左は学術雑誌に載っているそのコマーシャル。
術創の感染は、獣医外科医も術後管理をする獣医師も気にするところなので、
これはいいかもしれない。と思った。
なにせ、菌を塗ったシャーレーの上にこの糸の切れ端を置いておくと、その糸の周りだけは菌が発育しないってんだから・・・・
(右)
効果絶大かと思いきや、そうでもないかもしれない。という研究報告が、
獣医学分野で指折りの権威ある学術誌 Equine Veterinary Journal に載っている。
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Difference in incisional complications following exploratory celiotomies using antibacterial-coated suture material for subcutaneous closure : Prospective randomised study in 100 horses.
皮下織縫合に抗菌コート縫合糸を使った探査的開腹手術後の術創のトラブルの差:
100頭の馬における計画的無作為研究
Eqine Vet J. 42 (4) 304-309, 2010
研究実施の理由:
術創のトラブルは、疝痛馬の正中切開による探査的開腹手術後の大きな問題である。術創の問題は不快感と入院の長期化と回復の遅れと治療費の増大を引き起こす。ゆえに予防方法の研究には正当な理由がある。
目的:
馬の正中切開開腹手術後に、皮下織の閉鎖に用いた抗菌剤(triclosan)コートされた2-0ポリグラクチン910糸の臨床的効果を調べること。
方法:
探査的開腹手術を行った100頭の馬をランダムに2群に分けた。対照群ではコーティングされた2-0ポリグラクチン910(Vicryl)を皮下織の単純連続縫合に用いた。調査群では、抗菌(triclosan)コーティングされた2-0ポリグラクチン910(Vicryl Plus)を用いた。
術後は伸縮性の粘着バンデージを巻いて、交換し、術創は術後24-36時間と6-9日に研究のプロトコールを知らされていない獣医師が評価した。
調査した項目は術創の疼痛、浮腫、包皮/乳房の浮腫、滲出、ヘルニア形成、癒合不全である。
結果:
抗菌コートされた縫合糸は100頭の馬で、術創のトラブルを減少させなかった。
結論:
100頭の馬の腹部正中切開創で、抗菌コートされた縫合材を用いることによる有益な効果は明らかでなかった。
潜在的関連性:
馬の探査的開腹手術の腹部正中切開創における抗菌コート縫合材の効果の欠如と、観察された望ましくない効果は、このような縫合材が恒常的に使われる前に、さらなる臨床的調査が必要であることを示唆した。
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う~ん、興味深い。しかし、メーカーにはショックな研究報告だろう。
皮下織ではなく腹壁に用いたらどうかとか、
外傷などの汚染した傷の縫合に用いたときにどうかとか、
他の研究や報告が待たれるところだ。
作家志望の者で、馬に関して検索していたら、こちらにたどりつきました。
先生の仕事への誇りや、自然の美しさ、馬のかわいらしさなどにすっかり魅せられて、目的を忘れて見入ってしまいました。
特に、「ねえちゃん」、「手術とスポーツ」、「手術と料理」は、興味深かったです。
図々しいとは思いますが、「質問に答えること」の記事に勇気をいただいて、一つだけ質問をお許しください。
古代の戦法に、「馬の腱を切って、機動力を奪う」というのがあるのですが、馬の専門家から見て、そういう戦法は成り立つと思われますか? 成り立つとしたら、どの程度の衝撃を与えればいいのでしょうか。
もし、お気が向かれましたら、お答えいただければ幸いです。
また、寄らせていただきます。
ネット初心者で、コメントもあまりしたことがないので、失礼があったら、お許しください
古代、にもよりますが、将を射んと欲すればまず馬を射よ。との言葉もあります。馬の肢は弱点だらけですので、歩兵が狙うことはあったかもしれません。しかし、日本では武将同士は名乗りを上げ1対1で戦うのを良しとしたので、馬を狙うのは卑怯とされたのでしょう。西洋の騎士が乗る馬は武装していますね。
そうですか。馬の肢は弱いんですか。
でしたら、槍のようなもので叩いても、折れてしまう可能性もありますね。
古代ゲルマン人の戦法にそういうものがあったらしいのですが、あり得るかどうかわからなかったので、助かりました。
こちらにうかがって、獣医さんのお仕事の尊さと難しさが少しわかったような気がします。先生に診ていだだけるお馬さんも、教えを受ける学生さんも幸せだと思います。
とても興味が沸いたので、お気に入りに登録して、毎日、寄らせていただきます。
これからも、よろしくお願いいたします。