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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

今年診た最初の子馬は細菌性骨髄炎だった

2019-02-12 | 新生児学・小児科

もうあちこちで子馬が生まれている。

私はluckyなのか、まだ難産にも、新生子馬にもあたっていなかった。

1月中旬に生まれて、下旬からもう3週間近く細菌性関節炎を患っている子馬を関節洗浄して欲しい、と頼まれて・・・

一連の血液検査所見を見たら、ひどい。

分娩前から漏乳があって、未熟で低IgGで、血漿輸血したらしいが、2週間足らずで多発性細菌性関節炎になり、治療を続けているが反応しているとは思えない。

ひどい炎症像が続いている。

来院してX線撮影して、大腿骨や膝蓋骨に異常な透過性部分があり、それが大きくあちこちで、膝関節の中には破片が飛び散っているのも見て、

あきらめた方がいいです。

と言わなければならなかった。

                       -

剖検した。

最もひどい病変は大腿骨内顆で、一見軟骨は損傷していないように見えたが、その内側で海綿骨が化膿して空洞になっていた。

臍の内側。

左が膀胱尖と臍動脈、右が臍静脈。

臍静脈を数箇所切断してみると、固まった血が入っているところと、乾いた膿が入っているところがあった。

ここが原発感染巣だと断定はできないが、可能性はあるだろう。

生まれてしばらく臍から尿が漏れていたそうだ。

                       -

去年見た最初の子馬はディープインパクトの元気な男の子だった。

「幸先良いかと思ったけど別に良いこともなかったな」

と言ったら、

「優秀なnew faceが2名も来たじゃないですか」

と自己申告。

失礼しました;笑

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新装版 坂の上の雲 (2) (文春文庫)
司馬 遼太郎
文藝春秋

日清戦争が始まる。

その頃の世界を支配する帝国主義、それに仲間入りしたかった明治日本帝国。

もう国をまとめる力がなくなっていた清。

良いとか悪いとか、正しいとか間違っていたとかではなく、時代であり歴史である。

小説上、日清戦争はあっさり終わっている。

子規の病状は進み、もう長くはないと本人も悟っている。

日露戦争が始まるまでの部分がつまらないだろう、と言う人が居るが、私には日露戦争以前の部分が興味深い。

たぶん、日露戦争を避けようとするなら、日清戦争を避けなければならなかったのだ。

しかし子規のような人でさえ日清戦争に興奮し、病をおして従軍記者として戦場へ行きたがった。

それも、また時代。

                  -

頭も体も冷やそうとするコイツにみならったらどうだ!?

 

 

 


子馬の臍のトラブル

2018-05-20 | 新生児学・小児科

子馬には臍のトラブルが多い

胎仔は臍から酸素や栄養をもらって発育してきたのだが、生まれてからは感染の入り口になったりする。

臍の閉まり方が悪いと腸管が膨らみ出る臍ヘルニアになる。

              -

前夜、生まれた子馬が臍ヘルニアだとのことで来院。

一般状態は悪くないが、かなりの量の腸管が臍の中に出ていて、調子が悪くなる、とのこと。

来院したら、子馬は赤い舌を口から出していた。

なかなか立とうとしなかったり、起きたら寝なかったりする、とのこと。

新生仔脳症の症状だ。重くはない。

臍は、腫れてはいるが内部に腸管は入っていなかった。

しかし、ヘルニア輪があり、ヘルニアになっていたことは間違いないようなので、そのまま手術することにした。

切り取ったのがこれ。

そして、膀胱は臍から切り離すことになる。

膀胱の先は臍につながっていて閉じていないので、膀胱も縫合して閉じなければいけない。

臍動脈(左の2本)、臍静脈(右の1本)、そして、臍動脈の間が膀胱だ。

臍動脈も臍静脈も結紮して閉じておいた方が良い。

まだ出血することがあるからだ。

あとは、臍ヘルニアとして、腹壁を縫合して閉じる。

                    ---

次の朝、1.5ヶ月齢の子馬を臍膿瘍だと思って切開したが膿瘍ではなかったので、そのまま手術して欲しいとの電話。

全身麻酔して、腫れて、根元にゴムがかけられていて、切開が加えられている臍帯を切り取った。

臍ヘルニアにはなっていない。

もう臍動脈も臍静脈も膀胱も閉じて、痕跡が残っているだけ。

それでも管腔構造は残っている。

そこにわずかな細菌が残っていて、徐々に肉芽増勢して腫れたのだろう。

                  ---

子馬の臍のトラブルを判断するとき、

日齢と、

臍輪が閉じているかどうか、

が分かれ目になる。

日齢が早いと臍動脈、臍静脈、膀胱が閉じていないで臍につながっている。

そして臍輪が閉じていないと、臍を切ると腹腔になっている。

                  ///////

おらにもへそはあります

 

 

 

 


子馬の尿管漏

2018-04-05 | 新生児学・小児科

その子馬はほぼ1ヶ月齢。

未熟で小さく生まれて、屈腱もゆるかった。

2週齢ほどで放牧地で立てなくなった経過があり、その後はRF跛行で肩関節の感染が疑われた。

左飛節は明らかな細菌性関節炎で、血液検査でも感染所見があり、抗生物質治療が行われた。

その1ヶ月齢の牝子馬が、腹囲膨満し膀胱破裂、ということで搬入された。

開腹したが、あきらかな破裂部はわからなかった。

臍近くの小さな孔から尿が漏れるのだろうと推察して、臍から膀胱を切り離して縫合閉鎖し、膀胱に尿道カテーテルから空気を送って膨らみが維持されることを確認して閉腹した。

                -

翌日、また腹囲膨満しているとの連絡。

前日、夕方には留置した尿道カテーテルが抜けていたそうだ。

排尿できなくて膀胱破裂した可能性がある。もうひとつは・・・腎臓や尿管から尿が漏れる可能性だが・・・

再度開腹した。

膀胱は破裂していなかった。しかし、腹腔内は尿でいっぱい。

尿道からvideo scopeを入れて、尿管にチューブを挿入し空気を送ってみる。

腹腔内に空気が漏れてくるのは確認できなかった。

新生子馬と言えども、開腹手術創から腎臓や尿管を観ることは厳しい。まして縫合修復できるとも思えない。

あきらめることにした。

                -

剖検では左の尿管の腎臓に近い部分に孔が見つかった。

その周囲は水腫になっており、腎包膜からつながる腹膜も一部で破れていた。

粘りのある新生仔の尿などで尿管が閉塞して破裂したか、

先天的な形成不全で閉じていなかった、あるいはとても弱い部分があったのかもしれない。

孔は徐々に大きくなり、漿膜が破れたことで腹腔へ漏れる尿が増えた。

この子馬は左右の腎臓とも腫大し、退色していた。

子馬の尿管の異常をはじめて診た。

海外には子馬の尿管漏の報告が数例ある。

修復した症例も報告されている。

まだまだ勉強だな・・・・・・

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新生子馬の敗血症

2018-03-12 | 新生児学・小児科

日曜日。

朝、相棒と散歩に出て、入院厩舎に寄る。

ゆうべの開腹手術の馬のようすを訊く。

朝、飛節OCDの関節鏡手術。左右両方。

3日齢の子馬の剖検。

生まれてから立って乳を飲みに行くが吸引できず、NMS新生子馬不適応症候群が疑われていた。

腎臓周囲の著しい膠様浸潤。

副腎は左右ともに皮質が薄く、出血。

小腸粘膜も充血。

脾臓は白脾髄が見えなかった。

肺はわずかに鬱血。

皮膚テント戻り悪く、眼球陥没。

新生子馬脳症と敗血症だろう。

まともに乳を飲めないのでは、集中管理しないと24時間以上はもたない。

                       -

1歳馬の腰痿の剖検。

安楽殺してから脊髄造影。

動的な頚髄腔の狭窄のようだった。

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午後、2歳馬の中手骨の疲労骨折。めずらしい部位。

18歳の繁殖雌馬が陰部を蹴られて、縫合してあった陰部が裂けた外傷。

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夕方から、実習生3名それぞればらばらのお迎え。

着いたら電話して迎えに来てもらう。頼まれたら迎えに行って連れて来る。何かトラブルがあったら電話で連絡する。トラブルがあったら、解決しても解決しなくても連絡する。トラブルの最中はいつでも連絡を受けられるようにしておく。

最近の大学生はそんなこともできないのかね。

実生活の経験がなさすぎるのだろう。

こどもを集団管理してペーパーテストばかり受けさせていてはいけない。

必要な生活力や行動力を身につけていないのは役に立たない〇〇だ。

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ガルルウ

 


新生仔馬の脱水と低血糖には遅れず対応しなければならない

2017-05-17 | 新生児学・小児科

夜中、生まれて2日目の仔馬が乳を飲めなくなった、のでとNICU(neonate intensive care unit)への依頼。

来院したら立っていて、親からも哺乳している。

しかし、血液検査ではPCV47%、白血球数2740/μl。

かなりの脱水と白血球減少。

持続点滴するならその間親から離さなければならない。

せっかく親から哺乳できているので、それはしたくない。

それで、留置カテーテルは入れず、留置針を使って1時間ほどかけて電解質液と5%ブドウ糖を点滴した。

翌朝、仔馬は自力で親から哺乳していた。

                    -

子馬が乳を飲めなくなったら、脱水、低血糖におちいる。

それに対応するには、輸液しなければならない。

夜中でもだ。

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翌朝、仔馬の様子を観にいって、カルテを書いていたら1歳馬の外傷の依頼。

往診先で縫合しようとしたが、馬が敏感でできなかった、とのこと。

来てみたら、後肢で、腱が露出し、汚れていて、一部は骨膜も削れていた。

こんな外傷は立位で処置するのは無理だ。

患部の毛をきちんと刈り、

汚れた皮下織を鉗子でむしりとった。

50ccのシリンジに細い針をつけて思いっきり噴射すれば、傷をきれいにできる圧が達成できる、と書いてある外傷管理の本があるが、ウソだ。

腱傍組織を縫合し、皮下織に皮膚を縫いつけ、皮膚縁を縫合し、皮膚はステント縫合した。

それでも傷は癒合する率は高くない。

傷がはじけてしまうまでに、内部で組織の治癒過程が進むこと。

このまま二期癒合を期待するより、傷が小さくなること。を期待する。

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夜勤明けで、NICUの子馬が居たが、もっととんでもない日になるとは思っていなかった。