梶さん、この色鉛筆を削ってきてくれますか」と、声が掛かりました。私は「はい分かりました、今取りに行きます」と答えかけた途端、ベテランの職員さんから「Kさん、あなたは自分で歩けるのですから、自分で削りに行って下さい!」と、たしなめられてしまいました。

私に対しての助言の言葉なのだと、はっと気付きました。自立できる人は余計な支援をしてはいけないのです。代表は言います、「親としては、自分たちが死んだ後のことを考えると、子供には少しでも自立・自活することを願っている」と。Oさんのお母さんは、このような憂いから、息子に厳しくいうのかもしれません。

しかしです、当の子供にとって威圧や抑制が過ぎると、マイナスイメージが刷り込まれ、萎縮してしまいます。家族(またはホーム)と介護者と場合によっては掛かりつけ医とが、個々の利用者の方を包括する支援が必要となります。ここの施設でもその努力は重ねています。月一回行われる職員による会議で、「利用者さんに対する気付き」をテーマに熱心に話し合われます。   ~次回に続く~

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