goo blog サービス終了のお知らせ 

馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

カシワは馬には毒 2

2021-10-09 | 学問

馬のどんぐり中毒の報告をもうひとつ書き留めておく。

古い報告(1983)で、急性中毒の1例報告。

               -

Fatal acorn poisoning in a horse: pathologic findings and diagnostic considerations

1頭の馬の致死性どんぐり中毒: 病理所見と診断的考察

J. Am. Vet. Med. Ass. 182, 1105-1110, 1983

要約

重度の疝痛、心拍増加、呼吸数増加、腹部の雷鳴、直腸の排泄時疼痛、および出血性下痢の徴候を示した11歳のクォータホースがどんぐり中毒と診断された。

診断は経歴と疑われる所見、臨床症状、検査所見、糞便中のどんぐりの殻、尿のガリウム濃度、剖検所見、によって行われた。

最も顕著な病理学的変化は胃腸と腸間膜の浮腫、潰瘍性腸炎、そしてネフローシスであった。

               -

古くからどんぐりが馬に中毒を起こすことが知られ、報告されていたわけだ。

この1例報告も腸炎と腎尿細管の変性。

糞便中にどんぐりの殻が見つかるほど大量に食べたらしい。

               -

この1例報告は急性中毒の死亡例だが、軽度で済んで生き延びれば慢性の腎障害が後遺症となっても不思議ではない、と私は思う。

             //////////////////

私の車は走る犬小屋。

ホコリや汚れがすごい。

とくに毛。

カーペットやシートに付くと掃除機でもかんたんには吸い取れない。

でも、好い物があった。

シートの毛をかき集められる。

カーペットでも大丈夫。

ただの硬いスポンジのようなのだが、ブラシで擦るよりずっと毛を取れる。

スポンジに毛が付くわけではないので、つまんで捨てるだけ。

ネーミングも秀逸。

 

 

 

 

 

 


授賞御礼 大動物獣医師の本分

2021-09-26 | 学問

もともと牛の手術で執刀することは多くなかったし、

最近は手術全体でも執刀することは大幅に減ったのだけれど、

たまたまその年は子牛の腸閉塞の開腹手術を執刀することが何度かあった。

1年間に4頭経験し、たまたまなのかもしれないけれど4頭とも助かった。

それぞれの経験はこのブログに書いて記録し紹介したこともある

                 -

他の地域でも牛の腸閉塞の手術が行われているかと思ったがほとんど情報はない。

牛地帯の獣医さん数名に尋ねてみたが、あまりやってない、との回答ばかりだった。

(あとで、けっこうやります、助かります。という獣医さんにも出会った)

(九州には100頭ほどの症例成績が報告されているのも見つけた)

PubMedで検索したがやはり症例報告は数少ない

成書を調べようとしたが、牛の臨床の本はあまり蔵書してない。

それで借りたりして成書の牛の腸閉塞の記載を調べた。

しかし、開腹手術による予後は良好だとは書いてない

そもそも牛の腸閉塞の手術はたいへんだ、と言うようなことは書いてある。

                  -

それなら1年間に4症例経験して、4症例とも治った、というのは症例報告しておく価値があるかもしれない、と考えた。

手遅れにせずに相談してもらうことを普及させる一助になるかもしれない。

他の地域でも積極的に腸管手術することを促進できるかもしれない。

で、書き始めた。

4症例でも書くのはたいへんな部分もある。

カルテを引っ張り出してコピーをとり、

抜け落ちている記録は担当の獣医さんに連絡をとって尋ね、

症例の写真や超音波画像を探してきてフォルダにまとめる。

成書の記載から現在の獣医学での認識を総括し、

考察につかえる文献の記載を整理しておく。

そして、書いて投稿するのだが、北海道獣医師会雑誌も校閲が入る。

受入れる部分は受け入れ、意に沿わない部分は反論する。

で、掲載された

                 -

学会で口頭発表する獣医さんもけっして多くはない。

発表しているメンバーを見ても限られた獣医さんが、と言ってもいいかもしれない。

学術論文や症例報告として文章にする臨床獣医師はもっと少ない。

しかし、文章にしておかないと学会抄録しか公式記録に残らない。

やがて自分の記憶さえ薄れていく。

ましてや他の人にとっては過去、であり、検索しようとしても探し出せない。

症例報告を残せるのは臨床獣医師だけだ

                -

自分では優れた症例報告が書けたと思っているわけでもないし、

渾身の学術報告と思っているわけでもないのだけれど、

書く過程の中でずいぶん勉強にもなった。

そして、なんと、

令和2年度の北海道獣医師会雑誌の優秀論文賞をいただいた。

いや~こっぱずかしい;笑

謹んでお受けし、協同報告者の先生方、畜主をはじめ協力していただいた方々、校閲していただいた先生方に感謝したい。

そして、症例報告や研究論文を書こうという大動物臨床獣医師が増えてくれたら嬉しい。  

                ///////////////

その背中は緑にキラキラ輝いているし、

裃を着けたような姿はかっこよくもあるのだが、

秋に家屋へ侵入してくるのと、臭いので嫌われている。

日が短くなり、肌寒さを感じるようになった。

秋だ。

            

 

 

 

 

 

 

 


胃破裂していても助かることがある

2021-05-18 | 学問

昔、胃破裂していた馬が助かった症例報告を読んだ記憶があった。

それを励みに消化管破裂だと思いながらも開腹手術したこともあった。

どの文献だったか探したが見つけられなかったのだが、先日発見した。

美貌備忘録として抄録を載せておく。

著者は、あのHogan先生

              -

Repair of a full-thickness gastric rupture in a horse

1頭の馬の全層胃破裂の修復

P M Hogan,  L R Bramlage,  S W Pierce

J Am Vet Med Assoc, 1995 207(3) 338-340

14歳のサラブレッド繁殖雌馬が軽度から中等度の疝痛を示して診察を受けた。

探査的開腹手術では、胃に20×8cmの血腫があり、頂部に沿って筋層が裂け、その上の漿膜の一部が穿孔していた。

消化管ガスの臭いがしたが、腹腔のひどい汚染はなかった。

同時に、小腸の一部の捻転があった。

大結腸を腹腔から出すときに漿膜の穿孔が広がり、全層の胃裂孔となったように見えた。

その裂孔は2層の内反縫合で閉じた。

患馬は消化管出血が手術後10日で起きたが、治療に反応した。

2年後の追跡調査において、その繁殖雌馬は一度出産し、腹腔疾患の再発はなかった。

                -

この繁殖雌馬はこの小腸捻転と胃破裂以前に、大結腸の切除歴があった。

小腸捻転を起こし、胃拡張になり、それで胃破裂したのだろう。

胃破裂は、たいてい漿膜と筋層が裂け、粘膜は一部が破れながらかなりの部分は耐えていることがあるが、

この馬の胃破裂は珍しいことに漿膜が、筋層が裂けたことによる血腫のほとんどを覆っていた。

それで手術前のひどい腹腔の汚染はかろうじて防がれた。

しかし、大結腸を腹腔から出すときに胃の漿膜も裂けてしまった。

胃は腹腔から出せないので、腹腔内の汚染が広がらないようにしながら、胃内容をすくい出し、胃の裂孔を閉じた。

腹腔内は生理食塩液で洗浄した。

                -

腹膜炎症状で開腹したのではないことには注意が必要。

胃破裂で腹膜炎症状があって開腹したのでは厳しいだろう。

それでも胃破裂していても助かった馬がいたことは記憶しておきたい。

              /////////////////////

林の中にオオバナノエンレイソウ。

誰も見にはこない。

ユキヤナギ。

花のにおい嗅いでるわけじゃない;笑

 

 


症例報告にEvidenceとしての価値はないか?

2021-04-21 | 学問

公獣協ニュース(全国公営競馬獣医師協会の冊子)No516に、「症例報告の書き方」という翻訳記事が載っている。

Equine Veterinary Education 2019、31、620-623

Kentucky の超有名馬病院Rood and Riddle のMorresey先生によるもので、症例報告書き方について簡潔にまとめられている。

「症例報告においては、該当症例がなぜ報告に値するのか明確に述べ、読者に読む価値があることを示す必要がある。」

「症例やケースシリーズについて発表することは、新規性のある症例や、予想外の事象やアウトカム、確立された治療薬や治療方法に伴う副反応に関する臨床データについて広く発信する手段である。」

「臨床エビデンスとしてのレベルが最も低い研究デザインであるとの批判もあるが、新しく確認された疾患や治療法の基礎的報告として参考にされることも多い。」

                   -

このEVEの記事には、数ヵ月後に厳しいコメントが寄せられた。

USA東部の超有名大学Cornell大学のRishniw先生からのものである。

「皆が同様の探査手法を用いて同様の結論に至るのだから、このような症例報告に教育的価値はほとんどない。」

「臨床家の日々の診療において指針となるような症例報告というのはほとんど存在しない。」

「症例報告の多くは、経験豊富な臨床家による専門分野を利用した自慢話であるか、若い臨床家が専門医取得に必要な論文要件を満たすために発表されているかのいずれかである。」

「症例報告は査読を付けずに、検索つきの検索可能なレポジトリに発表するので十分であり、学術的・学問的評価には値しないと考える。」

と手厳しく、口汚い。

おそらくRishniw先生は、臨床分野の先生でも研究を熱心にやっておられて、基礎実験やRCT ランダムコントロールトライアルこそが研究であり学問だと言いたいのだろう。

症例報告を、自分の研究と同じ価値のある研究活動だと評価するな、と言いたいのだろう。

              -

同じ号に、このコメントに対するMorresey先生のコメントも載っている。

「権威あるジャーナルにおいて症例報告欄は削除される傾向にある。これは症例報告の有用性が否定されたためではなく、ジャーナルを格上げするための戦略的措置が取られた結果である」

「臨床獣医学分野の読者層において、症例ベースの記事に対する大きな需要が存在していることを明確に示しており、臨床獣医師がその重要性を認知していることの表れでもある。需要のないところに供給はない。」

「多くの獣医学部では症例ベースの教育法が重要視されており、実際の臨床症例を題材とした課題が与えられ、実践に則した合併症や、臨床に伴う予測不能の事態への対処方法が問われる。査読を受けた上で発表される症例報告も、このプロセスの延長であるとは言えないだろうか?」

「しかしながら、Rinshniw氏自身が述べたように、疾患の原因や薬物の副作用に関する初期の報告や、臨床医学におけるパラダイムシフトを起こすような発見も、元を辿れば、基礎研究者ではなく心構えをもった臨床家によるたった一件の症例報告やケースシリーズに起因するのである。」

と、丁寧にコメント返ししておられる。

えらいな~、私ならキレて、もっと攻撃的な、相手を否定するようなコメントを書いてしまう。

さて、馬臨床家のみなさん、馬専門医としての二次診療をしているみなさん、症例報告の価値についてどう思われますか?

私は残り数年の臨床獣医師としての活動期間の中でも、いくつかでもcase series を書き残していきたいと考えている。

自分が大動物臨床獣医師として生きた証を残すのが目的ではなく、この分野に、他の人に役立つと信じているからだ。

               ---

実はこの翻訳は私がリクエストした。

馬臨床家にひろく読んでいただきたいし、興味をもってもらえると思ったから。

翻訳者の村木先生の素晴らしい翻訳で、違和感のない日本語として読める。

感謝。

           /////////////////

分娩1週前から左後肢が痛く、分娩後起立不能であきらめられた繁殖雌馬の股関節。

DJD変形性関節症なのだろう、軟骨が欠損している部分もある。

左右の飛節内は出血していた。お産で寝起きしていて、あるいは、立てないでもがいて傷めたのだろう。

分娩した母馬が立てないと、牧場も子馬も困ってしまう。

が、お産をしてもゆっくり寝てもいられない。母馬もたいへんだ。

 

 

 

 


牛の小腸捻転:35症例(1967-1992)

2021-04-03 | 学問

去年、北海道獣医師会雑誌に子牛の小腸閉塞の開腹手術4例を症例報告した。

その半年前に牛の小腸閉塞の成書や文献を読んでいて、ブログ記事も書いたのだけど、他の診療にかまけてアップしていなかったようだ。

「下書き」の中に残っていたので、アップしておく。

臨床家ってこんなもんだ;笑

別な症例が来ると、その前にやっていたことは放り出して忘れてしまう。

                  ---

牛の腸閉塞についての記述は必ずしも多くない。

第四胃や第一胃の病気に比べれば症例数も少ないからだろう。

いくつか、成書と学術報告を渉猟したので、記録しておきたい。

なにせ、疝痛を扱うのが日常の馬医者にとっても牛の腸閉塞はまだまだ知らないことが多い。

            ー

Small-intestinal volvulus in cattle: 35 cases (1967-1992)

Anderson DE, Constable PD, St Jean G, Hull BL

J Am Vet Med Assc. 1993, 15:203(8): 1178-83

牛の小腸捻転:35症例(1967-1992)

要約

小腸捻転を起こした35頭の牛の診療記録を調査した。

外科的整復は32頭で行われ、これらの牛の17頭は退院した。

生存例が臨床症状を示した平均期間は非生存例のそれと有意な差はなかった。

最もよく記録されていて臨床症状は、疝痛、食欲不振、無活力、腹囲膨満、そして脱水であった。

小腸捻転牛の診察所見では、心拍数増加、呼吸数増加、正常体温であった。

直腸検査所見は、膨満した小腸、少量の便か粘液、腹腔の中央部を背側から腹側へ走る緊張したバンド、であった。

臨床病理検査では、高窒素血症、低カルシウム血症、高血糖、左方移動を伴った白血球増加であった。

非生存例は生存例に比べて、術前の平均静脈pHとベイスエクセスが明らかに低く、血清カリウム平均値が高かった。

25頭の牛で小腸全体の捻転が術中に診断され、一方、7頭の牛で遠位空腸と回腸の捻転が術中に診断された。

小腸全体の捻転の外科的整復後の生存率(44%)は、遠位空腸と回腸の捻転の外科的整復後の生存率(86%)と有意差は認めなかった。

しかし、搾乳牛の生存率(63%)は肉牛の生存率(22%)より明らかに高かった。

小腸捻転発生の潜在リスク要因を決定するために、北アメリカ全体の獣医教育病院へ来院した牛の疫学的データはVeterinary Medical Data Baseの記録を調査して集めた。

            ー

35症例で、32頭手術して、25頭は小腸全体の捻転で、7頭は遠位空腸と回腸の捻転で、

退院したのは17頭。

全体の捻転(44%)より遠位空腸と回腸の捻転(86%)の方が生存率が高かったが、例数が少ないから?

ほとんど2倍生存率が違うのに有意差を示せなかった。

しかし、乳牛は肉牛より3倍近く生存率が良く、これは有意差を示せた。

            ー

25年にわたる調査であり、そうなるといろいろ複雑な要因が絡んで来て、単純な解釈はしない方が良いかもしれない。

そして、牛の小腸捻転の症例をある程度の数をまとめようとすると、そのような調査にせざるを得ないのだろう・・・・・

            ー

身近でも牛の腸閉塞の話を聞くことがあるが、「死んで解剖したら小腸捻転だった」とか、「手術したけどダメだった」とかが多く、「開腹手術して治りました」と聞くことは少ないように思う。

しかし、馬臨床獣医師は、疝痛が緊急事態であり、腸閉塞の病態がどうなるか知っている。

馬生産地には二次診療施設があり、おそらく動物病院としては日本で最多の腸管手術が行われている。

「馬の」だけど。

腹部の超音波診断に慣れており、即時的に血液検査ができ、腸管切除・吻合の技術がある。

どういう症例を開腹手術すべきか知っておいて、遅れず腸管手術すれば、おそらく世界で一番高いであろう日本の牛を外科的介入で助けることが、もう少しできるのかな、と思う。

               //////////////////

BSでやっていて録画して観た。

赤穂浪士の物語をベースに(する必要があったのか?)、アメリカ人が東洋的だと思う風景、衣装、登場人物をCGをふんだんに使ってファンタジーに仕立てている・・・・・

ほとんどのアメリカ人には、日本風と中国風の区別もつかないんだろうな。

あるいはどうでもイイんだ。

そのことを教えてくれるビックリ映画。