朝、体中を擦りむき、心拍は90で、口粘膜はチアノーゼという状態になっていた2歳馬。
来院すると、血球計数装置ではPCV89%(遠心法では73%だった)、乳酸値は2.4mmol/l、
白血球数は4900/μl。
超音波検査では腹水の増量と、小腸の膨満像が観察できた。
しかし、十二指腸は膨満していない。
すこしバタバタしたので鎮静剤を投与したら口粘膜のチアノーゼはさらにひどくなった。
何だ?
小腸閉塞からの胃破裂は頭に浮かぶ。
あるいは突然の胃破裂。
しかし、それにしては馬は呆然佇立には意識がしっかりしていて、白血球数もひどく低くはない。
胃破裂して時間が経っていないから白血球数がこの程度でとどまっているにしては、馬は疝痛を起こしてから時間が経っているように見える。
何時間も小腸閉塞で苦しんで、小腸全部が膨満して胃拡張を起こして破裂したにしては、腹部も膨満しておらず、膨満していない小腸も超音波で見えた。
何だ?
大腸の破裂や穿孔は胃破裂と同じかそれ以上に急激な腹膜炎を起こすことが多い。
おそらく大腸には細菌をたっぷり含んだ内容がいっぱい入っているからだ。
こういう状態だと、腹水を採って腹膜炎を確認しても解釈や予後の判断に手間取るかもしれない。
それに時間をかけるより、助けられる可能性があるのは開腹手術することだ。と考えて、すぐに開腹手術した。
が、
腹腔はかなり汚染されているようで、あきらめた。
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(解剖の写真です。見たくない人はクリックしないでください。)
剖検では、回腸に孔が開いているのがすぐに見つかった。
小腸の穿孔だと、内容が胃酸を含んでおらず、また大腸に比べると菌数がはるかに少ないので腹膜炎の起こり方がすこしマイルドな気がする。
しかし、腹腔内には腸内容がべったり張り付いていて、これではやはり助からない。
(右も解剖写真です。見たくない人はクリックしないでください。)
写真の右側が盲腸。
左側が回腸。
境目が回盲孔と呼ばれる部位だが、葉状条虫がわんさか寄生している。
おそらく葉状条虫が回腸にも食いつき、回腸の憩室を食い破ったのだ。
葉状条虫が多量に寄生すると、回盲部が閉塞したり、重積を起こしやすいので、そうなってから穿孔したのかもしれない。
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葉状条虫は、イベルメクチンなどの線虫に効く駆虫薬では駆虫できない。
今、馬の葉状条虫に効果を示すのはプラジクワンテル(エクイマックスやエクイバランゴールドに含まれている条虫駆虫剤)か、パモ酸ピランテル(ソルビーシロップ)を多く与えることだが、
確実なのはプラジクワンテルで駆虫することだ。
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とうちゃんはときどきオラをおんぶしてくれる
でも、これは何かたくらみがあるんだ
このまま川の深みに連れて行かれるか
オラが登れない岩山を乗り越えるつもりか・・・・
気をつけないと
アブナイ
開腹前に小腸の病変に思いあたれるか。知識と経験と検査技術の組み合わせの情報の3D理解力が問われますね。どれかひとつだけでも、駄目ですし。三本の矢のお話を思い出しました。今年は紫陽花がことのほか早くに今までになく満開です。気候の変動を感じます。ササラダニの動態にも影響あるのでしょうか。
ところで、こんなに大きな彼だったのですね。
疝痛の診断はいつも総合診断であり、想像力を必要とします。そして、何かひとつの鍵が確証であったりもしますが、たいていは探査的開腹手術になります。
日本の生産地の馬はヨーロッパの馬よりはるかに葉状条虫抗体が高いようです。ササラダニも濃厚なのでしょう。
放牧地の糞便を拾うことは効果があるだろうと思いますが、たいへんな手間です。
現在35kgです。けっこうきますよ。
おんぶは嫌いではないようです。背中を向けると肩に手を置いてきますので、あとは立ち上がるだけです。
アブナイ所へ連れて行かれそうなときは飛び降ります。ので、そうしないときはまんざらでもないようです;笑。
救助され犬。ですね。被災地でも癒し効果を発揮できればいいのですが。
犬をおんぶしている人の写真は、子供の頃、本で見たムツゴロウさんの以来です!・・・たしか秋田犬のグルだったように思いますが…いいな~~☆^。^
・・・私もじつは(ムツゴロウさんの写真に憧れて)トライしたことがあります^^;うちの犬は大きさは問題なかったと思うのですが、キャン!と飛び降りてどうしてもできませんでしたーー;「いえいえそんな、乗るなんてめっそうもない!」という感じで。古風な頭のかたい犬だったのか、抱っこはできたのですけれども。。。
喋れない馬の診断は推理的な要素が人よりおおきいと思います、いろいろな検査手段と広い知識ふまえて正しい(推理)診断をしなければならないと思います(hig先生に教えていただいています<(_ _)>)が、切実な一方、知的面白さもあるように思います^^
なかなか奥ゆかしいワンコだったのですね。
診断はまさに推理ゲームだと思いますが、けっこうはずれますし、正解が得られないときが勝ち(治癒)となることが多いですよね。