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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

すべての親の悩みと喜び

2016-05-31 | 新生児学・小児科

昨夜は、

寝付いたと思ったら、当歳馬の疝痛で起こされた。

空腸が膨満し、胃拡張も起こしていた。

何とかひっぱり出して、空腸を切開して内容を捨てて、癒着防止のために腹腔を生理食塩液で満たし、閉腹した。

ロタ陽性。

ロタウィルス感染は、腸蠕動をおかしくさせ、胃や十二指腸を傷める。

無関係ではあるまい。

おまけに空腸内に回虫が居るのを触知した。

何度もこのブログにも書いているが、もう馬回虫にイベルメクチンは駆虫効果を期待できない。

今のところ、フルモキサールによる駆虫をお勧めする。

いずれ、それも効果がなくなるだろう・・・・

                            -

今日は、

仔馬の肢軸異常の診察と手術。

腕節の外反valgus と球節での内反varus 。

肢軸異常の判断には仔馬だけでなく、母馬の肢も観た方が良い。

この仔馬の母馬は、仔馬よりひどく、腕節の外反と球節での内反。

肢軸がクランクしている。

すべての生き物は親に似る。

それが、すべての親の悩みであり、喜びでもある。

仔馬の肢軸異常が結局、親に似る、という点についてはAAEPできちんと発表されたことがある。

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それから、

1歳馬の飛節軟腫のX線検査。

2歳馬の屈腱腱鞘炎の診断と、腱鞘洗浄にRegional Limb Perfusion。

午後は、私は血液検査。

別室では当歳馬の内股の膿瘍切開。

次いで、2歳馬の反回神経症の喉頭形成術&声帯切除。

今日は、横隔膜ヘルニアの繁殖雌馬と、結腸捻転の繁殖雌馬と、ゆうべの空腸閉塞の当歳馬が退院していった。

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「オラもとうちゃんに似てきたか?」

そんな毛むくじゃら、産んだおぼえはないっ!


仔馬の喉嚢鼓張のLaser手術

2016-05-25 | 新生児学・小児科

以前にも書いたのだが・・・・

また遭遇したので、また書いておく。

仔馬の喉が空気で膨らんでいたら、喉嚢鼓張だ。

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この仔馬は、

右も

左も腫れている。

たいていは、押さえると空気が抜けるのだが、この仔馬の場合は抜けない。

呼吸がブーブーいって苦しい。

放っておいてはいけない。呼吸しづらいというのはとても辛いので、成長にも悪影響がある。

そのうち誤嚥性肺炎を起こす。

                       -

この仔馬は右の喉嚢に内視鏡を入れたら、空気が抜けて、喉の腫れがなくなった。

膨らんでいるのは右だけのようだ。

左の喉嚢の入り口の機能は正常なようだ。

それなら、左右の喉嚢を分けている中隔に孔を開ければ治癒させることができる。

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それで、全身麻酔して、中隔にlaserで穴を開ける。

Laserファイバーをヴィデオスコープから出して、

中隔に当てると切れるので、穴を開ける。

これで、右の喉嚢の空気は左へ抜けて、左の出入り口から出て行ける。

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立位でできなくはないだろうが、子馬は枠場でしっかり保定できず、しっかり鎮静するとヨタつきすぎる。

そして、喉嚢の中は神経や動脈が走っているので、全身麻酔した方が安全だと考えた。馬にも、高額医療機械にも。

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1週間以上、降っていなかったので、良い雨だった。

相棒は玄関フードで雨宿り。

ひまつぶしの牛アキレス(浅屈腱?)でお楽しみ。

 

 

 

 


死屍累々

2016-04-16 | 新生児学・小児科

夜、難産で起こされる。

初産の馬が産気付いたが、(仔馬の)頭しか触らない、と言う。

正確には、「頭しか触らないと牧場が言っているので、まっすぐそっちへ行かせたい」との連絡。

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来院して、枠場に入れて、鎮静剤を投与して、両腕節を屈曲しているので、片方を伸ばしたが、初産馬で枠場の中で蹴ろうとする。

怒責するし、産道は狭いし、仔馬はまだ生きているので急ぎたいので、全身麻酔することにする。

全身麻酔下で後躯を吊り上げて、もう片方の前肢を伸ばす。

頭も耳から来ているので、おでこを押し込んで、顎と鼻っ面をひっぱって整復する。

あとは、引張って出すだけ。

が、引っ張り出した仔馬の腕節は120°くらいまでしか伸びない。

球節も固い。

これでは、立てるようにならないので、安楽殺した。

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朝、7日齢の仔馬が食道梗塞のようだ、と電話。

来院してみると、もう立てないが、気道閉塞はない。

ただ、口粘膜はチアノーゼがあり、心拍は100を超えている。

抑えていないと寝たまま四肢をバタバタさせる。

何だ??

超音波で腹部を観ると、小腸がひどく分厚く見える。

しかし、暴れ方は疝痛というより意識障害がある。

ごく少量の麻酔薬を投与して、入院厩舎へ運んだところで死んでしまった。

剖検すると、空腸が2箇所で10cm以上重積していた。

おそらく敗血症で全身状態が悪くなった中で腸蠕動がおかしくなり重積を起こしたのだ。

臍が腹壁の内外で腫れていて、切ってみると、一部に膿があった。

臍から感染したのだろう。

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午前中、新生仔溶血性黄疸で治療していたという仔馬が死んで運ばれてきた。

                     -

25日齢の仔馬が、以前から呼吸が苦しいとのことで診察と検査を受けに来た。

X線撮影すると、気管が胸腔へ入った部分で5cmほどにわたって潰れている。

胸前は腫れていて、超音波検査すると膿瘍だと思われた。

しかし、気管がひどく潰れているのは胸腔内なので、胸前だけの問題ではない。

左右の胸腔を超音波でスキャンすると、フィブリンを含んだ胸水が溜まっているのが見えた。

予後について飼い主さんと相談して、あきらめる。

剖検では、

浅頚リンパからと思われる径10cmの膿瘍、

胸腺からと思われる径10cmほどの化膿巣、肺リンパ節の化膿、臍静脈内の膿の貯留、右内腸骨リンパの化膿、が確認された。

やはり、予後不良で、もう治療の対象にならない状態だった。

                       ---

解剖場で拘縮した腕節へつながる腱を切ってみる。

それでも腕節は伸びない。

これでは立てるようにならないし、立てない子馬は哺乳できないし、何日も立てない子馬をミルクで生きながらえさせても立てるようにできる方法はない。

この春、実習に来た学生の一人が、難産で引っ張り出したこのような仔馬を安楽殺するのを観て、

「馬のためでなく、牧場のために診療していることがわかった」と書いて帰った。

わかってないな。

仔馬のためにも助ける方法がないんだよ。

you don't know that you don't know anything.

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まだ、風が冷たいのだが、

相棒には充分あたたかいか、ときには陽射しが暑すぎるらしい。

恐るべし、犬皮の保温力。

                                           *****

九州の地震の被害にあっておられる方に心よりお見舞い申し上げます。

まだ被害の全貌も明らかになっておらず、余震もまだ続いてるようす。

人の力が及ばぬ災厄が早く治まりますように。

人の力でなんとかできることは人の力が及びますように。

 

 


仔馬の行動を自閉症になぞらえる

2016-03-27 | 新生児学・小児科

UC DavisのHPから紹介してきた子馬の不適応症候群とこどもの自閉症についての研究の紹介も今回が最後。

                 -

仔馬の行動を自閉症になぞらえる

「胎児の意識の移行の中断は自閉症のこどもに関係しているかもしれないという概念は興味をそそるものです」と、Pessahは述べた。

不適応症候群の仔馬に見られる行動が、実に自閉症のこどもの症状を思わせるものであることは間違いない。

自閉症のこどもの中には彼らが10代に成るころまでに自閉症的行動をしなくなる子がいると、彼は言う。

そのことは、不適応症候群の仔馬の回復と同様なのだろうか?

関連の可能性の研究

獣医師、内科医、疫学研究者、基礎科学研究者からなる比較神経学研究グループと呼ばれる新しいグループが、この分野でのさらなら研究を追及するために形成された。

MadiganはStanford医科大学の研究者と、新生児のカンガルーケアに関係する出生後の意識の移行のメカニズムを探っている。

仔馬の研究データを使って、Pessah、Madigan、そしてAlemanは、UC Davis 「心」研究所の環境疫学研究者Irva Hertz-Pcicciottoと、さまざまな程度の自閉症から、広い意味での自閉症である発達遅延のこどもの神経ステロイドを研究する作業をしている。

研究者たちは、出生前後の神経ステロイドの調節の異常が、自閉症と神経発達障害に関係する多くの要因のひとつになりうるかどうかを探っている。

最新の研究では、自閉症の障害のあるこどもで神経ステロイドの上昇が認められることが報告された。

Pessahと共同研究者たちは、障害のマーカーとして使えるかもしれない、ある神経ステロイドの血中レベルの変化を探そうとしている。

しかし、彼らはその関係が正しいと証明されるか、間違っているとなるか、わからない理論にすぎないことを注意喚起した。

絡み合う私たちの健康

そのようにして、研究はヒト医療と獣医療において進んでいる--二本足と四つ足の患者はまったく異なっているけれど、探ろうとする研究者たちを驚かせ続ける無数の生物学的プロセスによって、彼らの健康は微妙に関わりあっている。

「動物とヒトの障害のいくつかが出生時の意識の移行の問題に関係しているかもしれない、というのは新しい考え方です」、とMadiganは言った。

「出生後の生存と適応のための発達の生物学的メカニズムは、新生仔馬であろうと、新生児であろうと、重要な概念です。

仔馬が私たちに私たち自身について何かを学ばせてくれるなら、それは素晴らしいことです。」

不適応症候群から生還した新生仔馬からの親愛をたのしむMonica Aleman

(おわり)

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悪夢とも言われる仔馬の中枢神経性異常行動の原因が明らかにされつつあるなら素晴らしいことだ。

低酸素虚血性脳症ではなく、神経ステロイドの異常だと言われると、納得できる部分もある。

子宮内に居た胎子が、産道を通るときに受ける圧迫が重要で、それにより覚醒するのだという説もうなづける。

異常行動を示す新生仔馬は「安産だった」と言われることも多いし、帝王切開した子馬がしっかり覚醒しない率はとても高いからだ。

Madiganのfoal squeeze procedure はとても興味深い。

しかし、ロープで胸を締めるだけでなく、頭部や腹部や肢を含めた体全体を圧迫できるような方法や器具を考案してはどうだろう。

ヒトの新生児では産道で頭蓋を圧迫されることが意味を持つということを聞いたことがある。(もちろん強すぎると危険なのだが)

男性の加齢性頭部脱毛の原因とされる変性した男性ホルモンを抑える薬が、新生子馬の中枢神経異常を起こす神経ステロイドも抑えるはずだというのも福音だ。

何例か投与してみているが、効果があるような印象を受けている。

なにせ今まで看護以外の治療法はなかったのだから。

そして、それらの研究がヒトのこどもの自閉症の研究につながるかもしれないというのもたいへん素晴らしいことだ。

成果を待ちたい。

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きのうは、1歳馬の深屈腱の超音波によるチェック。

分娩後2日の繁殖雌馬の疝痛。直腸の奥で閉塞している直腸検査所見。

開腹手術したが、小結腸が骨盤腔で癒着し始めていてあきらめた。子宮体背側の穿孔だった。

午後は2歳馬の去勢。

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女用心棒バルサ(精霊の守り人)も好いが、私にはこちらの方が楽しめる。

史実の中での、実在した志士たちの生き様に何かを感じるからだ。

幕末 (文春文庫)
司馬 遼太郎
文藝春秋

 

 

 

 


分娩はステロイドレベルを変化させる

2016-03-26 | 新生児学・小児科

引き続きUC DavisのHPから。

                  -

分娩はステロイドレベルを変化させる

「ヒトの赤ちゃんでは、私たちはまだカンガルーケア型の抱擁が効果的かどうかわかりません」、とUnderwoodは言った。

「しかし、赤ちゃんには、分娩によってステロイドレベルに興味深い変化が起きています」

新生子馬で見つかったのと同様に、神経ステロイドの値が、月満ちたヒトの赤ちゃんでも、早産の赤ちゃんでも、分娩とその後に急速に減少することが、先の医学研究でわかっている、とMadiganは付け加えた。

しかし、12時間後では、早産の新生児は、月満ちた新生児に比べて、あきらかに高い神経ステロイドレベルであり、それは不適応症候群の仔馬で認められることを鏡のように映し出している。

自閉症と関連する?

Madiganと共同研究者による初期の発見には新生仔馬の健康にとって魅力的な含みがあるだけでなく、研究者たちがこどもの自閉症への関連の可能性を探求することを引き起こした。

自閉症、あるいは自閉症的障害は、複雑な脳の発達障害の一つのグループとされている。

症状はさまざまだが、その障害は一般に社会との相互関係の困難、口頭と口頭によらないコミュニケーション、そして習慣的行動、に特徴づけられる。

One Health(ヒトと動物の健康はひとつ;訳者・私・注)として知られるようになったアプローチ--さまざまな動物種における同じような症状や障害を探す、UC Davisを含めた医療分野と獣医学分野の研究における長い歴史がある。

Madiganが仔馬の障害とこどもの自閉症の間に関連がある可能性を検証することを決めたとき、彼は不適応症候群に侵された仔馬のヴィデオを持って、Pessahに接触した。

(つづく)

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とうちゃん、春は・・・・・

眠い・・・・ナ

(昼寝しほうだいのお前が言うな!)