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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

種牡馬の熱中症

2023-08-23 | 馬内科学

まったく今年のこの暑さはどうなってるんだろう。

8/22はこの夏でも最高気温が記録されそうな暑さだった。

暑い夏も、お盆が過ぎると涼しくなるのが北海道なのに。

朝から蒸し暑く、昼はかなりの熱で、夜になっても涼しくならない。 

            -

セリで診療はヒマ。

夕方になって種牡馬の疝痛の依頼。

痛みがひどく、鎮痛剤を投与しても治まらない、とのこと。

発汗したまま、おぼつかない足取りで馬運車から降りてきた。

PCV50超、乳酸値1.4mmol/l。

超音波検査で明瞭な異常所見なし。

体温39.2℃。

心拍60

呼吸は速くない。

熱射病か?

            -

水道ホースで水をかけて体を冷やす。

頚、脇、内股、そして背中も腹も体全体。

38.8℃になった。

輸液も始めた。

もちろん温めた輸液剤ではない

来院しても顔に表情がなく、ボーっとしていたが、そのうち顔つきが良くなり、あちこち見るようになった。

直腸温は38.6℃になった。

疝痛症状はない。

           -

日中、木陰もない放牧地に出されていたらしい。

何を思ったか走り回ったとのこと。

           -

「帰りましょう」

「水と塩を充分やって、涼しく過ごさせてください」

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生産地では、馬の熱射病、熱中症、heat stroke は疝痛として遭遇することが多い。

よろめく、呼吸促迫、心拍増加、発汗などで疝痛に見えるのではなく、前掻きし、滾転し、真性の疝痛症状を示す。

生産地では放牧されている馬に熱中症が多いので、青草を食べている。

熱中症で消化管の動きが鈍ると腸鼓脹が起こるのだろう。

あるいは腸閉塞に近い状態になっているのかもしれないし、

腸の虚血が痛みになっているのかもしれない。

いずれにしても、体を冷やし、循環血液量を確保し、脱水と電解質異常を補正してやる必要がある。

            -

馬の熱中症に注意してやってください。

日陰もない放牧地で過ごさせるのは暑すぎるかもしれない。

新鮮な冷たい水を与えてください。

塩は多めに!

北海道の放牧地も日陰林が必要かもしれない。

          /////////////

放牧されていた牛を60頭以上襲っていたヒグマOSO18が駆除されたそうだ。

痩せて、傷を負い、皮膚病も患っていたという。

姿を見せない、罠にかからないので、忍者グマと呼ばれたりしていた。

しかし、最期はハンターを見ても逃げなかったそうだ。

思うのは餌を採り、生きていくことのたいへんさ。

合掌。

 

 

 


馬の肝硬変

2023-07-07 | 馬内科学

繁殖雌馬が馬房で突然死した、ということで剖検。

飼い主さんによれば不調だったそうで、種付けもしていなかったとのこと。

剖検では・・・

肝臓は黄土色に変色し、小さく、硬くなっていた。

ザラザラした質感。

表面だけの問題ではなく、内部まで同様。

肝硬変だ。

馬の肝硬変にはときどき剖検で遭遇する。

特に高齢馬に多いというわけではない。

どうして酒も飲まない馬が肝硬変になるのかわからない。

もっともヒトでもNASH(Non-Alcoholic Steato Hepatitis ; 非アルコール性脂肪肝炎)は問題になっている。

肝臓に脂肪が蓄積することで肝臓が炎症を起こす。

そして、肝炎から肝硬変へと進行する。

             -

生前に見つけるとしたら、現実には肝臓の逸脱酵素値の上昇で気付くしかないだろう。

気付けば、超音波画像診断に進めるかも知れない。

確定診断は肝臓生検になるが、確定診断しても治療は難しい。

肝硬変にまで悪化していたら治癒は望めない。

             ー

私が学生の頃には、肝臓の逸脱酵素の検査項目として、GOT, GPT,  γ-GPT,  LDH などと習った。

しかし、かなり前からGOTはAST、GPTはALTと呼ばれることとなった

酵素の呼名が国際的に変更されたのだ。

私なんぞは、いまだにこのASTとALTになじめない。あ~ややこしい。

原語を知らずに略号 abbreviation を使うのは嫌なのだ。

まあ、新しい、国際的に統一された呼名を理解して覚えるしかない。

             ///////////

北海道はアジサイの季節。

 

 

 

 

 


完治しない胃潰瘍、そして肝障害

2023-04-11 | 馬内科学

その馬は、競馬場から不調で帰ってきた。

食べると軽度の疝痛を繰り返す。

絶食して来院してもらって、胃内視鏡検査をして、胃潰瘍を診断した。

PPI ;Proton Pump Inhibitor 治療をしてもらった。

          ー

しかし、ガストロガード(オメプラール製剤;代表的PPI)をやめると症状がぶり返し、

ガストロガードをやっていても疝痛を示すことがあった。

半年のうちに何度か来院を繰り返した。

          ー

血液検査で、肝臓由来の酵素が上昇していることにも気付いていた。

超音波で肝臓を観ようとしたが、肺に邪魔されて十分には観察できなかった。

しかし、肝内胆管の拡張があった。

          ー

半年を過ぎて、最後の来院では私が診たのだが、「もうあきらめた方がいいです」と最終宣告した。

おそらく十二指腸に狭窄か通過障害があり、そのことで慢性の胃潰瘍を起こす。

胆管開口部もダメージを受け、そのことで胆汁の排泄に問題があり、肝臓にも問題が起こっている。

なんとか生きては居るが、高い薬を続けなければならず、自由に食べるわけにもいかない。

それだけ治療と管理を続けても、痩せていて、繁殖供用もできないだろう。

          ー

別な牧場に移されて、死亡した。

やはり十二指腸にはひきつれたような狭窄があった。

胆管開口部よりは反吻側。

胃もふつうの形をしていなかった。

ヒダ状縁と呼ばれる最も胃潰瘍ができやすくひどくなりやすい部分でくびれている。

無腺部側は萎縮気味。

そのことで、ひょうたん型をしている。

十二指腸球部と呼ばれる部分は拡張していた。

そして、その反吻側にも二つ目の拡張部があった。

その反吻側で狭窄しているからだ。

胃炎と胃潰瘍はひどい。

胆管はひどく拡張していて、内膜は粗造だった。

胆管内には多数の胆石ができていた。

胆汁が排泄できず、胆管から逆流性に感染を受け、そのことで胆石ができたのだろう。

ひどい胆石症は以前にも長期経過を診たことがある。

           ー

現役競走馬の多くは胃潰瘍を持っている。

子馬とちがって徴候を見せることが少なく、特に治療をされないことも多いようだ。

しかし、十二指腸にも潰瘍ができると、それが狭窄の原因になってしまう。

ストレスフルな調教生活からときどき開放してやるとか、

馬本来の自然な飼養管理に近づけてやるとかが必要な馬も居るのかもしれない。

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林の中で、シラカバの風倒木がかかり樹になっていたので、チェーンソーで切って、引っ張り倒した。

使った牽引ロープは、これ。

スラックライン

難産の牽引にも・・・・・使えないか;笑

 

 

 

 

 


分娩後の不調を静観してはいけない

2023-04-06 | 馬内科学

早朝、入院馬を診に行こうと思っていたら、分娩2日後の繁殖雌馬の疝痛の依頼。

来るのに1時間半かかる。

入院馬は、前日の結腸捻転馬で軽症ではないがPCVも下がり、母仔で退院できそうだった。

カルテを記入していると、分娩7日後の繁殖雌馬の不調の診療依頼。

70超の先生、「何だかわからないんだよ」とのこと。

血液検査もしていない。

           ー

もうそろそろ1頭目の疝痛馬が来院する、という頃、分娩後5日後の不調の診察依頼。

39℃の発熱がある。

これは別の70超の先生、血液検査もしていない。

超音波?訊くまでもないだろう。

           ー

来院した疝痛馬は立っていられないほど痛い。

血液検査でPCV54、乳酸値6.5mmol/l。

結腸捻転だろう。

すぐ開腹する。

が、結腸の損傷はけっこうひどい。

内容を抜いて、捻転を整復するが、色調は完全には回復しない。

切開部(結腸骨盤曲)の粘膜も暗赤色で壊死を示していた。

結腸切除・吻合することにする。

切断部でも粘膜の色調はアズキ色。浮腫もひどい。

            ー

それが終わって、次の馬の開腹。

大網が空腸へ癒着した小腸閉塞だった。

空腸切除・吻合手術になった。

            ー

分娩5日後の発熱馬は午後1時に連れてきてもらった。

PCV65%。

右子宮角に穿孔が確認された。

開腹し、子宮裂孔を修復し、腹腔洗浄して腹膜炎の治療をするか・・・・

しかし、PCV65で口粘膜はチアノーゼ。

あきらめる。

剖検では腹腔内はひどい状態で、腹水は大量、黄色い塊になったフィブリンが析出し癒着が始まっていた。

もう1日か2日早く有効な治療を開始しないと助けられない。

           ー

分娩後の不調は静観してはいけない。

腹膜炎はないか?

腸閉塞はないか?

馬をよく観て、血液検査して、超音波で腹水を観て、遅れず診断しなければならない。

まず診断

私は獣医師になった頃、先輩獣医師に言われた。

当たり前のことなんだけどね。

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林の中の福寿草。

誰も見にはこない。

 

 


子馬の細菌性心嚢炎 成書から

2022-05-02 | 馬内科学

心嚢炎について、教科書にはなんと書いてあるか・・・

Equine Internal Medicine 3rd ed. 

PERICARDIAL DISEASE

英語では”心膜の病気”ということになる。

「心嚢」という心臓を包む袋、という日本語の概念と、

心臓表面の膜、それは袋状になってるけどね、という英語での概念と表現はずれている。

           -

心膜の疾患はまれに起こる、そして通常は心嚢液の増量と線維素性心嚢炎を引き起こす。

 心嚢炎と心嚢液の増量は特発性、細菌性、ウィルス性、真菌性、あるいは外傷性に起因するか、あるいは心臓や心膜の新生物に関連している。

中皮腫とリンパ肉腫が、馬の心膜を侵すもっとも多い新生物である。

心嚢ヘルニアが認められることがあるが、まれである。

すべての心嚢炎症例が感染性ではない、しかし他の原因が証明されるまでは感染性の原因が推定される。

Streptococcus spp. が最も頻繁に心膜炎で報告されている。

しかし、Actinobacillus equi, Pseudomonas aeruginosa, Pasteurella spp., Corynebacterium spp., Mycoplasma spp., そして他の微生物が分離されている。

馬インフルエンザと馬ウィルス性動脈炎が線維素性心嚢炎(流産に伴って)に関与した報告もある。

無菌性の炎症と好酸球性の滲出液が認められた報告もある。

ケンタッキーを中心とする心嚢炎の発生は毛虫が媒介することによるものだとされた。

しかし、剖検例と臨床例から主に分離されたのはActinobacillus spp. であった。

外力による胸部外傷や胃の異物による穿孔が心嚢の細菌感染につながることがある。

非感染性の心嚢炎の病因は不明だが、特定の状態では免疫介在性かもしれない。

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以上が、疫学的、病因学的、ないしは既報についての記載。

診断するコツは、

心音のくぐもり、あるいは遠さ、に気づくことと、

超音波で心臓も観てみること、

だと思う。

ただ、牛での金属性異物による創傷性心嚢炎を除けば、大動物臨床獣医師が心嚢炎に遭遇することはとてもまれだ。

                                         ー

Not all cases of pericarditis are septic, but an infectious cause should be assumed untill proven otherwise.

心嚢炎のすべての症例が感染性とは言えないが、他の原因が証明されるまでは感染によると考えるべきだ。

これは子馬の跛行や関節の腫脹、あるいは元気食欲不振、さまざまな病態や症状でも言えることではないか。

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Golden Weekの日曜日。

朝、1歳馬の飛節OCDの関節鏡手術。

続いて、後ろ肢の球節がゆるくて、蹄球を傷めて、蹄感染した当歳馬の跛行。

自潰したが良くならない・・・・蹄骨も骨髄炎を起こしていて諦めるしかなかった。

蹄関節も腱鞘も感染していて、そのうち脱蹄しただろう。

新生子馬の蹄感染を様子見してはいけない。

           -

午後、競走馬の腕節骨折の関節鏡手術。

当歳馬の飛節の滑液増量。OCDもある。

関節液の白血球数は多くなかった。

1歳馬の跛行診断。

もう3週間になるが、良くならない。

蹄に熱があり、よく見ると蹄関節が腫れている。

押すと痛い。

an infectious cause should be assumed untill proven otherwise.

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近所の山に

コブシは咲いているけど

相棒がいなくなって

散歩に行く気もなくなった

そんなことではいけないと

思いつつ