鼠径とは・・・哺乳類の下腹部の下肢に接する内側。股(もも)のつけね。--広辞苑。
鼠径管とは・・・鼠径部の鼠径靭帯内側半部の上を靭帯に沿って斜めに内下方に向かって走る裂隙で・・・前壁は外腹斜筋の腱膜、後壁は横筋筋膜、上壁は内腹斜筋と腹横筋の線維、下壁は鼠径靭帯からなる。--広辞苑。
もちろん、これは人の鼠径についての説明。馬では若干異なっている。女性、雌では意識されることはほとんどなく、要は精巣が下降するための穴だ。
雄馬では、この鼠径管から腸管が脱出してしまうことがある。馬ではほとんどの場合、陰嚢内へ腸管が入るので陰嚢ヘルニアと同義語なのだが、まれに陰嚢に入らないこともあるのでややこしい。
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新生雄子馬も鼠径ヘルニアを起こすことがある。
まだ筋肉が発達しておらず、肢のつき方、使い方も定まらないので、鼠径ヘルニアを起こしやすいという一面もあるように思う。
脱出した腸管が陰嚢内の袋である総鞘膜を破っていないときは、腸管を押し戻して、また出てこないように当て物をしておしめのように巻いてしまうと、数日後には再発しなくなることもある。
しかし、この巻き方はなかなか難しい。
あまり締め付けると、ただでさえ弱い新生子馬は立てなくなってしまったりする。
総鞘膜が破れていて、皮下に腸管が触るような状態だとバンドを巻いて押さえるのはさらに難しいので、手術が必要だとされている。
手術するとなると、そちら側の精巣はとってしまって、鼠径輪を縫って閉じてしまうことになる。
両側の鼠径輪が大きいことが多いので、両側手術すると去勢馬ということになってしまう。
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切開してみるとやはり総鞘膜は破れてしまっていた。
腸管を押し込んで、こちら側は精巣を切除して、鼠径輪を縫って閉じた。
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片側去勢馬ということになってしまったが・・・そういう種雄馬もいるし、
幕末の偉人、勝海舟も「片キン」だったそうだ。
慰めにはならんか・・・・
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分娩後の繁殖雌馬の疝痛。
1歳馬の上顎の骨形成性線維腫の摘出手術。
2歳馬の球節の関節鏡手術。
当歳馬の肢軸異常。
夜、繁殖雌馬の結腸捻転。
入院厩舎に合計・・・・6頭。
犬の会陰ヘルニアも周囲に筋肉が多い割には再発が多くてメッシュを詰め物したりですとかいろいろ苦労されているようなのですが、鼠径ヘルニアの術後の再発例はあまりないのでしょうか。
牛の臍ヘルニアも色々締め付けバンドが考案されていますが、締め付ける害が多いです。
締め付けるとそれに対抗するように努責して腹圧は上昇するのではないでしょうか。
ヘルニア周辺を丁寧に保持するようにすると締め付けなくても治るのですが。
もちろん全てではないので、基本的に非観血的に治癒したヘルニアは幸運と思っています。
牛の鼠径ヘルニア聞かないですね。精巣下降のタイミングでしょうか。
1歳馬の上顎の骨形成性線維腫の摘出手術
とありますが、これはどのような症例で、何が原因で起こるものなのですか?
動物種によって多少構造が異なるようですね。鼠径ヘルニアも、直接ヘルニア、間接ヘルニアと分けられて・・・・となると話がややこしくなります。
当歳馬、1歳馬の上顎下顎にできることが多く、腫れにきづいてx線撮影すると、多胞状というか綿飴様というか異常な構造に置き換わっているのが発見されます。
おそらく歯の発生と関係した腫瘍だろうと思います。完全に摘出できれば治ることもありますが、再発しやすいです。
あまり聞いた事のない症例だったので、どのような事が原因なのか興味がありました。
これからの管理の中で、気を付けて行きたいと思います。
いつか紹介します。数多い疾患ではありませんし、予防はできませんが、早期診断早期外科手術すれば治せることがあります。