馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

獣医麻酔外科学会札幌2015

2015-12-23 | 学会

先週末は札幌で獣医麻酔外科学会秋季学会だった。

今年は暖冬とは言え、12月の札幌は秋じゃないよね。

防寒具も特殊なものが必要だ。

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5年に一度、北海道札幌で開催される。

北海道でやるときには、北海道獣医師会会員も麻酔外科学会員扱いでどうぞ参加してください、ということになり、

大動物をテーマにしたセッションが企画される。

今年は、牛の「長骨骨折」「輸液」「麻酔」が企画され、ずいぶん牛臨床家の参加があった。

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USAでも獣医外科学会が毎年開かれていて、大学の先生、レジデント(専門医研修生)、インターン、獣医外科医達が集まる。

small animal、equine部門は発表数が多く、たいへんな盛り上がりを見せるらしいが、プログラムを見る限りfood animal は発表数も少なく、

セッションや教育講演もほとんどない。

USAでは、牛はもう外科や麻酔の対象ではなくなっているのだろう。

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肉畜生産も酪農も数千頭規模で行われているUSAとちがって、北海道でも牛1頭1頭は外科手術の対象になっている。

開腹手術は1万件以上行われているのではないだろうか。

キシラジンがよく効く動物とは言え、麻酔についても改良・改善の余地があるだろうと思う。

北海道獣医会の学会とは異なり、麻酔外科学会では教育講演やシンポジウム形式が中心になる。

これから大動物獣医師も麻酔外科学会に参加して勉強できるようになれば良いなと思う。

   

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私は、牛と馬の骨折プレート固定について講演した。

さて、牛の骨折プレート固定は普及していくだろうか・・・・?

若い臨床家の意欲、ベテラン臨床家の懐の広さ(精神面と予算;笑)が鍵かな;笑

大学では大動物のプレート固定も教えなきゃダメだね。

そうなればいずれ卒業生たちが、大学へ骨折牛を送ったり、臨床現場で骨折プレート固定をやるようになる。

小動物外科では習ったけど、大動物ではそんなことやってないって言われました、じゃ情けないでしょう? 

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帰ってきた翌日は、

午前中、第三度会陰裂傷の再建手術。

午後は獣医師会の役員会があり、

途中で帰ってきて、育成馬の副鼻腔蓄膿の円鋸手術。

夜は職場の忘年会。

当番だった私は途中で呼び戻されて黒毛和牛の反転性裂胎の帝王切開。

私は牛の帝王切開を執刀したのは10年ぶり以上だ、たぶん。                    


北海道生活への不満

2015-12-16 | 日常

神戸生まれで、大阪育ちの私。

北海道で暮らすことにして何の不満も不自由もないのだが、

唯一、うまいうどんを食べる機会が少ないことは残念だ;笑。

先日、長沼町を通りすぎたついでに評判のうどん屋へ寄った。

ほくほく庵。

こんな風景の中にある。

道案内の看板はなく、町外れだし、目立つ建物ではないので、調べていかないとたどり着けない。

なかなか雰囲気よろしい。

ただし、休日の昼はかなり待たされるようだ。

畑を眺めながら食べた天ぷらうどんはなかなかおいしかった。

北海道でも、ラーメンや蕎麦じゃなくても、街中じゃなくても、おいしければ人が集まり繁盛するんだね。

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学生のころ、帯広にさぬきうどんの店ができて、ときどき食べに行った。

東日本の黒いだし汁ではなくて、関西風のつゆで、うどんはコシがあって気に入っていたが、すぐ潰れてしまった。

だから、北海道の人はうどんよりラーメンや蕎麦を好み、うどんのうまさを認めないのだろうと思っていた。

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今朝は、入院馬の輸液チューブがはずれて、4時22分に呼ばれた。

年寄りは朝は早いので大丈夫;笑。

今日は、診療は去勢だけ。

午後は血液検査と細菌検査。

ずっと午前も午後も続いてきた手術もひと段落。

ぼちぼち大掃除シーズンだ。

・・・・でも週末は麻酔外科学会だ。

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投稿していた症例報告が採用されたとの連絡。

編集委員、2人のレフリーに手直ししていただいて、ずいぶん良くなったと思う。

ありがたいことだ。

感謝。

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どうちゃんがあたらしいボールかってくれた

なかなかかみごたえあるゾ

「食べ物じゃありませんからっ!」

 

 

 

 

 


師走の金曜日のいろいろ

2015-12-12 | 歯科・口腔外科

当歳馬の前肢の跛行。

直線常歩でDyson Grade 3/8

左周りは 4/8

右周りは 2/8

直線速歩は 4/8

蹄尖を引きずることもある。

たしかに、左前肢の近位部の痛みのようだ。

全身麻酔して肩関節の大型x線撮影をした。

肩甲骨関節縁の尾側に変形と小さな欠損が見つかった。

離断性骨軟骨症とそれによる変形性関節症だ。

念のため、そして比較のため、右肩関節も撮影するが異常なし。

毛刈して、消毒して、関節液を抜いて目視で検査して、指先で粘度をチェックして、ヒアルロン酸を関節内注射した。

あとは安静にしてもらう。

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続いて1歳馬の喉の内視鏡検査。

もう1頭、咳をする競走馬の喉の内視鏡検査。

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午後は、1歳馬の去勢。

繁殖雌馬の歯の治療。

電動歯やすりは、もう10年以上使っている。

消耗品のディスク以外は壊れもせず、重宝している。

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こ~んな壁紙(パソコン用でもホントの家の壁紙でも)どうでショ?

風呂の内装パネルにもいいかも。

 

 


盲腸亜全摘

2015-12-10 | 急性腹症

今月に入って関節鏡手術やプレート除去やTiebackが午前も午後も続いている。

私は8日が休みだったが所用で札幌へ行って、5時間近く立ち話を聞き、日帰りした。

きのうもTiebackと関節鏡手術左右両方。

今朝も関節鏡手術、そして繁殖雌馬の開腹手術。

盲腸のかなりの部分が壊死している。

盲腸尖側は完全にもうダメだ。

浮腫性の肥厚は盲腸底側へも続いているが、まだ希望はあるかもしれない。

盲腸の亜全摘をした。

7年前に空回腸の切除と空腸盲腸吻合を受けた馬。

とても良い経過だったと言えるだろうが、どうやら今度は小腸が盲腸に巻きついたらしい。

さて、人事を尽くして天命を待つ。

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  ワシがいつもの樹に停まっていた。

オジロワシかな?

今年は今のところとても暖かい。

このあたりは雪も積もるほどは降っていない。

 

                       

 


葉状条虫の駆虫を!

2015-12-05 | 急性腹症

繁殖雌馬が疝痛、発熱、脱水を示し、開腹手術したが腹膜炎を起こしていてあきらめた。

剖検したら盲腸に壊死した部位があった。

回腸が盲腸につながっている部分に近い箇所だった。

盲腸に近い回腸もひどく太くなり、また厚さも厚かった。

葉状条虫症だろう。

葉状条虫は回盲部と呼ばれる回腸が盲腸につながっている部分を好んで寄生する。

その部分の粘膜が糜爛し、腫れあがる。

通過が悪くなるので、内容を押し込むために回腸は筋層まで肥厚し、そのことでさらに通過が悪くなる。

盲腸の粘膜は浮腫性に肥厚することがあり、なにかの拍子に穿孔する。

分娩がそのきっかけになることも多く、お産の事故のように思われるが、実際には盲腸に大量の葉状条虫が寄生していることが多い。

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葉状条虫は、ササラダニなどのダニが中間宿主で、馬がそのダニを食べることで感染する。

おそらく、長年、馬を飼い続けている放牧地には葉状条虫を寄生させたダニがわんさか増えているのだ。

野焼きをして古い草やダニを焼き殺す機会があればいいのかもしれないが、馬の放牧地は牧柵に取り囲まれているし、今は消防もうるさくて野焼きなどできない。

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盲腸破裂による腹膜炎で死亡した繁殖雌馬の糞には大量の葉状条虫卵が含まれていた。

62EPG。

EPGとはeggs per gram。つまり、1gに62個の卵が含まれていることを示す。1kgだと62,000個。

馬は1回に1~2kgの糞をする。1日だと14~23kgとも言われている。

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以前、イギリスの大学の先生に日高の馬の血清を送って、血清中の葉状条虫への抗体を測定してもらった。

あまりに測定値が高いので、何度も測りなおしたそうだ。

ヨーロッパでは考えられない値だったそうだ。

葉状条虫の被害が出ている牧場、あまり駆虫していない牧場の馬は全頭が高い値だった。

よく駆虫をしている牧場では、中には抗体が高くない馬が居る、という結果だった。

馬の密度が高い放牧地の事情、湿潤で暑い夏、などの要因で日本の馬の放牧地は葉状条虫を持ったダニに濃厚汚染されているのだろう。

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ダニといっても吸血するダニや、目で見え易い大きさのダニではない。

葉状条虫の卵は、顕微鏡で観ると三角形や角のない四角形やドーム状に見える。

底が四角いドーム型をしているので、角度によって形が変わるのだろう。

よく観ると中に六鉤幼虫と呼ばれる葉状条虫の仔虫が見える。

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夏がダニの活動期で、それを青草と一緒に馬が大量に食べているので、秋から初冬は葉状条虫の駆虫適期だ。

年に数度は葉状条虫に効果がある駆虫(エクイバランゴールドorエクイマックスなどプラジクワンテルが入った薬)をしないと、葉状条虫の被害が出る。

盲腸破裂で死ぬか、

回盲部重積や閉塞で疝痛を起こすか・・・・・

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この秋、伐採作業。

林野作業もなかなかスペシャルな知識と技術が必要な奥が深い分野のようだ。

私にはこのくらいの太さの樹が限界だ。

まあ、(樹を)折るより(骨を)くっつける方が難しいと思う;笑。