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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

胸下血腫切開後の肉芽創切除

2017-11-21 | その他外科

この1歳馬は、生産牧場で胸下にできた血腫を、2回切開したそうだ。

しかし、大きな肉芽ができてしまった。

一部は化膿しているらしい。

血腫の切開は良く行われることなのだが、

この部位は、伏臥すると汚れる箇所だし、包帯もできないのでこじれたのかもしれない。

プロポフォール点滴の全身麻酔で仰向けにして、

切除して縫合した。

途中で膿瘍を破ってしまったし、テンションが強くなったので、開いてしまうかもしれないと思ったが、癒合したそうだ。

内層は、0 monocryl で十字縫合した。

十字縫合。よく外科の成書や文献に出てくる。

ちょっと複雑になるが、抗張力が強く、お勧めです。

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絶対悪いヤツだと思ってしまうが、良く観るとかわいさもあるかも。

人は外見で判断してはいけない。

ヒトじゃないし・・・・・・・

 


オホーツク青年獣医師会 子牛の骨折内固定講習

2017-11-20 | 講習会

オホーツク青年獣医師会に呼んでもらって、北見へ子牛の骨折プレート固定の講師に行って来た。

夜中から激しい雨と風。

元山岳部員としては認めたくないのだが、最近わたしはすっかり雨男。

休みでも出張でも、でかけようとすると天気が荒れる;涙

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菱形をした北海道を斜め横断するので、北見まで300km。

講習会だけかと思っていたら、午前中は症例検討会も開かれていた。

途中からしか聴けなかったが、腰椎が化膿した症例で神経学的な検査をきちんとしていたり、

門脈シャントの子牛を生前診断していたり、

4胃穿孔を腹腔洗浄してかなりを助けていたり、

心雑音がない心内膜炎を超音波診断していたり、

とてもレベルが高く、感心した。

また、どれも個体診療の発表だったので、外科手技の講習をしに来た者としてはちょっと安心した。

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午後が私の受け持ちで、子牛の骨折をプレート固定で治す方法を説明した。

キャスト固定ではうまく治らない症例があるのは皆さん経験済みのはず。

どうしてプレート固定なのか?

骨折治療の理念、原則とは?

そして、それを実現するための具体的な方法は?

それに必要な器具・器材は?

実際の症例はどんな風か?

を2時間ほど説明した。

そして、あとの1時間半は、解剖体でプレート固定のデモと体験をしていただいた。

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会場はオホーツクNOSAIの本部で、手術室も完備されている。

私はドリル本体を忘れていく大失敗をしたのだが、ドリルを借りることができて救われた;笑

オホーツクNOSAIが合併した10年前に新築されたそうで、立派な建物であり手術室だった。

あちこちで”青年獣医師会”が活動している。

地域によって活動の仕方はいろいろで、獣医師会やNOSAIとは一線を隔しているところもある。

オホーツクはNOSAIそのものが全面的にパックアップしているようだった。

「青年」獣医師会なので、どこでも年齢制限している。

オホーツクは35歳までだそうだ。

40歳にしているところもあるし、年齢制限をあげても「3名しかいない」と聞いた地区もある。

オホーツクは若い獣医さんが多いのだ。

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青年たちだけが集まって活動しよう、というのには理由がある。

日ごろ年配者たちから”指導”してもらっていても、それはありがたいことばかりではないのだろう。

若い人たちの方が、純粋で、革新的で、活力があるのは、どの業界でも同じことだ。

年齢制限するのは「逆差別だ」と言った獣医さんも居たが、

それなら獣医師会を作って「経験を積まないと入れてやらない」って集まって勉強すればいいんだ;笑

シニア獣医会は高齢獣医さんの集まり?

それじゃあ、壮年獣医師会とか、プレミア獣医師会でどうだ!?

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さて、今回の講習会の成果は?

オホーツクから、骨折した牛がプレート固定で治った、という話が聞こえてくるのを楽しみに待ちたい。

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お泊りは温泉旅館だった。

こんな部屋に泊まるのは久しぶり。

ビジネスホテルより良いかも。

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翌日は、私は移動日で休み扱い。

水族館好きとして、「山の水族館」は前からぜひ訪ねてみたかった。

渓流魚を中心に、自然を再現しながらの展示がされていた。

川で釣りの対象にしている魚が多く、説明文が手書きで親しめた。

ミツヅノコノハガエルは、水槽の周りを回ってどこに隠れているのか探していたら、

小さい男の子が、「あそこに居るよ」と教えてくれた。

「お~!よく見つけたね!」とほめたら、得意げな嬉しそうな顔。

カエル好きがまた増えたな。

牛臨床家に整形外科好きを増やすためのヒントかもしれない;笑

 


直腸膣瘻と第3度会陰裂傷

2017-11-16 | その他外科

ことしはどういうわけか直腸膣瘻や第三度会陰裂傷が多い。

セリで売れ行きが好調だったので、以前なら処分されていた馬が、治して種付け、となっているのかもしれない。

第三度会陰裂傷の修復でも、直腸膣瘻の修復でも、この直腸壁と膣壁の切り分けがたいせつ。

そして直腸壁と膣壁を別々にしっかり閉じて、左右の壁を貼り合わせるのだ。

新鮮創を出して縫合しておけば癒合する、などというものではない。

腸管壁、膣壁という性質の異なる組織を、その性状にあった糸の運びでしっかり縫わないと癒合しない。

直腸から糞汁が漏れたら癒合しないし、直腸便のテンションに耐えられるように丈夫な膣壁を再建しないと傷が開いてしまう。

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直腸膣瘻での切り分けは、もっと複雑で難しい。

切り分けると、直腸壁と膣壁にそれぞれ穴が開いた状態になる。

(その途中にどうなるか、想像できるかい?)

切り分けさえ終われば、それぞれの穴をしっかり閉じれば良いわけだ。

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私は牛の第三度会陰裂傷を縫合したこともある。

若いときに2頭、往診して縫合した。

牛地帯の獣医さんに、牛の第三度会陰裂傷や直腸膣瘻はどうですか?

と何度か訊いたことがある。

「こうやって治します」としっかりした答えが返ってきたことはない。

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むかし、漁師がおそれた海坊主って、こんなヤツだったんだろうね。

 

 

 


顔面崩壊のプレート固定

2017-11-16 | 整形外科

当歳馬が牧柵に激突し、顔を陥没骨折した、との相談。

今年は晩秋になっても手術予定がびっしりで、午前も午後も吸入麻酔をかける手術で埋まっている。

夕方から手術しましょう、ということで来てもらった。

X線画像では、陥没箇所は広くないと思っていた。

一部分が深く陥没したのだろうと・・・・・・

しかし、考えが甘かった。

すっかり割れて、陥没するだけではなく、立ち上がっている骨片もあった。

骨折してから2日目なので、血腫になっていて、皮膚は陥没していないだけ。

血腫の下では骨は広範囲に陥没していた。

損傷範囲も広い。

眼窩縁も割れて落ち込んでしまっていた。

なんとか、できるだけ持ち上げて、いつものように1/3円スモールプレートで留める。

8穴と9穴のプレートを使った。

4.0mmキャンセラス(海綿骨)スクリューで骨片がふたたび落ち込まないように留める。

筋肉はない部分だが、皮膚にはしっかり血管がある。

傷が治り、骨が固まったらプレートとスクリューは抜く。

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扉のところで、この馬は止まったのに、後ろからぶつかられたらしい。

上り坂になっているのに、とのこと。

あとは扉のつくりをもっと太くて軟らかいものにするか、周辺にクッションでも付けるしか方法がないかも。

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君は顔も膨らませるのかい?

dog puffy。犬の顔をしたフグ。だそうだ。

そいうわれるとポインターの顔に見えなくはない。

 


弁膜症

2017-11-14 | 馬内科学

馬の心臓をテーマにした先日の講習会。

その後、心雑音がある繁殖雌馬の心臓超音波検査を頼まれた。

大動脈弁の異常のようだった。

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今日は、心雑音がある1歳馬の心臓超音波検査を頼まれていた。

初診をした先生もすでにポータブルの超音波装置で、弁に異常があることを確認していた。

お見事!

左側で心音を聴くと異常は感じない。

しかし、右側で心音を聴くとひどい収縮期雑音。

馬の弁膜症は左側に多いのだが・・・・・・

今日の1歳馬は右の房室弁に大きな塊がついていて、弁も肥厚し、収縮期に閉じずにひどい逆流があり、弁先が心房側へ逸脱していた。

とても競走馬になれそうにないので、そのまま剖検することになった。

心臓は弛緩。右心が肥大している。

右房室弁には超音波で観たとおりの大きな疣がついていた。

弁の肥厚。

切り取った膿瘍となった塊。

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馬医者がより丁寧に心音を聴くようになれば、今以上に心疾患が見つかると思いますよ。

手前味噌ながら、たいへん有意義な講習会だった。

講師先生に感謝。

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小樽には赤岩と呼ばれる岩場があり、北海道一のロッククライミングの練習場になっている。

大学の山岳部員だったとき、6月や9月には練習に出かけた。

雨が降ると岩登りはできないので、散策路を歩いて、小樽水族館へ行った。

19歳だった私は、そこでこいつに会った。

そして、「絶対オレよりこいつの方が偉い」と思ったのだった。

どうしてだかわからない。

でも、水の中で会ったら、ぜったい敵わない。と直感したのだ。

戦うとかいうのではなく・・・・存在感かな。