馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

1歳馬410kgの尺骨骨折

2019-04-24 | 整形外科

この1歳馬、どうやら他の馬に蹴られたらしい。

肘の骨折部の皮膚にわずかな傷があった。

2月生まれで410kgある大きな1歳だった。

当歳馬の尺骨骨折は生産地では毎年のようにお目にかかる。

変位していなければ、温存で大丈夫なことが多い。

しかし、馬が大きくなると上腕三頭筋の牽引も強力になり、立っている時間も長くなる。

当歳馬の尺骨骨折が、温存でも手術でも治りやすいからと言って、あまく見るとたいへんなことになる。

                    -

9孔のナローLCPを使うことにした。

ナローのDCPの8孔・9孔が在庫がなかったのだ。

そして、DCP固定よりLCP固定の方が強度に優れている。

頑強な固定ができれば、早く痛みもとれるはず。

近位部に3本。遠位部に3本。そして骨折線を貫くように3本screwを入れるよう考えた。

骨折線を貫くscrewはlag法でいれても良いが、position screwとして入れても良い。

プレートの1箇所に力がかかるのを分散してくれる、はず。

                    -

近位から3つ目のscrew holeに5.5mm皮質骨screwを入れた、が完全には締めない。

遠位から3つ目のscrew holeに4.5mm皮質骨screwを入れて、compressionをかけた。

近位部は外側へ変位していたのだが、外から押し付けておいてcompressionをかけたら、うまく密着してくれた。

                    -

骨折線を貫くように5.5mm皮質骨screwを入れた。

あとはLocking Head Screwを4本入れた。

尺骨骨折のプレート固定では、とくにLCPにLHSを使う場合は、screwが尺骨からはみ出さないか注意が必要。

そして、7ヶ月齢を過ぎていたら橈骨の尾側皮質をscrewが貫いていて構わない。

しかし、橈骨の頭側皮質にはドリル孔を開けない方が良い。

橈骨の強度が落ちてしまう。

                                       -

成馬(この馬は1歳だが)の上腕三頭筋の牽引力は強大。

ナロープレートにその力が繰り返しかかると勤続金属疲労で折れてしまう。

骨折の形状にもよるが、プレートの破損を防ぐ固定が必要。

                 //////////////

 重機でカシワ林の中に造られた切通し道。

このあたりの山が、火山灰地でできていることがわかる。

そして、大きな樹がならんだ林でも、樹も笹もわずかな表土だけで生きていることが見て取れる。

削っちまったら、簡単には再生しない。



2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (はとぽっけ)
2019-04-24 06:14:38
 LCPのほうが値段は高いのでしょね。
 血流保持もLCPのほうが優れているし、よりよく早く治るといいですね。
 きっちり骨に沿わせなくてもいい、というのは本当ですか?どの程度?とか気になったり。
返信する
>はとぽっけさん (hig)
2019-04-24 18:45:50
LCPは27000円くらい、DCPは8000円くらい、皮質骨スクリューは2000円ほど、LHSは4500円ほどです。

LCPは骨に押しつけなくても良い、ということになっていますが、骨から離れているほど弱いと思います。で、皮質骨スクリューを入れてからLHSを入れるか、プッシュデヴァイスで押しつけておいてからLHSを入れます。しかし、LHSはネジ山が小さいので、とくに骨が柔らかい若齢馬・牛では注意が必要だと感じています。
返信する

コメントを投稿