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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

新生仔脳症

2017-04-07 | 新生児学・小児科

生まれて半日の子馬。

自分で立ったが、乳を飲むことはできず、ほぼ寝たきりになっている、ということで診療依頼。

生まれて半日ならまだ様子を観てもいいかも・・・・・と思いながら・・・・・

来院したら、新生仔にしても細い。

1年腹に入っていたと言う。

(ふつうは馬の妊娠期間は341日)

元気な仔馬なら、乳を飲めなくても24時間くらいは元気が続くのだが、この仔馬は状態が良くない。

低体温。

刺激には反応するが、自発運動がない。

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保温、尿カテ留置、経鼻カテ留置、ブドウ糖と電解質液の持続点滴、酸素吸入。

肉付きが悪く、1年も腹に入っていたのは胎盤機能が悪く、発育が悪かったのだろう。

そして、まだ新生仔として目が覚めていないのだ。

Madigan foal squeeze をやってみた。

あとは、フィナステリドを投与する。

様子を観ながら1時間に50mlずつ搾った親の乳を経鼻カテーテルで入れることにした。

新生仔馬は消化管まで動かないと、すぐ胃拡張を起こして胃穿孔する。

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夜中、1時に入院厩舎へ行って、仔馬への持続点滴を補充した。

3方活栓が割れて液漏れしているので、交換した。

母馬に鎮静剤を投与して、乳を搾ってもらう。

300ml搾れたので、6回、6時間分。

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朝、また母馬に鎮静剤を投与して乳を搾ってもらう。

今度は50ccのシリンジを切って作った吸引器で吸う。

オキシトシン25IUもうったせいか、短い時間に500ml吸えた。

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この生まれて2日目、介助してやると立てるようになった。

しかし、口で吸うことができない。

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生まれて3日目、自力で立てるようになった。

舌を使って吸うことができず、ボウルからミルクを飲むようになった。

4日目、退院していった。

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入院厩舎に、もう一組の親子。

これも新生仔脳症。

やはりフィナステリドを与えて、親の乳を吸いに行くようにはなった。

しかし、まだうまくは吸えない・・・・・

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Madigan先生によると、フィナステリド投与2.5mg1日1回投与しているのだそうだ。

5mgまでは増量して良いらしい。

私たちは今年は4mg1日1回でやっている。

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口には当てるんだけどね~

くわえる練習しないとダメだな

 

 

 


ちびちび哺乳することの大切さ

2017-03-24 | 新生児学・小児科

動物医薬販売会社のMPアグロ株式会社が発行している「MPアグロジャーナル」1月号に、

子牛の哺乳は量から質へ! ~ちびちび哺乳のススメ~ という文章が載っていて、読んだらとても興味深かった。

乳用子牛の場合だが、

「子牛の増体の良い農家さんは、哺乳量が多い」ことを否定できない。

しかし、「哺乳量を上げることによって、下痢をする子牛もいる」。

ちびちび哺乳は一回の哺乳をゆっくりと哺乳しましょうということ」。

乳牛の哺育(浦上清、明文書房)によれば、体重1kgを増加させるのに要する哺乳量は、バケツ哺乳に比べて、ゆっくり哺乳では43.4%でよかった、とのこと。

ちびちび哺乳だと、消化酵素の分泌が間に合うので、消化不良性の下痢が減少する。

唾液を出すことで、脂肪分解酵素が有効に働く。

ちびちび飲むと誤嚥が防げるので、呼吸器病が減る。

ちびちび飲むと、第一胃に入って発酵異常を起こすことがなくなり、第一胃腐敗症が減る。

ちびちび哺乳することで、子牛が満足・満腹し、舐めあい・吸い合いがなくなる。

などということが書かれている。

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先日、第四胃が穿孔していた人工哺乳されていた黒毛子牛に遭遇した

搾乳ロボットは、1回の哺乳量3.5リットルで日量10リットルに設定している、ということだった。

しかし、ちびちび哺乳ではなかったのだろう。

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馬でも、新生仔馬に哺乳ビンで飲ませることのリスクはしばしば経験する。

元気がない仔馬に哺乳ビンで飲ませると、しばしば誤嚥させているし、

元気な仔馬はグビグビ飲むので、ついつい哺乳ビンの口を大きくして一気に飲ませてしまう。

人がミルクで育てる場合は、人になつきすぎないように、ボウルで飲ませるようにすることが推奨されているが、がぶ飲みさせて下痢させることが多い。

たぶん、仔馬でも本当はちびちび哺乳することが消化管の健康のためには望ましいのだろう。

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仔馬の肢まがりの手術。家畜共済非加入牧場。管外から。

1歳馬の外傷。家畜共済非加入。

1歳馬の腰フラのx線検査。家畜共済非加入。

繁殖雌馬の喉嚢真菌症。

その仔馬の細菌性関節炎・骨髄炎。

夕方、仔馬の骨折の連絡。

夜の大手術になった。

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後光さす相棒。

オラはがぶ飲みは得意。

下痢したことはない。

 

 


新生子馬の膀胱出血

2017-03-17 | 新生児学・小児科

ごくまれにだが、仔馬の膀胱はかなりの出血を起こすことがある。

血液そのもののような尿をする。

貧血するほど出血することもあるし、膀胱内に血餅ができて尿閉を起こし、膀胱破裂してしまうこともある。

なんどか剖検で観たことがある。

腎臓からの出血ではないと考えるのは、尿管(腎臓と膀胱をつないでいる)が閉塞したりはしないからだ。

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今朝、来た仔馬は1ヶ月齢。

そんなに遅くになっての症例はとくに珍しい。

超音波で診たら、膀胱は臍の辺りまで膨らんで、中には血液と血餅が入っているようだった。

カテーテルを入れて吸引すると大量の尿と血液が出てきた。

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入院厩舎で様子を観たが、昼すぎにカテーテルが血餅で詰まったようだった。

シリンジで吸引し、またポタポタ尿が出るようになった。

気をつけないと、カテーテルが詰まって、膀胱破裂してしまう。

もう出血は止まっているようだ。

さて・・・

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見張ることがたいせつ。

 

 


新生仔脳症にプロペシアが効いた、かも

2017-02-20 | 新生児学・小児科

夜中0:05に生まれた子馬。

初産で、安産だった、とのこと。難産によるダメージの可能性は少ない。

後産は1時間ほどで落ちた、つまり早すぎない。すなわち早期胎盤剥離だったとは考えにくい。

そのうち自力で起きて、午前中も乳を飲んでいたとのこと。そこまでは異常なし。

ところが昼から立てなくなった。

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夕方、新生仔集中治療のために来院。

37.7℃とやや体温は低い。

口粘膜はやや赤い。

横臥しているが、眼も動くし、耳も反応する。

しかし、起立意欲はなく、吸引反射もない。

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どうやら新生仔脳症のようだ。

しかし、無反応ではないので、いまのところ重症ではない。

生まれてからどれくらい哺乳できていたかわからないので、持続点滴を始める。

脱水、低血糖、電解質異常、を警戒してのことだ。

60あまりとやや酸素分圧が低い。しかし、動くので押さえつけてまでは酸素吸入しなくて良いと判断した。

尿カテを留置した。2時間後、抜けたので再留置した。起立不能の仔馬は膀胱破裂を起こしやすい。

鼻カテーテルは留置しないで、その都度、カテーテルを入れて50-100mlずつ乳を投与することにした。

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プロペシア1mg錠を4錠すりつぶして乳といっしょに投与した。

新生仔脳症を引き起こしている異常な神経ステロイドを抑えてくれるのだそうだ。

この数年使っていて、良い感触を得ている。

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約3時間後、仔馬は自分で起立した。

夜中3時、別な入院馬の処置のため厩舎へ行って、ついでに様子を観たが、ぐっすり眠っていた。

朝、入院厩舎へ行ったら、自力で起きて、母馬のところへ行って乳を飲めていた。

プロペシア(フィナステリド;男性型脱毛症の薬)が新生仔脳症に効いた、と私は感じた。

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夜中、何度も起こされた翌日の今日。

2歳馬の喉頭形成・声帯切除。

急患で2歳の外傷。

もう1頭急患で2歳の外傷。

そこへ繁殖雌馬の疝痛の急患。

結腸捻転で、小腸の捻れていて、さらに小結腸の腸間膜が大きく破れて腸管のほとんどがそれをくぐっていた。

まだ2月というのにちょっと忙しすぎるんじゃないの?

えっ?もうイチゴが獲れてんの?

ならしかたないか・・・・・・

 

 


前夜

2016-07-13 | 新生児学・小児科

今朝、相棒と散歩に出かける早朝、急患が来ているんだな、と思っていた。

定時に出勤したら、その急患は仔馬の疝痛とのこと、もうダメらしい。

外傷の急患もこれから来るという。

その外傷がこれ。

人が見ている前で他の馬に蹴られたのだそうだ。

鋭いもので切ったように裂けている。

馬の一撃の恐ろしさ。

膝のお皿、つまり膝蓋骨が削れていた。

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4歳競走馬の跛行診断を予定していたので、途中で診察を開始する。

アスファルトの上で速歩で乗ってみせてくれた。

たしかに跛行がよくわかった。

X線検査して、いくつも病変を見つけた。

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ついで来た馬は19歳。

若いときは噛む、叩く、蹴るのとても危ない馬だったそうだ。

体重計に乗せようと私が馬を押しているときに教えてくれた。

たいていそういうもんだ。

蹴られてから、「獣医さん、この馬蹴るんだよね。」

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午後は、1ヶ月前のTieback&Cordectomyの再検査。

左披裂軟骨の外転良好!

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それから1歳馬の下顎骨折。

ほそぼそとしか食べられないのでプレート固定することにした。

minimally invasiveでDCP固定した。

魔法のようだろ;笑

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それから仔馬の剖検を2頭。

膿瘍を巻き込んでおきた小腸捻転。肺にも化膿巣がある。

細菌培養してみるまでもない。

Rhodococcus equiだ。

もう一頭はこの数日起立困難だった仔馬。

ひどい腹腔内膿瘍。肺膿瘍の痕もあった。

細菌培養してみるまでもない。(でも、ちゃんと培養して確かめるんだけど;笑)

Rhdococcus equiだ。

もっと予防と早期発見を一生懸命やるべきだと思う。

まさに命が懸かっている。

そのためには専門的知識が必要で、獣医師はそのために居るのだと私は思うのだが。

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明日は生産地シンポジウムなので、前夜レセプションへ出る。

44回目だそうだ。

昔は、静内文化センターでやっていた。

冷房もなくて、カーテンを閉めて、暑い部屋に人があふれて。。。。。その熱気を覚えている。

最近は冷房が効き過ぎるので、ジャケットを着ていくことにしている;笑

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「前夜」

今度の物語は、ジャック・リーチャーがまだUSA陸軍憲兵だった頃の話。

後に流れ者の英雄になる男が、階級社会でどういう風だったか興味をそそられた。

前夜(上) (講談社文庫)
小林 宏明
講談社

バイオレンスは控えめで、推理ものの趣き。

それでも、後始末のつけかたはジャック・リーチャーならでは。

自分の中に行動規範と自分なりの正義感を持っていて、妥協せず、実行してしまうところが読者に爽快感を与えるのだろう。

前夜(下) (講談社文庫)
小林 宏明
講談社