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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

成馬も既往症なく骨髄炎を起こすことがある

2022-11-02 | 学問

成馬も突然?骨髄内におそらく血行性であろう感染を起こすことがある。

骨髄内に吸収像があって、症状と血液検査で炎症像や感染が疑われたら、細菌性骨髄炎を疑う必要がある。

もちろん、腫瘍性病変でないか、など類症鑑別や予後判断は慎重にしなければならない。

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もうひとつ文献を紹介し、記憶にとどめておきたい。

アメリカ獣医師会雑誌 JAVMA に What Is Your Diagnosis ? というクイズとして掲載されている。

Vol 221, 9, November 1, 2002

13歳の中間種の雌馬が2年間の後肢跛行で診断を受けた。

診察では、この馬は左後肢の3/5の跛行を示していた。

脛骨近位内側の腫れている部分の触診ではおそらく痛みであろう強い反応を示した。

左後膝のX線撮影を行った。

他に必要な画像診断はあるか?、あるいはこの画像からあなたの診断は何か?

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Diagnosis

X線画像診断ー脛骨の吸収性・増殖性混合病変

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Comments として、骨の腫瘍も疑う必要があること、骨髄へ到達するバイオプシーで慢性の骨の膿瘍が診断されたこと。

円鋸孔から回りを洗浄し、セファゾリンに浸したガーゼを詰めた。

ペニシリン・ゲンタマイシン投与を行った。

2ヶ月後には跛行は1/5になっており、4ヶ月後には跛行はなく、騎乗されていた。

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先に紹介した4歳馬の症例報告も、このクイズになっている13歳の馬も、

骨の外側にも骨反応が起きている。

その点が、私たちが遭遇した症例と異なっている。

おそらく私たちの経験した症例は、その点では程度は軽かった、あるいは早期に抗生物質治療されたのかもしれない。

ただし、私たちの経験した症例は、脛骨遠位にも、中足骨近位にも病変があった。

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長い年月、興味を持って文献を読み続け、記憶のかたすみにとどめていること。

ネット上の検索エンジンにはかなわないが、それもまた経験であり、年寄りの血(知)であり肉である。

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この池(金鱗”湖”となっているが・・・・)に住み着いているらしいウ。

水は温泉が湧いているせいで温かく、年中湯気が立っている。

コイ、テラピアなどの魚もいっぱい。

水深も浅いので、捕まえるのはウにはたやすいだろう。

こんな幸せな鳥が居ていいんだろうか?

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多数のサギが住み着いて魚を食べつくさないのはなぜだろう・・・・・・?

 

 

 

 


11頭の若い馬の血管肉腫 文献

2022-09-26 | 学問

Journal of Veterinary Internal Medicine 2005、19(4) 564-570 に

Hemangiosarcoma in 11 young horses

若い馬11頭の血管肉腫

という学術報告が載っている。

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要約

血管肉腫は馬ではまれな腫瘍で、若い馬の血管肉腫は年齢がいった馬の血管肉腫とは異なった経過を示すかもしれない。

この調査の目的は、3歳以下の馬の血管肉腫の特徴を明らかにすることである。

1982年から2004年までの診療記録を調査し、組織病理学的に血管肉腫と診断された3歳以下の馬を抽出した。

11頭が確認された。

サラブレッドとサラブレッド系がほとんどであった。

9日齢から3歳齢であった。

すべての馬は、皮下あるいは肢の腫れ、または関節の腫脹で診療を受けていた。

診察所見では、心拍数増加、発熱、沈鬱であった。

検査所見の異常は、貧血(5/11)、高フィブリノーゲン血症(4/11)、低フィブリノーゲン血症(3/11)、血小板減少症(2/11)、そして好中球増加症(1/11)であった。

いずれの症例でも超音波画像診断とX線画像診断では診断されていなかった。

生前の組織病理診断は10例で行われていた。

11頭のうち6頭は安楽殺されていた。

外科的切除は5頭で行われ、うち2頭はのちに安楽殺されていた。

診断は、安楽殺された全例で死後の組織病理検査で確認された。

2例は自然治癒した。

腫瘍塊が局所に限定されていて、外科的切除が可能であるなら、早期の組織学的診断が治癒につながるかもしれない。

馬が内科的に安定していて、腫瘍塊が生活の質を害しない症例では、観察期間をおけるかもしれない。

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ペンシルヴァニア大学からの報告。

あのRichardson教授も報告者に名を連ねている。

私も何度か馬の血管肉腫に遭遇してきたが、良い記憶はない。

臨床家の常として、治った症例は忘れ、ダメになった症例を覚えているからかもしれない。

若い馬の肢にできることがほとんどだったが、摘出・切除しようとしても血管がとぐろを巻いていて、出血が多く、厄介なことが多い。

手を出す前に超音波でわかっていることが多い。

この文献にある超音波画像診断が役に立たない、というのは意外だが、確定診断ではない、という意味かもしれない。

血管肉腫は、馬と犬ではその発症の仕方や経過が異なるようだ。

犬で腹腔・胸腔臓器にできるタイプは、馬の肢にできる血管肉腫より致命的であることが多い。

犬なら、肢にできたのなら切除できるだろうし・・・・

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相棒が、血管肉腫と診断されたときに、PubMedで検索したのだった。

相棒が逝って半年たった。

病気の発見や、手術の判断や、抗腫瘍剤治療するかしないかの選択について、何も後悔はない。

自分が臨床獣医師でよかったとも思っている。

ただ、ただ、もう一度、相棒に会いたい、だけ。

          

 

 

 


骨折プレート固定の歴史と・・・

2021-12-11 | 学問

空いた時間におべんきょうしていました。

馬の骨折治療では、ヒト整形外科の技術を鵜呑みにするわけにはいかない。

それで、ヒトのプレート固定の文献を読むことは避けてきた。

しかし、LCP固定について基礎から学ぶ必要があると思って読んでみることにした。

ヒト整形では、ぼちぼちLCP骨折治療について総括するような文献や、

ピットフォールについて書いた文献がでている。

          ー

その中で、骨折のプレート固定の歴史も書かれていて、考えるところがあった。

骨が折れたらギプスで、あるいは副木を当てて動かないようにしておけばくっつく、というのがそれ以前。

金属を埋め込んで内固定する方法もある、となったのが1886年。

日本でいうと明治年間。

まだ抗生物質も無い時代だ。

麻酔方法も良いものはなかっただろう。

骨折プレート固定は臨床応用されたが、そううまくはいかなかったろう。

          ー

Swiss Association for the Study of Internal Fixation 骨折の内固定を研究しようという集まりがスイスで始まった。

やがて、それはAOとして発展していく。

今も本部はスイスにある。

しかし、骨折を内固定しただけでは骨はうまく癒合しないことが多かった。

それで、骨折治療の原則が考えられ、

骨折部を圧迫して固定する Lag screw technique やCompression Plate が開発された。

それが、1950年代。

第二次世界大戦後だ。

          ー

戦争は死者だけでなく、大量の傷病者を創り出す。

二度の世界大戦の戦場となったヨーロッパで、骨折治療が必要とされたのだろう。

AOはなぜスイスで始まった?

不思議だったが、世界中の金持ちがスキーに来て脚を折る。

金に糸目はつけず最高の治療が要求される。

と聞いて納得していた。

世界中の金持ちがスイスに別荘と牧場を持っている。

馬でも牛でも、骨折したら治療費は問題ではなく、最高の治療が要求されるのだろう、と思っていた。

しかし、真実は戦争にあったのかもしれない。

           -

新鮮な骨折を圧迫して固定すれば、贅骨が形成されることもなく骨癒合が達成される。

それこそ理想の骨折治療、とかつては考えられた。

しかし、プレートをスクリューで骨に押し当て、compression をかけて骨同士を圧着させることで、かえって骨は脱灰してしまうことがある。

まったく贅骨が作られない骨癒合も現在は否定されている。

多くの実践の結果に対する反省からLocking Compression Plate が考案され発表されたのが2001年。

           -

Locking Compression Plate はInternal Fixator とも呼ばれ、

創外固定具を骨の近くに置いているとも考えられる。

Dynamic Compression Plate の使い方では、

すべてのスクリュー孔にはスクリューを入れるべき

プレートは1mmの隙間もなく骨に沿っていなければならない

とされたが、LCPではその必要はない。

しかし、LCPが使われてきたこの20年を経て、経験と反省が積み上げられてきた。

”失敗”の犠牲の上に。

            -

馬でのLCPによる骨折治療の権威 Dean W. Richardson 教授を日本に招聘したのが2010年

それから10年あまり。

馬と牛の骨折プレート固定について、歴史を踏まえた上で考えてみようと思っている。

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4日間の研修から戻って、メールとカルテへの対応。

朝、入院していた疝痛馬の検査と経鼻電解質液投与。

午前中は去勢が2頭。

午後、浅屈腱炎のPRP治療。

続いて、2歳競走馬のTieback&Ventriculocordectomy。

 

 


医学論文査読のお作法 part2

2021-11-17 | 学問

 

FINER チェックとは、Hully B Stephen 先生が、研究を計画する際に、リサーチクエスチョンがより洗練されたものになるよう研究者が確認すべき評価項目の頭文字を組み合わせてできた造語。

FIRM2NESS チェックとは、福原俊一先生が項目を追加したもの。

Feasible 実現可能性

Interesting 真に興味深く

Relevant  切実な問題

Mesurable 科学的に測定可能な

Modifiable 要因・介入が修正可能な、アウトカムが改善可能な

Novel 独自性があり

Ethical 倫理的で

Structured 構造化された

Specific 具体的・明確な表記を用いて

             ー

最近は(馬臨床獣医学の)英語学術誌は、abstruct の中で、clinical relevant を書くようになっている。

「臨床への関連性」などと苦しい翻訳をすることがあるが、「(臨床上)切実な問題か?」と捉えれば良いわけだ。

科学なので、ぜひ数値化できるデータで議論して証明したい。モニターできる測定値でも良いし、何頭中何頭生存という治癒率でも良い。

独自性・新規性は重要だ。すでに報告されていることは、それより大規模でとか、それより改良した方法でとか、がないと意義がない。

             ー

この本の著者は、さらに項目を追加してPIONEERとした。

Potential 潜在性

Interesting 興味深さ

Original 独創性

Novel 新奇性

Effective 効果の大きさ

Ethical 倫理性

Relevant 切実性

Interesting, Novel, Ethical, Relevant はFINERに含まれている項目だ。

Original 独創性は、FINERではNovel に含まれている。

新しいのはPotential 潜在性だ。可能性と言った方がわかりやすいと思う。

・現行のプラクティスを変えうるか

・次の研究に繋がる根拠 rationale となるか

・これまでなかった全く新しい研究領域を開拓するか

            ー

この7つの評価項目の前に、必ず「誰にとって」が付く。

査読者として必ず意識しなければならないのは、その学術誌の読者だ。

            ー

査読者は、研究意義を評価する際に、1つでも良いから研究の良いところを見つけることを心がける。

査読という作業の性格から、投稿論文の中のあら探しをする作業になりがちだ。

「客観的・教育的・建設的」な査読者であるためには、良いところ、価値を認めながら、査読作業を進めたいものだ。

これは、投稿者の立場からの希望でもあるのだろうな・・・・

            -

あとはこの本は査読の実践編になる。

          /////////////////

休みの日、ときどき地元の温泉へ朝風呂に行く。

実に爽快。

世はサウナブームらしい。

「整う」。わかるな~

 

          

            

 

 


医学論文査読のお作法

2021-11-15 | 学問

査読について勉強する第二段。

お作法、と軽いタイトルどおり、こちらは楽しくよめる。

臨床医を対象に書かれているので、わたしの立場に近い。

「臨床家に来るほとんどの査読依頼は観察研究の論文」だから、観察研究の査読が中心に書かれている。

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この著者は、査読のスタンスとして、「客観的・教育的・建設的」であることを心掛けよ、としている。

論文をよくするための指導は査読者の仕事ではない、という考えもあるだろう。

しかし、その学術誌と読者のために査読しているという点から考えても、

査読・校閲作業を通じてよい論文が完成して掲載され、有益な情報が発表されることは、その業界にとって貢献することになる。

ダメだしばかりするのではなく、改善策や対案までを提示する、という風でありたいと私も思う。

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査読には通し読みが最低3回は必要。

これはなかなかしんどい。

しかし、まあPECO・PICOを理解するだけでも、そのくらい読まないとわからないかな。

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統計解析についても書かれている。

これは必要な人はしっかり読んでもらいたい。

(つづく)

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最近よく雨が降る。

朝焼けは天気が崩れる前兆か。

一雨ごとに寒くなる。