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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

子馬のRhodococcus equi 感染症についての最新研究 EVJ 2022

2024-06-06 | 学問

私が子馬のRhodococcus equi 感染症の調査・研究に取り組んだのは30代の頃。

それ以降は外科手術に忙殺され、所長業務もあり、他の学会発表、講演・講義もあり、それまでのようには継続できなかった。

R.equi 研究・調査も新しい切り口があまりなくなった。

私の周辺でも本当にひどい多発牧場というのもなくなった。

生まれる子馬のほとんどがロド肺炎を発症し、その1-2割が死ぬという牧場がかつてはあったのだ・・・・・

子馬は生後、とても早い時期からR.equiに暴露され、感染が成立している。

早期発見・早期治療が重要。

そのためのスクリーニングとして日齢による血液検査が有効。

というのが私のR.equi感染症の研究のまとめであった。

それは、かつての多発牧場を散発牧場に、散発牧場を非発生牧場にすることに役立ってきたのは間違いない。

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その後の世界のR.equi感染症研究をまとめた総説が2022年のEquine Veterinary Journal に掲載されている。

Rhodococcus equi foal pneumonia: Update on epidemiology, immunity, treatment and prevention

Pneumonia in foals caused by the bacterium Rhodococcus equi has a worldwide distribution and is a common cause of disease and death for foals. The purpose of this narrative review was to summarise recent developments pertaining to the epidemiology, immune responses, treatment, and prevention of rhodococcal pneumonia of foals. Screening tests have been used to implement earlier detection and treatment of foals with presumed subclinical R. equi pneumonia to reduce mortality and severity of disease. Unfortunately, this practice has been linked to the emergence of antimicrobial-resistant R. equi in North America. Correlates of protective immunity for R. equi infections of foals remain elusive, but recent evidence indicates that innate immune responses are important both for mediating killing and orchestrating adaptive immune responses. A macrolide antimicrobial in combination with rifampin remains the recommended treatment for foals with R. equi pneumonia. Great need exists to identify which antimicrobial combination is most effective for treating foals with R. equi pneumonia and to limit emergence of antimicrobial-resistant strains. In the absence of an effective vaccine against R. equi, passive immunisation remains the only commercially available method for effectively reducing the incidence of R. equi pneumonia. Because passive immunisation is expensive, labour-intensive and carries risks for foals, great need exists to develop alternative approaches for passive and active immunisation.

Rhodococcus equi によって引き起こされる子馬の肺炎は世界中に広がっており、子馬の疾病と死亡のありふれた原因である。

死亡率を減少させ、この病気の重症度を減らすために、潜在性のR.equi肺炎が疑われる子馬を早期発見と治療の実施するためのスクリーニングテストが用いられてきた。

残念なことに、この実践は、北米での抗菌剤耐性のR.equiの出現に関わってきた。

子馬のR.equi感染に対する防御免疫の関連は不明なままだが、細胞内での殺菌と免疫応答の適応調節の両方にとって細胞内の免疫応答が重要であることを最新のエヴィデンスは示唆している。

リファンピンと組み合わせたマクロライド系抗菌剤がいまだにR.equi肺炎の子馬に推奨される治療である。

どの抗菌剤の組み合わせがR.equi肺炎の子馬を治療するのに最も効果的で、抗菌剤耐性株を出現を制限するのか、調べる必要がある。

R.equiに対する有効なワクチンがない中で、受動免疫が唯一のR.equi肺炎の発生を効果的に抑制する市販されている製剤である。

受動免疫は高価で、労力がかかり、子馬にリスクがあるので、受動免疫そして能動免疫の代わりのアプローチを開発する多大な必要性が存在している。

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USAでは1990年代からR.equiの高度免疫血漿製剤が市販されていた。

「受動免疫」「市販されている」とはそれを指している。

このreviewには元になるいくつもの学術報告がある。

R.equi研究の「潮流」なのだが、流れていく先はまだ誰にも見えない。

先はナイアガラの瀑布かもしれないのだ。

例えば、azithromycin を投与して予防できる、などという報告が出たこともあった。

今でさえ治療と予防に苦労しているのに、R.equiに抗菌剤が効かなくなったら・・・・

馬医者と馬牧場の責任ある行動が求められている。

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うちの郵便受け。

塗装しなおした。

 

 

 


子牛の脛骨骨折はプレート固定で治せる

2024-04-20 | 学問

私は2003年から牛の骨折のプレート固定手術を始めた。

馬の骨折をなんとかできないか、と本を読み、器材を揃え、少しずつ症例に対応してきたのを牛にも応用できると考えたからだ。

馬では治せるかもしれない、というのが現状だが、

子牛だと、1例も失敗せずに治してこれた。

2016年までは。

しかし、牛の骨折治療では、経済性との葛藤がつきまとう。

少しでも長いプレートを使うのがセオリーだが、使うscrew 1本にもコストがかかる。

ダブルプレートすればインプラント(プレートとスクリュー)代はほとんど倍になる。

LCP/LHSを使いたい症例でも、DCPの3倍以上の値段を考えると躊躇してしまう。

それでも、子牛の骨折ならこの程度のプレート固定で治る、という経験を重ねてきた。

2016年に1例失敗して、手技を考え直した。

2020年まで、脛骨、橈骨、上腕骨をプレート固定し治してきた。

その経験は広く日本の牛臨床獣医師に知ってもらい、

プレート固定の技術が普及すれば、今まで治せないとあきらめられていた子牛の骨折も治せるようになる、

と考えて、日本語で症例報告を書いた。

日本獣医師会雑誌へ投稿したが、悪戦苦闘した。

和文・英文併せて20編以上の症例報告や研究論文を書いてきたが、こんなに時間がかかったことはない。

タイトルさえ自分の思い通りにならなかったが、まあそれでも形になった。

多くの方に読んでいただきたい。

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論文を書くというのはガーデニングと共通する部分があるかも

土づくりをし、苗を植え、水をやり、肥料をあたえ、日の恵みを受け、

大きく育った枝を剪定し、

それでやっと花が咲く

見てもらわないと意味がない

 


症例報告のエビデンスとしての価値

2023-11-29 | 学問

EBM

Evidence Based Medicine と言われて久しい。

Evidence に基づいた医療をしましょう、との提唱。

伝統とか、因習とか、迷信とか、習慣とか、推察や憶測ではなく、

確証と呼べる診断に基づいて、根拠と呼べる情報に沿って、信頼しうる診療をしましょう、ということ。

それには、evidenceを残しましょうという部分も含まれるのだろう。

われわれなら、Evidence Baced Veterinary Medicine だ。

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症例報告、症例集積は学術情報としてはレベルが低いと言われがち。

しかし・・・・・

これは、よく示されるEBMにおけるピラミッド。

対照 control を置けない症例報告はEBMにおける根拠としてレベルが低い、とされるが、

in vitro の実験研究や

論説よりレベルは上。

「論説・専門家の意見」とあるが、成書、教科書もこれに相当する。

症例を報告してもevidenceとして程度が低いと卑下することはない。

臨床において症例とは事実だから、

それは集積して分析できれば横断研究(調査)にもなるし、

群分けできれば症例対照研究にもなるし、

Randomised Controlled Trials  (RCT) の基礎にもなる。

このEBMピラミッドは

医学論文査読のお作法」より。

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職員住宅を引き払い、引っ越しした。

長年使ったタンス類は処分してもらう。

今は地震でも倒れないように大きな家具は固定することが推奨されている。

阪神大震災以降のあちこちでの大地震からの教訓だろうと思う。

金具で壁に固定し、天井に突っ張り棒してあった。

スクリューの長さと本数が、家族を守る愛の印;笑

整形外科骨折内固定に通じるものがあるな。


文献「子牛2頭での角度固定インターロッキングネイルを用いた脛骨骨折の修復」part7

2023-01-15 | 学問

さて、長々とcritical reading し、紹介し、反論してきたインターロッキングネイルで子牛の脛骨骨折を治療した2症例報告。

考察の部分にも、どうしてプレート固定しなかったか、書かれている。

その内容は、手術の方法の検討のところで書かれている内容と重なっている。

学術報告ではこういう重複は嫌うのだけど;笑

この症例報告は、2症例について書いているのだけどなんと10pに及ぶ大論文になっている。

私がレフリーなら、重複を避けて短くしろ、と指摘する。

           -

しかし、こういう症例報告と考察が載ってしまうVeterinary Surgery 誌の姿勢がうらやましくもある。

日本の獣医学術誌の臨床への理解や敬意のなさには何度も腹を立ててきたから。

           -

学術誌もオンラインジャーナル化されつつある。

紙面、や枚数を制限する必要は少なくなるのではないだろうか。

それなら、例えば整形外科の症例なら紙面であった以上に画像を読者が見られるようにしてもらいたい。

臨床家は報告された症例からより深く学べるだろう。

表だって、紙面に載らないような大きなものも読者が入手できるようにして、なんなら読者が統計解析しなおせるようにすれば誤魔化しもできなくなるだろう。

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さて、近年の学術報告には、Conflict of Interest を書き加えることになっている。

利益相反、利害関係、だ。

著者3名のうち一人(責任著者、連絡先)は、インターロッキングネイルの開発者であり、それ故に、Michigan State University からroyalties を受け、BioMedtrixから teaching honorarium を受けている。

なんと!

プレート固定はDCPもLCPも適応ではなく、インターロッキングネイルしか選択はなく、うまくいったんだ。と繰り返し主張しているが、

著者はインターロッキングネイルの開発者で、製造・販売元から?大学を通して?royalties 特許権?印税?いずれにしても資金を受け、teaching honorarium 教育上の謝礼も受け取っている。

小動物獣医師向けにインターロッキングネイルの講習会や実習を担当し、謝礼をもらっている、ということだろう。

なるほど、そういうことか。

そのことが、この症例報告の価値を下げているとは思わない。

純粋に、この症例報告が主張している手術方法の選択についての考えに私は同意できない、ということだ。

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1月にしては記録的に暖かかった。

地面は融け、水溜りができ、小雨が降った。

落雪の事故が起き、山では雪崩でスキー客が死んだ。

日高はこの冬は記録的に雪が少ない。

あまり寒いと辛いが、冬は冬らしいのが良いのかもしれない。

 

 

 

 

 


文献「子牛2頭での角度固定インターロッキングネイルを用いた脛骨骨折の修復」

2022-12-28 | 学問

牛の骨折治療の文献は少ない。

少数例の成功報告はあるが、まとまった症例集はほとんどなく、そして成績(成功率)はよろしくない。

最近の文献を検索していて、ひとつhitした。

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Tibial fracture repair with angle-stable interlocking nailing in 2 calves

Veterinary Surgery 2019,48:597-606

Michigan州立大学からの報告だ。

理由はわからないが、著者は3名ともミシガン州立大学の小動物臨床研究室所属。

普通は小動物の獣医外科医は牛の手術はしない。

food animal の先生たちが居るし、骨折内固定でも馬外科医も居るからLarge animal 講座が対応するからだ。

なんだか、裏事情がありそうだ。

怪しい;笑

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子牛の脛骨骨折をインターロッキングネイルで治療した2例報告なのだが、書き方も内容もかなりかわっている。

著者が小動物外科医だからだろう。

intro にはこんな記載がある。

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4つの理由で生産動物の外科治療には制限がある。

最初に、経済的負担が商品価値をしばしば超えてしまう。

二つ目に、成長板損傷を伴う骨幹端部を含めた骨折は長期的には肢の短縮や肢軸異常につながり、歩行を妨げることになりうる。

三つ目に、近年使用出来るようになった長骨内固定の医療器材は、体重が重い動物や倍量体種ではインプラントの破損が起こりうるので外科的修復を行わない、となりうる。

四つ目に、未熟な骨は、種を問わず、本質的に機械的に弱い。それゆえに幼若な動物ではスクリューが引き抜かれてしまうことによるプレート固定の崩壊は重大な挑戦であると推察されるかもしれない。

            -

以下、私の反論。

一つ目。

経済的制限はたしかにある。それは、その地域での牛の価格にもよる。

しかし、治るなら充分に元は獲れる。

二つ目。

骨端板(成長板)を含めた骨端部の骨折が、肢の短縮や肢軸異常につながるかというと、子牛ではほとんど大丈夫。

ひょっとすると、イヌやネコでは問題が起こりやすいのだろうか??

三つ目。

インプラントの強度が足りないのは、300kgを越すような牛では厳しいのはそのとおり。

しかし、牛の骨折の多くは子牛で、人用に設計されたインプラントで大丈夫だ。

四つ目。

新生子牛の骨が弱いのはそのとおり。しかし、6.5mm海綿骨screwを使うなどの注意で充分に対応できる。

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この文献の症例報告は2例。

1例は、5日齢のホルスタイン。難産で産科チェーンでひっぱって折れたらしい。

私が経験した最新の新生黒毛子牛の脛骨骨折とそっくり。

近位骨幹端が、中程度に変位していて、ひどく粉砕していて、近位皮質には盤状骨折がある。

CTも撮っていて、そこはさすがにUSAの大学病院。

(でも、CT撮ると経済的負担になるんじゃないの?;笑)

CTを撮ることでさらに骨折の性状が把握でき、内側皮質の盤状骨折がわかる。

加えて、必要なインターロッキングボルトの長さを断面で測定することができる。

とあるが、まあ、必須だったとは思わない。

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この症例報告は興味深いのだが、プレート固定を推進し、実践してきた私としては納得がいかない部分が多々ある。

長くなるので、何度かに分けて、反論していきたい。

年越しちゃうな;笑

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クリスマス寒波で、大雪だったり、停電が続いたり、たいへんな思いをしておられる方もいる。

お見舞い申し上げます。

これから始まる1日のグラデーション。